PERSONA~Stand By Me   作:伊弉諾

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むむむ••••••編集とかまだ慣れないなぁ


始まり②

「--る」

 

 

「ん……?」

 

 

ふと名前を呼ばれた様な気がし、目が覚める。

開けた視線の先には遥の顔があった。顔を覗き込むように立っている。

驚き息が詰まる。

 

 

「もう! 人をそんな化け物でも見るような目で見ないでよ!」

 

 

遥は怒るが、それは無理な注文だろと内心ツッコミをいれる。目覚めた時に目の前に顔があれば誰だって驚くだろう。

 

 

「ん?」

 

 

いきなりの事で驚いた為に気付かなかったが、今この部屋にはとてつもなく食欲をそそる匂いが漂っている。

とても香ばしい匂いだ。……"若干香ばしすぎる気がするが"。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「いや、美味そうな匂いがするなと」

 

 

「あっ!」

 

 

俺の言葉を聞くや否や遥は勢いよく台所へと走っていった。

先程は夕食を作ると言っていた。俺が寝る前に言ってたのに何を今さら慌てているのだろうか?

 

両親が生きていた頃は自分で夕飯を作ったりもした事があるが、料理中に慌てた事などカレーを火にかけたまま忘れていた時くらいである。

 

遥は間が抜けているような感じはあるが、まさかさすがにそんな初歩的なミスなどしないだろう。

 

……しかし、嫌な予感はやはりと言うかなんと言うか、意外と当たってしまうものである。

 

 

「あっちゃ〜」

 

 

何やら奥でやっちまったと言わんばかりに不吉な感じの声が聞こえた。気のせいであると祈らんばかりである。

 

 

「夕飯、焦がしちまったか?」

 

 

 

「……ウン」

 

 

 

やれやれ、というやつだ。

 

 

 

「まあ、仕方ないさ。誰にでもミスをすることはある」

 

 

 

「……ゴメンナサイ」

 

 

 

キッチンからショボくれた遥が重い足取りで帰ってきた。

俺も一々文句は言うつもりもない。遥を座らせ適当に話を振ってやる。

 

 

「気にするなよ。それよりも叔父さんはどうした?」

 

 

「んー? さっき部屋に戻るって言ってたよ。明日も仕事早いから、歓迎会は後日改めてってさ」

 

 

焦げた夕飯をご飯の盛られた器に掛けながら、遥は答えた。晩飯は……カレーだ。

 

 

「そうか……いただく」

 

 

見た目では焦げてるとかはよくわからない。焦げている以上かなり苦かったりするのだろうか。

恐る恐る口に含んでみる。

 

 

「ど、どう?」

 

 

……これは。

 

 

「苦いな」

 

 

「あ……そ、そうだよね……」

 

 

口に含んだ瞬間から焦げ独特の苦味が口の中を支配する。思っていたほどではないが、正直言って失敗と言えるだろう。

だが。

 

 

「でも、美味いんじゃあないか」

 

 

「!」

 

 

遥のショボくれたが一気に明るくなる。

自分でも失敗していたと思っていたのだろう。

食べた瞬間から嫌な顔をされるかもしれないと。

故に俺の発言は、遥にとって嫌な言葉ではないはずだ。

 

 

「本当⁉」

 

 

「ああ」

 

 

我ながら素っ気ない返事だとは思ったが、別に世辞を言ったつもりや気を遣って美味いと言ったわけではない。

この味の感想は本心。

 

 

「そう言って貰えると嬉しいよ!」

 

 

遥も言葉を聞いて若干照れているようである。

内心、自分自身でも言うのが小っ恥ずかしかった。

 

 

「えへへ〜、いいお嫁さんになれるかな?」

 

 

頬を赤らめながら冗談混じりで言う。

 

 

「ああ、なれるだろう」

 

 

この言葉にまたえへへ〜と笑って見せた。

こうして見ると素直に可愛いところもあるのではないだろうか。

 

しばらくして、夕飯を完食した後は遥となたわいない会話をしていた。

 

 

 

「ねえ、向こうってどうだった? 前の学校とかさ」

 

 

「……」

 

 

