ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う 作:ウリクス
数多の階層に分かれる無限の迷宮で凶悪なモンスターの坩堝(るつぼ)、そして迷宮都市オラリオが保有する世界に一つしかない地下迷宮である。
何故存在するのか?
何故壊しても独りでに修復されるのか?
その理由は誰も分からない。
ただ一つ、確かなことはダンジョンそのものが生きているということである。
~ギルドの新米冒険者用の座学の一部より~
お気に入り登録700超え誠にありがとうございます。
「リーダー、どうしよう……」
「逃げるに決まってんだろうがッ!!」
鞘から小剣を引き抜きのモンスターの群れの前に出る。
考えろ…落ち着け…こんな時はリーダーがしっかりしてないとな。
「退路をモンスターに塞がれてしまう前にこの場を離れる。後衛は離脱を最優先。前衛は近寄ってくるモンスターの討伐、離れていたり追いかけて来なかったら無視しろッ!急げッ!!」
「「「「はいッ!!!!」」」」
前衛の4人が後ろへ駆けて行く。
「リーダー、アンタはどうするの?」
「俺はできるだけモンスターの動きを食い止める。エミリア、一番前を走ってダンジョンの出口へ先導してくれ!」
「え……大丈夫なのリーダー!?」
エミリアが心配そうな顔でこちらを見て来る。
「俺はお前達のリーダーだ。心配するな」
「説得力がないですよリーダー様ッ!!」
うっわフローラ酷ぇ。
一応俺、お前達のリーダーなのに。
「大丈夫だ、俺も折りを見てさっさと逃げるから。……行ってくれエミリアッ!!」
「……分かったよリーダー!よーし、皆逃げるよーッ!!」
「あっそうだ。セリアッ!できる範囲でいい、他の冒険者を見かけたら警告してくれッ!!」
「分かったわ!」
「良し……全員撤退ッ!!!」
彼女達の足音が遠退くのを確認する。
たった独り俺はモンスターの群れと対峙する。
「……頼むから早く逃げてくれよお前達……」
じゃないと俺が逃げれないからな。
言っとくが俺はまだこんなところで死ぬつもりはないからな。
「……よしよし、出番だぞ……」
彼女達が姿を完全に消したのを確認すると腰に吊るしている投げ斧の柄に手を伸ばす。
腰に付けた
「……頼むぞ、
ジワリジワリと近づいて来るモンスターの群れに対し、全神経を集中させる。
退路を塞がれないか?
いつ襲いかかってくるか?
死角からモンスターが発生して襲いかかって来ないか?
多分今、人生の中で極限の緊張と恐怖が俺の頭の中で渦巻いている。
「……ハァ……ハァ……」
ジリジリ……ジリジリとゆっくりではあるが、確実にこちらに近づいて来る。
落ち着け俺、こんな時リーダーが取り乱しちゃいけない、呼吸を整えろ。
でも何度もそう言い聞かせても頭の中では今すぐにでも背を向けて逃げ出したい、誰かを犠牲にしてでも助かりたい……そんな気持ちが俺の中を支配していく。
だけど今逃げたら彼女達に追いついてしまうかもしれない。
そうなれば敏捷の低魔法使いから襲われてしまう。
クラリス、フローラ、リリアン、ララ……
次に弓兵が狙われて……
ミレイ、ドロシー、エマと次々犠牲になって……
「……アア、クソッ!!」
ダメだ……考えちゃダメだッ!
現実になってしまうッ!!
……いや、違う。
行動一つで妄想が全部現実になってしまう事態なんだッ!!!
今考えなければいけないのは最悪の事態じゃない、理想の事態だ。
「……」
その為にもここで一分でもいい、一秒でもいい、何でも良いからとにかく彼女達がダンジョンから脱出する時間を稼げば俺の勝ちッ!
