ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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ファルティア・スピア
勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナの武器。
・黄金の穂先を持つ槍で第一等級武装。

「『勇気』を冠する槍、か。勇気が無い俺には持つ資格が無いな。何度でも言うよ、俺は英雄じゃない、元村人だ。辺鄙な村の隅の隅を歩いていて話しかけても『今日は暑いな~』とか、どうでも良いことしか言わない人間だよ」
~アーク~


第34話 冒険者始めました 「ポーションと回復魔法でどうにかなったら医者はいらないよ」

「……ッ!!」

ああ、来る……死が近づいて来るッ!!もう、やるしかないッ!!!

ミノタウロスは両腕を交差するようにアークに掴みかかろうとするが、姿勢を低くして両腕を避け、刀を構える。

 

「……死ねエ゛エええええええええええええええええええええッ!!!」

アークは鬼気迫る表情で手に持っていた刀を握り締め、隙だらけになったミノタウロスの右足目掛けて突き刺す。

 

「……ッ!?」

刺さった刀が微動だにしない。

いや、ミノタウロスの肉が硬すぎるんだッ!!

 

『ヴ、オ゛オオオオォッ!?』

やっぱり、勝てるなんて思うな。いや、勝とうとなんて微塵も思うなッ!!

コイツは、今の俺がマトモに戦って勝てる相手じゃないのは分かっている筈だッ!!!

 

だから、せめて逃げる為に、追いつかれない様に足の損傷を狙った一撃離脱、もうコレに賭けるしかなかった。

 

アークは刀から手を放しミノタウロスの股下に潜り、出口を目指して全力で駆け出す。

 

「う゛オ゛オオオオオオオオオッ――――――!?」

 

先手を打って出口まで駆け出そうとした刹那――――アークの左腕に巨大な槌で横殴りされたかのような衝撃が走る。

 

 

ミノタウロスが振り向き様に振り回した腕が、拳がアークに直撃した。

 

 

「あ゛、ガ――――ッ!!?」

横殴りされたアークの体は、歪んだくの字に曲がり全身を床に何度も何度も打ち付けながら転がり、背中から壁に激突する。

壁が砕け亀裂が入る音、そしてパラパラと破片と共にアークの体も地面へと落ちる。

一撃。当たりまえだと思うが、勝負にすらなっていない。

 

『フーーーッ!フーーーッ……!!!』

殺してやるッ!!!―――――ミノタウロスは鼻息を荒く、右足から血を地面に滴らせ、引きずりながら獲物(アーク)に近づく。

 

「……あ、あ゛あ゛……」

死にたくない――――心の底からそう思ったアークは視界が霞み、今にも意識手放そうとする中、武器の発現を試みる。

この長細い感触は……槍、だろうか?

 

「……ゲホッ!ゲホッ!!」

 

左手が動かない。だったら、右手だけで、片手でミノタウロスを一撃で仕留めてやろうと中腰に構える――――いや、アークの頭の中では、槍を構えてるつもりだった。

実際、今のアークの姿を第三者の目から見れば、アレは槍を構えるとは到底思えない。

精々右手に持っている槍を地面に突き立て、杖代わりにして必死に立ち上がろうとする哀れな瀕死の男にしか見えないからだ。

そして、間もなくアークは立つことさえままならず、力なく地面に伏せ、負けを認めるかのように、意識を手放してしまう―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利を確信したミノタウロスは地に伏せた男に手を伸ばす。

――――その瞬間、ミノタウロスの隆々とした大腕がボトリと床に落ちる。

『ヴォッ!!?ヴォモオオオオオオオオオオオオッ!!!?』

腕だけじゃない、腕が落ちたあの一瞬で、首、胴、足――――全身に剣の斬り刻まれた線が入り、ミノタウロスの体は文字通りバラバラに崩れ、やがて魔石を残して消えて行った。

 

「……」

ミノタウロスを仕留めた人物は、少し前までアークが率いていた少女達(デメテル・ファミリア)と年が全く変わらない、いたいけな少女だった。

少女は金の髪をなびかせ地に伏せた男に一声かけようと近づくが、別の所から「ほぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!」と叫び声が聞こえ、「…直ぐに、戻って来るから…」と声の方へと身を翻して言った。

 

 

 

 

 

―――――この直後、アークとは違うもう一つの物語が生まれる。

一人の少年が【剣姫】と呼ばれた一人の少女に出会い、恋をして、仲間と出会い、様々な試練に立ち向かい乗り越えながら英雄として成長する見栄えある長い、長い物語が。

 

 

 

 

 

 

「…リヴェリア、その人は…」

5階層まで昇りつめたミノタウロスを全滅させて暫くが経過し、アークの周りには人だかりが出来ていた。

 

