ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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上質なミスリルソード
1,200,000ヴァリス
・頑固だが、腕は超一の鍛冶屋のオヤジが気合を込めて打った白銀の剣
・鉄より軽く、鉄より硬く、魔法との相性も抜群である高純度のミスリルを使用
・形だけで言えば、その辺にある模範的な剣と変わらない…が性能は確か!
・何でこんなに高価だって?ミスリルだからに決まっているじゃないか


第49話 「大派閥の後ろ盾」

―――田舎臭くて、子供みたいな顔立ちで、明らかに弱そう…それがアテナ・ファミリア初代団長、アークボルト・ルティエンスに対する第一印象だった。

私自身「その辺の凡人」程度にしか思わなかったのは確かね。

…いえ、今思えばその方がアークにとっては幸せだったかもしれない。

 

 

天界から地上に降りたきっかけは、天界での仕事が嫌になり、その場のノリと勢いで逃げたことが始まりだった。

その後直ぐに、偶然出会ったヘファイストス(神友)に泣きつき、ホームに押しかけて、下界のことを学び…ダンジョンと冒険者、そしてファミリアのことを知った。

 

「何それ、凄く楽しそう!!」

強くてかわいいお気に入りの冒険者(キャラクター)を集めて傍に置き、私の一声で手足の様に動き、敵をバッタバッタと薙ぎ払う。

そんな最強のチームを作ると決めた…のは良かったけど、誰も私の元に来る人なんていなかった。

 

「何でっ!?私は知性と戦略の女神よ!?」

今思えば当然の結果だったし、馬鹿みたいだった。

神なんて1000年以上も前からゾロゾロと降りているのに今更地上に降りたってありがたみの欠片も無い。

 

「一体私の何がダメなのよッ!!?」

その日から私は酒に逃げて、逃げて、逃げて―――

ある日、ヘファイストスがアークを連れて来たのが最初の出会いだった。

 

最初は大人しそうな子だな~って思っていたら、契約を結んで間もなく『駄女神』扱いしてきたのよ!!

本当に無礼者だった!!

 

―――でも、そんなやり取りは嫌いじゃなかった。

そして、こんなやり取りが何年も何年も続くと思っていた。

ヘファイストスには申し訳ないけど、もう暫くの間「アークとニケと一緒にこのままでもいいかな~」って、少しだけそう思ったのは確かね。

 

 

…何時からだったかしら?

平凡だと思っていたアークに次々と変なスキルが発現したの。

……ええ、今改めて思えば、本当に変なスキルばっかりだったわ…

でも――

 

福音采配(オーダーズ・アシスト)

・―――――――――――?

・―――――――――――?

・――――――――――?

 

 

幸福王子(グッド・ラック!)

・【福音采配】の保持者に発現

・【福音采配】が消失した時、このスキルも自動的に消失

・―――――――と―――が固定される

・獲得した―――は――――――――される

・――――で行動している場合、常時、保持者の獲得する――と――――――――が――出来なくなる

 

 

「また変なスキルが発現した」そんな軽々しい言葉じゃ済まないスキルも発現したの。

この二つのスキルが発現した時…ええ、本当に…本当にゾッとしたわ。

私が地上に降臨して初めて『危機感』と言うの物を感じたわ。

 

 

 

「ヘファイストス、今から私と取引をしましょう!私のアークを今回の遠征に連れて行っていい代わりに、アークに対して正当な報酬とあと一つ……貴方の大派閥の後ろ盾(エンブレム)を貸して頂戴」

 

ヘファイストスに交渉を持ちかけたのは正解だったけど、こんな交渉で良かったのだろうか?

アークを守るために、もっと最善の手段を取れたかもしれない。

もしあの時、アークにスキルのことを正直に話していれば―――

アークが自分のステイタスを理解していれば…今でも冒険者として、オラリオで元気に暮らしていたかしら…?