『グオオオオオオオッ!!!』
「ッ!!!?」
緊迫した状況を打ち破るかのような咆哮を一番前にいるコボルトが三層中に響き渡らせ、俺に飛び掛かって来る。
「来るかッ!!?行けケルベロスッ!!!!」
飛び掛かって来るコボルトを迎え撃つように
次のターゲットをコボルトの近くにいたゴブリンに狙いを定め一直線に飛んでいき側頭部に突き刺さり魔石を残して消えた。
そして訪れる静寂。
大量のモンスターの動ききと俺の動き止まること数十秒……
誰一人声を上げることなく、誰一人物音を立てるモノも無く……
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!』
「ッ!!!」
静寂を打ち破ったのは一番前にいたゴブリン。
俺にナイフを向けて___今すぐ殺してやる__と言わんばかりに汚い咆哮を上げる。
そして緊迫した状況が破かれて我も我もとモンスターが俺の方へ流れ込んでくる。
「……コレは不味いッ!!」
戻ってきた
でももしかしたら、もしかしたら
「……ハァ……ハァ……」
俺は走りながら、間違ってもこの状況で転ばないように走った。
割と本気で命を落としかねないからな。
後は……『アレ』をしてしまわないように曲がり角や十字路を見れる範囲見て回り第二階層へと駆けて行き、第二階層へと続く階段に一歩足を踏み入れる。
その時後ろから
『ギャアアアアッ!?』
『ガアアアアアッ!!』
『ギャッ!?ギャアアアアッ!!』
バタバタと何かが転倒する音が聞こえる。
不審に思って一瞬だけ後ろを振り向くとコボルトとゴブリンが順番に追い被さる様に転倒して団子の様な形で身動きが取れない状態になっていた。
「ッ!……一生そのままでいろ間抜けがッ!!」
俺の運がいいのか、相手が馬鹿なのか、そんな事はどうでも良い。
この隙に全力で階段を駆けて行った。
~二階層~
「……ッ!?アブねッ!!!」
第二階層を上り通路を一直線に走り抜けようとした瞬間に背中に衝撃が走る。
壁、と言うか死角からダンジョン・リザードが降ってきた。
もう少し遅かったらアイツの下敷きになっていたよ全く。
ってか分かったから、後ろに大量のモンスターがいるのは分かったから常時振動するのは止めてくれデプス・アミュレットッ!!
見境なく振動してたらどれが第二階層のモンスターか区別ができねぇんだよッ!!
そんな俺の願いを聞き入れてくれる訳がなく、今でも絶賛振動中だ。
「……このクソ蜥蜴がッ!!」
後ろを振り向き斧をダンジョン・リザードに投げつける。
回転が加わった斧が見事に背中に突き刺さる。
「……ハァ、ハァ……」
階段の奥を見据える。
先ほどまで迫っていたモンスターの波が嘘のように静かだ。
もう追って来ないか?
彼女達も逃げ切っただろうか?
もしかしたら逃げてる途中でモンスターに……とかマジで勘弁してくれよ?
「……ハァ……」
『『『『ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』』』』
「ッ!!?」
ホット一安心して気を緩んだ瞬間階段とは逆の方向、つまり通路の方から4体のコボルトが咆哮を上げながらこちらに全力で走り寄って来る。
一旦安心させておいて襲いかかるとかマジで冗談じゃねぇよッ!!
「……クソがッ!ケルベロスッ!!」
休ませてくれと言いたいが、モンスターがそんなこと聞き入れてくれる筈がない。
先ずは2体、俺から見て左のその隣の2体を斧が片づけてくれた。
後の2体は俺が殺る……ッ!!
「ハァァァッ!!!」
向こうが飛び掛かって来る前にこちらが大きく一歩前に踏み込み腹部を突き刺す。
そして引き抜いてもう1体のコボルトの方を向く。
「……!?」
いない、何処へ行った!?
逃げた……いや違う、絶対近くにいる筈だッ!
「……?」
足音?
遠くから足音が近づいて来ている。
……しまったッ!!
