それではどうぞ。
何時もの事ながら一誠と一緒に遊んでいるといきなりリヴァイヤさんが出てきた。今までにない真剣な顔をしている。
「主様。只今極龍神殿の外、東の森で賊の侵入を確認しました」
唐突な敵襲の知らせ。一誠を不安がらせ無い為か、僕にしか聞こえない声で話しかけてきた。何とも出来た執事である、さすがリヴァイヤさん。
「...捨て置け...森には、あの子達が.....いる...」
何時かは来ると思っていたが僕の予想より少し早すぎな気もする。敵は森に住んでいる
「ではその様に。念のために私も行って参りますゆえしばらくの不便。ご容赦ください」
「許す...行って、来い...」
「どうしたの?」
リヴァイヤさんの真剣な顔を見て何かあったことを察し、一誠は不安げな顔で僕を見てくる。リヴァイヤさん、これからはもう少し穏やかな顔でお願いします。
何とかして誤魔化そうとしたがそれも直ぐに失敗に終わった。
「...何でもな「ドゴォォォォン!!」一誠...遊ぶのは、終わり...今から、一誠.....家に送る...」
一誠には気づかれる前に元の世界に帰したかったがそうも言ってられず、もう戦いが始まってしまっていた。僕は一誠の手を取ると神殿に向かって走り出す。転移もやろうと思えば出来るのだが一度に出来る人数が一人であり、能力を作り直すにしても集中力とそれなりの時間が要るためすぐに諦めた。
「神龍! どうしたの!? 何があったの?!」
一誠の言葉を無視し走り続ける。東から妖精が三匹、こちらに向かって飛んで来た。一応戦闘中なのだが三匹ともめちゃくちゃ良い笑顔である。
「
「血祭りにしたです!」
「なぶり殺しです!」
戦隊物のヒーローがやりそうなポーズをとりながら現状を報告してくる妖精さん。妖精さんや、もうちょっと言葉を選んでくれないか。一誠が怯えているじゃないか。握っている手をより一層強く握ると僕は走りながら素早く妖精達に指示を出した。
「...そのまま、続行...私は友を...神殿から逃がす...」
「承知しました!」
「合点です!」
「Yes, Your Majesty!」
三匹の妖精は再び戦場へと帰っていった。
この後も何度か一誠が駄々をこねたが最後には黙って走ってくれた。しばらく走っていると神殿の入り口に辿り着く。しかし背中に黒い翼を生やした優男が入り口に立ち、僕達の行く手を阻む。
「...やっと...やっと会えた。奏くん!」
なんだこいつ。まるで恋する乙女のような顔で僕に熱い視線を送ってくる。確かに女装はしてるが僕にそんな趣味は無い。
こいつはやばいと言う僕の心に従い一誠を後ろにして庇う様に立つ。
「...何者だ、貴様...」
「あぁ、こんな姿じゃ分かんないよね。ちょっと待って、今魔法解くから」
優男はそう言うと何やら詠唱を始め、姿が変わっていく。優男から可憐な美少女に変わったその姿に僕は思わず目を見開いた。綺麗だからとか、可愛いとかじゃない。僕の目の前にいる女性はこの世界にいる筈の無い存在だからだ。
すらっと伸びた背丈、長い髪は腰のあたりで留められており、攻撃的な釣り目は依然として僕に熱い視線を送ってくる。間違いないこいつは―――
「...琴音」
―――琴音が墜天使? 何でこの場所に入れた? いや今はそんな事は関係ない問題は僕が転生前にいた世界にいる僕の幼馴染がいるという事だ。
「何故ってぇ。奏くんが悪いんだよ? 今度はどんな風に襲おうか考えていたら勝手に死んじゃうんだもん。だから私も自殺したら何か訳の分からない奴にね、色々力貰って転生? って言うのかな? してもらったのよ。どう? 今の私。また可愛くなった? なったよねぇ? あはははは!!」
