PERSONA~Stand By Me   作:伊弉諾

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テレビの中へ……

「う、うぅ……」

 

 

頭が割れるように痛む……。

半ばボヤけている目を擦り、頭を抱えた。

意識を手放してからどれくらい経った頃だろうか。目覚めた時には空は太陽の照る晴天だった。

ーー自分は今まで室内にいたはず。

外は雨で、遥とマヨナカテレビを見ていた。そしてテレビに触れ、どういうわけか目を覚ましたらここにいた。

そして今、目線の先にはこれから通う八高校舎が構えている。

何故ここに来たのか必死に思い出そうとするも、やはりここまで来た記憶が全く無い。

あれやこれやと推測をしようにも何故こんな場所にいるかがわからない以上推測のしようがない。右も左もわからないのだ。例えるならばセンター試験に行こうにも大学の場所がわからずにウロウロしている受験生のようだ。

これからの行き場も分からないのであればどうする事も出来ない。取り敢えずこれからの行き先を決める為にも何か行動を起こさねばならない。

 

そうなればまずは状況の把握からである。自分がどういう経緯で八高前に来たかは不明だが、この目の前の校門が『もし八高だった場合』は自分はこの辺りにはまったく土地勘がない為、何者かに襲われた場合は同じ新入りでない限り、スタンドを使えるという事を差し引いても中々に不利である。そのディスアドバンテージを少しでも軽くする為にも状況の把握、ひいてはこの場所の理解をしなくてはならない。

 

そうなった場合、人探しもしなくてはならないが、辺りを見渡す限りここらには自分以外の何者もいないようだ。それどころか普通はするであろう路上を走行する自動車の騒音や、近所のオバサン方の話声すらも聞こえてこない。

 

 

「やれやれだぜ……」

 

 

何もないんじゃあ話にならない。

ともかく行動を起こさねば。少々危険だが校舎に入ってみよう。

そう思い校舎へ向けて足を踏み出した矢先の事だ。

 

 

「アッチョーーーゥ!!」

 

 

何者かに背後から襲われた。

攻撃された勢いで声を出す暇もないまま数メートル吹き飛ばされる。

地に着いたが、勢いを付けられた体は慣性に従い2メートル程転がされたのちようやくその動きを止めた。

全身が痛む。

いきなりの事で受け身すら取れずにいたまま転がったために身体のあちこちにはそれなりの負荷が掛っていた。

 

荒ぶる呼吸を何とか整え、上向けの体勢のまま上体を起こし自分を蹴り飛ばしたであろう襲撃者の方へと目を向けた。

 

 

「! お前は……ッ!!」

 

 

目線の先、丁度5メートル程先に立っていた自分を襲った人物、それは。

 

 

「もっと周りに注意しなきゃダメじゃん!」

 

 

テレビでの紹介にもあった『女を捨てた肉食獣』里中千枝だった。

肉食獣。そのリングネームに相応しい凄まじい威力の蹴りだった。自分が男で、普段から鍛えていなければまずかった。暇な時に行っていた筋トレがこんな時に役に立つとは、自分自身思ってもみなかった。

 

里中千枝はカンフーのようなポーズを取りいつでも戦闘を出来る体勢を取っていた。それに比べて自分は上体を起こしているだけの状態。いわゆる『幽体離脱ッ!』の格好である。攻撃してこられたら少々マズイ。

だが里中千枝はチャンスだというのに自分を見下ろしたまま、攻撃してこない。一応警戒しているのだろうか。

何にせよ攻撃してこないのならば都合がいい。

ゆっくりと立ち上がり、女の目を睨む。

 

 

「おっ、ヤル気になった?」

 

 

挑発するかのように言った。

女如きに舐められたものである。いや、追撃をいれて来なかったのを考えれば警戒はされているのだ。とすると、こっちから攻撃をさせ、こちらの動きを探ろうという魂胆であろう。

生憎だがと、こちらがその手に乗る事はない。

何故ならこちらもまた、相手の出方を窺っているからである。

 

沈黙という名の警戒音が鳴り響く。それは聞こえる事はなく、ただ今の互いの関係を表していた。

ーー先に動いた方が負ける。

誰が言うでもなく、それは理解されていた。それ故のアラート。

 

動かねば埒が空かないというのもまた事実だが、未知の敵に睨まれれば睨まれる程に下手に動く訳にはいかない。

こういった戦いにおいて、敵情を探るというのは大変重要な行為である。

互いに無言のプレッシャーを与え続け、心理的攻撃を続ける。

地味ではあるが、それがこの場において一番重要且つ有効であるというのは、素人でも分かる程に大切な事だ。

 

やれやれ。

 

両親の通夜やら何やらで忙しくて、まともに身体を動かしていなかったから久々に運動出来ると思えばケンカだ。

 

やってやる。

 

 

「アイアン・セイヴァーッ!」

 

 

拳を握りしめ、スタンドを発現させた。

 

発現させたは良いものの、このスタンドは遠距離戦を得意とする相手には有利だが近接戦闘を主としているヤツにはそこまでの有効打点にはならない。そしてこの女は見たところ足技をメインに仕掛けてくるタイプ、言うなればカンフーをメインとした戦闘スタイルで間違いないだろう。それにこの構え方には余り隙がないようにも思える。

