Steins;Mahora ~骸殻のクルスニク~ 作:青いアオ
私は岡部倫太郎とかいう男に"ついて来い"とだけ伝え、橋を進んで別荘の中へと入った。後ろで何やら驚愕しているようだがそんなもん知らん。
「さて厨二少女よ、いい加減にここがどこなのか教えてもらおうではないか」
と、しばらく歩いていると背後から大袈裟な口調が届いた。振り返ると白衣の男が偉そうな顔で私を指差している。この闇の福音に対してこれ程なめた態度を取る奴はそういない。これだけ長く生きていてもコイツで二人目だ。全く、さっきから何なのだこの男は?
というかその呼び方はやめろと言ったはずだぞ!
私は視線に軽く殺意をのせて睨みつける。
「…………本当にすいませんでございます…ここがどこなのか教えて頂きたく思う所存でございまして……」
うむ。そして案外チキンだな。てか敬語がおかしいぞ。そのふざけた口調といい、小物臭がプンプンする。
だがコイツは得体が知れん。現に私の別荘に来た時は流石に驚いていたが、今はもう何事もなかったように落ち着いている。やはりこの岡部倫太郎とか言う若造、ただの一般人とは思えん。何よりあの時、森で初めて奴を見た時の表情が気になる。私も長い時を生きてきたが、あんな複雑な表情をする人間を見たことがない。まるで何か深い絶望の底を味わったかのような…。この私ですら体験したことがない程の、な。あの歳で一体どんな人生を歩んできたのか。
「ふん…まぁいい。さっき言った通りここは私の別荘だ」
と折角もう一度説明してやったのに岡部倫太郎は不満そうな表情を返してきた。
「いやそうではなくて、何故急にこんな所に来たのか聞きたいのだが。まさかまた魔法とか言うのではあるまいな厨二少女よ?」
どさくさに紛れてまたその変な名で呼んでるし。チャチャゼロの時といい、コイツは人の話を聞かないな。
「ふむ。どうやら貴様はその身で受けてみないとわからんようだな」
最早隠す必要もない。まぁ元より私は魔法の隠匿などという面倒なことをするつもりはないがな。三流魔法使いどもの戯れ言に付き合う気はない。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」
ここは私の別荘、魔力の制限はかからない。今の私は最強状態というわけだ!岡部倫太郎もこの圧倒的な存在感の前に…って…
「おい貴様!!」
思わず始動キーを唱えたところで叫んでしまった。理由は簡単。目の前の白衣の若造は畏怖するどころか、ふざけた表情で私を見ているからだ。何なのだその余裕ぶっこいた顔は!?
「フゥーハハハハ!!」
「って笑うな!!」
余裕どころか笑い出したぞ!何なのだコイツは!
「残念だったなダークネス・ヘヴンよ。貴様に世の中の非情さを教えてやろう」
せめて呼び名くらい統一しろ。私は露骨に面倒な顔をしたがコイツは気にしてないようだ。岡部倫太郎は相手を見下したような顔を見せてニヤリと笑った。何だそのイラっとくる顔はっ!
「この現実世界では詠唱したところで魔法など使えるわけがないのだ。妄想は頭の中にでも仕舞っておくのだな妄想少女よ。フゥーハハハハハハハハ!」
何をそんなに盛り上がっているのか、白衣の男はハイテンションで叫ぶ。本当にオーバーリアクションだな…。うむ、これが厨二病というやつか。
「…ほう。それならこれでどうだ?」
理解したぞ。コイツの発言にいちいち取り合う必要はないな。
私はその場から空中に浮遊し上空から奴を見下ろす。流石にこれには驚いたようで、岡部倫太郎はさっきまでの余裕な表情を崩し私を見上げたまま固まっている。ククク…そうでなくては面白くない。やはりコイツは浮遊術を知らないようだ。私はさらなる衝撃を与えてやるべく空中で詠唱を続ける。
「 氷の精霊17頭、集い来たりて敵を切り裂け」
詠唱と同時に辺り一帯の気温が低下する。それに伴って私の周囲には次々に氷塊が形成され、氷の円環が出来上がる。もちろんその全ての切先は眼下の男に向けられ、放たれるのを今か今かと待ちわびている。
私はさっきのお返しにと、詠唱しつつ得意げな表情で見下ろしてやった。だが奴は私の表情を見る余裕もないのか、固まったままだ。
「お、おい…ひょっとしてマジなのか…?」
ようやく事の重大さを理解したのか、岡部倫太郎は真顔で冷や汗を流した。だが今更気付いても遅い!
