D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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いつだったか――
彼女は語っていた気がする。
彼女の目的を。
魔法使いとしての、使命を。
その時の彼女の覚悟を、寂しげな瞳を、今でも俺は忘れない。


≪女王の鐘≫

時間というものは、何故個人的な感情の状況でその進度が大幅に変わってしまうのだろうか。

そんなくだらないことを考えながら、龍輝は廊下を歩いていた。

彼にとって、暇とは、ある意味天敵である。だがしかし、授業中では誰とも遭遇することは出来ず。

そんな時。

 

――カーン、カーン。

 

鐘の音が鳴り響く。これが≪女王の鐘≫だろうか?

時間的に恐らくそうだろう、と判断した龍輝は、駆け足で予科1年A組の教室に向かった。

その途中、A組のクラスマスターであるリッカと鉢合わせる。

 

「今のがそうなのか?」

 

「ええ、そうよ。ついてきて」

 

リッカの顔は、普段とは比べ物にならないほど真剣だった。これが、カテゴリー5の眼なのだろう。

リッカとともに教室に向かう。

教室に着くと、リッカは教壇に立ち、これから何が起こるのかを説明する。

他の生徒たちは、やはり新しいことに対する不安か、女王陛下の依頼というものに対するプレッシャーか、少し強張っているようだ。

 

「それと、うちのクラスは特別に助っ人を1人呼んでるから。入ってきて」

 

合図を貰ったので、廊下で待機してい龍輝は、リッカが退いた教壇に立つ。

すると。

 

「あっ!」

 

「こういうことだったんですか……」

 

「えぇぇえ!?」

 

声を上げた少女は紛れもなくあの時偶然に偶然が重なった結果興味本位でなんとなく助けてしまった少女だった。

これには龍輝も驚きを隠しえなかった。

清隆を始めとして、姫乃や耕助、四季も驚いたようだ。

 

「えっと、本科2年の上代龍輝だ。事実上みんなの先輩になってしまうわけだが、なんかめんどいから、さっさと任務終えて、こっちに帰ってこようぜ」

 

辺りが、やはりというべきか、ざわめく。

 

「龍輝は、言っとくけど魔法に関する知識はほぼ皆無よ。その点に関してはあなたたちの方が有能なの」

 

そんな人を連れてきて大丈夫か、とか、なんでそんな人が風見鶏にいるのか、という、訊ねられて当然の質問を投げかけられる。

 

「静かに!でもね、彼は十分私たちの力になるわ。私を信じて頂戴。彼は、危険な行動も厭わないし、頭の回転も速い。上手く立ち回れば私の何倍も戦力になるわ」

 

それをいうと、クラスの雰囲気が変わった。リッカさんが言うならそうなんだろう、という評価となった。

 

「とは言っても、今回の任務ははそんなに大したものじゃないから、あまり期待はせずに外に集合して頂戴。分かったわね?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

そしてその後すぐ、リッカの指示通り噴水前に全員が集合する。

そして、リッカから今回の依頼内容が発表される。

それは。

地上世界のタワーブリッジ周辺の清掃だった。

正直、がっかりした。

まぁ、下手に地上で魔法使いに事件だの事故だの起こされたら、それこそリッカたちのやってきた努力が水の泡になってしまう。その程度の依頼で、逆に安心した。

みんなはやはり簡単で面倒で拍子抜けな依頼に威勢を削がれたり、危険がないことを知って安堵したりと、様々なリアクションである。

そして、そのテンションのまま、地上に上がり、地道に清掃を始めるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

なんだかんだ言ってみんな真面目に清掃しているようだった。

龍輝はというと――。

≪加速運動(アクセラレート)≫を使い、ゴミの溜まっているところを瞬間的に複数捕捉して、彼なりに効率よく働いていた。使用したゴミ袋、3枚。

我ながら働き者だな、と自分の頑張りの塊を見て苦笑する。

辺りを見渡すと、サラは真面目に1人で、清隆たちは姫乃や江戸川コンビと勝負するということでモチベーションを上げてやっているようだ。

作業を続行する。次のところはっと。

しばらく掃除をしていると、リッカが清隆を連れて真剣な表情でやってきた。

彼女が言うには、タワーブリッジの両サイドのどこかに1つずつ、爆弾が設置されているとのこと。

そして、何らかの魔法によって橋が降りてこないとのこと。

それに対処するため、リッカは清隆をサポートに選んだらしい。

というのも、清隆は実はカテゴリー4の魔法使いだったりするのだ。

 

