ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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キャラクター図鑑

ルゥ(Lou)マーチ(March) 
犬人 9歳 誕生日12月25日
身長:127㎝ 体重:25㎏
所属 デメテル・ファミリア

・ダイダロス通りの孤児院に住む犬人の少女
・明るく誰とでも打ち解ける性格でチャームポイントは『自他共に認める肌さわりの良い垂れ耳と長い茶髪とモフモフの尻尾』
・病を患った友達を救う為に親友のリア、パティと共に神の恩恵(ファルナ)無しで一攫千金のチャンスを掴む為、ダンジョンに挑もうとした
・自身の命と親友の命を救われたルゥにとってアークは「お兄さんは絵本に出て来た英雄に間違いないですぅ!」と心の底から信じている
・将来の夢は絵本作家だったが、自分の絵が致命的…いや、狂気を感じる下手さを理由に断念。今はリアと同じ冒険者を目指している
・甘い物…特にチョコレートが大好物
・同じ孤児院にもう一人『ルゥ』と言う同じ名前のハーフエルフの少女がいる。勿論彼女とも友達
・誕生日が3人の中で一番遅く、毎年リアが誕生日を迎えた辺りから「早く12月になるですぅ…っ!」と頻繁に祈っている
・デメテルから神の恩恵を授かった時に魔法を一つ発現している。リアとパティ曰く「ルゥにだけは絶対使って欲しくない魔法」らしい

リア(Lia)レトリー(Letley)
人間 10歳 誕生日8月16日
身長 130㎝ 体重27㎏
所属 デメテル・ファミリア
・同じく孤児院に住む少女
・白い髪に黒い瞳、中性的な見た目と声で頻繁に男の子と間違えられる…服のチョイスも男の子みたい!ついでに普段着ている服も白と黒
・大人びた性格だが、情に流されやすく「大事な大事な友達を助けるですぅ!」そう言って暴走するルゥを止めようとしたが、彼女の熱弁で逆に説得されてダンジョンを共に潜ることになった
・アークに助けられた後、アークのことを冒険者様と呼ぶようになり「いつか大きな恩返しがしたい」と考えている
・実は辛い物全般が大好物で最近注目しているのは南メインストリートを外れた路地裏の一角にある酒場『焰蜂亭』と言う酒場の裏メニュー『超絶激辛シチュー(500ヴァリス)』、お金が貯まったら挑戦するらしい
・この三人の中で一番ダンジョンに対する関心が強く、将来は冒険者になりたいと思っている、故にルゥの説得はリアに対して特に有効だった
・ルゥと同様に魔法が一つ発現している。ルゥ曰く「とても賑やかで楽しい魔法ですぅ!」らしい

パティ(Paty)ミノーグ(Minogue)
人間 10歳 誕生日 6月21日
身長131㎝ 体重25㎏
・所属 デメテル・ファミリア
・上二人に同じく孤児院に住む少女
・チャームポイントは『自称、桃色のショートポニーテールとパッチリとした輝く黄金の瞳と愛らしい笑顔と魅惑の美声!』
・3人の中では1番常識的で暴走するルゥと説得されたリアを連れ戻そうとしたところ、二人がかりで取り押さえられリアから一言――
「偉い人は言った『旅は道連れ』…と。とても心に響く良い言葉だよね、パティ?」
…そして、彼女はダンジョンへと連れて行かれた。
・服や小道具、化粧等々オシャレに興味があり、この三人の中で一番マセている
・アークのことを「冒険者さん」と呼び三人とは違い少し媚びた態度で接している。彼女のアークに対する態度は恋慕か…それとも何か打算があるのか…?
・ルゥと同じく甘い物が好きだが、パティはクリーム系を好む
・将来の夢は…冒険者?
・他の二人同様魔法が一つ発現、ルゥ曰く「とっても悪い子の魔法ですぅ!」らしい


第50話 「一時の休息と鈴の音と…殺気」

少しだけ、道に逸れた話をさせて欲しい。

アークがオラリオからデメテル・ファミリアへと向かうその途中の話だ―――

 

 

 

 

(……つ、疲れた…今日くらい馬車を利用しようかな?いや、でも今日は一度も馬車を見ていないな。…いつもは通行の邪魔になるくらい横切っているのに…何故今日に限って一台も遭遇しないんだ?)

