Fate all of the world   作:源氏物語・葵尋人・物の怪

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 なんでこうもメジャーどこばっか出てくるんだろうね。


麗しのポリーナⅡ

 ざく、ざく、ざく――。

 雪が削れる音がする。

 その音に気が付いた人がいたとして、若しも其方に目を遣ったならば、屹度、大きな――成人男性ほどはある時折気味悪く蠢く革袋を背負った大小二つの人影を目撃していただろう。

 だが、実際、それを目撃する人物はおらず。そういう場所をポリーナとジュリエットは選んだのだから。

 街を外れの雪に支配された銀色の森。

 今一度二人は周りに気を配る。

人気は無い。そもそも、生き物の存在感と言えば、螺旋を描く様に木々を走り上る栗鼠を数匹も目撃する程度である。

 

「ここで良いかな? 良いよね、ポリーナちゃん?」

 

 ジュリエットは自分の影を踏むようにして追いかけてきた少女を振り返る。

 

「良いですよ」

 

 返答を合図に二人は背負っていた荷をその場に下ろす。

 そして二人は、中身を勢いよく開ける。

 すると其処からけたたましい羽音が鳴り、金切り声が響いた。

 袋の中は、鶏でみっしりとしていた。

 今からそれらは命を終える。英霊召喚の際には魔法陣を描くが、魔術儀式に際して描かれる魔法陣というのは大抵の場合血で描かれる。尤も、魔術流派の脚色や術の規模などに因って、溶かした宝石であったり、水銀であったりなどを使う場合もあるが――。

 ポリーナは暴れる鶏の首を引っ掴みながら、慣れた手つきで引きちぎっていく。

 そしてまず、陣の一番外側の円を描くために、鶏の足を持って逆さに吊る下げ歩く。ふと、横目で確認すると、

 

「……やっぱり、何度やっても慣れないなぁ」

 

 出刃包丁を鶏の首に振り下ろした後、苦虫を噛み潰したような顔でそう呟いていたジュリエットがいた。

動物を屠って、その血を使うなどと、魔術のまの字も知らない、人間が聞けば抵抗を覚えるだろう。だが、魔術師にとってはこれが日常茶飯事である。勿論、ポリーナも天使文字を書くとき、凝固しないような処理を施した動物の血を使っている。

 故に、魔術師には動物の屠殺には何の感慨も抱かない筈だった。

 

「ジュリエットさん? 大丈夫ですか? 顔蒼いですよ?」

「ああ……うん、平気。ちょっと気分悪いだけだから」

 

 そう返しつつ、ポリーナの陣の画図を手伝うジュリエットであったが、吐き気を抑えられず、度々口を手で覆っていた。

 

「動物殺すの、苦手なんですか?」

「昔色々あってね。残酷なことは、全般的に苦手」

 

 ジュリエットは蒼褪めた顔を上げた。

 ポリーナは首を傾ぐ。

 自分よりも、否、師である父より優れた魔術師であるジュリエットにはあまりに似つかわしくなかったから。

 ジュリエットはよろめき乍らも、陣の作成を続ける。

 

「あの、無理しないで下さい……。陣を書くくらいは私一人でも」

 

 併し、ジュリエットは脂汗に塗れた苦しそうな微笑みを浮かべて陣の作成を続ける。

ポリーナは目を見開く。

 何故此処まで必死になるのかと疑問を抱く。

 ジュリエットは、愛と優しさに満ちた人だ。ポリーナはそう思っている。けれど、漠然と、それだけではない人だととも感じていた。

 ……事実、それは当たっていた。

 今この瞬間、否、それ以前にも、ジュリエットはポリーナに嘘を吐いていたのだから。

 

 †

 

「おええぇぇぇツ!」

 

 地面に蹲り、声になる程の勢いで吐瀉物を地面にまき散らすジュリエットの背中をさすりながら、ポリーナは

 

「大丈夫ですか?」

 

 と問い掛ける。

 結局、ジュリエットは陣を書き終わる頃には、凍死体と見紛うほどに顔面を蒼くさせ、倒れ嘔吐する事と相成った。

 

