ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う 作:ウリクス
・発展アビリティ『神秘』を持つ者と
・使えば施錠されている冒険者のステイタスを暴くことが可能
「……冷たっ」
早朝、アークは近場の湖で顔を洗いながらぼんやりと空を見上げる。
頬を通り過ぎる冷たい風と冷たい水で少しでも落ち着こうとしているが、どうにも落ち着かない。…多分、緊張している。
(……そろそろ集合時間だ。早く行かないと)
その前に一つ確認。
遠征が始まって今日で4日目だ。
初日は拠点にテントを張り途中で切り上げて、2日目は俺が迷子になって死にかけて、3日目は美味しいダンジョンサンドとか食べて、それから―――
時間を昨日の晩に遡る。
アークは遠征隊が帰ってくるまでの間、料理やら物資の運搬やら他の人の手伝いをしていた。
「怪我はもういいのか?」と訊かれたが、特に痛みも無いし「……大丈夫ですよ」と答える。
天井の結晶が光を失い、ダンジョンに夜が訪れてから暫く後、疲れた表情をした遠征隊が帰って来る。
皆、拠点に辿り着くと「ああ、疲れた~!食事はまだか?」といった様子で大きなため息と共にその辺に座り込む。
そんな中、遠征隊の何人かは黙々と資材の入った木箱を両手に抱えて運んでいるアークの姿を見るや否や顔を見合わせ、
「…あの子確か…」
「そうそう、昨日はぐれたっていう…」
と、ヒソヒソと話し始める。
チッ!ダンジョンに潜らず一人だけ休んで良いご身分だな
勝手にバカやって死にかけたくせに
駆け出しの分際で…
―――気の所為だと思うけど、そんな話し声が聞こえたような気がした。
「……」
アークは早足で資材置き場へと向かい、荷物を置いて立ち止まる。
……ああ、そうだった。俺は彼らに迷惑をかけてしまったんだ。
でも、もう一度ハッキリと思い出してみよう。この反省がこれからの為になるかも知れない。
確か、魔剣で2本足で歩いている魚と巨大な蛇を魔剣で倒して、安心したと思ったら蛇が俺の方へ倒れてきて、避けようとしたら転んで…それから…それから。
ああ、そうだ。死んだと心の底から思ったら凄い強風と後頭部を
そして、こうなった原因は俺が馬鹿やった所為だ。
村にいた時に限らず冒険者になってからも1層から4層で採掘とか採取をしている時によくやるんだ。
やっぱり、止めてくれる仲間が必要かな…?
サポーターを仲間に出来れば、解決できるかな?
アークが云々と考えていると、背後から「アークボルトさん」と誰かに話しかけられる。
「……ブルークさん」
振り向くと木箱を置きながら「…怪我はもう、大丈夫なんですか?」と訊いてくる。
「……怪我の方は全然大丈夫ですよ。ただ、迷惑かけてしまいました…すみません…」
その一言を言った後、アークは早足で外に出て行ってしまう。
「まっ…っ!ああ、行ってしまった…」
外に出ると、もう食事が始まっていた。
魔石灯の光を囲いながら各々が談笑をしているのが分かる。
その光景を遠くから覗いていると、「ああ、そんなところにいたのか」と構成員の一人がアークに話しかけてくる。
「資材の片付けの方はいいから、君も食事を済ませておいでよ」
「……はい」
彼の言葉に甘え、アークも配られた食事を両手に魔石灯の光がギリギリ届く薄暗い隅っこにある大きな切り株の上に座り、食事をとる。
(……早く食事を済ませて寝よう、明日こそは一生懸命頑張ろう!)
