何故かフェストゥムになったけど今日も元気です 作:zelga
と、最近心配になっている作者です。まぁ言い訳は後書きにて。
今回は彼女にスポットが当たります。あまり出番がなかった彼女ですが、個人的にとても重要なポジションに立っている方なんですよね、この娘。
では、どうぞ。
月が昇り切った夜空を見上げる。今宵は満月のようで、夜空に浮かぶ月はきれいな真円状になっていた。
それを眺めつつ瓢箪の中に入っている酒を盃にそそぎ、飲む。のどを通る際には焼けたような感覚がするが、先ほどまで飲んでいた酒に比べればこれはずいぶん飲みやすいものだ。あんなのを水のように飲んでる二柱はいったいどんな身体構造になってるんだか。
「あれ、凌平さん?」
酒を飲みつつボーっと月を眺めていると、不意に横から声が聞こえる。ふりむくと、そこには楓が寝間着を着て立っていた。頬が赤く上気し、髪が少し濡れているので風呂上りなのだろう。
「やぁ、楓。神奈子と諏訪子は?」
「先ほど見ましたが、諏訪子様はよく寝ていましたよ。神奈子様はまだ飲んでました」
「あいつらまだ飲んでるのか・・・まぁ、いつも通りなんだが」
「えぇ、そうですね」
楓はそう答えつつ、俺の隣に座った。それを確認してから再び月を眺め、また一口飲む。
すると横から視線を感じるので、横目で見る。そこには楓が、笑みを浮かべながら俺を見ていた。いや、正確にいうと俺の左手にある盃を見ていた。・・・つまり、そういうことなのだろう。
「寝る前だし、少しだけだぞ?」
「はいっ」
俺がそう言うと、楓はすぐそう返す。今は切っているのでわからないが、読心能力を使っていたらほぼ確実に楓から歓喜の感情を感じ取っていただろう。さすがにこのぐらいならわかると思えるほど、楓のことは理解できているという自負はあるつもりだ。
そう思いつつ盃を置き、もう一つ盃を俺の中から取り出す。そこに瓢箪の中身を注ぎ、楓に手渡した。
それを嬉しそうに受け取りつつ、楓はそれを飲む。その様子を見つつ、好きに注げるよう瓢箪を間に置いて俺も酒を飲んでいく。
「・・・ふぅ、やっぱり凌平さんのお酒は飲みやすいですね」
「神奈子たちが飲んでるのに比べたらな。俺はこのぐらいがちょうどいい」
どんだけ飲んでも神奈子はつぶれないし、諏訪子は潰れることこそあれど次の日にはケロリと復活してやがる。神なんだし細かいこと気にしても仕方がないのだろうが・・・どうにも理不尽な気がする。
・・・まぁそれをフェストゥムである俺が言っても何の説得力もないのだが。俺も強い酒が苦手なだけで、今まで酔ったことは一度もないわけだし。
「私はどっちも好きですよ? それぞれ違った良さがありますし」
「楓は酒好きなんだな」
「・・・それ、どういう意味で言ってます?」
俺がそう言うと、楓は少しむすっとする。
それを見て少し疑問に思ったが、考えれば今の発言はまずかったか。昔、似たようなことを言って諏訪子から鉄輪を顔面に受けた記憶がよみがえる。
・・・うん、これは俺が悪いな。
「もちろんいい意味で、だ。正直俺たちは酒なら何でもいいっていう傾向があるし、それぞれの美味しさを楽しめるんならそっちの方がいいじゃないか?」
「そういうものですか」
「そういうものだよ」
そう返しながら読心能力をこっそり使ってみる。すると、楓から負の感情はほとんど感じ取れなかった。
ふぅ、どうやらうまくいったようだ。そう思いつつ、盃に残っていた酒を先ほどのを誤魔化すように一気に飲み干す。
そこからは静かな時間が流れていった。俺も楓も特に何か話すこともなく、ただのんびりと酒を飲みつつ月夜を眺める。この静寂を俺は気に入っていて、楓も不快ではなさそうだった。
しばらくたった後、楓を見るとウトウトと船をこいでいた。どうやらだいぶ遅い時間まで付き合わせてしまったようだ。悪酔いしない程度に飲んだ酒も眠気を促進させているようである。
「もう寝るか。楓、起きてるか?」
「ふぁい、起きてまふ」
あ、これ駄目だ。もうすでに半分寝ている。
楓も大丈夫と言っているがすでに頭は据わっていないかのように揺れており、俺の肩に乗ることでようやく落ち着いた。
「おい、楓?」
「ふふ、冷たくて気持ちいい・・・」
まあ俺全身ケイ素だし、体温ないからな・・・って、そうじゃないか。
とりあえず今の状態を確認するために楓の肩を軽く揺さぶってみる。
「楓~、大丈夫か~?」
「んみゅ・・・あ、そうでした」
どうやら目を覚ましたようだ。まだ眠そうだが、ここで寝るより寝室で寝た方が十分いいだろう。
そう考えて起こしたが、今となれば普通に運べばよかったかなと俺が思っていると、楓が何かを思い出したかのように俺を見ていた。
「どうした?」
「凌平さん、私明日食材を買いに街に行くんです」
・・・は?
