D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
ある者は戦い、ある者は走り、ある者は食い止める。
それぞれの希望を胸に、今、戦況は変化する。
光雅は空にいるシグナスを、そして龍雅を仰ぎながら、懐かしそうに笑顔を零していた。
その側に立夏たちが駆け寄る。
幾つもの困難を潜り抜けてきた、大人としての風格を持った男性と女性。
その足音に気付き、光雅たちは背後を振り返り、立夏たちを見た。
「ああ、自己紹介くらいはしておかないとな。俺は弓月光雅」
「弓月?」
聞き覚えのある、馴染みのある苗字を耳にして、清隆は自分の耳を1度疑った。
他のみんなも同様に驚いているらしい。
「ああ、あそこで親子喧嘩してる兄さんの、弟だよ」
そこで、立夏たちには合点がいった。
以前に龍雅から聞いた話――血の繋がらない家庭で、血の繋がらない弟ができて、そして友達ができて、失った。それがきっかけで弟と対立し、長い長い、命の奪い合いが始まった。2人は枯れた桜の大木の下に対峙し、そしてお互いに命を削り合った。
お互いがお互いを大切に思い、尊敬していた兄弟。その、弟の話。
立夏にとっては、彼と出会ったことで、何だか彼ら兄弟が少しだけ遠く感じてしまっていた。
「そんで、こっちが俺の愛妻、朝倉――現、弓月音姫。最高の人生のパートナーだ」
「よろしくね」
光雅が音姫のことを紹介する際に思い切り褒めあげる。
普通ならここで照れるはずなのだが、流石というべきかこのカップルは恥というものを知らないようだった。
「あ、あの!」
緊張しているのか、上擦りながら声を上げたのは姫乃だった。
先程の、『お役目』の件で気になることがあるようだ。
気になることというか、確認みたいなものだが。
「その、『お役目』の呪縛みたいなものから解放されるって、本当ですか?」
姫乃の質問に、光雅たちは一瞬驚く。
音姫やさくら以外に、『お役目』のことを知っている人間がいるとは思ってもみなかった。
しかしすぐに表情を戻し、質問に答える。
「ああ、本当だ。――もしかしたらキミたちが、さくらが言ってた子たちか」
そういうと一旦立夏たちから視線を外し、さくらに向ける。
喜色満面なさくらを見て、安心したように笑う。
「光雅くん、お帰り。まさか音姫ちゃんを連れてくるとまでは思ってなかったけど、よく帰ってきたね。ありがとう」
「俺の周りで何か事件が起こった。それはすなわち高確率で初音島で何かが起こったということだ。≪solitary Pluto(孤独の冥王星)≫の複製に時間がかかったけど、それでもすぐに日本に戻ることは簡単だった。自分の家に緊急の転移術式を仕組んでおいて正解だったぜ」
そんなことより、と龍雅は太刀を構える。
「そこの女の子の面倒臭い紋様を消してあげないとな。我慢してるみたいだけど、結構堪えてるんだろ?」
その視線は葵の方に向いていた。
葵はさっきまで何事もないような挙動を取っていたが、それでも未だに苦しみを味わっていたのだ。
清隆ですら気付かなかったことに、青年は気が付いた。
頼れる人だと清隆は思った。
光雅は葵の周囲の空間に対して太刀を振り、空間を切り裂く。
そうすることによって今ここに展開されている霧の空間と葵とのリンクを無理なく切断する。
その瞬間で葵の身体から痛みが消え、緊張と恐怖の糸が切れて地面にへたり込んだ。
音姫が彼女に手を差し伸べ、彼女を立ち上がらせる。その際に葵はあることに気が付いた。
「そう言えば……ピンクの大きなリボン……『幸せを呼ぶ夫婦(めおと)』ですか!?」
「幸せの……なんだそりゃ?」
光雅は葵の意味不明なワードに音姫と顔を見合わせて首を傾げる。
今更だが上空で龍雅が戦闘に入っている状態でする会話ではない。
「今はそんなことより――」
「そうだな。キミたち6人には、これからこの島中を回ってもらう。この三日月形の島の一番外側、恐らく8か所くらいに、魔法でできたアイテムがあるはずだ。それをこの術式に書き換えてほしい」
立夏が話を一旦静止し、光雅が清隆たちに指示を出す。
音姫が懐から1枚の術式が書かれた紙を取り出し、それを魔法で複製して清隆たちに配る。
「俺も行きたいところだけど、ちょっと邪魔者が入ってきたみたいでね――」
光雅は再び背後を振り返る。
そこには、白い甲冑を装備した騎士が宙に浮いて得物を、その剣をこちらに向けていた。
音姫を後ろに下がらせ、さくらを呼ぶ。
「悪いんだけど俺、今全力出せないからさくらも手伝ってくれないか?」
「もちろん!ボクだってこの島を守る魔法使いだよ!」
光雅の問いに、さくらは最大の笑顔で、彼の信頼に応えるように二つ返事で了承した。
光雅はさくらの反応に安心し、そして肩をポンと叩く。
「俺がこいつを引き留めておくから、早い内に行ってきてくれ。二手に分かれてそれぞれ逆方向に回っていったら速いと思う。お願いするよ」
