D.C.Ⅲ.C.E. ~ダ・カーポⅢ チェンジエンド~   作:Masty_Zaki

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立ちはだかるは、天下無双の氷使い、カテゴリー5の『氷槍』。
その静かなる瞳で、彼は対峙する龍の瞳を持つ青年の、あらゆることを見抜こうとする。
彼が一体どういう者なのか。
哀れみ――それが一番正しい表現なのだろうと、思った。


『研究材料』

「さて、今日も始めようか」

 

目の前にいる男、名前は、シグナス・ルーン。『研究施設』のトップである。

そう、これから始まるのは、例の、学園サイドにすら知られていない、危険な『実験』なのである。

 

ちなみに、学園では、生徒会選挙の立候補期間が始まったらしい。

生徒会選挙に立候補できるのは、予科1年の各クラスから1名が代表となって、である。

今回は、A組からは葛木清隆、B組からはメアリー・ホームズ、C組からはイアン・セルウェイが出馬するようだ。龍輝としては、勿論清隆に勝って欲しいと思うのだが。

シグナスから、いつも手渡される、どういう物なのか全く説明を受けていないグローブを受け取り、それを右手にはめる。

 

「さて、部屋に入りなさい」

 

部屋に入るよう、指示を受ける。中に入ると、かなり広い部屋の中央に何か物体があった。

これは、一体何なのだろう、そう思わずにはいられなかった。

 

「それは≪追跡の弓(ホーミングアーチ)≫だ。使い方は、矢を番えずに弓の弦を引くだけだ。それで自動的に術者の魔力を矢の形として生成し、攻撃を行うことが出来る。なお、弦に掛ける指の本数で生成する矢の本数が変わる。よく覚えておけ」

 

「また物騒なものを発明しましたね。こんなの、何に使うつもりですか?」

 

「緊急事態に、とでも言っておこう。『実験』を始めるのだが、今回は少し戦闘形式を採る。相手はカテゴリー5の魔法使いだ。既に隣室でスタンバイしている。基本的に武器はそれを使え」

 

その台詞と同時に、龍輝が入室した扉の反対側にある扉から、青年が1人現れた。

純白の髪は右目を覆い隠し、露になっている左眼の水色の瞳は相手を凍てつかせるような威圧感があった。年齢は龍輝と同じくらいだろうか。

 

「彼の名はスライ・シュレイド、通称『氷槍』。戦闘系の魔術師としては最強の部類だ。気を引き締めないと死ぬぞ」

 

「分かってますよ」

 

スライの方を見る。その佇む姿だけで、十分に彼が強いことを物語っているようだ。

 

「紹介に預かった、スライだ。アンタが上代龍輝か。噂どおり、魔力の量は桁違いだ」

 

「それだけだがな」

 

「いや、それだけじゃない。俺を眼前にして怯まない奴なんてそういないぜ?」

 

「怯んでどうする。俺が怯んだって、お前は全力で俺を潰すだろうが」

 

「そりゃそうだ。ま、お互い、全力を尽くそうぜ」

 

「お手柔らかに頼む」

 

龍輝は手に持つ≪追跡の弓(ホーミングアーチ)≫を展開させる。

どうやらこいつの状態はばっちりらしい。

 

「始めるか。≪加速運動(アクセラレート)≫!」

 

「行くぜ!」

 

その掛け声と同時に、スライは右手で空を切る。すると、彼の身体の周辺に、大小複数の氷柱が出現する。

 

「はぁっ!」

 

その全てが龍輝を貫こうと猛スピードで襲い掛かってくる。

龍輝は様子をよく観察し、当たる寸前で回避し、弓の弦に3本指を掛け、引く。

3本の光の矢が出現すると同時に、弦から指を離す。

するとその3本はスライに引き込まれるようにスライを襲った。

しかし。

 

「よく見えてるじゃん。だが、まだ甘いな」

 

手を地面に翳し、それを一気に天井に向けると、氷の壁が3枚、光の矢を阻むように出現した。

矢はそれを破壊するが、標的には届かなかったようだ。

氷の霧が晴れたとき、そこにスライはいなかった。

耳を澄ます。

 

――後ろか。

 

咄嗟に右に飛ぶ。そこに飛んできた氷柱をよけることが出来たが、それは失敗だった。

 

「だから甘いと!」

 

見当違いの方向からスライの声がした。

龍輝の着地寸前、足元に魔力の塊を察知。

 

「しまっ――!?」

 

