ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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フィアナ
小人族(パルゥム)の間で深く信仰されてきた架空の女神
元々、小人族だけで結成されたとある騎士団を擬神化したのが始まりだったが、本物の神々が降臨したその日から影も形もなくなり、心の拠り所を失った小人族達は急速に種族全体が落ちぶれていったと言われている


第48話 …サポーター、始めました「暇つぶしにしかならない半生 後編」

17階層、とある一行が列を成して『嘆きの大壁』を渡っている。

先頭を歩いている『遠征隊長』のドワーフが纏っている重厚な鎧には、ヘファイストス・ファミリアのエンブレムである『交差する一対の槌と火山』が主張するように大きく、強く描かれていた。

 

大派閥一行の前に、道行く冒険者達は何も言わずに左右に避けて、道を開ける。

一行の中央部には無理なく一人で曳ける程度にお宝が積まれた荷車の群れが、道を譲る冒険者達を見せつける様に、堂々と横切る。

 

…盗む?とんでもない!

荷車を守っている者の中に、名高い上級冒険者が混ざっているのが見えないのか?

 

「…あ、頭が…」

「は、吐きそう…うぷッ!!?」

「だ、誰か水を…」

途中、若い冒険者達が苦悶に満ちた表情で襲い掛かる吐き気を必死に堪える。

 

彼らは犠牲者だ。

宴の参加者と言う名の、先輩方に夜明けまで酒を飲まされて、叩き起こされて、歩かされている哀れな若手の冒険者(犠牲者)

この光景を見て、アークは(……逃げててよかった!)と心の底から安堵した。

 

「おらッ!さっさと歩け!!この荷物を運び終わったら俺はまた18階層に戻らねえといけないからな!!今のうちに俺の分もタップリと仕事しろッ!!!嬉しいだろッ!!!?」

「「ひいいいぃぃぃッ!!?」」

後ろの方から二日酔いに響きそうな大声が響き渡る。

 

また戻る、と言うのは先程ヘファイストスの構成員達が決めた雇われ冒険者達に対する志願制の契約延長のことだ。

内容は18階層にある残りの鉱石とドロップアイテムの運搬と護衛、勿論報酬は契約した金額から更に上乗せ。

しかし、「やる!」と言ったのは一握りの体力のある高レベルの冒険者だけ。

それ以外の冒険者達は…皆、昨日のうちに十分過ぎる程に疲れていた…。

 

「…だから、調子に乗って宴会とか開くモンじゃないって、言ったじゃないですか…」

「何言ってんだッ!この程度で音ェ上げていたら冒険者なんぞやっていけるかッ!!!」

 

「アークさんはこのまま帰るかい?」

先頭からそんなやり取りを聞いていると、カグラがアークに問う。

アークはゲッソリとした様子で

「……帰るよ。昨日の疲れが全然取れていないんだ…」

と力なく答える。

 

「……ジンさん達はこのまま延長するのか?」

「―――仁、呼び捨てで構わない。年上なら尚更だ」

「……ジン達はこのまま地上に帰のか?それとも、延長するのか?」

 

アークの問いに、

「お、俺と仁の旦那と庵士はこのまま延長、神楽と千歳と紗夜は帰還することになりました」

拠点(ホーム)にいるチビっこ達が心配で心配で…アタイ達だけでも早く顔を見せて安心させようと思ってね。アタイ達がいないと直ぐに泣くんだ…えへへ…」

カグラは何処か嬉しそうに言いながら困った表情で笑う。

 

「……ファミリアに、子供がいるのか?」

「ああっ!そりゃあもう沢山!みんな有り余るくらい元気でなぁ、今度アタイ達のところに遊びに来なよ。その方がきっとチビっこ達も喜ぶさ!!」

「………………か、考えておくよ」

いつも以上に間をおいて、アークはそう答えた。

 

 

 

 