 

 

 

 

思い返せば思い返す程、失敗したと言う過去の事実ばかりが山の様に積もる。

時間と言う時の風に吹かれ続けた失敗の山は、いづれ後悔の山に変わってしまう。

しかし、その山を乗り越えてこそ、今が――未来があるというものだ。

 

見目麗しい金髪の女神の前には、どれほどの高さの山が聳え立っているだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「無礼者っ!無礼者ッ!!」

…アテナの自室、折角の新しい朝にもかかわらず、ウチのお嬢様(アテナ)がいつも以上に酷く不機嫌でいらっしゃる。さっきからアークの背中をバシバシと叩いている。

 

「……アテナ様、これでお相子ってことで――痛ああああああああッ!!?」

さ、差しやがった!?背中を針で…刺しやがった!!?

叩くのがあんまり効いてないから、アテナが針でアークの背中を刺したッ!

 

「ちょ、ちょっとふざけただけで普通頭を叩く!?しかも仮にも主神を!?あんまり役に立ってないけど私は一応貴方の主神よ!?わかってる!!?」

「……分かったから、分かったからいい加減ステイタス更新してよ!?」

 

ことの発端は今から1時間程前―――

 

 

 

 

 

「……あれ?俺の革鎧が無い」

ダンジョンに向かう準備をしているとあの黒革鎧が部屋から無くなっていることに気づいたのはついさっきのことだ。

 

盗まれた?いやいや、新品とはいえ鎧だけを盗むのも変だ。

チェストの中に隠していた金庫の中を慌てて開けるが、こちらは全く手を付けていない。

 

「……本当にどこに行ったんだ?」

アークは一人部屋で悩んでいると―――バンッ!!誰かが扉を乱暴に開けて来た!!

 

「起きなさいアークッ!!」

「……もう起きてますよ」

扉を勢いよく開けてズケズケと入ってくるのは毎度お馴染みアークの主神、アテナ。

 

「……何か用ですか?用なら手短にお願い」

アークからは若干のイラつきを感じる。

 

「な…何でそんなに怒っているのよ?」

「……別に、いつも道理ですよ。ただ…鎧が見つからないのと、少し腹が減っているだけです」

初っ端からイラついているアークを見て、アテナは少し動揺するが

「アテナ様、ドアはちゃんと閉めなきゃダメですよ!」

暫くして、開けっ放しのドアを閉めて入ってくるのはアテナの従者、ニケだった。

 

「アークさん、おはようございます…ですっ!」

「……ああっ!おはようニケ様」

ニケの頭を撫でながら挨拶を交わす。

ニケが入ってきたことでアークのピリピリした表情が一気に和らぐ。

 

「……で、何か用ですか?」

少し落ち着いた様子を見せるアークは改めて用件を聞く。

 

「朝食に行きましょう!どうせ貴方、一緒に食べる相手がいないんでしょ?」

『どうせ貴方、一緒に食べる相手がいないでしょ?』そんなことを本人の前で言うからアークに面と向かって駄女神と言われ、さっきみたいな塩対応をされるのに…。

 

「……余計なお世話です。それに、俺はいつも通り屋台で食べますから。別に誘われなくても、勝手に何か食べます」

 

北東と東のメインストリートの間には屋台が立ち並んでいる。

屋台の間と間に食事用の広場が数か所あり、朝一番に仕事に出かける一般人やダンジョンに潜る冒険者をターゲットにしていて、財布に良心的な値段、忙しい人も嬉しい手軽さと確かな味に定評のあるこの場所は、知る人ぞ知る穴場だった。

 

勿論、アークも利用している。

冒険者らしい人の近くに座り、食事をしながら情報収集(盗み聞き)も兼ねているからあの場所は好きだ。……決して、強がりじゃない。

 

昨日の昼からずっと朝まで熟睡していた所為で、とても…とてもお腹が空いているから一秒でも早く食べに行きたい!って時にアテナ様の襲来。

鎧が見つからないし、お腹が空いているからイライラしていただけだったんだ。

 

「良いから!来なさい!!遠征から帰って来たばっかりだっていうのに、ステイタス更新をしてないでしょ!?」

「……あっ」

そう言えばそうだった、ステイタス更新のことをスッカリ忘れていた。

…後じゃ、ダメなのかな?

