何故かフェストゥムになったけど今日も元気です 作:zelga
では、どうぞ。
「で、できた・・・」
まだ日が出て間もないであろう明るさ。薄暗い作業部屋の中で俺は項垂れつつそう呟いた。
数日前に「これから先にある苦労が楽しみ」みたいなこと言ってた俺だったが、今ではそれを少し後悔している。何故かというと、見ての通り納得のいく作品ができるまで数日ぶっ通しでかかったからだ。壺の難しさは皿とは比にならないと思ってはいたが・・・まさかここまでとは思わなかった。
「ま、けどその苦労の甲斐あって十分なのができたんだけどな」
そう俺は目の前に置いてある壺を見る。その装飾は豪華で煌びやかと言うわけではなくどちらかと言うと質素なものだが、どことなく厳かな雰囲気を漂わせている。
うん、我ながら良いものができたものだ。聞いた感じでは、件の娘さんは所謂チャラチャラしたのが嫌いらしい。これなら問題はないだろう、多分。
そう考えつつ、俺は壺が割れないよう保存する。これなら、ちょっとやそっとの衝撃では罅すら入らないだろう。
そして保存し終え、片づけを済ませた俺は家の外に出る。
「ああー・・・朝日が目に染みる」
そう言いつつ俺は伸びをしながら朝日を浴びる。朝日が体に染み込んでいって身体が芯から温まっていくのを感じる。まぁ、現在進行で光合成してるから文字通り染み込んでいるんだけどな。
「さて、朝食(?)も済ませたことだし準備でも・・・」
「ふぁ~ぁ・・・て、凌平じゃねえか。おはようさん」
「ん?」
家に入ろうとした俺の後方から声が聞こえたので、俺は首だけ振り返る。すると、俺に依頼を持ち掛けてきた男が鍬を持ってこっちを見ていた。
「あぁ、おはよう。朝から精が出るな」
「まぁな。・・・にしても、暫く店開いてなかったが何してたんだお前?」
「何って、依頼だよ。俺に豪族の娘さんに渡す焼き物を焼いてくれってこの間の依頼主に頼まれたんだ」
「お前に?焼き物を?・・・本当か?」
「言いたいことがあるなら聞くが?」
「いや、別に?確かにお前さんとこの皿は質こそ安定してないが、うまくできている奴は有名どころにだって劣らねえんだ。依頼来たっておかしくはないさ」
ジト目でそう問う俺に対し、片手を振りながら男が答える。が、その男から疑念の感情を感じ取れるので結局のところ半信半疑なのだろう。なのでさっさと事実を言うことにした。
「まぁ真実を言うと、依頼主は片っ端から頼んでるみたいでな。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるって考えなんだろうさ」
「あの旦那が?てことは、相当切羽詰まってんな。あそこは仕入れの種類はかなり多いと評判だし、旦那もそう自負してるからな」
「だろうな。俺に頼んできた時もだいぶ参ってたよ」
「そりゃご愁傷様・・・で、今日行くのか?」
「あぁ。ま、その前にちょっと休むさ。さすがにぶっ通しの作業は疲れた」
「ぶっ通して・・・まさか、店が開いてなかったのも?」
「そういうことだ。作業に集中したくてな」
「前々から思ってたんだが、お前さんのその集中力はいったいどこから来てるんだ・・・?」
「このくらい本気出せば普通にできるだろ?」
「数日間食事と睡眠無しで作業し続ける奴を普通と言うのか、知らなかったぜ」
そう言う男に対し俺はうるさいぞ、と言い返す。そこから少し世間話をして、男は畑仕事に戻っていった。それを見送った俺は、準備をするために家の中に入った。
そして軽い食事をし、作業着からいつもの服装に着替えた俺は、準備を進めていく。と言っても、壺が割れないように包んだり店主から渡された地図で向かう先の確認をしたりするくらいなので1時間もせずに準備は完了した。
「・・・よし、準備完了」
それじゃ行きますか。俺は家を出て、地図に記された場所に向かって歩き始めた。
「ここが依頼主の屋敷・・・」
でかい。それがこの屋敷を見て俺が最初に思ったことだ。
永琳は多少大きい家だったし、諏訪子たちは神社だった。
なのでここまで大きい家屋は初めて見たのだが、こんなに大きいのだから掃除とか大変なんだろうなー、とした考えしか浮かばなかった。これは散々守矢神社の掃除に苦労させられたからだろう。どうにも細かい部分はできていないらしく、毎年戻った時の昼間の作業がもっぱら掃除になるのだ。あれ、俺の立場って客じゃ無くね?・・・ま、いいか。
そこで思考をいったん区切り、俺は門番であろう人物に近づく。
「とまれ。何用だ?」
「この家の娘さんからの依頼です。壺を頼まれて、それができたので持ってきました」
「なるほど・・・わかった。着いてこい」
「・・・いいのですか?そんなにあっさり通して」
あまりにもあっさりと俺の言うことを信じたので、思わずそうきいた。いくらなんでもあっさりしすぎじゃないか?
