あいとゆうきのがっこうぐらし!   作:まねきねこ

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ようやく原作を読みました。アレで書くのは無理です、ヤバいです。


「こくはく」

結局昨晩は胡桃を慰める事も出来ずに眠りにつくことになった。夜中の不意打ちに警戒するため、武は皆とは少し離れた場所で寝られるよう簡単に手配していた。と言っても大したことではなく、単に男女別々で寝るべきだと進言しただけなのだが。

そして早朝、由紀以外の全員で昨夜のプランを検討する流れになった。

 

「確かに、何時までもここには居られないけれど……。少し早過ぎないかしら?」

 

やはり不安なのだろう。加えて、生徒を危険に晒すのにも抵抗があるのか、佐倉先生がやんわりと制止してきた。武自身も性急過ぎる気もしないではないが、ここは拙速を尊ぶべきところだと思っている。

 

「少なくとも俺のコンディションに問題はありません。今は一刻も早く拠点を確保して、安定した生活を送れるようにすべきです。ここで休んでも食糧や天候、設備の問題なんかで頭を悩ませてしまいそうなので、身体を動かした方が精神的にも楽だと思います」

 

「そうだぜめぐねえ。ここでウダウダしてたって不安になるだけだ。案ずるより産むが易しって言うだろ?」

 

「でも、恵飛須沢さんは……。それに、白銀君にしたってその……ああいうのは初めてでしょう? やっぱり落ち着いてからの方が良いんじゃないかしら」

 

「今はそう悠長に構えていられる余裕はありません。こっちの精神的な負担も大きいですし、彼奴らはドンドン増えていきます。

向こうが数を揃える前にせめて3階は確保しないと、この先かなり厳しくなります。俺は、ここが踏ん張りどころだと思います」

 

佐倉先生は頑なに延期を主張するが、武はここで攻め所だと考えていた。というより、ここでもたついていてはこの先やっていけなくなる。ゾンビは増える一方、こちらは物資と精神を消費する一方では、そう遠くないうちに手が出せなくなる。そうなる前に、行動をしなければならない。

 

「――若狭さんも、それでいいの?」

 

「はい。遅過ぎるよりはいいと思います」

 

この2人は昨日のうちに説得済みだ。由紀はこの会話に参加していない。佐倉先生は性格上、大人数に反対されてでも自分の案を押し通すような事はない。武はそう判断した。

 

「……わかったわ。でも、くれぐれも慎重にね?」

 

「勿論です。命には代えられないですから」

 

予想通り、彼女を説得する事が出来た。理詰めで人の行動を誘導するというのには抵抗感を覚えるが、今はそのような事を気にかけている場合ではない。

 

「そう言えば、奥に居るあの子は良いんですか⁇」

 

「由紀さんは……。かなり、疲れているみたいだから。でも自己紹介くらいはしないといけないわよね」

 

そう。昨晩は佐倉先生が面倒を見ていたのもあって、武と由紀は未だお互いの名前すら知らなかったのだ。彼女がふさぎ込んでいるのはわかっているので、なるべくフォローしたいとは思っていた。

 

「じゃあちょっと済ませてきます」

 

「いいけど……余り刺激しないであげてね?」

 

と言っても、何も武と由紀の2人っきりで挨拶をする訳ではない。佐倉先生も付き添いである以上、変な事は言えない。

 

「丈槍さん? 今、大丈夫かしら?」

 

「めぐねえ……?」

 

こくりと頷く。彼女も何の用かは大体把握出来ているのだろう。ちらりと視線を武の方へ向ける。

 

「初めまして、俺は白銀武。白陵柊ってとこの3年だ。――君の名前は?」

 

「……丈槍由紀です。3-C組」

 

「そっか、よろしくな由紀‼︎ あ、由紀で良かったか?」

 

武の威勢のいい声に驚いたのは佐倉先生だった。少し離れた所にいる胡桃や悠里も驚いてはいたが。しかし由紀は微かに顔を上げて頷くと、またすぐに俯いてしまう。

 

「(やっぱかなりキテるんだろうな……。そういや、『前の世界』で会った純夏も最初は大変だったな)」

 

当時の鑑純夏は、精神的に大変不安定な状況だった。それこそ、あの夕呼すら手を焼くレベルだ。それに比べれば幾分かではあるがマシな状況だと思い、めげずに由紀に声をかける。

 

「うっし、じゃあほら、握手だ。これから友達として、仲良くしような」

 

武が笑って手を差し出すが、由紀はそれに応じなかった。

 

「ゆ、由紀さん?」

 

それに反応したのは佐倉先生だ。彼女としては、こんなところで無用な争いが起きて欲しくない上、由紀の状況を鑑みて今すぐ武のペースに着いていくのは無理があると感じていた。それ故に、なるべく穏便に済ませるべくヒヤヒヤしながらフォローをしようとする。

 

「あちゃ〜……。気が向いたら頼むな」

 

もっとも、武とて今無理に距離を縮めたい訳でもない。きっかけを用意したかっただけだ。今後この学校で生活する以上、彼女の存在を無視するわけにもいかない。その際に距離を縮め易くするのが目的である。

 

ひとまず由紀から離れ、胡桃達に合流すると開口一番に告げる。

 

「さて、始めるとするか」

 

「わかった。そんじゃめぐねえ、りーさん頼むぜ?」

 

制圧作戦の内容は単純なものになった。武と胡桃の2人が先行して階段周辺を確保。その後後続の3人が机と椅子によるバリケードを2階と3階を繋ぐ部分に構築。その後、周辺を順に制圧していき、最終的には全ての階段を封鎖する予定だ。

 

「気を付けてね……?」

 

