ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う 作:ウリクス
500ヴァリス
ユージュアル村の地酒候補
試作段階だが、程よい甘さに加え、エグみとクセが無く、悪酔いをしないと好評価の模様。
「強いて不満があるなら、瓶が少し小さいって所かしらね!」
「……試作段階ですからね。その分値段を下げているらしいですから、贅沢言わないで下さいよ……」
~アーク&アテナ~
「……」
村の北側に建てられている、ごく普通の民家。
それでも強いて言えば他の家よりも1周り大きいくらいだ。
アークはその民家に何の躊躇も無く勝手に上がり込み、勝手に家の中を歩き回り1つの部屋に入る。
ようこそ、俺の実家へ、コレと言った物はないけど寛いで行って欲しい。
少し埃を被っているけど。
ホーソンベリーのハーブティーは如何だろうか?ちょっと包装紙に埃が被っているけど。
蜂蜜を入れると美味しくなるんだ。ちょっと瓶に埃が被っているけど。
……ん?俺は一体誰に言っているのだろう?
今入ったこの部屋はアークの自室、この部屋も少し埃を被っているがその点を除けば村にいた頃と全く変わらない。
ああ、懐かし……くはないな。
それに、俺は今日まで宿屋で寝泊まりして来た。
何故か?ただ単純に掃除が面倒くさかっただけだ。
と言うか、片手で掃除は出来ないからな!
実家とは言え、埃塗れの家で暮らすのは嫌だ。
木製の質素な机、冒険譚の本ばかりが並んだ教養の無い本棚に硬くて寝心地の悪いベッド、特に変わり映えのしない白い壁紙で覆われた質素な部屋だが、強いて言えば部屋の端に置かれている四角い木箱にはアークが長年使いこんで出来た傷だらけの狩猟弓と革の鞘に納められている
アークは懐かしむ様に弓と山刀を手に取ろうとするが、案の定拒絶されてしまった。
自分のスキルの所為でもう触れらないのは分かっていたが、
(別に戦いに持って行こうって訳じゃないのに……)
そう心の中で愚痴を漏らしながら机に目を向ける。
簡素な机、その上には何枚かの封のされた手紙が数枚、封が切れている手紙が何枚か重なっている形で置かれている。
手紙の内容?聞かない方が良い、と言うか教えたくない―――いいや、違う。
俺にとって胃に悪い内容が書かれている手紙ばかりだ。
アークはおもむろに旅行鞄から母と村長から貰った2枚の手紙を取り出し、手紙の山の上に重ねる。
「アーク!終わったか!!?」
ドアの方からドンドンッ!!!と扉を力強く叩く音が聞こえてくる。
多分商人のオッサンが迎えに来たのだろう。
「……直ぐに行くよ」
アークは魔石灯の明かりを消し、鞄を肩にかけ家の鍵を片手に出口へと向かう。
我が家との再会は僅か10分足らずだったが、埃以外は特に変わっていない様で安心した――――そう思いながらアークは実家を後にした。
「おはよう!アーク!!」
「……おはよう」
暗く、そして肌寒い青白い空の下を商人と共に歩いて行く。夜明けはもう少し先みたいだ。
「……結局、
念には念を入れて、村に来てから何回か左腕の怪我のことで診療所に通った。
ゴブリンと戦闘したその影響か、先生から包帯を取って良いと言われたのは予定より遅れ、昨日の夕方―――つまり、怪物祭前日だった。
出来るなら昨日の内に帰りたかったが、その日は運悪く、先生達は出張で隣村まで行っていて帰って来たのが夕方だった。
隣村はこの村よりも機能が充実しているらしいが、医者がイマイチ足りないらしい。
「……こんなことなら勝手に治ったことにして包帯取った方が良かったか」
「おいおい、あんまり無茶はするなよ?」
商人はそう言うが、アークは「いいさ、どうせ痛みが無いんだから巻いてしょうがないだろ?」と手を軽く叩いて見せる。
「まぁまぁ、自分の体にそんなことを言うな。出発にはもう少し時間がある、中でゆっくり休んでいけ!!」
他愛のない雑談をしながら歩き進めて行くと、アークは見覚えのある一つの家―――いや、店に辿り着く。
「一応、『いらっしゃいませ!』…だな!!ガハハハハッ!!!」
ああ、この人も暑苦しければ、店も暑苦しい。
デカデカと打ち付けられた『ユージュアル村雑貨店』と書かれた看板の下を通り店の中に入っていく。
薬品、使い古した武器や防具、食器や家具に装飾品が雑―――いや、所狭しと並べられた商品棚の間を歩き奥へと進む。