そう意気込んでみたが、駆け出しの俺に何が出来るんだろう?とパンを齧りながら考える。
……いや、やることは前と同じく一つか。
俺の変なステイタスを頼りに必死こいて掘「よおアンタ!起きたのかい!」
食事に視線を落としたアークが視線を上げると、目の前に一人の女性が立っていた。
一つの団子状に纏められた長い金髪、碧眼、長身の獣人で、鋭い目つきと金色の刺繍が入った真っ赤な着物の所為か、気が強そうで派手好きな女性だなとアークは判断する。
「隣いいか?」
「……あ、はい」
アークが切り株の端に詰めると獣人の女性は遠慮なしに座る。
「……あの、食事の方は?」
「ああ、もう食った!腹減ってたからさ!!」
女性は大きな犬歯を覗かせながらニィっと笑いながらアークに詰め寄り、額に巻かれている包帯をペタペタと触る。
「アンタ、名前は?」
「……アーク、アークボルト・ルティエンス」
「所属ファミリアは?」
「……アテナファミリア」
「レベルは?」
「……い、1。まだ、駆け出しだ」
「遠征初日の晩飯は?」
「……パンと干し肉の入ったスープと魚の塩漬けとカットフルーツ…
だっけ」
「最後に食べた戦闘糧食の味は」
「……チョコレート味」
突然の質問攻めにアークは戸惑いながらも答える。
「……あの」
「うん!やっぱり、大丈夫そうだな!!いや~よかったあああ!!アタイの判断は正しかったんだ!!」
そう言ってケラケラと笑いながら安堵する。
(……何なんだ!この
見ず知らずの女性が行き成り隣に座って来て、談笑を持ちかけてくる。
アークにとって恐怖以外に何物でもなかった。
「神楽お姉ちゃん!」
「おおっ!千歳か!!」
チトセと呼ばれた黒髪の小さな少女が歩み寄って来る。
このおかっぱの少女、見覚えがある。確かアルミラージに襲われそうになった子じゃないか。
「目が覚めたってヘファイストスの奴らから聞いたから、こうやって見に来たんだ!」
「ほら、座んな」そう言って神楽と呼ばれた女性は千歳を膝の上に乗せ頭を撫でる。
アークはその光景を呆然と眺めていると「…ん?そう言えばあんたに名前を名乗っていなかったな。ゴメンよ」こちらを振り向く。
「アタイの名前は神楽、
差し出された手を恐る恐る握り、握手を交わす。
「こっちは扇谷千歳。チトセ・オウギヤだ」
「…あ、あの…よ、よろしくおねがいします」
チトセはカグラの後ろに隠れ、顔を半分覗かせながら挨拶をする。
行き成りで少し驚いたけど、一通り自己紹介が終わったみたいだ。
……多分、悪い人たちじゃないと思う。
「……ん?」
改めてカグラとチトセを見たアークは一つ気が付いたことがある。
「……やっぱり、その服着物ですよね?」
「ああそうだ。アタイ達の故郷の服さ!」
「……故郷ってことは極東、出身ですか?」
極東の商人や旅人が頻繁に村を行き来しているから、着物には馴染みがある。
村全体が、極東の人間と仲が良いんだ。
「……あの」
アークは思い切ってカグラに「……昨日、ダンジョンではぐれた俺を助けてくれたのは、貴女達だったんですか?」訊いた。
違ったら違ったで別にいいけど、やっぱりその人達にはお礼が言いたい。
アークの質問にカグラは「…あ~、うん。確かにアタイ達が助けたんだけど…」
ばつの悪そうな表情をして「助けた云々の前に一つ聞いておくれ!」と改めて口を開く。
昨日の晩、アークがなかなか目を覚まさないとカグラとチトセの仲間達が「この
その言葉にカグラは「あの時アタイが魔法を撃たなかったらコイツは確実に押し潰されて死んでいた!」と主張。
「カグラ。お前見てないだろ?お前の魔法がシーサーペントに当たった時に発生した風の爆発が少年を巻き込んだのを!少年の体が思いっきり叩きつけられてたぞ」
必死に起き上がろうとするアークの体を上から叩きつけ、特に頭を強く打って気絶したのではないか?と指摘される。
「もし目が覚めたとしても、この少年が「ここはどこ?私は誰?」とか言い始めたらお前の所為だからな?」
「―――という訳なんだよ。それで、目が覚めたと聞いてアンタの所まで来たんだよ!」
「……そう、だったんですか。助けてくれて本当にありがとうございました」
「いいって事よ!困った時はお互い様。それよりも、これでアイツ等に胸を張って『アタイは悪くない!!』って言い返せる!!」そう言ってチトセの頭を撫でながらケラケラと笑う。
それから、彼女達と少しだけ雑談をした。
分かったことは、彼女達は
チトセは冒険者になったばっかりで、1日でも早く冒険者として独り立ち出来るようにと勉強のために連れて来たそうだ。
しかもチトセって女の子、12歳で冒険者になったと聞く。…それも2か月前。
「……ごちそうさま」
アークは空になった食器を洗い場に持って行こうと立ち上がる。もう早く寝よう。
もうこれ以上遠征隊に迷惑をかけたくないんだ。
…そう思っていたのに。
「なぁなぁ、アタイの仲間達が向こうにいるんだ!そいつらともお喋りしないか!」
…ねぇ、遠征で疲れてないの?今日もダンジョンに潜ったでしょ!?
「……いや、その…あはは…」
断りたいけど、恩人に対して失礼なことは言えず、どうしよう。
そんな時、アークの前に助け舟が出される。
「まあまあ、お喋りはこのくらいにして、今日はもう寝ませんか?」
「……あ、ブルークさん」
アークが困惑しながら愛想笑いをカグラとチトセに向けていると、横からブルークが入り込む。
「聞きましたよ?お昼に拠点周辺を歩き回ったみたいじゃないですか。モンスターが発生しない階層とはいえ、モンスターと遭遇するかも知れない状況での探索はさぞかし気疲れをすることでしょう」
「……い、いや別――――はい、凄く疲れました」
『別に疲れてないんですが』と言おうとした瞬間、アークに無言の圧力が襲いかかり、咄嗟に返答を変える。
「そうでしょう、そうでしょう。明日に響くといけませんから、今日はもうお休みになさって下さい」
「……はい、分かりました」
「食器の方は私が下げておきます」とアークの持っていた食器を受け取り
「……すみません。もう寝ます。……あと、助けてくれて本当にありがとうございます…」
アークはブルークの言葉に従い、自分のテントに戻って休むことにした。
……素っ気ない態度だったかな?
