ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う 作:ウリクス
乗り方は簡単!彼らに見える様に手を上げるだけで止まってくれます。
後は行先を運転手に告げるとその目的地まで連れて行ってくれます。
定員:4名
料金:80~120ヴァリス
~オラリオ観光案内所のパンフレットより~
「……アレ?眠ってたのか」
いつの間にか眠っていたのか、俺はベッドから身を起こし辺りを見回す。
「アテナ様は?」
辺りを見回してもアテナ様の姿は無く、辺り窓の隙間から綺麗な茜色の夕日が差し込んでいた。
「……スッカリ日が暮れたな。起こしてくれても良かったのに」
そう愚痴りながら席を立ち、懐中時計を取り出す。
時刻は6時を回っていた。
「……起きたんですね……リーダー……うふふ……」
「ッ!!?」
部屋の隅、日の差してこない真っ暗な場所から誰かに話しかけられて両肩を瞬時に上下させながら声のする方に顔を向ける。
「……本と一緒に……ずっと……ずっと、見てましたよ……うふふ……」
このねっとりと言うか、ジットリとする喋り方と聞き覚えのある声は一人しかいない。
「……その声、ソコにいるのはリリアンか?」
「……はい、リリアンですよ……彼是4時間此処にいました……」
視線の先には真っ暗な中で本を両手に持ってこちらを見て来る
男性も女性も大柄で有名なドワーフにしては小柄な体躯で、ちゃんと前が見えているか心配になってくる程の長い前髪と、お世辞にも明るいとは言えない―――ハッキリ言ってしまえば陰気な雰囲気を醸し出している少女だ。
「別に、起こしてくれても良かったのに」
「……いえ、リーダーさんが……お疲れみたいだったので……ずっとここでリーダーが起きるのを待っていました……」
「アレ?リリアン以外の子達は?」
「……パーティの準備があるから……
リリアンの手を見ると握り拳を作ったり、手を放したり、人差し指と中指を立てたりする動作をしながら顔を明後日の方を向いて誤魔化す仕草を俺に見せる。
誤魔化す仕草を少しした後俺の方を向き、「……まぁ……そのおかげで……凄く至福の時間を味わうことが出来ました……」と、ニタァ…っと口角を吊り上げながら彼女は語る。
「……視線を落とせば今読んでいる本が……前を向いたらリーダーの寝顔が……うふ……うふふ……堪能させて頂きました……」
「そ、そうか」
リリアンの笑っている顔―――いや、口角を吊り上げた顔にビビりながらベッドから立ち上がる。
「……あ、リーダー……アテナ様から伝言が……」
「アテナ様から?」
アテナ様に会ったのか、彼女達に変な事していないと良いんだけど。
「……『先にデメテルの所へパーティ楽しんでるから、貴方も早く来なさいよ!』……です……」
「……パーティ?パーティ…あ!しまったッ!!」
そうだった、そうだった!完全に忘れていた!!
「直ぐに行こう!」
「……はい、お供します……うふふ……」
リリアンも本をパタンと閉じ立ち上がる。
俺も壁に立てかけてある防具一式を身に纏い、デメテル・ファミリアのホームに向かうことにした。
「……その前にえっと、武器とバックパックは、あれ?」
デメテル・ファミリアに向かう前に荷物を持って行こうと思ったんだけど―――ない!?俺の小剣と
「……ええっと、ええっと……もういいや!行こう!!」
武器と鎧は後でアテナ様に聞けばいい、今は
アテナ様が勝手に占拠している部屋を出て急いでデメテル・ファミリアへと向かうことにした。
「―――今更だけど、ヘファイストス様のホームからデメテル様のホームってかなり距離あるんだな」