後ろ___
「ガァッ!!!」
後ろを完全に振り返る前に背中に衝撃が走ると同時に、俺の体が吹き飛ばされて壁に叩き付けられる。
一瞬だけコイツが何やってきたか見えた。
俺の背中目掛けて飛び蹴りして来やがったッ!!
「…ガハッ!ア……ア……」
ああ、クソッ……呼吸が上手くできない。
不味い、追い打ちと言わんばかりに右手を振り下ろして来る。
「な、なべるなぁッ!!」
体を奴の方へ向け、コボルトの右手をプロテクターで防ぎその隙に小剣でコボルトの腹を突き刺す。
「……ゼぇ……ゼぇ……」
何とか凌いだものの、息が上手く出来なくて呂律が回っていないと言う何とも格好の付かないセリフを吐いてしまったが、何とかなった。
コイツ……俺が1体のコボルトに気を引いている間に離れて、後ろから飛び蹴りしてくるなんてな。
飛び蹴りして来るコボルトとか初めてだよ全く。
「……ハァ……ハァ……痛ぇ……」
吹っ飛ばされて壁にぶつかった時に頭を少し切ってしまった、それに少し体がフラフラする。
だがここで倒れるのは不味い、疲れた体を引きずって第一階層に続く階段を上ることにした。
~1階層 始まりの道~
「……帰って来たぁ」
何とかここまで無事に帰って来ることが出来た。
いつの間にかアミュレットも大人しくなってるし完全に撒いたみたいだな。
後はこの先を少し進めばバベルの外に続く階段が見える筈だ。
彼女達が無事にダンジョンを脱出したのか不安で一杯だが、これだけ探してもいなかったんだ、もうとっくにダンジョンを脱出してバベルの前の広場で待っている筈だ。
「……はぁ………」
今すぐにでも向かいたい所だが、極度の緊張と恐怖から解放されて気が緩んだ所為か、足がふらついてる上に頭の中も少しボーっとしている。
少しだけ休憩してから階段を上ろう。
「……ヨイショ」
壁に寄りかかり座り込む。
バックパックから水色の液体が入った長細いガラスの容器を一つ取り出す。
体力を回復させる為にあるポーションってヤツだ。
蓋を開けて一気に飲み干す。
「……まぁ、不味くは無いけどあんまり飲みたいモンじゃねえな」
ポーションを飲んだら安したのか、少し眠たくなって来た。
しかし第一階層とは言えここも立派なダンジョンの中。
眠ってる所にコボルトやゴブリンが襲い掛かってくる可能性が十分にある場所だ。
だから我慢しないと___
「……ハッ!!」
ダメだダメだッ!
マジで寝るところだったぞ今ッ!!
やっぱり早く帰ろう、第一階層で寝てる所をモンスターに襲われて死にました、なんて恥ずかし過ぎる。
立ち上がり周りを見渡す。
周囲に人の気配なし、アミュレットの警告なし!
「良し、帰「きゃあああああああああああああああああッ!!!」……ッ!!?」
良し、帰ろうと言おうとした時向こうの方から悲鳴が聞こえる。
「……まさかッ!!」
嫌な予感がして疲れた体に鞭を打って悲鳴が聞こえた場所まで全力で駆けて行く。
もうアイツ等が第一階層まで上がって来たのか!?
不味い、不味い不味いッ!!!
あれほど気を付けていたのに『アレ』……
「……ッ!近くにいるッ!!絶対に近くにいるッ!!!」
それに応えるようにアミュレットが警告を始める。
大丈夫、彼女(達?)は無事だ……絶対に無事だッ!!
「……!そこかッ?!!」
T字路の突き当りの右に曲がったところにゴブリンの汚い鳴き声が聞こえた。
見るとそこには3匹のゴブリンと3人の女の子が対峙していた。
「あわわわわわわわ……」
「ど、どうしよう本当にモンスターがいたよッ!!」
「パティ!ルゥ!!下がってッ!!僕がやる……」
彼女が腰から剣先から柄まで含めて30cmくらいの短剣を一本取り出しゴブリンに向けて構える。
「やああああああっ……」
何とも拙い……ってか引いてる!