「『魔法の射手・連弾・氷の17矢』」
ここに詠唱は完成した。
私をとりまく17の氷塊は白衣の男に向かって一斉に放たれる。
「何だ…コレ…」
岡部倫太郎は逃げることも忘れ茫然と呟いた。
「少し痛みますよ凶真さん」
場所を移してここは別荘の個室。私は窓辺の枠に腰掛け、岡部倫太郎はベットの上に座り茶々丸に手当をされている。うむ…加減はしたがちょっとやり過ぎたようだ。
「痛っ!メ、メカ少女よ!ちょっと乱暴ではないのか!?」
腕に包帯を巻かれながら岡部倫太郎は大袈裟に声を上げる。まぁ大した怪我はないようだから大丈夫だろ。それにしても魔法障壁はおろかレジストもしないとは。私が加減しなければ軽くあの世行きだったぞ。本当に魔法とは関わりの無い一般人のようだ。だが、ただの一般人とも思えん。魔法関係者ではないが一般人でもない…何なのだこの違和感は。
私はおっかなびっくりしながら手当を受けている男に再度視線を向ける。…その目、その奥に一体何を隠しているのか。
「すみません。加減がわからないもので」
と、茶々丸は律儀に謝る。全く大しことはないんだから、こんな厨二病男の手当などしなくても良いと言うものを。
「構うことないぞ茶々丸」
そう声を掛けたら岡部倫太郎がまた大袈裟に反応してきた。が、私は横目で軽く流した。本当に元気な奴だな。
「っく!この冷血厨二少女め!誰のせいでこんな…」
うむ。どうやらまた調子に乗ってきたようなので視線を鋭くしてお灸を据えてやった。だが私の視線には慣れたのか、一瞬ビビりながらも岡部倫太郎は余裕な笑みを浮かべてきた。だからそのイラっとくる表情やめろ!
「フゥーハハハ!!なめてもらっては困るぞ妄想少女よ。この狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真がそんな安い脅しに屈するとでも思っているのかぁ!フハフハフハハハハハ!」
コイツ私を馬鹿にしてるだろ!お前が目の前に対峙している相手は魔法使いにとって恐怖の対象である闇の福音なのだぞ!?それを妄想少女扱いにするとはどういうことなんだ!あー!もう!何なのだコイツは!
私の額に自然と青筋が浮かぶ。
「…貴様。もう一度喰らいたいようだな?」
そう言って私はニヤリと笑った。恐らく青筋を浮かべたまま笑っている今の表情は凄まじいことになっているのだろうな。その証拠に岡部倫太郎は余裕な表情を崩し後退りした。
「…すいませんでしたエヴァンジェリンさん。お気持ちをお害しなされたのでしたらお謝らせて頂きたくお思いな感じです……」
なんかコイツ、いつもふざけた口調で話しているせいかいざ丁寧に話そうと思ったらなんか言葉がおかしくなるようだな。
「ハァ…。付き合ってられんな…」
思わず溜め息が漏れた。無理もないだろう。この岡部倫太郎という男に関わると何か調子が狂う。この私に対してこんな態度を取る奴はそういないからな。闇の福音と聞けば大抵反応は決まっている。恐れるか敵意を向けてくるかのどちらかだ。だがコイツは違った。まさかこの私をからかってくるとは思わなかった。というか子供扱いしてるだろ!
