魔法薬アルミークの扉にかけてある看板を『
戦争が終わって平和になった訳ではないのだ。かつては空中都市オスティアと呼ばれた、巨大な浮遊島の上に作られた国は、魔力の消滅によって滅びたのだ。この魔法世界では時たま、空中に岩や小さな島が浮かんでいるのを見かける。それらは全て魔力によって浮かんでいるのだ、勿論オスティアも例外ではない。……だが、オスティアは王都を中心とした50キロの範囲が『
そしてオスティア周囲は暫く魔力が枯渇して、魔法が使えない場所となったのだ。
その内の何割かは、ほかの国が受け入れたが、それでも行き先がなく難民キャンプで生活している人が沢山いる。ここでは政府や周囲の国から、食料などの支援があって配布されているが、それでもソイツらの生活を支えるには足りない。現に栄養失調や病気などで死亡している人も何人かいるという話しだ。
だから俺はボランティアで、金一つ稼げないクソッタレな活動をするのだ、別に難民達を助けてえとか、そんな馬鹿みてえな理由じゃねえ、ただ俺の両親はこういったところを見逃せねえから、責めてもの弔いだ。息子として出来るのは墓参りとそれくらいだからな。
「馬鹿野郎が!そこ、並べ!」
「ごめんなさい!」
俺は順番を無視した馬鹿野郎を引っぱたく、……ったくよ、んな急がなくっても全員見てやる。ただし急患は順番なんか知ったこちゃねえがな。
「ただの風邪だ。布団、もしくは焚き火で体を温めて寝ろ、汗をかいたら水分と体を拭くのを忘れるな馬鹿野郎。コイツは処方箋だからな、朝と晩に二粒ずつだ」
「ありがとうございます、お医者様」
「るせえ、後ろが詰まっているんだよ、さっさとそこをどけ、馬鹿野郎が」
俺は目の前で俺を拝んでいるジジイを椅子からどかして、次の患者を診察する。これでもう70人は診たか?1時間ぐらいで70人か。なかなかのハイペースだな。
「ええと、最近腕が痛くて」
「ああ?どれどれ、少し触るぞ……」
差し出されたオッサンの腕を触診する。数箇所つついて、どこが痛むのか、どのように痛むのか質問したあとに、俺は少し強く触って確信する。
「骨が折れているな、
魔法を腕に行使する。青と緑が混ざったような光が骨折した場所を癒していく。俺は
そして夕日が暮れるまで患者の行列は終わらなかったが、さっき帰っていったガキで最後だった。数は200を越えたあたりから面倒くさくなって、数えるのをやめた。こんな人数は日本の病院でも無いだろう。だがここは魔法世界、少しのキズなら魔法で何とかなるし、こういった場所ではただの風邪や感染症、中には破傷風なんていうものもあるが、それらも魔法と薬の両方で十分に対処できる。
……あーあ、馬鹿野郎だな、俺は。今日の客全てに金を払ってもらったら、一ヶ月は遊べるぞ。全く、だがまあ、患者どもの笑顔というのも悪くはないかも知れない。
……今日は疲れたから、帰って寝よう。明日は用事があるしな。
そして、家に着くなり泥のように眠って、起きると暖かい日差しが俺の顔を照らしていた。それはつまり朝になったという事だ。
「ああ、クソッタレが。憂鬱だ」
俺はため息をつきながらも、シャワーを浴びて昨日の汚れを落とす。その後朝食である何かの魔獣の肉とパンを食べて、ある場所に行く。ここに行くときはいつも足が重い。精神年齢が10代後半である俺には馴染めない場所なのだから。今の俺は年齢詐称薬を服用しておらず、三歳児そのままの姿だ。
その場所というのは、保育園だ。最も今は戦争に行って両親を亡くした子供を保護する施設も兼ねてはいるが。ガキどもの体力が切れるまで動き回るという、ハイテンションにはついていけないのだ。
それにもう一つ理由がある。
「おはよー!レンキ君!」
「わー、おはよう。せんせー!」
そう、この幼児特有の可愛らしさを出すように猫を被らなければいけないのだ。両親の前では、今までのように「精神年齢が10大後半の三歳児」としていたが、両親からは、「私たち以外では、年齢相応の精神でいなさい。理由はわかるね?」と言われているのだ。理由は三歳児なのに、今までのようだったら不気味に写ってしまうからだろう。両親は俺のことを可愛がってくれたから別に良かったんだが、別のヤツにはそうはいかない。
