ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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桜牙(オウガ)

極東のモンスター(オウガ)のドロップアイテムと極東の秘境にあると言われている『血吸いの桜』の花弁を使って作られた刀。生命吸収(ライフドレイン)が付属してある第3級武装。

価格:2,800,000ヴァリス

「極東には鬼なんているのか。おっかないなぁ。でも、ダンジョン以外のモンスターってドロップアイテムって落とすのかな?」
~アーク~


第33話 冒険者始めました 「ああ、だから新しい階層に行きたくなかったんだよ」

「おはようございますッ!!」

朝っぱらから元気な声で挨拶してくる猪人(ボアズ)の青年が頭を下げて来る。

俺も「……ア、オハヨウゴザイマス」と申し訳程度の愛想笑いを浮かべながら横をそそくさと通り過ぎて行く。

 

―――ああ、おはようございます。

今日もいつも通りダンジョンに潜るつもりだったんだけど、昨日の話が気になってあまり眠れなかった。

 

原因は勿論、昨日のヘファイストス様が持ちかけて来た仕事の話だ。

36階層まで行って採掘―――言葉にするだけなら簡単だけど、辿り着くのはそう簡単な筈がない。

少なくとも俺一人で辿り着くことは一生無理なんだろうな。

 

だからこそ、この話はチャンスでもあるし一種の生命の危険(ピンチ)だと俺は考えている。

 

あの元冒険者の商人が話してくれた17階層の迷宮の孤王(モンスター・レックス)、ゴライアスの向こうには冒険者の『楽園』があると話してくれた。

 

 

 

楽園と言う単語は物語の中ではいくらでも存在していた。

一生かけても食べきれない食物の宝庫と呼ばれた広大な森――――

偉大な魔法使いが独りで創り上げた空中に浮かぶ島国――――

全てが黄金で創られた巨大都市――――

神々が創造したと言われるもう一つの世界――――物語の数だけ様々だ。

 

例えその楽園が俺の想像していたものと違うモノだったとしても、あの人が楽園だと豪語するんだ、一度くらい見に行っても損はしない気がする。

 

 

 

―――――しかし、良い機会とは裏腹に生命の危機も当然感じた。

 

格上の高レベル冒険者達に付いて行くからと言って、必ずしも安全とは言えない。

つい先日までコボルト相手に死ぬかもしれないと思っていた奴が何かの手違いで1人で30階層を歩いてみろ、何回死ぬか想像もしたくない。

 

えっと、つまり何が言いたいかって?

簡単な話だ。冒険者の楽園を行ってみたいけど、死にたくないって言いたいだけだよ。

 

俺は英雄(・・)じゃない、ただの元村人(・・)だ、出来る事なんてたかが知れている。

引き際ぐらい分かっているさ(・・・・・・・・・・・・・)

 

――――まぁ、思う所は色々あるけど、その前にいつもの市場で腹ごしらえしよう。

食堂は注目されるから行きたくない、何故か注目されるんだよ食堂に行くと。

嫌で嫌でしょうがないんだ。

 

 

荷物を背負って……あ、そうだ。ホームを出る前に一つ確認を。

 

「……アテナ様、起きていますか?」

絶対に要らないと思うけど、ホームを出る前にアテナ様に一言声をかけてから行こう。

扉の前でドアをノックするが、誰も出て来ない。

どうせ、いや、絶対に酒瓶抱えたままグースカ寝ているんだろうな。

 

「……」

もういいや、わざわざ起こす必要も無い。

他の構成員に見つかる前にさっさとホームから出よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝、俺はホームを出た俺は馴染みの屋台市場へと向かい朝食を済ませる。

そして空になった容器に視線を向けながら聴覚に意識を集中させる――――

 

 

「この前妻が知らないキャットピープルの男と腕組んで歩たんだよ……」

「浮気か!?ソレで、お前はどうしたんだよ?」

「……スルーした」

「な、何でだよ!!?」

「だって、俺もその時娼館で仲良くなったアマゾネスの女の子とデートをしていたからな。やはり15歳の瑞々しい体は最高だッ!……おい、聞いているのか?」

 

 

「おい!聞いたかッ!?」

「ああ、あの噂だろ…………ファミリアの上級冒険者の連中が全員行方不明になった話だろ?」

「ああ、もう5日間くらい見つかっていなんだって――――」

 

 