アークは売り物だと思われるソファーに腰掛け一息つくと商人が「あ、そうだ!そう言えば報酬がまだだったよな」と思い出したかのように言う。
ゴブリンと戦って馬車の荷物を1日中守ってことに対する報酬、アークも今日まですっかり忘れていた、と言うよりもあの時商人は酒が入っていたからただ単純に冗談だと受け取っていたが、本当だったのだな―――と意外そうな顔で商人を見る。
「なぁに!遠慮することはないぞ!!好きな物を持って行け!!!」
「……」
しかしだ、この店からコレが欲しい!!と言うモノが特に見つからなかった。
ポーションをせびってやろうかと薬が並んでいる棚を見たが
例えば、この土留色のポーションを見て欲しい。
アークは棚からポーションらしいモノが入っている容器を一つ手に取る。
半固体なのか、容器を少し傾けるとドロッとしているのが分かる。
「……オッサン。コレ何?」
商人に効果を聞いても「ガハハハハハッ!知らんッ!!」と返答が来た。
赤錆色に鼠色に薔薇色に……他にも色々あるけど今の俺には危険極まりない物ばかりで手が出せなかった。
―――――じゃあ、酒はないのか?
ポーションを諦め、アテナ様の機嫌取りに酒を一本貰おうかと辺りを物色するが見当たらない。
まぁ、最悪この村の地酒って訳じゃないけど、この村の地酒候補の『ミックスベリーの果実酒』を買ったからアテナ様が駄々こねを防げるか。
この村はコレと言った特産品がない。だから、無いなりに一生懸命作っているんだよ。
酒も無いか――――どうしようかと困っていると商人が「何なら、『地下倉庫』にでも行ってみるか?」と提案する。
「……地下倉庫ってあの倉庫?」
アークはカウンターの奥に存在する数段の下り階段の奥に扉に目を向ける。
「ああ!ここならアークの気に入る物がきっと見つかる筈だ!!」
商人は豪語するが、多分いつもの出任せなんだろうな。
どうせこのまま見つからないのならそれも良いか―――そう思ったアークは「……分かった、行ってみる」と了承する。
商人はカウンターの机を引き、その中から大振りの鍵を手に取り扉に差し入れガチャリと回す。
「コレ持って!」
商人から火の点いたカンテラを片手に階段を降りて行く。
「真っ暗だから足元に気負付けろよ!」
「何かあったら俺が直ぐに行くからな!!」
上からやたらと声を掛けられながらアークは石造りの階段を降りて行く。
暫く階段を降りて行くと次第に外からの光が断たれ、辺りは完全な暗闇と化す。
(しかし、高々雑貨店の倉庫なのに何故地下に建てたのだろうか?これだけ暗いとまるでダンジョンに潜っている気分になってしまう)
アークは階段をゆっくりと、ゆっくりと降りて行く。
暫く降りて行くと広い空間に出る。
アークはカンテラを前に掲げ周りを見渡ながら前に進む。
錆びて欠けた武器、千切れて穴の開いた防具ひび割れた食器に、胡散臭い壺――――等々、お世辞にも商品としての価値が0に近い物がカンテラの端に映る。
「……」
しかし、この地下室を支配しているのはこんな粗品等じゃない。
この空間を支配物はしているのはアークの足元に無造作に転がっている物、あるいは目の前に積み重ねられた物である。
その正体は、
「……コレは、箱?向こうはチェストか?……それで、向こうのは金庫か?」
そう、この部屋の大半は頑張れば一人で持てそうな大きさの
中には如何にも価値の高そうなものが入っています――――と言わんばかりの冒険譚に出てきそうな箱も置かれている。
アークは手始めに一つ、宝箱の形をした箱を調べる為、傍にカンテラを置いて座る。
(この箱、昔読んだ海賊達が主人公の冒険譚を思い出す)
港町で退屈そうに暮らしていた若者達がある日『海の果てに財宝がある』と言う眉唾物の噂を聞き、彼らは海賊と名乗り、一獲千金の思いを胸に抱き大海原をかける、と言う話だ。
ある時は海賊と名乗るクセに困った人を助け、ある時は道行く先で出会う海賊と戦い、ある時は船より
箱を開けようと指に力を入れるが口を開かない。鍵がかかっているみたいだ。
よく見ると槌か何かで殴られて凹んだ跡や、無理やりこじ開けようとした跡がある。
アークの前に誰かが開けようとしたのだろう。仕方ないから諦めよう。
それから、アークは手当たり次第箱を調べた。
この箱も鍵がかかってて開かない。
ああ、この箱もダメだ。開く気配がしない。
いっそのこと発現した武器で壊してみるか?いや、やめよう。
じゃあ、今度はこの箱を――――ッ!!?
