ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う 作:ウリクス
東と南東のメインストリートに挟まれる区画にある秩序の存在しない広域住宅街でオラリオのもう一つの迷宮と呼ばれている。
都市の貧困層が住む複雑怪奇な領域は、一度迷い込んだら最期、二度と出て来られないとまで言われている。
最近になってここの住人が書いたと思われる道標のおかげで脱出不可能……ではなくなったが治安は未だ最悪のままである。
「おや、冒険者君!随分と久しぶりじゃないかっ!!」
「あ、ご無沙汰してますヘスティア様……ってか覚えてくれたんですね。……ジャガ丸くん5個下さい。2つは普通のジャガ丸くんで後の3つは小豆クリーム味で……はい、180ヴァリス」
「はいよ!少し待ってくれよ!!」
今俺はオラリオ北部のメインストリートにあるジャガ丸くんの屋台の前に来ている。
腹が減ったんで少し腹に何か入れておこうかと、あとヘスティア様に顔出しでもと思ってな。
「その……冒険者君はもうファミリアには……」
「……はい、アテナ・ファミリアに入りました」
俺の一言にヘスティア様が「ああ……やっぱり」と肩を落とし彼女の髪も力を無くしたかの様に項垂れる。
「くぅうううううううっ!!あの時
さっきとは一転して今度は髪の毛を逆立てて地団太を踏み始める。
前々から思っていたけど面白いなこの神様は。
「……ん、アテナ?彼女も天界から降りて来たのかい?それは初耳だ」
「後は……今日はニケって言う名前の女神も降りて来るらしいんですけど」
「おおっ!あの子も降りて来るのか!バイト終わったらヘファイストスのところへ行こっと!」
俺はどうしてもあの時以降の彼女の成果が気になってついつい余計なことを聞いてしまった。
「……あの、ヘスティア様。あんまりこんなこと言いたくないんですが……」
「ん、なんだい?」
「ヘスティア様のファミリアって誰かいるんですか?」
彼女は少し俯いてまま黙り込んでしまう。
……ヤバい、やっぱり聞いちゃいけなかったか。
「ふっふっふ~。大丈夫さ!数日前にやっと一人、ボクのファミリアに入ってくれたんだよ!」
「おお、それは良かったですね」
気まずい空気から一転、彼女はしてやったりっ!と言わんばかりの顔で俺を見てくる。
「ただ、冒険者としての腕は……ねぇ」
「……なにが不満なんですか?」
彼女は「いや、別に不満があるワケじゃないんだよ……ただ……」と愚痴と言うよりも、申し訳なさそうな顔を俺に見せ話を続ける。
「ダンジョンに潜った初日の成果がゴブリン一匹って……それでボクも『……それだけ?』って言ってしまってね。少し後悔しているんだよ……」
「ま、まぁ初めは皆そんなモノでしょうに。その冒険者の名前は?」
「ベル……ベル・クラネル!ボクの大切な
彼女からジャガ丸くんの入った袋を受け取り3つの小豆クリーム味のジャガ丸くんを袋に入れ口を閉めてからバックパックに入れ、普通のジャガ丸くん2つを齧りながらオラリオの東へと向かうことにした。
「……ここか」
ダイダロス通り、貧困層が暮らす広域の住宅街。
オラリオの中でも特に治安が悪い場所だと聞いた。
本当にこんな場所に孤児院は存在するのだろうか?