訊ねられた言葉に少々頭を回す。

と、いうのも、前の学校では適当に過ごしていたからだ。

周りとは違う不思議な能力、スタンドを持っていたせいか、他人の目をずっと気にしていて、周囲の意思とは関係なく、自分自身で浮いた気持ちでいた。自分がスタンド能力を持っているのに気付いたのは中学三年になってからだが、いかんせん、スタンドは他人には見えない。自分だけ普通じゃあない。そんな疎外感から、気づいた時には常に他人とは距離を取るようになっていたのだ。

思い出と言えば両親くらいだろう。

 

 

「あ、不謹慎だったよね、ごめん……」

 

 

沈黙があったせいか、気付いたように遥が言った。

最初は何のことかは分からなかったが、意味を理解した時、自然と笑いがこぼれていた。

 

 

「ふっ、別に大丈夫だ。もう過去の話だろ」

 

 

両親が死んだ事なんか気にしちゃあいない、と続けた。

 

 

「でも……」

 

 

「良いって言ってるだろ。それより、向こうにいた頃の話だったか?」

 

 

「……ありがとう」

 

 

遥がボソリと呟く。またしても小さく笑いをこぼした。

 

 

「ねえ」

 

 

「ん?」

 

 

「あだ名とかないの?」

 

 

いきなり何を言い出すのかと思えば、あだ名に関しての話題である。

 

 

「ないことはないが、俺はあまり気に入ってない呼ばれ方でな」

 

 

「なになに⁉ どんなの⁉」

 

 

急にテンションを上げだす。感情の起伏が激しい奴だ。

遥がどんなのを想像しているかはわからないが、対したものではない。

 

 

「それはな……」

 

 

「うんうん!」

 

 

暫しの間を置く。

遥が静まったところで、その可笑しなあだ名を口にした。

 

 

「『ジョジョ』だ」

 

 

「ジョジョ?」

 

 

「ああ。俺の名前の『ゆづる(由鶴)』ってのを『渡す』って方の『譲(ゆずる)』だと思ってたやつがいてな。苗字の『月夜城』の『城』と『譲』のそれぞれの音読みで略して『ジョジョ』だそうだ」

 

 

「ププッ、変なの〜」

 

 

「……フン」

 

 

しばらくの間、互いの身の上話に華を咲かせた。

遥の話は、今まで人との関係を拒絶していた自分にとっては新しいものばかりだった。

遥はよく男子から告白されたりしているらしい。可愛い見た目をしている遥は男からは好かれやすいのだろう。自分はごめんだが。

女友達や男友達も沢山いるとのことだ。そして、告白を断り続けているのは、今、好きな人がいる。そんな遥の話を食い入るように聞いていた。

自分の身の上話は余り多くは語らない。思い出が少ないからだ。

敢えて言えば影では喧嘩や酒、煙草をやってたことくらいか。

やがて、互いに話を切らした時、二人の間には静寂の空気が流れていた。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

気まずい。

何故だか、遥は自分の過去を語り終えた辺りから妙に静かなのだ。

そんな沈黙が長く続いた。聞こえるのは、外で降っている雫の滴るような雨音のみ。一体どれだけの間互いに黙り込んでいたのだろう。ふと棚の上に飾られた時計に目をやる。気付けば時刻は24時になろうとしていた。

 

 

「ああ、もう12時か……。そろそろ--」

 

 

寝ようか。

そう言おうとした時、遥が何かを思い出したかのようにあっ!と大きな声を上げる。

 

 

「どうした?」

 

 

「マヨナカテレビ!」

 

 

「!」

 

 

自分でもすっかり忘れていた。時間までは残り1分と43秒。

互いに顔を見合わせる。そして、遥は立ち上がると手を掴んで走りだした。

 

 

「どこに行く?」

 

 

走りながら遥へと訊ねる。

遥は良いから着いて来てと言葉を制した。

やがて辿り着いた場所は、家の一角にある物置だった。

 

 

「どうして物置なんかに……」

 

 

「 入って」

 

 

「?」

 

 

遥に促されるまま物置の戸を開ける。

ズリズリと如何にもそれが古いであろう事を象徴するように戸は唸る。

やっとの事で重い戸を開け、中へと足を踏み入れた。

中を見回すと、意外に広く、様々な物が置かれていた。

その物置の隅に、埃を被った黒い箱が目に入る。

 

 

「テレビ……か」

 

 