ドンッと2
無造作に積まれた箱はグラリと揺れ少しの間と共に崩壊する。
ガシャアアアアアアアアアアンッ!!!!と金属と金属、あるいは石つくりの床にぶつかり合うけたたましい音が空間に響き渡り、アークは思わず両手で顔を覆い、身を縮め、目を瞑ってしまう。
「……ゲホッ!ゲホッ!!」
やってしまった!
崩れた瞬間アークの迂闊な行動を祟るかの様に尋常じゃない量の埃が舞い上がる。
「アーク!何か凄い音がしたが大丈夫か!!?」
商人のオッサンの声が背後から聞こえる。
「……ゲホッ……あ゛あ゛、オラリオに帰るってのに何でこんな目に―――――ん?」
埃の嵐が止み、倒れた山にカンテラを掲げると、奥の方に1つの箱が口を開けていた。
アークは僅かに出来た隙間をつま先立ちで進み口の空いた箱に近づく。
見た目は箱―――と言うよりも四角い形をした片手で持てるほどの小さい鞄だった。
材質は『取って』を含めて全部革、表面が至る所で捲れ上がり随分と古く、そしてボロボロなのが分かる。
開ける金具の代わりに鍵穴が付いているが口を常時開きっぱなしでもう鍵としての機能をしないみたいだ。
(……鍵は、崩れた時に地面にぶつかって壊れたか、それとも最初から開いていたか……)
いや、そんな事はどうでも良いか。
アークは横倒しになったかばんをバタンと閉じ、両手で抱えて入口まで持って行く。
改めて中身を見てみるとソコには白銀のネックレスと黄金の指輪そして――――――1冊の分厚い本。
(……本?)
タイトルも何も書かれていない、飾りっ気のない真っ黒な本。
見た目からして怪しい―――持って良い物だろうか?
「…それで?鞄ごと持って来たのか?」
「……うん」
右脇に抱えた鞄でテーブルをドンッ!!と置き手を放す。
手を放した鞄はどうぞ持って行って下さいと言わんばかりに力なく勝手に口を開き中身を晒す。
鞄の中身を一瞥した商人は「確かに本とネックレスと指輪だな。…まあ、良いだろう!持って行きな!!」と気前良く答える。
大きな荷物を両脇に抱えて「そろそろ出発する、お前も早く来いッ!!怪物祭に遅れるぞ!!!」と外に配置している馬車に乱暴に置き手招きする。
「……」
アークは鞄から中身だけを取り出し鞄を置き去りにして外へと向かう。
どうせ持って行ったって邪魔なだけだ、後で商人が何とかしてくれるだろう。
だが、この時間帯に出発しないとオラリオに、怪物祭には間に合わない。
少し眠たいけど、我慢しよう。
「良し、出発するぞ」
「……」
薄暗い中荷物を積み終えた商人は馬の手綱を席に座る。
だが、肝心のアークが馬車の前で本とネックレスと指輪を両手にボーっと突っ立ていた。
「アーク?」
「……ああ、ゴメン」
商人の声にアークはピクリと反応し急いで馬車へと乗り込む。
「……オッサン」
「どうした!?ヒューゴの料理が恋しくなったか!!!!?」
馬車に乗り込みアークは宿屋から渡された朝食が入った木の箱を旅行用の鞄の中から取り出しながら「……いや、確かにそれもあるけど今は違う」と言いながら商人に問う。
「……ただ単純にそのデカい荷物は何?って思っただけさ」
アークは馬車の半分以上を占める大量の箱を指差す。
「ああ!折角の怪物祭だ、商人らしく稼がないとな!!……っていっても、この荷物を知り合いの所に持って行くだけだけどな!!」