「だ、大丈夫。それより、詠唱、覚えて……」

 

 そう言ってジュリエットは文庫本ほどの大きさと頁数のメモ帳を懐から取り出し、あるページを開きつつポリーナに差し出す。

 これに英霊召喚の詠唱が書かれているのかと、ポリーナは頁を覗き込むと、

 

「な、な、な」

 

 瞬間、脳髄が沸騰したかのような熱を顔に覚えることになり、口をまごつかせる。

 

「なんですか! こ、こ、このえっちなのは!? お、男の人のアレが、アレがァァァァアア!」

 

 またその後には、メモ帳を投げ出し、発狂し出す。

 胃の中身を粗方出し終え、気分が快方したジュリエットはその声にゆったりと立ち上がり投げ出されたメモを捕らえる。そして中身を見て、ふむふむと、敢えて擬態語を口に出しながら一通り目を通す。

 そして、ぱたんとメモ帳を閉じると、

 

「……ごめん。研究の内容とか、官能小説風の暗号にしてたの、忘れてた」

 

 舌をぴっと出し、ウインクしてみせた。

 

「な、何でワザワザ!?」

「赤の他人に、研究内容とか、ばれたりしたら、困る?」

「だったらもっと他の方法がありましたよねぇ!?」

 

 ポリーナはまるで未知の人間に見えた小型犬のように、牙を剥いて可愛らしくも怒りを露わにする。

 ジュリエットはそれに対して顎に手を当て暫し唸り声を上げ、

 

「ごめん、割と思い浮かばない、かな?」

 

 と少しばかり小ぶりな、綺麗に揃った真っ白い歯を見せつけた。

 ポリーナは、

 

「もう! 真面目にやって下さい!」

 

 そう言ってふくれた顔をし、腕を組んだ。

 

「いや、真面目にやってるよ」

 

 弾子頃、待たずにジュリエットは返す。併し、次の後には顎に手を当て、神妙な顔つきをする。

 

「……ただ、そうだね。ちゃんと詠唱教えないと、召喚、出来ないよね? ごめん、今すぐ教えるから。まず第一節が……」

 

 そう詠唱を伝えようとしたジュリエットを

 

「えっと、それは大丈夫です」

 

 五本の指を揃えた掌を向け、静止する。

 

「さっき覚えましたから」

「え!? 一瞬見ただけなのに!? てか、あの暗号解いたの!?」

 

 さらりと言ってのけ、当たり前のように頷くポリーナに、ジュリエットは自分でも思ってもみないほどの大声が出る。

 

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公――合ってますよね?」

「いや、合ってるけど……どうやって解いたの?」

 

 ジュリエットは好奇心をまるで隠さぬ、子供のような無邪気な声色と表情で訊ねる。

 魔術師にはまず、解かれない暗号だと思っていたから――。

ジュリエットの研究メモの解錠には、まず恋や愛について、また所謂夜の語らいというものについて深く哲学し、ある程度それらについて既存の傾向を知らねばならない。例えば、“口づけ”という言葉から何を連想するか。また、“愛撫”という言葉からどのような礼装を用意すれば良いのか。そういったパズルを解かねば、彼女の研究を知る道は開かれない。

 だが、魔術師という者達にとって、伴侶とは自分の研究を引き継がせる存在を此の世に生み出すための孵卵器《インキュベーター》でしか在り得ない。世界で最も愛とは程遠い存在であるから、ジュリエットの言葉を理解出来ない。

 そして、理解出来るようなステレオタイプから外れた人間的な魔術師は、大概はそれとしては大したことがないから、言葉から魔術的な何かを導き出せない。

 二重に外し難い罠を張ったつもりであった。

 それをまだ幼い魔術師がどうやって解いたのか。

 けれどポリーナは気抜けた顔をして、

 

「えっとなんとなく……感覚で」

 

 とだけ答えた。

 

「天使文字――エノク語学者って、言葉に強くなきゃいけないってお父さんが言ってたから。だから、昔からこういうの修行の一環でやらされてて。それで得意なんですよ」

 

