ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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Chapter3 レアスキルの価値
第38話 …サポーター、始めました「どうやら俺に選択肢はないみたいだ…」


「……」

あの光景を見たその夜、アークは眠れなかった―――いや、眠れる気がしなかった。

 

アテナ様から、他のファミリアとのいざこざに首を突っ込むな―――と言われて何もしなかったのは、ただの言い訳に過ぎなかった。

悲痛な声を上げて石畳の床を転げ回り、下卑た声で足蹴にしている悪党達を見て、本当は怖くて―――隠れて武器を握る事しか出来なかっただけだ。

 

誰の目にも届かない都市の片隅で生き延びることだけを考えて、脅威が去るまでただジッと震えて耐えている少女に何もしてやれなかった。

 

あの時、俺は彼女達の為に何か出来たのでは無いか?

もう少し勇気があれば、あの足蹴にされているサポータの少女を助けられたか?

路地の片隅で震えていたあの幼い少女達に何かしてやれたか?

 

―――――いや、そもそも俺は人を助ける為にオラリオに来た訳じゃない。

慈善事業をする為に来たんじゃない、冒険者になりたくてオラリオに来たんだ。

 

ああ、だったら何でデメテル・ファミリア(あの子達)と関わり合いになったんだ?

―――仲間を確保する為だ、パーティを手に入れる為だ。

ソロよりは効率と生存率がグッと上がる。

 

じゃあ、何で孤児院のチビ達を救った?

あの子達こそ救って何の得も無いだろうに。

 

いや、違う。むしろ、逆だ。

もしかしたらこの優しさに付け込んで利用して来る奴もいる筈だ。

今はまだ何もないけど、いつかは「私達もお金が無いけど、薬が欲しいんです!」って詰め寄られるかもしれない。

それで断ったら「何であの孤児院の子だけ助けたのよ!私達も助けなさいよ!!」と。

助けたら助けたで「俺の息子も!」「私の娘も!!」「僕の妹も!!!」と際限なく湧いて来るかもしれない。

 

「……」

いや―――そもそも、何で俺は冒険者になりたいとは言った。

だけど、冒険者として、『その先』で何がしたい?

冒険者になってからの目標が全く見えないんだ。

今まで「……まぁ、ダンジョンに潜ってモンスターを倒していればその内分かるか」って感覚で戦っていたけど、間違いなのか?

 

 

そんな下らないことを一人で勝手に考えていると、2本の時計針が12時を差す。

日付が変わる瞬間だ。

アークは懐中時計をチラッと見た後、カレンダーを見て溜息を吐いた。

(ああ、オラリオに来て今日で30日目か)――――と。

 

「……」

結局、アークはアレやコレやと考え続けた結果、一睡もせずに起床してしまった。

しかし、不思議と眠たくはなかった。

いつもの黒革鎧を身に纏い、いつものバックパックを背負い、ダンジョンへ向かおうとドアを開ける。

するとドンッと誰かが扉の向こうでぶつかり「ギャッ!?」と悲鳴が上がる。

 

「…お、起きたわね?アーク」

「……アテナ様?」

扉の向こうから現れたのはアークの主神であるアテナが鼻を両手で押さえながら立ち上がり、ドアにぶつかったことを無かったかのように腕組みをして言った。

 

「……随分と早いですね。いつもこの時間はグースカ寝ているのに」

「そうね、いつもなら寝ている時間ね」

時刻は5時過ぎ、アテナどころか、廊下を歩いても誰とも合わない状況だ。

……偶にだけど、着流しを着た職人とすれ違うことはある。

 

「……で?何か用ですか?」

「そうね、用が無いとこんな早い時間から起きる必要なんてないわ。アーク、貴方に話したいことがあって来たのよ!」

 

本当に珍しい。

この()、朝は凄く弱いのにわざわざ早起きしてくるなんて、よっぽど大切な話と見える。

 

「……その、今からですか?」

アークの問いに「そう、今から!!」と答えた後、アテナはアークの腕を掴みズルズルと強引に執務室へ連れて行こうとする―――が、その体は全く動かない。

 

「お、重いわねアンタ!?」

「……いや、そりゃあ革だけど鎧着てますからね」そう言ってアークはしれっと答える。

 

「良いから!ヘファイストスの所に行くわよ!!」

「……分かりましたから。普通に歩いて行きますから引っ張らないで欲しい……」

アークはやや不機嫌になったアテナの後ろをゆっくりと付いて行きヘファイストスの執務室へと向かった。

 

 

 

