うちの伝説ポケモンがなんか小さいんだが   作:右肘に違和感

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やりたいように書いてます。



3話 研究所の中から脱出

 

 

頭にミニギラを乗っけて研究所をうろつく。

ニ年ほど前から殆ど自由に研究所に入っている都合上で

中の地理にはそこそこ詳しく、中でホイホイと迷う事は無いのだが……

 

いかんせん、歩くという意味ではココはやや広いのだ。

オーキドという名前がポケモン界で売れていくに連れて

部屋と、施設と、人員と。これらがどんどん集まって来る。

 

そしてそれを維持するためにはそれなりの設備が必要であり

ズンドコ広くなっていく様子は歯止めが利かないのが現状である。

 

今度オッサンとッ捕まえて『来客者が面倒じゃない構築にしろ』と伝えてみよう。

多分オーキド博士も自分の研究室から来客のために3Fの隅っこから1F来客室は面倒だろう。

 

で……エレベーターが誰かに使われていたため、面倒だが階段で上の階へ上がって行く。

んで3Fに付いてからまたテクテクと歩き出したわけだが……

 

「……ピ~~、ピィ~~」

「どうしたんだお前……いきなり怖がっちまって」

 

なんか3Fの廊下を歩いているとミニギラが脅え出した。

頭の上でカタカタ震えているのが普通にわかったので、一旦胸元で抱き寄せる形にした。

 

一度冷静になって、3Fのフロアがなんなのかを確認してみると……

 

「……そういう事、か」

 

なんでミニギラがココを怖がっているのか推察出来た。

 

 

───3Fは、実験フロアなのだ。

 

 

これは推察に過ぎないが……ココでは、(おびただ)しい数のポケモンが『犠牲』になっている。

調べるという名目上で、ガキ……世の中にまだ出て居ないレベルの青年でも

このフロアで一体何が行われているのか大体想像出来る。

 

どの様なモノに強く、どの様なモノに弱いか……これが見ただけで判れば苦労は無い。

故にそれらを理解するためには、『それら』をポケモンに与えるのが手っ取り早い。

研究費用とてタダではない、時間は待ってくれないのだ。

全てのポケモンを人道に則って扱っていれば、ポケモン事情もここまで進歩してはいない。

 

進歩した影には───それだけ積み重ねられた彼らの屍があったはずなのだ。

そしてこの3Fフロアは……世界でも実験が行われている場所において、最たる筆頭。

 

ゴース、ゴースト等に()り切れなかったポケモンの霊達が……

俺らには見えない霊達が、ミニギラには見えるのだろう。

 

そいつらの怨嗟の声は、きっと恐ろしいものなのだろう。

彼らは、彼らの都合を無視されて殺されていったのだから。

 

現代の日本でも、犬とか猫とかがいきなり何も無い方向を見つめる事が有る。

俺はそいつらの視線の先に居るのが幽霊だと昔から思っていたタイプだ。

 

ただの偶然の一致なだけかもしれないが……

コイツが怯えているのは、生まれたばかりでそれに晒されているからなのではなかろうか。

 

「ピィー……」

「はいはい、ちゃんと抱いててやるから暴れちゃ駄目だぞ」

「ミィ~……」

 

まぁ、長々と語ってしまったが……俺はそれらについては否定しない。

何故なら───所詮、どう思ったところで他人事だからだ。

 

俺がそれに納得出来ないとして研究所を何かしらの形で潰したらどうなるのか?

答えは簡単だ、ただ施設が再建されるだけだ。

俺の存在がウザッたかったら別の場所で再建されて、そちらで研究が行われる。

 

世の中は、とても単純に出来ている。

『量がモノを言う』、これが全ての基本なのだ。

たまにうちの母みたいな呂布が世の中には存在しているが

少なくとも俺はその例外に当たらない、俺が正義感を振りかざした所で何の得にもならん。

 

それなら、正義感を押さえ込んで大量の得を貰った方が気楽なのだ。

故に俺はこの世界の基本を効率良く勉強するため、ここにお邪魔させて貰っている。

 

納得しながら周りと付き合ったほうが諍いは少ないのだ。

 