「だけど、金払いが良いんだ!ガハハハハッ!!」と、商人はニカッと白い歯を見せながら豪快に笑い手綱を強く握り締め、「良し行くぞ!!ハッ!!!」ピシャリッ!と2頭の馬に出発の合図を出す。
しかし、あっという間だった。
友人の結婚を祝い、友人達の再会を祝い、村の子供達に冒険とオラリオのこと尾鰭を付けながらを語ったことを思い出す。
誇張するのは良くないことだけど、そうでもしないと俺の冒険は余りにも地味過ぎた。
後は話の種として、一晩中ゴブリンと戦ったのもだいぶ誇張して語った気がする。
事実とは言え少し恥ずかしい。
そんな事を考えている内に、いつの間にか村の外へと出てしまう。
白い布の外套から顔を覗く、隙間から冷たい風が頬を掠めながらも、アークは徐々に小さくなっていく故郷を見つめながら「……ねぇ、オッサン」と問う。
「ん?今度一体何だ」
アークは「……俺は……」と何か言葉が出かかった素振りを見せるが「……いや、えっと……その……」と何かを口に出すのを戸惑ってしまう。
結局、「……何でもない」で終わってしまった。
オラリオに向かうまでの道中、あの時――――アークが初めてオラリオに向かう途中の様に静かだった。
馬の駆ける音、ガラガラと木製の車輪が回る音、そして僅かに周りの草木が揺れる音だけがアークと商人の耳に入り込む。
「……」
オラリオまで時間は沢山あるんだ、この本を読んでから一眠りしよう―――――そう思ったアークは先ほど地下倉庫で見つけた本を手に取り表紙を開く。
【魔法審判~裁かれた愚行達~】
多分、コレがこの本のタイトルだろう。
飾りっ気のない、だけどゾッと背筋に冷たい何かが伝う様な一文だ。
ああ、コレは――――と、アークは渋い顔をする。
この一文から暗い内容になりそうな気がして本を閉じたくなったが、ま、まぁもう少しだけ、とグッと堪えてページをめくる。
前書きの様だ。
『魔法とは多様のある『力』である。自分を守る力、脅威を打倒す力、誰かを救う力、自分を誇示する力、様々だ。しかし、その力の使い方によっては人を傷つけ、奪い、辱める事だって可能だ。
この本は、過去に魔法を使った猟奇的事件の全貌を記す本である』
しかし、見た目の割には
余りにも古くて読めない文字が出て来ると思ったんだ。
内容は別として。
アークはページをめくる。
目次の様だ。
太字で4つ、以下の様な事が書かれている。
【第1章~恋する死体愛好家~】
【第2章~みんな一緒に……~】
【第3章~人の孤毒~】
【第4章~我が娘の為に~】
魔法の……本?いや、ノンフィクション作品か。
それにしても、嫌な予感しかしないタイトルばかりだ。
やっぱり閉じようか。
『
「……!?」
ページをめくろうとした瞬間、ふっと辺りが暗転する。
アークは急いで立ち上がるが、周りは暗くて何も見えない。
しかし何故だろう?此処は誰もいない筈だが、暗闇の空間から声が聞こえる。
ハッキリとは聞こえない、集団で話し合っている時に聞こえるざわざわとした感じだ。
そして、暗闇の奥からカンッ!カンッ!!と木槌で叩くような音が聞こえハッキリと【静粛に、静粛に!!】と言い放つと周りは嘘の様に静まりかえる。
「……え?……え??」
幻聴?―――いや、それとも俺の頭がおかしくなったのだろうか?