 

「ご飯食べ終わったら更新してあげるから行きましょ!!」

「アークさん!こっちこっち」

「……いや、でも情報収集があああぁぁぁぁぁぁ…」

ニケとアテナに腕を掴まれたアークはそのままズルズルと食堂へと連れて行かれた。

 

 

 

 

 

「おはよう~アテナ様~ニケ様もおはよう~」

 

食堂で行き交う人達がニケとアテナに友好的に挨拶を交わす。

 

「おはよう!…ラティーシャ、貴女お顔が真っ黒よ」

その中の一人、ラティーシャと呼ばれた頬を煤で黒くした糸目のマイペースな印象を持つ獣人の少女が

「えへへ~。炉を掃除していたら一晩中かかっちゃって~。気が付いたら朝になっちゃった~」

黄緑色のくせっ毛を指で弄り、ヘラヘラと笑いながら近くの席に座る。

 

「……アテナ様も、ニケ様も…」

……何かこう、傍から見てすっかりと馴染んでいる様子だ。

 

「……他の団員と仲良いですね。少し意外だ…」

「あら、妬いているの?」

「……いや、そうじゃなくて」

この駄女神のだらしなさに、普段から他の人達に白い目で見られていると思って辺りを見回してみるけど、そんな目で見る人は少なくてもこの場にはいなかった。

(……何でこんなに周りのみんなは親しげなんだ?)

 

「あっ分かった!…ラティーシャみたいな全体的に緩~い娘がアークの好みだったり?それならそうと早く言いなさいよ~しょうがないわね~」

「……ちょっと、待って下さいよ。俺は別にそんなつもりじゃ」

 

アテナはニヤニヤしながらさっきの女の子の方へ体を向け―――

(……おい馬鹿ッ!?まさかッ!!?)

アーク脳裏に嫌な予感が走る…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラティーシャっ!アークが貴女のことが「ヤメロおおおおおおおおおおおッ!!!!」」

 

 

 

 

「……という訳だ、とても平和で素敵な一日の始まりと思いませんか?」

「――という訳なのよ、酷いと思わない?せっかく私が恋のキューピットになろうと思ったのに、頭をスリッパの裏で黒光りするGをスパーンッ!ってする感じで叩いてきたのよ!?」

 

「「(……)どう思います、ヘファイストス(様)!?」」

 

アークとアテナが同時に鍛冶神(ヘファイストス)の方へ振り向き、同意を求めるが、

「どうもしないわ、アテナもさっさとステイタス更新を済ませなさい」

溜息一つ、呆れながら返される。

 

「…はぁい。…でも、本当に痛かったのよ…」

「……ゴメン、でもそこまで強くしたつもりはなかったんだけどな…」

 

アークとアテナの喧嘩は鍛冶神と大柄の男性がアークの黒革鎧を持って入って来たことで終わりを迎えた。

 

「……ああ、俺の鎧ッ!!」

ヘファイストス様達が持っていたのか!

「鎧を繋いでいる金具と革紐が一部損傷していたから、アークが遠征に行っている間、勝手ながら直させて貰ったわ」

 

「……へ、壊れていた?」

まだ新品で壊すようなことはしていなかった。

思い当る所なんて――あっ…思い当る所があった…。

 

(……ミノタウロスに思いっきり殴られた時だ…)

そういえばあの日から、今までこの鎧(黒革鎧)を装着してなかった。

確かに、あんな化け物に殴られれば革の鎧なんて一撃で壊れる筈だよ。

 

 