「……お前って、凄い奴なんだな」

 

「まぁ、そこそこですよ」

 

それで、片方はリッカたちが対処するから、もう片方を龍輝に処理させるようだ。

そして、当然龍輝の方にもサポートはつけるらしい。

誰がいいか、龍輝は頭の中で考えていた。

そして、一旦クラスの人間を集め、爆弾テロのことはぼかして、ことの主旨を伝える。

ほとんどの人は、それをレクリエーションの一環と取ったようだ。

そして、一通りの指示を出すと、リッカはみんなを見て、そして、1人の少女に声を掛ける。

 

――サラだった。

 

そして、龍輝とサラ、清隆とリッカは橋に向かって歩き出した。

唯一事情を知らないのは、サラだけだった。

 

「あの、あの時はありがとうございました」

 

「あの時って、ああ、あれか。いや、気にすんなよ。とにかく、今はコトの方に集中してくれ」

 

「一体、何なんですか?」

 

「簡単に言うと、爆弾テロだ」

 

「ば、爆弾テロ!?」

 

「しっ、声が大きい。知ってるのはこの4人だけだ」

 

「ごめんなさい……」

 

「あや、別にいいけど」

 

驚くのも仕方がない。簡単な作業で終わってしまうはずの作業が、まさか爆弾テロにまで触れなければならないとは、思いもしなかっただろう。

 

「そういう訳で、サラには俺のサポートをしてもらいたい。いいか?」

 

「は……はい」

 

「悪いな、危険なことに巻き込んじまって」

 

「いえ、が、頑張ります」

 

やはり、緊張はしているようだ。無理もない。

そして、リッカたちと別れて、タワーブリッジの地下に入る。

爆弾はすぐ見つかった。サラはこれ以上ないほど緊張していた。

赤と青の螺旋魔法陣で構築された爆発物の核。

すぐさまシェルでリッカに確認を取る。

通常、シェルは魔力が空気中にある程度充満している風見鶏の中でしか使えないが、彼のシェルは、『研究』によって特別に作られた試作品で、個人の魔力を相手のシェルに飛ばすことで、魔力のない空間でも使用できるようになっている。最も、試作段階なので、往復で使用する魔力が膨大で、使っても大丈夫なのは、龍輝ただ1人だけだが。

 

「リッカ、見つけた。これをどうすればいい?」

 

『でかした。それの2本の螺旋の動きを完全停止させて、その間に同時に2本ともぶった切って』

 

「完全停止、俺出来ない。どうする?」

 

『そうね、……そうだ、アンタ、能力使ったらほぼ完全停止に近い感覚に持ってこれるんじゃない?』

 

「完全は無理だ」

 

『アンタなら多少動いていても出来るわよ』

 

「善処する」

 

『頑張ってねぇ』

 

人の命が懸かっているというのにも拘らず、軽い言葉である。

しかし逆にこれが龍輝の緊張を解した。

シェルを切る。そして、サラを見る。

 

「これから爆弾処理を始める。そのために魔力のついた刃物が必要なんだ。こんなこともあろうかと、サバイバルナイフは持ってきているんだが、残念ながらコーティングは出来ない。やってくれるか?」

 

「は、はい!」

 

サラは龍輝からナイフを受け取り、魔力を籠める。そして、それを龍輝が受け取る。

一回深呼吸をする。そして、サラに呼びかける。

 

「サラ、後は俺1人で十分だ。お前は避難してろ」

 

サラは首を横に振った。そして、龍輝の服の裾をぎゅっと握り締めた。

 

「出来ません!私が逃げて、先輩が失敗したら、私絶対に後悔します!」

 

そんなサラの様子を見て、龍輝は嬉しく思った。

 

「ありがとうな。すげぇ心強いね」

 

「頑張ってください!」

 

集中する。そして。

 

「≪加速運動(アクセラレート)≫」

 