「……そう……ですね。……ダンジョンに潜って……この距離を行き来して……何食わぬ顔をしているリーダーさんが……本当に……凄いと思います……」
ヘファイストス様のホームを出た時には真っ赤な夕陽が差し込み、薄らと月が出ていたがデメテル様のホームに着いた時には完全に日が沈み、魔石街灯の光が目立ち始めた頃に何とか辿り着いた。
「……リーダーさん……会場は……ファミリアの畑の奥で催しています……それでは……」
そう言ってリリアンはゼェゼェ言いながら明かりのついていない真っ暗なホームに入ろうとする。
パーティには参加する様子は無いみたいだ。
「リリアンは参加しないのか?」
「……ええ、ワタシは……いや、
少しフラフラした足取りでホームの中を一歩、また一歩と進んで行く。
「……そうか」
折角の祝いだ、強制しても面白くもなんともないし祝いに参加したくない気持ちになるのは俺も良く分かる。
祝いの時になるとやたらと酒を勧めてくる村の連中がイヤになる事が度々あったからな。
「……だから、エールは嫌いだって言ってんだろうがあああああああああああああッッッ!!!!」
って俺が村にいた時、祝いの席で怒鳴りつけたのが良い思い出だ。
あの時の村の皆が唖然とした表情が、未だに忘れられないよ。
「……分かった、俺はもう行くよ。リリアンも気が向いたら出てこいよ」
「……はい……ではまた
そう言ってリリアンは真っ暗なホームの奥へと消えて行った―――
「―――此処か」
オラリオ有数の商業ファミリアであるデメテル・ファミリアの畑は当たり前だが物凄く広い。
でも、畑だけじゃない―――庭も物凄く広い。
このパーティを開いている所から少し前に歩いたところに前に俺が鍬を持って耕した広大な畑がある。
「あっ!あ~く~、いつまで寝てたのよ~!遅いじゃないの~」
その広大な畑の前で、明かりがする方へ足を運ぶと、見覚えのある顔が俺の前に現れる。
―――俺の主神、
「……スイマセンね。まさか日没前まで寝るとは俺も思わなかったんですよ」
―――ダメだ、完全に出来上がっている。
後ろ髪を三本に分けてクルクルと渦巻いた金髪と、上品な薄金色のドレスを身に纏った彼女は見た目だけは
「あ!このワイン美味し~!!持って帰っちゃお~」
彼女の顔はワインの酒瓶の様に赤く、足取りは見るだけで不安になってくるほど覚束ない足取りで辺りのテーブルに置かれているワイン瓶を一本残らず開けたり中には持って帰ろうとする。
「あら、来たのねアーク君」
「おかえりなさい、アーク君」
「……ただいま」
「……スイマセン、デメテル様。うちの主神がとんだ迷惑を……」
俺はデメテル様に頭を下げるが、彼女は「全く気にしないわよ~むしろ賑やかになって嬉しいものだわ」と笑顔で答える。
今更だけど、この
こんな性格だから、多分色んな
まぁ、俺はそう思っている。
「あれっおかしいわね。一本くらいなら胸の谷間に入ると思ったのに……もう少し小さいのにした方が良いのかしら?」
1人なんかやっている駄女神様を放っておいて、ヘファイストス様とデメテル様と向き合い顔出し序に会話をすることにした。
「……しかし、パーティとは随分と思い切ったことをしましたね。デメテル様」
少し前までは没落寸前だったのに―――いや、別に咎めるつもりはないよ。
むしろいいと思う、向こうを見るとのデメテル・ファミリアの幹部の人達がドレスを纏ってパーティに興じていた。
堅苦しい―――いや、豪傑な彼女達が大口を開けてワインを流し込んでいる姿なんて見たくはなったけど……。
「ええ、ヘンリッタとモニクから聞いたの。貴方達だけでパーティだなんてズルいわ。だから私達も貴方達に負けないようにパーティを開いたってワケ」
「…そ、そうだったんですか」
随分と気前の良いことを……大丈夫なんかな?