「……」

ヘファイストス・ファミリアの武器は世界中で知れ渡っているブランド物。

逸品という言葉では到底足らない物ばかりだ。

故に、世界中から依頼が殺到し、今や執務室は注文書の山で埋め尽くされている。

 

「良く来てくれたわね、アーク君」

「……おはようございます、ヘファイストス様」

 

執務室に入るとヘファイストスが一枚の書類を片手にこちらに話しかけて来る。

 

「……あの、何かご用でしょうか?」

「ええ、少し頼みたいことがあってね」

遠征、か?いや、違う。

遠征隊なら今頃ダンジョンに行っている筈だ。

 

「昨日の夜中、1部の遠征隊が経過報告で帰って来たのよ」

「……はあ」

やっぱり遠征か。

 

「彼らがダンジョンに潜って今日で一週間が経過するの、その途中報告を持って来てくれたのだけど――――」

結果は最悪。スズメの涙程だと。

出ない鉱石、日に日に下がっていく士気、何の役にも立てずダメになる鶴嘴(マトック)、モンスターとの戦闘による疲弊、無慈悲に減っていく回復薬――――

 

「と言うことがあって、人員とアイテムを補充しに一旦帰って来たの。他の団員は迷宮の楽園(アンダーリゾート)で待機して貰っているわ」

何故かアテナ様がペラペラとヘファイストスの現状を説明する姿にアークは「……はあ」と素っ気ない返事をする。

 

(……それを俺に言ってもどうするんですか?)

「……あの、それを俺に言ってど「アーク、命令よ。貴方もサポーターしてとしてヘファイストスの子達とダンジョンに潜りなさい!」」

「……は?」

有無も言わさず、アテナはアークの発言を潰す様に言い放った。それも命令と来た。

 

アークはいきなりのことに状況を読めず間の抜けた声で「……サポーター……ですか?」と言う。

 

「……!!?」

(……サポーターッ!!?)

アークはハッ!と気が付き昨日の光景を思い出す。

床に伏せられ蹴られている少女の姿を……!

その光景を思い出したアークは眉を顰め、顔を逸らす。

 

そんなアークの嫌そうな表情を気にもせず、アテナは「と言うか、今直ぐ行きなさい!!」とアークにズイッと大きなバックパックを前に突き出す。

 

「……」

ああ、多分拒否権はないな――――と悟ったアークはヘファイストスに助けを求めようと視線を彼女に向けるが、ヘファイストスは申し訳なさそうな表情で目を逸らしてしまう。

 

「……いや、俺が行ったって足を引っ張るだけ「そんなことはないわよ!自分を卑下にし過ぎよ!!ね、ヘファイストス!!?」」

アテナの問いにヘファイストスは「そ、そうね!私もそう思っているわ!!」とやや同様気味に答える。

 

 

そこから約1時間にも渡るアークの説得が始まった。

 

 

アークはアテナとヘファイストスに疑問を抱いていた。

普段のアテナ様なら絶対に言わないことを何の戸惑いも無く言っていることに。

 

「一つ、うちの子(眷属)が作った新作の防具(・・・・・)があるんだけど、是非アーク君に着て貰いたいわ」

ヘファイストス様からも、防具の支給の提案を持ち出される。

 

―――――可笑しい、絶対に変だ。

 

「……大体、35階層まで潜るんですよね?俺みたいな駆け出しが一緒とか危険じゃないですか」

「大丈夫、その為に人員補給をしているから!レベル4の冒険者も雇うつもりだから!!」

だから、何でアテナ様がソレを説明するのだろうか?

 

荷物を持って鶴嘴(マトック)を振り降ろすだけの簡単な仕事

防具の新調(・・)、報酬割増し

―――自分の身近な神なのに怪しくて怪しくて仕方が無いんだ。

何とか断ろうとしても。

 

 

 

アーク! サポーターとして ヘファイストスの遠征に ついていきなさい!

……分かりました

⇒……遠慮します

 

そんな事を 言わずに! 頼みますから

 

分かりました

⇒遠慮します

 

そんな事を――――

 

アークがああ言えばアテナとヘファイストスがこう言う―――と言う感じだ。

そう、誰がどう見たって、あまりにも強引な光景。

アテナ様も、ヘファイストス様も、何処か―――いや、まるで何か異常なモノを見ているかの様な、そんな目で俺を見ている、そんな気がするのは気のせいだろうか?

