D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~ 作:Masty_Zaki
しかし、この邂逅は、間違いなく彼の第一印象をよいものにしただろう。
『暇人』というのは、邂逅のための、相性のよいスキルなのかもしれない。
――物を持ち上げて放すと、地面に落ちてしまうように。
――水を掴もうとしたら、ほとんどが掌から零れ落ちるように。
――空気を視認しようとしても、不可能であるように。
それは宇宙、というより地球の真理で、夜を越せば、必ず朝はやってくる。
冬では辛い、極寒の朝が。
「うぅ、さみぃ……」
ロンドンの地下にある風見鶏は、それこそ魔法の力で機構の調整はしているが、それなりに地上の気候に合わせて、調整をしているようだ。
つまり、地上が寒ければ、地下は少し寒い、ということになる。
12月11日。
龍輝は目が覚めてもしばらく布団に包まっていた。寒いのは大の苦手なのである。
身を縮めて布団をかき集め、少しでも布団を厚く被ろうと努力する。
……寒いのは変わらないようだ。
仕方がないので気が変わる前に布団をベッドの隅に投げ、適当に身支度をする。
あれから1ヶ月ほど経過したが、予科1年A組の依頼もなかったし、さくらも記憶を取り戻す気配がなかったので、やはり龍輝は風見鶏では一流の暇人であった。
一流の暇人は一流の暇人らしく、身支度をすると、何の意味もなく外にぶらぶらと出て行った。
向かい先は風見鶏の食堂。いつもは面倒なので滅多に足を運ばないが、これ以上になく暇な龍輝はかなり久しぶりにそこの料理を満喫しようと考えた。
朝の食堂は、やはりというべきか、意外と人が集まっていて、空いている席を見つけるのも難しいほどだった。
とは言っても、やはり席はぽつぽつと空いているもので。
ほら、よくあるだろう。席に並んで座るとき、グループ同士は隣の他人を意識して人1人分の間を空ける、あれだ。
そういう理由なのか、それとも本当に偶然なのか、男子生徒の隣2席が空いていた。
さて、どう声をかけようか、そんなことは考えない。
前にも言ったが、彼はこういう時、いつも直球勝負である。
反対の少女と話している少年の肩を突いて声をかける。どうやらここは4人グループらしい。
「隣、いいかい?」
我ながら不自然な口調になったものだ、と驚き呆れる。
「え、ああ、いいですよ」
「ありがとう」
なんか他人行儀なんていうのはすこぶる気分が悪かった。そこで、龍輝も会話に参加する。
「このメンバーは、……予科1年A組か?」
「そうですけど?」
「えーっと、そうだ、自己紹介しとかねぇとな。俺は本科2年の上代龍輝。後々吃驚サプライズで世話になるから、よろしく」
「吃驚サプライズ?」
少年の頭上にクエスチョンマークが浮かぶのが分かる。無理もない。
「まぁ、色々だ」
「そうですか。えっと、俺は葛木清隆です。で、こっちが妹の姫乃です」
「よ……よろしくお願いします」
あと2人は人形使いの一族の御曹司、江戸川耕助と、その召使で
「うーん……」
龍輝が場の違和感に唸る。
「どうしたんですか?」
「いや、やっぱり上下関係って嫌いだなって思ってなぁ」
「えーっと」
「なんか、いいじゃん。リッカだって俺のこと呼び捨てだし。俺だってリッカ呼び捨てだし」
「リッカさんと知り合いなんですか?」
「まぁな。色々あってな。生徒会室にちょいちょいお邪魔してんの」
「そうなんですか」
よく考えたら、俺もよくあのメンバーに馴染めたよな、と思い出に耽る。
「でも、何でそれで上下関係云々の話?……じゃなくで、ですか?」
「そうそう、それでいい。なんか互いに砕けたほうが楽しくない?」
「やっぱそうだよなっ!」
「すみません、マスターは礼儀というものが全く分かってないどうしようもない人なのです」
四季が耕助のほうを見て意地の悪い笑みを浮かべる。