「それで、私の所に支援してくれる人を誘ってパーティにしようってことになったの。ね、ヘファイストス!!」
「…まぁ、支援って言っても少しだけだから!ほんの少しだけ出しただけだから…」
へファイストス様が照れ臭そうにそっぽを向く。
やっぱりヘファイストスは凄いな!どこかの駄女神とは訳が違う。
でも何で支援をしていないこの
「それでね!それでね!!私の一番の支援者にして一番の神友がパーティに参加してくれたことが凄く嬉しいの!ね、ポネちゃん!!」
デメテル様が何処か嬉しそうにポネちゃんについて話し始める。
「ポネちゃんは私が経営難になったって聞いたら直ぐに来てくれてね!「アタシがもう少し早く、オラリオに帰っていればッ!!!」って!あの時のポネちゃんはすっごく頼りになったのよ!!」
彼女曰くポネちゃんこと、ペルセポネ・ファミリアは中堅の女性を中心とした探索ファミリアらしく、デメテル様の一番の神友らしい。
「~~~ッ!」
「……?」
―――何処からか声がする。
辺りを見回しても誰もいない。
「噂をすれば…こっちよポネちゃ~ん」
デメテル様が手を振っている方向へ目を向ける、ソコには他のファミリアの団員だと思わしき人達が談笑をしていた。
皆、煌びやかなドレスや紳士服を身に、纏い鎧を着ているのは俺だけみたいで少しだけ恥ずかしい―――と言うか少し疎外されている気分だ。
そんな中、パーティの参加者の間を全力疾走して見慣れない女性がこちらに近づいて来る。
「~~~はぁ、はぁ……!」
俺達の前に立つとゼェゼェ言いながら両手を膝に付き、両肩を大きく上下させる。
「デメテルッ!!だからポネちゃんっていうのヤメロって言っただろうがッ!!!アタシの
ゼェゼェ言いながらも、女性は顔を勢いよく上げ今にも殴りかかりそうな声でデメテル様に怒鳴りつける。
後ろを見ると数人の女性がこちらを見ながら口元を抑えてクスクスと笑っているような気がする。
「あらあら、まぁまぁ。ポネちゃんって呼び方、私は可愛いと思うわよ」
そう言って萌黄色のドレスをヒラヒラと揺らしながら疲弊している彼女の元へ嬉しそうに近づく。
「久しぶりってワケじゃないけど、また会えて嬉しいわ。ポ・ネ・ちゃん!」
「だから~~~!」
ヘファイストス様もクスクスと笑っている、多分コレはいつものやり取りだろう。
いつもの神様同士のやり取りなのだろう。
こうやって見ると神様も人間と全く変わり無いのだなって思ってしまう―――神様に対して凄く失礼な考え方だけど。
「―――で?コイツが
息が整い、やっとマトモに立てる様になった彼女が俺を睨みつける様に見て来る。
短い銀髪と夜の闇に溶けてしまいそうな真っ黒なドレスを身に纏い、腰の部分には―――アレは…
そして四白眼である彼女の鋭い視線に睨まれ、俺は少し気圧されて後ろに下がってしまう。
「そうよ、彼が私達の
「……は、初めまして。アーク、アークボルト・ルティエンスです。右も左も知らない田舎者ですが、どうぞよろしくお願いします……」
「……へーえ?」
そう言ってペルセポネと呼ばれた女性はジロジロ見ながら何回も俺の周りをグルグルと回る。
その時の彼女の眼には見覚えがある。
―――商人が物の価値を決めている時の、値踏みしている時の眼だ……!
「…んだよ、随分と弱そうじゃねェか。アタシのファミリアに比べたらこんな奴屁でもねぇよ!!」
彼女がそう言ってデメテル様の方に向き直る。
「…いや、彼は
ヘファイストス様が呆れた様子でぺルセポネ様に話しかける。
「そうよ、ポネちゃん。強い弱いだけで人を判断しちゃ…めっ!」
デメテル様が人差し指でペルセポネ様の鼻先をピンッと突く。
「ほら、アーク君だって悲しんでいるでしょ。謝って!」
―――い、いや。別に気にしていないんだけど。
デメテル様がズイッと顔をペルセポネ様に近づく。
「そうですよペルセポネ様ッ!!いきなりそんなこと言うなんて彼に失礼ですよ!!!」
「アヤマレーッ!アヤマレーッ!!」
「サイテー」
「この悪女」
「柘榴女!」
後ろからデメテル様の援護と言わんばかりにペルセポネ・ファミリアだと思われる方達が口を出す。
「や~い!おっこられた~。あっやまれ!あっやまれ!!私の眷属にあっやまれ!」
そして、ここぞと言うばかりに
―――ヤバい、凄く他人のフリをしたい。
後ろを振り向くとクスクス笑っていたペルセポネ様のファミリアの連中が顔を隠し肩を震わせ、今にも吹き出しそうなのが伝わってくる。
―――で、当の本人はと言うと。
「~~~ッ!!!」
「……!?」
体を震わせ、眼に涙を溜め、今にも泣きだしそうになっていた。
その姿はさながら母親に叱られている小さな子供そのものだった。
「……ま、まぁまぁ。俺は別に気にしていないから。だからデメテル様もそのぐらいで……」
―――コレはヤバい!