能力を発動し、情報処理速度と、身体能力を最大限まで高める。

一呼吸置き、そして一気に2本の螺旋を切った。

 

……。

 

何も起きない。

成功したようだ。だが。

何かを感じる、何かが俺たちを狙っている、そんな気がしてならなかった。

次の瞬間。

魔力の塊を2つ感じた。判断すると同時に、飛行物体が龍輝とサラ目掛けて飛んでくる。

 

「サラ、危ない!」

 

サラの前に立ち、素手でその2つを叩き落とした。

どうやらレンガだったようだ。

 

「な、何が起こったんですか?」

 

「恐らく、罠が作動した。この爆弾を解除すると同時に作動する罠のようだな。まぁ、止めたからもう大丈夫だけど」

 

「はぁぁ……」

 

サラの肩から力が抜ける。

 

「お疲れさん」

 

龍輝はサラに、初めて会った時と同じ台詞を使った。無論、意識はしてなかったが。

そして、リッカに解除完了のテキストをシェルで送った。

リッカからは、よくやった、と返ってきた。

そして、その後みんなと合流し、みんなのイメージの力を利用してタワーブリッジを下ろし、何事もなかったかのように風見鶏に帰っていった。

そして、広い生徒会室、今では学園長であるエリザベスがいるので、学園長室だが、A組の初任務の成功を祝って、そこである種の伝統的パーティーを行うのだ。

エリザベスが生徒全員に労いの言葉を掛け、そこに巴とシャルルが焼きたてのクッキーを運んできた。

ここでは、初任務を終えた生徒にクッキーをご馳走する、という不毛な慣習がある、と巴が清隆に言う。

清隆はそれに対して苦笑するしか出来ないが。

 

「それにしても、これ作ったの巴さんなんですね。キャラ的にはシャルルさんだと思うんですけど」

 

「それは、まぁ、まんというか……」

 

「大人には色々な事情があるのだよ、清隆」

 

「そうだぞ。この世界には、知らないほうがいいことだってあるんだ」

 

3人はシャルル本人に気付かれないようにウンウンと頷く。

 

それを見た清隆は何がなんだか、という顔をしていた。

龍輝はその後サラの所に向かった。

 

「お疲れ、サラ」

 

「あ、先輩、お疲れ様です」

 

「なんか、色々大丈夫か?精神的なこととか」

 

「ええ、大丈夫です。というより、処理をしたのは先輩ですよ?」

 

「俺のメンタルを支えたのはサラだ」

 

「はわわわわ……。そ、そういうつもりじゃ……」

 

「まぁ、今回は本当に助かったよ。ありがとう」

 

サラの頭に掌を被せ、優しく撫でる。

 

「子ども扱いしないでくださいっ!」

 

龍輝の手を振り払い、頬を膨らませて猫が威嚇するように怒っていた。

なんていうか、可愛いな、なんて柄にもないことを考えていた龍輝だった。

さてそのままサラの元を離れ、リッカの方に近寄る。

 

「お疲れさん」

 

「ああ、龍輝。どうだった、初めての依頼は?」

 

「拍子抜けだったが、アレくらいでむしろ安心したよ。この学校のことを考えるとな」

 

「そうね。出来れば、あまり大きな事件は起こって欲しくないな。魔法使いの地位を安定させるためにもね」

 

「俺ははっきり言ってまともな魔法使いじゃないからなんとも言えないが、それでもお前に無理をして欲しくないというのは別に魔法使いじゃなくても言っていいことだと思うんだ。だから、暇人である俺を、しっかり頼ってくれるとありがたい」

 

リッカはその言葉に驚いたように目を丸くして龍輝を見つめる。

すぐに笑顔を見せて、自分は大丈夫、とアピールした。

 

「ええ、分かってるわ。あなたも、私の足を引っ張らないで頂戴ね」

 

「その心配は無用だ」

 

「……そうね」

 

2人は、結束を誓い合うように、硬い握手を交わした。




『彼』が『彼』で会い続ける所以。
『彼』がここに存在し続ける所以。
それは彼が社会において“人間でない”ことに他ならず――

カテゴリー5の魔法使いは、対峙する。
『研究材料』の死んだ瞳を見て、彼は哀れむ。

次回『『研究材料』』
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