「どうしようもない、は余計だろっ!?」
礼儀がなってないことを咎められることに関しては否定しないらしい。
「まぁ、俺、訳ありで学生期間中ずっと授業受けさせてくれなかったから。別に俺が偉いわけでもないし、仲良くいこうや」
「そうですね。でも、なんで授業受けなかったんですか?」
言葉の上では敬語だったが、その雰囲気から遠慮が消えた気がする。これが龍輝自身が求めていたものだった。
「あぁ、それはな、俺が他の魔法使いと少し違うからだよ」
「違う、とは?」
四季が、龍輝が欲しかった質問をする。
「魔法ってのは、魔力を自分の中でその形を変えるなり何なりして、特定のものに出力することで初めてその恩恵を得られるだろ?」
「まぁ、そうですねぇ」
姫乃がその様子をイメージしながら頷く。
「んで、その特定のものっていうのが、個人の得意な魔法だったりするわけだ」
「兄さんの場合は、眠りに関する魔法ですね」
「そんな感じ。でも、俺にはそれがない。出力先がないんだ」
「でも、それじゃあ、魔法使いとして成り立たないんじゃないんですかぁ?」
と、耕助が無遠慮に質問する。
「それが、全くないわけじゃないんだ。俺が唯一使える魔法、それは、俺自身の身体能力を数倍に引き上げる魔法」
「へぇ……」
また姫乃が頷くが、あまりピンと来ていないようだ。無理もない。そんな魔法は滅多に見られるものではない。
「まぁ、人外のスピードで走ったり、飛んだり、計算したり出来るわけだ」
「すっげぇー……」
まだ見てもないのに耕助が感心する。
「でも、そういう限定されていない魔法って言うのは、物凄い量の魔力を消費するんじゃないですか?」
「そうだけど、ここが俺のすごいトコ。俺さ、魔力の最大量なら、リッカの10倍はあるから」
「「「えぇえええええ!?」」」
「あらあら」
四季だけ割りと落ち着いていた。
まぁ、みんなのアイドル孤高のカトレア、リッカ・グリーンウッドが魔法で誰かと比べた時、圧倒的大差で負けるようなことはない筈だろう。龍輝はその反例となった。
「ま、マジっすか!?」
「マジだけど、使わねぇし」
「まさか、カテゴリー5ですか?」
「いや、1だけど?」
「「「えぇええええええ!?」」」
「それはそれは」
やはり四季だけ落ち着いている。ある程度予測できていたのか、リアクションが苦手なのか、興味がないのか。
「さっき言ったろ?得意魔法がないって」
「それはそうですけど、リッカさんより持てる最大の力が大きいし、それを使って人より数倍の動きが出来るって、5までとはいかないまでも、もっと高くつくものじゃないんですか?」
「いいんじゃね?申請する気ないし、別に気にしてないし」
「しかし、それほどの魔力をお持ちなら、授業を受けてより多くの知識をつけたほうがよいのでは?」
この先のこと――『研究施設』のことについては触れないほうがいいと判断する。
「残念だがここから先は企業秘密だ。プライバシーだ」
「それは残念」
そういいつつも、四季のその表情は少しも残念そうではなかった。龍輝にとって、彼女が一番難しい人となるだろう。
「おっと、みんな、そろそろ行かないと遅れるぞ。龍輝さん、ありがとうございました」
清隆が時間を確認して、慌てて立ち上がる。
「おう。授業遅れるなよ」
――龍輝さん、か。
先輩に気兼ねなく話せる葛木清隆という少年は、きっとすごい奴なんだろう、そんな気がしてならなかった。
その予感は外れたものではないのだが。
同時に。
これから、いろいろなことが起きるんだろうと、少し期待していたり、少し不安だったりする龍輝だった。
鐘が鳴る。
それはいうなれば、出陣命令である。
各々が不安と恐怖を抱いて向かった先――その依頼は、ただの掃除だったのだが――。
状況を知るリッカは、3人に状況を告げ、対応に当たる。
次回『≪女王の鐘≫』