「……大丈夫だ。死んではいない、気絶しているだけだ。このまま治療院へ連れて行けば済む。ガレス、彼を荷車へ」

少女の問にリヴェリアと呼ばれたエルフの女性は淡々と答え、ガレスと呼ばれた屈強な体躯の老ドワーフはアークを片手で摘み、荷車へと運ぶ。

 

そして、各階層へ逃げたミノタウロスを仕留める為分散したロキ・ファミリアの仲間達が全員集まって来たところでダンジョンの脱出を再開する。

アークも文字通り荷物としてロキ・ファミリアの遠征帰りを共にすることになった。

 

 

 

 

 

「……なぁ、アレって」

「うん、何で……」

 

ロキ・ファミリアの連中がアークの姿を見てざわめく。

幹部の連中も彼の方をチラッと見る。

 

「ケッ、文字通り荷物じゃねーかよ!……雑魚の分際でダンジョンに潜ってくんじゃねーよ」

一人の狼人(ウェアウルフ)が苛立ちながら言う。

 

「ベート、彼は我々の手違いに巻き込んでしまった唯一(・・)の被害者だ。滅多なことは言うな……」

エルフの女性がベードと呼ばれた狼人と咎めるが、「俺の知ったこっちゃねーよッ!」と地面に唾を吐き捨てる。

 

ミノタウロスに襲われる前にアイズとベートが率先して討伐したおかげで負傷者は彼を除いて誰もいなかった。

それでも、強いて例外を挙げればミノタウロスの血を頭から浴びる冒険者がいた程度だ。

 

「自分の身も護れねぇような雑魚が、こんな所までノコノコ来た方が悪りーんだ。とやかく言われる筋合いはねぇよ」

そう言ってそっぽを向くが、アイズは「…でもベートは彼を守ってくれた」とポツリと言う。

 

アイズが他の冒険者の元へ向かっている途中、無防備に倒れているアークをベートがロキ・ファミリアの構成員が集まるまでずっと護ってくれたと話す。

 

その言葉にベートは「勘違いすんな、俺達(ファミリア)の不始末を片づけただけだ。それに、こんな雑魚がいるファミリアだ。どうせコイツを見捨てた仲間はもっと雑魚に違いねェ。後で雑魚と雑魚が集まってとやかく言われるのは面倒だからな」そう言って早足で列の前に進んで行く。

 

ベードの背中を見送った後、アイズは再度荷台に積まれている彼に目を向ける。

 

「気になるのか?」

リヴェリアが訊く。彼女の問いにアイズは「……うん」と頷く。

勿論アーク自身のことじゃない。

アーク右手に持っている得物が、だ。

それもその筈、彼の右手に握られている得物はロキ・ファミリア全員が知っている武器だからだ。

多分この場にいる全員が思っているだろう。

 

 

 

 

何で彼は団長の槍を持っているのだろう?―――――と。

 

 

 

 

「……私も気になっていないと言えば嘘になるが、詮索は駄目だ。分かっているな」

「…うん、分かっている」

冒険者のステイタスを勝手に見てはいけない。アイズはこのルールを思い出し、口を塞ぐ。

 

でも、本当に気になっているのは他の誰でもない、間違いなく()だろう。

 

「…彼のことが気になるのは分かるが、今僕達がしなきゃいけないのはダンジョンの脱出と彼を治療院へ連れて行くことだ。彼の話は外に出てからにしてくれ!」

ざわついていたファミリアの連中を一人の小人族(パルゥム)が一喝して黙らせ、ダンジョンの出口へと向かう。

 

道中、ガタンッ!と荷車がダンジョンの凹凸部分を進んだ時に一瞬上下に揺れる。

揺れた拍子にアークが持っていた槍が右手から離れカラン…と地面に落ちる。

その後ろを歩いていたサポータだと思われる眼鏡をかけた少女が得物を拾い上げ、荷車へと戻そうとするが、彼女の手の中で砂の様に消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

白い天井、白い壁、白いカーテンから差し込んでくる茜色の光。

左腕を吊るす様に肩まで巻かれている包帯に目を向け、暫く黙る。

そして次に横を向くと自前の黒革鎧とメッキが少し剥がれたプロテクター、アミュレットにバックパックが壁際に丁寧に置かれているのが分かる。

 

「……?」

此処に至るまでの記憶の辻褄が全く合わない。

確か、不本意で5階層まで潜って、ミノタウロスの遭って、逃げようとして失敗して――――ッ!!

ああ、そうだ思い出した。俺はあの時、死んだんだ。

じゃあ、此処は天国かッ!!?