 

まあ、人間全てそれで納得出来る程簡単でもないんだけどね。

小さい事だって許せない事なんぞ沢山あるから「人間」たる所以なのだから。

 

 

「まったく……お前もお前で後々強大な力を持つんだから

 こんなところで怯えてちゃ駄目だぞ、そんなんじゃお前の母ちゃん泣くぞ?」

「……~~~!」

 

【そんなの知らないやーい;】とでも言いたげに俺の目を見た後

ひしっと胸にしがみつきなおすミニギラだった……ちょっと涙目だったなぁ。

 

……ま、今は怖がっててもいいのかもしれんな。

人間誰だって最初から全て出来るわけじゃない。

ギラティナだって、生まれた時から全て出来るわけじゃないのだろう。

 

 

 

 

「……もう孵ったじゃとッ?!」

「はい……多分俺らが会話してた時点で孵化寸前だったんじゃないかなって」

「なるほどなるほど、そっちの線か」

 

どうやらオーキド博士は切り替えが凄まじく早いらしく

一度驚いた後にすぐさま俺の言葉を聴いて事実を理解していく。

 

「で、こいつは……どうします?」

「どうします、とな……? 少し前に君に任せたはずじゃが……」

「じゃあ改めて目玉焼きにはしないってことですね」

「ピィッ?!」

 

俺の言葉をミニギラは偉い勢いで誤解し、ぴゃっと俺の後ろへ隠れてしま……ってあれ?

俺が発言した言葉を理解してるなら、『俺』を警戒するはずなのになんで俺の後ろに?

 

「ピ~~……;」

「おぉ、なるほどそっちだったか」

 

どうやら俺の言い方に問題があったらしく、ジョークの矛先を間違っていた様だ。

 

『俺がミニギラを目玉焼きにする』ではなく『この人の命令で目玉焼きにするのか?』だ。

確かに後者なら警戒するのはオーキド博士だな……あんた何食おうとしてんだ。

 

「いや……別に食わんよ? というかポケモンなんぞ喰えんわぃ。

 どれだけ飢えてもそれだけはやっちゃいかんじゃろ~」

「まぁ、そうですねぇ」

「ミ~~……」

「大丈夫だってさ、喰いはしないそうだよ」

「ミィ……」

 

この世界、動物全てがポケモンであるために……食用の家畜が存在しない。

故に『肉』というモノが人間の口に運ばれる事は世間一般では一切無いのだ。

明らかにポケモンを人間と同列視していやがる。

さっき言ってた実験だって、現代の世界じゃ人間に対してやってたりしたしなー。

 

「さて……よ、いしょっと」

「ミッ」

 

俺は横からそっと出てきたミニギラの脇腹を両手で持って

オーキド博士と挟むようにして存在するテーブルに、ミニギラを載せた。

オッサンにちょろちょろ~っと自分を見られ、少しビビっているのがわかる。

おそらくは結構人見知りをする子なのだろう、このミニギラは。

 

「君の話からして予想しては居たが……全く見た事が無いポケモンじゃな……。

 わしも世界中飛び回ってはおるが、類似したポケモンも見た事が無いのう」

「まぁ、そうでしょうね」

「……そうでしょうね? タツヤ君、もしかして君は

 この子がどういう存在なのか知っておるのかね?」

「何でその会話だけでそこまで気付けるんですか」

「ピ~~……」

 

うーむ、相変わらずあまり油断ならんオッサンだなぁ。

普通に考えて「そうでしょうね」なんてただの同意の言葉だろうに。

なんか存在的な意味で把握され始めている……?