13階層、まだまだお昼には早すぎる時間帯に一行は小休憩を取っていた。

向こうの方から大声が聞こえる。

「契約を延長する奴らと同じファミリアの連中はちょっとこっちに来てくれ!!」

隊長が何やら話があるそうだ。

 

「ゴメンッ!ちょっと行ってくる」

サホヒメ・ファミリアが離れている間、アークは程よい高さの岩に腰掛けて休んでいた。

 

「今朝方ぶりですね、アークボルトさん」

「……ブルークさん」

今度はブルークが色とりどりのポーションを指と指に挟みながら歩み寄る。

 

「……何してんですか?」と訊くと、

「見ての通り、ポーションを配布しているんですよ。一つどうですか?」と答える。

 

「……結構です、それより……今朝掘っていた彫像、出来上がったんですか?」

「それが、時間内に完成出来ませんでした。…完全に修行不足です」

 

ブルークはアークの背負っている物よりも一回りも二回りも小さなバックパックの中から今朝見た女性の姿をした白い石像を取り出し、アークに見せる。

 

「……あの、その石像の女の人は誰でしょうか?」

母?妹?姉?…それとも友人とか恋人とか妻とか?

 

「…成程、つまり―――この石像の女性に、興味があるのですね?」

「……へっ」

 

―――ブルークの様子が、変わった。

 

「……いや、そう言う訳じゃな「あるんですねッ!!?」……はい」

 

「あるんですねッ!!?」の時ブルークはバンッ!!と力強く叩くようにアークの肩に手を置く。

ブルークの勢いある突然の問いに、勢いに押されたアークは反射的に「……はい」と答えてしまう…。

 

「分かりました!その質問、存分に答えましょう!!」

「……あ、あの…」

 

アークは(……ああ、してはいけない質問をしてしまった…!)と言うことを直感で理解してしまった。

 

「おいッ!そろそろ出発するぞッ!!」

しかも休憩時間が終わったタイミング。

アークは自分の返答に後悔しながらも、ブルークの話に耳を傾ける。

 

 

「おっと、その前に。アークボルトさんには『とても大切な質問』を最初にしなくてはいけませんでした」

「……大切な質問?」

 

 

 

 

 

「―――貴方は、小人族が好きですか?」

間を置いて、凄く真剣な表情で訊いてくる。

 

「……小人族?まあ、どちらかと言えば好きだな。だって、ハーフの小人族(エミリア)双子の小人族(メアリーとアンナ)の仲間がいるからな。…少なくとも嫌いになるつもりはないよ」

 

その答えにブルークは、

「そうですか!…それは素晴らしい…!それを聞いて安心しましたッ!」

「……あの」

「やはり、小人族ほど尊い種族はありません!!」

 

アークの話を聞かずにブルークは一人自分の世界に入り浸り、

「人と小人族と言う種族の垣根を越えて作られた愛の結晶、しかしこの先二人の間に種族に違いと言う大きな試練に突き当たることでしょう!時に乗り越え、時に挫け、時に支え合って生きて行くその姿…なんと素晴らしいことかッ!!」

語るブルークの表情はまるで、欲しかった新しい玩具を手に入れたかのような、はたまた自分の大好きな料理を口の中一杯に頬張る小さな子供のようだった。

「それと同等に尊いのは双子の小人族、生を受ける前から二人は母のお腹の中で共に過ごし、何処に行くのも一緒、何をするのも一緒、二人揃って初めて一人!!二人の絆はどんな鋭利な刃でも断ち切れない!…嗚呼ッ!!尊い!!!尊い!!!!なんて―――」

 

 

 

 

 

「素晴らしいことでしょうかああああああああああああああああああああッ!!!!」

知的と呼ぶには程遠いが…眩しすぎるほどに歓喜と希望に満ち溢れた魂の叫びを、ブルークは放つッ!!!

