何故かフェストゥムになったけど今日も元気です 作:zelga
今回かなり急展開になります、ご注意を。
では、どうぞ。
〈 追記〉
サブタイトル変更しました。
「ハァァァァァッッッッ!!」
そう叫びながら彼女ーー物部布都は生成した巨大な炎球を前方にいる男性ーー竜宮凌平に向けて投擲する。
「・・・」
避けようと思えば避けれただろう。しかし、凌平はそこから一歩も動くことはなくその身を超える大きさの炎球を真正面から受け止めた。
威力を高く設定していたのか、炎に身を包まれた凌平はそこからほとんど苦しむ間もなく、灰となって崩れ落ちていく。
「避けなかっただと・・・?」
炎が燃え尽き、何もなくなった目の前の空間を見ながら布都が呟く。
いくらなんでもこれは妙だ。奴が妖怪と言うのは間違いないし、その実力が並ではないというのもわかっていはいた。だからこそ、自分は手加減を一切せず攻撃をしたのだ。
だが今の奴の様子。あれは確実に攻撃を受け、確実に消えていった。幻術の類の可能性もあるが、今のところその様子もない。
「妙だ、奴はいったい・・・?」
「痛ぇ、全く容赦がないなお前」
「っ!?」
だが考え事をし始めた瞬間、すぐ後ろから声が聞こえた。布都は前方に跳びながら体をひねり、先ほどまでいた場所の候補を確認しつつ距離をとる。
そこには凌平が無傷で立っていた。1分前、布都の攻撃にあたる寸前まで外見は変わらず、怪我の一つも見受けられない。
「その様子、先ほどのはやはり偽物だったか」
「いや、あれは俺さ。俺以外の何者でもない、俺自身だよ」
「何を言って・・・!」
布都が質問をするも凌平は妙な言い回しで答える。それをまともに聞く気はないと判断した布都は攻撃を再開する。
今度は凌平を見逃さないよう武器を変更することにしたのだろう。布都は懐から一枚の皿を取り出し、凌平の頭上に投げる。
そしてすぐさま弓に矢をつがえ、狙いを定めた。
まさか凌平を守るために持ってきた
布都は心の中でそう呟き、矢を放つ。
それは凌平に向かうことはなく、その頭上、先ほど投擲した皿へ向かって飛んでいく。その矢を凌平はただじっと見つめていた。
「くらえ、己龍の矢!」
そして高速で進み、矢が皿に触れた瞬間。矢が分裂し、そのすべてが凌平に矛先を変えて撃ち出された。
「ほぉ、これはまた・・・」
その様子を見て凌平は小声で呟き、先ほどと同じように避けることはなくそのすべてを受け止めた。
次々と凌平の身体に矢が突き刺さる。その数、少なくとも30本以上といった所だろうか。いくつか外れはしたものの、少なくとも傍目から見て凌平は重傷と言える量の矢をその身に受けていた。
そして矢がすべて撃ち出された後、矢の勢いから凌平はあおむけに倒れた。わずかに呼吸をしている様子から、かろうじてまだそこにいるようだ。
「カフッ・・・なかなかの技だな。今のが物部家に伝わる秘術って奴か?」
「そこまで知っておるとはな・・・やはり、貴様は危険だ」
もうすぐ命の灯が消えそうだというのに凌平はいつものように話す。
布都はそれを聞き、警戒度を高めた。一度しか会っておらず、自分のことは屠自古の友人で豪族としか話していない。だというのに、凌平は物部家に秘術があること、布都がそれを扱うことができることを知っていた。
まさか、屠自古に接触したのは偶然ではなく必然だったのか・・・?