 

「ま、さっきも言った通り……わしはちょいと今手が離せん研究を進めておる。

 非常に興味がそそられる子じゃが……まぁ、さっきと同じ様に君に任せるかのぅ」

「ん、まあ元よりそのつもりでしたし……俺は構いませんよ。

 母さんも適当に喋ってれば突破出来るだろうし」

「……レンカさんにそんな芸当出来るの、君ぐらいなんじゃからな?」

 

そこは息子補正と考えていただくしかないです。

現状、実の兄貴がカントーを旅している関係上で愛情が俺の方向にすっごいんです。

過去にやっちまったあの件の事もあるからなんだろうが……

簡単なお願いならちゃんと聞いてくれるお母様でございます。

 

一応、まともな親である事の証明として……

理不尽な事を言うと撃滅する勢いで良い笑顔になる事も付け加えておく。

 

目元の小皺の話とか。

 

「ま、そういうわけでな。この子の事が良くわかっているのなら

 それこそやはり、君が親代わりに適任じゃろう。

 何か興味深い事があった際に報告してくれればわしゃ構わんよ」

「わかりました、じゃあ俺は一旦家に───」

 

コンコンコン

 

「ん……」

「博士、D班の研究課題が一通り纏まったので資料を持ってきました」

「あぁ、入って良いぞーい」

 

どうやら別の部屋で仕事をしていた研究員さんが博士を尋ねてきたようだ。

何か取り組んでいて、それらの目処が付いたからこの部屋へ来たのだろう。

研究員さんは部屋に入ってきて博士に資料を渡そうとして───

 

「あ、あの……オーキド博士、このテーブルのポケモンは……?」

「ん、あぁその子は……タツヤ君が言うにはじゃが

 この施設で拾ったタマゴから孵ったらしいポケモンじゃよ」

「ピ、ピィ……?」

 

眼鏡越しだからよくわからんのだが、どうやらミニギラをガン見しているようだ。

まあ明らかにフォルムがそこらのポケモンって感じじゃないしな……

雰囲気だけで、何か一線を駕すポケモンであると気付いたらしい。

 

「こ、この施設にあったタマゴなら、この施設の物って事ですよね?!

 なら、所有権は私達が主張出来ますよね!?」

「あ、あぁ……一応タツヤ君がそうではないかということで

 わしに先程相談を持ちかけてきてな? その後すぐに孵化したようなんじゃよ」

「博士、このポケモン……私に研究させてくださいッ!!」

 

おお、なんかこの人やたら熱入ってるな。

良くも悪くも一般人の想像する研究者of研究者だ。

 

「や、それがタツヤ君に心当たりがあるそうで───」

「よし、よしッ! 最近研究がマンネリ化してきてて刺激が欲しかったんだ!

 このポケモンの生態と構成を調べていけば神秘的な何かに───」

「ツダ君、わしは許可をしとら───」

「そうと決まればッ! では博士ッ! 一旦失礼致しますッ!」

「ピ、ピィッ!?」

 

言うが早いか、ツダと呼ばれた研究者さんは

いきなりテーブルに居たミニギラをガバッと脇に抱え挙げて即座に部屋を出ようとした。

 

「お、おいッ!? ツダ君ッ! 何を暴走して───」

「アハハハハハーーーー! 燃えてきた! 燃えてきたぞーーー!」

「ピィーーー!! ピィーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

「すいません、研究者さん」

 

 

「───……ん?」

 

 

 

 

 

 

勝手に暴走して博士の意見を最後まで聞かない社会不適合者に、俺は声を掛ける。

この時点で俺は椅子に座ったままだが、運良くあちらに声が伝わったらしい。

 

俺は相手が部屋に留まってくれたので、椅子から立ち上がり彼の方へと向かう。

 

「おぉ、そういえば君がこのポケモンを孵らせたそうだねタツヤ君!

 よくやってくれた! この研究材料は確実にみんなが喜ぶ───」

「何を言っているのかよくわかりませんが、この子は返してもらいますね」

 

なんやら興奮しながらえらっそーに話しかけてきたので

その間に泣き喚いてる脇のミニギラをスポっと回収し、胸元に抱いた。

 

「な───」

「おう、ミニギラよ……怖かったか? もう大丈夫だぞ、怖くないからな」

「ミ、ミィ……ミィ~~……」

 

瞳をうるうるさせてこちらを見上げてくるミニギラ。

人間の狂気に当てられて恐怖という物を覚えてしまったのだろう。

落ち着かせるために頭をナデナデしておく。

 

「何を言ってるんだタツヤ君ッッ!!