 

 

 

 

 

 

―――ブルークの変貌ぶりに、アークと周囲のその他冒険者は控えめに言って引いた、ドン引きした。

アークは遠くから、出来るだけ見知らぬ他人のフリをしながら小さな声で「……終わった?」と小さな声で訊く。

周囲からは「何だコイツ」と文字通り変人を見るような冷たい視線をブルークに向ける。

 

魂の叫びから漸く、自分の世界から戻ってきたブルークは状況を把握して、

「…大変、お騒がせしてしまい…申し訳ありませんでした」

一言、とても…とても恥ずかしそうに謝る。

 

 

 

「なっ!?アタイは最初からあのオッサンのことが前々から変なヤツだと思っていたんだよ!!」

「……オッサンって、ブルークさんのこと?オッサン呼ばわりは良くない」

オッサンと呼ぶには村の雑貨屋くらいじゃないと。

 

「そうそう!あのオッサンの近くにいる臙脂って奴も、モンスターとかドロップアイテムを見たり拾ったりして一人ニヤニヤして気持ち悪いよッ!!それに、昨日だって (・・・・・)…」

「……昨日?」

「いや、何でもない…」

 

「……カグラ…事実かもしれないけど、そうやって頭ごなしに悪口を安易に言うのはやっぱり良くない。…確かに衝撃的ではあったけど…」

 

(……それに、今更だから言いにくいけど、何で俺には『アークさん』で、ブルークさんには『オッサン』なんだアンタはッ!?俺より年上だぞ、敬意を払え敬意を!)

アークは心の中で呟く。

 

「だ、だろ…?衝撃的だっただろ?」

「……でも駄目だ。…大丈夫ですよブルークさん。ブルークさんの主張を俺なりに努力して理解してみますから…」

アークはいつの間にか傍にいるブルークに慰めるように優しく声をかける。

 

「神楽おねえちゃん!いくら本当のことでも悪口は駄目だよ!!」

「そうだよ!おじ様、私と千歳もアークさんと一緒におじ様の変な趣味を理解するように頑張りますから!!」

チトセとサヨがブルークをフォローするが…その言葉に棘を感じたのは気の所為だろうか?

ブルークは気恥ずかしいような、情けないような分からない複雑な表情をしながら小さな声で「…ありがとう、ございます」と答える。

 

 

13階層途中。

ブルークの叫びから暫く、アークの傍にはカグラとチトセとサヨが戻って来て、歩きながらヒソヒソと雑談をしていた。

 

「……そう言えば、ジン達は?」

「他の契約延長志願の冒険者と一緒に18階層に戻っていたよ、最初の死線(ファーストライン)を抜けた時点で、戦力だけ言うならアタイと紗夜だけで十分だからね!」

そう言ってカグラはケタケタと笑う。

 

「……そうだ」

アークは「……聞きそびれてしまった」と呟きながら再びブルークが持っている白い石像に指さしながら

「……結局ソレは何なんですか?」と改めて訊く。

 

「『フィアナ様』ですよ。こんな不細工な像、フィアナ様と呼ぶには余りにも畏れ多いのですが…」

「「「「……ふぃあな?」」」」

アーク一同は首を傾げながら訊く。

 

「知らないのも無理はありません。フィアナ様はかつて小人族の間で深く信仰されてきた架空の女神様です」

「……へえ」

 

「私は小人族のためにと思って彫刻にも手を付けていますが…中々、上手くは行かないものですね…」

「と言うか、オッサンは何でそんなに小人族が好きなんだ?」

「…」

カグラの何気ない質問にブルークは少し黙り、

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と言うことは、貴女も小人族にご興味が?」

質問に答えず(・・・・・・)、それどころかカグラに対して質問で返す。

 

「いや、アンタみたいに飛び抜けて好きじゃないけど…庵士…えっと、仲間に小人族がいるんだよ。ってか、ホラ!アンタも昨日会っただろ(・・・・・・・)!!あのフクロウみたいに黒目がパッチリと見開いている小人族!!」

 