清隆たちは光雅の指示を受け、グループ編成を行う。
その結果、戦力をほぼ均等に分けるために、立夏、さら、姫乃のグループと、清隆、シャルル、葵のグループとなった。
姫乃は清隆の心を探ることができるため、敢えてこの2人は分けておく。そうすることで姫乃の能力を発動することで、清隆のグループの状況を確認することができる。
最後に、さくらから一言声がかかった。
「みんな、絶対に龍雅くんを勝たせよう。そして、未来を切り開くんだ」
「「「「「「はい!」」」」」」
全員が力強く頷き、それぞれの方向へと走って去っていった。
さくらはその後ろ姿に、彼らの逞しさを感じ取っていた。
「ところで、この術式って何?」
さくらも、音姫から受け取った術式を眺めながらも首を傾げる。どうやら彼女でも分からないようだ。
「ああ、とっておきの、とっておきさ。最後に凄いのをかますためのね」
さくらの質問に、光雅は自信満々にそう答えた。
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桜並木を抜け、住宅街を西へと走る。
ひたすらに一直線に走り抜け、しばらく行くと海岸線が見えてきた。
音を立てながら波を打つ、サファイア色の海。空に浮か白い雲は、今では霧に遮られてよく見えなかった。
立夏たちはその海岸沿いの道路を最西端から南、そして東へと向かうルートである。
「そろそろ匂いはじめてきたわね……」
立夏の魔力感覚が、徐々に対象の魔力を察知し始める。
すぐ近くにマジックアイテムがあることを示しており、姫乃とさらもより一層注意を強めた。
緩やかな左のカーブを曲がりきると、砂浜に妙な紫色の物体が浮いているのが見える。そのすぐ下の地面には見慣れない魔法陣がある。
立夏たちは目的のマジックアイテム見つけ、急いで砂浜へと下り、その物体の周辺に集まる。
強く魔力を放つこの物体が何に使用されるのか、または使用されているのかは分からないが、とにかく放っておくと拙いことになることだけはみんな理解できた。
さらが一歩前へと身を乗り出し、物体に手をかざす。
「ちょっと時間をください。これの術式の構成を把握します」
さらがそれに直接触れる前に立夏によって結界が張られる。
それが何かしらの反応によって何かしらが起動してしまうことを警戒しての行動であった。
さらはそれに触れ、瞳を閉じて精神を集中させる。
全体の概観を掴み、魔力の流れを読み、それの論理的構造を把握し、式の詳細を演算し、逆算を試みる。
式を組み換え、並び替え、代入し、置き換えて、少しずつ術式の細部を掌握していく。
「なかなか複雑ですね……」
額にうっすらと汗を浮かべながら、ぼそりと呟く。
姫乃が落ち着いてゆっくり慎重に進めるように促すと、さらはコクリと頷いて演算を続行した。
そしてしばらく時間が掛かって――
「できました」
さらの終了宣言と共に、彼女は懐からメモ帳を取り出し、そこに読み取った術式を書き込んでいく。
手の平サイズのメモ帳だが、その紙に小さい文字で式を書き連ねていく。
1行や2行では済まないその術式は、実に複雑で難解なものだった。
それを時間を掛けたとはいえいちから解読し逆演算をかけたさらの実力が窺える。
それを1度携帯で写真に撮り、清隆のチームに送信して、その紙を立夏に手渡す。
立夏はその術式をじっくりと眺めて理解し、そして頷く。
「大丈夫ですか……?」
「ええ、これなら何とか式を書き換えられるわ。さら、サポートお願い。姫乃は清隆の心にアクセスして。向こうの現状を把握したいの」
「了解です」
さらは立夏の後ろに立ち、彼女の背中に両手で触れる。
シャルルはワンドをマジックアイテムへと向け、意識を集中させた。
ワンドの先端から翡翠色の輝きが放たれ、そしてその物体を包み込む。
さらの援護を受けながらも術式の構成を分解し、新しく組み替える。
なるべく元の形を崩さないように、式の特徴を必要なところだけ分解し、組み替える。それは限りなく精密な作業となった。
暫くして、光が弱まり、式の構成変換は終了する。
立夏は安堵の溜息を吐き、姫乃を見る。
「えっと、兄さんたちも送った術式を基に解析と書き換えを1つ成功させたみたいです」
「良かったわ。次、行きましょ」
立夏は次に向かって歩き出す。
それに従うようにさらと姫乃も後ろから追いかけた。
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一方、シャルルと清隆、それから葵は、立夏たちと少し離れた地点での西地点から北、それから東へと進むルートだった。
立夏たちと同じように海岸沿いの道路を右回りに進み、途中でマジックアイテムを見つける。
その時点で、清隆がさらからメールを受信した。
携帯を開くと受信表示が表れており、それを押して内容を確認する。