「ああ・・・ここ最近、その手の商人が大量に来ていてな。すべてお嬢様が対応しているものの、それをすべて確認するのはいささか骨が折れるんだ」
そう言いながら門番はため息をつく。・・・まさか、そんなに来てるのか?
「あの、大丈夫ですか?」
「全く、お嬢様もいい加減に・・・」
俺の言葉は聞かずにブツブツと門番は案内をしつつそう呟く。どうやら、俺が作業に没頭していた数日間の間にも結構な数の挑戦者もとい敗北者が現れたみたいだ。・・・まさかここまでとは、さすがに少し不安になってきた。
「ここだ。しばし待っていろ」
それを了承した俺を見た後、門番は奥に入っていく。おそらく娘さんに話をしに行ったのだろう。
そしてしばらくして、門番が戻ってきた。どうやらだいぶ手慣れたものだったらしく、数分しか待たずに済んだ。
「入れ。この奥にお嬢様はいる」
「わかりました」
そう返事し、俺は部屋の中に入る。はてさて、我儘お嬢様のお眼鏡にかなうといいのだが・・・。
「今度は渋いおじさまですね。まぁ、そこに座ってくださいな」
「・・・」
今、俺の目の前には件の娘さんがいる。そしてその娘さんに座るように勧められたのだが俺はそれに対し言葉を返すことができなかった。
なぜか、それは目の前の娘さんの容姿が問題だった。
薄い緑色のウェーブのかかったボブの髪に、同じく緑色の眼はその隠し切れない勝気な性格からかツリ目になっている。 服装は濃い緑色で所々若竹色が混じったロングスカートのワンピースを着ている。そして頭には紐が付いた黒い鳥帽子のようなものを被っていた。
「今回依頼を出した蘇我屠自古です。よろしくお願いします」
そう言いながら彼女、蘇我屠自古は深々と礼をした。その仕草一つとってみても、躾が行き届いていることがよくわかる。
・・・まあ正直、原作の彼女を知ってる身としては違和感の塊なのだが。
「・・・竜宮凌平です。こちらこそよろしくお願いします」
何とか復活した俺は、挨拶を返して正座で座る。
いや、まさかこんなタイミングで原作キャラに出会うとは思わなかった。確かに時代から考えるといてもおかしくはない。おかしくないのだが・・・会うことになるとはなぁ。
正直、ちょいと面倒だな。まぁ、屠自古ならまだ大丈夫だが・・・。
「では、早速ですがこちらが品になります」
そう言って俺は持ってきた荷物から壺を取り出す。それを屠自古の前に差し出して、再び下がる。それを屠自古は手に取り、全体をジックリと見ていく。その様子を俺はただ見ていた。
そしてそれから10分くらいたっただろうか。思いのほかゆっくりと見ていた壺をそっと置き、屠自古はふぅ、と息を吐いた。
「・・・如何でしょう?」
中々口を開かないので俺から尋ねる。
「そうですね・・・」
そう言いながら屠自古は俺をジッと見る。俺はそれに対し同じく屠自古を見た。
「・・ええ、大変満足する出来でした。こちらを買い取らせていただきます」
しばらく見合った後、屠自古は微笑を浮かべてそう言った。
「そうですか。ありがとうございます」
そう言って俺は礼をする。何とか認められたか、よかったよかった。
「で、こちらの壺はいくらになるのでしょうか?」
ホッとしている俺に対し屠自古はそう聞いてきた。
・・・あ、そういやどう作るかばかり考えてて値段のこと考えてなかったな。
「そうですね。こちらですとこのくらいになります」
そう言って俺は値段を示す。それは市などで売ってある一般的な壺の値段に少し水増しした価格だ。まぁ、作るのに結構時間かかったしこれくらいはもらっていだろう。と、俺は思っていた。
「・・・はい?」
屠自古のこの言葉を聞くまでは。
「どうしました?」
「いえ、本当にその値段でよろしいのですか?」
えらく驚いた表情で聞いてくる屠自古。どうしたのだろう・・・て、そういうことか。
「あぁ、なるほど。確かにこの値段ではおかしいですね」
「えぇ、よかった。さすがにこの出来でこの値段はおかしいですよ。では」
「わかっています。これでどうでしょうか?」
そう言って俺は再び値段を言う。いくら手作りとはいえ、これはあくまで俺の趣味だ。そんなものが市販で売られているものより高い値段じゃ、おかしいと思われてしょうがないか。
そう思い、俺は市販されているものよりも安い価格を言った。
「・・・・・・」
「おや、これでも高いのですか。・・・でしたら、これなら」
「ちっがーーーう!!」
「!?」
怒声。その声の大きさたるや屋敷中に響いたんじゃないかと思ってしまうくらいだった。それを間近で聞いてしまった俺は思わず両手で耳をふさぐ。一体何が彼女を怒らせてしまったのだろうか?