遠征の疲れと、今日のダンジョン探索で疲労が重なったのか、オラリオ西区のメインストリートから少し離れた寂れた細道を、アークは疲れた表情で歩いていた。

 

オラリオ西部は『ファミリア』に所属していない無所属の労働者とその家族…神様と殆ど関わりを持たない一般人が居住を構え、大規模な住宅街となっている。

故に人の多さだけで言うならこの西部が断トツに多く、時間帯によっては人の波に呑まれてしまう危険性が一番高い場所だ。

午後過ぎ…丁度昼食を済ませたばかりだと言うのに結構な規模の人の波が西メインストリートを覆い尽くしていた。今日は珍しいなこの時間帯はまだ大丈夫だと思っていたのに。

 

(……『あの細道』を通るか)

あの細道―――以前、デメテル・ファミリアのホームに世話になっていた時、孤児院のチビ三人組が雑談代わりに教えてくれた。

 

「西部のメインストリートは午後…特に夕方以降は絶対に近寄っては駄目です。人の波の中に紛れて『スリ』が頻繁に現れます。アイツらにとって、あの場所は最高の狩場ですから。…だからと言って闇雲に人気の少ない所にも行ってもいけません…今度はガラの悪い奴らに絡まれてしまいます。アイツ等は冒険者様だろうと何だろうと、誰にでも突っかかってくることで有名な奴らですからね…」

 

「だから、ルゥたちがいつも使っている細道を教えてあげるですぅ!赤い屋根の串焼き屋さんの屋台と、青い屋根のアクセサリー屋さん屋台の間にある細道はルゥ達のおすすめですぅ…西の門に向かうには少し遠回りしちゃうけど…」

 

「途中、小さいけれど西部に住む子供たちの為に作られた公園があります。時々私たちも他の子と遊んでいる場所です。冒険者さん!その…もし私たちを見かけたら声をかけて…遊び相手になって下さい…」

 

以降、西部を通る時はこの細道を利用している。

メインストリートの喧騒から一転して静まったこの細道、意外にも殆どの人が見当たらず、見かけるとしたら散歩途中のご老人か、喧騒を嫌う物静かそうな若者ばかりだった。

 

 

 

 

『うぅ…うう………よぉ…こわいよお!!』

「……ん?」

不意に、道の奥から微かだが幼い泣き声が聞こえた。

アークは「……迷子か、誰かに襲われているのか」と思い声のする方へと足を早くした。

それに、よくよく聞いてみればどこか聞き覚えのある声。

アークは焦りの感情を顔に出しながら歩き進める。

 

その泣き声は細道の途中にある寂れた小さな公園に近づくにつれて鮮明に聞こえ、公園へ足を踏み入れると――

 

何をやっているのか、向こうでチビ三人組が群がる子供達の前で何かをしていた。チビ達よりも更にチビ…多分5歳とか6歳とか、それくらい。

 

 

『…君は迷子かい?…』

「チリン―――という鈴の音が女の子の後ろから聞こえました」

『…だぁれ?』

「女の子は泣き止み、後ろを振り向くと…一人の少女が立っていました。ボロボロの服、ボロボロのマントにボロボロの靴。そして首にはピカピカに輝く銀色の大きな鈴をチリン…チリン…と、鳴らしながら顔の見えない少女は女の子に歩み寄って行きます」

 

『おっと、名前を名乗っていなかったね。僕の名前は…えっと、みんなから『鈴ネズミ』って、言われている。僕のお仕事はこの道に入った子供を助けること。いつもの様に見回りをしていると…泣いている声が聞こえてね。それで君の元までやって来た訳さ!』

 

『…』

「女の子は暫く鈴ネズミをじっと見て『おうちにかえれるの?』と小さな声で訊きます」

 