そこでスタンドの出番というわけなのだ。スタンドはスタンドを使うもの、通称スタンド使いにしか見ることが出来ない。相手は女でましてやスタンド使いではなさそうだが、最早ただ事ではないのだ。多少手荒いマネをすることになっても対象を沈黙させる必要がある。

 

 

「行くぜッ!」

 

 

怒号と共に里中千枝へ向けて走り出す。

 

 

「オラァッ!」

 

 

間合いに入った所でセイヴァーによるパンチの突きを放つ。

気絶だけさせれば良いので、狙うは鳩尾だ。

アイアン・セイヴァーはスピードもパワーも中々の物だ。昔ちょっとしたことで一度だけ岩石を殴ったことがあるが、咄嗟に出したそれでも岩を粉砕する程のパワーだった。スピードも岩石との距離がほんの数センチであったにも関わらず見事に出し切れた。人一人気絶させるくらいわけ無いのだ。

 

 

「ッ!」

 

 

息の詰まる音と共に、案の定里中千枝は吹き飛んだ。

勝利を確信した。

相手はいくら襲撃者とはいえ、少々手荒かったかもしれない。女が相手が故に呆気ない幕切れとなってしまったが、起き上がってこなければ、それでいい。こちらとしても無意味な争いは避けたいところである。

 

そう願う気持ちも余裕もいとも簡単に崩れた。

吹っ飛ばしたはずの里中千枝が何事もなかったかのように起き上がる。

 

 

「痛たた〜。油断しちゃったね、こりゃあ」

 

 

「馬鹿な……」

 

 

目を疑った。岩をも粉砕するパンチを、いくら威力を弱めたといえど生身に、しかも不意打ちに近い形で与えた。しかも相手は女。女は男よりも筋肉の発達が弱い。自分と同い年ぐらいだろうが、男でも痛みで立ち上がれなさそうなパンチを、それも女がくらって顔色一つ変えずに立ち上がるなどあり得ない。

やれやれだ。

粉砕されそうなのは里中千枝ではなく俺の自信の方であるようだ。

諦めるワケにはいかない。

いきなり襲って来たのはこいつだ。しかもケロっとしている。こいつを倒してこの状況について洗いざらい吐かせなければ。

二度目の攻撃体制に移った時、里中千枝は不思議な言葉を口にする。

 

 

「にしても驚いたよ。まさか他にもペルソナ使いがいたなんて」

 

 

「何?」

 

 

ーーペルソナ?

ーーこの女は今ペルソナと言ったのか?

曖昧な記憶を探る。"ラテン語"で"人"や"仮面"といった意味であっただろうか。

この女の言うペルソナはこの二つのどちらの意味でもないことくらいわかっていた。この状況でそんなことを口にする奴は頭がイかれた野郎くらいである。

では一体なんの事か。

それを理解するのに時間は掛からなかった。

 

 

「君のだけ見たんじゃ不公平だからね。見せてあげる。……トモエ!」

 

 

里中千枝は叫ぶように何かを呼ぶ。その瞬間里中千枝の目の前に一枚のカードが現れ、それを里中千枝は蹴り砕く。

そして突如にして現れる像(ヴィジョン)。傍に立つその姿は、正しくスタンドそのものだった。

どうなっている……。

昔父から聞いた事がある。スタンド使い同士は引かれ合うと。もしそれが今、この場面に当てはまるとすれば、かなりマズイ。

この女はただの女子高生じゃあない!

新手のスタンド使いだったッ!

だとすれば納得がいく。セイヴァーの攻撃を受けておいて平気だったワケが。

一瞬で、ほんの一瞬でスタンドを出しセイヴァーのパンチを受け止めた。スタンドの扱い方も戦いそのものにおいてもこの女、とても慣れているッ!

 

今の自分の脳内は何をどこに置いたかも分からないくらい散らかった部屋のようにゴチャゴチャしている。

相手の能力が分からない今、迂闊に手を出せない。また振り出しに戻ってしまった。

 

 

「そんなことより肉が食べたいなァ〜」

 

 

里中千枝は不意に呟くとふらふらとこちらへ歩み寄る。

ーー何をしてくる気だ?

尚も小さく「肉••••••肉ゥ••••••」と呟く里中千枝に鳥肌が立たずにはいられなかった。

 

 

「おいおい、里中千枝、何を言っている? 脳味噌が糞になったのか?」

 

 

「肉……」

 

 

罵声を浴びせるもその足を止めることをなく、一歩、二歩と近づいてくる。どうやらこちらの言葉が耳に入っていないようである。

普通じゃあない。里中千枝という人物を自分は全く知らないが、これは一般に見ても異常と言えるだろう。まるで何かに操られているようなーー。

重い足取りで、しかしどこか軽快に近づいて来ている様を見て悟った。やはり戦闘は避けられないと。

互いに射程距離内に入ったであろう時、ついに里中千枝は地を蹴り、飛び掛かる事でこちらとの間合いを一気に詰めた。

 

 

「肉ー! 食わせろー!」

 

 

戦いのゴングは鳴らされた。

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