「もう直ぐロキ・ファミリアが遠征から帰って来るって話」

「ああ、今回の遠征で成果はあるんだろうか?」

「ま、弱小ファミリアにいる俺達には関係ない話だろうけどな」

 

 

「…ッチッ!!ついてねーぜ」

「どうしたんだ?こんな朝っぱらから荒れて……」

「俺の財布が盗まれたんだよッ!!誰がスッたかは知らんが、見つけたらただじゃおかねェ……」

「そりゃ気の毒に。―――そう言えば、今噂になっているな。手癖の悪い小人族(パルゥム)がいるって話」

「ああ、その噂は知っている。何処から流れて来たかは知らんが、()複数犯(・・・)らしいな――――――」

 

 

断片的だがあらゆる方向から雑談と言う名の情報が耳に入り込んでくる。

この屋台市場、安くて旨くてそして好きな物を選べるから色んな人が集まるんだ。

一般人は勿論、俺みたいな金に余裕が無い駆け出し冒険者も来る。

そして耳を澄ませば勝手に俺に耳に入って来る訳だ。

時折本当にタダの雑談が聞こえて来るけどソレはソレで面白い。

安い食事が出来て情報収集も出来る、良い場所だよ此処は。

 

「……良し、行こう」

俺は同業者の話を一通り聞いたところで、今日も元気にダンジョンへと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、聞いたか?最近出来た噂」

「何かあるのか?」

「ああ、ここ数日前からうろつき始めたらしいんだが『1階層から4階層の間で魔剣を容赦なく振り回している単独(ソロ)冒険者』がいるらしいんだ。特徴は分厚い革のマントを取り付けた、黒革の鎧を着た男らしいんだが、その冒険者を8階層、9階層辺りをうろついている若い駆け出し共が、自分のパーティに引き込みたくて、躍起になっているらしいぜ――――――」

 

 

 

 

 

 

「……?」

ダンジョンの1階層をゆっくりと歩き進める。

いつも通りモンスターと戦って4階層まで進んだらさっさと帰ろう――――そう思っていたのに今日のダンジョンは少し様子が違う。と言うか違和感がある。

そんな違和感を感じながらでも俺はダンジョンの中を歩き進めている内に、1つ疑問を抱く。

アレ?何で1階層にこんなに冒険者が留まっているのだ、と。

 

1階層と言えばどの冒険者も目もくれずにさっさと通り過ぎていくだけの道に過ぎない。此処に留まると言ったら精々俺みたいな冒険者になったばかりの駆け出しばかりの筈だ。

それなのに見てみろ、向こうの廊下に発生しているコボルトやらゴブリンやらを表情1つ変えずに討伐している4人組のパーティを……!

 

見た所、俺と同じレベル1の冒険者ばかりだけど、少なくともゴブリンやらコボルトやらダンジョン・リザードやらをあんな風に立ち止まって相手にする必要のない格上の冒険者ばかりだと、俺は確信している。

もう1ランク上のモンスターと戦っても良い筈なのに。

 

何故ここに留まってモンスターと戦っているのかは知らないけど、彼らのおかげで一階層は武器を発現せずに階段に足を踏み入れることが出来た。

 

――――いやいや、ダメだ。それじゃ俺が困る。

お金を稼ぐのは勿論、モンスターを倒して【経験値】を積む為にダンジョン潜っているのに、それを潰されちゃ何にもならない。

でも、そんな事を俺が彼らに言う筋合いが無いから、文句は言えない。

 

「……はぁ」

まぁ、こんな日もあるさ――――という意味を込めて溜息をつく。

頑張っている格上の冒険者達を通り過ぎる際チラッと見てから、再びダンジョンを歩き進める。

 

――――一瞬、目があったような気が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?」

 

2階層に降りて丁度真ん中辺りを歩いたところで、背後から来る妙な複数の視線を感じた。

アミュレットは反応していないし、多分悪意も敵意も無いとは思うけど、物凄く気持ち悪いッ!!

今すぐにでも全力で逃げ出したいところだけど、俺の敏捷じゃ多分、いや、絶対に追いつかれるだろうな。

落ち着け、冷静に、冷静に……。

 

アークは慌てずそのまま、ゆっくりと歩いて行く。

眼前にあるT字路を右に曲がり、奴らの視界から完全に姿を消したと確信した瞬間―――――――――

 

「……ッ!」

俺は全力で、弾け飛ぶようにダンジョンの奥へ駆けて行く。

後ろから「ヤバい!バレた!!―――――!―――――ッ!!」なんて言葉がチラッと聞こえたような気がするが、全力で走ることだけに集中して、後半が全く聞き取れなかった。

そしてダンジョンの奥へ奥へと走り進み、階段を降りて行く。

 

背後からの声は次第に多く、そして大きくなり迫ってくる足音の数も声と比例していった。

 

「……不味いッ!!?」

―――――――追ってくる足音と声の中に、アミュレットが反応した。

敵意ある奴が、悪意ある奴が俺をお、おお追いかけて来るッ!!!!