「それじゃあ、みんなでお遊戯をしましょう!」
『『『はーい!!』』』
先生がそう言うと、幼児どもの馬鹿野郎はハイテンションで、外に駆け出していく。人気のある遊具は早くしないと取られてしまうからだ。
俺はその走っていく集団に紛れてはいるが、遊具などどうでもいい。先生に孤立していると見られると面倒だから、周りにできるだけ合わせて行動しているのだ。
そして人目のつかないところに移動したら、本を開いてその本を黙々と読みながら(怪しまれないように、絵本だが)新しい薬のレシピを頭の中で考察する。
これが俺の保育園での過ごし方だ。お陰で友達と呼べるものはいないが、別にいい。小学校には行くつもりがないから、下手な交友関係は持たないほうが好都合だろう。……それでも俺に突っかかって来る馬鹿野郎は居るにはいるが。
「おい!そこのおまえ!」
「……ッチ」
その馬鹿野郎が絡んできやがった。俺はソイツに聞こえないように小さく舌打ちする、コイツは何かと面倒なのだ。
「おれをむしするな!ねくら!」
「ハァ……メンド」
俺は立ち上がってその馬鹿野郎からさっさと逃れようとするが、そうはいかない。ソイツは俺の襟首を掴んで引っ張る。……服が伸びるだろうが、馬鹿野郎。
「おい、にげるな、なまいきだぞ!」
「ヘイヘイ、なんかようか?ば……ハザン」
そいつの名はハザン、この保育園のガキ大将という奴だ。何故か俺に突っかかってくる馬鹿野郎である。どうやらそこそこいい身分の家の出のようで、こんなガキの頃からプライドが高いとい。こういった奴はこのまま育つとロクな大人にならないと俺は確信している。
「おまえ、きょうこそおれのいうことをきけ!」
「いやだぼけ」
「なんだと!?」
とまあ、このようにプライドばかり高くなって、横に増えたガキなのだ。事あるごとに俺を召使にしようとしてきやがる。前は一回だけ言う事を聞いてやったんだが、そこから調子に乗ってきたので、思わず拳で顔面を殴ってしまったレベルでの馬鹿野郎だ。
「……くっくっく、そういっていられるのも、今のうちだぞ?」
ハザンはそう言って、懐からソレを取り出した。ソレは細い棒の先っぽに星型の物体がちょこんと乗っているもの。要は子供用の魔法発動媒体、魔法の杖である。魔法は俺は例外として、通常小学校で習い始めるものなのだが……保育園に通うような年齢で習うものではない。恐らくはコイツの親が教えたのだろう、周りに差をつける為とか、そんな理由で。
「
ハザンの周りに3つの炎の塊が現れる。それは攻撃魔法では最も基礎的なものである
……というか、園児相手に使うなよ、馬鹿野郎。
「くらえ!」
「この大馬鹿野郎が!!」
「えーと、
俺は手をかざして呪文を唱える。発動媒体は小指にはめている指輪なので、魔法の杖は持たない。魔力によって構成された壁が俺の目の前に展開されて、魔法の矢を全て受け止める。だが防御壁も無傷とはいかずに、ヒビが入ってほぼ粉々だ。
攻撃魔法は使えないが、防御系は身を守るために両親が戦争に行く前に教えられた。
「な、おまえ!!」
ハザンはまさか俺が防ぐとは思わなかったのか、激怒して掴みかかってくる。俺はハザンの手を避けて、足を引っ掛けて転ばしたあとに、ダッシュでその場から離れる。
こうしてその後もコソコソとハザンにも、先生の目にも止まらないように動くことで、無事帰宅の時間となった。
「じゃあ、またねー!」
「はーい!」
俺は先生に手を振って、保育園を出る。暫く景色を見ながらぼうっと歩いていると、とある光景が目に入った。
「なにをする!やめろ!!おれがだれだかしっているのか!!」
「ッチ、暴れるなよ!クソガキ!」
「大人しくしやがれ!」
それはハザンが男達に無理矢理連れ去られる光景だ。恐らくだが、あの男たちはハザンの親に身代金を要求して一儲けするつもりだろう。馬鹿野郎が、ボディガードも付けないからこうなるんだよ。
ハザンは抵抗するが、大人の力に叶う訳もなく虚しく連れ去られていった。ったく、馬鹿野郎が、調子に乗っているからだよ。
……俺は正義とかそんなのには興味はねえ、でもこういった事が目の前で怒ってスルーできるほど腐ってはいねえ。いくら馬鹿野郎でウザったいハザンだろうとな。
