D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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右から――左へと、桜の花びらを乗せて、風が吹く。
知らない木の枝を握り締め、行く当てもなく彷徨う。
どこから来て、どこへ向かうのか。
何も知らない少女は、何も知らされぬまま、いつの間にか、物語に迷い込んでいた。


晴れぬ霧と『さくら』の少女

――カラカラ。

 

――カラカラカラカラ。

 

軽く乾いた音。

 

――カラカラカラ。

 

ただ、それだけ。

何も見えない。

何も他に聞こえない。

 

――いや。

 

見たくなかったんだ。

聞きたくなかったんだ。

 

――途切れてしまう未来を。

 

だから。

だから、犯してしまった。

過ちを。

そして、分かっているのに、まだその過ちに縋り付いてしまう。

嫌だ。

 

――死にたくない。

 

――死にたくないよ。

 

見えてきたのは、糸車。

糸なしで、意味もなく回っていたそれは、まるで、同じ時間を繰り返しているかのよう。

そして、“また”、それは細い糸を吐き始める。

糸は広がる。四方八方へ。

広がった先で、糸は太さを増し、そして。

それは。

 

――霧となった。

 

ああ、また、繰り返される。

霧の中で、禁忌を犯した少女は、ただ――。

ただ、それを眺めるしか出来なかった。

 

――これで、何回目だろう。

 

誰か、助けて。

 

――キヨタカサン。

 

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――さて、この『物語』は、幾重にも繰り返された時間軸のうちのたった一つ、本来なら語られ得ない、……いや、違うか。『俺』がいたことで新しく上書きされたサッドストーリーとでも言っておこう。

 

待てよ、これは俺の過去、言わば記憶のはずだ。『お前』は、『俺』なのか?

 

――半分正解、半分不正解。

 

もったいぶるんじゃねェよ。さっさと答えろ。

 

――まぁ、そうカリカリするなよ。……まぁ、そうだな、とりあえず、お疲れさん。長かったろ、絶望に塗りつぶされた世界での戦いは。

 

俺はいつからこんなことをやってたのかはさっぱり覚えてねェがな。だが、なんだ?お前が、何故か、懐かしい……。

 

――そりゃあな。そして、それは半分正解のヒントだ。そう、お前が言ったとおり、『俺』は、『お前』だ。だが、完全にそうだとも言えない。

 

だから、どういうことだ、って聞いてんだろォが。

 

――それは、ここから先の真実を見ろ。『お前』が、『俺』が、何を見、何を感じ、何を成したか。そして、何が『俺』を壊したか……。

 

『お前』が壊れたから、『俺』になった、とでも言いてェのかよ。

 

――さぁ、どうだろうな。まぁ、ゆっくりしていけよ。『お前』は確かにあと数秒で死ぬが、ここでは時間の進み方がかなり違う。そう、全てが絶望に染まったとき、この世界は消え、『お前』は選択を迫られる。

 

選択ねェ。

 

――続きを始めようか。1つの禁忌が引き起こした、数多の悲しみと、大きな奇跡、そして、そこに隠された、癒えることの無い絶望を。

 

――もう一度、その目で、その耳で、確かめるがいい。

 

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さぁ、本日のお勤め終了。そう張り切って研究施設から出てきたのは、風見鶏本科2年、自称人見知り野郎の上代龍輝。風見鶏には、魔法を裏で研究している、大きな秘密組織がある。これは、風見鶏の学園長からも黙認されており、多少危険なことをしていても、完全に情報が外に漏れないようになっている。無論、学園側に対しても。

そして、そんな研究施設で『研究材料』として利用されている彼は、本日もその役割を終えた。

なんでも、魔力をストック、変換するためのアイテムを作る研究をしているらしい。

仕事を終えると、次の依頼まで少なくとも1週間は空いてしまうので、退屈この上ない時間を過ごすことになってしまう。

 

――暇だ。

 

11月になってから、何故か急に依頼の回数が増えたが、それでも『休日』は腐るほど出来てしまう。

11月、と言って思い出したが、この月になって最初の日、すなわち1日に、リッカが清隆という少年とロンドンの地上にお使いに上がったとき、リッカが1人の少女を保護した。