 そのポケモンの所有権はこの研究所にあるんだッ!!

 子供一人のわがままで何をしようと───」

「ちょ、ちょっと落ち着くんじゃツダ君ッ!

 せめてわしの話をきちんと聞いてから話さんかいッ!」

「あ、いいですよ博士。私がちゃんとタツヤ君に言い聞かせておきますから!

 さぁ、タツヤ君、そのポケモンをこちらに渡しなさいッ!」

 

とりあえず後ろがやかましいので、ミニギラはソファーに乗せておく。

さて、と……

 

「さっきからうるさすぎますよ、研究員さん」

「そ、そうか、すまなかった。それじゃぁそのポケモンを」

「渡しませんよ、俺ぁコイツの親らしいんでね」

「なッ……!」

 

……はぁ、こりゃ博士になんも相談しないで家に帰った方がマシだったか。

筋を通そうとすると、どうしてもどこかでその『筋』を利用しようとするバカが現れる。

クソ真面目も考えモンだなぁ。

 

「いや、だからね!? そのポケモンのタマゴを拾ったのなら

 私達の研究所に所有権が───」

「さっきからグダグダやかましいぞオッサン……

 そんなに所有権所有権言うってんなら……この研究所消し飛ばすぞ」

 

あまりにも自分勝手な物言いに俺もそろそろ限界に迫ってきた。

とっとと家に帰るために、結論を付けてお(いとま)しよう。

 

「…………は? アハハハハハ、何を言っているんだいタツヤ君。

 なかなか面白い冗談を言うなぁ……子供一人で何が出来るって言うんだい?

 そもそも、なんで研究所自体を消し飛ばすなんて発想になったんだい?」

「あんたはこの施設から出てきたもんだからって所有権主張してんだろ?

 この研究所自体無くしちまえば所有権もクソもねぇだろうが」

「いや、面白い暴論だね……だけども、今消し飛ばせなければ意味も」

「───そこまでじゃ」

 

頭の中で色々考えて、それらを全て実行するプランを頭で組み立てていた最中に

途中から空気と化していたオーキド博士が話に割り込んできた。

その表情は、何やら若干青くなっている気がする。

 

「タツヤ君、その子は先程わしが言った通り連れ帰ってくれて構わん。

 すまぬがわしはツダ君と少し話をする必要がある……席を外して貰えるかね?」

「は、博士ッ!? 何を仰っているのですか!

 あんなポケモンを研究所で取り扱えるなんて滅多に───」

「黙れッッ!!

 ……タツヤ君、今回の事は気にせずに、また遊びに来てくれると嬉しいぞぃ」

「───わかりました。行くぞ、ミニギラ」

「ミ……ミィ」

 

どうやら早急に部屋から出て行って貰いたいらしい。

この場に残っても胸糞が悪くなるだけなので、大人しく博士の指示に従う事にした。

俺が動くと、椅子から下りたミニギラがちょこちょこと俺を追いかけてくる。

後ろにしっかり付いてきているのを確認した上で、俺は博士の部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

「……~~~~博士ェッ! 一体何を考えているんですかッ!!」

「君こそわしの話を一切聞かないとか、直属の上司に何言ってるんじゃ」

「はい? 話って……あのポケモンを研究する事でしょう?」

「一っ言もそんな事言っとらんわいッッ!!」

 

オーキド博士は研究員を怒鳴りつける。

その声には、無視され続けた事の怒りも若干混ざっているようだ。

 

「とりあえず、あの子はタツヤ君に全て任せるんじゃ。

 わしらはあの子に関わってはならん、コレは決定事項じゃ」

「な……何故ですか博士ッ! 貴方もあのポケモンがどういう存在かわかるでしょうッ?!」

「元々色々話を聞いたり動向を観察させて貰おうとは思っておったよ……

 しかし君が先程起こした一悶着で全部台無しじゃわい」

「わ、私の起こした悶着……タツヤ君との口論、ですか……?