そこまで考えるが、布都はその思考を中断する。今必要なのは凌平を滅することだけだ。そう考え、布都は再び矢をつがえる。今度は皿は投げず、直接凌平の心臓と喉元を狙う。
そして、矢を放つ。二本の矢はそれることはなく、突き刺さった。
「ガッ・・・」
凌平はピクリと体を動かそうとするが、そのまま力が抜けて動かなくなった。それを見て布都は凌平に近づく。そしていつでも追撃できる体制になりながら、凌平の身体を観察した。
血は出ていないが、肉体の傷は修復されていないし、息もない。先ほどまで確かに感じていた存在感は面影すらない。これらを見る限り、間違いなく竜宮凌平はこの世からいなくなっただろう。
だが、布都はその考えに確信を持つことはできなかった。間違いなく滅したはずなのだが、やはり違和感を隠すことはできずにいた。
「ム、やはり痛い。この痛みにはどうやってもなれないな」
「・・・やはりか」
そして再び後方から聞こえる声。それにすぐさま反応し振り返ると、やはりそこには凌平がいた。それを確認した布都は再び前方を見る。すると、目の前にあったはずの凌平の身体はなく、代わりに翡翠色の結晶の欠片が散らばっていた。
「結晶・・・?」
「そうだ、それは俺の力の一部だ」
「貴様、やはり能力持ちであったか」
布都の問いかけに対し、そうだ、と凌平は答える。今の状況では判断材料が少なく、凌平の能力は特定できない。そこで布都は思考をいったん切り替えるために、少し気になっていたことを凌平に問うことにした。
「おい」
「なんだ?」
「貴様、なぜ攻撃してこない?」
数回しか攻防していないが、凌平にも反撃の機会はあった。それに二度目の攻撃時にはわざと少し溜めを長くしていた。だが、それでも凌平は攻撃する事はなく、布都の様子をただ観察していたのだ。
そしてそれに対し、凌平はただ簡潔に答えた。
「攻撃する理由がないからな」
「なんだと・・・?」
「言ったはずだ、俺は説明をすると。だが、布都はこちらの話に耳を傾ける気はないのだろう?」
「当たり前だな、妖怪に傾ける耳などない」
「なら、とりあえずお前のやる気がなくなるまで放置しとこうと思ったわけだ。好きなだけ攻撃していいぞ? んでこっちの話を聞く気になったら声をかけてくれ」
ーーーそれまで俺は、お前に手だしをするつもりはない。
そう締めくくった凌平の言葉が、布都の頭の中で反響する。
こいつは今何と言った? 手出しをするつもりはない? 我が奴を滅しようとしているこの状況で?
それでは、それではまるで・・・。
奴にとって、我が歯牙にもかけぬ存在であるかのようじゃないか。
そう考えると、知らずのうちに布都の頬を汗が滑り落ちる。それと同時に、布都の中で二つの感情が渦巻き始めた。
一つは、焦りだった。先ほどから消そうとしても決して消えぬ存在。
そんな存在を滅することができるのか? そう考えてしまえばしまうほど、布都は無意識のうちに焦りを抱き始めていた。
そしてもう一つ。それはーーーーー
「・・・なんだ、何なのだ貴様!?」
「なにがだ?」
「そのすべてだ! 妖怪だというのに人を助け、人と関わる! さらには他の妖怪と敵対してでも人を守るだと!?」
「そうだな、それが?」
「そんなの・・・そんなの我が知っている妖怪ではない!! 妖怪とは、恐怖の象徴だ! 人々の恐怖から生まれ、それを糧として生きる醜悪な存在のはずだ! だが、貴様の行動はあまりにもそれらからかけ離れている!!」
「答えろ竜宮凌平! 貴様は何者だ、なぜ貴様のような存在がここにいる!?」
ーーーそれは、恐怖だった。幼いころから教えられ続けていた、妖怪と言う存在。その教育の結果、布都の中では妖怪=悪という方程式が出来上がっており、今までそれが覆ることはなかった。だからこそ、布都は今までためらうことなく妖怪を滅してきたのだ。
ならば、目の前の存在はなんだ? 奴は今まで我が思っていた妖怪像とまるで真逆の行動をとっている。これでは、妖怪にも正しき者がいるようではないか。
単純に凌平が特別なだけと思えばいいのだろうが、布都は基本的に一度自分の中で結論が出た事象を覆すことができるほど精神的に熟してはいなかった。
妖怪は悪だ。
じゃあ
奴は妖怪だ。
ならば悪ではないのか?
だが、今まで聞いた功績などを聞く限りではとてもそうだとは思えない。
ならば悪ではないのか?
だが、それでは我が今まで信じ続けていたものは一体・・・?