だが、アークの焦燥とは裏腹に4階層に降りた辺りから、次第に声と足音が離れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぜぇ、ぜぇ」

そして遂に此処まで来てしまった、5階層に続く階段まで……!

両肩を大きく上下しながら後ろを振り返る。姿は見えない物の、何を言っているか聞き取れないが、後方から僅かに誰かの叫び声が聞こえる。

 

「……!」

行くしか―――――ない。

5階層に行くのはまだ早いと思うけど、このまま立ち止まってたら後ろの奴に追いつかれてしまう。

何で俺を追いかけているのかは知らないし、アミュレットが反応しないってことは敵じゃないと思うけど、コソコソ近づいて来る奴に関わりたくない。

 

俺は意を決して一歩階段に足を踏み入れ、奴らが追いかけて来ないように願いながら階段を駆け下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!!絶対に逃がすなッ!!」

「誰よりも早くあたし達が捕まえなきゃ!!」

アークを追っていた集団の一部、人間(ヒューマン)の青年とエルフの少年、人間の少女とキャットピープルの少女、計4人組のパーティだ。

 

今の所彼らが一番先頭で、アークに一番追いついているパーティだ。

勿論、後ろを振り向けば他のーパーティも我も我もと、全力で走っている。

 

「あの男で間違いないんだなッ!!?」

背中に大剣を背負っているリーダー格だと思われる人間の青年がエルフに訊く。

 

「うん、間違いないよ!彼だ、彼が魔剣を持ってコボルト共を一掃しているのを僕は見たんだッ!!」

短弓を背負っている中性的で幼い顔立ちをしているエルフの青年は答える。

 

「じゃあやることは1つッ!捕まえて俺達のパーティに―――――」

リーダー格の男が何か言いかけた時、側面から2体のコボルト立ちはだかる。

 

「うおッ!?こんな時に……!!」

男は慌てて後ろに下がり、背中の大剣を引き「お前らの構ってる暇はネェンだッ!!!」と一喝して一振りでコボルト達を屠る。

 

「……なッ!!」

しかし、2体のコボルト先に現れたのは、まるで『ここから先は行かせない』、と言わんばかりのモンスターの大群だった。

壁からコボルトとゴブリンが、天井からはダンジョン・リザードが、アークを追っていた彼らに襲い掛って来る。

 

アークを追っていた他のパーティも似たような現象が起き、誰も彼も足止めを食らい、完全に目標を見失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、」

――――来てしまった。ああ、来てしまったさ。5階層にッ!!

薄緑色の外壁を渡り歩きながら、俺はダンジョンの奥へと歩き進める。

この階層から冒険者の数が著しく減っているのが分かる。

俺と同じ駆け出しと思われる防具を身に纏い、2人組のパーティがチラホラ見える程度だった。

 

「来るぞ、援護を頼むッ!!」

「分かったわ!!」

 

当然人のこと言えないが、あの手慣れない感を見た限り、彼らは正真正銘の駆け出し冒険者なのだろう。

後ろから追いかけてくる様子しないし、撒いたか、それとも諦めたか、助かったのだからこの際どっちでもいいや。

本当だったらこのまま回れ右して4階層に戻りたいけど、多分いるんだろなぁ。

待ち伏せされるのも怖いし、このまま無茶しない程度に奥へと進もう。

 

「……ッ!?」

息を整え、いざダンジョンへ1歩!という所でドンッと不意に誰かが背中にぶつかって来る。

後ろを振り返ると白髪に赤い瞳の少年が「ご、ごめんなさいっ!」と頭を下げてその場を立ち去って行った。

あの少年、最近よく見るな。

俺と同じ駆け出しみたいだから、探索する階層も被るんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行き止まりか」