 まさか子供の誇大妄想を本気で捉えてるので?」

「───タツヤ君は多分……本気でこの研究所を消すつもりじゃったぞ」

 

そこまで話して、オーキド博士の青い顔に漸く血の気が戻り始めた。

袖で額に溜まった汗を拭いとって一息付いている。

 

「博士まで何を言ってるんですか……子供一人にそんな事出来るわけが……」

「いや、タツヤ君に限っては本当にやりかねん。物理的にも社会的にも、な……」

「……はぁ」

 

研究員はオーキド博士の言葉が良く理解出来ない。

あんな子供に一体何が出来るというのかさっぱりわからないのだ。

 

「……そういえば、ツダ君は一年前ぐらいにこの研究所に来たんじゃったなぁ」

「あ、はい……今日で丁度一年二ヶ月程ですか」

「ならまあ、あの話を知らんという事か」

「あの、話……ですか?」

 

オーキド博士は先程まで自分が座っていたソファーに座り

研究員をタツヤが座っていた方に着席させ、話を進めていく。

 

「今から三年ほど前なんじゃがなぁ。

 トキワシティでタツヤ君がちょいと大騒ぎした事があってのぅ」

「大騒ぎ、ですか」

「あぁ、そうじゃ……大騒ぎじゃ。

 結果的にひとつの家庭がトキワシティから居なくなったんじゃ」

「い、居なくなった?!」

「さすがに神隠しとは違うがの、別の街に引っ越さざるを得なかったんじゃよ」

 

少し昔を思い出す様に、オーキドは顎に親指を当てて考え込む。

そしてその口からほつらほつらと昔の事が語られていった。

 

「まずなぁ、タツヤ君が母親とトキワの方へ遊びに行ったんじゃ」

「はい」

「んで、その街に居た子供達のリーダー……曰くガキ大将に目を付けられたそうでな」

「まぁ、よくある話ではありますか」

「そうじゃなぁ、幼い頃から自分のポケモンを持ってる子というのは

 どうしても持ってない子より助長してしまう風潮もあるらしいしの」

 

基本的にこの世界では、10歳になれば……

マサラタウンであればオーキド博士の研究所に行けばポケモンを貰う事が出来るし

元々一般家庭にも、父親母親が持っているポケモンがいる。

そのポケモンが持ってきたタマゴを子供に与えたりして、初めて自分の手持ちを獲得する。

 

ちょっとしたタイミングのズレで、三歳や五歳の時から

自分の手持ちを得る子供というのが、たまに居るのだ。

自分以外の補助的な力をひけらかして、持って居ない子達の頂点に立つのは

基本的に、これも良く聴く話なのである。

 

「して、タツヤ君は昔からあの通りの性格だったそうでな……

 周りより大人びていた雰囲気が、ガキ大将の子は納得出来なかったんじゃろ」

「まぁ……他の子供と一切遊ばずにここに通ってますよね」

「じゃのぅ……そして話はここからじゃ。

 どうやらタツヤ君はその場で、わけのわからん体術を駆使して

 ガキ大将とそのポケモンを文字通り捻り潰してしまったらしいんじゃ」

「……はぁ?!」

 

ここで研究員が声を上げる。今博士は……なんと言った?

 

「……捻り潰したんじゃよ。

 そのガキ大将も、ポケモンも……半殺しにあったらしい。

 病院とポケモンセンターも彼らの状態に唖然としたそうじゃ」

「い、いや……子供同士ですらそこまで行くのは珍しいですが……

 子供が、ポケモンを倒した……?」

「ポケモンはマダツボミだったはずじゃ。

 わしも話は聴いたんじゃが……体のを構成する管という管は

 石と地面を使って磨り潰されていた上に、口の中に石をぎっしり詰められてたそうじゃ。

 加えてその状態であるにも拘らず何度も頭部を蹴っていたらしい」

「……………………。」

 

聴くだけでもおぞましい状態である。

人間がポケモンに攻撃をして、なおかつ勝った事自体もおかしいが

子供がやり遂げたその残酷な図を想像すると、背筋に寒い物が走る。

 

「でも、ガキ大将の子まで半殺しとは……」

「……骨折、5箇所じゃったかな。当然あちらの親御も黙っておらんかったようじゃ」

「……まぁ、そうですね。私が人の親になってもそれはでしゃばらずにいられません」

「あぁ、そうじゃの。自分の子がそうなっては……な」

 

