ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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31階層~36階層
・鍾乳洞を彷彿とさせる階層域
・この階層域の最大の見せ場は36階層の半分以上の面積を占めている地底湖
・地底湖の中央には横幅12M(メドル)程のゴツゴツとした岩の橋が一本かかっている。
・この橋を渡らなければ37階層、白宮殿(ホワイト・パレス)にはたどり着けない。

サハギン
・31階層から発生する半漁人のモンスター
・地上にいる時の戦闘力は上層のモンスターと変わらないが、水中戦になるとその脅威は格段に増し、高レベルパーティですら手も足も出ずに全滅するのも珍しくないと言う。
・隠密にも長け、水辺に近づいた冒険者に音も無く近寄り、足を掴み引き摺りこむ。
ドロップアイテム
『サハギンのヒレ』

ケルピー
・馬型のモンスター
・水面の上に佇み、冒険者(獲物)を見つけるとあたかも普通の馬の様に愛嬌を振る舞う。
・そして油断して背に乗った冒険者を水中に連れて行き、沈め、さっきまでの愛嬌は何処へやら、凶悪な形相へと変わり、襲い掛かる。

ドロップアイテム
『水棲馬の(たてがみ)

シーサーペント
36階層のみに発生する全長20M、横幅5Mの巨大蛇型モンスター
地底湖を中心に徘徊し、冒険者が橋を渡ろうとした時や、徘徊中に冒険者の気配を察知した時、その姿を現す。
その巨体を槌の様に冒険者を叩き潰し、鞭の様に振るい冒険者を水底に落とす。

ドロップアイテム
『シーサーペントの青鱗』


第41話 …サポーター、始めました「特定開始 前編」

―――――懐かしい夢を見た。俺がまだ幼い頃の夢だ。

 

物心ついた時、俺は孤児院と言うか、託児所みたいな所で暮らしていた。

それから11歳になるまで、特に何も考えず、特に悩みを抱かず、特に目標も持たずにただフラフラと生きて来た。本当に何もない11年だった。

 

暑い日は山に行って虫取りをしたり、裸足で川に入って涼みながら綺麗な石を拾ったり、カンテラ片手に友達と洞窟探検をして、木の実が熟れる時期には山へ行って木の実を沢山採ったり、寒い日は家で御伽話の本を暖炉の前で毛布に包まりながら読んでいたりしていた。

 

12歳になって直ぐのことだった、村で見知った顔の人達が俺を連れ出し『アーク、この家が本当の貴方の家よ』と家の前で言われたんだ。

 

その家は、俺が山に遊びに行く時にいつも横を通り過ぎていた民家だった。

(……今日もこの家に誰もいないな。不気味な家だなぁ……)って思っていたらまさか俺の実家だとは夢にも思わなかったから、実感が湧かなかった。

と言うか、受け入れたくなかった。性質の悪い冗談だと思っていた。

 

「……ずっとこの家でいたい……」

そんな俺の願いとは裏腹に、一週間も経たずに俺の物を全てをこの家に持って行かれて、独りでこの家に住むことになった。

 

12歳にもなって恥ずかしい話だが、怖かった。凄く、怖かった。

何時も不気味だな…と思いながらこの家を通り過ぎていたから、尚更だった。

『夜になると幽霊が家の中に入り込んで来るんじゃないか……!?』とか、

『いや、家の周りで化物がうようよと現れて、俺を喰おうと狙っているんじゃないか!?』とか思いながら毎日毎日、震えながら眠っていたのを覚えている。

 

慣れない環境にいきなり放り込まれた所為か、会う度に痩せこけて、今にも倒れそうな足取りをしていた―――って村の人が教えてくれた。

 

だから、

「お腹すいたでしょう?今日は家で食べて行きなさい」

「ケーキを作ったの。アークちゃん、良かったら食べて頂戴」

「今日はもう暗いし、家で泊まっていきなさい。その方がうちの息子も娘も喜ぶから」

って、やたらと色んな人に声をかけられていたような気がする。

 

 