 説明が解明にならず、理由が理屈に繋がらない。

 成程、流石、魔法に最も近いと言われる統一言語の元となった不完全言語《ラックラングイッジ》である。畢竟、それを操る者も魔法使いに最も近く、魔術師や人間の当たり前の感覚では推し量れないのだろう。ある種、理不尽だとすらジュリエットは思った。

 併し――だからこそ、妨害者《ディスターバー》には相応しい。

 ジュリエットはニタリと口角を吊り上げる。ポリーナに悟られぬように。

 

「じゃあ、そろそろやろっか」

 

 出来る限り柔らかな、無邪気を装った笑みを浮かべジュリエットは提案する。

 その言葉にポリーナは小さく頷き、スカートのポケットから黒革の手帳と、糸杉を削り作られた万年筆を取り出す。無花果の葉が意匠されたそれの中には、インクの代わりに血液が容れられている。

 何をするのだろうと、ジュリエットが疑問に思っていると、ポリーナは手帳の頁を開き、ペンを軋らせ始める。

 瞬間、魔法陣から目が潰れかねない程の青白い光が放たれる。

 魔力が通り、また詠唱が開始された証だ。併し、ポリーナの口からは言葉は一切放たれていない。

 代わりに、紙の前を動く手が、人間の視認限界を超える速さで動いている。摩擦で発火を起こさない方が不可思議な程である。

 その間にも、ポリーナの血管は浮き出、精工に作られた童女人形よりも、まだ人形らしい顔立ちが、苦悶に歪み、歯が固く結ばれている。

 ――回路が蠕動し、体に異物が混じる、あの痛みがこの子の中で起こっている。

 ジュリエットはそれを見て総てを理解する。

 幼いエノク語学者、ポリーナが節を紡ぐのに使うのは音ではなく文字なのだ。

 高速詠唱ではなく、いわば高速筆記。

 屹度、ポリーナの手元の紙は今、天使文字に訳された英霊召喚の詠唱に埋め尽くされているのだと、ジュリエットは思った。

 雷霆が哂う。暴風が哭く。周りの木々すら薙ぎ倒されそうな程の歪みが起こる。刻まれた陣が、爛漫たる光明を放つ。

 瞬間、陣が此の世ならざる場所――座へと繋がる門となる。

 旋風を掻き分け、閃光の奥から、

 

「Aaaaaa――――llll‼」

 

 英霊が咆哮と共に現れる。

 身が焼けるような、膨大な魔力と殺意の奔流が、少女と女の肌に伝わって来た

――豊かな筋肉と、強靭な骨子とを持つ、褐色の男だった。黒い髪は乱雑に伸ばされ、双眸は血走り焦点が合わず、また燃えるように輝く。枯れた無花果の葉を紡ぎ合わせて作られた腰当、それ以外に纏う物は無く、けれど、体には傷どころか、埃一つとして存在しない。

 そして、胸の中央には、逆十字めいた赤黒い痣が刻まれていた。

 それこそ、この英霊を示す証。罪人の証明。

 併し、何かがおかしい。ジュリエットとポリーナは其々、別々の違和感を覚える。  

 

「■■■■■■‼」

 

 またも何かを叫ぶが、言語としての体裁を成していない。

 それを聞いてジュリエットはポリーナに問う。

 

「ポリーナちゃん、貴女、まさかバーサーカーを!?」

 

 狂戦士。怒りに囚われる逸話、忘我の闘いに縁を持つ英霊に与えられる適正。強力なパロメーターを得る代わりに、思考能力、戦闘技術、彼らが持つ経験を失う、瑕瑾を負う。

 

「私の魔力供給ならいけると思ったので。それに彼は別に戦闘のプロフェッショナルではないですから。なら、能力を増強した方が良いと……」

 

 ほう、とジュリエットは感心する。

 成程、幼いながらによく考えられていると。

 それに確かに、この英霊には忘我の逸話は、怒りに掻き立てられたという事実が存在するのだ。

 彼はある者を殺した。そして、その人物の所在を問われこう答えた。

 