「…それはそうと。アーク、遠征お疲れ様」

「……へぁッ!?」

アークは一人納得している最中、鍛冶神から労いの言葉を貰う…が、唐突に話しかけられてしまい何とも情けない声で答えてしまう…。

 

「……い、いえいえ!色々と勉強になりましたよ…一度死にかけましたけど」

さっきの素っ頓狂な返事を誤魔化すように答える。

実際に勉強にはなったのは事実でもあり、死にかけたのも事実である。

 

「それと…ごめんなさいね」

「……何がですか?」

 

「報酬の件、話していなかったじゃない。アークにもちゃんと支払われるから…ガッカリさせてしまったようね…」

「……ああ、報酬!俺にも出るんですか!?」

(……報酬!ちゃんと俺にも出るんだな…)少しホッとした。

 

「支払いの方は、残りの遠征隊が帰ってからでいいかしら?」

「……?別に何時でも良いですよ。正直貰えると思っていなかったので」

…ん?何で他の人が帰って来てからなんだろう?

そんな大した額じゃないんだから、その場でも良い筈なのに…?

 

「…ヘファイストス様。そろそろ時間です」

鎧を運んでくれた男性が鍛冶神の耳元で囁く。

「…分かった。…アーク、そろそろ私は行くわね。アテナ、後はしっかり頼むわね」

「…ええ、分かっているわ」

 

その言葉を最後に、彼女と眷属の男性はそそくさと部屋から立ち去ってしまった。

 

(……昨日と言い、やっぱり大派閥の主神は忙しいのかな?)

そんなことを思っていた矢先、アテナが

「そう言えば、貴方また死にかけたんですって!?」

突然話しかけて来た。

 

「……何でそれ知っているんですか?」

この駄女神どころか、鍛冶神(ヘファイストス)様にも言っていないのに。

 

「あのちょっと老けた紳士のおじ様が言っていたのよ」

「……ちょっと老けた紳士…ああ、ブルークさんか」

アテナ様が知っているということは、多分ヘファイストス様にも知られているんだろうな…俺がマヌケなことをしたばっかりに、面目ない。

 

 

「気をつけなさいよね、死なれるとこっちが困るのよ」

「……俺がいなくなると酒が飲む金が痛あああああッ!!?」

アークがアテナに対して、いつもの皮肉を言うがアテナがアークの背中をもう一度刺してきたッ!本日二度目だッ!!

 

「…馬鹿なこと言わないで頂戴、流石にそんなことを考える程腐っちゃいないわよ…」

「……はい、ごめんなさい」

アテナに静かに返されたアークは黙る。

 

 

「…それに、ここ数日は酒を飲んでいないわよ」

「……はッ!?嘘ですよね!!?」

本拠(ホーム)に帰ってきて、ステイタスを更新しようと頼みに行けば毎日毎日毎日毎日デカい酒瓶を抱いて眠るアテナ様が―――殺気ッ!!?

 

 

 

「…アーク?」

「……いや、すいません。何でもないです、だから針は勘弁してください」

 

 

 

―――三度目の針は許してくれた…

 

 

 

 

 

 

 

 

【アークボルト・ルティエンス】

アテナ・ファミリア

Lv1

[力] :I79→I99

[耐久]:I68→I99

[器用]:I81→I99

[敏捷]:I65→I99

[魔力]:I18→I18

[運] :SS1023→SS1041

 

《魔法》

【不定の魔術】

・存在する(していた)魔法を一つランダムで選択し、あらゆる条件を無視して発動

・攻撃と補助(その他)を使い分けられる

・使用する魔法と精神力が足りない場合発動直後に強制的に精神枯渇(マインドゼロ)発生

 

《スキル》

運命体現(ラック・アルファ)

・基本アビリティに[運]を追加する。

・[魔力][運]以外の基本アビリティの熟練度が上がりにくくなる

 

強欲者印(ザ・グリード)