そう思った俺はペルセポネ様とデメテル様の間に割り入って仲裁する。
「……ペ、ペルセポネ様。も、もう大丈夫だから……もうデメテル様怒ったりしないから……な?」
―――俺、何で初対面の神様相手に宥めているのだろうか?
そう思いながらペルセポネ様の顔を覗いたその瞬間―――――――――
「……ッく……」
―――く?
「クソがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「ッ!!?」
大粒の涙を流しながら目にも止まらぬ速さでオラリオの方へと走って行った。
「あハハッハハハ!!!!あ~お腹痛い!あ、ヤバい吐きそう……」
「……えーっ…」
「……はぁ。この光景前にも見た気がするわ……」
唖然としている俺の横でヘファイストス様が手で顔を覆いながら呆れた仕草を見せ、
後ろで見ていたペルセポネ・ファミリアだと思われる皆様は、泣きながら去って行った彼女を見て全員吹き出してしまう。
「……ああ」
―――やっちまった、コレ俺の所為なんかな。
「アーク君、アーク君」
デメテル様が俺に手招きをする。
直ぐに駆け寄る。
「……はい、何でしょうか?」
「貴方は私達のことは良いから、あの子達の所へ行ってあげて頂戴」
「……あの子達…ですか?」
デメテル様がホームの方を指差す。
目を向けると一室だけ明かりがついているのが分かる。
アレは―――多分だけど会議室かな?
「……良いんですか?彼女は……えっと、ペルセポネ様のことは」
俺が問いかけると彼女は「良いの良いの、いつものことだから」と笑いながら答える。
「アーク君、行ってあげなさい。
ヘファイストス様も並んで言う。
「……分かりました。じゃ、じゃあ俺はお先に「ちょっとまったあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」」
俺が踵を返しホームへと向かおうとした時、先ほどまで吐きそうで蹲っていたアテナ様が俺の前に立ちはだかる。
「ちょっとアテナ!」
ヘファイストス様が注意しようとした時、アテナ様が俺と二人の神様の前で一本のワインを開ける。
「アーク!行くんだったらせめて一杯飲んでから行きなさい!」
そう言って俺の前にズイッと栓を空けたワイン瓶を差し出す。
「……」
――――――確かに、そうだ。
折角の祝いの席、しかも神様達の前にタダ顔を出すだけじゃ流石に失礼だな。
1つくらい、杯を交わしてから行った方が良いな。
「……それもそうですね。分かりました、一杯お付き合いしましょう。……一杯だけですよ?」
テーブルに置かれていた空のワイングラスを一つ手に取り、アテナ様の前に差し出す。
「ふふん!流石は私の眷属、そう来なくっちゃ!―――――おいで、ニケ!!」
彼女は合図と言わんばかりに指をパチンと鳴らす、すると手近にあったテーブルの下から小さい人影がテーブルクロスを手で退けながら這い出てくる。
白い髪、白いドレス、白い小さな羽と蒼い瞳が特徴の10歳にも満たないあどけない少女だ。
「……ニケ?彼女が例の?」
「そっ!この子が私の従者のニケよ。もう一度言うけど、苛めたら許さないんだから」
そう言ってアテナ様はワイン瓶をニケ様に渡す。
そして「ほら、私の眷属に挨拶しなさい!」とアテナ様が命じると、ワイン瓶を一旦テーブルに置きこちらにおずおずと近づき上目遣いで俺に声をかける。
「……は、初めまして。アテナ様の従者のニケです。……よ、よろしくおねがいします、です!!」
見た目通りの舌足らずな声で頭を大きく下げてくる。
俺も片膝をついて彼女の目線に合わせて挨拶する。
「……初めましてニケ様、アテナ様の唯一のファミリアのアークボルト・ルティエンスです。どうぞよろしく」
見た目は小さな女の子、だけど正真正銘の神様だ、俺は懇切丁寧に礼をする。
ニケ様の後ろでアテナ様は笑いをこらえた様子で俺を見る。
「プププ、貴方幼女相手に片膝ついてカッコつけて。幼女口説いてんじゃないわよロリコン」
