突如どこからともなく響き渡った声のあと、千枝に向かって高速で跳ぶ石ころはバラバラに砕け散った。
「な、なんだぁぁ⁉」
「あ、新手のスタンド使いか⁉」
俺は石ころが砕ける瞬間、確かに見た。ほんの一瞬ではあるが、校舎の屋上側から飛んで来た弾丸が石ころを粉砕するのを。
慌てて銃弾が発射されたであろう方向を見るも既にそこには何もおらず、ただ穢れ一つのない綺麗な青空が広がっているだけだった。
「これもスタンドの仕業?」
「間違いないだろうな。••••••地面を見てみろ」
言って地面の弾丸の着弾地点を指差す。千枝の足下に近いその跡にはめり込んでいるはずの弾丸は存在せず、ただ5.56mm程度の抉れた跡が残っているだけだった。
スタンドは物質ではない。スタンドの射程距離外になれば能力は消える。
「••••••なるほどね」
「やはり俺がここに来たのは他のスタンド使いの影響だったか」
だとすればやるべきことは増えたということになるだろう。
「お前の仲間達の調査の他にこのスタンド使いの正体も暴かねばならなくなったな」
「••••••そうだね」
心なしか千枝は緊張しているようにも見える。
二人で目を合わせ、校舎へ向かって歩き出そうとした時。
《いや〜、素晴らしい戦いだったクマ!》
「! お、お前は‼」」
「な、何⁉」
刹那にして現れた巨大なモニター。そこにはマヨナカテレビで見たあの丸い謎の生物が映っていた。
「クマ君!」
「なに••••••?」
こいつがクマだと••••••?
クマ••••••くま••••••熊••••••?
この見た目で熊とは、最早何が何だかわからない。
それは最初からだというツッコミも受け付けない。
《キャーー!! 月夜城先輩すっごーい! あの里中先輩を倒しちゃうなんて!》
「次は女か」
「りせちゃんまで!」
「りせ••••••?」
りせという名前、聞いたことがある。
確かこの八十稲葉出身のアイドルだったか。だが何故アイドルなんかがこんなところに••••••?
そもそも何故名前を知っているのだろうか。俺は有名人の知り合いなど一人もいないし、芸能関係で働いている知り合いもいない。
《見事勝利した月夜城先輩には先に進む権利が与えられるよーー! 》
先に進む権利か。何かの試合や大会でいう二回戦出場の権利とかそういったものなのだろうか。
《では、勝利した月夜城先輩を称えて総統からお言葉です!》
《イレギュラー••••••イレ、イ、い、いい、イレ••••••》
「な、なんだ••••••? 様子がおかしい」
ノイズのような音と共にその丸い生物はゲームのバグのようにしきりに同じ言葉を繰り返している。
やがてノイズが治まるや否や、クマはついさっきのバグが無かったかのように振舞って見せた。
《••••••。あーあー、もう面倒くさいから開催宣言だけさせてもらうクマ!》
「何を言っている。それに何故そのりせとかいう女は俺の名を知っているッ!」」
「どういうこと! クマ君!」
千枝も俺も頭の中が混乱しているようだ。
《あーもう、うるさい外野達クマねー。ゴチャゴチャ言っとらんと今は黙りんしゃい! 》
しばしの間を置き、クマは高らかに宣言する。
《うおっほん! それでは改めてーー! Pー1グランプリ! ここに開催クマァァァ‼》
クマはそれだけ言うと画面から姿を消した。モニターには何も映っておらず、ただ真っ暗な背景が映るのみとなった。
「訳がわからん••••••」
理解し難い事態に思わず頭を抱える。
考えること、これからすべき事が多すぎて何からすべきなのかすらわからなくなってきそうだ。
「Pー1グランプリか••••••。俺はまずは一勝と言ったところだが••••••」
「とりあえず先に進もうよ! こんなところで立ち止まってても仕方ないし。クマ君がどうしてあんな変な格好してたのかも気になるし••••••」
「りせとかいう女も心配だしな。そうするか••••••」
俺達は一度現時点での思考を全て振り払い前へ進む事を決意した。
俺は一歩、二歩と前へ進む。
千枝はというと。
「••••••何をやっているんだ?」
何やら千枝は空間に手を滑らせ、何かを手探りで探しているような行動をとっている。いうなればパントマイムというやつだ。
「ち、違うよ! あたしの周りに見えない壁みたいのが••••••」
「何だと?」
俺は千枝の元へ戻り、千枝が触れていた空間を触る。が。
「何もないじゃあねえか」
「そんなはずないよ!」
千枝はまたしてもパントマイムをやっている。はたから見れば何もないところで手を滑らせているだけ。まさしく変人にしか見えない。
「ぐ••••••そんな目で見ないでよ••••••」
「はあ、やれやれってやつだ」
見兼ねて千枝の手を取り引く。
しかし千枝はまるで何かに引っかかったかのようにその場から動けないでいる。
「どういうことだ••••••⁉」
「い、いたたたた! 痛い! 放して!」
「む、す、すまん」
しかし、動けないのではどうすることも出来ない。セイヴァーの能力でも解決出来るような問題ではなさそうだ。
「致し方あるまい。後で迎えにくる。良い子にして待ってろ」
「冗談はいいから! 早く行って! みんなはもう戦いを始めてるかも知れない!」
「ああ、そうだな」
俺は千枝背を向け、その場から離れる。
校舎内へ後数歩と言ったところで、千枝が大きな声で俺を呼ぶ。
「つ、月夜城君!」
「どうした?」
「モニター見て!」
またまたどうしたというのだろうか。
急ぎ足でモニターの見える場所へ戻る。
モニターの画面を見上げるとそこには、さっきの映像とはまるで違う、しかし同じという何とも不気味なものが映っていた。
映っている人物はクマとかいう変な格好をした生き物ではあったが、雰囲気がまるで違う。
数秒見つめて、ようやくその違和感の正体がわかった。
「あいつ、目の色がおかしいな」
「え••••••?」
さっきまでクマの目は金とも黄色とも言える不思議な色をしていたが、今のそれの色は血でも巡っているかのような真っ赤な色をしていた。充血やらそんなものではない、真なる赤なのだ。
「何が起こっている••••••?」
「あ、あたしにもわからない。何が何だかさっぱり••••••。頭がどうにかなりそうだよ」
モニターには全く変化はない。だがモニターからは威圧感がビシビシと伝わってくる。まるでモニターそのものが生きているかのように。
《ジョースターの血統》
「!」
「ジョ、ジョースター?」
不意に画面越しのクマは口を開いた。その声は先程までのふざけたテンションではなく、冷たい感じの、しかしどこか甘く魅力的なものとなっていた。
《ジョースターの血統は残さず根絶やしにする。世界を統べるのは! いいかッ! 世界の頂点に立つ者はこのオレ一人よッ!》