・敵を討伐した際のドロップアイテムを落とす確率が上昇する

[運]の値とモンスターの種類によって確率が一定まで変動する

・モンスターを討伐した際入手できる魔石のランク(純度)が一段階上昇する

・ダンジョン内で採掘・採取を試みた際、レアリティが高い素材を入手できる確率が上昇する

[運]により確率が一定まで変動する

 

救済包囲(ムービング・セーフティ)

・このスキルの保持者含め近くにいる人物は、精神力が回復し傷を癒す

スキル保持者の[魔力]依存

・ただし、スキル保持者の[魔力]がどれだけ高くても回復速度と量には上限が存在する

 

四肢斬奪(エネミー・ライフアブソーブ)

・モンスターの一部を切断した際に発動。切断した一部が一定の確率でドロップアイテムとして残る

・[運]の値によって変動する。

 

 

 

鉱霊交信(ノッカーズ・サポート)

・一定の範囲内に鉱脈を発見した場合に発動。レアリティの高い鉱石が埋まっている可能性のある鉱脈に対して、ノック音でスキル保持者に知らせる。

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

武器装庫(ランダム・ウェポン)

・世界に存在している武器(魔剣込みで)をどれか一つランダムで選択し復元して発現する。そしてあらゆる装備条件を無視してスキル保持者に装備する。

・魔力は消費しないが待ち時間クールタイム有

任意発動(アクティブトリガー)

 

 

武装拒絶(サクリファイス・ウェポン)

・スキル【武器装庫】を所持している場合同時に発現する。

・また、スキル【武器装庫】が消失した場合、このスキルも自動的に消失する。

・このスキルを所持している限り、スキル保持者は永久的に【武器倉庫】で発現した武器以外を装備することが出来ない(装備した場合、強制的に解除される)。

 

 

魔才消失(サクリファイス・マジック)

・【不定の魔術】の保持者に発現

・【不定の魔術】が消失した時、このスキルも自動的に消失

・スキル保持者の習得した魔法は【不定の魔術】を除き全て魔法スロットごと消失

・以降、魔法を習得することは出来ない

 

 

【…―……―】

―――……―――

――…――……―

…――……――…

 

 

【――…】

―――………―――

――――……――…

……―――…―――

 

 

 

 

 

「……きゅ、99…だと…」

1足りない。後1あれば評価がIからHに変わると言うのにいぃぃッ!

 

アークは写しを両手で掴み、プルプルと震えながら凝視する

「……ん?」

写しの一番下の部分に二か所、微かに擦った跡が見えた。

 

「……アテナ様、コレ何ですか?」

「…タダの写し間違いよ、気にしないで頂戴」

「……珍しいですね、今までこんなことなかったのに」

アークは消し跡をジッと見ながら指でなぞり、弄る。

 

「貴方のスキルは更新する度、日に日に増えていくから間違いの一つや二つ、出るに決まっているでしょ…」

 

アテナは溜息一つ吐きながら近くの椅子に座り、

「…それよりも大事な話があるの。今から話すことは、貴方の今後の冒険者としての生活に関わることよ…」

そう言って「鎧をよく見なさい」そう言いたげにアテナは黒革鎧を見るように促す。

 

「……ん?鎧がなんだって?」

柄にもなくアテナの真剣な表情と言葉に、アークは少したじろきながら彼女の言葉に従う。

 

「……別に、普通じゃな…ん?」

 

いつもの黒革鎧――良く見ると少し違う。

左胸には『交差する槌と火山』のエンブレムが描かれた金属製の薄くて小さなプロテクターがアークの心臓を護るように取り付けられ、無駄に分厚い革のマントの端にも、同じエンブレムが小さく描かれていた。

マントの方は白いインクで描かれているだけだけど…。

 

「……アテナ様、コレは一体!?」

ステイタス更新中にチラッと一瞬横目で見ただけだから変化に気が付かなかった…でも何でこんなことを?