「治療が完了しました。どこか痛むところはありませんか?」
茶々丸はそう言って救急箱を片付ける。下らん話をしている間にも治療が終わったらしい。
「う、うむ…大丈夫そうだ。感謝する茶々丸よ」
「いえ。お気になさらないでください。また痛むようでしたらお知らせください」
「了解した救急給仕、略してレスキューメイドよ」
コイツは茶々丸にまで変な名前を付けたようだな。その変なネーミングセンスは一体どこからきているのやら。てか略してないぞ。
「では失礼します」
そう言い残すと、茶々丸は一礼してから部屋を後にした。それを横目で確認した私は一間を開けてからゆっくりと問いかける。
「で、お前は私の話を信じる気になったか狂気のマッドサイエンティスト?」
実際に魔法の射手を受けたのだから否定しようもあるまい。現に目の前の男は神妙な顔で考え込んでいる。
「……ああ。信じざるを得ないな」
とりあえずは納得したようだが、まだ魔法に対して疑念を抱いているようだ。まぁそちら側の人間ならば当然の反応か。だが、これでいよいよ本題に入れる。
私は岡部倫太郎に向き直りその目を真っ直ぐに見つめる。
「さて、それでは私の質問に答えてもらおうか」
私の雰囲気が変わったことに気付いたのか、岡部倫太郎の表情も強張る。ふん。そんな真面目な顔もできるのか。
「私は回りくどいのは嫌いでな。単刀直入に言う。貴様は何者だ?」
そう言うと僅かな躊躇いの後、岡部倫太郎はさっきまでのふざけた表情を見せた。なるほど、これはコイツにとっての仮面といったところか。
「……ふっ。何を聞いてくるかと思えば。言っただろう。我は狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真だと」
そう言う岡部倫太郎の顔はふざけているが、真剣な表情が見え隠れしている。どうやら誤魔化したいほどのことらしいな。だが、そんな誤魔化しがこの闇の福音に通用すると思うな。
私は表情一つ変えずに再び問う。
「答えろ岡部倫太郎。貴様は何者だ?」
再度の問いかけで岡部倫太郎は私の意図を理解したようだ。誤魔化しなど効かないというな。
「……………………………」
奴からの答えは返ってこない。深く沈黙している。そんな岡部倫太郎を横目に私は更に続ける。
「お前は魔法を知らないと言った。それはさっきの一件で事実だとわかった。だが、お前はただの一般人とも思えん。何故かって?お前のその目だ。森で会った時、お前はこの私でさえも未だ見たことがない表情をしていた。まるで圧倒的な絶望の中でさ迷っているかのような表情だった。私はその理由を知りたい。だからもう一度問う。岡部倫太郎、お前は何者だ?」
私は視線を目の前で沈黙している男に戻す。その顔からは何を考えているのかわからない。互いに無言のまま時間が流れる。誰も動きを見せない現在のこの様子は、この部屋の時間が止まったのではないかという錯覚すら覚える。そんな空間に終止符を打つかのごとく岡部倫太郎が口を開く。
「聞いてどうする?」
その短い一言が部屋に響く。その短さとは裏腹に重みのある言葉だ。
理由か。そんなもの決まっているだろ。
「私はな、退屈なんだよ岡部倫太郎。老いることもなければ死ぬこともない…これだけ長い時を生きているというのに私の周りは変わり映えしない日常。毎日くだらん学校になど行かされ何度も同じことを聞き流す。それを拒否することも叶わん。まるで生き殺しだとは思わないか?そんな私の前に興味深い奴が現れた。これだけ言えばわかるだろ?」
そう。詰まるところ、私の退屈しのぎの玩具になってもらおうというわけだ。自分勝手?ククク…当たり前じゃないか。なんせこの私は"悪い魔法使い"なのだからな。まぁそれだけではないのだがな…。
私の発言をどう受け止めたのか、岡部倫太郎は神妙な様子でこっちを見てきた。そして少しの間を挟んでこう言った。
「俺はこの時間軸の人間じゃない」
その表情は何処か自虐的な笑いを含んでいる。何かを回想し後悔しているようにも見えるが、一体何を思っているのかまではわからない。さっきまでのふざけた顔はどこにもない。まるで別人になったかのようだ。本当に底が見えない男だ。
この言葉がどういう意味を持っているのか知らないが、その重さはわかる。ましてや嘘偽りのはずがない。
「それはどういう意味なんだ?」
気付けば聞き返していた。奴の話をもっと聞いてみたい、そんな思いがあったのかもしれんな。恒久の時を生きる吸血鬼ですら未だ未知の領域。それは一体何を意味しているのだろうな…。
「タイムトラベラー。そう言えばわかりやすいか?俺は2010年から来た…いや、2010年から逆戻ったということか」