その中でも、特に世話になったのは、エディの家族だった。

 

「ア~ク~、牧場手伝って~~!寂しいから泊まって行って~~」

「アーク兄、ご飯出来たよ~っ!エディお兄ちゃんも呼んでっ!」

 

何時も喧しくて、朝から牛肉の塊と炙ったチーズを当たり前のように出す家だったけど、あの家が一番長く居座った気がするし、楽しかった気がする。

エディの母さんと父さんも「もう一人息子が出来てうれしいよ」って言ってくれた。

 

だから俺は、例え負傷してでも、エディの結婚式に参加したかった。

親友の幸せを、祝福したかった。

 

今更だけど、村の人には感謝しているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、何故だろう?

俺が歳を重ねるにつれてあの村の人達は俺を――――商品の良し悪しを見るかのような、値踏みするような目で見られていた気がする。

 

そう、俺が初めて本当の両親とあった時の様な目で見て来た気がするんだ。

――――いや、気のせいだろう。

此処まで育ててくれた人たちが、そんな事をする訳がないッ!!!

―――――――――――……そんな事を、する筈がないんだ……。

でも……。

 

「ウチの村のアークボルトと言う青年はどうでしょうか?特出したことは出来ませんが、何度か仕事を教えれば、人並みに何でもこなせます。おススメですよ!!」

……俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30階層、鬱蒼とした密林を降りた先は洞窟が待っていた。

洞窟と言っても、13階層から17階層の中層地帯とは違い、鍾乳洞を彷彿とさせる階層域だ。

見上げれば20M(メドル)程の天井と、氷柱の様に無数に並ぶ鍾乳石の先から一滴の水滴がピチョン…と落ちる。

視界は悪くない。むしろ密林地帯よりは大分良好だ。19階層からお馴染みの発光する苔に加え、天井の隙間から光が差し込んでいるのだ。

その上高低差も無いから首を左右に振るだけでルーム全体が見渡せる。

(……あの光は何処から差しているのだろうか?)

 

だが――――

「あうっ!!?」

足場が悪い。

湿った岩場に足を取られ、転倒する新米の冒険者が続出する。

……俺も転んでしまった。

 

奥に進むとルームの至る所に湖――――いや、アレは池だな。小さい池だ。

釣りが出来る程度の小さい池が視界に入った。

 

澄んだ水、だけど小魚一匹見当たらず意外と深く、奥へ続く横穴がぽっかりと空いている。

曰く、隣のルームに繋がっているとか。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

34階層を歩き進めていると、湖の方からザパンッ!と何かが水中から出てくる音が聞こえる。

向いてみると、一頭の馬が水を滴らせながら水面の上に佇んでいた。

(……う、馬…だよな?)

 

普通の馬よりも一回り大きく、鬣は海藻、魚の様な尾ヒレ。

暫くすると、こちらに何食わぬ顔でゆっくりと歩み寄って来た。

(……く、来るか!?)

まだこの階層に初めて到達する冒険者達は一斉に武器を構える。

 

――――が、何もしてこない。

冒険者の目の前で鼻を鳴らしたり、前肢で地面を掻いたり、首を伸ばしながら尾ヒレを左右に振ったり、普通の馬と何ら変わらない仕草を始める。

 

「ハハハッ!!!こいつは水棲馬(ケルピー)だ。背中に乗らない限り(・・・・・・・・・)何もしてこねぇよ!!!」

1人の冒険者が愉快に笑う。

 

一群はケルピーの前で休憩をした後、再び歩き進めた。

――――本当に何もしてこなかった。

最後にチラッと振り向くと、ケルピーは残念そうな様子で、水の中に沈んで行くのが見えた。

 

 

 

 

 

遠征2日目、早朝から最短で進むと宣言して、特に問題も無く辿り着いた36階層。

此処まで来る途中、勿論モンスターには遭遇した。

しかし、大体個々か多くて数体、群れには一度も遭うことなく、あっさりと辿り着いてしまった。

じゃあ、昨日のは何だったんだ?

あのここから先に進ませないと言う執念すら感じたあの執拗なモンスターの群れは!?