 

 

 

「ここからが本題よ、今から話すことをよ~く頭に入れて頂戴―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステイタス更新してから数時間後。

時刻は丁度お昼前、人によっては少し早いランチタイムを楽しんでいる時間帯だ。

 

ダンジョン4階層に到達したアークはダンジョンの奥へと歩き進めモンスターと対峙する。

「……ハアアアッ!!」

道中、ゴブリンとコボルトを屠りながら、少しだけ空いてしまった単独(ソロ)の感覚を取り戻そうと、今身に着けている鎧を自分の体に馴染ませようと、慎重に辺りを見回しながら進む。

 

今回その手に握るのは白銀の剣。

形こそシンプルだが、確かな力を感じる…そんな剣だ。

 

 

「……ふぅ」

辺りにモンスターの気配無し、戦闘を終えて大きく深呼吸。

首を切られ、腹部を貫かれ、灰となって消え去ったゴブリンとコボルトから落ちた魔石とドロップアイテムを拾い、探索を再開する。

 

 

 

―――焦る必要はない。

成長の歩みが遅くたって、アークを馬鹿にする連中は誰もいない。

今は弱くても、時間をかければきっと、それなりに強くなれる!

 

「……帰ろう。今日も荷物が重たいなぁ」

魔石とドロップアイテムで一杯になったバックパックをグイッ!と背負い直し、5階層へ続く階段の前で踵を返し、帰還する。

 

 

―――……道中、今朝聞いたアテナ様の言葉が頭を過る…。

 

「ここ最近、こんな噂が流行っているの…」

ステイタス更新が終わり、黒革鎧を装着している最中、アテナがアークにその噂を教える。

 

・1階層から4階層の上層付近でコボルトやゴブリンに対して『馬鹿みたいに魔剣を振り回す』冒険者がいる…らしい。

・その冒険者はありとあらゆる魔剣を取り出し、意のままに操ることが出来る上に、第一級武装すらもその手に握っているとか。

「この前見たって奴がいたんだ、噂の冒険者が【剣姫】の得物を握ってモンスターと戦っていた所を!!」

・そして、帰りは魔石とドロップアイテムではち切れんばかりのバックパックを当たり前の様に背負い、地上に持って帰っている…らしい。

 

「…この噂の正体、間違いなくアークのことでしょ?」

「……」

心当たりは…大いにあった。

 

 

「……いやでも魔剣は―――」

『そんな大した物じゃない』…以前のアークならそう言おうとしたが、36階層で迷子になったこと、そしてモンスターと対峙した時、咄嗟に魔剣の一撃を放ったことを思い出し、口を閉じた。

もし、あの一撃が何かの拍子で他の冒険者に当たっていたら―――

 

「…アーク、よっぽどのことが無い限り上層で魔剣と魔法を使うのは控えなさい」

他の冒険者に狙われる上に、下手をすれば他の冒険者に危害を加えてしまう――それらを少しでも防ぐ為に、アテナは二つの意味を込めてアークに忠告する。

 

「……分かった。魔剣と魔法はなるべく使わないようにするよ…」

静かな声で承諾する。

 

「あと、もし他の冒険者に声をかけられたら胸に取り付けているプロテクターを相手に見せながら『私はヘファイストス・ファミリアの関係者だ』って叫んでみなさい」

 

「……俺に嘘を言えと?」

「嘘は言っていないわよアーク。私と契約を結んだ時、ヘファイストスの言葉を思い出してみなさい」

「……う~ん?」

アテナ様と契約を結んだ時、その場にヘファイストス様がいるのは思い出したけど、彼女が俺達に何を言っていたかまでは、思い出せない。

 

 

『アーク君。私が貴方にアテナ・ファミリア(超不良物件)を紹介してしまったから、かしらね。それに、紹介してしまった以上、私も最後まで面倒を見ないといけないって思ったからよ……私からの神の恩恵ファルナとして受け取って頂戴』

 

 

