何故かフェストゥムになったけど今日も元気です 作:zelga
では、どうぞ。
男の手、通信機を持っていた方から翡翠色の結晶が生える。
その水晶は瞬く間に腕を浸蝕していき、10秒もかからずに全身を覆う。
そしてそのすべてが砕け散った時、その場には何もいなくなっていた。
……これが同化、何度見ても圧巻されるわね。
条件はいまだに不明だが、それを満たすことで相手にあの翡翠色の結晶を生やす。そしてそれが全身を覆った時、その存在は抹消され、彼に吸収される。
彼曰く『相手を消すのではなく、自身と同一の存在にする』らしいのだが、基本的に彼という破格の存在に耐えられずに自我が消失するとのことだ。それだとあまり変わらないと思うのだが今は省略。
更に恐ろしいのは同化した存在の記憶や特徴、場合によっては能力の一部を引き継ぐということ。先ほどのことが本当なのだとしたら不思議ではないのだろうが、問題はそこではない。
同化したということは、その能力の扱い方を最初から熟知した状態で彼は扱えるという事。そして竜宮凌平と言う存在の最大の武器は『経験』だ。数千、下手すれば数万年と生きている彼の知識は半端ではない。それらを使えばたとえ中級妖怪のものだけを使ったとしても上級妖怪と互角以上に闘えるだろう。
先ほどまで起きていた圧倒的な暴力も、元はといえば同化した妖怪の能力とのことだ。
速く、硬く、力強い。たったそれだけのことなのだが、それらが磨かれるとこう迄恐ろしくなるのか。私は月の武器が一切通用せずに蹂躙されている光景を思い出しながら知らずに身震いをした。
そう思考の海に入っていると、目の前の光景が変化していく。
砕け散った結晶の欠片たちが地面に散らばる。すると今度はそこを中心として再び結晶が発生し、周囲を覆っていく。
そして再び砕け散った時、先ほどまでの光景とは一変していた。
散らばっていた死体は一つも見当たらず。
折れた木や砕けた岩、抉れた地面は元通りになり。
月人の武器によって丸坊主になっていた森は、木の芽がちらほら見える草原になっていた。
「こんなものでいいか?」
声が後ろから響く。今の私は大木の枝に座り、スキマで様子を見ているのでこの状況で話しかけれるのは彼しかいないだろう。
「……えぇ。これならここであった出来事を誰も知ることはないでしょう」
当事者のあなたたち以外は、ね。と心の中で思いつつ後ろを振り返る。
思った通り彼ーーー竜宮凌平がそこに立っていた。
「あのお姫様たちは?」
「近況報告兼今後のことを聞いた後に別れた。彼女たちは月の者たちに気づかれない場所で平穏に過ごしたいとのことだ」
「そうでしょうね」
「だから、いくつか候補を教えてきた。まぁ第1候補はーーー」
「例の竹林、でしょ?」
彼の言葉をさえぎって、私は言い切る。それを聞いて、彼は少し口元が吊り上っていた。
「……やはりわかるか?」
「今のあなたの聞き方は私がその場所を知っているという事。そして確実に外部の干渉を避けれる場所を私は1つしか知らないわ。……だけど、やってくれたわね?」
「ハハハ、すまんな」
「まったく……あの時は非常と思ったのだけど、こういうことだったのね」
手を額に当て、ため息をつく。
よく考えてみれば当たり前のことだ。竜宮凌平と言う存在は、興味を持った存在を見放すことは決してない。
長年共に行動しているのに勘違いしてしまうとは……まだまだ修行不足、ということなのでしょうね。
「はて、なんのことかな?」
「わざとらしく言わないで。……あそこ、幻想郷の予定地なのよ?」
「わかっているさ。幻想郷……例の計画の実行地だろ? だからこそ彼女たちにあそこを教えたのだ」
「ありとあらゆる種族が公平に存在できる理想郷……月の住人とて例外ではない」
「そういうことだ。紫、お前が月人を苦手なのはわかるが、それとこれとは話が別だ」
そう言いながら彼はため息をついて両手をヤレヤレと振る。小馬鹿にしたようなその態度に少しカチンと来たが、話を進めることにする。
「それはわかっているわよ。けれど私たちはあの竹林には直接干渉するわけにはいかない。つまり彼女たちが何やっているのかわからない。それはいささか危険だわ」
「なら監視でもつけるか?」
「できればそうしたいわ……けど彼女は月の頭脳、生半可な監視ではすぐに看過されるのではなくて?」
「さすがに今すぐではないさ、しばらく時間を置いてからつける。それに知っているか?」
木から降り、地面に立った彼は確信を持った言い方で口を開く。
「監視をつけるのに一番いい方法はな、監視者本人に自覚がないようにすればいい」
「…………」
「ちょうどいいことに
そう言うと彼は黒い球体に包まれ、その場から姿を消した。