 

――――ダンジョンは気まぐれだ。

時に穏やかに、時に猛り、それが冒険者にとって利益になったり、命を危険にさらす脅威になったりする。

ダンジョンに絶対安全なんてない。

長い年月をかけて経験を積んだ熟練の冒険者でも、どれだけ入念に準備したところで、ダンジョンの機嫌1つであっけなく骸へと変り果てることだって珍しくない。

ダンジョンとはそう言うモノだ、アークは理解はしていた。しているつもりだった。

 

あの人から『ダンジョンは機嫌1つで冒険者をいとも容易く殺す』って嫌ほど聞かされたから。

アークはあの人の言葉を思い出し、歩き始める。

 

 

 

36階層、階層域一番の見せ場にして、この階層域の支配者――――湖に差し掛かる。

つい先程、先導していたドワーフが「折角ここまで来たんだ。良い物を見せてやる!」と言われて付いて行き、眼前に現れたのが、湖だ。

先程のショボイ池じゃない、正真正銘の湖だ。

 

視界に映る物全てが水面に覆われ、唯一この湖を渡れる場所は、アーク達の目の前にある橋に似た一直線のゴツゴツとした岩の道だけだった。

この道を渡り切った先に、下に続く階段が見える。

恐らくその先が先輩冒険者達が言っていた37階層、白宮殿(ホワイトパレス)と呼ばれる階層域へ辿り着くのだろう。

そして、迷宮の孤王、『ウダイオス』が待ち構えている。

 

――――勿論、そう簡単には進ませてはくれなさそうだ。

 

アークは下を覗き、水面をジッと見る。

水面のすぐ下で複数の何かが揺らめいていた。

 

……何だ?何がいるんだ?―――と思っていたアークの疑問に応える様に、その内の一体がザパッと、水面から顔を出した。

 

コボルト程の体躯、青白い肌と鱗、両手両足にはヒレ、魚の顔。

――――『サハギン(半魚人)』だ。この階層域に来てから何回も見た。

ふと、水面から顔を見せた一体のサハギンが壁の傍まで泳ぎ壁に垂れ下がっている手頃な鍾乳石に手を伸ばし、ポキリと折る。

手に取った瞬間、形を変え氷柱からかえしの付いた白濁色の銛へと変化する。

武器を手にしたサハギンはこちらを一瞥しまた水面下を潜る。

 

アーク達を何時でも襲える様に、構えているのだろう。

 

「……おっとと……」

地面に生えている湿った足場に気を取られ、アークは少しバランスを崩す。

「おい、気を付けろよ!落ちたら命はねぇぞ!!」

「……す、すみません……」

近くにいた冒険者に支えられ、体勢を立て直す。

 

アークは再び湖の更に奥の方へ目を向ける。

サハギンよりも、ずっと気になっていたんだ。

 

奥の方で揺らめいている巨大な蛇の影が。

 

「…『シーサーペント』がいるな……!」

冒険者の一人が苦い顔をして見る。

シーサーペントと呼ばれた巨大な黒い影は湖の奥の方をゆらゆらと漂ったり、近くの横穴にスルリと入ったり出たりを繰り返している。

どうやらこちらに近づく気はなく、徘徊しているだけの様だ。

 

「良し!引き返すぞ!!」

先導の合図でアーク達は来た道を引き返す。

俺達の目標はこの階層で鉱石の採掘であって、この先じゃない。

この場所に案内してくれたのは、この先を進むにはここを切り抜けないと駄目だ。

だから、次ここに来る時はもっと強くなれ!!と言う、先輩達なりの配慮なのだろう。

 

俺の場合、何年―――何十年かかるだろうか?