『もちろん!僕が君を家に送ってあげる。ほら、手を取って!』

『…うん』

「女の子は立ち上がり、鈴ネズミから差し出された手を握り、薄暗い道を歩き始めました」

 

拙く、ワザとらしい。

見ての通り、文字通り、芝居がかったセリフに芝居がかった語り。

 

日陰の中、一人目のチビ『ルゥ』が小奇麗な服を着て、二人目のチビ『リア』が灰色で統一されたボロボロな服、靴、マントを着て首には銀色に輝く大きな鈴を首からぶら下げ、ルゥの手を握りながら陽気に歩き、3人目のチビ『パティ』が本を子供たちの横に立ち、手に持っている本の読み聞かせてをしていた。

…どうやら、チビ達に公園で遊んでいる子供達にお芝居を披露しているようだ。

 

アークは近くにあるベンチにバックパックを横に置きながら座り、休憩を兼ねて水筒片手にチビ達の芝居を遠目で見ることにした。

(……背負っているバックパックに詰めている蒼水晶が想像以上に重くて困る)

地上に辿り着けば、モンスターの脅威がなくなって、精神的に多少は楽になると思ったアークだが、気が抜けた所為か逆に背中の荷物が余計に重く感じてしまう。

それに、今日は何故か異様に暑い…今何月だと思っているんだ?これなら鎧を部屋に置いてから外に出れば良かったな…失敗した。

 

それから暫く、チビ達が芝居を終えたようだ。子供達の反応は『まあまあ』と感じだった。

途中から見てるから最初の方は分からないけど、シンプルでスッキリとした終わり方をしていた。…悪く言えば…いや、何でもない。

 

観客達は「お昼ご飯を食べに帰る~!」って言って、チビ達にお礼の言葉一つして帰って行った。

 

「お兄さ~ん!!」

ルゥがいち早くこちらに駆け寄ってくる。芝居の途中で目を合わせてから何度もこっちをチラチラと見ていたのには、アークも気が付いていた。

 

「……よう、今日も元気だな」

アークは疲れた様子で駆け寄ったルゥの頭を撫でながら…後から駆け寄ってきたリアとパティにも挨拶をする。

 

「……ああ、そうだ」

そう言ってアークは遠征の話を逸らすようにバックパックを開き、

「……お前たちにもコレをやろう。お土産と言うか…お小遣いと言うか…さっきの芝居のおひねりと思って受け取ってくれ」

蒼水晶の塊を手にしてチビ達の前に差し出す。

 

「えっ!良いんですか!?」

「……ああ、構わんよ。売るなり部屋に飾るなりその辺に捨てるなり地面に叩きつけて壊すなり、好きにして。…売ったら食堂で一番高い定食を1食、2食分くらい食べられると思う」

 

「…いや、でも…冒険者さんには貰ってばかりと言うか…」

パティは少し躊躇った様子で言うが。

 

「青くてピカピカしてキレイですぅ!」

「流石はダンジョン、こんな立派な物まであるとは…ありがとう冒険者様!」

他の二人は遠慮なしに受け取る。

 

その様子を見たパティも「じゃ、じゃあ…」と丁寧に受け取る。

「せ、折角だから、大事にお部屋に飾りますね…えっと、売るのは本当にお金に困った時だけにします。ルゥもリアもそうだよね!?」

 

 

 

 

「「えっ?」」

「…え?」

リアとルゥは「これで美味しいご飯が食べられるよ?」と言った表情で暫くの間見つめる。

 

「『焰蜂亭(酒場)』の裏メニュー、超絶激辛シチューが食べられるかもしれないのに…」

リアが呟き、

ウィーシェ(喫茶店)の美味しい大きなチョコケーキ…あと屋台のチョコバナナ…後はチョコクレープにチョコアイスクリーム…全部は食べられないにしても…ブツブツブツ」

ルゥも呟く。

「ちょっと、冒険者さんの前でそんな失礼なこと言っちゃ駄目だよ!…えっと、あの…っ!コレは違うんですよ!」

 