忘れかけていた記憶が一気に蘇った。息が次第に荒くなり、体中から汗があふれ出てくる。
琴音は十二枚六対の漆黒の翼をはためかせながら両手を広げ、クルクルと踊るように回っていた。それを見ていると僕の顔が自然と歪む。
「...お前は、狂っている...」
「そう私は狂ってる。貴方の為なら何だって出来るの。なのに奏くんは何で私から離れるの? ねぇ何で? 答えてよ!」
琴音は手を前に突き出し、大きな魔力の塊を放った。
「うわぁ!」
「くそ!」
すんでの所でドーム型の障壁を張り放たれた魔力の塊を防いだ。しかし琴音は口角を吊り上げると今度は奏の周りに幾つもの魔方陣を展開し一斉に放つ。
「さっすが神様! こんな魔法じゃビクともしない。私も本当はね奏くんと同じ神様になりたかったの。なのにあのクソじじい、私じゃどう足掻いてもなれないだって? だから力貰って転生する時に殺しちゃった。まぁその話はどうでもいいかぁ、こうして奏くんと会えたんだし。おっとこっちの世界では神龍様か。あはははは!!」
気持ち悪い。攻撃を防いでいると自分の体が震えているのが分かった。あの時の事が頭の中をよぎり心を乱す。
「あはぁ!」
何時の間に! 琴音は一瞬の内に奏の背後に回り、腰に下げた剣を鞘から引き抜く。
「私たちの再会の時に部外者がいちゃいけないよね?」
「―――ッ! っしま!」
琴音の攻撃が障壁を貫き一誠を捉えた。障壁も魔法も間に合わない! このままじゃ一誠が! 僕は頭より先に身体が動いた。僕は一誠の襟首を掴むと後ろに投げる。
ザクッ!
「あらら。あっちゃった」
気づけば琴音の驚いた顔が目の前にあった。何でだろう、体が思うように動かない。―――そうか、僕は...。
「ねぇ。そんなにあの子供が大事なの?」
大事な友達だ! 出そうとした言葉が出ず、吐血してしまう。あの時と同じ...抗っても、抗っても何時も琴音に負ける。守りたいものも守れず、全てが琴音に壊されていく。嫌な感じだ、本当に。
「まあでもこれで私たちは一緒ね」
奏の体に突き刺さっていた剣を勢いよく引き抜き、刀身に滴っている血を舐める。僕は体に力が入らずその場に倒れてしまった。地面の色は一面真っ赤に染まる。
「
わざとらしくそう言うと何処からか紫色に光る宝石を取り出す。
「い、一誠」
「神龍!」
僕は気力を振り絞って転移の魔法で一誠を逃がそうとするが琴音はそれを見逃さなかった。
「奏くん死んだとはいえ私から逃げたでしょう? だ・か・ら、これはお仕置き。あははは!!」
眩い光を放ちながら宝石が一つの青く、それでいて神秘的に輝く指輪へと変貌を遂げた。それを琴音は狂喜に満ちた表情で眺めている。
「ッ!! 貴様!」
奏は焦っていた。神である奏は並外れた治癒能力を生まれ持っており、通常なら刺し傷なんかは瞬時に治る筈なのだが幾ら待っても治らない、いや詳しくは治りかけていたがあの宝石の光を発した途端止まってしまったのだ。
「幾ら神様に転生したからって慢心しちゃだめだよねぇ奏くん? じゃないとこうして寝首を掻かれるよ」
「神龍にひどいことするな!」
一誠は倒れた奏の前に両手を開き琴音を睨む。しかし人間、ましては子供である一誠が堕天使である琴音に勝てるわけも無く。その事はここにいる全員が分かっている。それでも奏を守ろうとする一誠の姿が奏には勇ましく見えた。
僕は無力だ。また負けてしまった、何も出来なかった。また...守れなかった...。
「ったく面倒くさい子。折角機嫌が良いから殺さないであげようと思ったのに。ざーんねん」
指輪を左手の薬指をはめると地面に突き刺した剣を乱暴に抜き、一誠の体に...。
「何時もお前の思いどうりにいくと思うなよ!」