全く状況が読めない。
【よろしい、では……開廷を宣言する!】
何処からか聞き覚えのある声が聞こえる。
「……あ……あ……?」
魔法の類なのか、アークの体は指一本動かせずにその場に縛られたかの様に動けなかった。
その上性質の悪いことに、体を動かせない以外の機能はしっかりと働いている。
声も聞こえるし、目が見える、そして――――複数の視線を感じる。
ただしかし、こんな状況にも関わらずアークは恐怖を微塵も感じなかった。
【心配しなくても良い……我らは汝を害するつもりは無い。我らの要求はただ一つ、汝の問いだけ。
「……」
アークは小さく頷く。
【汝にとって魔法とは何ぞ?】
冒険譚の華。
素質のある物だけが使える隔たる壁。
俺には一生縁の無い物。
闇の奥からペラりと紙をめくる音が微かに聞こえる。
【汝にとって魔法とは?】
不安定、曖昧な力だ。
そもそも俺は魔法を手に入るとは思っていない。
だから、全く分からない力だ。
【汝にとって魔法はどんなものだ?】
……もの、か。
猛々しい炎でもあれば、時に今にも消えそうな弱い火でもある。
時に雷の槍を走らせ。
時に人を癒し、救い。
時に疾風を纏い戦場を駆ける。
形がない『もの』。
【汝は魔法に何を求める?】
……
だって、魔法を使う俺の想像が出来ないから。
俺が誰かを救えるとは思っていない。
英雄になれるとは思っていないし、思いもしない。
誰もが羨む富豪にも。
1つも分野を極める才能も無いのは分かっているから……。
それに……。
【それに?】
何となくだけど、分かっているんだ。
俺は俺自身が思っているよりも早く冒険者を終えてしまうって。
根拠は無いよ、でも……誰にも言えなかったけど、村を離れた時から心の奥がざわつくんだ。
近い内に何か……何か良くない事が起きそうな気がして。
【……】
……ゴメン、魔法の問いから脱線してしまった。
……ただ、そんな気がしたんだ……それだけなんだ。忘れて欲しい。
アークの言葉に反応して、周りが一層にざわめき始める。
【静粛に!静粛に!!】と再度2、3度木槌が振り下ろす音が響き渡る。
【…よろしい。汝の声、しかと受け取った】
その言葉を最後にアークは徐々に全身の力が抜けて行くのが分かる。
瞼は重くなり、意識が霞んで倒れそうだ。
【アークボルト・ルティエンス。他人にも……そして
その淡々とした声と共にアークの視界は再び暗転する。
意識が沈んだ後、一つ分かったことがある。
あの声……良く聞いたら、俺の声じゃないか
何で最初に気が付かなかったのだろうか?
いや、どうでも良いことか。
……!……ッ!!
……ク!……きろ!!
「……んん……」
分かってますよアテナ様、今日からダンジョンに潜りますって、睡眠ぐらいゆっくりと――――
「起きろアークッ!!!!」
「……!!!?」
大声に驚き、飛び起きるアークの姿に商人「まったく……」と呆れた様子で見る。
「……アレ?」
確か、本を読んで……アレ?
「全く、呑気に寝てやがる。周りを良く見てみろ」
「……?」
商人の言われるがまま外套をずらし顔を覗くと見覚えのある、オラリオの街がそこにあった。
だけど、何かがおかしい。
「……?」
人が集まっている――――いや、避難しているようにも見える。
何にしても彼らの表情から不穏な物が感じ取れる。
「アーク、悪いが此処までしか進めねぇ」
前を向くと通路が人で埋まっており、アークと商人が乗っている馬車含め、進むことが出来ない。
「……わかった、ありがとう」
アークは荷物を全部旅行鞄に捻じり込み、肩に引っ掛け飛び降りる。
「あッ!アーク!!お前が今住んでいる所は――――」
ハッとした商人は大声を上げて呼びとめようとするが、その姿は人ごみの中へと消えて行った。
「――――で、何も無かったから直行して帰って来たって訳ね」
「……まぁ、そうですよ。所謂後の祭りってヤツですよ」
アークがオラリオに向かう途中のことだ、
ガネーシャ・ファミリアが捕らえたモンスターが何体か逃げ出したらしい。
多少の建物の被害はあったが、死者はおろか怪我人も0と言う結果で終わった、らしい。
通行人の話を断片的に拾いながら聞いたから確かなことが分からない。
「……アテナ様は祭りに行ってたんですか?」
「私は知神にして戦神!祭りなど興味はない!!……アイッタタ」
アテナは頭を抑えながら地面に蹲る。
「……本音は?」
「……………二日酔いでさっきまでベッドに寝てました」
「……またですか」
この
「……ああ、そうだ。アテナ様、ステイタス更新をお願いします」
「え~!あたまいたい~~!!」
うごきたくな~い!べっどからでたくな~い!!