もしかしたら、その前に引退とかしたりして……。

 

 

 

 

 

ダンジョンにおける階層の広さは深く潜る毎に広くなる。

5階層はバベルの中央広場、40階層になるとオラリオ全域に及ぶ。

これから採掘する36階層はオラリオ全域とはいかずとも相当な規模の広さだ。

そんな場所を皆で集まってチマチマと採掘していたら日が暮れてしまう。

だから、昼食の合間に班分けをすることにした。

 

各班の戦力にムラが無く、且つ、何かあってはいけないので人数を均等に、各々が吟味した結果―――――

 

「……アーク、アークボルト・ルティエンスと言います。……駆け出しのレベル1の冒険者です」

「ブルーク・コバルトと申します。レベル3になったばかりのしがない鍛冶師でございます。此度の遠征、貴女達を全力でサポートするつもりですので、何卒よろしくお願い致します」

先ず最初にブルークさんが自己紹介をする。

メンバーを決める際、真っ先に俺に声をかけて来た。

 

「行きますよ、アークボルトさん!!」

「……?」

活き活きとメンバーを慣れた様子で他の冒険者に話しかけ、パパッと集めてくれた。

そう、パパッと。

 

「メル・サットン、レベル3よ。精々足を引っ張らないようにね」

釣り目、赤髪の如何にも高圧的で生意気そうな小人族(パルゥム)の女の子。

 

「ロザリー・ニファー。レベル3の冒険者です。此度の遠征、良い結果を残せる様に頑張りましょう!!」

大らかそうな金髪の彼女も小人族。

 

「……セルマ……レベル2………くぅ……」

さっきからずっと寝ている水色の髪の彼女も小人族。……ん?

 

「私、テッサ・ミーク。レベル1のサポーターですっ!!今回の遠征に参加した理由は神様から勧められ、今後の為の勉強として参加しました!サポーター専門として、精一杯尽力させて頂きます!!」

真面目そうな黒髪の彼女も小人族。…アレ?

 

「レオノーラ!レベル2!!私で自己紹介最後みたいだから早く採掘にいこーよ!!!いこーーーーーーーーってばーーーーーーーーーっ!!!!」

そそっかしい橙色の髪の彼女も……ちょっと待って、ちょっと待ってッ!!

 

俺とブルークさん以外全員小人族じゃないかッ!それも女の子ばっかり!!

 

「では、自己紹介も済んだところですし、打ち合わせをしましょう。私達が担当する場所は――――」

ブルークさんは何の疑問も持たず、地図を片手に打ち合わせの話を始める。

―――いや、疑問を抱くどころか、むしろ活き活きしているのは多分気のせいじゃない。

 

……まぁ、何はともあれ、これでこの遠征の目的である採掘作業に取り掛かれる。

どれだけ役に立つかは分からないけど、気合を入れて行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ほほう、メルさんとセルマさんは赤ん坊の頃から一緒ですか?」

「ええ、セルマは昔っからこんな感じで、何時まで経ってもぐうたらぐうたら。働く気が無いから親に見切りを付けられて追い出されて、仕方が無いからこうやって連れ回しているってワケ」

「………くう……すう……」

 

36階層、とある場所にて7人で構成されたパーティがいた。

その内2人は人間(ヒューマン)の男性、あとの5人は小人族の少女で構成された何とも犯罪的――――いや、何とも誤解を招きそうなパーティだ。

 

パーティメンバーの一人、アークは支給された大型の鶴嘴を両手に握り、湿った岩壁を力を込めて打ち付ける。

この支給された鶴嘴、バベルで新人が売っている物ではなく、ヘファイストス・ファミリア本店並んでいる鶴嘴らしく、アークが持っている小型鶴嘴に比べ、段違いの耐久性と削岩力を持っている。勿論、値段も段違い。

 

一度、二度、三度……打ち付ける度に壁に亀裂が走り、崩れ落ちた岩壁の中に複数の鉱石が地面を転がり、アークの足元で止まる。

 

「……何だこりゃ?」

すぐさま銀色に近い色をした大人の拳程度の大きさの鉱石を一つ拾い上げ、ジッと見つめる。

鉄じゃないのはハッキリと分かるけど、判別が全く出来ない。

 

(……でも、こんな深層で採掘するんだから、きっと貴重な物に違いない)

そう思いながら、アークはバックパックの中に鉱石を放り込み、採掘作業に戻る。

 

荷車?そんなモノは無い。

屈強な体躯を持つドワーフか獣人が1人でもいるなら話は別だが、こちらのパーティはヒョロイヒューマンに二人と小人族五人だからな。

 

「ロザリーさんのご友人がご懐妊と、それはおめでたい事です!」

「はい、丁度半月だって、言っていました」

「その夫婦の馴れ初めを是非聞いてみたいものです」

 

―――――ドンドンドンドンッ!!!