そこで博士はまたしても考え込む様に顔を伏せる。

口にしたことで、改めてタツヤの異常性を感じているらしい。

 

「……その子の療養のために、街を出て行かざるを得なかった、と?」

「いや、違う。今度はそのガキ大将の親達が社会的に抹殺されたんじゃ」

「は……?」

「順を追って話すぞぃ。さすがにやりすぎという事で

 カントーの最終兵器(リーサルウェポン)と呼ばれている彼の母親も折れざるを得なかった。

 そして……ガキ大将の親御さんはタツヤ君と彼の母親に手酷い暴言を浴びせたそうじゃ」

「まぁ……自分の子供がやられたら興奮もしますよね」

「その暴言を吐かれている最中に、彼は言ったそうじゃ。

『俺は悪くねぇ……母さんを侮辱するなら覚悟しとけ』とな……」

「……子供の戯言なのでは?」

 

あまりにも酷い内容を言われれば、子供とて反論したくはなる。

ただそれだけなのでは、と思う研究員の発想も無理は無い。

 

「戯言で済めば良かったんじゃろうがの……。

 その時のタツヤ君の表情は、五歳児が浮かべる表情ではなかったそうじゃ。

 完全に怒りに染まっていたとレンカさん──彼の母親は言っておった」

「……どうなったんですか?」

「タツヤ君がよく行方不明になる様になったんじゃ」

 

突然博士の口から出てきたその言葉を、研究員は吟味してみるものの

意味がさっぱり理解出来ず、解答を博士に促すに留まる。

 

「あの、すみません。ちょっと意味が……しかも「よく」って……複数回ですか?」

「あぁそうじゃ、わしらも当時は酷く慌てたのぅ。

 そこら辺に野生のポケモンが蔓延っているのに行方不明となったら……

 絶望的な結果も想像せざるを得ないしのぅ」

「……どこに居たんですか?」

「───トキワシティじゃ。彼は独力で、五歳の時点で一人で辿り着いてたんじゃ」

「………………」

 

あまりの内容に、研究員は頭が働かなくなってしまった。

どうしようもないほどに、行動が突飛しすぎている。

その五歳児が、本当にあのタツヤという少年なのか?

 

「まぁこの際異常性は置いておこう。

 そして子供の足で五日は掛かるその道を乗り越えた先で彼がやったのは……

 ガキ大将の家庭への執拗な『社会的な攻撃』じゃったよ」

「社会的な攻撃、ですか」

「今考えれば、全て狙ってやっていたんじゃろうがな。

 その家庭の父親が仕事場に向かうところで、また騒ぎを起こして……気絶して病院。

 また行方不明になったと思ったら、今度は母親が居る自宅で色々やらかしておった。

 コレは本人に聞いたことがあるんじゃが……家のチャイムを鳴らしまくって

 その母親を激興させて、わざと殴られたそうじゃ……近所の目がある中で」

「うわぁ……」

 

そしてめでたく完成したのは、子供に暴力的な家庭が町内に居るという噂。

近所の暇をしている奥様方はすぐさまその噂で持ちきりになり

いくら本人達が否定しても、周りの人間はそれを受け入れられない。

 

さらにタツヤはまた行方不明になったと思いきや、今度は父親の会社へ乗り込み気絶。

搬送された病院先で、『その会社の誰々にやられた』ときっぱり警察に言ったらしい。

 

警察自体は、過去に二度もこの家庭に対する目的で行方不明になっていたと情報があり

その家庭ではなくタツヤに厳重注意が行ったらしいが……

それでも、人の噂には戸を立てられないものである。

 

その家庭の正義は、彼らが暮らす町内では正義ではなかったのだ。

 

