D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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永遠に繰り返す物語は、世界を変える力になる――





da capo <最終話>

 

しんしんと桜の花びらの舞う中、1軒の大きな古い木造建築の家があった。

ごく一般的な住宅街の中、このような古風な建築物は、雰囲気的に異様としか思えない。

住人がいるのかどうか怪しいところだったが、そこには間違いなく人が住んでいた。

金髪碧眼の老婆。

しかし、老婆という程醜くもなく、むしろ美しく、どこか高貴さを感じさせるような女性だったと言える。

その老婆が、今は茶を啜りながら家の縁側でのんびりとしていた。

見上げれば庭の隅に桜が咲いており、風が少しずつ花びらを運んでいく。

しかしいくら運ぼうと、その薄紅色は途絶えることを知らない。

永遠に終わりそうもない夢の空間を微笑ましく思いながら、老婆はそれを眺めていた。

 

「おばあちゃん」

 

ふと、老婆を呼ぶ声が背後から聞こえてくる。

老婆が振り返ると、そこには気弱そうな幼女がいた。

老婆と同じ金髪碧眼、長い金髪をツインテールに纏め、赤いリボンで括っている。

しかしその表情は老婆のそれとは違い、何とも弱々しく、儚いものだった。

 

「どうしたんだい?」

 

老婆は幼女に向き直り、訊ねる。

幼女は甘えるように、じゃれつくように老婆に返した。

 

「ねぇねぇ、アレ、アレちょうだい!」

 

アレ、と抽象的な物言いだったが、それでも老婆はすぐにその意図を察した。

孫の甘えっぷりに苦笑しつつ、右手の拳を握り締める。

神経を集中させ、そこにあるべきものをイメージする。かつて想い人に教えてもらった、小さな幸せの魔法。

掌を開けると、そこには小さな大福がちょこんと乗っていた。

それをみて幼女は目を輝かせる。

 

「ほれ、どうぞ」

 

「ありがとう!」

 

老婆の手からひったくるように大福を手に取り、そしてかぷりと1口齧り付く。

その美味さに顔を綻ばせ、ものを頬張る兎のようにもふもふと口を動かす。

その様子に、老婆は優しく微笑んだ。

 

――一陣の風が、桜を運ぶ。

 

老婆がふと顔を上げると、そこには1人の小さな少年がいた。

ブラックとブラウンの混じった長髪、それは子供ながらに、肩にかかるくらいに長かった。

エメラルドグリーンのくりっとした瞳を不思議そうにこちらに向け、そこに立っている。

老婆はそこにいる少年が何者なのか、少しして理解した。

 

「こんにちは」

 

「……こ、こんにちは」

 

老婆が少年に声をかけると、少年は慌てて返事を返す。その慌てようを見るに、どうやら大人しいタイプの人間ではなさそうだ。

あどけない顔立ちとは正反対に、どこか達観していて、頼もしさや逞しさを感じさせる佇まい。

突然の第三者の出現に、幼女は老婆の背中へと隠れ、怯える。

 

「何か用かい?」

 

ゆったりと、そう訊ねる。

 

「誰かは分からないけど、見守ってあげてって」

 

少年は老婆を恐れる対象ではないと認識したのか、人懐っこい性格なのかすぐに老婆の下へと歩み寄った。

勿論それに従って幼女は更に老婆にしがみつくことになるが。

 

「これこれ、そんなに怯えんでもいいじゃないか。悪い子じゃないさ。……ごめんね、この子、いじめられてたものだから」

 

老婆の言葉に、少年は幼女へと視線を向ける。

それは別に憐れみでも侮蔑でもない、ただの好奇心の視線。

 

「この子、いじめられてるの?」

 

老婆はゆっくり頷くが、少年は表情を変えない。

 

「友達、いないの?」

 

「そうだね、よかったら、この子と友達になってくれたら嬉しいんだけどねぇ」

 

そう言うと老婆は背中の兎を抱きかかえ、隣へと下ろす。

それでも幼女は怯えていたが、少しだけ緊張は解れたようで、瞳はしっかりと少年を捉えている。

 