等と駄々をこねながらベッドに体を埋めるアテナに対してアークはため息を吐く。
「……お土産買って来ましたからやる気出して下さいよ」
「………何の?」
アテナはアークをチラッと見る。
「……地酒って訳じゃないけど、候補の果実酒です」
アークは鞄から一本の酒瓶を取り出すと「流石アークさん!話が分かる方ですわ」先程の態度から一変してベッドから跳ね起きる。
「……程々にして下さいよ?」
アークの発現にアテナは「分かった分かったっ」と軽く流し針を取り出す。
「ささ、アークさん。私が人肌に温めておきましたよ」
「……どうも」
服を脱ぎベッドに寝そべるアークの上にアテナは跨り
「……ステイタス更新が終わったら、ニケ様とヘファイストス様の所に行きます。後はデメテル様の所にも、色々渡す物があるんですよ。渡す物渡して、早くダンジョンに潜らないと行けませんからね」
「へぇ~それってさっき私にくれたお酒?」
「いや、酒以外にも沢山ありますよ。村の人に色々お節介に遭ってしまってね―――――」
「……メリンダさん、こんにちは」
「あらぁ、アーク君。久しぶりねぇ」
出来事は昨日の昼に遡る。
アークは何かお土産でも―――と市場へ足を運んだ。
「……何かお土産でもと思って、色々回っているのですが……」
「じゃあ、私の所で採れた果実で作ったお酒でもどうかしら?」
「……酒、か」アークは思考を巡らせる。
酒だったらアテナ様が好きだし、一本くらい買っても損はないだろう。
値段もそんなに高くないしな。
「……じゃあ、5本下さい。世話になった神様に配るんです。神様達は酒が好きですからね」
ニケ様、アテナ様、デメテル様、ミアハ様、ヘファイストス様。
ニケ様が酒が無理だっていうんだったら、ヘスティア様にでも渡そう。
……今思えば、俺は色んな神様と関わってきたな。
しかし5本は多い、何回かに分けて運ぶか。
「はい、じゃあ2500ヴァリスね」
「……はい、また来ますので先ず三本下さい」
金を渡し、彼女から酒瓶が入った紙袋を受け取る。
「……ん?」
受け取った時、紙袋に違和感を感じた。
酒瓶の他にドライフルーツに果実の砂糖漬けのビン詰めに幾種かのジャム。
「……あの、コレは」
戸惑うアークに彼女は「冒険者、頑張ってね」と柔らかく微笑む。
「アーク君、貴方が冒険者になるって話を聞いた時、私も、村の人達も凄く驚いていたの。それも突然だったから」
「……」
アークは黙って彼女の言葉に耳を傾けていた。
「村長と貴方のお母さんは凄く怒っていたわ。特に村長は『どうせバカ息子みたいになるに決まっている』って。でもね、それでも私達はアーク君を応援したかった」
彼女がそう言うとそう隣から「そうだよ~!ア~クが選んだ道なんだ~僕達は応援しているよ~!」と見知った声が聞こえる。
「……エディ、それにセラも」
隣を向くと籠一杯に抱えたセラとエディの姿があった。
「アーク兄、あたし達のトコのチーズを持って行ってよ!」
買い物袋に強引に捻じ込んでくる。
その後ろから我も我もと―――――
「干し肉だ!持って行け」
「今が旬の野菜だ。早く食えよ」
「アーク、パウンドケーキ作った。保存が効く様に作った。オラリオの皆と食え」
「紅茶の茶葉をどうぞ」
「―――――……って訳なんだ。包帯を取る前だから運ぶのに大変でな」
「ふ~ん」
アテナは緩慢な手でアークのステイタスを弄りながら聞き流していた。
「アークの村の人達って、良い人ばかりね」
「……まあ、そうですね」
アークがそう言うとアテナは「じゃあ、アーク。前々から訊こうと思っていたけど」と知神は
「貴方そんな良い村にいて、『何で冒険者になろうと思ったの?』」―――と。
「……!」
アークは彼女の問いにビクリと体を揺らす。
「食べ物は豊富、村の人は穏やか良い人ばかり。離れる理由が無いと思うけど?」
「……いや、それは……」