簡単なタイトルと、添付ファイルとして画像が添えられている。
それを開くと、そこには術式がびっしりと書き込まれていた。
清隆にとってそれは理解できるものではなかったが、シャルルに見せることで、彼女はそれを理解し、自信ありげな笑顔を浮かべた。
「タカくん、あたし、これからこれの書き換えを始めるから、タカくんは後からの微調整をやってくれる?」
「分かった」
マジックアイテムを挟むようにしてシャルルと清隆が立つ。
そしてそれぞれが手をかざし、シャルルの合図によって演算が開始された。
姉弟の息の合った作業の、何が起こっているのか分からないながらも、傍で葵が感嘆していた。
流石前世での生徒会長、物事を成し遂げる時の集中力は並大抵のものじゃないと、彼女は真剣な表情でシャルルの本領の一部を垣間見た気がした。
式の演算が終わると、清隆がシャルルにねぎらいの言葉を入れると同時に、シャルルに対してある質問をした。
「ところでるる姉、この術式が何だったのか、そして書き換えた術式が何に使われるのか、分かった?」
シャルルは清隆の質問にきょとんとしながらも、柔らかな笑みを浮かべる。
カテゴリー4の実力を持つ清隆でも分からないものはあるものだと、ここぞとばかりに清隆に対して姉としての優越を感じているシャルルだった。
「詳しくは分からないけど、多分これは召喚魔法の術式ね。さっきの巨大な腕も、このマジックアイテムが媒体となって召喚されたものだと思うよ」
険しい顔で解説するも一変、再び期待に満ちたような笑みを彼方に浮かべて、再び口を開いた。
「それでね、多分新しい術式は、同じく召喚魔法だと思うよ。何を召喚するのかまでは流石に特定できないけど」
シャルルはそこまでしか説明できなかった。
しかし、清隆たちにとって、それだけでも、龍雅を勝たせるために、自分たちが未来を勝ち取るために、十分な希望をもたらしたのだった。
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その頃、光雅は両手に握り締めている太刀、『結刀-十二単-』を構えて、白騎士と相対していた。
既に数分の間刀を打ち合わせており、その実力がほぼ互角であることは悟っていた。
単純な召喚魔法によって召喚された、命なきこの騎士がこれだけの戦闘力を有していることは、それだけシグナスが恐るべき相手であることを示しており、光雅は眉を顰めて苦笑した。
「ホント、知り合いのバカップルに戦闘指南を受けといて正解だったぜ。氷野郎は片手でも十分強いし、彼女にも刀の扱い方を徹底的に叩き込んでもらったしな。それがなかったら既に致命傷はあったか……」
しっかりと相手の出方を探り、どこから攻撃が来るのかを予測する。
その隣に、桜の花びらを大量に展開させたさくらが並んだ。
「近接もなかなか厳しいね。ボクは後方支援に徹底した方がいいかな?」
さくらは現在、彼女のスタイルにおいて攻撃、特に遠距離を得意とする、『月光桜-蓋世不抜之型-』を展開させており、その力は、周囲に展開させている桜の花びら1枚1枚が強力な魔力を帯びており、それらは全て強力な威力を有していると同時に、魔法防御を無視する術式まで仕込まれている。
ほぼ回避は不可能だろうが、2対1であるこの状況では、高速戦闘をしている2人に対して上手に隙を突くことが難しく、下手を打てば光雅も巻き込んでしまう可能性もあるため、積極的に援護と接近とを両立させることは至難の業だった。
「いや、むしろさくらも接近戦に参加してくれ。基本的に奴を中心として、俺とさくらが点対称になるような位置を維持し、前後から攻撃を加える」
光雅の知り合いから教えてもらったタッグマッチでの立ち回り方がこんなところで発揮されるとは思いもしなかったが、同時にこれは攻略の絶好のチャンスだと思い、楽しげに笑みを浮かべた。
「それじゃあ、ボクの合図で展開するよ」
さくらが指揮を執る。
その際に、彼女は1度、スタイルを変更することにした。近接に特化した、高速戦闘に最も向いた型。
「『月光桜-天衣無縫之型-』――」
先程まで展開されていた桜の花びらが一気に集まり、新しい形を作り出す。
さくらの背中や足、そして腕に薄紅色の翼となって出現し、まるでフィンのように、同じく薄紅色のオーラを噴射しながら、さくらは宙を舞った。
「それじゃ、行くよ!」
その合図と共に、光雅とさくらは一斉に動き出した。
俊敏な動きで一気に相手を挟み込む。
そして同時に、強力な一撃を白騎士へと放った。
答えを求める者――研究者。
彼らはいつも、誰かを幸せにするために、真理を探究し続けてきた。
目の前の超越者もその一人で。
始まりの少女は、彼を見る。
知り得ぬ過去を見ようと、冷酷に佇む彼を見上げる。
けれどもその答えも、やはり知り得ないままで。
次回『運命の対角線』