―――ああ、アテナ様は子供の扱いが苦手なんだな。
そう思いながら俺はニケ様から注がれる赤いワインを見つめる。
デメテル様とヘファイストス様も彼女を無視して空のグラスにワインが注がれる。
「ちょ、ちょっと!無視しないでよ!!ちょっとした冗談だって、悪かったわよ!!」
全員のグラスに血の様に赤いワインが注がれる。
「アーク、貴方なんか言いなさいよ!」
「……何かって、何言えばいいんですか?」
まさかの無茶振りに少し動揺してしまう。
「何でも良いわよ。…そうね、アテナ様サイコー!とかアテナ様は女神の中の女「デメテル・ファミリアが一日でも早く復興できることを祈って、乾杯」」
「「「乾杯(……です!!)」」」
「無視しないで~~~っ!!」
俺はデメテル様と、ヘファイストス様ニケ様の持っているグラスを軽く打ち付け、カチンと言う音を響かせる。
「―――此処、だよな」
神様達と一杯飲んだ後、真っ暗なホームの中を進み一つの部屋に辿り着く。
その部屋の扉からは光が漏れ、扉越しに賑やかな声が微かに聞こえてくる。
「……」
扉の前に立ち、俺は一つの戸惑いを抱く。
―――コレ、本当に俺が入って良いモノなのかと。
だって、今は入って雰囲気とか壊れないかな?
いやいやいや、約束したんだから行かなきゃいけないよな……。
だからと言って年頃の女の子がいる部屋に不用意に扉を開くワケには―――
「……リーダー、アンタ何やってんの?」
「……お、おうセリア。今来たところなんだ」
不意に扉が開き、中からセリアが出て来る。
「ウソ吐くな!さっきから扉の外で足音が丸聞こえでうるさかったわよ!!アンタの足音
「……えっ!?あ、いや~その足音、俺の他に先客がいたかも―――「言い訳は良いからさっさと入って来なさいッ!!!」」
痛い痛い痛いって!!!!
セリアにマントを掴まれ、引っ張られる形で部屋の中に入る。
「ったく、リリアンが返って来たから直ぐにリーダーも来ると思っていたのに、中々来ないから忘れてんじゃないかと思ったわよ!」
「……わ、悪かったな、神様達に顔を見せてたんだよ」
「ふ~ん。ま、どうでも良いけどさっさと席に座りなさい」
セリアに促され、パーティ会場こと会議室の奥に進む。
「あ!やっと来た~こっちこっちっ!!」
「「おそいよリーダー!!」」
アンナ、メアリー、エミリアの
―――
「あっ!ズルいわよエミリアッ!!」
「へっへ~んっ!!早いモノ勝ちだもんね~」
幾つものソファーが並んでいる中、俺はど真ん中に座らされる。
そして勝ち誇ったかのようにエミリアが左隣に座り、俺の腕に抱き着いて来る。
「ちょっとアンナ!ソコは姉の私に譲ってよ!!」
「い~や~だ~!絶対にココは譲らない!!」
右隣じゃ双子の姉妹が喧嘩して取っ組み合いを始めている。
「……アンナ、メアリー…止めろって。別にどっちだっていいだろう?減るモンじゃな「そうですね、減るモノじゃないんだったら私がリーダー様の隣に座っても良いですよね!」」
「―――ッ!?」
右を向くといつの間にか双子の姉妹からフローラが代わりに座っていた。
いや、今のは素直にビビった。
今日リリアンが笑った時ぐらいビビった。
「―――さっ!皆さん、杯は行き届きましたか?」
何処かご機嫌なフローラが木で出来たジョッキを掲げる。
「では、デメテル・ファミリア復興を祈って――――」
「乾杯ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
各々が手に持っているジョッキを打ち付け合い、冒険者として彼女達と暫しの別れを告げる祝いが始まった。
「ねぇねぇ!このハンバーグ、ボク作ったんだよ!」
「ガーリックステーキよ、デカい肉の塊焼くのって案外楽しい物ね」
「わ、
「「私達はカルパッチョ!!」」
「……り、リーダー。私、シーザーサラダを……」
