一誠に刺さる筈だった剣先を掴み横に往なすと琴音の鳩尾に目掛けて思いっきり膝蹴りを食らわした。弱っているとは言え腐っても神。その一撃ともなると想像絶する苦痛だろう。
「うぐ!」
たまらずその場に蹲る。その隙に奏は一誠の手を取り神殿へと走りこみ、壁に刻まれた魔方陣に魔力を流す。するとドーム状の膜のような物が神殿を覆った。
何かおかしい。この魔方陣を作った時はもっと障壁が厚く展開するように考えたのに何故か障壁が全体的に不恰好。と言うかボロボロだ。所々ひびが入っているし厚さもバラバラ困難じゃ精々数分しか時間を稼ぐことしか出来ない。
結界を見て舌打ちすると振り返り、血まみれの手で一誠の手を掴んで宝物庫に目指した。
「神龍大丈夫?」
「大丈夫に...見える?」
さっきから何度も回復魔法を使っているのだがどうも魔力が不安定で上手く発動しない。多分あの時琴音に力を抜き取られたのが原因だ。だから発動した結界が上手く出来なかったんだろう。
廊下を血で汚しながら
僕がなぜ宝物庫に向っていたのかと言うと、この神殿の中で一番頑丈に作られているからである。
一誠を逃がす前に結界を破られてしまえばもう打つ手が無くなる。だから一番頑丈な宝物庫に篭ると言う訳だ。それに宝物庫に収めてある物が盗まれでもしたら色々とまずいことになるからでもある。具体的に言えば地球滅亡とか......。っと言うかさっき刺された腹がめちゃくちゃ痛い。あの陰湿ストーカー女め。
宝物庫に着いた奏は一誠の肩を放し扉の前に立ち、解除の呪文を唱える。
「一誠...早く此処に、入る」
そして開くと同時に一誠の背中を思いっきり突き飛ばすと自分も入り素早く扉を閉じ再び鍵を閉める、そして奏はとうとう力尽き、その場に倒れてしまった。
やばい。視界が霞んで間の前が全く見えない。さっきから何回か魔術を使おうとしているがやはり発動しなかった。頑張ってもあと一回か二回使うのが限界だろう。早くしないと出血で死んでしまいそうだ。
「神龍!」
倒れた神龍に慌てて近づく一誠。しかしどうすればいいかわからずただただ奏の名前を呼ぶことしかできなかった。
ここまで着くのに奏だけなら容易に行けただろう。ならなぜこんなにも傷ついているのか? それは一誠がいるからだ。それを一番分かっている一誠は、余りに無力な自分に苛立ちを覚えた。
「ごめんよ...ごめんよ神龍......」
とうとう泣いてしまった。どうしたものか......うん。よし、覚悟を決めるか。
崩れないように慎重に魔方陣を構築していく。いきなりの事に一誠は混乱していたが中断するわけにもいかず、魔力の流れを調節しながら一誠に最後の別れを告げた。
「い、っせい、今から、はぁ...お前を元の、世界に戻す......」
「そんな! 神龍は、神龍はどうするだよ!? またあいつと戦ったら死んじゃうよ! そんなの嫌だ! 神龍が逃げないなら僕も「愚か、者」...え?」
正義感の強い一誠はそう言うかと思ったよ。でももう時間が無い、一誠には悪いが是が非でも帰ってもらう。じゃないと
「お前が、いた、ところで...何の...はぁはぁ、役にも立たない......いい加減自覚しろ」
「ッ!! でも...」
「一誠......お前は我の...いや、僕のたった一人の親友だ」
もう...いいだろう。
何時もの無表情ではなくありのままの自分で話した。少し驚いてはいたが泣きながらであるが首を縦に振ってくれた。丁度、魔法の構築も完了した。
「いつか必ず助けに行く! だから待っていて神龍! 絶対強くなって帰ってくるから!」
「そうか...うん、ずっと待ってる」
そういって一誠に微笑みかけると何も無いところからクリスタルのペンダントを取り出した。
「いつか本当に一誠が強くなった時これが僕の所に行く道しるべになってくれるはず」
それを消えかけの一誠の首に掛けて上げる。一誠が何か言おうとしたがそれを口にする前に元の世界へと返って言った。
それと同時に神殿内が強い衝撃で左右に揺れる。
「カァァァァァナァァァァァデェェェェェッッ!!!」
結界が破られた。もうすぐここにもあいつが来るだろう。
しかし僕にはまだやるべき事がある。それは自分自身の封印だと自分の能力を子供達に託すことだ。
僕がいない間もあいつはこの世界にあり続ける。今は僕を自分の物にする事で頭がいっぱいだがいずれあいつは世界に牙を向けるかもしれない。その時に子供達が自分自身で世界を守れるように僕は駄神から貰った力を
「ついでに、この、宝物庫にある...物も、一緒に封印、しよう」
正直何時意識を失ってもおかしくない。先程からどばどば血が垂れ流したおかげでもう頭がくらくら所々体が痛い。早く終わらせよう。
這うように宝物庫の中心に行くと深く深呼吸をしそっと床に手を着いた。
「...ごめん、なさい。みんな......ごめんな、さいリヴァイ、ヤさん、オー、フィス...ついで、にグレート、レッドも...。早く、早く我を、助け、に来てくれ......一誠」
ドンッ!! ドォンッ!!