建物で光が遮断され薄暗くなった道を一歩、また一歩と歩き進めていく。
「……」
しかし本当に薄暗い、まだ昼だというのに建物が光を隠すだけでこんなにも暗くなるのかと。
辺りに設置してある魔石灯と呼ばれる魔石の塊と建物と建物の間から僅かに日の光が差し込んでくるが、それでも暗い。
とにかく急がなけ
「あっはっはっはっははああああああああああッ!!!」
「バイロン……テメェッ!!!笑ってんじゃねぇぞッ!!!」
「さっさと金返せッ!!!」
「ッ!!?」
道の奥の方で何やら一悶着が起きたようだ。
そっと曲がり角からその様子を覗く。
そこには顔を真っ赤にして大声で笑いながらゴミ溜めの上に横たわる男と、その男を取り囲むように立っている三人のガラの悪い男がいた。
「あ~、かねぇぇ?ネェヨそんなモン、俺が酒に変えちまったぁあぁぁ~」
「昨日貸した5万ヴァリスを一晩で酒にして飲むなんて……どうするよ兄貴!?」
「決まっている、連れて行け……コイツにはちゃんと返して貰わないとな」
「「ヘイッ!!」」
「あ~?なんだ、エノーラとドロシーのところへ連れて行ってくれるのか~?あっはっはっはっはッ!!!!」
「テメェの奥さんと娘さんならとうに出て行ってるよ。どうせ歓楽街で娼婦として働いているだろうよッ……オラ立てェッ!!!」
2人ががりで男引っ立てると引きずりながら連れて行き、リーダー格の男もそれに付いて行く様に住宅街の奥へと消える。
男たちが立ち去った方向とは別の方向に足を進めることにした。
「コレが……
ふと壁に目を向けると道標の二文字と矢印が赤い文字で書かれていた。
ダイダロス通りは一度入ったら最期、二度と出られない場所とまで言われている。
そんな場所に何の用意もせずに入るのは俺だってしない。
最近になってここの住人が書いたであろう道標の二文字と矢印が至る所に書かれるようになったのを耳に挟んだからだ。
最悪、孤児院を見つけられなくても
「……しかしどこを行っても同じ景色。まるでダンジョンにいる気分だ」
階段を上り
T字路を右に曲がり
一直線上に進み
細い道に入りと同じことの繰り返しだった。
「……ん?」
進んでも進んでも同じ景色に心底ウンザリした時魔石灯の光とは違う太陽の光が差し込み、その奥から「あっ!ボールが飛んでった~」っと子供の声と同時にトンットンッっとボロボロのボールが跳ねながらこちらに転がってくる。
俺が転がってきたボールを掴むとまたもや向こうから「すみません、ボールこっちに投げてくださいっ!」と声が聞こえてくる。
前を向くと小さな子供が2人手を振ってこちらに呼びかけて来て、更にその奥には今にも崩れ落ちそうな寂れた廃教会が建っていた。
「……」
手に持っていたボールを彼らに投げ渡しながら「そこの少年達、この教会は孤児院かい?」と問いかける。
少年達は「そうだよ、『マリア孤児院』だよ」っと返答してボールを受け取る。
「……はぁ」
やっと着いた……本当に長かった。
ダイダロス通りに入って一時間半くらい彷徨ったかいがあったよ。
俺は膝を曲げ姿勢を低くし子供の目線に合わせながら「この孤児院の責任者はいるかい?……えっと、キミたちの保護者は?」と問いかける。
その後ろに「あっ、俺は全然怪しい者じゃないよ」っと念のため付け足す。
すると少年達は顔を見合わせ「「もしかしてマリア(シスター)さん?……うん!いるよ!!」」っと言って教会の奥に入り込む。
「……!」
しばらくすると奥から少し痩せている年配の女性がこちらに近づいて来る。
「あの……この教会に何かご用でしょうか?」
「あっ、初めまして俺の名前はアーク、アークボルト・ルティエンスと言います。タダの駆け出しの冒険者です。実は、この教会に重い病気を患った少女がいると噂を聞いて来たんですけど……その症状を詳しく聞くことは出来ないでしょうか?」
「ああ……その噂はどこで……?」
「すみません、それは言えません。ですが貴女達を絶対に悪いようにはしません。どうか、話だけでもさせてくれませんか?」
女性は少し考える様な素振りを見せる。
……マズったか、初対面の相手だからもう少し言葉を選んだ方が良かったか?