「り、リーダー!サンドイッチを作ってみたわ!!ベタだと思うけど……じ、自信はあるわッ!!!」
「リーダー君!ヘンリッタと一緒にミートパイ作ったよ!!食べて食べて!!!」
「ちょっとパイの部分が焦げちゃったけどね~」
「リーダー様、前菜にガスパチョは如何ですか!?カボチャで作ったんですよ!」
「……リーダーさん……デザートに……コーヒーゼリー……どうですか?……凄く……苦いですよ……うふふ……」
「私はチーズケーキ作ったよ!エマはチョコレートケーキだよねー?」
「……別に、私が甘いもの食べたかっただけだから……どうせ私のケーキよりも、他の子の料理を選ぶに決まっているわ……」
各々が作った料理を俺のテーブルの前に勢い良くガチャンと置く。
「……あ、ああ!分かった分かった、ちゃんと全員が作った料理食べるよ。食べるから落ち着いてくれ!」
彼女達が並べてくれた料理を前に、俺はナイフとフォークとスプーンを取り出す。
折角作ってくれたんだ、味わって食べよう。
「…お、お゛い゛し゛い゛て゛す゛う゛うううううううううッ!!!!」
「こ、こらルゥっ!!そんなに食べたら僕の……いや、みんなの分が無くなるだろっ!!」
「リアちゃん、タッパーに入れながら言うことなの……?と言うか、グチャグチャに入れちゃダメえええええええええええええええッ!!!」
右を向くと、ソファーの端でチビ達が彼女達が作った料理を物凄い勢いで平らげたり、タッパーに入れたりしている。
多分、孤児院の子に食べさせるために持って帰るのだろう。
「……しかしまぁ、ここまで賑やかになるなんて村を出る時に思いもしなかった。本当に、人生何が起きるか分からないな」
元々
パーティ組むつもりは全くなかった。
「……本当、いつからこんなに賑やかになったんかね」
「リーダー、ボク達はいつも通りだよ?」
左隣に座っているエミリアが首を傾げる。
「そうじゃない、俺だよ俺。俺に周りがいつの間にか騒がしくなったって言っているんだ」
「……いや、ですか……?」
「……別に嫌じゃない。俺の村もこんな感じだった……いや、もう少し静かだったかな?」
いつの間にか右隣にはクラリスが座っていた。
アレ?フローラ何処行った?
あ、向かい側にいたわ。
「ま、アンタは縁に恵まれてそうな顔しているからね」
そして後ろにはジョッキ片手にセリアが立っていた。
「……縁」
「そうよ、縁。分かる?オラリオ特有の言葉じゃないわよ?」
「……それくらい分かるわ!」
――――縁……か。
少し前に、俺は寝る前に一度だけ、足りない頭を使って考え事をした。
今回の件、ハッキリ言って俺がいなくても別に結果は変らなかったんじゃないかって、そう思ったんだ。
俺がいなくたってデメテル・ファミリアは他のファミリアの支援で立て直すつもりだったからな。
消極的な言い方で言えば、結局俺が今までやったことは無駄じゃないのかって、そう思ったんだ。
いやいや、勘違いしないで欲しい。
別にあの三人に防具を買い与えたのが無駄とか、損をしたとか思うつもりは毛頭ないんだ。
ただ―――あの子達が冒険者になって危険なダンジョンに潜る必要が、無かったんじゃないかって、思うんだよ。
暇つぶしにそう思った田舎者の無駄な空想だよ。
「リーダー?」
「……リーダー……?」
「何よ?またボーっとしちゃって」
あの子達が心配そうな顔をして俺を覗きこんでくる。
「……少し、『縁』ってヤツについて考えていたんだ」
「……縁、ですか……?」
「……ああ、もし俺があの時バベルで買い物に行かなかったら、クラリス、セリア、エミリアと会わなかったら赤の他人として、すれ違うだけだったかもしれない。もしも、あの時俺がいち早くダンジョンから脱出していたらモンスターに襲われていたチビ達は今頃どうなっていたんだろうか?……って」
「「「……」」」
三人は黙って俺の話に耳を傾けてくる。
そんな大層な話じゃないって全く……。
「……たった数十分の間だけのことなのに、こうも人生が変わってくると、つくづく縁ってヤツは面白いなって思っただけだよ」