そんな自身との問答が頭の中で繰り返される。決して終わることのないそれの繰り返しに、徐々に布都から心の余裕が消える。
そしてその心の変化を、目の前の存在は的確に読み取っていた。
「変化することが怖いか、布都?」
「っ、何を」
「今まで信じ続けていた概念を打ち破り、新たな考えを持つことが怖いか?」
「!」
心を読まれたのか!? そう布都は狼狽える。そして奴はさとり妖怪の類なのか、と予測を立てる。
「何考えてるかは知らんが大体はわかるっていう程度だよ。今の俺にはお前が焦ってるってことと、何かに怯えているってことしかわからない」
「じ、じゃあなぜ」
「ここからは単純な推測だ。この状況とお前が抱いている感情、そして以前聞いたお前の思想や性格、これらを組み合わせりゃこの程度造作もない」
そう凌平は淡々と答える。普通ならそこまで考えが辿り着くのに時間がかかる。しかし、竜宮凌平と言う存在はその程度なら数秒あればできるほどの知識を有している存在だった。
そしてそんなことなど知らない布都にとって、凌平が今まで滅してきた妖怪とは別格の存在だということを理解させるのには十分な内容だった。
「と、そういえばお前の質問にはまだ答えていなかったな」
「・・・」
布都の様子を見つつ、凌平は質問に答える。それに対し布都は未知への恐怖で混乱しつつある頭でその内容を聞きとることしかできなかった。
「俺が何者かでなぜここにいるか、ね・・・。なぜここにいるかは正直俺でもわからない。気づいたらここにいて、そして今まで生き続けているってだけさ」
「んで俺が何者か、だが・・・そいつは簡単だ」
「俺は竜宮凌平だ。それ以外の何者でもない。俺と言う存在がここにある限り、俺は俺だよ」
そう言って布都を見る凌平の表情は、どこまでも真剣だった。その目に曇りは一切なく、嘘やごまかしをしている様子はまるで見受けられなかった。
そしてその言葉は、先ほどまで拒絶していたとは思えないほど簡単に布都の中に入っていった。そのあまりにも堂々とした立ち振舞い、自分の中で今もめぐり続けている矛盾。それらが要因となっているのだろうか。
「・・・我は、幼き頃より妖怪は悪だと教えられてきた」
「そうか」
「そして、凌平は妖怪だ」
「まあ、そうだな」
「じゃあなぜ凌平は人の側に着くのだ? 妖怪とは人を襲い、その恐怖を喰らう醜悪な存在ではないのか?」
「そうだな、その考えは間違いではないさ」
「なに?」
てっきり否定すると思っていたが、凌平はあっさりと肯定した。その言葉を聞いて、思わず布都は凌平を見る。
「妖怪が悪っていうのは間違いではないさ。そう言う存在が大多数を占めているのは真実だ」
「では、貴様はどっちなんだ?」
「人間にとって、と言う意味でなら俺も悪に分類されるだろうさ。俺は決して人間のために人間の味方をしているわけではない」
「なん、だと?」
「簡単に言うとな、布都。俺は俺のために行動しているのさ。その結果、今の俺は人間の味方をして妖怪を退治しているってだけだ。状況が変われば、俺が人間の敵になることは大いにあり得る」
その言葉を聞き、布都は混乱した。
もしかしたら凌平は正義の心を持った妖怪なのかもしれないと思っていた。彼だけは特別な存在なのだと心のどこかで思っていた。
しかし、彼は自身が悪であると言い切った。自分は人間の見方ではないと、場合によれば牙をむくと言った。だがしかし、それでも彼の行ってきたこれまでの行動は、正義に分類されるべき行動だった。
じゃあ彼はいったいどっちなんだ?
正義か? 悪か?
「・・・ぬ」
ボソッと布都が呟く。それを凌平はただ静かに見ていた。
「・・らぬ」
そしてその言葉は徐々に明確に、そしてその声は徐々に大きくなっていく。
「わからぬ! わからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬわからぬっ!!!!!」
それは、まるで幼子の癇癪の様だった。両耳を両手でふさぎ、うずくまって「わからぬ」とひたすら連呼し続ける布都。その目は焦点が定まっておらず、どこも見ていなかった。
「わからぬ!! じゃあ貴様はどっちなのだ! 貴様自身によってその行動を変えるというのなら、人の側に立つなら貴様は正義なのか!? そして人の側にいなければ貴様は悪になるというのか!?」
「・・・・・・」
布都の慟哭を、凌平は黙って聞いていた。そこから怒涛のように感情が溢れ出てくるが、様々な感情が組み合わさっていてまさしく混乱していることが凌平にはわかった。
「教えてくれ。妖怪は、貴様はどっちなのだ・・・?」
そう言ったきり動かなくなる布都。その様子を見て、凌平はハァと溜息を吐いて近づいていく。足音が近づいているのにも気づかないのか、布都が反応することはなかった。
そして布都の目の前に立ち、凌平は布都の両手を外す。そして口を開いた。
「知ったこっちゃねえわ、この阿呆が」
「・・・は?」