「……まぁ、どっちでもいいよ。俺は気にしないからさ」

旨い飯を喰いたいと素直に言う分、まだまだ可愛げがある。

「……まあ、公園の方から聞き覚えのある泣き声が聞こえて急いで来たけど…何事も無くて安心したよ」

そう言ってアークは荷物を背負い、立ち上がる。

「……じゃあ、俺はもう行くよ。お前達も怪我しないで遊んで帰れよ」

 

休憩は終わった。今度こそデメテル・ファミリアに向かとしますか、そう思ったその時、

「お兄さん、ルゥ達も一緒に行くですぅ!」

チビ達が同行を頼んできた。

「僕たちも芝居が済んだらデメテル様や姉さん達(ファミリアの団員)の所へ向かうつもりだったんだよ」

「あと…冒険者さんともお話がしたかったり…ダメ、ですか?」

勿論断る理由がないので承諾。チビ達と共にデメテル・ファミリアの本拠へと向かう。

 

その道中、アークは元気よく歩くチビ達の小さな背中を見守りながら歩いていた。

(……暇だな、大人として何か気の利いた話題でも…)そう考えたアークはさっきの絵本のことと、ニケ様のことについて訊こうとした。

 

「……そう言え」そう言えばお兄さんお兄さん!お姉ちゃん達から聞いたですぅ!」

アークが口を開いた瞬間、不意にルゥがこちらの言葉を遮り、振り向きながらこう言った。

 

「凄く強い冒険者さん達と一緒にダンジョンの奥深く潜ったって。そんな凄い人達と肩を並べるなんて流石お兄さんですぅ!」

「……えっ?」

質問する側でいるつもりが、まさか…一瞬のうちに質問される側になってしまっていた。

ルゥが訊きたいのは間違いなく昨日帰ってきた遠征の話!

 

(……まさか、わざと!?俺にカウンターを決める為に、あえて言葉を遮って…ッ!?)

アークは疑心を抱きながらルゥを見るが、希望と憧れと言う光で満ち溢れた瞳の前にアークの疑心は一瞬にして霧散した。

(……いやいや、この子が悪意を持ってそんなことをする筈がない。何故こんな下衆の勘繰りを…どうかしている。疲れているのか…俺ッ?!)

 

「……なっ?…なッ!?」

とはいえ不意を突かれたのは確か、見事な奇襲だ。

 

今冷静にして考えてみれば、この子達がいつ遠征について訊きに来ても全く変じゃなかった。

恐らく、あのポンコツ駄女神ことアテナ様に「アークはいませんか?」と尋ねれば、

「アーク?今ヘファイストスが編成したメンバーで遠征に行っているわよ!そう、36階層」

って、隠すことなく話す筈。顔を知っている人に対してなら尚更だ。

そして、この話を聞いたデメテル・ファミリアの団員のお喋り好きの奴、エミリアとかモニクとかヘンリッタ辺りがファミリア全体に遠征の話を流す。

 

 

(……ああ、そうだよね…やっぱり訊いてくるよね。仕方ないよね)

ルゥからの純真無垢な質問の前に、アークは表情をこわばらせながら思考を巡らせる。

 

「あっ、僕も聞きたい!是非とも聞きたいです!」

「…え、えっと…わ、私も」

リアとパティが便乗してアークの話を聞きたがっている。

特にリア、ダンジョンの話となるとその瞳の輝きはルゥにも負けず衰えずの勢いだ。

 

「……あ~、別に良いけど」

 

―――さて、未来ある可愛い後輩たちにアークは何と答えるだろうか?