でも、命の恩人達に余りこんなことは言いたくはないけど、彼女達が少し怖い。
何が怖いって?グイグイ来られるのがどうしてもダメなんだ。
「……明日こそは…ッ!!」
それに、これ以上失態を晒す訳にはいかない。いつも以上に成果を出そう!
そう思いながら、アークは目を閉じ眠りにつき、遠征3日目を終えた。
「…という訳で、見事にフラれた。と言うか邪魔された」
「―――そうか」
夜、2つの大きなテントの間に設置した魔石灯の光が5人の男女を照らす。
「アークボルト・ルティエンス。アテナ・ファミリアに所属するレベル1の駆け出し冒険者。最近食べた戦闘糧食はチョコレート味だってさ」
「神楽姉ちゃん、戦闘糧食のところいる?」
「…いらないと思う。だ、だけどさ!名前と所属ファミリア以外のことを訊いたら怪しまれるかと思ったんだよ!」
「そう、アタイと千歳の二人で手に入れた情報なんだからな!!」そう言ってカグラはテントで小さく寝息を立てて眠っているチトセをちらっと見る。
「―――情報をまとめよう。最初にあの少年に遭遇した時はどんな状況だった?」
「お、俺たちが来た時にはもう、黒こげになったシーサーペントがゆっくりとあの
「そうそう、奥の方からバリバリバリッ!!!って凄まじい音を聞きつけて来たもんな。あの音がなかったらアタイ達はあの部屋に辿り着いてなかったと思う」
「盛大、転倒、傑作」
「ええっと、
アンジと呼ばれた小柄な少年はコクコクと首を小さく頷く。
「そこをアタイの魔法でドカーーンッ!!とあの蛇の体を吹っ飛ばしたのさ!!」
カグラは自慢げに右手を前に突き出す。
「それから、神楽の所為で気絶した彼を荷車に積んで拠点まで持ち帰った」
「そうだ、そこまでが我々の知っている事実だ。だが、重要なのはあの少年と遭遇するその前だことだ」
5人の中で一際大柄な男が他の仲間を見渡しながら言う。
「どうやってあの馬鹿デカい蛇を倒したか、でしょ?」
「それも駆け出しの
「上級冒険者、討伐、困難」
「我々が見た限り、それを打開する方法は一つ。強力な魔法、或いは少年が持っていた『魔剣』か…」
気絶しても絶対に手放さなかった黄金の魔剣が男女の記憶を過る。
そして、不意に駆け出しから中堅の冒険者の間で流れている噂を思い出す。
「…なあ、アタイこの前『魔剣を自由自在に操る冒険者』がいるって噂を聞いたんだ」
「私も聞いたことがあるわ、コボルトとかゴブリンとかダンジョンリザードに対してバカみたいに魔剣を振り回しているって」
「そして、何時も当たり前のようにドロップアイテムと魔石で一杯になったバックパックを背負っているとか」
魔剣、溢れんばかりに貴重な鉱石を詰め込まれたバックパック、そして気絶した彼の眼前に落ちている『サハギン』と『シーサーペント』のドロップアイテム。
男女は「まさか…」と顔を見合わせる。
「―――今日はここまでにしよう。明日もう一度観察すれば自ずと分かる。そして、もしかしたら我々の『計画』を成就出来る重要な鍵となる筈だ」
彼の一言で今日のところは一先ずお開きとなった。
「…計画、ねぇ」
寝静まったテントの中でカグラは、先に眠っているチトセの頭を「…やっぱり、世の中お金かあ。世知辛いねぇ…本当、世知辛いねぇ…」と悲しそうな声色で呟きながら撫でて、目を閉じた。
戦闘糧食
Sサイズ120ヴァリス
Mサイズ240ヴァリス
Lサイズ360ヴァリス
・小麦粉、砂糖、卵等を混ぜてブロック状に固めた保存食
・ダンジョンに長期潜る冒険者達に携帯糧食として愛用されているが、口の中の水分が一瞬で無くなる為、水は必須。
・フルーツ、ポテト、チョコレート、メープル、チーズと様々な味が開発され販売されている。
・アークのお気に入りの味はフルーツ味
よいお年を!
って言ってからもう4月。
結末まで考えているのに圧倒的に時間が足りない!地の文が書けない!!