「…ああ、彼ですか。風波打たない水面の様に物静かですが。水底の奥には金剛石の如く硬い意思を持っている、そんな気骨のある小人族でしたね。日を改めて、彼と二人っきりで話をしたかったのですが…残念です」

ブルークはクスリと含みのある笑みを浮かべる。

 

「は、話すのは良いけどあんまり変なことを吹き込むなよ。アイツ、ああ見えて冗談を真に受ける奴だから…」

ブルークの妖しい表情を見たカグラは顔を引きつらせながら釘を刺す。

 

「しませんよ、それより」

ブルークは石像を納め、分厚い羊皮紙の束を取り出し「どれにしようかな…」とペラペラと捲る。

 

「地上に着くまでの間、今度私が出版する喜劇集に出てくる話の幾つかをお聞かせしましょう!!」

「いや、オッサン…アタイ等は別に『その少年と少女は幼馴染だった―――』…人の話を聞けよッ!!」

 

地上に戻るまでの間、ブルークが色んな物語を読み聞かせた。

 

幼馴染の少年と少女が戦争で逃げ惑った際に離れ離れになった話

病気の母の為、お金の為に剣を手に取った青年の話

重税に苦しむ民の為『フィアナの騎士団』を復活させようとした幼い少年達の話

 

(……どれも無理やりハッピーエンドで終わらせている話ばかりだ)

失礼だと思うけど、それがアークの率直な感想だった。

 

ブルークが意気揚々と饒舌に物語を語っている内に、あっとう間にアークにとって馴染みのある地上へと辿り着いてしまう。

 

「……ハッ!!?」

バベルを出た瞬間、視界に入る太陽の光がアークの不意を突くように照らすッ!!

 

(……俺、途中からブルークさんの話を聞いてなかった!!ついでに眩しいッ!?)

ブルークの話に途中から飽きて心を無にして歩いてしまった…。悪い癖だ。

 

さっきも思ったけど、ブルークさんの話はどれもこれも『無理やりハッピーエンドに捻じ曲げた』話ばっかりだもん。

つまらない訳じゃないけど、現実味がないというか……。

 

「それではですね…次は…」

太陽の光に馴れて俯きながら、目を少しずつ開けるとブルークの手にしている束の間から1枚の紙がアークの足元にヒラリと空を舞い落ちる。

 

「……ん?」

拾い上げると、他の紙に比べボロボロで所々文字が擦れて読めない。

 

タイトルは読める

『暇つぶしにしかな()ない半生』

と書かれている。

 

(……え~と、何々?)

「いけませんッ!!!」

「うわッ!!?」

不意にアークの手に持っていた紙が奪われるッ!

ブルークが焦燥の表情(かお)を浮かべながらひったくるように奪ったのだッ!!!

 

「……イテテ…」

奪われた拍子に驚いて後ろに倒れ、尻餅をついてしまった。

……階段で転んでいたら危なかったぁ。

 

「おいオッサンッ!!何すんだッ!!」

「アークさん、大丈夫かッ!?」

「……うん、大丈夫」

カグラの手を借りてゆっくりと起き上がる。

 

「…も、申し訳ありませんッ!」

紙を取り返したブルークは我に返り、アークに深々と頭を下げる。

「……いえ、ブルークさんの手元から落ちた物だから何かと持って。……ソレ、『見てはいけないモノ』でしたか?」

 

アークの質問にブルークは静かな声で「…正確には、誰かに見られる価値すらないモノです。先程、私がアークボルトさんから奪うようにして取ったのも、こんなモノの所為で誰かを不快にさせたくない、お目汚しをさせたくなかったからです。その程度の代物です」

「……そう、ですか」

アレはブルークさんにとって訊かれたくないし、見られたくない物だと判断したアークは、それ以上詮索するのを止めた。

 

 

 

(……た、太陽の光だ!水晶じゃなくて、本物の太陽の光だ~~!)