何も答えることが出来なかった。
「貴方の今までの口ぶりからオラリオでBIG!になりたい訳でもなさそうだし……」
「……」
しばしの沈黙の時が流れる。
「ま、どうして冒険者になりたいのか分からないけど、貴方は私の―――――――」
アテナの手が止まる。
「……えっ……?うそ……?何……コレ?」と次第に焦りの色が見えてくる。
「……何ですか?またクソスキルが発現したんですか?」
アークは「……スイマセンね。変なスキルばっかり発現する冒険者と契約してしまって」と若干やさぐれた感じで言うと、アテナは「そうじゃないのッ!!!」と声を荒げる。
「あ、貴方!い、いい一体村で何やったのよ!!?」と。
アークがオラリオに来た理由なんてどうでも良い、そう言いたげにアテナは叫ぶ。
「……いや、何って。特に何もしてないよ」
アークはアテナの変貌ぶりに少々怯えながら答える。
ステイタス更新を終えたアテナは急いで紙とペンを用意し筆を走らせる。
彼女の額からは汗が流れ落ちる。
そして、写しを手渡されたアークは自分のステイタスを覗く。
アークボルト・ルティエンス
Lv1
アテナ・ファミリア
[力] :I67→I79
[耐久]:I46→I68
[器用]:I73→I81
[敏捷]:I60→I65
[魔力]:I18→18
[運] :G211→SS1023
《魔法》
【不定の魔術】
・存在する(していた)魔法を一つランダムで選択し、あらゆる条件を無視して発動
・攻撃と補助(その他)を使い分けられる
・使用する魔法と精神力が足りない場合発動直後に強制的に
詠唱式
【発動した魔法に応じる】
《スキル》
【
・【不定の魔術】の保持者に発現
・【不定の魔術】が消失した時、このスキルも自動的に消失
・スキル保持者の習得した魔法は【不定の魔術】を除き全て魔法スロットごと消失
・以降、如何なる方法でも魔法を習得することは出来ない
「……魔法!?それに、なんだよ、
――――もし、何気なく唱えた魔法で人が救えたら
「お母さん……痛い……痛いよぉ」
とある路地裏の片隅で二人の親子がいた。
その幼い少女の顔には赤い粒の様な物でびっしりと覆われ、「痛い……痛い……」ともがき苦しんでいた。
「大丈夫、その赤いブツブツは少し安静にしたら直ぐに治るから……」
貧しい母親は子供抱きしめ「大丈夫……大丈夫だから……」そう何度も何度も励ますことしか出来なかった。
「―――――【ピオスの
背後から声が聞こえる。
母親が後ろを振り向くと
声と体格からしてその人物は男だと判断できる。
「治癒の権能をもって交わり、全てを癒せ】――――ディア・パナケイア」
言葉を言い終わると親子を中心に白い光に包まれる。
その光はベールの様に何層も何層も包み込む様に親子を重なり、やがて何事も無かったかのように消える。
「お母さん!……もう痛くないよ、ブツブツもない!」
光が消えた直後、少女にこびり付いていた赤い粒が無くなり、母親は驚愕の表情を浮かべる。
「えっ!?」
心の奥底ではもう助からないと思っていた娘が、あの一瞬で――――
「…あ、あのッ!!」
母親が振り向いた時には、誰もいなかった。
――――もし、何気なく唱えた魔法で人が救えたら、素敵だと思う。
―――――でも、もし何気なく唱えた攻撃魔法で
「兄ちゃん兄ちゃん!冒険者の兄ちゃん」
「……どうした?」
とある孤児院で小さな子供達と一人の青年がいた。
青年がボールを子供達に蹴ろうとした時、1人の幼い少年が目を輝かせて訊く。
「冒険者の兄ちゃんって魔法が使えるんだよね!?」
「……ああ、そうだ」
少年達は目を輝かせて「見せてよ!」と目を輝かせてねだる。
「……しょうがないな、見てろよ」
青年は手を空高く掲げ、詠唱を始める。
「【地よ、唸れ――」
詠唱が始まった時、少年達の期待は最高潮まで高まる。
――――しかし