布都は頭の中が真っ白になる。
なんなのだこいつは? さっきから妖怪は悪ではないかと思えば自身は悪だといい、俺は俺だと言えば貴様はなんだと聞いたら知らんと言う。もう訳が分からない。
「俺の答えを言うなら簡単さ。けどお前、この状況でそれ言ったらそれを信じちまうだろ?」
「・・・」
布都は否定しなかった。実際のところ、何か答えを示されればそれを信じてしまうだろうと自分でも思っていたし、それを期待していたのだから。
「だから俺から言うことは知らねえ、だ」
「で、では! 我はこれから妖怪をどう見ればいいというのだ!?」
「んなもん、自分で考えろ。だれかに答えを求めるな!」
「っ!」
布都の言葉に凌平が怒鳴って言い返す。初めて聞く凌平の怒声に布都はビクッを身を縮まらせた。
「妖怪が悪、っていうのは物部家の考えだ、物部布都の考えじゃない。じゃあ、お前は妖怪をどうとらえる?」
「そ、それは・・・わからぬ」
「だろうな。じゃあ悩め。悩んで悩んで、悩み抜け。んで、自分だけの、物部布都の考えを見つけ出せ」
そう言って布都の頭にポンと手を乗せる凌平。
「お前にはその時間がある。まあこれから先大変だろうが、自分だけの答えを見つけてみな。その答えを持った時、物部布都はきっと今より前に進むことができるだろう」
そう声が聞こえた瞬間、布都の意識は暗闇に消えていった。
すでに朝日が昇り、数時間が経過した。
蘇我家の屋敷の正門前。そこで少女ーーー蘇我屠自古はソワソワと門の周りをうろついている。その様子を見て、門番の男性は本日何度目になるかもわからないため息をついた。
竜宮凌平が、調査団を守るために囮となって妖怪をひきつけた。
そんなことを彼女が聞いてから、ずっとこの様子だ。今すぐにでも出ていきそうな雰囲気こそもうないが、朝からずっとこの調子である。
いい加減このままでは彼女の体調にもかかわるので、一度屋敷の中で休憩をとってもらおうかと考えていたその時、視界の端に人影を捉えた。
その少女は、疲弊していた。服装はどこかボロボロだったが、戦闘を行ったような跡ではない。まるで服のことを気にせずに森の木々の間を歩いてきたかのようだった。そして何よりも、彼女の眼には生気がなかった。
更に門番は彼女のことを知っていた。度々屠自古様が連れてくる友人。細かいことは知らないし聞くつもりもなかったのだが、なぜ彼女がこんなことになっているのだ? そんなことを門番は考えていた。
「布都!?」
そして屠自古も彼女に気づいたのか駆け寄っていく。その様子はとても慌てていてまるで豪族の娘らしからぬ様子だったが、門番は見なかったことにした。
「・・・屠自古か?」
「ああ、そうだ!」
「なぜお主が・・・ああ、もうここにたどり着いたのだな」
「一体何が・・・それに、あいつは!?」
「・・・っ」
あいつ、屠自古様はそう言ったが、それは間違いなく竜宮凌平のことだろう。数日間しか会っていないが、屠自古様は彼のことを気に入っていた。だからこそ、こうして門の前で待ち続けていたのだから。
それに彼女の言葉から、布都に彼を探すよう頼んでいたのだろう。妖怪がいるかもしれない場所に送ったのかと少し驚いたが、屠自古様は無能ではない。きっと彼女には妖怪と渡り合える力があるのだろうと思った。
そう門番は考えていた。そしてそのことを聞かれた時、彼女は目に見えて狼狽えた。それを見て、門番はすぐに悟った。屠自古も、恐らくは悟ったのだろう。
しかし、布都の言葉を待ち続けている。少しの望みにかけて。
「あ奴は、凌平は・・・もういない」
そして、しばらくの間黙っていた布都は静かに口に出した。屠自古にとっての現実を。
「う、そ・・・」
「うそではない、凌平を追った先にいたのは妖怪だけだった。あ奴が囮の役割を放棄することはない、つまりは・・・」
「でもまだ遺体は見つかっちゃいないんだろ!? なら!!」
「だとしても絶望的だ。あそこにはしばらく人は近づけれんだろう。件の妖怪も姿を現したからな」
「妖怪って・・・調査目的の?」
屠自古の問いに対し、布都はただ頷く。
「くそ、あの馬鹿! 帰ってくるって、土産話を持って来るって言ったじゃないか・・・!!」
そう言って屠自古は体を震わせている。その様子を門番は慰めることができないのを悔やむかのように、布都はどこか悲しそうに見つめていた。
読んでくれてありがとうございます。
これにて神子編(本人登場せず)終了です。
なんだか突然かつ強引な終わり方になってしまいました・・・文才、文才が欲しい(´・ω・`)
布都に関しては課題を残して終了、と言った感じに。
あらゆる知識や事象を自ら求めに行く凌平にとって、ただ答えを聞いてそれだけを信じる現在の布都はどうしても相性が悪いだろうなぁと思って、こんな展開になりました。
この結果、原作の布都は少し妖怪への対応が変化することになるかもしれません。・・・まぁ、原作まだまだ先ですけれでも。
ではまた、次話でお会いしましょうノシ