『私は、知らない』

 

 と――。

 普通に考えればただの誤魔化しに過ぎない。だが、こうも考えられる。

 殺したことすら気が付かない程、その男は怒り狂っていた。

 事実、そうだったのかもしれない。故に、バーサーカーでの召喚が成立している。

 

「でもおかしいんです、ジュリエットさん」

 

 不安に駆られるように、バーサーカーを直視したまま、ポリーナは言う。

 

「魔力、思ったよりも持っていかれてないんです」

 

 その言葉をジュリエットは訝しみながら、ポリーナの肩に手を置き、バーサーカーをじっと見つめる。

 

「……筋力A++、耐久EX、敏捷A++、魔力B、幸運E、宝具A++……。成程、流石に狂化しているだけのステータスだね……うん? Bランクの単独行動スキル? 消耗が少ないのはその所為かな? でも……」

 

何を言っているのか、ポリーナは困惑したが、同じくバーサーカーをよく見つめ、直ぐにその意味に至る。

 確かに、ジュリエットが言ったような値がポリーナにも見えた。

 マスターには自分のサーヴァント又はその聖杯戦争に出ているサーヴァントのステータスが分かるということだろうかと予測を立てるが、すぐさまそんな場合でないことに気が付く。

 

「……土が騒がしい。魔力《マナ》を、バーサーカーに、吸われてる?」

「ジュリエットさん!」

 

 周りも見えず思考をし出すジュリエットの名をポリーナは呼ぶ。

 

「だとすれば、これはあの逸話――いえ、呪いの宝具化? なら、一か所にとどまり続けると、土地が」

「ジュリエットさん!!」

 

 ジュリエットの肩を――否、身長差故に肘を叩き、思考の海から引き揚げる。

 ハッとして見ると、2mにも迫るバーサーカーの巨躯が二人を見下ろしていた。

 

「あ、aaa……」

 

 白い息と共に、殺意が漏れ出す。

 血赤色に輝く目が敵意を物語る。

 そう、迫っていたのだ。

 ランクEX――規格外の狂化スキルを与えられたバーサーカーのサーヴァントが。

 明らかな殺意を二人に向けて。

 

「Aaaaaa■■lllll‼」

 

 叫び狂い、バーサーカーは二人に鉄槌のような腕を振り下ろす。

 短く叫び声を上げ、ポリーナはジュリエットの足を掴み、目を固く閉じる。

 駄目だ――諦めたその瞬間。

 

「■■■■!?」

 

 バーサーカーの腕が、二人から僅かに外れた場所に突き刺さる。

 見ていることが信じられず、ポリーナは何度も目を擦る。

 

「空気の精の腕でも、逸らすのがやっとか。流石、人類最初の人殺し……ね」

 

 ジュリエットは汗を垂らしながら、語る。

 

――バーサーカーの攻撃を防いだの?

 

ポリーナはその技に驚愕する。

 

――それに空気の精? 妖精使いなの?

 

ポリーナは恟恟とし、ジュリエットの足に隠れながらも思考する。一体彼女は何なのかと。

 けれど、まるで分からぬまま、ジュリエットはバーサーカーの前に出て、懐から葉巻を取り出し、乱雑に手で引きちぎって吸い口を作ると、そしてオイルライターで火を点ける。

 また、煙を呑み、バーサーカーに吹きかける。

 何をしているのか、ジュリエットこそ狂したのか?