「来たれ来たれ来たれ大地の
その日、オラリオに隕石の雨が降り注いだ。
崩壊する積み上げた各々の歴史、用意されていない悲痛の叫びが飛び交い、絶望の混じった小さい二つの川がとめどなく最期の時まで流れ続けた。
―――――もし、何気なく唱えた魔法がオラリオを滅ぼすなら、とても恐ろしい物だ。
多分、神々は
「「「「「史上最大の厄ネタ乙wwwww」」」」」――――――と。
【アークボルト・ルティエンス】
所属:【アテナ・ファミリア】
種族:ヒューマン
職業:冒険者
到達階層:5階層
武器:なし
所持金:79365ヴァリス
【ステイタス】
Lv1
[力] :I79
[耐久]:I68
[器用]:I81
[敏捷]:I65
[魔力]:I18
[運] :SS1023
《魔法》
【不定の魔術】
・存在する(していた)魔法を一つランダムで選択し、あらゆる条件を無視して発動
・攻撃と補助(その他)を使い分けられる
・使用する魔法と精神力が足りない場合発動直後に強制的に
《スキル》
【
・基本アビリティに[運]を追加する。
・[魔力][運]以外の基本アビリティの熟練度が上がりにくくなる
【
・敵を討伐した際のドロップアイテムを落とす確率が上昇する
[運]の値とモンスターの種類によって確率が一定まで変動する
・モンスターを討伐した際入手できる魔石のランク(純度)が一段階上昇する
・ダンジョン内で採掘・採取を試みた際、レアリティが高い素材を入手できる確率が上昇する
[運]により確率が一定まで変動する
【
・このスキルの保持者含め近くにいる人物は、精神力が回復し傷を癒す
スキル保持者の[魔力]依存
・ただし、スキル保持者の[魔力]がどれだけ高くても回復速度と量には上限が存在する
【
・モンスターの一部を切断した際に発動。切断した一部が一定の確率でドロップアイテムとして残る
・[運]の値によって変動する。
【
・一定の範囲内に鉱脈を発見した場合に発動。レアリティの高い鉱石が埋まっている可能性のある鉱脈に対して、ノック音でスキル保持者に知らせる。
・
【
・世界に存在している武器(魔剣込みで)をどれか一つランダムで選択し復元して発現する。そしてあらゆる装備条件を無視してスキル保持者に装備する。
・魔力は消費しないが
・
【
・スキル【武器装庫】を所持している場合同時に発現する。
・また、スキル【武器装庫】が消失した場合、このスキルも自動的に消失する。
・このスキルを所持している限り、スキル保持者は永久的に【武器倉庫】で発現した武器以外を装備することが出来ない(装備した場合、強制的に解除される)。
【
・【不定の魔術】の保持者に発現
・【不定の魔術】が消失した時、このスキルも自動的に消失
・スキル保持者の習得した魔法は【不定の魔術】を除き全て魔法スロットごと消失
・以降、魔法を習得することは出来ない
【装備】
・アークの村で作った革鎧。
・体の至る所に硬化処理したベルトを巻き、背中に分厚い革のマントを取り付けているのが特徴。
・駆け出しが着るには少々贅沢な一品。
ダンジョン・リザードのバンダナ
価格:2000ヴァリス
・ダンジョン・リザードの茶色皮膚で作られたバンダナ。
・表面はザラザラ、内側はペタペタしている。
・ペタペタした感触がアークのお気に入り
・防御力は期待できない
ハードアーマード・プロテクター
・11階層に存在するハード・アーマードの甲羅を使ったプロテクター。
・銀のメッキが施されている。
・棚の奥に落ちて埃まみれだった所を偶々アークが見つけ、値切って購入した。
小型
・アークの腰に刺さっている採掘用の鶴嘴
・ただ普通の、鶴嘴。それ以上でもそれ以下でもない。
アークの運成長の主な条件は価値の高いアイテムを手に入れることです。
質でも数でもOKです。
ただし、数の方は運の数値によって上がりにくくなります。