バベルを出て、アークは謎の解放感に包まれ余韻を浸っていると、

「―――では、今回の遠征に参加した冒険者達はこちらに並んで下さ~い!!」

 

何事かと中央広場に目を向けると、地上で待機していた思われるヘファイストスの構成員達が紙とペン、そしておそらく金貨が入っている革袋を冒険者に手渡していた。

今回の遠征の報酬の支払いをしているのだろう。

 

「おおっ!もう報酬の支払いが始まっているじゃないか!!千歳、紗夜、アークさん。早く並ぼう!!」

(……俺、報酬貰えるんかな?飛び入り参加の上に新人冒険者…、まぁとりあえず並ぶか…)

 

「……ブルークさんは並ばないんですか?」

「あの列は雇った冒険者専用。私のことなどお気になさらず、どうぞ行って下さい」

「おーいっ!早く早くーーッ!!」

カグラが手を振って急かしている。

 

「……えっと、じゃあ…遠慮なく…」

 

ブルークは列に並びに行くアークの背中を見送った後、取り返したボロボロの羊皮紙を手に取り、

「…私の語る物語は全て喜劇(ハッピーエンド)で終わらせなくてはいけません…そう、絶対に…ッ!!こんな汚い物は何人たりとも見せてはなりません。…しかし…コレは…私の…」

独り呟き、悲しそうな目でボロボロになった羊皮紙(自分の半生が描かれた物語)をじっと見て、バックパックの奥に押し込んだ。




幼馴染の少年と少女が戦争で逃げ惑った際に離れ離れになった話―――

「僕には幼馴染がいた。怖がりで、寂しがり屋で、ちょっとしたことですぐに泣いてしまう年上の女の子」
『私は幼馴染がいた。不器用で、頭が悪くて、いつも考えなしに動くから大人たちを困らせていた年下の男の子』

「僕は彼女の誕生日に赤い花のブローチをプレゼントした」
『私はあの子の誕生日に青いバンダナをプレゼントした。…僕には少し大きいよ!と言われた…』

「ある日、僕たちの街が戦争に巻き込まれた。必死に逃げ回り、急いで街を出た。そして、一晩中闇雲に走り、気が付いたら草原の上に朝日を浴びながら寝転がっていた」
『ある日、私たちの街が火の海になって、私は隣に住んでいる優しいおじさんに抱えられて馬車に乗り、街を出て、私たちの国へと逃げた』

「彼女は何処にッ!?僕はすぐに立ち上がり、街に戻ろうと草原を駆けた!!だけど何処を走っても、何度見渡しても僕の目に映るのは風に揺れる草原ばかり。走って、走って…お腹が空いて倒れそうになるほどに走り抜けて、やっと草原を抜けた!…でも、辿り着いた先は僕の知らない町だった…」
『あの子がいないっ!?城壁の中に入った私は直ぐに一緒に逃げてきた大人子供にあの子のことを訊いた。誰もあの子とは会っていないと言った…』

「どうしたんだい?大人たちが集まって訊いてくる。僕は街で起きたことを知らない大人たちに全部話した。そして、間もなく僕は孤児としてこの町の施設に引き取られた」
『私達は移民として受け入れられて、この国の住人になった』

「この町の人達は僕にとても優しくしてくれた。友達も沢山出来て、僕のために歓迎のお祭りをしてくれた」
『生きて家族全員と再会したの幸福だった。でも、この国の人達はとても冷たかった…戦争をしているから仕方がない…と言えばそれまでだけど、国全体が緊迫した空気で覆われ、息が詰まる毎日を過ごすのは…とてもとても苦痛だった…』

「旅に出る!少しだけ大人になった僕は彼女を探すと決心して町から飛び出した!みんな反対して僕を止めたけど後ろを振り向かずに走った。…ごめんなさい…」
『私たちの故郷が燃えてから随分と時が経つけど、戦争はまだ終わらない…。漸くこの息が詰まりそうな空気にも慣れた頃、私は宿屋の店員として働くことになった…』