 そうポリーナは疑問に思うがすぐさま、疑問は解かれる。

 

「如何いうことだ? 今、確かに弟が、私に呪詛を吐く弟がいた筈……」

 

 狂化し、言語能力が無くなっている筈のバーサーカーが話始めたのだ。

 ポリーナが感じる所では、意識もはっきりしている。血走っていた目はそのままだが、焦点は合っている。

 併し、急に正気に戻った所為か前後不覚に陥り、状況がまるで掴めていない。そんな様子であった。

 

「誰かに呼ばれたような気が……」

 

 バーサーカーは頭を抱えた。

 そんな彼に、

 

「聖杯戦争に、呼ばれたの」

 

 ジュリエットは話しかける。

 ゆらりと揺らめく様に、バーサーカーは彼女に向き直る。

 

「聖杯戦争……そうか、思い出した。私は狂せし者の殻を得、再び大地に引き戻されたのだった」

 

 そうか、そうかとバーサーカーは繰り返す。

 

「では、貴女が私の……否、違うな。魔力の繋がりを感じない」

 

 そして、次にジュリエットの足元に目を遣り、

 

「……成程、君か」

 

 と得心し、彼女の前に歩み出る。

 先ほど殺されそうになった恐れから、ひぃと、ポリーナは悲鳴を上げる。

 が、バーサーカーは意外にも彼女の前に跪いた。

 

「え?」

「先程は御無礼を。召喚に応じ、はせ参じました。貴女の従者、貴女の剣。風狂の枷を嵌められし者に御座います」

 

 ポリーナは驚き、言葉が出なかった。

 先ほどの狂気は何処へやら、バーサーカーは紳士然とし、軟風の如くに落ち着いていた。

 故に、如何返していいか分からなくなり、ジュリエットを見上げる。

 

「――簡単に自己紹介とか、聖杯にかける願いでも話すべきかな? 一応言っておくけど、一時的に薬で狂気を無くしてるだけだから、早くした方が良い?」

 

 そう言うと、ジュリエットは煙を呑んだ。

 ポリーナは頷き、再びバーサーカーに向き直る。

 一度、咳ばらいをし、

 

「は、はい、バーサーカー。あなたのマスター、ポリーナ・アファナーシェフです」

 

 と言って前髪を上げ、額の令呪をよく見せる。

 それを見てバーサーカーは柔らかく笑う。

 

「そんなものを見せずとも、貴女が私の主であることは、この身に染みる魔力が証明しております。ご安心を――」

 

 そう語るバーサーカーは、少女の目にはとても清廉な人物に映った。

 書物で語られる彼の印象とはまるでかけ離れていた。

 

「あの、バーサーカーさん」

 

 だからだろうか、自然とさん付けをし、呼びかけていた。

 すると、バーサーカーは首を振る。

 

「さんは要りません。この穢れし身、敬称など余ります。敬語も結構」

「じゃ、じゃあ……」

 

 だが、このような“優しそう”な人物を呼び捨てるのは、ポリーナには気が引けた。

 なのに、バーサーカーはそれを拒む。

なんと呼ぼう? 暫しの葛藤の末、

 

「お、おじちゃん!」

 

 ――ポリーナの結論がこれであった。

 バーサーカーはポカンと口を開け、目を何度も開閉させる。

 それはジュリエットも同様であった。ポリーナ自身も、言って羞恥に後悔をする羽目を見る。

 暫し沈黙が流れ――

 

「フッ……」

 

 突如、バーサーカーから空気が漏れる。

 そして、

 

「フフフフフ……」

 

 小さく、笑い声を漏らし始めた。

 ジュリエットもポリーナの隣で腹を抱えて笑っている。

 

「もう! 笑わないで!」

 

 ポリーナは顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

「す、すまない。余りにも不意打ちであったものでしたから」

 

 ぷいと、ポリーナは頬を膨らませ、バーサーカーから目を逸らした。

 すると、彼は不意に真面目な顔をして、

 

「だが、その呼び方、悪くはありません」

 

 と語り出す。

 それはまるで恋人を想うかのような優し気な声色で。

 けれど、とても寂し気に。

 ポリーナはそれを見ていて何故だか、居た堪れなくなってしまった。

 

「おじちゃんは……」

 

 如何して泣きそうなの?

