何故かフェストゥムになったけど今日も元気です 作:zelga
では、どうぞ。
迫りくる純粋でいて膨大な暴力、それを彼らは紙一重で交わすことに成功する。そしてそれから放たれる風圧だけで吹き飛ばされそうになるのを耐えながら自身の幸運さに胸をなでおろす。
危なかった。もし自分たちの練度が足りなかったら、もし戦闘寸前の緊張状態じゃなかったらーーー
ーーーもしヤツがその名を語らなかったら、自分たちは防御に回ろうとして、そのまま薙ぎ払われていただろう。
「ほぉ、中々根性があるじゃねえか」
「馬鹿な……土蜘蛛だと……!?」
土蜘蛛、その妖怪の名は月ではあまりにも有名だ。
巨木の如き巨体、灼熱のような赤髪を垂らす般若のような形相。
生半可な武器は効かず、風よりも早く動き、その拳から放たれる一撃は岩をも砕く。
そして何よりも、伝説の防衛隊の先代隊長と唯一、互角以上の戦いを繰り広げることができたと言う存在だ。
その名を聞いた時、同じ種族の別個体だと思いたかった。しかし、目の前の存在はヤツが伝承の妖怪そのものであるということを察するには十分すぎるほどの威圧感があった。
「そんな、ありえない!」
「アァン?」
「貴様はあの時、先代隊長と共に浄化の光で消えたはずだ! なぜ生きている!?」
思わず月人のうち一人がそう叫ぶ。後に観測した結果から、あの兵器が放たれた周囲一帯は文字通り塵一つ残っていなかった。
そんな中、あいつが生きているわけがない。そうでなきゃ、私たちの英雄が残った意味はーーー!
「あぁ、あれか? 確かに痛かったが……まぁ、それだけだ。しばらく寝たら治ってたぜ」
その言葉を聞いた時、彼はもう武器を構えていた。
「おい、待て!」
「死ね!!」
先ほどまでの冷静な対応はからは一変し、彼はその瞳に激しい炎を携えながら仲間の静止を聞かず引き金を引く。放たれた光線を土蜘蛛は避けることなくその身で受けた。着弾箇所から煙が出て、土蜘蛛を包む。
まだだ、男は土蜘蛛がこの程度では死なないと判断し、追撃を加える。いくら武器が効かないとは言え、それは昔の話。改良を加え続けられたこの武器なら確実にダメージを与えられるはずだ。
そして撃ち続けること数分。ついに弾が切れる。それを確認した男は、それを手放し腰に携えていた武器を取り出す。
それはただの棒のように見えるが、男が操作をすると先が伸びて刃の部分を光が覆う。そしてそれを持ち、男は止めを刺すために煙の中へ飛び込む。
「これで終わりだ、土蜘蛛ーーー!!」
「出しゃ張んな」
瞬間、煙から男が吹き飛んだ。
その男は後方にある岩にぶつかる、が岩は砕け勢いは衰えずに飛び続ける。そして何本もの木々をなぎ倒していきながら、他の者たちの視界から消えていった。
「待ってろ、一匹残らず喰ってやる」
煙の中から声がする。すると風が吹き、煙をどこかへと飛ばしていく。
そしてその中から出てきた存在、土蜘蛛はーーー
「順番に、一匹ずつな」
ーーー傷一つなかった。
「そうだな……まずは、おめーだ」
土蜘蛛は月兎のうち一匹を指さす。その月兎は恐怖のあまり声も出ず、その場から動くこともできない。
「ヒッ!」
「○○!」
その者を庇うかのように別の月兎が前に出る。仲間に意識が向いたことで正気を取り戻したのだろう。
今すぐここから離れなければならない。そのために彼女はいまだに動けない彼女を抱えて離脱しようとする。
「邪魔だ、のけ」
だがその行動は、あまりにも遅かった。
瞬く間、とは正にこの事を言うのだろう。連れて離脱するために目を離したその一瞬で、土蜘蛛は二人の目の前にいた。そしてその一撃をよけることもできず、二人もろとも地面に叩きつけられた。
「……今です!」
「っ、くそ!」
これを見て行動できたのは2人。残ったもう一人の月人と永琳だけだった。
永琳は輝夜を連れてその場から離脱する。それを見た月人は逃がすまいと追いかけようとするが、目の前に土蜘蛛が立ちふさがる。
「他の奴より骨がありそうだな……次はおめーだ」
「俺をご指名か……おいお前たち、今の間に!?」
