ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う 作:ウリクス
・18階層で採れる瓢箪の形をした赤い液果
・割ると琥珀色の蜜を染み込ませた綿花に似た果実が出てくる
・口に入れた途端、溢れんばかりの濃厚な甘みが口いっぱいに広がり、人によっては吐き気を催す程に甘い!
・数あるダンジョン果物の中でも、特に女性に人気が高い
「……さすがダンジョンだけで採れる果物。味も見た目も一味違う!
~アーク~
―――――俺は両親のことをあまり知らないし、そもそも好きじゃなかった。
何故か?初めて会った時からあの2人は、特に母と思われるは冷たい人だと思ったからだ。
両親に初めて会ったのは俺が15歳の時だった。
その日は仕事が昼に終わったから家で一休みして、それから山に遊びに出かけようと思ってホーソンベリーのハーブティーを飲んでいた時だった。
入口がコンコンと叩く音が聞こえて扉をそっと開けると、見知らぬ男女が立っていた。
「……アーク?」
男性の方が訊く。
彼の言葉に「……うん」と、アークは小さく頷く。
その男こそが、俺の実の父親……らしい。
そして、女性の方…俺の実の母親は初めて会った時から何も喋らなかった。
彼女のとの唯一の意思疎通は数か月に一通来るか来ないかの手紙だけだった。
その日の夜、俺は酒場で両親と話をした。
父と母は大陸を、島々を巡って旅をする商人であったこと。
俺を生まれたのはここからずっと南西に離れた『
生まれてから間もなく、母の腕に抱かれながら色んな所を回ったこと。
俺は相槌を打ちながら聞いていたが、心の中では何一つ信じなかった。
だって、俺のいたと言う記憶は全部この村だけだったから。
俺にとっての母は貴方じゃないから。
それから、早くて数か月、遅くて半年以上の間で
そう、「……変わった商人」だな、と思う感覚で接していた。
だからさ、大丈夫だよ。
二度と帰って来るなって言わなくても、もう普通には帰らないよ。
あの時だってエディの結婚を祝いたいから帰ってきただけだ。
それに、俺は貴方達のことも、あの家のことも好きじゃなかったから。
―――でも、相槌しかしなかったけど、一つだけ聞きたいことが胸にあった。
「……貴方達の言っていることが本当なら、何で俺を連れて行ってくれなかったの?」って。
当然あの人達なりの理由があるとは思うけど、今となっては、もうどうでもいいことだと思う。
「……ん」
また夢だ、ここ最近過去の夢ばかり見る。
意識は今一つ覚めないが、アークは上半身をゆっくりと起こす。
何処からか、風が流れ込んでくるのを感じる。そして後頭部と額にも痛みを感じる。
流れ込んできた小さな風はアークの頬を掠め、暗闇へと消えて行くのだ。
(……アレ?ここは何処だろう?)
目を覚ますとソコは、何も見えない暗い一室だった。
身をゆっくりと起こし、やや硬いベッドだと思われる場所から出た時、足に何かが当たり、パタンと倒れる。
アークはそれを拾い上げ正体を確かめるべく、手に持つ。
ああ、これブーツだ。
履いて良いのかな?そう思いながらもアークは起こした靴に足を入れ、立ち上がる。
しかし、本当に暗くて何も見えない。
そして、同時にアークの頭の中に(……ああ、俺、死んだんだよな……)という事実が過る。
『あの世』に行くと明かりも無い真っ暗な一室から始まるのだろうか?
極東の人達が言っていたな、『人は死ぬとあの世って所に連れて行かれて、その先で閻魔様ってお偉いさんに天国か地獄かを決められるんだ』って。
はたしてその『エンマサマ』って言うのはどんな人だろうか?
……天国に行けると良いな……。
いや、その前にココから脱出しないと。
見えない暗闇の中、アークはフラフラとした足取りで前に進む。
途中、物を蹴飛ばしたり、踏んづけたりしたが、日の光が見える。
(……光だ!)