 そう聞こうとしていた自分をポリーナは自覚しながら、けれどこう訊ねる。

 

「如何して聖杯を求めるの?」

 

 突然の問いにも、バーサーカーは動じず、そして、静かに首を振った。

 

「ありません。求めるモノは何も」

「何も?」

「はい。故、聖杯の願いは主、貴女に」

 

 嘘は無いように、ポリーナには思われた。

 だが、何かを、大きな何かを隠しているとも感じた。

 それも、悲壮な、けれど強い思いを。

 併し、それを問おうとは、ポリーナには思えなかった。

 辛いことに違いない筈だと思ったから。だから隠しておきたいのだと考えたから。令呪を使って無理矢理聞くのもあまりに忍びなかった。

 だから、ポリーナは、

 

「ありがとう、おじちゃん」

 

 そう感謝を伝える事しか出来なかった。

 

「貴女は何を、願うのですか?」

 

 今度はバーサーカーが問う。

 

「家族の為に――」

「家族の?」

「お父さんがまた一生懸命研究できるように。お母さんがまた笑ってくれるように。……家族で一緒にいられる家を取り戻せるように」

 

 聖杯にかける願いでもない、存外に独力でもなんとかなる願いかもしれないが。

 『家族が幸せだった頃』――それが彼女の渇望。

 少女は語る。それが万能の聖杯にこそ託したいと。

 そして、バーサーカーもまた笑う。それは、とても、とても子供のように純粋に。

 

「そうか。家族の為に。成程、貴女は私の思っていた通りの女性《ひと》のようです」

 

 ――成程、おじちゃんという呼び方が、厭に懐かしく、心地よく感じる筈だ。

 

「とても似ている。わた■の、■■に」

 

 今、声がブレた。

バーサーカーは悟る。ジュリエットの薬の力が切れる事を。狂気の再臨を。

――そっと、目を閉じる。

 

「済まない、そろそろ時間のようだ」

 

 立ち上がり、ポリーナから少しばかり距離を取る。

 

「おじちゃん!」

「御休意を、主。仮令、狂乱の檻にいようとも、この目に映るモノ総てが私を恨む者に見えようとも、貴女を見つめる瞬間だけは、この目、混沌に曇らせはしないと誓おう。貴女の顔は忘れない。貴女の声も忘れない。貴女の願いが、私を導く。――この舞台、存分に狂い踊ろう」

 

 目から血涙が垂れ堕ち、そして、再び光を、狂気を、燈す。

 まるで、謝すように、首を垂れると、

 

「それでは、主よ。また、言葉を交わす日が在れば、それまで――」

 

 再び狂乱の檻に囚われた。

 




【元ネタ】アブラハムの宗教
【CLASS】バーサーカー
【マスター】ポリーナ・アファナーシェフ
【真名】???
【性別】男
【身長・体重】199cm・100kg
【属性】秩序・狂
【ステータス】筋力A++ 耐久EX 敏捷A++ 魔力B 幸運E 宝具A++
【クラス別スキル】狂化EX:幸運を除いたステータスが大幅に上昇する。併し、目に映る者が総て『A■■l』の亡霊に見える為、それを掻き消そうとしてくる。畢竟、見境なく目に付いた人間を攻撃し出す。たとえマスターであろうとも、召喚時幸運判定に失敗すると、見間違えられ、殺害される。令呪や精神干渉系の魔術で一度正気に戻し、自分が『A■■l』でないことを証明し、彼に認められれば、マスターの声のみは届くようになる。
【固有スキル】単独行動B:マスターからの魔力供給を絶ってても、暫くは自立行動できる能力。マスター不在でも二日間の現界が可能。
他、二つのスキルを持つ。
【宝具】
『????』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大捕捉:?
 バーサーカーに掛けられた呪い。大地から生命力を奪い取り、魔力に変える。二時間も同じ場所に留まり続ければ、レンジ内の土は完全に死に絶え、砂と化す。この宝具により、バーサーカーなのに低燃費を実現。
【Weapon】???
【解説】多くの人々に最初の人殺しとして認識される存在。弟に怨まれているようだが?


 皇さまもそうだけど、ウチはインフレがおかしい。

 そして、空気の精を操り、高度な精神干渉能力を持つジュリエット。一体彼女は何者なんだ……?
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