本当に、不思議でたまらなかった。
「……お前達、―――少し、昔話をさせて欲しい。暇つぶし程度で良いから聞いてくれ」
今から二年ほど前、ユージュアル村で暮らしていた時『メイルストラ』と言う国から極東に向かう商人の人達に出会った時のことだ。
歌劇の国と呼ばれるだけあって、彼らはとても陽気で愉快で話しやすい良い人達ばかりだった。
そんな彼らに俺は気まぐれに聞いた、「縁と言うモノは貴方達にとって大切なモノか?」―――と。
彼らは「勿論大切さ、僕ら商人にとってかけがえの無いモノさ。だけどね、縁ってモノは例えどれだけ勘が鋭くても、どれだけ経験を重ねても、予測できるモノじゃないんだ。少しの行動と何重の偶然が重なって出来るモノなんだ」と答えた。
俺は「……つまり、結局は偶然……運ですか?」と続けて聞いた。
商人は「そうだね。僕も長年…ってワケじゃないけど、商人になって良い縁もあれば、悪い縁もあったさ。どれも想像がつかない形でね。でも、今となっては良い縁悪い縁、どちらも僕の大切な思い出の一部さ!」と何処か困った様子で答えた。
それから商人は「アーク君、君は縁を―――出会いを繋ぐ方法を知っているかい?」と突然聞いて来る。
「……いえ……」俺はいきなりの質問何も答えられなかった。
「簡単さ!『約束』を一つ交わすだけで、またその人と会えるんだ!」
「……『約束』……ですか?」
「そうさ!一方的な約束は縁を断ち切ってしまうけど、両者が納得する約束はもう一度その人と会う為の鎖になってくれる。繋ぎ止めてくれるんだ!」
そう言って話す彼は、少し楽しそうだったな。
「……しかし、約束って何をすれば……?」
「何でも良いよ!そうだね……アーク君、もしも極東から帰って来たらまたこの村に寄るから、またこの酒場で一緒に酒を飲んでくれるかい?」
「……奢ってくれるなら…あとエール以外なら……」
俺がそう言うと「良し!決まりだ」と指をパチンと鳴らしながら彼は笑った。
「…どうだい?簡単だっただろう?」
「……こんなんで良いんですか……?」
「人の縁なんてこんなモノだよ!さぁ、もう一度……乾杯!!」
それから商人は直ぐに極東に出発して、一ヶ月経たないうちに戻って来て本当に村の酒場で他の商人と村の人に混じってジュースを飲んだっけ。
酒はその時気分じゃなかったんだ―――
「―――で、一度故郷のメイルストラに帰るって言ったキリ、あの商人とは再会しないまま俺はオラリオに来てしまったけどね」
気が付くと俺の話でシンっと静まり返っている。
いやだから、俺の話はそんな大層な物じゃないって!
その証拠に、チビ三人は塊になってグースカ寝ているし。
「……お前達。そんなに黙らなくても良いんだけどな」
「いやいや!リーダー君の貴重な思い出話、聞かずにはいられないよ~」
モニクがヘラヘラ笑いながら答える。
「―――で?リーダーは何が言いたいの?」
「……う」
セリアが棘のあるセリフを吐く。
でも何処か口元が二ヤついているようにも見えた。
「そーだよリーダー!言いたいことはちゃんと言わないとボク達分からないよ~」
エミリアも笑いを含んだ言い方で言う。
序に顔もニヤニヤしている。
「……えっとだな、そうだな……えっと、えっと……」
―――彼女達は知っていた、目線があちこちを泳ぎ両手を握り二本の親指でクルクル回す仕草は『彼が何か言いたいことがある仕草』だと。
「―――一つ、お前達と『約束』がしたい」
「……約束、ですか?」
「……ああ、まぁそんな大層な物じゃないよ。お前達がまた冒険者になったらの話だから」
冒険者になったその日の夜、皆で酒場へ行こう、冒険者と言ったら酒場だからな。
良い店を見つけたんだ!『豊穣の女主人』って所で料理が上手かったんだ!……値段は少し高いけどな。
でも、聞いた話だと果実酒が上手いらしいんだ!!
―――いつか……いいや!絶対に行こう、全員で!!