えーと、どういうことだ・・・?
「おぅ、そうか。いってらっしゃい?」
「むー・・・」
「・・・?」
うん、どうやら再びまずったらしい。楓が何も言わずに俺をジッと見ている、ジト目で。
いや、今回はさすがに俺が悪いわけではないはずだ。別に楓と明日何か約束をしていたわけでもないし。じゃあ、何がいったい不服なんだ・・・?
「明日、お昼から街に行きます」
・・・あぁ、そういうこと。
「それ、俺も一緒に行っていいか?」
「はい、いいですよ」
ついていく旨を俺が言うと、楓はにっこりと笑って答える。
そうだった、楓はこういう子なんだった。
先ほどまですっかり忘れていたのだが、楓は甘えるのが苦手なのか、俺たちに頼みごとをするときはかなり遠回しにお願いしてくるのだ。諏訪子や神奈子はもう慣れたものだが、まだ俺は気を付けていないとそれに気づくことがなく、結果楓から不評を買ってしまう羽目になる。いやはや、今回はすぐ思い出すことができてよかったよかった。
なんで毎回こんな回りくどい方法で誘ってくるんだか、いまだに謎だ・・・。
「では私はもう寝ますね、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
「~~♪」
・・・まぁ、楓が楽しそうにしてるんだし、いいか。
そんなこともあり、次の日。
昼までは特にこれと言ったこともなかった。全員で朝食を食べ、楓が境内を掃除している様子を諏訪子と共に茶を啜りながら眺め、他愛のない話をする。そして昼食を食べ、片付けも終えたところで俺は今、神社の入り口に立っている。
「お待たせしました」
「いや、別に待ってない。んじゃ、行くか」
「はい」
そして楓とも合流し、街に買い物に繰り出した。
荷物持ちである俺がいるからか、今回は多くの店を回っていった。その途中、楓とはなんてことのない話をしながら歩いているのだが・・・やっぱりか。
俺は今、とても複雑な気分である。別に楓と買い物をするのが嫌なわけではない、断じて。
ではなぜなのか? その理由は単純、周りから視線を感じるのだ。
先に言っておくと、今の俺の容姿は初めて洩矢神社に行った時と同じで黒髪の青年と言った感じだ。そして楓は昔から変わらず綺麗と可憐を合わせたような雰囲気と容姿をしている。さらに言うと楓はよく街に出かけていて、そこの住人との交流もよく行っている。
・・・もうわかるだろうが、楓は街の人気者なのだ。また俺のことを知っている人間は寿命でもうこの世にいないので、俺が大昔から洩矢神社にたまに寝泊まりしていることを知っている人間はほとんどいない。
つまりこの街の男共から見た場合、人気者である楓と仲睦まじそうに歩いている見知らぬ男性(俺)のことをどう思うかなんて・・・わかるよな?