アークの頭の中に二つ、言葉が浮かんだ。

 

一つ

「……ただの雑用だ。ヘファイストス様もアテナ様も…探せば俺よりマシな冒険者なんていくらでもいるだろうに…何で俺なんかを…」

アークらしい、自分からあえてハードルを下げた自虐の答え。

勿論、そう答えたからと言ってこの子たちは特に何も言わないと思う…しかし、心の奥底では多からず少なからず絶対にガッカリさせてしまうのは確かだ。

 

二つ

「……そうだろ、俺も中々冒険者としてやるモンだろ」

いい歳した大人として、一瞬だけチビ達に自分を大きく見せる為にほんの少しだけ見栄を張った答え。

 

この二つの言葉がアークの脳裏を過り、交差して―――

 

 

 

 

「……ただの雑用だ。ヘファイストス様もアテナ様も…探せば俺よりマシな冒険者なんていくらでもいるだろうに…何で俺なんかを…」

当然の如く繰り出す自虐の答え。もう少しだけ大きく見せても良いんじゃないか?

 

「そ、そんなことないですぅ!お兄さんは凄く立派な冒険者ですぅ!」

「そうだよ冒険者様!」

「わ、私たちはそんな冒険者さんが大好きですよ!」

「…………ありがとう。俺も励ましてくれるお前たちが大好きだよ…」

チビ達のフォローにアークは僅かな後悔と少しの不甲斐なさを感じながら礼を言い、遠征の思い出をハッキリと思い出せる所だけを抜き出し、簡潔に話し始めた。

 

ヘファイストス様とアテナ様に無理やり遠征のメンバーに参加させられたこと。

霧に包まれたの階層である10階層から12階層を乗り越え、最初の死線(ファーストライン)にである中層に足を踏み入れたこと。

 

中層から襲い掛かってくるモンスターに恐怖しながらも、17階層『嘆きの大壁』を渡ったこと。

「あれ?確か17階層には物凄く強くて大きなモンスターがいるって話を聞ききましたけど…」

リアが訊く。

「……迷宮の孤王(モンスターレックス)か。ソイツならつい最近別のファミリア…ロキ・ファミリアが討伐したって言ってたな。…しかし詳しいな。勉強したのか?」

「はいっ!僕、将来冒険者になるのが夢なので」

 

17階層を乗り越え、18階層、安全階層(セーフティーポイント)に辿り着いたこと。

…地上には存在しないモノばかりだけど、あの階層の木々や草原の景色を見たり歩いたりして、どこか故郷を思い出したこと。

 

「……本当はこのバックパックの中身を雲菓子(ハニークラウド)で一杯にして持って行こうと思っていたのに…モンスターに横取りをされてな…」

「雲菓子?」

「……ああ、18階層に生えている凄く甘い果実で女性の冒険者達が頬に手を当てて美味しそうに食べてたから、お前たちに持って帰ろうと思っていたのに…」

 

ドロップアイテムと鉱石を荷車一杯にして遠征が大成功したこと。

……話そうか話さないか少し迷ったが、『採掘に夢中になり迷子になって死にかけた』ことは話さなかった。流石に恥ずかし過ぎる。

 

「……えっと、あとは…」

帰る道中にブルークさんが語った喜劇でも話そうかと思ったが駄目だ、地上に帰ることに必死で上手く思い出せない。あの人モンスターが来ても延々と、嬉々として語ってたもん。

 

アークが体験した数日分の思い出話。

冒険者らしくモンスターとまともに闘うことはなく、只々ツルハシを握り振り下ろしたり鉱石を積んだバックパックを運んだり上級冒険者にポーションを渡したり――ハッキリ言って『サポーター』の仕事だった。

 

「おい、サポーター!回復薬(ポーション)持ってないか?」

「サポーター君!精神力回復薬(マジック・ポーション)ちょーだい!」

「サポーター、これ持ってくれ」

実際、遠征の最中他の冒険者からの呼び名は『サポーター』だった。

アークと呼んでくれた人はブルークさんとサホヒメ・ファミリアの団員とヘファイストス・ファミリアの一部の団員だけだった。

いや、名前を憶えて欲しい訳でもないし、名前で呼んで欲しい訳じゃないんだ

ただ…サポーターと言われる度に(……俺、何でこんなことをやっているのだろう?)と少なからず思っていた。

だけど、良い経験になったのは確かだ。特に18階層、話に聞いた通り良い場所だった!

