Steins;Mahora ~骸殻のクルスニク~ 作:青いアオ
世界線変動率1.048596%
それは唯一無二の世界。
まゆりが、そして紅莉栖も死なない世界ーシュタインズゲート。
ここにたどり着くために、俺はあらゆるものを犠牲にしてきた。
これまでの過程は一生忘れることはないだろう。
いや、忘れることは許されないんだ。
それが、皆の思いを踏みにじり過去を改変し続けた俺の責任だ。
だが、後悔などしていない。
今ここにいる、この場所に立っていられるのは偶然じゃない。
犠牲にした全ての世界、全ての人、全ての思い、全ての願い。
それら全ての結果、俺は今ここいるんだ。
無意味ではなかったんだ。
…などど珍しく感傷に浸りながら黄昏ていると
「ねぇオカリン、どうかしたの?」
俺の視界にひょこっと、おっとりとした少女の顔が映り込んできた。
あどけなさの残る顔を心配そうに歪めて俺の顔を覗き込んでいる。
見間違えるわけもない。
まゆりだ。
俺は一体何度まゆりが死ぬ瞬間を見てきたのだろう?
何度救おうとしてもその度にまゆりは死んでしまった。
まるで世界がまゆりの死を望んでいるかのように。
だが今、目の前には元気なまゆりがいる。
それだけで言葉にならない感情に捕らわれるが、俺はそれを隠すようにいつものオーバーリアクションで言い放った。
「フッ、まゆりよ…。聞かない方が身のためだ。この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真の頭の中は到底常人などには理解できないのだからなぁ!!フゥーハハハハハハ!!」
狭いラボの中に笑い声が響く。
少し前まではこの口調も自然にできていたが、今では意識しないと難しい。
「はいはい、中二病乙」
そこに別の少女の涼しげな声が響く。
そちらに視線を向けると、これまた見間違えるはずもない。
ソファーに座った紅莉栖がドクペを片手に冷めた目でこちらを見ていた。
果たして俺は彼女にどれだけ助けられたことだろうか。
紅莉栖に相談するまで、俺は一人でまゆりを救おうとあがいていた。
だが、結局まゆりを救えなかった。
何をしても、どうあがいても、必ずまゆりは死んでしまった。
挙げ句の果てにはまゆりが俺をかばって死んでしまったこともあった。
あの時の俺は本当に狂う一歩手前だったのかもしれない。
そんな時に助けてくれたのが他ならぬ紅莉栖だった。
「牧瀬氏牧瀬氏、オカリンが中二病なのは平常運転だお」
と、人が折角感傷に浸っているところにダルが水を差してきた。
「黙れダル。お前は空気を読めっ!」
我が頼れる右腕、ダル。
どーしようもない変態オタクだが、ヤツがいなければ今のこの世界線はありえなかった。
なんやかんやでダルには感謝している。
ま、そんなクサい台詞は死んでも言わないがなっ!
「そんなことより凶真~。今日は何のために集まったのにゃ?」
今まで黙っていたフェイリスが疑問の声を上げた。
今日は珍しく大人しいではないか。
いつもは口を開けば電波を発しているのだがな。
「ぼ、僕も…それを聞きたいと思っていました…」
フェイリスに同調するようにるか子もか細い声を出した。
小動物を思わせるウルウルした瞳、ためらいがちな表情、透き通るような白い肌。
だが、男だ。
だが、男だ。
大事なことなので二回言った。
「……私も………知らない……」
最後に閃光の指圧師(シャイニングフィンガー)こと桐生萌郁がるか子よりさらにか細い声を出した。
まぁメールでしか会話できなかった時よりはマシになったのだろうが、聞きづらくて仕方ない。
「そうか、まだ三人には話していなかったな」
そう言って俺はたっぷりと間を空けてからおもむろにラボの中を見回した。
まゆり、紅莉栖、ダル、フェイリス、るか子、萌郁。
この世界線ではまだ誕生していない鈴羽を除いて、ラボメン全員がこのラボに集まっている。
「では改めて宣言しよう!」
そう言って大袈裟に腕を広げる。
それにつられてラボメン達の視線が集まる。
「ラボメン諸君に集まってもらったのは他でもない!今日をもってこの電話レンジ(仮)を破棄する!」
俺がそう宣言しても、ラボメンの表情は特に変わらなかった。
まゆりと紅莉栖とダルには事前に話していたことだが、他の三人も別段驚いたりはしなかった。
皆納得した表情なのを見ると、こうなることは予想できていたのかもしれないな。
「ま、当然ね」
俺の考えを肯定するかのように紅莉栖が静かに言った。
「まゆしぃの唐揚げが温められなくなっちゃうのは困っちゃうけど、しょうがないよね~エヘヘ~」
「僕としては高く売りさばいて、ソフトを買い尽くして画面の中の女の子たちとキャッキャウフフなライフを送りたいわけだが」
訂正しよう。
こいつはただのどーしようもない変態だ。
「さて、そこの変態は無視するとして、破棄に異論のある者はいるか?」
「変態じゃないお。変態という名の紳士だお」
変態紳士の発言は華麗にスルーし、俺は全員の顔を見回した。
ラボメンの表情には異論の色は窺えなかった。
まあ、もともと表情がよくわからない奴もいるが。
「よし!電話レンジ(仮)の破棄は決定された!これにて第42次円卓会議は終了する!」
と俺は高らかに宣言した。
う~む。
我ながら見事な宣言だ。
が、ダルと紅莉栖が冷めた視線を向けてきた。
「もともと破棄するつもりだった件について」
「円卓会議とか言い出しちゃう男の人って…」
くっ…ダルとクリスティーナめ!よけいなツッコミを入れるんじゃない!