「……まぁ、それだけの話なんだけどね」
自分の言いたいことを言って俺は漸く一息つく。
「……」
「……え?」
再度辺りがシンと静まり返る。
「…あのリーダー様。それはつまり私達が今度こそ本当に正式な冒険者になった時にリーダー様が私達の門出を祝ってくれるってことですか?」
「……ひ、一言で言えばそうだな」
「……」
更にもう一度静まり返る。
しまった、やっぱりでしゃばり過ぎ―――――
「ねぇねぇ!それってリーダーが奢ってくれるの!?」
「……エ、エミリア……!」
エミリアが喰い気味に聞き、クラリスそれを注意する。
「……勿論だ、好きなだけ飲み食いしろ。まぁ、俺もその時には結構稼げるようになれば良いんだけどな」
「本当!?やたーっ!!大賛成だよ!!」
エミリアが両手を上げて小さな体を飛び跳ねて揺らす。
「ま、良いんじゃない?ご飯を食わしてくれるならアタシは別に何も文句は無いわ」
「「わーい!ごはん奢ってくれるー!!」」
「リーダーさん。ゴチになりま~す!」
「いや~嬉しいね。リーダー君から誘ってくれるなんて、モニクさん感激だよ」
「リーダーさんと酒場でお食事。今から楽しみですわ」
「…ねぇララ。酒場って何かしら?食堂とは違うのかしら」
「……うう……騒がしい所は……少し苦手……でもリーダーさんと一緒なら……行きたいです……」
「エマ、聞いた!?リーダーさんからお食事のお誘いだって!」
「……き、聞いているわよ。……聞き逃すワケないじゃない」
各々が賛成の意を示す中、おずおずとフローラとクラリスが手を上げる。
「……リーダー、本当に…本当に良いんですか?……」
「そうですよ、リーダー様だって今までクラリスとエミリアとセリアに色々使ったでしょうに……」
「……ソレはソレ、コレはコレだ。今更とやかく言うつもりはないよ」
それから俺は一息つき、「でもな…俺からもう一つ、約束して欲しいことがあるんだ」と付け加える。
「……お前達の今目の前にあるモノを……デメテル・ファミリアの復興に対して目を逸らさないで欲しい。俺も冒険者として、ダンジョンから目を逸らさずに全力を尽くすから……!」
―――と、彼女達の前でガラにもなく熱弁をする。
「……それにな、お前達はまだ16、17だろ?まだまだ色んな道に進める年齢だ!さっき酒場へ行く行かないって約束交わしておいて変な事言っていると思うけど、冒険者にこだわらなくてもお前達にはまだまだ他の道がある筈だ!ソレを忘れないでくれ」
こんな若い女の子が命のやり取りをするところは見たくないってのも、正直な話だけどね。
「……それに、俺を見てみろ。俺なんてもう23だぞ!こんないい年した大人が村を飛び出してオラリオに来て駆け出し冒険者やっているんだ。来年で24だぞ!それでも……それでも辛うじてやっていけてるんだ!」
今考えたら殆ど勢いだけでオラリオに来て、冒険者になってダンジョンに潜っているんだな……本当、俺にしては上出来だよ。
「……まぁ、長々と無駄な熱弁したけどな。つまりだ、一言で言うなら……後悔をする人生だけはしないでくれ、後無茶もしないでくれ、後は……後は……えっと、えっと……」
他に何か言おうと必死に頭をひねっていると、いつの間にか向かい側に座っていたフローラが「リーダー様、それは一言じゃないですよ」とクスッと笑う。
そしてフローラの突っ込みに皆がドッと笑う。
―――そんなに俺の熱弁が可笑しかったのか……!?
「……そ、そうなのか。イヤ、でもまだ色々言わないといけない気がしてな」
「いや、リーダーがそういうの苦手なのボク達知っているから無理に言わなくても良いよ」
「……そう言われると、少し傷つく」
そんな他愛のない会話を彼女達と一晩中続けた。
そして気が付いたら、空が明るくなり―――会議室の窓から新しい朝陽が差してきた。
「……ッ!?」
――――あ、ヤバい。
最終日の報告書を書くのを忘れてた……。
本当は二話に分けようと思ったけど、30話以内にChapter1を終わらせたかったのでまとめました。