あーこの感じ・・・永琳のところに居候していた時も似たようなことがあったなぁ。あの時はあの巨体とほぼ無表情のおかげで恋人ではなく護衛なのだろうという結論に落ち着いていた。だが今回はそうはいかないだろう。なぜならあの時と違って、俺の今の容姿は普通の青年だ。しかも表情もしっかりと出せる。
まあそんわけで、今現在も彼らから視線をがっつり感じるのだ。ちなみに読心は意図的に切っている。どうせ使った所で嫉妬の感情が飛んでくることはわかり切ってるんだし。
「どうしました?」
「いや、別に何も」
「そうですか。では、次は向こうのお店です」
「はいはい」
・・・まぁ、年に数回とはいえ長年感じ続けていたのだ。さすがになれるというものである。こういう類はスルーするに限る。
だからと言って何も感じないわけではないんだわ。そんなわけで町の若人諸君、楓が俺の手を引っ張って歩いているからって器用に俺にだけ殺気を向けることはやめてほしいと俺は思うのよ。
そしてそこからしばらく買い物をした後、俺たちは茶屋で休憩をとることにした。
ここは割と有名な店で、街の人々がよく立ち寄っては茶を飲んで話をする休憩所のような役割を持っていた。そしてその例にもれず俺は抹茶を、楓は緑茶が入った湯呑を持ち、目の前の風景を眺めつつゆっくり飲んでいる。
「・・・ふぅ」
う~む、苦い。だがそれも含めて美味いというのが抹茶の不思議なところなのだろう。
「凌平さん、よくそっちを飲みますよね。苦くないんですか?」
そう思っていると楓がそう聞いてくる。どうにも楓はこの苦味が合わないようで、ここでは基本的に緑茶を飲んでいる。
「もちろん苦いぞ?・・・ま、俺はこのくらい苦い方が好みなんだ」
あー、永琳のうちで飲んだコーヒーが恋しいなぁ・・・。どうにもこっちでは豆を入手することができず、あれ以降飲むことはできずにいるのだ。
これはいっその事、この島国を抜けて海外に出る必要を考え始めてもよいのかもしれん。まぁ、この時代にコーヒーがあるのかはわからないが。
「なんだかお爺さんみたいですね、凌平おじいちゃん?」
「うっせ、誰がおじいちゃんだ」
年食ってることは否定せんがな。ていうか、こう言ってる楓だって年齢だけなら三桁軽く突入しているはず・・・。
「せっかくですし今夜のご飯の跡に出すお茶は凌平さんのだけ苦く出しましょうか」
「おっと、そいつは勘弁。せっかくの美味しい茶が台無しだ」
すぐこの話を打ち切り、俺は残っている抹茶を全て飲む。楓は既に飲み終わっていたようで、会計を済ませた後俺たちは買い物の続きをしに、街中を歩いていった。
ほーんと、なんでこういう時の女性は勘が鋭いんだろうな?
そしてそこからまた時間が経ち、あんなに昇っていた日が今では沈み始めている時間帯。買い物を終えた俺たちは、神社までの帰路を歩いていた。
にしてもまさかこんなに買うとは・・・いくら俺がいるからって買いすぎだろ。すでに両手には大量の食物がいっぱいいっぱいである。
「凌平さん、今日はありがとうございました。おかげで数回に分けて買おうと思っていたもの全部買えちゃいました」
「この量、やっぱりそういうことか。・・まぁいいさ、こういうのもたまには悪くない」
俺がそう返すと、隣を歩いていた楓が立ち止まる。それを見た俺も立ち止まり、楓の方を見る。
静かに何も言わず互いを見合う。俺は楓が何を言いたいのかなんとなくわかっていた。だがあえて俺は楓が口に出して言うまで待っている。
そして楓は俺をしっかりと見ながら、口を開いた。
「やっぱり、変わりましたね」
「・・・わかるか?」
確信があるようなので、誤魔化すだけ無駄だろう。そう思った俺は逆に楓に問いかけてみる。
「えぇ、すこしだけですけど。私だけじゃありません、諏訪子様はすぐ気づいていましたよ? 神奈子様も何となく感づいているみたいです」
「ム、そんなにわかりやすかったか?」
別に隠すつもりはなかったが、言いふらす理由もないので今まで黙っていた。だが、それはどうやら徒労に終わっていたようである。
「どれだけ一緒にいると思ってるんですか、もう。・・・見つけたんですね?」
呆れたように軽くため息をついた後、楓は確認するようにそう聞いてきた。
・・・まぁ元から隠すつもりはなかったし、別にいいか。
「あぁ、見つけた。全く知らないものを、俺の予想の範疇にないものを」
そう答え、俺は軽く楓に説明する。内容としては今まであった常識を打ち破るようなことをしでかそうとしている存在がおり、自分がそれに協力することにしたという感じだ。
だが俺はこの説明で紫と言う存在を楓には伝えなかった。これは現時点で紫と彼女たちとの間につながりを持たせたくなかったからだ。その理由は色々あるのだが、結局のところこれ以上の原作剥離をどこかで俺は恐れているのかもしれない。未知を求めている俺としてはそれもありなのだが、確実に幻想郷を見てみたいという気持ちの方が強かったわけだ。
そんなことを内心思いつつ、俺は説明を終えた。それをすべて聞いていた楓は、不意に顔を下に向ける。
それを見た俺は読心を使い・・・少しだけ使ったことを後悔した。