「……分かりました。ここで立ち話もなんですし、教会へどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
何とかなりそうだ。
彼女の後に付いて行くように教会へと足を踏み入れた。
「……」
教会の中は意外と広く、何人か小さい子供達がジーっとこちらを見ている。
「そう言えばこちらの自己紹介がまだでしたね、私はマリア、この教会を孤児院として使い身寄りのない子供達と一緒に暮らしています」
「……えっと、それで……病気を患っているって子は……」
「ノエルと言う名前の子です。あの子が患った病気は『一週間病』と呼ばれている病です」
「……一週間病?」
彼女が机の上に置かれていた本を一冊手に取り俺に見せてくる。
「正確に言えば略称で正式な名前は分かりませんが……この本に書かれてました」
見た目めっちゃ厚そうだけど随分といい加減な本だな。
「……それで、その病気の特徴は分かりますか?簡単で良いんです」
マリアさんが持っている本を貸して貰って読めと、確かにそうだ。
でも彼女が持っている本、かなり厚いんだよね。
田舎者にそんなモノ読めるか。
「はい、その特徴は…………」
一週間病
病原菌が体内に入ることで発症する病気で、発症してしまえば昔は確実に治らずに死んでしまう病気だったらしい
発症から1日~2日経過
高熱と吐き気に襲われ立てることも儘ならない状態になる
この時ただの風邪だと思い風邪薬だけで済ませる人が多いらしい
3日~4日
激しい咳と共に吐血する
この時点で大半の親御さん達は異常だと察知して病院へと連れて行き一週間病だと宣告される
5日~6日
吐血と咳は止まるが今度は全身に激痛が走り苦しみだす
6日~7日
激痛が嘘のように収まり熱も下がりまるでいつも通り安眠するかのように死に至る
特徴として
10歳以下の子供にしか感染しない
感染力は皆無のため、同い年の子供が近寄っても大丈夫
極度に病弱な子供にしか発症しないため、発症する方が珍しいとまで言われている
一度治ってしまえば二度と発症しない
ただし放っておけば上記のように6日~7日以内に確実に死ぬ病気である
「……私が知っているのはコレくらいです」
「ありがとうございます。まぁ、大体理解できました」
「いえ、それはいいんですけど。どうしてこの病気のことについて聞きに来たんですか?」
彼女は不思議そうな顔で俺に聞いてくる。
「……俺の『知り合い』の知り合いがこの病気を患っている子がいるみたいなんですよ。それで……ですかね。では失礼します」
席を立ち踵を返して教会から出ようとした時、俺の足元で何か出っ張りの様な物が当たる。
「……ん?」
「どうしました?」
「いや、コレは」
ボロボロのカーペットから四角に区切られた蓋の様な物が見える。
その質問に待っていましたと言わんばかりにこちらを見ていた子供達が口を開く。
「それね!オラリオの外につながってる『地下通路』の入口だよ!」
「あっ!コラっ!!余計なことを言うんじゃありませんっ」
この子供たち曰く、この建物がまだ教会として動いていた時に作られた(と思われる)物で普段は鍵がかかっている。
鍵はマリアさんが教会に初めて入った時に見つけ、管理をしていたが好奇心の強い孤児院の子供達が鍵を盗んで中に入ってからオラリオの外につながる地下通路だと分かったらしい。
「最初は『宝の倉庫』かと思っていたのに……すっごくガッカリしたよ……」
「オマケに勝手に鍵を持ち出したのがバレて……あの時のマリアさんすっごくこわかったんだよ!」
「……そ、そうか……今度こそ失礼します」
「はい、お気をつけて……」
教会を出てまた薄暗くてどこを見ても同じ構造をしているダイダロス通りの道に足を踏み入れる。
道
---→
標
「……あった」
薄暗い中、壁に書かれていた赤く書かれた文字と矢印を発見する。
この誰が書いたか知らない道標に従いながら歩き進めダイダロス通りから脱出する。
「……道標のおかげで脱出するのは簡単だな」
「さてと……確か……」
まだまだ空が明るいうちにオラリオ西部へと駆けて行った。
早く続きを書かないと……と意気込んでもこの時期になると布団に潜りがちになってしまう。
今年はそこまで寒くないのに