永琳たちを追え、そう言おうとした男の目が見開く。彼の目線の先、土蜘蛛の後ろにいたはずの月兎たちが一人残らずいなくなっていた。
逃げ出したわけではない。なぜなら彼女たちの存在は視界に入っているのだから。
しかし彼女たちは全員、もういなくなっていた。
「そんな……あの目を離した一瞬で全滅だと?」
「行くぞ」
月人のことなど意にも介さないとでも言うように、土蜘蛛は攻撃を放つ。彼はまだ動揺が抜け切れていないようだが、それでも土蜘蛛の攻撃を避けることに成功する。そして反撃を加えるために銃を構え、心の臓に向けて撃つ。
「……ほぅ、中々やるじゃねーか」
しかしそれでも、ヤツの肉体を穿つにはその光線はもろ過ぎた。
「……ハハッ、これが災厄の妖怪か。なんてヤツだ」
それを見て男は掠れたように笑う。
すべて信じていなかったわけではなかった。資料でしか見たことなかったが、当時防衛隊に勤めていたベテランの者たちからも化け物と呼ばれていた存在。ありとあらゆる攻撃は効かず、蹂躙されるのみ。先代隊長がいなかったらとっくに都は滅んでいたと聞かされた。
それを聞いた時、自分は内心思ったのだ。武装も整い、様々な戦術をとれるようになった今なら、たとえ伝説の土蜘蛛相手でも互角以上に闘えるだろうと。
しかしその思いは、現物を目の前に見た時に簡単に砕け散った。
あまりにも強大な力が相手だと、どんな知略も小細工となり、無駄に終わる。残酷なことだが、これが真実だった。
男は目の前に迫る拳を見ながら、そのことを考えることしかできなかった。
「姫様、こちらです!」
永琳が私の手を引っ張って走り続ける。私はそれに従いながら、先ほど現れた妖怪について考えていた。
災厄の妖怪、土蜘蛛。防衛隊先代隊長が伝説の人である所以の一つだ。
土蜘蛛については様々な記述がかかれているが、その中で私の中に残っているものはあれしかいない。
ーーーもし奴が“空腹”なら遭遇してはならない。神も、仏も、妖も。すべて喰われるだろう。
今でもこれを見た時の衝撃は覚えている。基本的に妖怪を見下す傾向にある月の都で、ここまで書かれた妖怪がいるとは思わなかったのだ。
そしてその記述が間違いでないことが、先ほどの光景で確信した。
間違いなく私を迎えに来た連中の武装は最新のものだった。永琳が裏切ることも考慮していたせいか、本来人間に扱うものじゃないものまで持ち出していた。
そしてそのすべてが、土蜘蛛の前に無力だったのだ。
思わず身が震える。あの時の土蜘蛛の興味は彼らにそそがれていたせいもあり、その気迫を正面から受けることはなかった。それでも、恐ろしいと感じるには十分だった。
すると前にいた永琳が突然立ち止まる。勢いを殺せず永琳の背中にぶつかってしまい、鼻をさすりながら声をかける。
「永琳、なんで止まるの? 土蜘蛛が伝承の通りなら、あなただって……」
「そうですね、私も狙われるでしょう。と言うよりも……」
もういるみたいです、と彼女はそう言いながらゆっくり歩きだす。それを聞き、私も警戒しながらついていく。そしてーーー
「よう、無事だったみてぇだな」
ーーー目の前の光景に、思わず目を疑った。
開けた場所に土蜘蛛がいた、それはわかる。
腰に携えていた瓢箪を持ち、中の酒を飲んでいる。これもわかる。
じゃあ何に驚いているのか、それは土蜘蛛の気配だった。先ほどまでの嵐のような気配とは違う、今は妖力すら感じないほど静かな気配なのだ。
そしてそこに混乱する要素がもう一つ。
「まあね。おかげさまで何とかなったわ、ありがとう」
「別にいい。偶然懐かしい顔を見たから手助けしただけだ」
「そう……ずいぶん、変わったのね」
「生きている限り、すべての存在は何かしら変わるものだ。オレとてその限りでない」
「好戦的になっているのも?」
「それは俺がオレと一つになったからだな。これもまた俺を構成する一つなんだよ」
永琳が、当たり前のように土蜘蛛と会話している。伝承を見る限り、土蜘蛛が先代隊長以外とコミュニケーションをとったという実績はなかった。
いやしかし、かの人物は永琳の家に同居していたらしい。ばれないようにこっそりと接触していたのだろうか?