ダンジョンの中を暫くの間歩き進めていると、L字路の行き止まりに辿り着いた。

そろそろこの階層のモンスターに遭遇するかもしれない、早いとこ武器を出さないとな。

辺りをキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認してから右手を前に出し武器の発現を試みる。

右手に握られていたのは―――――刀だった。

桜色の刀身に、刀特有の一風変わった鍔と柄を持った武器だ。

 

桜か、極東に存在する木で春になると綺麗な花が咲くと自慢げに話してくれた極東のことを思い出す。

一度で良いから見てみたいな。

 

 

―――――――アークが刀を握ると同時に、アミュレットが敵の接近を警告する。

 

「……来たか!」

 

ヘファイストス様のこと、先ほどのストーカーのこと、今後のファミリアのこと、村にいた時とは違って、悩み所が沢山だ。

だけど、今はただ目の前のことに集中するのみッ!!

 

アークは雑念を振り払うかのように刀を両手に持ち、目線と同じ高さまで腕を上げ、剣先は目線と平行に、左手は下、右手は上になる様に掌を添えて柄を握り締める。

村にいた時、刀使いの極東出身の武人が「コレが突きの上段構えだ!」と教えて貰ったのを思い出し直ぐに構える。

教えて貰ったからと言って、強くなる訳じゃないけどね。

 

何で教えて貰ったかって?

極東の人達は自分の磨いた武術を見世物にする人が多く、パフォーマンスとして教えたり披露したりすることが多いんだ。

その時に集団に混ざって教えて貰った。

 

 

 

アークは刀を構えたままゆっくりと前に進む。

 

「……?」

 

――――何かが異常だった。

首元のアミュレットが今まで見たことがない程大きく振動し、鎧越しから分かる程赤く光っている。

「逃げろ」と、大声で言っているかのような、そんな気がした。

 

 

多分、アミュレットの警告は間違っていないと思う。

――――ドシン――――――――――ドシン――――――

まるで巨大な生き物が歩いて、地面を響かせているような音が聞こえる。

『――――――ヴ――――ヴォォ――――』

まるでコボルトやゴブリンとは格が違うと言わんばかりの強者の唸り声が聞こえる。

地響きと唸り声がアークの耳に入る音量がドンドン大きくなり、次第に巨大な影が視界に入る。

 

「……ミノ……タウロス……?」

 

L字路の角から巨大な腕が、蹄が、角が次々と露わになる。

その姿は『アルゴノゥト』と呼ばれる御伽話に出てくる怪物のイメージ(ミノタウロス)そのものだった。

その姿を見たアークは、心臓の鼓動は極限まで高まり、顔から汗が滝のように流れ鎧を伝い地面にポタポタと落ちて行く。

歯の震えも止まらず、呼吸だって不安定な状態だ。

 

「……あ゛……あ゛あ゛……」

―――――違う、何かが異常じゃない、すべて異常だった……。

それに気づいた時にはもう、全てが遅かった。

 

「……クソッ!!ままま負けててててたまるかッ!!!!!」

緩んだ気を引き締め動揺を誤魔化すためにアークは一層強く刀を握る。

 

怖い、怖いさ、出来るなら今背負っている物全て投げ捨てて全力で村まで逃げたい。

でも、それでも、震えながらでも、奴と戦うと強い意志を持って前を向いて諦めなければ何とかな『ヴォオオオオオォォオオオオォオオオオオオオオオォオオオオオオオオオオオオオオオォオオオオォォオオォオオオオオォオオッ!!!!!!!』

 

アークが視線を前に向けた瞬間、鼓膜が破れそうなる程の大咆哮を浴びる。

指の先から脳天が衝撃を駆け巡り、意識が飛ぶところだった。

アークはそのままの体制で石造の様に固まり、放心状態になってしまう。

 

「うわああああああああああああああああああああああああ」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

「ほあああああああああああああああああああああああああ」

 

咆哮の後、牛人の背後から叫び声が僅かに混じって聞こえた。

恐らく、この階層に留まっている人達がアークと同じ非常事態に遭っているのだろう。

 

「……ッ!!!」

 

アークは恐怖で顔を歪めながらも我に返り、再び刀を構える。

多分、今の俺は他人を助けるどころか、自分を守る事だって無理な筈だ。

 

ミノタウロスは開戦の合図と言わんばかりの咆哮を上げた後巨大な両腕を広げこちらに迫って来る。

 

ミノタウロスが迫って来る中、アークは確かに見た。

あの牛人が勝利を確信したかのように―――――――――――嗤っていたのを。




少し展開が急すぎた気が……
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