慌てて身をよじる。

地面に魔法陣が出現、そしてそこから巨大な氷の槍が空を貫いた。

それは龍輝を捕らえ損ねたが、それでも龍輝は回避しきれず、背中に衝撃を受ける。

 

「ぐっ!」

 

派手に吹き飛ばされ、空中で態勢を整え、着地する。

 

――こいつ、強い。

 

分かりきっていたことだが、やはりこの男は相手の行動パターンをすぐに見切ってしまう。

 

「すまないな。先に言うのを忘れていた。この部屋には予め俺が複数のトラップを仕掛けている。慎重に行動しないと、痛い目見るぞ。」

 

「……」

 

何も言い返さなかった。それより、どうやってこの男の裏を掻くか、戦略を練るのが優先だ。

罠がある。それはすなわち、接近は死を意味する。そう考える。

すると、今持っているこの弓は何かの役に立つかもしれない。

弓を構える。

指を1本かけて弦を引っ張り、スライに向かって狙いをつける。

そして、そのまま矢を射出する。

一方でスライはそれを阻もうと複数の氷の壁でそれを除去しようと試みる。

しかし龍輝の膨大な魔力で生成された光の矢は、純粋に破壊力を持っており、氷の壁を易々と粉砕し標的を追いかける。

龍輝は続いて4本の指で弦を引き、矢を放つ。

 

「ちくしょう!めんどくせえ!」

 

合計5本の矢が追いかけてくるのを咄嗟に判断したスライは、吐き捨てるなり氷の長槍を作り出し、5本同時に叩き壊した。

これがスライ・シュレイドが『氷槍』と呼ばれる所以。

攻撃力、魔力の許容量、耐久力、リーチ、重量、それら全てが彼にとって『最強』となりえるバランスで完成した、神ならざる身によって完成された神器。

その槍は全てを貫き、確実に壁の向こうにある敵を串刺しにする。

その最強の武器を、龍輝の前に晒した。

 

「それがお前の全力か……」

 

「作っただけじゃまだまだ6割程度だ」

 

もう1度弓を構え、スライを見据える、が――。

 

――ズドン!

 

背後から2本の巨大な氷の槍が空を突いた。

矢を放つことが出来ず、寸前で回避。

更に。

回避した先に更に2本。

これも回避。しかし、反撃の機会が得られない。

次の回避先にも地面に1本。

これは予測していたため、後方に回避。

 

――だが。

 

読まれていた。

背後を取られ、背中に蹴りを入れられる。

 

「ぐあっ!」

 

それだけでは終わらない。

転倒先でも罠は容赦なかった。

次々に天井から氷柱が降ってくる。

地面を転がりながら、逃げ回るしか出来なかった。

立ち上がる。だが、もはや勝てる気はしなかった。

地面を転がり、氷の破片で体中は切り傷だらけ。能力で身体能力が上がっている彼にとって、痛覚は天敵だ。体中に激痛が走っている状態では、まともに戦えない。

それに。

攻撃が出来ない。全ての行動が読まれている。

何をしても。

何を考えても。

いつもその一手先を行かれた。

それが龍輝の戦意を消した。

気がつけばスライが龍輝の目の前に立ち、仰向けになっている龍輝の喉元に長槍の切っ先が突きつけられていた。

 

「もうやめろ。お前の目はもはや敗北に染まっている。これ以上続けても意味はねぇ」

 

その言葉がきっかけとなり、龍輝の体から力が抜ける。

そして、意識を手放した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そろそろ、時期か」

 

『実験』終了後、龍輝から回収したグローブをとある機械にセットする。

 

「そうですね、貴方がおっしゃるとおりであれば、この世界と次の世界で終わるでしょう」

 

「そうだな。あと5回は重ねようか。物事は慎重に運びたい」

 

「そうですね」

 

メーターの針を見る。

そこには、65パーセントのところに針が来ている。

 

「そういう訳だ。例の禁呪を用意しておけ」

 

「了解」

 

動き出す。運命の歯車が。

そして、その歯車は、全てを狂わせる。

 

――狂わせていく。

 

始まりは、ここから。

終わりは、これから。

 

カラカラカラカラ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こいつ、いいモンは持ってんじゃん」

 

『研究』終了後、カテゴリー5、『氷槍』は、肩に抱えている男に対して苦笑する。

男の能力、≪加速運動(アクセラレート)≫。術者の身体能力を数倍まで底上げする魔法。

だがしかし、その最大の弱点は、自分の感覚神経までも鋭くさせてしまうということだ。

つまり『痛み』の感度も数倍にまで跳ね上がってしまう。

 