 

(……今度は遠征とか他の冒険者の力を借りずに、自分の力と信頼できる仲間と一緒に辿り着きたい。…何年かかるかな…?いや、その前に何とか4階層から深く潜ることを目標にしないと…先が途方もなく長い…)

 

「お兄さん?」

「……ん?何だ?」

不意に、ルゥがこちらに振り返り、歩み寄る。

 

「えっとね…お兄さんが落ち込んでいるように見えたから…」

「……そうに見えるか?」

「…うん…んんっ!」

「……昨日までの遠征と探索に少しだけ疲れただけだよ」

アークはそう言ってルゥの頭をワシャワシャと撫でる。

 

「冒険者様は腕を痛めているのですか?」

続けてリアが心配そうな表情をしながら口を開く。

「……分かるのか?」

確かに、遠征から地上に帰還したその翌日…つまり今朝起きると気怠い疲労と腕に痛みが走った。恐らく…久々の筋肉痛だ。

「はい。冒険者様が僕たちの芝居を見ている最中、何度も苦しそうな顔をしながら腕を摩っていたのを見たので…」

(……たかが筋肉痛。ダンジョンを休む理由にならない)と思ってダンジョンに潜ったけど、いつの間にか仕草で出ていたのか。

「……そっか、他の人が分かるくらい疲れているのか。本拠に着いたら少しだけ休憩室で寝かせて貰おうかな?」

「冒険者さん!添い寝が必要なら遠慮なく言って下さいね。私、小さい子供を寝かしつけるのは得意なんですよ!」

 

そんなことを言いながら、デメテル・ファミリア目指してチビ達と歩きながら会話を始める。

子供は田舎だろうと、都会だろうと元気だ。

チビ達はアークの歩幅に合わせることなく、先に先にと歩き、距離が空くとこちらを振り向き「こっちこっち!」「はやくはやく!」と催促するように手を振ってくる。

村にいた頃、小さい子供の面倒を見ていた時に良く見た光景で、少しだけホッとした。

 

「……そう言えば、昨日お前たちはニケ様の部屋にいたよな?」

「えっ!?お兄さんいたんですか?」

「……ニケ様の部屋を通ったら偶々お前たちの声が聞こえてな?邪魔しちゃ悪いからそのまま通り過ぎたんだ」

「別に冒険者様が僕たちに遠慮なんかしなくても…」

「せ、せめて冒険者さんにお…『おかえり』の一言でも言わせて下さい!」

「……分かったよ」

ちなみに、チビ達は昨日ニケ様の部屋で一日中手芸をやっていたらしい。

 

 

――アーク達は歩き進める。

途中、横の細道から談笑の声が聞こえた。

通りすがりに声の方を振り向くと、年季の入った小さな喫茶店の外に置いてある白いテーブルとイスに素朴な服装をした夫人が3人、少し早めのティータイムを楽しんでいた。

 

 

「お兄さんお兄さん!ルゥ達が大きくなって冒険者になったら、お兄さんのパーティに入れて欲しいですぅ!」

「……パーティ?どうしたんだ急に」

「ふっふっふ…ルゥ達は今お兄さんに『売り込み』をしているんですぅよ…!ビジネスチャンスですぅ」

この子はまた急に変なことを言う…。

 

「ルゥ!また急に変なことを言って、冒険者様を困らせたら駄目じゃないか!」

「急だけど変じゃないですぅ~。昨日3人で話し合ったことをお兄さんに言っただけですぅ~!」

「……何かあったのか?」

「えっと、冒険者さん。昨日…」

ことの経緯をパティが話してくれた。

 

1:ルゥ、絵本作家になる為に絵本を作り、さっそく孤児院の子供に見せる。

2:嬉々として本の前に集まる子供たちだったが、描かれている絵は余りにも狂気的で冒涜的な色彩を持った『何か』だった。何かを目にした子供達は泣き喚き、嘔吐、金きり声、現実逃避…最後はみんな仲良く気絶。

3:「もう駄目ですぅうううううううううううううううう!ルゥはもう絵本作家失格ですぅうううう!!」

4:「そうだっ!ルゥにはデメテル様から貰った神の恩恵で『とっておきの魔法』が使えるんだったですぅ!」

5:「魔法と言ったらダンジョン!ダンジョンと言ったら冒険者、冒険者と言ったら…お兄さん!!」

 