楓から感じとれる感情、それは軽い嫌悪と嫉妬だった。
こう言うと自信過剰に聞こえるかもしれないが、嫌悪と言うのは楓自身に対する感情だろう。この数百年の間、様々な未知を追い続けていた俺はある意味で達観していたのだ。表面上はいつも通りだったのだが、心のどこかでは常に退屈を抱えていた。そんな感情を彼女たちはわかっていたのだろう。それでいながら、どうにもできなかった自身に対して楓は少し嫌悪感を抱いているのだろう。
次に嫉妬だが、これは紫に対してなのだろう。自分ではどうにもできなかった俺の欲求を、見知らぬ存在が満たしている。その事実をほかならぬ俺が認めたことで、本人でも無意識のうちに嫉妬してしまっているようだ。
「それは良かったです。では、帰りましょう」
そしてそれらの感情を目の前の少女は表面上は笑顔で偽り、胸のうちにしまおうとしている。長年経って精神も成熟している楓だが、こういう時にそれらを吐き出さずにしまい込んでしまうのがこの子の悪い癖だ。
だからこそ、吐き出せるように俺が用意しなくちゃな。
「大丈夫だよ、楓」
「?」
「楓が何を考えてるか何となくわかった。だから余計なことは言わずに言いたいことだけ言う」
「・・・」
「俺は楓から、諏訪子から、神奈子から・・・この街から。たくさんのモノを知り、貰ってきた。そのことを俺は決して忘れない」
そう言って楓の頭に手をポンと載せ、撫でる。出会った時からこうやってきたせいか、数百年たった今でも彼女を安心させるときにはこうして楓の頭をなでてしまうのがいつの間にか俺の癖になっていた。
「確かに俺の興味はその未知にむいている。だからと言ってそれを教えてくれた存在を手放すほど、俺は愚かではない」
そう、決して俺は俺に未知を示してくれた存在を忘れない。それがどんな結末を迎えようとも、誰もが忘れるような矮小な存在なったとしても、俺は決してその存在を見捨てることはない。
一度でも俺に未知という希望を見せてくれた者たちを、最期まで忘れずにいる。それがこの地に生まれた俺が今日まで貫いている、俺の信念だ。
「・・・」
「その、だから・・・なんだ。別に気にするな、俺がここから離れることはこの先、決してない」
「・・・フフッ」
「・・・なんだ?」
「いえ、ほんとに言いたいことだけ言っちゃうんだなぁと思って。相変わらず歯に衣着せないんですね」
「ム、悪いか?」
少しムッとなり、思わずぶっきらぼうにそう返す。
先ほども言ったように長年達観したような生活送っていたせいでどうにもその辺が不器用になってしまったのだ。自分でも何とかしようと気を付けてはいるのだが、そうドストレートに言われるといくら俺でも多少はムッとするというものである。
「いえ、全然悪くないです。むしろそうじゃなきゃ凌平さんじゃないです」
「いや、それはさすがに言い過ぎじゃないか・・・?」
そのあまりの言い分に俺は苦笑いしながらそう答える。その様子がおかしいのか楓はくすくす笑いながら、再び歩き始めている。
・・・なんとかなった、のか?
確証がないので何とも言えない気分だが、さすがにそれを直接楓に聞くわけにはいかないことはわかっている。数十年前にやらかして神奈子から御柱ブッパされたことがあるので、それだけはしないと心に決めている。
「凌平さん、早くいきますよ? 神奈子様も諏訪子様も待っています」
「だろうな、少し速度を上げよう。このままじゃ神社につく頃には日が完全に沈んでしまう」
「そうですね、急ぎましょう」
「ほら、早く帰りましょう? 私たちの家に」
「・・・あぁ、そうだな」
・・・まぁ、これなら大丈夫なのだろう。うん、やっぱり楓はさっきの笑顔よりこっちの笑顔の方がよく似合う。
ちなみに帰宅して、夕食を終えた後。どうにも気になって諏訪子と神奈子に自分が言葉に歯に衣着せないような存在なのか聞いてみた結果がこちらだ。
「当たり前じゃないか。そんな状況で気の利いたことが言えたら、そいつは凌平じゃないよ?」
「何を言っている? 余計なことをいわずに必要なことだけをしっかり言うのが竜宮凌平だろ?」
・・・解せぬ。
稀神翔平さん、ガンバスターさん、感想ありがとうございました。
読んでくれてありがとうございます。
そんなわけで色々な意味で一歩進んだ28話でした。この伏線のために凌平にはちょくちょく機械的な心理描写を混ぜていたのですが・・・これあまり意味なかったような気も。
後更新遅れてすみませんでした。理由は簡単です、ぶっちゃけ軽く燃え尽きてました。1話から書きたいと思い続けていたシーンをようやく書けたことで、満足感で筆が遅れてしまいました。これからは気を付けます(´・ω・`)スマヌ
そして実は書き送れた理由がもう一つ・・・正直、この続きをあまり書きたくないのです。もうこの先のプロットはあります。ただこうして書いていくうちに、その先に進みたくなくなっている作者がいるのです。だってこのままじゃいやあああああああ(略)
・・・そんなわけで自分で書いたストーリーに精神削らせている豆腐メンタルな作者ですが、もちろん続きは書いていくので、これからもよろしくお願いします<m(__)m>
ではまた、次話でお会いしましょうノシ