紛れもなく、それはブラウン管型のテレビだった。物置ということもあり、電源は入らないだろうが。

わざわざ物置まで来る必要があったのか。居間にはテレビが無いため、一応仕方ないと言えば仕方ない。

 

 

「あと、30秒……」

 

 

遥が携帯の液晶を見ながら呟く。

短い感覚で遥の息が吐かれていた。寒いわけでは無いが、心なしか震えているようにも見える。

 

 

「20……」

 

 

そう思う自分も内心では緊張に近い感覚だった。心臓の鼓動は速くなり、息は荒くなる。

 

--ただ都市伝説を確かめるだけじゃあないか。

 

そう自分に言い聞かせる。

 

 

「10……」

 

 

遥の言葉がふと脳内で再生された。

 

--中にはテレビに落とされて殺されちゃうんだって。

 

自分が落とされたらどうする?

••••••不安だ。

 

 

「--3、2、1……」

 

 

ブツッ。

 

 

「‼」

 

 

「な……。て、テレビが……点いた……」

 

 

信じられない。

このテレビはコンセントが挿さっていない。電源が点くはずが無かった。

しかし、たった今、目の前でテレビは点いた。常識ではあり得ない事である。

 

呆気にとられるていると、暗かったままのテレビの画面が一転し、何やら背景が変わった。

未だ静寂の中、二人の唾を飲む音のみが空気を伝わる。

 

静寂を切り裂く様に、テレビから声が割って入った。

 

 

『ライバル、それは--』

 

 

「……」

 

 

『"強敵"と書いて"とも"と読む!』

 

 

ナレーションに従う様に画面には大きく『強敵』の文字が現れ、『とも』のルビが降られる。

 

 

『高校生同士の決死の格闘番組! 新たな伝説が今、幕を開ける!』

 

 

格闘番組?

こんなマヨナカから?

自分の頭上にはきっと『?』が浮かんでいることだろう。チラッと遥の顔も見ると、彼女も訳の分からなさそうな表情を浮かべていた。

 

数秒の間を置き、画面が変わった。ステージの様な場面である。

と、またしてもナレーション。先程までの声とは違うようだ。

 

 

『漢の中の漢達! 出て来いクマァーーー!』

 

 

ステージの注意で、多くの歓声と共に丸っこい謎の生物が杖の様な物を片手に叫んでいる。そしてそのステージの中央にはデカデカと『P-1 Grand Prix』の文字。

--ぴーわんぐらんぷり?

よくテレビなどで『R-1グランプリ』や『M-1グランプリ』といったものを目にするが、そういった類のものなのだろうか。

 

叫び終わったところで、場面が切り替わり、一人の制服姿の男の後ろ姿が映し出される。

地面には刀が突き刺さっていた。

 

『可愛い菜々子は誰にも渡さん! "鋼のシスコン番長"鳴上 悠!』

 

 

シスコン番長? 鳴上悠?

何が何なのか訳がわからない。頭上の『?』マークがまた一つ増えた。

鳴上と紹介された男の全身が映し出される。整った顔立ちで、短い銀髪。おまけに刀を構えたその姿は、先程の『シスコン』の言葉もあいまって、色んな意味で危ない奴に見えてしまう。

それによく見たらこの男の制服は八高のものだ。これから世話になる高校にこのような危なそうなやつがいるというのでは、とても安心など出来たものではない。

 

 

「ねえ、シスコンって……」

 

 

「いや、何も言わなくていい……」

 

 

遥の言葉を遮る。

こいつの言葉を最後まで聞いては、なんだかまずい気がした。

 

会話と呼べるかどうかも分からない短い言葉の受け渡しを終えると、ナレーションは次の人物の紹介に入っていた。

 

 

『寂れた田舎を踏み台に、大英雄に俺はなる! "キャプテン・ルサンチマン"花村 陽介!』

 

 

ナレーションと同時に少々やんちゃそうでヘッドホンを掛け、橙色の髪をした男が映し出される。またしても八高の制服だ。

--もしかして八高はこんなとんでもない事をやらせる部が存在する高校なのだろうか。だとらしたら自分はとんでもない高校に編入しようとしているのかもしれない。

そう思ったが、今はテレビは『点いていない』状況なので、それはない、と頭を振った。

 

 

「ルサンチマンってさ、卑怯とか、そういった意味合いの言葉だったよね?」

 

 

「た、多分な……」

 

 