「―――という訳です…」

「……ルゥ、若いんだから冒険者とは言わずにもう少し、色んなことに…ん?」

 

「……お前達、魔法が使えるのか?」

「はい、僕達はデメテル様から神の恩恵を授かった時に魔法を貰ったんです。冒険者様に言おうか、言わないか迷ったのですが…」

「『『『命の恩人に何も言わないのはダメ(です!)(ですぅ!)だ!』』』と言うことで、いつか私たちが冒険者としてお兄さんパーティ加入をお願いする時は魔法のことを話すって話し合って決めたんです…昨日」

 

「…それで、いつかルゥ達をダンジョンに連れて行って欲しいですぅ!まだ魔法の効果は言えないけど、絶対に役に立つと思うのですぅ!」

「冒険者様。僕からもお願いします」

「…わ、私もデメテル様から神の恩恵を貰った以上…ぼ、冒険者になります。リアとルゥも放っておけませんし!」

「……考えとく。今は自分が強くなることで精一杯だからな。お前たちが今一番しないといけないことは、大変忙しい思いをしているデメテル様達の手伝いだ…」

 

 

――アーク達は歩き進める。

途中、焦げ臭い匂いがアークとチビ達の鼻を掠める。

道の奥から猫人、人間、エルフ、小人族の男女2人、合わせて4人の冒険者パーティが落胆した様子でこちらにトボトボと歩いてくる。

「はぁ…やっちまった…俺の新しい鎧…真っ黒だ…」

「アタシなんて折角買った火精霊の護布(サラマンダー・ウール)がビリッビリに破れたのよ!?」

「オイラなんて直したばっかりの短剣が根元からポッキリだ…」

「――――私の杖と帽子、燃えちゃった…」

そんな世知辛い冒険者達が愚痴を言い合う一行の横を通り、すれ違う。

 

そして、大きな門を通り抜け、オラリオの西郊外へ。

整備された立派な石畳の街道を歩くと【デメテル・ファミリア→】と書かれた看板が見えるので矢印に従い進んで行くと、草木が至る所で倒れた小さな森に入り、人の手が加わった道を真っ直ぐに進むと――――

 

蔦が模様の様に絡みついた大きな白い館、その向こうに見えるのは広大な畑と視界彼方に微かに広がる草原。

 

「……着いた!相変わらずここまで来るのに体力を使う。誰かいないかな?」

畑の方を見回すが、誰もいない。

 

「今の時間なら姉さん達は食堂にいると思う」

「二階の休憩室で休むといいですぅ!」

 

「……じゃあ、俺は少しだけやす―――」

本拠の扉に手をかけたその瞬間!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本物のロリにも手を出すつもりか――――

モフモフ元気っ娘幼女、僕っ娘白黒幼女、あざと激カワ幼女…許せない許せない許せない

幼女三人…お前のハーレムに加えるのか…加えるのかアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

「……~ッ!?」

背筋が凍るような寒気を感じた。

36階層で遭遇した巨大な青い蛇と対峙した時に似た…冷たい殺意。

 

「ルゥ!リア!!パティ!!!中に入れッ!!!」

アークは扉を開けて急いでチビ達を入れて本拠の中に入れる。

 

「…お兄さん?」

「……何だ、今のは!?」

アークは胸に吊るしているアミュレットを握り、ドアをそっと開けて周囲を見渡す。

 

 

―――誰もいない。

 

「冒険者様?」

いや、確かに何かいた!じゃないとこの背筋が凍る感覚の説明がつかない!

「冒険者さん…」

何が狙いだ?金、それともこの子達?何物かがこの本拠にいる誰かを狙っていると言うのか!?

 

「お兄さんっ!!」

「……うわあッ!?」

ルゥに大声で話しかけられて我に返る。

気の所為だったのか?俺は尋常じゃない何かに怯えていたのか?それは一体…?