岡部倫太郎はそう言って自虐の笑みを強めた。その表情を見て確信したぞ。コイツはとんでもない重荷を背負っている。想像すらできないほどの重荷を。
「ほう。そうだったのか」
そんな考えを隠すように私は軽く言葉を返す。それに対し、岡部倫太郎は意外そうな表情でこちらに視線を向けてきた。
「驚かないのか…?」
「ああ。お前の他にも時を超えてきた人間を知っているのでな」
超鈴音。奴も未来から時を遡行してきたと言っていた。
…なるほど、自分で言ってわかったぞ。
この岡部倫太郎という男の目…時折見せる超鈴音の目つきと似ている。何かを背負い、絶望に打たれながらも進んで行く者の目だ。超鈴音に感じた背負うもの、そして岡部倫太郎に感じた背負うもの。こいつらはおそらく未来で起こった、過去で起こるであろう全てを背負っている。とても一人の人間が背負う量ではないというものを。だからこの2人は根本的に同じ世界を見ているのだろう。
だが、この岡部倫太郎には超鈴音に無い何かを感じる。それが何かはわからない。だが、行く行くはその違いが両者に大きな壁を生み出すような気がする。いや…やめておこう。ちまちまと人間の心理考察をするなど私らしくもない。
「ジョン・タイターか?」
何か思い入れのある名前なのか、岡部倫太郎は意味深に聞いてきたが生憎そんな名前は聞いたことがない。その様子だとコイツは超のことは知らないようだな。
「いや違うな。私のクラスにいる生徒だ。気になるなら教えてやらんこともないが」
と、奴の胸中を探るように言ってみたが岡部倫太郎は意外な反応を見せた。
「いや…いい」
てっきり多かれ少なかれ興味を持つと思っていたのだが…。考え深く顎に手をあてているその姿は何かを恐れているようにも見える。
「ふむ。結局お前は未来の人間だったのか。私の予想ではまた異世界から来たとかいう奴が増えるかと思っていたのだがな。状況も似ているが、まあ違ったようだ」
「…また?」
私の呟きに引っかかるものを感じたのか、岡部倫太郎は静かに聞き返してきた。
「ん?知らんのか?魔法世界では結構有名に…って、そうか。未来人と言えどもお前はそちら側の人間だったか」
つい忘れていたがコイツは魔法を知らなかったんだな。超とは違い純粋に科学の力だけで時を遡ったということか。
「まあお前にとっては驚くことかもしれんが、この世界には魔法使いが多く住む世界。魔法世界というものがあるのだ」
とりあえず一応の説明をしてやることにしたが、岡部倫太郎の顔には疑問が大量に浮かんでいる。青白い顔でダイバーなんちゃらがどうのこうのとか呟いているが大丈夫なのか?
「…なんというメルヘン…。機関め、ついに血迷ったか!はやりこの鳳凰院凶真が世界の支配構造を変えなくてはならないようだな!」
気力の無い顔をしていると思ったらまた変な芝居を始めた。うむ、打たれ弱そうだと思っていたがコイツ結構タフだな。
「その異世界から来たとかいう少女も、おそらく機関のエージェント…!この鳳凰院凶真が降臨するのを予期して刺客を送り込んでいたというわけか」
「いや、そいつは男だ。ちなみに機関のエージェントでもないぞ」
楽しそうなとこ悪いがきっちり修正させてもらう。岡部倫太郎は出鼻をくじかれたように不満気な表情だ。ククク、さっきまでのお返しだ。
「…厨二少女め!いちいち揚げ足を取るのではないっ!」
「知らん。貴様の発言を補足してやっただけだ」
「ぐぬぅ…ま、まぁいいだろう。この鳳凰院凶真の寛大さに感謝するのだな!フゥーハハハハハハ!」
そう高笑いする奴の顔はさっきまでと相変わらずだ。やはりこの鳳凰院凶真とかいう芝居は奴にとって仮面以上の意味があるらしい。単なる厨二病かとも思ったがどうやらそれだけではないようだ。まぁ、もともとの本人が厨二病なのは確定的だが。
「でだ、厨二少女よ。その異世界の男と状況が似ているとはどういうことなのだ?」
ひとしきり騒いだ後、岡部倫太郎は改まって問い返してきた。ふむ、どうやら多少は気になっているようだな。
「いやなに、そいつもお前と同じように突然現れたらしくてな。あれは確か6年前だったか。魔法世界では"骸殻のクルスニク"という異名で有名になっている」
「ほう。なぜそれほど有名になっているんだ?」
「私も詳細は知らないが、噂になっているのだ。なんでも紛争地域に必ず現れるらしくてな。一部では紛争を起こす死神だとか言われている。異世界の人間…3種類のアーティファクト…未知の力…悪魔のような姿…完全なる世界の刺客…正直どこまでが本当のことかはわからん」
はっきり言って奴の情報を集めるのはお手上げだった。いくら茶々丸に調べさせても大したことはわからなかった。出生はおろか奴に関わる全ての情報があいまいな噂話ばかり。本当に死神なのではないかと疑うほどだ。この岡部倫太郎ならもしや…とも思ったがどうやら知らんようだしな。
