「後悔すんなよ! 行くぜェッ!」
花村陽介はペルソナを召喚し襲い掛かる。
俺もそれに応戦しスタンドを発現させる。
「来い! お前のその貧弱なペルソナでどこまで俺と戦えるか! それを見せてもらおう!」
「あんまり舐めた口聞いてんじゃあねェーぞ! 痛い目に合わせてやる……!」
花村陽介はそう言い捨てるとペルソナをセイヴァーに向け突進させる。だがその攻撃は"浮いていた"。
「地から足を離すとはな。だから貧弱なんだよォー!」
すかさずセイヴァーでジライヤを隔離させる。これでペルソナを限定的にだが封じた。
この隔離中の限定的な時間が勝負の鍵だ。
「さあ、ケンカの時間だ。『タイマン張るか⁉︎』ってやつだぜ」
「こっちはクナイだぜ! 丸腰で突っ込んでくるなんて無謀だとは思わねーのか⁉︎」
花村陽介の言葉には耳を傾けずひたすらにその男へ突っ込んで行く。
俺自身の実力とセンスでこの戦いに勝利する。相手が素早いのならこちらは力と頭脳で押し切るまで。
「オラァァッ!」
顔面へとまずは一発。
受け止められるとは思っているが、だとすればそれこそが俺の狙い。
「おっと! 今度は受け止めたりなんてしねぇーよ?」
「チッ!」
一歩飛び退いた後、次の拳を振るう。
「よっと!」
「!」
花村陽介は受け止めも避けることもせず"受け流した"。
それも、ただ受け流すだけではなく、すれ違いざまに足払いを掛け、俺の足を掬ったのだ。
「こいつ……! 舐めやがって……!」
無意識的にギリリと歯を擦らせる。握り拳には自然と力が篭っていた。
花村陽介は不敵な笑みを浮かべながら言う。
「ただ転ばせただけじゃあねぇーんだぜ。お前の身体に"毒を仕込んだッ"!」
「何ッ⁉︎」
言われてみれば何だか頭が軽くなって行くような感じがしなくもない。そして全身を蝕むように徐々に増していく痛み。
腹部に手を当ててみると、先程付けられた傷とは別に、少々大きめの切り傷が出来上がっていた。恐らくすれ違いざまに腹部にもダメージを与えられ、そこから毒を貰ったのだろう。
毒が回って来ているところで、時間切れだ。
「セイヴァー……空間隔離解除だ……」
毒の進行は予想以上に速く、全身への激痛が肉体を支配していた。
「どおだァ? じわりじわりと毒が蝕んでいく感覚はァー?」
「ヌゥッ……。便所のネズミのクソ以下の存在が……! この程度、姑息な手段に過ぎん……!」
花村陽介は腹を抱えて笑いながら、地面に膝を着く俺を文字通り"見下していた"。
「さてとッ! 早いけどそろそろ決めさせてもらうぜッ!」
クナイを構えた右手が降りてくる。それは首元の頸動脈部分へと到達すると動きを止めた。
直ぐには殺さないのは、こいつが単に甘いだけではないだろう。
「クッ……」
戦争での敵国に捉えられ捕虜となった兵士の気持ちが何と無く分かる。彼らは縄や枷で縛られ身動きが取れない。武器すらも取り上げられ、最早抵抗する術すらも持たされぬまま。これの状況とほぼ同じだ。違いがあるとすれば、俺は全身を隈無く蝕む猛毒の痛みによって身動きが取れない。動かないわけではないのだが、無理にでも動かそうとすれば忽ち電撃が走ったような、あるいは灼熱で焼かれるような、どちらも体験したことはないが、とにかく例えるならばそのような痛みが全身の筋肉を拘束するのだ。
今まさに捕虜として、いつ殺されてもおかしくないこの状況はつまり、チェスや将棋で言う”詰み(チェックメイト)”に嵌ったということ。
黙ってようにも、この時間、一秒一秒の間に死神の鎌は俺の魂を刈り取ろうとゆっくりと近付いている。長考すらも許されない。早かれ遅かれこのままだと確実に死んでしまう。
「さっきまでの意勢はどうした? せっかく待ってやってんのに……」
当てがっていたクナイを首元から離し、俺の頬へと密着させる。今度は不良が凶器を手に弱者を脅すように、ペチペチと軽く頬を叩いた。
花村陽介は完全に勝ち誇っていた。俺自身が認めているように、花村陽介も王手を掛けていると確信しているのだろう。"待ってやってる"というのもその自信から来る言葉だろう。もう何も出来ないと分かっているだけに。
それとも遺言を残す時間でもくれているのか。
何れにしても俺には必要のないものだが。必ずこの状況は切り抜けてみせる。
「ん? それともあれか……?」
その内飽きたのか、一言思い付いたかのように発し、その手を止める。
続くその一言は俺に一瞬の閃きを与えるには充分だった。
「 "助けてください〜! どうか命だけは……!"って感じに命乞いでもしてみるか?」
「!」
今までとは比べものにならないくらいに気持ちの悪い笑みを見せながらケラケラと笑ってみせる。
そんな事はする必要などない。
とっさに閃いた。
そう、俺は捉えられた捕虜とは違う。彼らには為す術はないが、俺にはまだ対抗策が残されている。日常生活においても全く使うことがなかった故に"能力で切り抜ける"方法しか考えていなかったが、俺には相棒が"いた"。
「その必要はないぜ……」
「へぇ。なんか思い付いたりでもした?」
左右の口端を吊り上げ、目を異様に細めた、その気味の悪い笑顔を崩さない。
俺は花村陽介の目を睨み付けた。これは抵抗の意思ではない。"絶対にぶっ飛ばす"という覚悟の意志。
「ああ。それはな……」
この距離ならば外すことも、ガードさせることも絶対にない。筋力ならば激痛も合間って力が出せないが、スタンドならば話は別だ。教室の端へとぶっ飛ぶくらいの一撃をお見舞いしてやる。
「こういうことだ! オラァッ!」
「グベッ……!」