頭の中でノックする音が聞こえる。急ぎの用事で『早く開けてくれ!大変なんだ!!』と言いたげに扉を強く叩いている、喧騒な音。

アークのスキル、【鉱霊交信(ノッカーズ・サポート)】が発動中だ。

ノッカーズ達が鉱石の有りかを教えてくれる。

役に立つけど、使い所が限られているスキルだと俺は思う。

 

(……ここかな?)

アークはさっきから後ろで楽しげに会話をしている鍛冶師と小人族達を尻目に『……暇なら手伝えよ……』と心の中で愚痴り、イライラしながらも岩壁に向かって鶴嘴を振るう。

 

「……ん?」

今度は違う。

銀色っぽい鉱石ではなくて、鈍色の鉱石が岩壁の間から転がり出て来た。

それにデカくて想像以上に重たい、さっき拾った鉱石の三倍近くあるぞコレ。

コレも絶対タダの鉄じゃないよ!俺の知っている鉄はこんなに重くない!!

まあ、後でヘファイストス・ファミリアの構成員が勝手に識別してくれるだろう。

荷物が一杯になったら、ブルークさんの所に持って行こうっと。

 

さあ、この調子でドンドン採掘していこう!

 

 

 

 

 

 

「――――はぁ…」

場面は変わり、ここはヘファイストス・ファミリアホームの執務室。

その一室で溜息を吐きながら書類と格闘をしている鍛冶神、ヘファイストスとその傍らでワインを片手にソファーで寛いでいる知神、アテナと書類を整理しているニケが話をしていた。

「ヘファイストス、どうしたの?」

鍛冶神は「…何でもないわ。ただ…」と素っ気ない返事と共に書類に目を向ける。

 

「…少し、もう少しマシな付添人にしておけば良かったかしら?って思っただけよ」

鍛冶神の回答にアテナは「アークの付添人って、あのぬぼ~っとした極東の人間と如何にも紳士的な人間でしょ?極東の方は兎も角、あっちの紳士の方は大丈夫じゃないの?」と訊く。

 

「紳士的な人…ああ、ブルークね」

ブルークは社交的で誰に対しても物腰柔らかく対応し、団員からも顧客からも評価も高く、あらゆる分野の知識に明るく博識で、鍛冶の腕も、モンスターとの戦闘も、医者としても優秀な人物だと鍛冶神は語る。ただ一つ、欠点(・・)を除いてだが。

その欠点さえなければ、本当に優秀な男だと、鍛冶神は強調して言う。

 

「…その欠点って何よ?」アテナは訊く。

鍛冶神は少し間を置いて「…彼、小人族に深い思い入れがあって、小人族を見かけたら周りが見えなくなることがあるの…」そう言いながら書類を一枚手に取る。

 

「え゛っ!!?まさか、真性のロリ…」

アテナは嫌そうな顔をしながらニケを庇う様に抱き寄せる。

 

「違う違う。老若男女関わらず(・・・・・・・・)小人族そのものが特別好きなの。他の(眷属)達はこのことを知ってるから、目を離していなければ、止めてくれると思うけど…」

そう言って、鍛冶神は不安な表情で頬杖をつき、窓の空を見上げる。

 

「『嫌な予感がする…』って顔をしているわね?」

アテナがニケをぬいぐるみの様に抱きしめながら、他人事じゃない表情を浮かべながら訊く。

 

アテナの言葉に鍛冶神は「…ええ、自分の眷属を信じてない訳じゃないけど、何かしら…胸騒ぎがするの」と答える。

 