頬に一筋の雫が滴る。その姿はまるで一枚の絵画のように幻想的で美しかった。
宝物庫にあった武具の数々は光となって奏の中に消え、今度は奏の体から三つの大きな光が壁をすり抜け何処かに消えてしまった。それに伴う底知れない疲労感が奏を襲う。しかし、奏は止めない。徐々につま先から透き通ったクリスタルで覆われていく。
今度から能力の使い方をちゃんと練習しておこう......そう、いえばあの駄神には...悪い事、して...しま......。
やがて大きなクリスタルが奏を覆いつくした。
ドォォォォンッ!!!
「みぃぃぃつけた!! 奏く~ん」
一歩遅く琴音の目の前にはクリスタルに覆われた奏が見えた。
「奏くん? 何でそんなとこにいるの? ねぇ奏くん? 奏くんってば!」
魔力の塊をクリスタルにぶつける。しかし、ひび一つ入らなかった。
「くそ! 奏くん! 早く出てきてよ! 奏くん! 」
何度も何度もぶつけるがやはりビクともしなかった。
「何がいけなかったの!? 私はこんなにも貴方の事を愛しているのに、何で奏くんは私の事を拒み続けるの?
何で? 何で? ねぇ、何でよッ!!!」
「ファルクス様。森に出向いていた神龍様の従者が神殿の異変に気づきました。また南からオーフィスの姿も捉えました、そろそろ撤退を」
背後から現れた部下を睨むともう一度クリスタルの中で眠っている奏を見る。
「......お前は先に行け、私は少ししてから撤退する」
「承知しました」
部下がいなくなるとまるでゾンビのような足取りでクリスタルの前に跪いた。
「死んでも愛したのに。奏くんは私から逃げるのね......わかった。今度目を覚ました時はもう容赦しないんだから」
そう言うと琴音は再び男に化け、消えていった。
奏が無意識に生み出した様々な幻想獣を率いたリヴァイヤと
「ば、バカな......何だこいつらは。ユニコーンにドラゴンだと! あり得ない! 聞いてないぞこんな奴らがいるなんて......まさか! 我らを騙したと言うのか! ファルクスゥゥゥッ!!」
指揮官らしき悪魔を屠ると敵の陣形が崩れていった。しかしリヴァイヤ達は攻撃をやめようとしない。それは何故か? 答えは神龍を狙ったからだ。
「我らが母を狙った罪貴様ら全員の命で償ってもらおう!」
「然り! 母親を狙われて何もせぬ子などおらぬわ!」
「ちょっとそれ私の獲物!」
―――そろそろ終わりか。
主であり母である神龍と別れてから森に行きそこで戦っている者達の指揮を執っていた。
結果は圧勝。正直言って指揮など不要だった気がする。単純にここにいる者もあるが主が関わっているのがいるのが大きいだろう。全員が見たこと無いほど怒り狂っている。おかげで予定より早くに片付きそうだ。
「ふむ......もう終戦ですか...」
木の上から戦いを傍観しながらそう呟いた。
「リヴァイヤ殿!」
九本の尻尾を揺らしながら少女がリヴァイヤの隣に飛んで来た。
その顔は何故か涙で濡れていた。
「どうかしましたかな?」
「大変でございます! 先程から母君様の魔力が安定せずしばらく観察していた所、今さっき母君様の、母君様の魔力が消失しました!!」
「何ですと! 消失したのは何時ごろですか!」
「ほんの一分前でございます!」
――ぬかった!
自分の持つ全ての力を振り絞って神殿へと戻った。
考えていなかった訳でもない。だから出来るだけ早くに決着がつくよう私自ら指揮を執りに森まで出向いてきたのだ。しかし、万が一にでも主様が負けることは無いだろうと高をくくってしまい、主様の事を完全に疎かにしてしまった。
「このリヴァイヤ一生の不覚! どうか...どうかご無事で!!」
見つけておいた次元の裂目で元の世界に撤退しようとした時突然琴音の足が止まった。
「そう言えばオーフィスもこっちに向ってるって言ってたよね?」
「はい。もうすぐ神殿に到着する頃かと」
「ふ~ん。.........なるほどねぇ~」
「如何しましたか?」
何か企んでいそうな顔をしているファルクスに相変わらずの無表情でアイリスが尋ねた。そうするとファルクスが。
「あの奏くんから貰った力が早速役に立ってもらおうと思ってね」
身体が光で包まれ。長身の男から一誠の姿に変わった。
「奏が悪いんだよ? 仕返しに奏くんから貰った力でぜ~んぶ壊して上げる...」
アイリスに待っていてと告げるとまた神殿の方に向って飛んでいった。