「細かいことにキャンキャンとうるさいぞそこの二名!」
「フヒヒ、サーセンww」
「何よ偉そうに」
ほう。
何かにつけて文句を言ってくる助手はこの鳳凰院凶真に構ってほしいと見える。
「フッ、貴様も少しはこの孤高の天才、鳳凰院凶真に敬意を見せるのだな天才HENTAI少女よ」
「誰がHENTAIよ!!」
「変態と聞いて」
「あ~もう!話がややこしくなるから橋田は黙ってて!」
「サーセンww」
ダルと助手が無駄な争いを始めたところで、俺は改めて電話レンジ(仮)を見つめた。
電話レンジ(仮)。
メールを過去へと飛ばす機械。
今でも最初と同じ位置に鎮座し、金属独特の輝きを放っている。
電源はもちろん入っていないが、本体はまだ稼働できるそのままの状態だ。
「……………」
俺はなんとなく電話レンジ(仮)に手を掛けてみた。
鉄の部分が手に当たって熱がヒンヤリと奪われた。
この感触は忘れようもない。
これを使って数え切れない回数のDメールを送ってきたんだからな。
そう考えるとなんとも言えない気分になる。
これが全ての元凶であり、唯一の希望でもあった。
そのことをしみじみと思い出した。
「あの…岡部さん…」
と、思考を中断したのはるか子の声だった。
顔を向けると何やら考え深い表情でこちらを見ていた。
「どうしたのだ?るか子よ」
と、尋ねてみてもるか子はしばらく躊躇ったようにもじもじしていた。
しかし、意を決したように俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「岡部さんは、本当に電話レンジを壊してしまいたいんですか?」
っ!?
不覚にもるか子の発言で俺はかなり動揺してしまった。
るか子は言外にこう言っていた。
"本当は電話レンジ(仮)を壊したくないんじゃないのか?"、と。
「それは…」
何故これ程動揺したのだろうか。
俺自身がわからずに混乱していた。
だが、少し考えてみたら原因がすぐにわかった。
答えは単純。
それは不安感だ。
今までは何が起きても電話レンジ(仮)を使えば"やり直す"ことができた。
たが、壊してしまったらもうやり直すことはできない。
そのことが僅かな不安感を生み出していたのだろう。
何が起きてももうやり直すことはできない。
だが、本来生きるというのはそういうことだと思う。
未来がわからないのは当たり前だ。
そう。
これからは電話レンジ(仮)などなくても構わない。
未来は確定などしていないのだ。
今、この瞬間の俺達が切り開いていくものだ。
頭の中でそう締めくくった俺は一人で小さく頷いた。
「感謝するぞるか子よ。だが、その心配は無用だ。こんなものに頼らなくとも、俺たちは未来を創っていけるのだ」
「………はい!岡…じゃなくて凶真さん!」
うむ。
るか子も納得したところで、早速電話レンジ(仮)を壊すとするか。
そう思った俺はまだ無駄な口喧嘩をしているダルと助手に声をかけようとした。
その瞬間だった。
「……ん?」
聞き慣れたメールの電子音が響いた。
「メール…?」
このタイミングでメール…?
まさか…SERN?
いや、それはあり得ない。
この世界線では最初のメールはエシュロンに捕らえられていない。
SERNが気づくはずもない。
じゃあ誰だ…?
俺は漠然とした不安に苛まれながらも携帯の受信メールを確認した。
《受信メール》
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受信日時:2010/09/10 14:32
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題名:無題
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奴を、止めてくれ
End
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何だこのメールは?
差出人のアドレスに見覚えはない。
それに奴とは誰だ?
メールの内容を確認した直後、異変は起きた。
「なっ!!」
突如として電話レンジ(仮)が動き始めたのだ。
「え!?何!?」
「きゃ!?」
俺の目の前で電源の入っていないはずの電話レンジ(仮)が動いている。
バカな!?動くはずがない!!
いや、動いているというよりも発光している。
内部から火花のような青い閃光を撒き散らしている。
この発光現象は……
「ぐぁぁああああああっ!!」
発光と同時に俺は猛烈な頭の傷みに襲われた。
間違いない。この傷みはリーディングシュタイナー発動時のものだ。
しかし傷みが普通の時よりも強い。
頭が左右に揺り動かされるだけでなく天地が逆さまになったかのように上下にかき回される。
平衡感覚は瞬時に麻痺し、立っているのも困難になるほどだ。
俺は思わず倒れそうになったのを床に手を付くことで回避する。
「岡部さん!?」
「岡部!?」
「オカリン!!」
「凶真っ!!」
ラボメンの声が遠くに聞こえる。
ダメだ。
何が起きたかわからない。
まだ夏場のはずなのにやたらと寒い。
頭の傷みはさらに強まり意識が薄れ始めた。
視界は真っ白に染まり、身体の感覚も消えた。
俺は死ぬのか…?
一体何が起きた…?
他のラボメンは無事だろうか…?
疑問ばかりが溢れ思考が回らない。
「岡部!!岡部!!」
薄れ行く意識の中、最後に見たのは、必死な表情をする紅莉栖の姿だった。