「そう言ったのよ、言質は取ってあるわ。その言葉通り、ヘファイストスには最後まで面倒を見て貰おうじゃない」

アテナはニヤ~っと笑い、アークを見る。

 

(……この神、本当に神経が図太いなあ。でもこの言葉、俺の面倒を見るって言ってるだけで、アテナ様は……いや、何でも無いです)

不敵に笑うアテナの前に、アークは思うところがあるが、心の奥底に押し込めた。

 

「…話を戻すわ。そのエンブレム…と言うか、貴方の背後に誰がいるかを知ったら余程の馬鹿と世間知らず以外は撃退出来ると思うわ…多分、きっと…」

「……多分って」

 

「それでも、ある程度は防げることは確かね。…本当は貴方が信用出来る子達と正式にパーティを組めば、もっと安全になると思うけど。信用出来そうな子とかいないの?」

「……今のところはデメテル・ファミリア(彼女達)以外いません」

 

「じゃあ、ヘファイストスに頼んでレベル1の子供(眷属)達を紹介してくれる様に頼んであげるけど?」

「…………考えておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ、「多分、きっと」って。本当に大丈夫かな?」

アークは不安そうに呟き、胸に取り付けているプロテクターを拳で2、3度軽く叩いて、今日の戦利品を換金する為に地上に向かう。

(……その内、『やっぱりその鎧(黒革鎧)を別のに変えろ』とか『ドロップアイテムと魔石の量も控えなさい』とか言われそう…そんな気がする)

 

自分の身を守る為に、他の冒険者に危害を加えない為に…何故制限をかけなければならないのか、分かっている…分かっているんだ。でも、何もかもを制限制限…控えろと言われては楽しい冒険も楽しくなくなる。

 

だからこそ、ダンジョンから地上に出る途中

 

 

「……今の俺は、冒険者だろうか?」―――と一瞬だけ疑問を抱いてしまった。

 

 

始めてダンジョンに潜った時のことを思い出す。

この鎧を着て、小剣と投げ斧を握っていた頃は少なくてもこんなことなかった。

楽しかった、ダンジョンに対して希望があった。そして、自由があった。

 

今はどうだ?

かつての相棒(小剣と投げ斧)はスキルの所為で手に取ることすらも許されず、棚の中に放置され、折角発現した念願の魔法だって『何が出るか分からない魔法』だ。

 

自分のステイタスが変なのくらい、自覚しているよ。

だから、他の冒険者達は俺のことを噂をしているんだ…変な冒険者だと、好奇な目で見られるんだ。

きっとそうに…違いない。

 

 

 

 

 

……俺は、普通の冒険者になりたかった。

普通の冒険がしたいんだ―――

 

 

 

 

 

「……帰ってきた」

バベルを出たアークは中央広場に置いてあるベンチに座り、気怠げに背伸びと欠伸をしながら太陽の光を浴び、休憩する。

今日は雲一つない快晴、薄暗いダンジョンに潜るのは勿体ない日だ。

 

今日のダンジョン探索は誰かに声をかけられることも、モンスター以外のモノに得物を向けることもなく、無事に終わった。

 

「……そうだ、デメテル・ファミリア(あの子達)に会いに行こう」

折角遠征から帰って来たんだ、昼食を済ませたら18階層で手に入れた蒼水晶と遠征の思い出を土産に顔を出してこよう。

アークは立ち上がり、デメテル・ファミリアの本拠を目指して歩き出す。

 

(……こんな日が、明日も明後日も明々後日も…ずっと続いてくれるといいな…)




自分の中でのアテナ様は「アパートに住むだらしない隣人」と言うイメージで書いて、真面目にするか、不真面目にするかで迷いましたがアークを真面目なキャラにするつもりだったので真逆にしました。

零細にせずとも、初期設定の名無しのモブ男神、そこそこ真面目な弱小貧乏ファミリアでも別に良かった気がする。
1章で適当に書き過ぎたのが失敗した。
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