 

そう思いながら俺はベッドから身を起こし、辺りを見渡す。

俺と同じ様なベッドがいくつもあり、冒険者(同業者)だと思われる連中が寝そべっているのが分かる。

 

「気が付きましたか?」

後ろから誰かに話しかけられる、振り向くと一人の少女がいた。

少女は「水、如何ですか?」と聞かれる。

 

「……一杯、お願いします」

俺はコップに水を手に取り一気に呷る。

そして深いため息を吐き、落ち着いた所で彼女に「……此処は、天国じゃなくて診療所なのか?」と訊く。

 

「はい、ディアン・ケヒト様の運営する『治療院』です」

彼女が笑顔でそう答え、漸くここはあの世じゃないと気が付く。

 

ディアン・ケヒト・ファミリアの話は何度も聞いている。

何でも医療を専門とした商業ファミリアとか何とか。

 

後、ロキ・ファミリアがミノタウロスから俺を助けてくれて此処に連れて来てくれたことを彼女が話してくれた。

 

「……成程なぁ」

そう何度も呟き、俺は意識の無かった時に何が起きたのかをベッドの上で体を休めながら、少しづつ整理することにした。

 

 

 

 

 

 

「……分かりました。お世話になりました」

俺はベッドから出て、バックパックと鎧の入った肩掛け鞄を背負う。

鎧の入った鞄はディアン・ケヒトファミリアが貸して貰った。後で返さないと。

ついでに彼女にも手伝ってもらった。本当、ありがたい。

片手しか使えないから少し不安だったが、この様子ならホームまで自力で帰れそうだ。

 

「あ、あの!もう少し休んで行っても」

彼女が心配そうに訊くが、俺は「……いや、これだけ動けるんだったら大丈夫ですよ」と、答える。

 

「……それよりも、お代は……」と彼女に訊くが、「大丈夫ですよ、お代はロキ・ファミリアの方が出してくれました」と答える。

 

――――ん?何かおかしい……ロキ・ファミリアの連中は何でそこまでしてくれるんだ?

だって、ミノタウロスから助けてくれた上に治療院まで運んでくれて、治療費まで払ってくれるなんて。

俺に恩を着せるつもりか?気を付けないとな。

 

「……じゃあ、俺はもう行きます」

「はい!お大事に」

 

よろよろと、2つの鞄の重さにふらつきながら、歩き始める。

 

「急患が入りました、急いで下さい!」

「はい!アミッドさん」そんなやり取りが後ろから聞きながら建物を出てホームへと歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――と、言う訳なんですよアテナ様。いやー、荷物が重かった!」

アテナ様の自室、俺は今日のことを報告する。

 

「ちょっとッ!!どうするのよその怪我ッ!!それじゃ遠征に行けないじゃないのよっ!!?」

アテナ様の問いに俺は「……そうですね、今回は見送りましょう」と言うとアテナ様は気に入らない顔をして「ね、ねぇ、そのくらいの傷なら回復魔法とかポーションの力で何とかならないの!?」と訊いて来る。

 

「……一応、俺の左腕の骨ヒビが入ってんだけど。こういう傷は時間をかけて直した方が良いと思う。回復魔法があれば一瞬で完治するとかそんなこと思ってないでしょうね、アテナ様?」

ポーションの力を借りれば全治3日だって。

3日で骨のヒビが治るとか、ポーションの力って改めて凄いと思った!余り飲みたくないけど。

 

狼狽えるアテナ様を無視して「……じゃあ、俺はヘファイストス様に断り(・・)の話をしてくるから」と言って部屋から出て行く。

 

「ちょっと、アーク!それくらい気合で何とかしないさいよっ!!3日で治るんだったら、遠征に行って3日目で治せばいいじゃないッ!!!」

なんて無茶言う駄女神の言うことは無視して、ヘファイストス様の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――と言う訳なんです」

「……そう。さ、災難だったわね」

ヘファイストス様の同情の言葉に俺は「全くですよ」と頷く。

 

「それで」と俺は早速本題に入ることにした。

 

「……ヘファイストス様、見ての通り、俺は遠征には行けません……!だから、今回の仕事は断らせて頂きます」

 

ヘファイストス様は「まぁ、その状態で行くのは酷ね。分かったわ」と残念そうな顔で言う。

 

「でもさっき、アテナ様に遠征に潜りながら治せばいいじゃないって、言われました」

「あの馬鹿、また無茶なことを」

そう言ってヘファイストス様は呆れた様子で右手で顔を覆う仕草を見せる。

 

「アーク君、今日はもうゆっくり休みなさい」

「……はい、失礼します」

そう言って、俺は部屋から退出する。

 

―――――ここ数日はダンジョンには潜れない、か。

どうしようか?

まぁ、今日はもう休もう。

しかし、全然眠たくないんだよなぁ。本当にどうしようか。




不味い、この作品(シナリオ)Chapter3~4で終わらせるつもりなのに。
色々と章をいじらないと。
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