その答えにアテナは「あら、奇遇ね。私もそうなのよ」と言う。

 

「何か…こう、上手く言葉では言い表せないけど…私の眷属だからかしら?何となく分かるの」

曖昧な前置きをしながらアテナも鍛冶神と同じ、不安な表情を浮かべながら「アークが、何かやらかしそう(・・・・・・)な気がしてならないの」と言う。

 

「アーク君が?そんな訳ないじゃない」

「いやいや、あの子が子供っぽいのは見た目だけじゃないのよ。意外とうっかり屋で感情的な所があるんだから。あとマイペース。…ダンジョンでやらかさないと良いんだけど」

 

アテナと鍛冶神は互いに顔を見合わせ、自分の眷属のことを話せば話す程、嫌な予感が増した。

 

「…ねぇ、これ以上は止めにしない?本当に何か起こったらいけないわ」

「…そうね。今はあの子達が無事に帰って来ることを願いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

遊んでいたワケじゃないんだ。

油断していたワケじゃないんだ。

ただ、村にいた頃と同じ様に、目の前の仕事に一生懸命に頑張っていただけなんだ。

 

……まぁ、マヌケだと言われたら、否定は一切出来ないけど。

 

 

 

 

 

―――――コンコンコンコン。

また、アークの頭の中でノックする音が聞こえる。

今度は友人の家に『お~い、遊びに来たぞ』と言いながら扉を叩く、気さくで軽い音だ。

アークがノック音を頼りに鶴嘴を振るい、壁を削る。

そして当たり前の様に大粒の鉱石がゴロゴロと落ち、アークの足元へ転がって行く。

この時、アークが落ちてきた鉱石を何も思わずバックパックに投げ入れていたら、もっと早く終わっていたのだが…。

 

(……コレは何だ?)

アークの性格に問題があった。

採掘して、初めて見る鉱石を拾う度に「……コレは何だ?」と摘み上げ、じ~~~っと見る。

 

「……綺麗な鉱石だ……いや、これだけ綺麗だと、宝石みたいだ!」

血の色に似た紅と黒の縞模様を持つ大粒の玉髄を眺め、眺め、満足するまでじ~~っと見つめ、満足したらバックパックに投げ入れると言う、何ともマイペースな男だ。

 

……これ要らない、重い。歩くの辛い。見た目が悪い。

……コレも要らない、ってかデカすぎてバックパックに入らない。

……あ、これ入れよう!!初めて見る鉱石だ!!綺麗だな~~。

 

コンコンコン――――あっちから音がする。

ドンドンドン――――今度はこっちだ。

ダンダンダン――――あの奥だ。

音のする方へと進み、進み鉱石を求めて進み続けた。

 

そして、アークの独断で要る、要らないが分別されバックパックのスペースが埋まっていき、「……コレ以上はもう入らないや……」という一段落ついた所でハッとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここ、何処だ?」

気が付いたら、通路だと思われる狭い一本道にいた。

 

――――やけに静かだと思った。

モンスターの気配が無い、話し声が聞こえないからと集中して、凄く集中して、周りが見えなくなる程集中して、時間すらも忘れて集中して、採掘していた。

そして、一段落ついたところでハッとなり辺りを見渡すと―――――誰もいなかった。

 

この状況を理解出来た時、アークの顔からドッと汗が噴き出した。

それから順に、手が震え、息は荒くなり、胸の鼓動が荒くなる。

 

(……馬鹿か俺はッ!!ガキみたいなことをしやがって……!!!)

小さい頃、熟した木の実を食べに山に行った時に、木の実を食べる事よりも採る方に夢中になって、気が付いたら夕方になって誰もいなかった思い出が一瞬だけ頭を過る。

その時は「……ああ、もう夕方だ。帰らないと」で普通に村に帰れたけど、今回は訳が違う。

アークが幼少の頃から身に付いている『悪い癖』だ。

 

今俺がいる場所は――――――ダンジョンだ。最悪死ぬ。

桁違いのモンスターに遭遇すれば手も足も出ないだろう。

 

「……とにかく戻らないと……ッ!!!」

どうせもうバックパックには入らないから要らない、アークは足元に転がっている鉱石を蹴飛ばして走る。

 

モンスターに遭遇しない様に、顔見知りの神様に祈りながら駆ける、駆ける。

 

(……ヘファイストス様ッ!デメテル様ッ!…ミアハ様ッ!…ヘスティア様ッ!ニケ様…ッ!…………ついでにアテナさ)

―――――――――ビキ、ビキビキビキビキッ!!!!