監視の自覚がない監視者? 矛盾しているとしか思えないが、彼には彼なりのやり方がある。その方法自体が少し気になるが、今持っている情報だけではわかりそうにない。
「一体、彼はあと何個の引き出しを持っているのかしら……?」
永琳と再会した夜から約2ヶ月。ようやく仕込みの準備が終わり、俺は久々に守矢神社に向かっている。
あの時から相変わらず1年ごとに帰っており、今回はいつもより遅れてしまったがその時期が来たと言うわけだ。
そんなことを思いながら俺は空中を駆ける。いつもならワームスフィアーによる瞬間移動をするのだが、今回はそうもいかない。なぜなら……
「……それでね、行ける所まで行ってみたのよ。そしたらビックリ! 見たことない魚だらけだったわ」
「深海魚って奴か。にしてもルーミア、お前呼吸はどうやったんだ?」
「闇で私の周辺に空間を作って、瞬間移動の応用で陸上と繋げていたの。おかげで海の底も見やすかったわ」
「なるほど、そんな手段が……。俺が行ったときは呼吸はともかく光の確保が難しくてな。今度その方法で試してみよう」
「その時は私もついていくわ。その深海魚以外にもいろいろな生命があったのよ。例えば……」
そう言って結構な速さで移動している俺に並走し、この間までいた場所の話をする金髪の少女。
そう、ルーミアだ。今回は彼女と共に行くことになり、神奈子からの忠告もあってこの方法となった。
理由は単純で、ルーミアの瞬間移動は妖力を消費する。そのため妖力を出す必要がある。そしてそれは瞬間移動先にも発生しており、神奈子から神社に来てもよいが領地内での妖力使用を禁止されている。
とまぁそんな訳で、そこまで遠い距離でないこともあって今回はこうやって移動している。
「……と、もうすぐか」
「あら、もう着いたのね。さて、お願いするわ」
「はいはい」
俺が了承するのと同時に、ルーミアは俺の手をつかむ。それを確認した俺は、いつもの方法で二人の気配を同化させる。
ルーミア自身も妖力を隠すことはできるのだが、その間は空中に浮かべないらしい。だからこそ、こうやって俺がまとめて気配を消しているのだ。こうすればルーミアは妖力を消しながら移動できるわけだ。
そして神社の鳥居を確認した俺は、ゆっくりと入り口に降り立つ。そして少し遅れたタイミングで降り立ったルーミアは、ニコニコと俺とつないだ手を見ている。
「……そろそろ妖力を隠してくれないか?」
「えー、もうちょっと…………冗談よ、今やるわ」
そう言ってルーミアは目を閉じる。そして彼女の気配が少し薄くなったのを確認した俺は、能力を解除する。
「あ、帰ってきた!」
そんな声が聞こえ、俺たちは神社から走ってくる少女を見る。
腰までのびた長髪は父親譲りの黒で、今は走っているのに合わせて左右に揺れている。無邪気そうな眼はキラキラと輝いてて、俺たちの帰宅を心の底から喜んでくれているようだった。
その様子を見て知らずに頬が緩む。そして俺の目の前まで近づいてくると、彼女は両手を前に出して飛びついてくる。
「おっと! ただいま、元気にしてたか椿?」
「おかえりなさい! 私はいつでも元気だよ、凌平!」
そう言って少女ーーー椿は、満面の笑みを浮かべる。
「こんにちは、椿ちゃん」
「あ、いらっしゃいルーミア! 今日は一緒に来たのね」
「えぇ。神奈子はいるかしら?」
「神奈子ならお母さんと出かけているよ。今いるのは私と……」
「私たちだね」
椿の話を聞いていると別の声が聞こえ、そちらを見ると見知った男女が歩いてきていた。
「諏訪子か、ただいま」
「おかえり、凌平。やれやれ、相変わらず椿は凌平を見つけるのが早いね。そこら辺は楓譲りなのかな?」
ねぇ? と諏訪子は隣に立っている男を小突く。それを受けて男性は少し苦笑いをしながら話す。
「おかえりなさい、凌平さん。楓は凌平さんを見つけるのが本当に上手ですからね。でもなぜ呼び捨てになってしまったんでしょう……?」
「あぁ、ただいま。別に気にはしていないさ、他所ではきっちりできているんだろう? まあ原因は何となくわかるが……」
そう言って諏訪子をジッと見る。その視線を諏訪子は口笛を吹きながら受け流す。
「いいじゃないか。椿だってその呼び方気に入っているんだもんねー?」
「うん!」
「しかし、神奈子様や諏訪子様にまで敬称がないというのも……」
「神奈子は普段なら許してくれてるじゃないか。私だって行事以外なら別に構わないよ」
「ま、そういうことだ。過ちを犯せばそれを正せばいい、ただそれだけのことさ」
「……そうですね、ありがとうございます」
「凌平、あやまちって? 私なにかしちゃった?」
抱き上げている椿が少し心配そうな顔でこちらを見る。こういう察しの良さも母親譲りみたいだな。
「いや、椿は何もしていないさ」