やれやれ、といったところか。遥も一々返答に困るような事を聞かないで欲しいものだ。

 

妙な汗を掻いている自分を余所に、選手紹介は続く。

 

 

『"女を捨てた肉食獣"男勝りの足技系ドラゴン! 里中 千枝!』

 

 

紹介と共に現れたその女子は上は明るい緑色のジャージ、下はスカートという奇妙な格好をしていた。だが奇妙なのはそれだけではなく、スッキリとしたら顔立ちや、女子であるが故の華奢な身体付きとは裏腹に、画面越しでも闘気のようなものが伝わるのだ。

そしてジャージなので正確には判断出来ないが、先の二人がそうだったように、この女子も八高であろう。

一応"格闘番組"というが、ようやくそれっぽいのが出て来た。

 

ーー何故だろう。

 

ただの不思議な、いや、『ただの』なんて言葉を使うのはおかしいが、ともかく、不思議なテレビを見ているだけなのに静かに興奮している自分がいる。心の内に何か燃えるものを感じている。

 

 

「ゆづ……ジョジョ」

 

わざわざあだ名で言い直す辺り、遥もジョジョという呼び名を気に入っているのだろうか。

 

 

「なんだ?」

 

 

「なんか、不思議な気分だね……」

 

 

遥も同じ気持ちなようだ。こいつからも何か、特別な何かを感じる。変な感情では、ましてや恋とかではないが、惹きつけられるような不思議な感情があるのを自分自身理解していた。

 

 

「アイアン・セイヴァー」

 

 

気が付くと無意識の内に口が動き、自分のスタンドの名を発していた。

自分の背後にその像(ヴィジョン)が現れる。

 

 

「やれやれ、遥」

 

 

「ん……? どうしたの?」

 

 

名前を呼ばれた遥はテレビの薄暗い明かりでもわかるくらいにピクリと眉を動かした。

少々低い声を出し、怯えさせてしまったのだろうか。反省しなくては。

 

 

「何か違和感を感じないか?」

 

 

「な、なんのこと?」

 

 

ただ感じたものを口にし、遥へ訊ねただけだった。

なのに遥は息を荒くし、返事をしたその声には焦りを含ませていた。ブラウン管テレビの液晶から放たれる薄っすらとした明かりは、遥の顔を伝う汗を照らしていた。

これは明らかに動揺している。

何故そう思ったのか。テレビの内容や今起きているそもそもの事象に現実味が無さ過ぎて単に落ち着いていられないだけなのかもしれない。だが、そんな考えをも跳ね除け、今自分は遥が何かに動揺していると思う自信があった。

この様子を見るに、遥は何かを隠している。

そう思えた。

 

 

「……お前、何かを隠してはいないか?」

 

 

予定していた質問を変え、遥へと問う。

しかし「なんのこと?」と飽くまでも白を切っている。証拠があるわけじゃあないから執拗に迫る訳にはいかない。

「そうか」と会話を打ち切り、テレビへと向き直る。が、テレビは気付けば元の無機質な黒に染まっており、うつるのは二人だけとなった。

 

光のない倉庫の中でも二人の姿はテレビに写っている。

何故なら、映像が消えたはずのテレビ画面から光が放たれているからだ。

その光の声か、不意に何者かの呼び掛けが頭に木霊した。

 

 

"俺は、恐ーーをー生きーーもう。世界ーー立つもーは、ほーーけな恐怖をも持たぬものッ!"

 

 

ーー呼んでいる。マヨナカアリーナが俺を。

 

 

まだ脳内で何者かの声が響いていた。その声とテレビからの光に導かれる様に画面へと手を伸ばした。

 

 

「な、何してるの?」

 

 

横で遥が不安げな声で訪ねる。

そんな声をも今の自分の耳には入らない。

伸ばした手は段々とテレビへの距離を縮め、画面につっかえる事なく貫通してみせた。

手品なんかとは全く違う。今更驚きはしなかったが、内心、まだ実感があまり無かった。

 

画面はズブズブと手を飲み込んで行き、手首から肘へ。肘から肩へと。

そして引っ張られるようにしてテレビへと"落ちた"。

 

その落ちる途中見てしまった。テレビの中に顔だけをいれ、不敵に微笑む遥の顔を。

 

ーーそれを最後に意識は闇の中へと消えた。

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