アークは光に向かってフラフラと歩き進める。
そして、テントの入口の様な幕を両手で押し広げて外に出ると――――
「おうッ!!やっと起きたか!!!」
「……えっ!!?」
見覚えのある光景が広がっていた。
(……あ、あれ?コレって…いや、でも…)
後ろを振り向くと大きなテントが口を開けていた。
そのテントには見覚えのあるエンブレム―――ヘファイストス・ファミリア本営のテントだ。
「まあ、こっち座れこっち!!」
本営から出て来るや否や、待っていました!と言わんばかりに先頭を歩いていた厳つい顔と隆々とした大柄なドワーフが大声で声をかけながら隣に座れと木製の椅子をポンポンと叩く。
……もう少し声を小さくして欲しい。キーンッ!!!って、頭に響いた。
「……は、はぁ……」
アークは言われるがままにドワーフの隣に置いてある木製の椅子に座る。
「みんな心配してたぜ!なかなか起きないってんだからな!!頭の傷はもう大丈夫か!!?」
「……傷」
手を額の方に手を伸ばすと、包帯が巻かれていることに今更気づく。
「ブルークがお前さんを治療した時にやったんだ」と説明される。
「……あの」
アークはおずおずと訊く。
「何だ?」
「……ここって、18階層ですよね?」
「ああそうだ!それ以外何処に見える?」
そう思ったアークは周りを見回す。
空には太陽の様な白い結晶、周りには青水結晶と風に揺れる草木、景色の向こうには湖と断崖の町。
確かに俺の知っている18階層だ、間違いない。
「どうした?混乱しているか?まあ仕方ないか!!お前さんずっと気絶していたからな!!!」
そういったドワーフのおっさんはガハハッ!!と豪快に笑い飛ばしながら教えてくれた。
このおっさんが言うには、36階層で白目剥いて倒れていた俺を極東出身の冒険者達が発見して保護してくれたんだと。
「……そう、だったんですか」
アークは恥ずかしそうに、自分の額に巻いてある包帯を指でなぞりながら話を聞く。
さっきまで『あの世』とか『エンマサマ』とか、思っていた自分がほんの少しだけ恥ずかしかった。
「まあ、今日はゆっくりと休みな」
そう言って彼は口から火の粉を噴き出している炉と金床の方へと去る。
……今日は休みだって。
アークはポツンと一人、どうしようかとその場で考える。
そして、考えた結果――――――
「……やっぱり、ここは綺麗な場所だ」
野営地を出てから20分程経過しただろうか?
アークはリヴィラの街のすぐ傍にある湖をぐるりと回り、見晴らしの良い森へと入っていった。
今から20分程前、一人取り残されたアークはヘファイストスの野営地に残っている団員、壊れた武器の修復やら昨日今日の鉱石やらドロップアイテムやらの警護をしている人に「……少し散歩に行っていいですか?」と訊く。
そして「……おう!行ってこい!!」と承諾され今に至る。
「ただし、あの中央樹…19階層の入口には近づくなよ!モンスターが上って来ちまうかもしれないからなぁッ!!」とまたもや豪快に笑いながら釘を刺された。
アークは念の為鎧を纏い、ポーションが入ったバックパックを背負い、武器を手に歩く。
今日の武器は黒い剣。
風に靡く黒い獣の体毛のような刀身、今にも獲物を喰い殺さんと口を大きく開け鋭い牙が並んだ鍔が特徴の剣だ。
暫く草木を踏み歩いているとチョロチョロと水の流れが聞こえる。
音を頼りに歩いていると足首が浸かる程度の浅い澄んだ水が流れている川があった。
アークは川の流れに逆の方向に足を進める。川を下れば恐らく湖の方向へ流れていくだろう。もし迷ったら利用しよう。
しかし、妙…と言うよりも不思議な気分だ。
浅い川に足を浸しながら歩くのは村にいた頃、特に夏は山に入ったら絶対にやっていたことなのに、ダンジョンでも同じことをするとは思わなかった。
釣り竿を片手に腰には魚を入れる籠と水袋を吊るしていたのに、今ではポーションの入ったバックパックを背負い、手に剣を持って歩いている。
でもやっぱり、手に持っている剣を見ると俺は冒険者で、ここはダンジョンだと改めて思う。
俺は冒険者だ、もう釣りとか果物採りとか農場の手伝いをするあの時の俺じゃない。
武器を握って、モンスターと殺し合いをしてお金を稼ぐ仕事に就いたんだ。
あの時とは―――
「……ん?」
川の外れた先に何かがあった。
赤い瓢箪の形をした…果物?
アークは恐る恐る一つ手でもぎ取り割る。
すると、中からは溢れんばかりの琥珀色の蜜と甘い香りがアークの目を、鼻を刺激する。
そして手に蜜が落ちないように一口パクリ!!
「……~~~~ッ!!」
甘い!!甘すぎるッ!!!