 

「……」

アークはヘファイストスとアテナを交互に見てから溜息を吐きながら思考を巡らせる。

 

アークの頭の中、思考の中に一つの大きな天秤が置かれる。

片方には死の恐怖とサポータになると言う恐怖。

そしてもう片方には、深層への好奇心と二人の女神から強引な説得の二つが天秤の受け皿に乗る。

左右はゆらゆらと左右に揺れ、完全に停止した時――――傾いていたのは、好奇心……いや、違う。

女神のあまりにも強引な説得だった。

 

このままだとずっとずっと、何時間も解放してくれないと確信したアークは大いに不満ながらも「……分かりました」と根負けして承諾する。

ああ、結局女神達の押しに負けてしまった。

 

正直な話、アークはこの遠征に行くのは気が進まなかった。

ソレの一番の原因はサポータと言う件だった。

根負けして頷いた後で言っても遅いと思うけど、元々サポータは良い顔をされないのは知っていた。

それに、やっぱり昨日のことがどうしても。

(少し、早まったか……?)

アークは「や、やっぱり俺―――」撤回しようと口を開いたが、

「へ…本当に!?流石私の眷属~~~っ!!」

アークの回答にアテナは有無を言わさず手を掴み、ブンブンと振り回す。

ああ、遅かった。

 

「じゃあ善は急げよ!ホラ、コレに着替えなさい(・・・・・・)!!」

「……?」

完全に発言権を失ったアークはアテナが指を差した先に目を向ける。

何かが入った肩掛け鞄があった。

席を立ち、手に取ると軽く、留め具を外し中身を取り出すと布―――いや、服の様に軽い鎧が入っていた。

軽い。本当に軽い……!

まるで服を着ているかの様な、今着ている黒革鎧と比べモノにならない程に軽かった。

 

「そう、ヘファイストスの子達が作った防具よ。折角用意してくれてるんだから貰っておきなさい」

「……」

アークは鎧を手に取ったまま何も言わずにじっと固まる。

 

「…アーク君、不安なの?」

「……あ!いや。違うんです!!不安とかじゃなくて……」

ヘファイストスの問いにアークは両腕をブンブンと振る。

この鎧を疑っている訳じゃない。

ヘファイストス・ファミリアの主神が推奨している鎧だ。

信用しているに決まっている。

 

「……いや、そうじゃないんだ」

鎧に不安があるんじゃなくて、サポーターに不安があっただけだ。

 

「……その、何で俺を遠征に連れて行くのか?って、そう思っただけですよ」

アークの答えにアテナが「そ、それは、えっと……アークの今後の勉強の為にも色々学ばせたいから……かな~」

アークはアテナの顔を見る。

しどろもどろに話すその顔には一滴の汗が流れ落ち、視線を余所に向けていた。

 

「……そ、そうですか。分かりました、着替えてまたこの部屋に来ます」

どうせまたお酒かなんかで買収されたんだな―――アークはそんな心底呆れた表情で鎧を抱えながら自室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

「……」

「……」

アークが退席した後、アテナとヘファイストスが顔を見合わせて大きなため息を吐く。

それはもう、人生最大の危機を乗り切ったかの様な大きなため息だ。

 

「何とか了承を得たわね」

「ええ、そうね…」

2柱の神は少しの間安堵したが、いやいやいや、根本的な解決はしていない―――と再び顔をしかめる。

 

「…えっと、その…」

アテナが何か言おうと必死に言葉を探しているが、上手く言えない様だ。

 

「…ありがとう(・・・・・)、ヘファイストス」

暫く間を置いて、アテナがヘファイストスに礼を言う。

その言葉にヘファイストスは「ごめんなさい(・・・・・・)、アテナ…」と謝る。

 

ヘファイストスの謝罪にううん、とアテナは首を横に振り、それからヘファイストスと面と向かって、

「…私じゃなくって、アークに謝って……」

アテナは手に持っている『一枚の紙』に視線を落とす。

その紙の正体はアークのステイタスの写しだった。

 

アークボルト・ルティエンス

Lv1

アテナ・ファミリア

 

[力] :I67→I79

[耐久]:I46→I68

[器用]:I73→I81

[敏捷]:I60→I65

[魔力]:I18→18

[運] :G211→SS1023

 

《魔法》

【不定の魔術】

・存在する(していた)魔法を一つランダムで選択し、あらゆる条件を無視して発動

・攻撃と補助(その他)を使い分けられる

・使用する魔法と精神力が足りない場合発動直後に強制的に精神枯渇(マインドゼロ)発生

詠唱式

【発動した魔法に応じる】

 

《スキル》

魔才消失(サクリファイス・マジック)

・【不定の魔術】の保持者に発現

・【不定の魔術】が消失した時、このスキルも自動的に消失

・スキル保持者の習得した魔法は【不定の魔術】を除き全て魔法スロットごと消失

・以降、如何なる方法でも魔法を習得することは出来ない

 

福音采配(オーダーズ・アシスト)

・―――――――――――?