「あの……永琳?」
「どうしました?」
「いや、あの……えっと……」
どう質問すればいいかわからずしどろもどろになっていると、二人(?)は同時に笑い出す。
それを見て何を笑っているんだ、と思わずむくれてしまう。こっちは状況が全く持って理解できていないと言うのに。
「ご機嫌斜めみたいだぞ?」
「それもそうね、状況も説明したいし……あの姿になってくれない?」
「ああ、わかった」
永琳の要望を聞き、土蜘蛛が私たちから少し離れる。そしてこちらを向きーーー
「え?」
ーーー翡翠色の水晶が突如土蜘蛛の足元から生えてきた
足元から生えたそれは一瞬で土蜘蛛の巨体を覆い、一つの塊となる。そしてそれが砕け散った時、その中にいたはずの存在は変わっていた。
巨木のような巨体は、人間で言う高身長程度の大きさに。
灼熱のような赤髪は、少し黒くなってほどほどの長さに。
般若のような顔は、不愛想ながらも間違いなく人間のそれとなっていた。
そしてこの容貌を、私は見たことがある。直接ではないものの、何度も文献に出てきたからだ。
ーーーというか、伝説の防衛隊の先代隊長の姿そのものだった。
「この姿もずいぶん久しぶりだな、視線が高い」
「でも、ずいぶんと表情が出やすくなっているじゃない」
「長年の修行の成果だよ。って……おい、お姫様の様子が妙だが?」
「あら?……姫様?、姫様ー?」
「ええええええええええええええぇぇぇぇぇ!!??」
満月の夜空に、私の声は良く響いた。
「……ん、ここは……?」
薄れた意識の中、うっすらと目を開ける。
私は確か、蓬莱山様と八意様を連れ戻そうとして、それで……?
「……っ!!」
そこで意識が覚醒し、すぐさま立ち上がる。
そうだ、あの時現れた妖怪、土蜘蛛に殴り飛ばされたんだった。
そこまで思い出し正面を見ると、見事に俺が吹き飛んだのであろう痕跡があった。
これをたどればあいつらと合流できるはずだ、俺はそう思い、傷で痛む体を治療しつつすぐさま移動を開始した。
……わかっていたことだった。
「……くそ、やはりか」
あいつに目をつけられた時点で、俺たちの運命は決まっていたようなものだったのだ。
土蜘蛛と出会ってはいけない、大半の書物でそう記述されているのだが、その理由が今の俺の目に移っている光景だった。
簡単に言って、地獄絵図だ。
月兎は一匹残らず蹂躙され、腕がちぎれているなど原形が残っている奴などまだましな方だった。
それを見つつ歩みを進めると、月兎とは別の存在が目に入る。
恐怖はなかった、怯えもなかった、ただその目には諦めがあった。
そう思えるほど、そいつの眼には表情がなかった。その男ーーー自分と同じく、二人を連れ戻しに来たもう一人の月人はその顔だけを残し、絶命していた。
「……っ」
喉元まで溢れ出しそうになるモノがあるが、今はその時ではない。このことを今すぐあの方たちへ伝えなければ……!
そう思い返し、息を整えながら通信機器を手に取る。ヤツに殴られたせいで体は限界、装備もボロボロだったが、
それを手に取り、緊急通信をつなげる。
「こちら特務隊、聞こえるか?」
ーーー…………、…………………ーーー
ノイズがひどい。壊れてこそいないが、やはりどこか不具合にでもなったのだろうか。
かと言って修理の仕方など知らないので、通信を試み続ける。
「応答願う、こちら特務隊」
ーーー…………、…………………?ーーー
ナニカ声が聞こえる、どうやらつながったらしい。
「聞こえるか? こちら特務隊。緊急事態だ、土蜘蛛の存命を確認した」
ーーー…………、………………カ?ーーー
「対応に追われた結果、自分以外は全滅。八意様方にも逃げられた。増援を願う」
ーーー……タ…、………………カ?ーーー
ノイズがひどいが、少しずつ声は聞こえる。通信機器の調子が戻ってきた……?
「繰り返す。増援を願う、今すぐ綿月様に……?」
ーーー……タ…、………イ……カ?ーーー
違う、つながっている先は月じゃない。しかしこの通信機器の緊急通信では本部にしかつながらないはずだ。
じゃあ、これは誰だ?
「貴様、何者だ!?」
ーーーアナタハ、ソコニイマスカ?ーーー
通りすがりさん、感想ありがとうございました。
誤字報告いつもありがとございます。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
そんなこんなで34話。書いた感想としては……土蜘蛛強すぎっすね。
作者のお気に入りと言うのもあってかこいつが出張った戦いは基本的に一方的な展開になってしまいます。早くこいつの好敵手出さなきゃ(使命感)
ではまた、次話でお会いしましょうノシ