 

「……ゴメンな?驚かせるつもりはなかったんだ」

暫く時が経ち、少し落ち着いたアークはチビ達の目線に合わせて姿勢を低くして3人の頭を撫でる。

 

それから、ゆっくりと荷物を背負いながら力なく立ち上がり、

「……少しだけ、疲れただけだよ…休憩室で休む…」

そう言って力なく、フラつきながら、館の奥へと歩いて行った―――




迷い少女と鈴ネズミ
・孤児院3人組ルゥ、パティ、リアが小さい子供たちに読み聞かせる為に協力して考え、書いた物語、偶に『ネズミ鈴』と間違えて言ってしまう。
・普通に本の絵を見せて読み聞かせるつもりだったが、3人の壊滅的な芸術センス(特にルゥ)に断念、考えた結果芝居と言う形で子供たちに披露した

・ごく普通に生まれた女の子が、母と些細な喧嘩をしてしまい家を飛び出し「行ってはいけない」と家族から言われていた町の路地裏に入り、迷い込んでしまう。
その後、ネズミ鈴と名乗る少女が現れ、女の子の手を引きながら無事に家族と暮らしている家に帰ったところで物語は終わる、とてもシンプルな内容
どんなに暗くて怖い場所でも、必ず助けてくれる人がいる!と言う教訓が含まれている
「……悪く言えばオチがない、捻りがない」
~アーク~

・主な登場人物は2人
鈴ネズミ:ボロボロの服と顔を隠すフード、そして首には大きな銀の鈴を持つ気さくな性格の謎に包まれた少女。チビ達曰く女の子と同い年
女の子:母と父と兄と妹を家族に持つ、ごく普通の街の小さな女の子。母と些細な喧嘩で家を飛び出し、町の薄暗い路地裏に迷い込む
・演劇ではネズミ鈴はリア、女の子をルゥが演じ、読み上げをパティが担当した

・実は結末を三人別々に考えていたらしいのだが、ルゥが考えた結末を採用したらしい

リアの場合
「ネズミ鈴がそのまま少女を路地裏の更に闇の奥へと連れて行き、そして…
『ほら、今日からこの人が君の家族だよ』
人買いの所まで連れて行かれ、新しい家族(商品)として迎え入れられる」

「行ってはいけない」と言われた場所には、それ相応の理由がある。
どのような理由であれ、その場所に行ってもロクな目に遭わない…と言う教訓を含んだ結末―――却下
生々しい上にバッドエンド、明らかに子供向けじゃない

パティの場合
「女の子は裏路地から無事に家に帰ることが出来た。
母と仲直りしてこれでまたいつもの日常が戻る…そう思っていたが、女の子はあの裏路地の出来事が忘れられなかった。
それから、女の子は家族の目を盗んで鈴ネズミに会いに行き、他愛のない会話をするようになった。
そして知る、ネズミ鈴は実は男の子だった!男の子だと分かった女の子はいつも通り手を繋いでいる筈なのに、体がほんのりと熱くなり、彼に対して目が離せなくなった。
ある日鈴ネズミに言われた―――
『ねぇ…僕と一緒に世界に出ようよ!世界はこんな狭い街だけじゃない!もっともっと広いんだ!!君とならどんな場所にでも歩いて行けるよ!』
突然の自由への誘い女の子は考えた、
『大好きな男の子と未知の世界を渡り歩いたら、どんなに素敵なことだろうか!』
女の子はまたもや好奇心に負けて差し出される鈴ネズミの手を取った。
そして…幼い少女と男の子の旅が始まった…長い長い道のりを二人は少しずつ、小さな芽に少しの水を与えるように、少しずつ愛を育みながら旅を続けるのだろう…」

知らない場所に行くと言うことは新たな発見と出会い、その発見と出会いを何年も何年も重ねた人生こそ、充実した良い人生を送ったと言える。それがこの結末の教訓―――ボツ

色々言いたいことはあるけど「家族と家を自分勝手に捨てて新しい人生を始める」点に対してルゥが気に入らなかった為、これを却下
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