――知っていたさ。

 

だが、そんな致命的な弱点を抱えている相手に時間を掛けてしまえば、それこそショックとストレスで殺してしまいかねない。

 

それゆえ、攻撃をさせる前に罠を連続で作動させておいた。

こんな卑怯な戦術を使ったのは始めてかも知れない。

龍輝は止血などの応急処置は受けており、意識を失った状態で運ばれている。

 

「こいつの部屋でいいか」

 

体勢を立て直すと、学生寮までゆっくりと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

生徒会室。

今日もリッカとシャルル、巴はいつものように生徒会の仕事に追われている。

 

「巴~、これお願い」

 

「了解」

 

「シャルル、これ、どうしたらいい?」

 

「それはね、えーっと、向こうに整えて置いておいて」

 

「じゃあ、あなた、これお願いできる?」

 

「任せてください」

 

やはり龍輝がいない分、仕事の量は尋常じゃない。

するとそこに。

扉が開く。

生徒会室に入ってきたのは、上下白い服をきた、白髪でクリアブルーの瞳を持った青年、『氷槍』の名を冠するカテゴリー5、スライ・シュレイドだった。

 

「す、スライくん!?」

 

「あっ、シャル!」

 

スライの顔が人懐っこい笑みに変わる。スライとシャルルは昔からの親友である。

 

「一体どうしてこんなところに来たの?」

 

「んあ、実験」

 

「実験?って、例の龍輝くんの?」

 

「あれ、知ってんの?」

 

「うん。いつも生徒会の仕事を手伝ってくれるんだよー」

 

「ふぅん」

 

しばらくスライは笑顔で黙っていたが、すぐにその顔は真剣なものになる。

 

「その上代が『実験』で大怪我をして気絶している。命に別状はないが、応急処置はして、寮の自室に運んでおいた」

 

「龍輝くんが!?」

 

「龍輝!?」

 

「まさか、お前……」

 

巴の瞳がスライを捉える。そこには、静かな怒りが潜んでいた。

 

「黒髪は勘付いたようだが、犯人は俺だ。今回の『実験』で俺が倒した」

 

「あんたねぇ……!」

 

「スライくん……?」

 

リッカは怒りに震え、シャルルは困惑している。

 

「俺も分かんねぇよ。お前ら正規の魔法使い集団は何を目的として『研究』なんてやってんだよ!?」

 

なんであいつがあんな物騒なことに巻き込まれてんだよ、と小さく呟き、舌打ちをする。

 

「知らないわよ!研究機関がやってることに私たち一介の学生が首を突っ込めるわけないしょ!」

 

「な……!?」

 

その言葉にスライは驚愕した。それはつまり、『研究機関』は完全に風見鶏の管轄から外れてしまっている、ということである。

 

「まさか、上代龍輝がどんな目にあっているのか、お前ら、全く聞かされてないのか!?」

 

「お前こそ、『研究機関』の人間ではないのか?」

 

「まさか。とにかく、俺はもう一度行ってくる。誰か上代のところに行ってやれ。仕事が忙しいなら誰かに連絡して看ててもらえ!」

 

そう言うなり、スライは走って生徒会室から去っていった。

 

「シャルル、今の、何者なの?」

 

「彼はね、カテゴリー5の魔法使いよ。完全に戦う魔法使いとして生活してる。いくら龍輝くんでも、彼には指一本触れられなかったと思う」

 

「それほどに強いのか?」

 

「ええ。一国の軍隊なら、時間を掛ければ1人で壊滅させられるかもしれない」

 

「それはまたとんでもない奴に捕まったな、あいつも」

 

「スライくんは、悪い人じゃないわ。さっきの口ぶりからしたら、もう龍輝くんを認めてる」

 

「私、ちょっと行ってくる」

 

「ちょっと、リッカ!?」

 

リッカはシャルルの静止に耳を貸さず、すぐに生徒会室を飛び出した。

 

同時に、『研究機関』は一体何をしているのか、そんなものに関わっている龍輝は大丈夫なのか、心配せずにはいられなかった。

余談だが、研究施設に向かったスライだったが、そこには既に代表であるシグナスには会えなかったようだ。




いつからか、思うようになった。
――寂しい、と。
この感情はどこから起因するのか。
何故彼女が来ると少しばかり満たされるのだろうか。

青年は、1人の男によって、『自分』を取り戻す決意をする。
少しだけでも、自分のために生きてみよう、と。

次回『1人の人間として』
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