・―――――――――――?

・――――――――――?

 

幸福王子(グッド・ラック!)

・―――――――――――?

・―――――――――――?

・―――――――――――?

 

「…あんなトンでもスキル、一度見たら忘れられないわよ……」

書き足された(・・・・・・)を見つめながら普段のアテナからは、いや、少なくてもアークにとって今まで見たことのない申し訳なさそうな表情で呟いた――――

 

 

 

 

「――――アーク!絶対だから!!フリじゃないからね!!!『さっき言ったこと』絶対に忘れないでね!!!」

「……分かりましたよ、そう何度も言わなくても分かりましたから……」

時刻は8時過ぎ、ホームで朝食を終えたアークは2柱の女神に見送られダンジョンへ―――いや、バベルの前へと向かう。

 

「……はぁ」

アークは身を縮ませながらゴチャゴチャした気分で石畳の道を歩く。

 

村から帰って来て、心機一転頑張ろう!と思っていた時に邪魔されて苛立っているし、ついさっきまでいつも通り、冒険者としてダンジョンに潜ろうと思っていたのに強引とは言えサポータとしてダンジョンに潜ると言う不思議な気持ちもあるし、サポータとして上級冒険者に付いていくと言う不安もある。

 

そして何より―――

 

「久しぶりのダンジョン。皆様に付いていけると良いのですが…そう思いませんか?臙脂(エンジ)?」

「……」

アークの横にピッタリと見知らぬ2人の男性が並行して歩いているのと言う恐怖があった。

いや、誰だよこの男はッ!!

アークは心の中で叫ぶがその意に反して、

 

「35階層、並みの冒険者じゃ到達には困難な階層、臙脂も試したい素材がありますよね?」

青い着流しを着た40代半ばと思われる男性が一方的に延々と物腰柔らかな口調で話しかけ続けている。

背筋をピンと伸ばし、黒縁の片眼鏡をかけ、銀髪を邪魔にならない様に全部後ろに撫で上げ固定して知的で品のある印象の男性だ。

 

一方的に話しかけられている方の赤い着流しを着た20代後半と思われる三白眼の男性は、伸びっ放しのボサボサの黒髪を片手でボリボリと掻きながら男性の話に無言で、適当に頷く。

後、猫背の為か身長がアーク寄りも低く見える。

 

良くも悪くも、正反対だな―――と言うのがアークが2人に対する最初の印象だ。

 

その光景をアークは横目で見ていると、1人の男性―――青い着流しを着た男性と目があってしまう。

アークは不味い!と目を逸らしたが、

「ああ!コレはコレは、とんだ失礼を……」

―――遅かった。

話の対象をアークへと切り替え、サッと目の前に立つ。

 

 

「自己紹介が遅れて大変申し訳ありません。私の名前はブルーク、ブルーク(Blueck)コバルト(Cobalt)。今回の遠征の要因であり、団長から直々(・・)の命により、アークボルトさんの付添人として抜擢されました。長年鍛冶師として生きていた為、至らぬ点があると思いますが、どうぞよろしくお願い致します」

饒舌に自己紹介を終えた後、如何にも紳士がご令嬢にしてそうな上品な一礼をする。

 

「そして、と隣の赤い彼はエンジ、臙脂(エンジ)ヴァ―ミリオン(Vermilionn)。極東出身で、彼も私と同じく鍛冶師でありアークボルトさんの付添人でございます。少々無口な男でありますが、腕と良心は確かので私共々今一度、よろしくお願い申し上げます」

エンジと呼ばれた青年もブルークと名乗った男性と合わせてアークに頭を下げる。

 

「……あっどうも」

アークも彼らに倣って頭を下げる。

 

「では、バベルの前に向かいましょうか。遠征隊の隊長が待っています」

「……は、はい……」

アークは彼らに言われるがまま連れられ、バベルへと向かって歩いて行った。

その道中、アークは心の中で小さく呟いた。

そう、……何故、こうなったのか?――――と。




影跳び
作成者 臙脂・ヴァ―ミリオン
12,000ヴァリス

・アークがヘファイストスから贈られた極東に存在する忍者と暗殺者(アサシン)が合体させるイメージでデザインされた黒装束の防具

・軽さ重視だが服の中に『メタルラビットの毛皮』で作られた鎖帷子を仕込んでいる為、それなりの防御は期待できる

「……凄く軽いんだ。鎧と言うよりも服を着ている感じで……でも、軽すぎて逆に不安になって来るよ……」
~アーク~
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