「ならいいの。それじゃ凌平、それにルーミアも! 一緒に遊びましょ!」
「ああ、いいぞ。なにからしようか?」
「えぇ、いいわよ」
そうやって椿の遊びに付き合うこと1時間後。家の中に入り、俺たちは居間に集結していた。
「寝てしまいましたね」
「遊び疲れたんだろうね。凌平はたまにしか帰ってこないから、その間溜まっていたのを全部吐き出しているんだろうさ」
「悪かったな、帰ってくるのが基本年1回で」
いや別にー? と諏訪子はカラカラと笑う。けれどその声量はいつもより少し抑えめで、膝枕している椿をおこさないようにしている。
その様子を見ながら俺は出された茶を飲み、しみじみと呟く。
「にしてもあれだ。一番適しているのが諏訪子とはいえ、この光景は何度見ても面白い」
黒髪少女を膝枕する金髪少女、なお金髪少女は黒髪少女の祖母である。文章にしてみるとなんだこのカオス。
「そうかい? ま、大切な孫だからね。甘やかすのはお婆ちゃんの権利ってね」
「言っていることは至極当然なんだがな……」
「ハハハ……」
いやほんと、気配隠せばただの美少女なんだから不思議なものだ。ルーミアと中身取り替えればお互い違和感なくなるのではなかろうか。
「まあいいさ、神奈子たちが帰ってくるまでまだ少し時間がある。その間暇だし、話を聞かせておくれよ」
「話か……ちょうどいい。ここに来る道中ルーミアと話してたんだが……二人とも、海の底を知っているか?」
そこから神奈子たちが返ってくるまでの間、俺は深海についての話を二人に聞かせた。
すでに知っているルーミアはともかく、二人にとっては未知の領域である深海。その話は新鮮だったようで、興味深そうに聞いてくれた。そして途中から椿が起き、そこからは魚の話に切り替わった。海や川、ひいては湖など、場所によって変わる魚の種類や生態について話しているうちに、いつの間にか夕方になっていた。
そして神奈子たちが帰宅し、全員で夕食を食べる。改めて見ると神3名、妖怪1名、半神1名、人間1名、フェストゥム1体。もう見慣れてしまったとはいえこの状況もだいぶあれだな。
特に話すこともなく、夕食を食べ終わる。そして椿を寝かせたのち、俺たちは再び集まった。もちろん宴会である。
「へぇ、私たちが帰ってくるまでそんな話をしていたんですね」
「まあね。実物を一匹凌平が見せてくれたんだけど、ありゃすごかった。いつも食べているのとは全然違うね」
「そうなんですか? 凌平さん、後で私にも見せてください」
「構わないが……まあ、楓なら大丈夫か。あれ割とエグイ見た目してるんだがな」
「椿なんか興味津々だったもんね、さすが朝早くから昆虫採集に行くほどのことはある」
「だとしてもあれを見て第1声が『すごい!』ていう辺りホント筋金入りよね」
「まったくだ、まさか椿があそこまで生き物に興味を持つとはな……」
俺が土産に持ってきた酒を盃にそそぎつつ、神奈子がぼやく。お転婆が過ぎると、やはり少々心配なのだろうな。
「別に大丈夫だろ。街の子たちとも仲良くやれてるみたいだし。愛娘がそんなに心配か?」
「神奈子様ー、椿は私たちの娘ですよー?」
「心配はしていないさ。椿の底知れぬ探求心に驚いているだけだ。……あぁ楓、そんなにむくれるな。わかっているから!」
「そーだそーだ! 私だってもっと慕われたいのに、神奈子ばっか尊敬されててズルいぞー!」
「ぞー!」
「それはお前たちの普段の行動が行動だからだろうが……」
「あーあー、ありゃ完全に入ったな。さて、俺らは俺らで飲むか?」
「そうね、私はもっとあなたが見てきたものの話が聞きたいわ」
「そうですね、私も凌平さんが見てきたものには興味があります」
「いいぜ。じゃあなにを話すかな……」
……あ、そういやこの話はまだ話したことがなかったな。
「……今日はこれにするか。数年前のことだ、海の向こうの大陸に行ったときにあった出来事でーーー」
ーーー俺と近接戦限定とはいえ互角で戦った妖怪の話だ。
FALANDIAさん、変わり者さん、フナさん、感想ありがとうございました。
誤字報告いつもありがとございます。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
そんなわけで輝夜編は一応の完結。永琳との会話をあっさり終わらせてしまったけどもっと会話入れた方がよかったでしょうか? 私はわからん()
そして日常の証、守矢神社。ここの面々は書いてて楽しいですね。いい加減楓の旦那さんに名前付けるべきかな……?
そして次からはちょっとした回想話です。といっても今まで本編では1ミリたりとも触れてないので、時系列的には過去でも実質新章なんですけどね。
ではまた、次話でお会いしましょうノシ
え、○○○○フラグが立っている? ……ナンノコトデショウネー。