「大丈夫だって。心配し過ぎだよめぐねえ」

 

悠里と佐倉先生は不安そうな顔だが、武と胡桃は譲らない。というより、ここで譲歩するわけにはいかないのである。

 

「それじゃあ、俺が先に行く。恵飛須沢さんは着いて来てくれ」

 

「わかった。無理ならさっさと交代しろよ? 何なら私1人でも――」

 

「前に話しただろ? 俺だって腕っぷしには自信あるし大丈夫だって」

 

シャベル片手にひらひらと手を振って答える。戦術機程ではないが、軍人として一通り訓練を受けた武にしてみればあのように鈍い相手などに怯える必要はない。あれよりも大きく、遥かに素早い兵士級(ソルジャー級)などに比べれば、警戒もずっと楽だ。

 

「じゃ、行くか‼︎」

 

まるで遠足にでも行くかのように、武は高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恵飛須沢胡桃にとって、白銀武は奇妙な存在だった。彼の話は一々荒唐無稽であり、正直なところ胡桃は微塵も信じていなかった。加えて、彼の体躯は高校生のそれとは思えぬほどしっかりしており、普通の学生でない事は容易に想像出来た。

しかしながら、彼が自分を助けようとしてくれていた点、明るくて何か惹かれる物を持つ点から完全に疑う事も出来ない。結果的によくわからない存在になっている。

 

「(つっても、流石に先陣は無茶だろ)」

 

彼女は、彼奴らを未だゾンビとは認められない。だからこそ、彼奴らを倒すのは『殺す』のと同義であると感じていた。

並の人間に人殺しは出来ない。自分は経験者だが、果たして武は彼奴らを殺せるのだろうかと内心疑ってさえいた。

 

――その結果は、胡桃の想像を遥かに凌駕するものであった。

 

「ぅおおおおおっ……‼︎」

 

至極冷静に、しかし確実に。圧倒的な実力で彼奴らを薙ぎ倒す。胡桃の出番さえない、心配されるのはこちら側なのだと実感せずにはいられない。

危うさなどまるでなく、さも当然のように彼奴らの頭をシャベルで砕く。近寄られれば蹴り倒し、シャベルでトドメを刺す。時には真っ向から蹴りで窓ガラスを突き破り下へ落とす。

――デタラメだ。開始から僅か1時間で、3階にいたであろう彼奴らはその数を激減させている。それも、胡桃は1〜2体しか倒していない。それも、武によってお膳立てされた状況でのみである。

 

「(何なんだ、こいつは……⁉︎)」

 

とてもではないが普通の高校生ではない。曲がりなりにも人殺しを行っていながら、あの冷静さとあの強さは最早何かしらの秘密があるとしか考えられない。精神的にも、肉体的にも、彼はタフ過ぎるのだ。

 

「ラスト‼︎」

 

結局、胡桃は独力で彼奴らを倒す事はなかった。圧倒的な武の力を目にして、棒立ちしていたに等しいくらいだ。

 

「ふうぅ……。キッツいなこれ」

 

そして、先ほどの大殺戮を行ってなお余力がある武に最早一同は驚愕するほかない。しかも、慣れた手つきでせっせと使えそうな机を運び、バリケードの作成を手伝っている。

 

「あ、し、白銀君? 無理せず休んでいいのよ?」

 

「大丈夫ですよ。余裕ってわけじゃないですけど、無理してるわけでもないんで」

 

佐倉先生が声をかけてくるが、武は軽く受け流してバリケードの作成を手伝う。実のところ、彼とて人型の敵、元人間を倒すのには正直なところ最初はかなり抵抗感があった。しかし、それを背後に居た女性達――胡桃や悠里達にやらせてはならないとも感じた。

 

武からしてみれば単なるゾンビでも、彼女達からすればかつての同級生や先輩後輩だ。その時に背負う負担は武の比ではないだろう。ならばと武は、その負担を真っ向から受け止めにいっていた。とはいえ、そんな負んぶに抱っこを何時までも続ける余裕も予定もないが。

 

「お前……何者だ? 幾ら腕っぷしに自信があるて言っても限度があるぞ」

 

目下の問題は武に向けられる不信感である。これまた致し方ないのだが、ここで仲違いしてしまっては由紀達の精神的なフォローをする事が出来ない。それは余りにもリスクが大きいので出来る限り避けたかった。

 

「それを説明したいのは山々なんだが、ちょっとばかし説明が面倒なんだ。つーわけで、落ち着いて話せるようになったらな」

 

「そんなんで……‼︎」

 

「まあまあ、落ち着けって。中央階段はバリケードが完成するし、北は連絡通路を閉めれば時間は稼げる。南は制圧し終えてるんだから、そこで話すよ」

 

胡桃は未だ納得していないようだが、佐倉先生と悠里の説得でどうにか了承してくれた。武自身、この事を話したらどうなるかはわからない。しかし、隠し続けることもまた不可能だろう。

なればこそ、彼は自分から秘密を明かす。少しでも、信頼を得る為に。少しでも、彼女達の力になるために。

 

生徒会室に移動し、各々が席に着く。由紀は武の要請で席を外している。最も、彼とて別に彼女を除け者にしたい訳ではない。単に精神的に負荷が大きくなり過ぎると判断してのことではある。 皆が固唾を飲んで見守るなか、武は自身の身の上話を静かに語りだす。

 

 

 

そう、『あいとゆうきのおとぎばなし』を。

 

 




グダクダで申し訳ございません。更に申し訳ないことに、現在色々と行事が立て込んでおり、今後更に更新ペースが落ちると思われます。何とか隙間を縫って進めていこうとは思っておりますが、何卒ご理解とご容赦のほどをお願い致します。

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