路地裏に入って、年齢詐称薬を飲んで大人の姿になる。そしてアーティファクトの中からいくつかの薬を取り出す。
移動すること30分。俺の目の前にはボロ臭い倉庫があった、ここは戦争時に兵料を貯蓄する為の倉庫だったのだが、今はただの廃屋となっている。この辺では隠れられるような場所はここにしかない。民家に連れ去られていたらアウトだったが、運が良かったようだ。中からハザンの叫び声が聞こえる。
俺はローブを深めに被って、倉庫の扉の目の前にたつ。
「何者だテメ……」
突然現れた俺に、見張りらしき男は杖を向けるがすぐに昏倒してしまった。
俺は薬品を倉庫の扉に振りかけると、振り掛けた場所を中心にドロリ。と溶けていく。そして厚い鉄の扉に空いた穴を潜る。
「テメエ、何者だ!?」
「あ゛あ゛ん!?」
「カチコミかぁ?返り討ちにしてやんよ!」
など様々な反応を見せる人物がいた。数はおおよそ20人ちょいか、思ったよりも多い。そこそこの規模の不良グループなのだろう。
「お、おい!そこのおまえ、おれをたすけろ!かねはやる!!」
そしてその奥で椅子に縛られている太ったガキ、ハザンは俺に向かって涙目で助けを請う。何発か殴られたのか、顔に青アザが出来ている。
「5秒」
俺はそう呟く。
「5秒でここにいる奴ら全員を始末する」
そして両手をゆっくりと広げて、なるべく怪しく微笑む。勿論そんな事はできやしない。ただのハッタリだ、それでも効果があったようで、チンピラどもはたじろぐ。
お互いにらみ合う、そんな状況が暫く続くが、しびれを切らしたチンピラの一人が俺に向かって魔法の杖を構える。
「ハ、ただのハッタリかよ!これでもくらいやがれ!!」
それを合図にほかのチンピラ共も、杖や剣などを構える。ハッタリなのは正解だが、もう遅い。心の中で呟く。
「な、何だこれは……」
「体が動かねえ……!?」
チンピラ共は体が麻痺して、昏倒した。何をしたのかというと、粉状の麻痺毒を空気中にばら撒いたのだ。その結果、ハッタリで時間稼ぎをして効き目が現れたという事だ。
「たすけにくるのがおそいぞ!」
ハザンを拘束している縄を解いた矢先、そう怒鳴ってくる。ついイラついたのでかなり強めにデコピンをかましておく。
「いてえな!なにをしやがる!!」
「喧しいぞ、糞餓鬼が。テメエはたまたま俺に助けられただけだ、だがなあ、このまま俺が来なければ最悪――――死んでいただろうよ、まあ、それはどうでもいいが、こういう場合には真っ先に言うべき言葉があるんじゃねえのか?」
「ぬ、ぐ……あ、ありがとうございます……」
「うん、それでいい。これはキズ薬だ、塗っておけ」
俺はハザンの頭を撫でて、キズ薬を渡しておく。これで少しでも生意気さが減るといい、そんな期待を胸にしてその場をさる。既に憲兵には通報済みなので、まもなく駆けつけてくるだろう。
「おい、おまえおれのぶかになれ!」
「…………」
翌日、ハザンは少しも変わっていなかった。
難民キャンプ:このネタで一話書くつもりだったけど、無理だった。
保育園:子供を預ける施設。現在は戦争で両親が死亡して孤児となった子供たちを保護する孤児院も兼ねているが、最近人員不足。アルバイト募集中だ。幼稚園と保育園の違いがイマイチわからない。※追加、この保育園は孤児院も兼ねている為、現在はこども園の様な状態になっている。(感想欄にて、保育園と幼稚園の違いを教えてくださった皆さん、ありがとうございます)
ハザン:富裕層で、そこそこ権力のある家に生まれた子供。幼い頃から英才教育されてきたので、生意気に育った。
扉が溶ける:強力な酸。レンキオリジナルの調合。
「5秒で~」:ローブを着てフードを深めに被った男が、怪しく笑いながらそう言うと迫力がある。
しびれ薬:細かい粉状にして、空気中にばら蒔けるもの。普段は魔獣の追跡から逃れるために使われるものである。レンキオリジナルの調合。
次回更新:来週にはやる。
感想:バシバシどうぞ。
※ラカンの義腕:原作を読み直したところ、戦争が終わった時の式典には付いてはいるが、アレはただの間に合わせだったが、数ヶ月そのまま装着していた結果、壊れたので、アルミーク魔法薬製の義腕を求めに行ったという。
アンケート:誰をヒロインにするか、活動報告にて。気軽にどうぞ。