「人から人へ、町から街へ、街から村へ、村から国へ、都市へと渡り歩いた…」
『気が遠くなる程に忙しかった…掃除に食事、そして、女将さんとお客さんに怒鳴られ早朝から深夜まで休みなく働かされる毎日…』

「路銀を稼ぐために、働くために一つの場所に暫く留まることがあった。…悪いことをしたこともあった…」
『ある日、いつもの様に働いていたら、突然目の前が真っ暗になって…気が付いたらベッドの上にいた。ここは宿屋最寄りの診療所。お医者さんから働き過ぎで倒れたのだろうだと言われた。…そして、その日私は女将さんからクビと言い渡された…』

「ある町ではお前は小人族だからと入れてくれなかった、ある国ではお金のために悪いことをして捕まりそうになった。…僕だって…盗みとか…密売とか…誘拐の手助けなんて悪いことしたくなかった…でも…それでも…僕は旅を続けた!!だって…」
『働き口を失った私は一度本気で自分の命を絶とうと町を出ようとした。でも…お母さんとお父さんとお姉ちゃんに止められた…もう何もしたくない…』

「もう一度、彼女に会いたいから!!」
『…せめて死ぬなら…楽しかった故郷で死にたいな…』



「あれから、どれだけの時間が経っただろうか?僕の体はスッカリ年老いて、歩く力もままならない…彼女はまだ生きているだろうか?…いや、生きていたとしても、もう僕のことなんて覚えていないだろう…多分、この国が僕の最期の旅になりそうだ…」
『死のうか、生きようか?小さな天秤にフラフラと揺れていると、国同士の戦争が終わった。それから半世紀以上の時が経った。私はとある服屋の女将に針子として拾われ、働いた…そして、長い年月をかけて漸く、自分の店を持った』

「…今日はいい天気だ。こんな日だからこそ、外に出て歩くべきだと僕は思う」
『今日はいい天気ね。散歩に出かけるといいことありそう』

「不意に、僕の意識が暗転して…意識を失い地面へと倒れた」
『背後で誰かが倒れる音が聞こえた。振り返ると私と同じくらいのおじいさんが倒れていた!!直ぐに病院に連れて行かない…………へっ?』

「気が付くと僕はベッドの上にいた…とうとう死んだかと思った。…まだ、神様たちは僕を死なせるつもりはないらしい…」
『良かった…本当に良かった』
「……へ?貴女は…?」
「少年」が横を振り向くと『少女』が涙を流していた。
そして、『少女』は涙を流し目から「少年」の名を叫び赤い花のブローチを見せる。
「…っ!」
「少年」は震える手で自分の名前が刺繍された青いバンダナを彼女に見せて、名を呟いた。

そして、互いの再開を確信するために、長すぎた悪夢から覚めるために「少年」と『少女』は名を何度も何度も叫んだッ!!!

一日中泣いた。
雲一つない快晴の日に豪雨の様に二人の老人は涙を流し、
「少年」はあの時一人で逃げたことを謝り、
『少女』は「少年」のこと忘れて自ら命を絶とうとしたことを謝った。



『ねえ、もう一度この国に行った時の話を聞かせて』
「…またその話?前にも話しただろ?」
「少年」と『少女』は「老人」と『老婆』になった。
ほんの僅かな時間しか共にいられないことを二人は神に向かって呪うだろか?

いや、そんなことは断じてない。
だって、あの日再会した空の様に晴れ晴れとした今の二人の笑顔に、呪いなんて言葉は似合わないだろ?

~とある老夫婦の物語~

↑省略したつもりなんですが、それでも長すぎるから話そのものを没にしようと思いましたが、せっかく書いたし消すのも勿体ないから残しました。

『暇つぶしにしかな()ない半生』
ブルークの過去話もガッツリ書こうと思いましたが、思った以上に長くなりそうだから没にして省略しました。

こんなこと書いているから1話投稿するのに無駄に長い上に投稿頻度が遅くなるんだよ
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