暫く口を開けられず悶えるほどに甘かった。
こんなに甘い果物は初めてだ。
そして俺はバカだ。
あれほど俺は冒険者だと決意を固めたのにも関わらず、見たことない果物につられて、何の躊躇いもなく口に入れるとは何事か!!毒が入ってたらどうするんだ!!!
その上剣を地面に落として消してしまった。
本当に、何をやっているんだか……。
アークはこの瓢箪の果物をバックパックに入れ、もう一度武器を発現し、歩き進める。
今度の武器は白銀の十字架のような剣。
どことなく厳かで神々しさと冷徹さを感じる剣だ。
「……よ、良し!行こう」
アークは気を取り直して歩き進めた。
「それで、気が付いたら果物を採るのに夢中になってバックパックいっぱいにして帰ってきたと」
「……はい」
時は進んで時刻は丁度お昼頃、オラリオにいれば正午を告げる鐘がなっている頃だ。
アークは申し訳なさそうに俯き答える。
「いや、別に責めている訳じゃないけどね」
アークは今食事を担当しているヘファイストスの団員にバックパックの中にある成果を見せているところだ。
この獣人の団員は苦笑いを浮かべながらアークの戦利品を一つ一つ取り出していく。
あの後も、瓢箪の果実とは別の種類の果物を見つけては、うっかり武器を手放し口に運び
、採取をして、また見たことのない果物を見つけては―――それを繰りかえてしていたらすっかりお昼頃になってしまった。
「これだけあればダンジョンサンドが作れるね」
「……ダンジョンサンド?」
18階層で採れた果物を惜しみなくパンに挟むだけという、シンプルだけど豪華な一品だ。
「手伝ってくれる?」
「……はい」
アークは頷き、包丁を手に簡易な青空厨房に立つ。
正午の昼食、アークは懐かしい気持ちに襲われながらも、穏やかな時が過ぎていく―――
「…も、申し訳ありません…今日は一つも成果を出せなくて…」
「いえいえ、テッサさんの所為ではございません」
場面と時が変わり30階層、時刻はお昼を過ぎ、そろそろご夫人達が談笑交じりにおやつを食べる時間帯だ。
アークを置いて出発した遠征隊のメンバー一人一人の表情が重い。
そしてスッカラカンの荷車が今日の現状を物語っている。
――――今日は駄目だった。いや、これが彼らにとって、冒険者にとってこれが当たり前の光景なのだ。ダメな時はとことんダメ、そう言うものだ。
(やはり、テッサさんではなかったですね…)
傍らでしょんぼりとした表情をする小人族の少女をチラリと見て思考する。
彼の相棒の臙脂は相も変わらず我関せず、だけど不満の表情を浮かべながら帰路を歩いている。
「やっぱり、今日本営に置いてきあの人間の小僧か?」
「…恐らくは、ですね」
団員がブルークに他の隊員に配慮してヒソヒソと話しかけてくる。
「明日、アークボルトさんが遠征に参加出来したら、ハッキリと分かるかも知れませんね」
「いやいや、多分ここにいるみんな全員分かっていると思うぜ」
「あの駆け出し冒険者が、レアスキルを持っているってな」
「ま、明日に期待だな」
そういって離れていく団員の背中を見送りながらブルークは再度思考する。
レアスキル―――それは偶然か、それとも生まれ持っての素質か、血筋か。
神すらも夢中にさせる類い稀なる力。
もし、アークが周りの人にレアスキルを持っていると知られてしまえば…今後の彼の冒険者としての彼は、どうなってしまうのだろうか?
ブルークにとって、それが一番心配だった。
黒狼
4,800,000ヴァリス
・とある王国で狂戦士と呼ばれたウェア・ウルフが死しても手にしていた黒い小剣
・敵を切り裂き、血を吸うことで刃が鋭くなり、使用者の潜在能力を高めると言われているがこの剣を手に人を殺めれば、その人間を狂気の世界に引きずり込まれるという逸話がある。それ故に戦場で人を殺めた彼は戦うことしか頭にない狂戦士と呼ばれるようになった
罪の十字架
3,000,000ヴァリス
・【処刑人】と呼ばれた流れの冒険者が愛用している白銀の短剣
・ミスリルで作られており、戦闘にも適した武器だが、所持者は罪人を殺す時にしか取り出さないという
間に合ったあああああああああッ!!!
せめて、せめて年内に一回だけでも更新したかった。
今年は忙しすぎて何やったか覚えていないこともあった。
だけど俺は諦めない、たとえどれだけ時間をかけようが、このシナリオを完結させてみせる。
それではみなさん、良いお年を。