「随分と詳しいではないか。何かその男に思うところでもあるのか?」
と、岡部倫太郎は探るような視線を送ってきた。思うところか…。
それはたった一つの懸念だけだ。これまた噂話だが、骸殻のクルスニクはネギ・スプリングフィールドと何らかの接点があるらしい。まぁネギ・スプリングフィールドの立場を考えれば護衛役と言ったところだろう。もしそれが本当ならば私にとっては甚だ都合が悪い。奴が護衛役としてネギ・スプリングフィールドと共にこの摩帆良に来たら確実に私の邪魔をするだろう。ようやくこの忌々しい呪縛から逃れられるかもしれんのだ。邪魔などさせるわけにはいかない。
「…私の計画に関係してくるかもしれないのでな」
思わず愚痴を小さく呟いたが岡部倫太郎には聞こえていないようだ。
「ん?何か言ったか厨二少女よ?」
「いや。何でもない」
私は何事もないように答え窓の外に視線を向ける。そこには暗闇に浮かぶ星たちの輝きが満ちていた。星の並びだけは何年経っても変わらんな。他のものはみんな例外なく変わっていってしまうというのに。いや…そもそもこれは虚構の星空か…。そう考えるとなんとも空しいな。
私は夜空を見上げたまま暫し思考の海に潜る。
そんな私を見て何を思ったのか、白衣の男は少し口調を変えて尋ねてきた。
「…何百年も生きてきた吸血鬼というのは本当なんだよな?」
ふっ…。一体なにを聞いてくるのかと思えばそんなことか。
「ああ」
私は顔を岡部倫太郎へと戻す。そこには真面目な顔つきの奴がいた。全く…急にふざけたり真面目になったりと忙しい奴だな。
「…寂しいと思うことはないのか?」
寂しい、か…。生憎そんな気持ちはとうに消えている。あったとしてもとっくの昔のことだ。今の私には関係のないことだ。
「ないな」
自分でも思い切りがいいくらいの即答だった。
「…そうか」
それだけ言って岡部倫太郎はどこか悲しげな表情を見せた。隠しているようだが私には丸見えだぞ。全く、コイツは何でこんな表情をしているのか。もしかしてこの私を気使ってでもいるのか?だとすれば不要なことだ。
「さて、話は終わりだ。私はもう休ませてもらうぞ」
そう言って窓枠から降りて部屋の入口へと向かう。すれ違う瞬間、奴が何か複雑な顔をしていたが見て見ぬ振りをしてそのまま通り過ぎた。
そして扉を開けて部屋を出ようとした時、奴が静かに声をかけてきた。
「最後に一つ言いたいことがある」
「何だ?」
私は振り向かずに立ち止まる。一体何を言ってくるのやら。
「貴様はこの鳳凰院凶真の部下ダークネス・へヴン。部下の管理も世界を混沌へと導くには必要なことだ。よってダークネス・へヴンよ!何か悩みがある時はこの狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真に相談するがいい!どんなにあがこうと貴様は部下であるという運命から逃れることなどできないのだからな!フゥーハハハハハハ!!」
背後に奴の笑い声が響く。見なくても岡部倫太郎の様子はわかる。きっとさっきみたいにふざけたポーズで叫んでいるのだろう。
「ふっ。全くお節介な奴だ」
私は振り向かないまま扉を閉める。
その時零した笑みを見られないように。
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Divergence:0.571046
どれだけの世界線を越えただろうか。
もう覚えていない。
どれだけの過去改変を行っただろうか。
もう覚えていない。
どれだけまゆりの死を見てきただろうか。
もう覚えていない。
「やっと…オカリンの役に立てたね…」
それが今回聞いたまゆりの最期の言葉だった。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
まゆりが、また死んだ。
今度は俺を庇って死んだ。
なんでまゆりの死を改変しないかだって?
改変できるならとっくにしているさ。
だが、そうなれば紅莉栖が死ぬ。
笑えるだろ?
世界はまゆりを殺すだけでは飽き足らず、この俺にまゆりか紅莉栖を選べと言ってきた。
ふざけている。もう、どうやってもまゆりは助けられない。良くわかった。
世界がまゆりの死を望んでいる。
世界がまゆりを殺す。
それがはっきりとわかった。
俺が足掻く度に、世界は楽しんでいる。
今回はどうやってまゆりを殺そうか、と。
まるで絶対に自分たちが勝つとわかっているゲームのように。
世界が、まゆりを殺すんだ。
運命という絶対的な力で。
だから俺は決めた。
世界がまゆりを殺すなら
「俺が世界を殺す」
どんな手段を使おうとも。
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