「それらを彼は一人でやり続けて……結果的にその家庭は全員ノイローゼに陥ったそうじゃ。

 父親はそれで仕事が捗らなくなり、噂もあって会社をクビに。

 母親の方も近所に出れば周りからヒソヒソと噂され続け……精神的に病んだそうじゃ」

「……恐ろしい子供ですね」

「その子供に、先程喧嘩を売っていたのは誰じゃ」

「はい? いやいや、私は喧嘩など───」

「……彼の眼には、そうとしか映っとらんかったようじゃぞ。

 わしが話を聞いた時と同じ眼をしておったからな、本気で焦ったぞい」

「───。」

 

オーキド博士は、その眼を見て結論付けたのだ。

彼は、本当に……いくら時間が掛かろうとそれをやり遂げると。

 

「君の暴走でわしらの職場をぶち壊されるのも堪らんが……

 それより何より、あの子がまだ子供というのが一番危険なんじゃ」

「危険……確かに危険ですが……」

「手段と方法による目的の達成度合いが明らかに常識を逸しておる。

 ……彼があのまま大人になったら、ロケット団を超える悪者になるぞ」

「ッ!」

 

そういう方向か、と研究員は意識を改めた。

確かに話を聞く限り、このカントーで極悪とされているロケット団ですら

そこまでやらない内容のオンパレードである。

 

「まだまだ子供じゃ、矯正の余地は必ずあるはずじゃ。

 じゃからその当時に関わった人間は、全員総出であの子に常識を教えておる。

 実際、ガキ大将をやってた子の家庭が引っ越したとわしに教えたタツヤ君の表情は……」

 

───ロケット団ですら震え上がる様な、邪悪な笑みじゃったよ。

 

「……すみませんでした、博士。

 話を聞いてあの子の異常性ははっきりわかりました。

 おそらく、施設に入れても独力で手段を問わず脱走し続けたのでしょう」

「わかってきたようじゃな。施設の方も匙を投げたそうじゃ。

 このマサラタウンじゃと、何も起こらん限り彼も大人しいからの。

 ここに居て矯正を行うのがベスト、と近所の会議でも決まったんじゃ」

 

話を一通り終え、オーキド博士は漸く一息着いた。

しかしまだ話し終えていない事がある、とさらに話を続ける。

 

「しかも……な。先程言った通り、彼の母親はカントーの最終兵器(リーサルウェポン)じゃ。

 今話した件では、それに頼らず完全に一人でやり遂げておる」

「……本当に、恐ろしいですね」

「元々レンカさんはあの子を溺愛しているし……

 あの子の発想に、レンカさんやその手持ちが関わってきたら……

 最早カントー地方だけの問題ではなくなるはずじゃ。

 全地方のチャンピオンがここに出張って来ても難しいかもしれん」

「……もう、なんと言うか。私も彼の母親の話はたまに聴くのでよくわかります」

「そうじゃ、だからこそ……あの子に『少しでも言い分が通る』状態で相対しちゃいかん。

 ほんのちょっとでも非がある状態であの子と争ったら……碌な事にならんはずじゃ」

 

なんとも厄介な子供が居たモノだ───研究員はそう一人ごちた。

何せ、その異常性に今まで付き合ってきた一年を持っても気付かなかったのだ。

異常と言えば異常だったが、その様な方向で価値観が狂っていたとは露知らず。

 

自分もその対象に成り掛けていた事に気付き、恐ろしさが込み上げてきた。

 

「そういう事じゃ、今ならまだなんとかなるはずじゃ。

 妥協というものを教えていけばまだまだ間に合うからの」

「───わかりました、博士。

 博士には色々と恩もあります……あのポケモンの解剖は諦めましょう」

「そうしてくれぃ。わしも老後ぐらいは大人しく暮らしたいんでの」

 

大人達が研究所の一室で、緊張を持ちながら話しているその頃……

 

 

 

 

 

 

「あ、あぁぁ~~。こ、こら、指を甘噛みするんじゃ、あぁぁぁぁ~~」

「~~♪ ~~♪」

 

 

話題の二人は幸せそうだった。

 

 





後半の方の設定は万人受けしないでしょうが
こんな異常性を持った子供が、ちびポケモンに癒されていくという話にしたいので
まあこんな内面持っててもおかしくないなという事で設定。

こっから彼はどんどん父性が滲み出てきます。
中身が親になっててもおかしくはない年齢ですからね。
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