少女は発見当時、その手に不思議な桜の枝を持っていたという。更に、自分の名前すらも思い出せないといった記憶喪失を抱えていて、リッカが、桜の枝を持っていたことから、仮に『さくら』と名づけたようだ。

それから早10日ほど経つが、未だに少女の情報は掴めず、少女も記憶を取り戻せていない。

そして、彼自身、全くといっていいほど充実していない毎日を送っていたのだった。

近くに設置されている時計を見ると、もう学園では昼休みに入ったばかりの時間だった。

 

ピピピ、と、龍輝のシェルが鳴る。

シェルとは、21世紀でいう、携帯電話のようなもので、テキストを相手に送ったり、シェル越しで相手と会話したり出来る。勿論、魔法を仲介して通信しているので、接続不良なんてものは起き得ない。

シェルを確認すると、テキストが届いていた。

 

送り主は――リッカだった。

内容は、要約すると、昼は暇か、といったものである。

大丈夫だ、問題ない、と返すと、すぐに返信が返ってきた。

生徒会室に来い、だそうだ。

了解、と送り返す。そして、少し駆け足で生徒会室に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こんちわーす」

 

「やっと来たわね」

 

生徒会室に来たはいいものの、そこにはリッカしかいなかった。

 

「あれ、他の連中は?」

 

「今日は私だけよ。何、不満?」

 

「いやいや、孤高のカトレア様とご一緒できるなんてこれ以上の光栄など存じませぬっと」

 

「あんた馬鹿にしてない?」

 

「そんなこともねぇよ」

 

結局、これといった用事はなく、昼食の話し相手をして欲しいというだけのことだった。

リッカから購買で手に入れたらしいパンを複数受け取り、そのうち1つの封を切る。

香ばしい惣菜の香りが鼻につき、食欲をそそる。

 

「ベストチョイスだ」

 

「あれ、龍輝そのパン好きなの?」

 

「というより、気に入った」

 

「そう、それは選び甲斐があったってものね」

 

匂いだけでは食べ物は評価できない。

大きく口を開けて、パンに食らいついた。

我ながら豪快に行ったものだと思った。

 

「ほら、こっちきて座りなさい」

 

そう、龍輝はまだ立ちっぱなしだったのだ。

他の席から椅子を運び出し、リッカの隣につける。

個人的には他人と顔を合わせるのがどうも苦手らしく、正面同士にならない隣同士が誰かと一緒に座る時のベストポジションなそうだ。

 

「ちょっ、何で隣!?」

 

「何か変か?」

 

「いや……」

 

ここまで考えなしな龍輝に呆れてしまう。

というより、リッカは多少なりとも意識していた。

出入り自由とはいえ、現状締め切った空間に男女で2人っきり。

大魔法使いとはいっても、彼女はまだ恋する乙女となんら変わらないらしい。

 

「それでね、話があるの」

 

「話って?」

 

パンを頬張りながらリッカの方を向き、首を傾ける。

 

「ぶっちゃけたところ、手伝って欲しいのよ」

 

「手伝うって、何を?」

 

「ほら、私って何かと忙しいでしょ?だから、とりあえずは、たまにでいいから、さくらの様子を見て、面倒見てあげて?」

 

それくらいならやってあげてもいいと、快諾する。

だがそれとは別に、リッカにはもう1つ頼みがあるようだ。

 

「それと、アンタ、今度からの女王陛下からの依頼、予科1年A組に同行しなさい」

 

「……は?」

 

「どうせ暇でしょ?」

 

「そうだが、何故?」

 

「私だって忙しいの。1人で依頼受けにいってる事だってあるんだから。というか、もう勝手に手続きは終わってるわよ」

 

「まさか、これから俺も≪女王の鐘≫が聞こえることがあるって事か?」

 

「そーゆーこと」

 

まぁ、いいか、と思った。魔力に下手な傾きをつけないために、授業に参加することは認められなかったが、女王陛下の依頼なら、影響はないし、案が通ったということは、研究チームからも許可が下りた、ということになる。