めっちゃ腰が引いてるよこの子ッ!!
これじゃモンスターどころか野菜すら切れないってッ!!
あ、こけた。
「うぅ……やっぱり僕達じゃ無理なのかな?」
「リア……大丈夫?」
「ううう……ルゥ達このままモンスターさんに食べられるのかなぁ……」
「……あー……」
3人固まってシクシクと泣き始めたよ。
ゴブリンもどうしていいか戸惑ってるし、俺もどうしたら良いのか分からないや。
どうしよう、この状況マジでどうしよう。
もしかしたら第一階層に大量のモンスターが迫っているかもしれないって言うのに。
「え、えっと……その……て、手伝おうか」
ゴブリン越しに彼女達に話しかける。
この子達がここに放置してたら絶対に死ぬ。
何とか救出しなければ。
「え?……ぼ、冒険者さんですぅ!冒険者さんが助けに来てくれました!!」
「ああ、助かった……」
「シスター……僕達を守ってくれているんですね……」
「……」
コレはその……オッケーってことで良いのかな。
「分かった、少し下がっていろッ!!」
剣を鞘から払う様に取り出し俺の一番手前にいたゴブリンの頭を突き刺しそのまま薙ぐように剣を引き抜く。
2体目のゴブリンがこちらを振り向く前に頭を左手で掴んで3匹目のゴブリンに投げつけ2体のゴブリンの体が重なる様に倒れる。
「ハアアアアアッ!!!!」
剣を下に向く様に握り2体のゴブリンが重なっている場所に狙いを定めて跳躍し2体のゴブリンを串刺しにする。
「良し、ケガはない……か」
「おお……」
「お兄さん凄いですぅ」
「コレが…冒険者…」
あ、このキラキラとした視線どっかで見たことがあるぞ。
えっと…えっと…そうだ、思い出した。
村にいた頃ブランコが壊れたって俺に頼んで来たから直した時に小さい子供達が向けてきた視線だ。
「まぁ、とにかく帰ろうか」
「「「はーい!!!」」」
ああ、素直で良い子達だ。
この小さい子供達を連れてさぁ帰……る訳にはいかないなぁ。
「チビ達、少し下がっていろ」
アミュレットが2回振動して警告を告げると奥の通路からコボルトが2体出現する。
「ハアアアッ!!」
手前のコボルトに全力で駆け寄り奴が跳躍する前に斜めに斬り上げ首から上を切断する。
俺が一体目のコボルトの処理をしている間に2体目のコボルトが腕を振り降ろされていたが、腕をプロテクターで防ぎ、ガラ空きになった胴体に剣を突き刺し
「あ゛ァアアアアアアアッ!!!」
っと気合の入った咆哮と共に突き刺した剣をコボルトごと叩き付ける様に地面に突き刺すッ!!!
「良し、終わっ……」
「「「ジーッ……」」」
「とにかくもうダンジョンから出るぞ」
「「「はーい!!!」」」
このチビ達を連れてダンジョンを脱出する為に始まりの道を行くことにした。
バベルから出る際、ルゥと呼ばれた少女が俺を笑顔で見て来る。
「ねぇお兄さん」
「何だ?」
「お兄さんがさっき戦ってた姿、孤児院で読んだ御伽話に出てくる英雄みたいだった!」
「俺が英雄?」
「うんっ!!」
「……そうか」
その本に出てくる俺に似ている英雄ってのは……………随分と弱そうで頼りなさそうな英雄だな。
どうでも良いけど、一時的に登場させる為だけに考えたモブの女の子をこんなに沢山出す予定は当初ありませんでした。
あと、すいません……少し更新が遅くなりそうです。