「……いじめない?」

 

「いじめないよ。僕はキミの友達。仲良くしよう!」

 

少年は目一杯の笑顔で幼女を迎える。

幼女の怯えた表情は、次第に柔らかくなっていった。老婆の服の裾を握る手の力も緩む。

 

「キミ、名前は?」

 

名前を訊くと、流石に一気に接近されると怖いのか、少しびくりとする。

それでも幼女は勇気を振り絞って、目の前の優しそうな少年に自己紹介をする。

 

「……さくら。芳乃……さくら」

 

そこまで聞いて、老婆はその場から立ち上がる。

そしてさくらの頭を撫でて褒めた。

 

「よくできました。後は2人で遊んでらっしゃい」

 

そう言うと、老婆は部屋の奥に戻ってしまった。

その後ろ姿を、さくらは不安げに見つめながら、彼女がいなくなると視線を少年へと戻す。

 

「さくらちゃん、って言うんだ」

 

「うん」

 

少年はさくらに手を差し伸べる。

さくらがその手を握り返すと、一気に引っ張られて立ち上がった。

ほんの少し、怖かった。それでも、優しさと、温もりを感じた。

 

「素敵な名前だね。かわいい」

 

「あ、ありがとう」

 

名前を褒められたのは、祖母が初めてだった。

そして彼が2人目。純粋に嬉しかった。

しかし、自分の名前は教えたのに、こちらは何も知らないのは不平等だ。

そこでさくらは少年へと訊き返す。

 

「キミの、なまえは?」

 

きょとんと、少年は不思議そうにさくらを眺める。

しかしすぐに笑顔を戻してにっこりと微笑むと、再び彼女の手を握って走り出した。

さくらは彼に引っ張られるように、後ろについて走る。

少しだけ楽しい、そんな時間。

そして少年は言葉を発した。

それが、新しい物語の始まり。

永遠に繰り返される物語――ダ・カーポのように。

少年は振り向いた。

 

「僕の名前は――」

 

 

 

                ~D.C.X beginning~

 

 

 




というわけで、これで本作『D.C.Ⅲ.C.E.』、完結となります。
こちらの作品は『Ⅱ』の方と並行して進んでいた作品だったため、そちらが未読の方は途中で何があったのかを理解するのに苦労したと思いますが、もし読んでいない方はそこら辺の出来事を詳しく知るために、初めの方の俺のヘタクソ文章を耐えて忍んで読み進めてみると色々と納得できることもあるでしょうし、よりこの作品を楽しむことができるのではないかと思います。

この二作品の共通のテーマは、『家族と絆』と言ったところでしょうか。
そもそも原作がそう言った内容だったため、その雰囲気を引き継ぐためにそう言ったところに重点を置いてみました。はじめの方こそそんなに意識してなかったけど、こういったテーマを意識し始めて書き進めていくと書きたい話の道筋が明確になってきますね。
寂しさのあまりに世界を歪めて家族を得たさくら、大切な家族、兄のためにあらゆるものを救うことを心に決めた光雅、絆を失い、家族を失いかけてまで、目に見えない幸せを求めて彷徨った龍輝もとい龍雅、そして家族も絆も持たず、ただ強大な力で世界を変えようとしたシグナス――
上手に描写できたとは言えないですが、それでもこういった対比を何となく分かっていただければある程度は成功だったと言えるんじゃないかと思います。

最後に、最後まで目を通してくれた読者の皆様へ、『Ⅱ』の方を含めて終わりまで付き合ってくださって本当にありがとうございました。この作品が終わっても、『満身創痍の英雄伝』(D.C.Ⅲ原作)の方ものんびり書いていきますのでよかったら立ち寄っていただければと思います。それと、『Ⅱ』の方でもアフターストーリーの方を超亀更新しているんですが、そちらの方も興味があれば目を通してみてください。

この作品を初めておよそ一年、ご愛読いただきありがとうございました。

追伸。
活動報告にてこの後の簡単なネタバレをしようと思います。興味があればぜひ。
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