「お前は何考えてるんだ!?これほどの作品、そこらへんのと同じ値段なんておかしいでしょうが!」
そう言いながら立ち上がり、屠自古はこちらにドカドカと近づいてくる。おい、さっきまであったお嬢様っぽい雰囲気どこ行った?
「と、言われましても・・・これはあくまで私が個人的にやってることですので」
「個人でやってるなら尚更だ!以前出されたのはこれ以下の出来の癖に値段は数倍だったんだぞ!?」
「は、はぁ・・・すみません?」
「いいか!価値がわからないなら言うが、これほどのものはそうそうない!そもそも・・・」
そこからなぜか始まる屠自古による説教。それを俺はただ正座で聞くことしかできなかった。
一体全体俺がなにしたって言うんだ・・・。
「ゼーゼー・・・わかったか?」
「はい、身に染みてわかりました」
「ならいい。いいか?価値ある物にはそれ相応の価格がなければならないの。じゃなきゃ市場が機能しなくなってしまうでしょ?」
「はい」
疲れたのか再び座り、疲れたような声を出す屠自古。それに対し、俺も疲れたような返事をすることしかできなかった。
「・・・話を戻そう。ともかく、これはこの値段で買い取らせてもらいます。異論は認めないわよ」
「構いません」
そしてそこから話を進め、料金を受け取る。予想していたよりも多くもらったので、思わずこんなに貰っていいのでしょうか、と言いそうになる。が、屠自古の視線を感じたのでその言葉をすぐさま飲み込んだ。あぶない、また墓穴掘るところだった。
「料金は確かに受け取りました。では、わたしはこれで」
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
目的は達したのでさっさと帰ろうとした俺に対し屠自古が声をかける。と言うか、もう丁寧な口調をする気はないんですね。
「はい、なんでしょう?」
「そういや一つ聞き忘れていた。この壺の作者を教えてくれないか?」
「・・・はい?」
「これほどの一品は見たことがない。きっと、ほとんど世に出ていないのだろう?」
「えぇ、まぁ・・・」
屠自古の言ってることは間違ってない。俺のを買ってるなんてあの男くらいだしな。
「やはりか。これほどの才、腐らせるには惜しい。ぜひとも一度会ってみたいと思うのだが、どうだ?」
その作者、目の前にいますけど。
そんなことなど露知らず、屠自古は返事を期待している。なんか知らんが、どうやら俺の作品が屠自古にとってかなり高評価だったらしい。
・・・まぁ俺の作品をほめてくれたのはうれしいし、このくらいならいいか。
「それなら問題ありませんよ、蘇我様」
「と、いうことは教えてくれるのだな。で、誰だ?」
「誰、と言われましても・・・」
「ん?」
ここで俺は少し言葉に詰まる。それに対して屠自古はしっかり聞こうと近づいてくる。
・・・ええぃ、ままよ。この後来る展開がなんとなく想像できるが、俺は口を開いた。
「あなたの目の前にいますよ。その壺を作った者は」
この日、俺の聴覚は二度死にかけた。
変わり者さん、ほらイドゥンさん。感想ありがとうございました。
読んでくれてありがとうございます。
と言うわけで、神霊廟メンバーでの初対面は屠自古でした。選んだ理由は、色々と凌平と繋げやすかったからですね。原作設定を知ってる方だと何となくわかると思います。
ではまた、次話でお会いしましょうノシ