女王陛下の依頼とは、風見鶏周辺で何か事件が起こったとき、魔法使いでなければ解決できないようなものであれば、≪女王の鐘≫がなったクラスはその任務にあたる、というものである。

学年が上がるにつれて依頼内容は難しくなり、リッカほどの魔法使いとなると、女王陛下直々で個人でかなり危険な任務を依頼するようだ。他に誰もサポートをつけないのは、他の有力で信頼の出来るシャルルや巴は彼女らなりに忙しいし、その他の人間だとリッカの足を引っ張りかねない。そういうのが理由になってくる。

 

「別にいいよ、そのくらい。どーせ暇だし」

 

「悪いわね」

 

「だからいいって」

 

ありがと、とリッカは感謝の言葉を口にして、頬を少し染めて微笑んだ。

そんな笑顔を見ることが出来た龍輝は、まだ何もしていないにしろ、彼女の役に立てることに少し喜びを感じた。

それからというもの、彼女と他愛もない話をしていたのだが、お互いに、気付かないくらい話に熱が帯びていたのだった。

 

「あら、もうこんな時間ね。私次の講義があるから、この辺で」

 

「ああ、これからさくらのところに行くから、こっちの心配は無用だ」

 

「それじゃ、子供に馬鹿にされないようにねー」

 

「あんまりからかうと引っ叩くぞ……」

 

そういうと、リッカは生徒会室から出ていった。

彼の呟きは聞こえなかったようだ。

 

そして龍輝は1人になる。

つまり、暇になるので、とりあえずさくらの元に行く前に、ゴミが散乱しているリッカの机上及び周辺の片づけを軽くしておいた。

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昼時、リッカに言われたものだからさくらに会いに行くことにした。

確か、学生寮のラウンジによくいるのだとか。

早速そこに足を運ぶと、つまらなさそうに足をぶらぶらさせながら椅子に腰掛けている少女を見つける。どうやら彼女がそうらしい。

どうやって声をかけようか考えるが、止めた。こういう時の龍輝はいつも直球勝負である。

 

「よ」

 

「……え?」

 

軽く手を挙げて挨拶をすると、少女も龍輝の姿を視界に捉える。

 

「始めまして、俺は上代龍輝だ。よろしくな」

 

自己紹介をすると、少女は人懐っこい笑顔を浮かべる。

 

「はじめましてっ!記憶がなくて何にも覚えてないんだけど、ここではさくらってことになってるから、ボクはさくら。よろしくねっ!」

 

こりゃまた元気少女が増えたな、と思った。

 

「で、何も思い出せそうにないんだってな?」

 

「あれ、もしかしてリッカの知り合い?」

 

「ああ、そうだけど」

 

さくらの記憶喪失のことを知っているのはリッカとこの学校の校長くらいだ。

リッカの名前を出していない状況で、今の一言で龍輝がリッカの知り合いであることを感じ取るさくらという少女は、子供の外見にしては頭が切れるらしい。

 

「そっか、うん、何も思い出せないんだ。ボクは誰か、どこから来たのか。何にも」

 

少女の表情が悲しみに曇る。

 

「だからね、しばらくはこっちの生活を思う存分楽しむことにするんだ」

 

再び少女に笑顔が咲いた。

 

「そっか。まぁ、無理はすんなよ」

 

「うん。じゃ、そういうことで、あそぼ?」

 

「遊ぶったって、何すんのさ?」

 

「うーんとね、あ、チェスしよ?」

 

「手加減はしねぇぞ?」

 

「どーんと来いだよっ!」

 

龍輝はチェスは大得意である。生徒会の主力メンバーは全員倒した。勝率は90パーセントはある。

そうやってさくらとチェスを興じながら、しばらく時間を過ごしたのだった。

 

「ねぇ、リッカとはどういう関係なの?」

 

「引っ叩くぞ……」




新しく出会ったのは、日本から来た4人、いや、3人と1体の少年少女。
1人は名門の箱入り娘。
1人は彼女の世話係(?)としてこちらに。
1人と1体は家の次期当主としての実力をつけに。
その出会いは、彼の心理環境を変えるのには十分すぎた。

次回『人見知りなのかそうでないのか』
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