主神であるアテナの顔を思い浮かべたその瞬間、アークの行く先から亀裂が走る音が聞こえる。

冒険者にとって馴染みのある音――――モンスター発生を報せる音だ。

まさか!よりによって!!このタイミングでモンスターが発生するとは思わなかったッ!!!!

 

左右に二体、青白いヒレの付いた手、サハギンが、今にも壁から出てこようとしていた。

無理やりにでも通り過ぎようかと考えが、ここから15M(メドル)程離れている、駄目だ、間に合いそうにない。

 

(……あのポンコツ女神ッ!!あの女神だけは祈るんじゃなかったッ!!!)

アークは主神であるアテナを腐しながら踵を返し駆ける。

 

薄暗い道、右に左に分かれる通路――――もう俺自身も何処を走っているのか分からない。

だけど、必死に走った。

そして、大きなルームに出た。

アミュレットは敵の気配を感じていない。モンスターがいないと言う意味では、今のところは安全だ。

 

アークは辺りを見回して誰もいないことを肉眼で確認してから、バックパックのサイドポケットから水の入った革袋を取り出し座り込む。

 

……少し疲れた。頼む、休ませてくれ。

バックパックを傍らに置き、水を意の中に流し込みながら、ほんの少しだけ休憩することにした。

 

俺のマヌケの所為で孤立してしまった。

本当、いい年して何やってんだか。

いつ死んでもおかしくない状況だ。怖い、死にたくない。

他の遠征隊に合流出来れば助かるかもしれない。

多少遠回りになっても良いから、敵に近づかない様にしよう。勝てるとは思うな。

 

息を整えている間にアークの頭の中で短絡的な思考がグルグルと回る。

 

天井から開いている穴から差し込んでくる朝陽に似た優しい光が、アークを照らす。

光に当てられた岩壁と垂れ下がっている鍾乳石は黄金の輝きを放ち、幻想的な空間をつくる。

地上にあれば間違いなく観光名所になっていただろう。だが、残念ながらここはダンジョン、それも深層。

ここに辿り着ける冒険者はそういないだろう。

 

アークは水が半分ほどに減った革袋を収め「……行こう」と呟き立ち上がる。

 

行かないといけない、この場所が今この瞬間危険な領域になってもおかしくないから。

そう判断したアークは、移動することにした。

 

――――来いッ!

誰もいないルームで、アークは鶴嘴をバックパックに吊るし、武器を発現させる。

刀身に黄金に輝くジグザグの刻印が入った刀だ。

――――魔剣だ。手に持った瞬間そんな気がした。

魔剣を握った時はいつもそうだ。この得物は他の物とは何かが違う、明らかに違う。

そんな感覚が手に伝わって来るんだ。

 

こんな深層のモンスターに効くかは分からないけど、目くらまし程度にはなると思い、発現した。

そして、アークは震える両手で魔剣を握り締め、薄暗い通路に入って行く―――――




雷電
価格 25,550,000ヴァリス

・極東のとある鍛冶師が創り上げた黄金の刻印を持つ刀の形をした魔剣
・魔法は扇状に進む黄金に輝く雷の波
・かつてとある人里に(オーガ)の大群が攻め入った時、名もなき武人がこの一振りの魔剣を握り、瞬く間に殲滅したと言う逸話があるとかないとか。
「……雷って、眩しくて目が痛くなるし、何より煩いんだよね。鼓膜が破れそうだ」
~アーク~

書いていると思った以上に長くなったので前半と後半に分けます。
後半を早めに更新したいな…
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