真剣繚乱   作:あろろ

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という訳でまずは第一幕スタートにございます。


第一幕 英傑、集う
オープニング1. 大神十郎太


 

オープニング1. 内閣調査室処理課所属 大神 十郎太(おおがみ じゅうろうた)

 

――――――

 

 コツコツ、と踵を鳴らし廊下を歩く音が響く。時刻は夜十時を回り、そこに音の主以外の人の姿は見えない。

 場所は総理大臣官邸。男は首もとのネクタイを左手で弄りながら大きなあくびを一つ。大きく開けた口を隠そうともせず、左手で顎の無精髭を摩っている。

 

『十郎太、気を緩ませすぎだぞ』

 

 そんな男の様子に何処からかくぐもった声が響く。しかし廊下に男以外の姿はなく、声の主の姿は傍から見ても確認出来ない。

 

「まだ時差ぼけが抜けてないんだからあくびの一つぐらい勘弁してくれよ、狼鬼(ろうき)。」

『しかしだな、貴様……今から会うのは一国の主。 時代が時代なれば――、』

「はいはい、分かってる分かってる……とりあえず黙っててくれ。 お前が口出しすると話長くなっちまうからよ」

 

 足を止め眼前の扉を見る。

 扉には金属プレートが打ってあり、そこには『総理大臣公務室』と書かれている。男はノックをして返事を待つ。

 

「おぅ、誰だい?」

「内閣調査室処理課所属、大神十郎太。 ただいまアメリカより戻りました、面会願います」

「あぁ、分かった。 入りな」

「失礼します」

 

 扉を開け、部屋に入る男……名を大神十郎太。ボサボサの白髪交じりの黒い長髪をうなじで一つに縛っている姿は先まで居た海外ではサムライなどと揶揄されていた。

 部屋の中は来客用のソファーとテーブル、書類棚と執務机、観葉植物と壁に掛かる絵と一人の男が机に向かって座っている。

 

「お久しぶりです、総理……随分振りに日本に戻って来れましたよ」

「おぅ、ご苦労さん。 今回も手間掛けさせたな。 まぁ、座れや」

 

 男、日本国総理大臣が言うより早く、十郎太はソファーに腰を下ろしていた。

 

『十郎太! 貴様と言う男は自身の主に対しての心構えと言うものがないのか!』

「良いんだよ、俺と総理の仲なんだから……ねぇ、総理?」

「ハハハッ! まぁ他の連中の手前、締める所だけちゃんと締めててくれればそれで俺は構わんさ」

 

 呵呵大笑する総理も対面のソファーに腰を下ろし、テーブルの上の箱から葉巻煙草を取り出す。吸い口をシガーカッターで作り、咥えたところで十郎太からライターを差し出される。

 

「おぉ、悪いな」

「何、最近滅法減ってきたお仲間になら喜んで」

 

 ライターに火をつけ、テーブル越しに葉巻煙草にゆっくりと火を点していく。火が葉巻を炙り上げ焦げ目がついたところで一度火を消し、今度は口に咥えてもう一度火を点す。

 紫煙を肺に溜め込み、ゆっくりと少しずつ煙を吐き香りを楽しむ総理。対面に座る十郎太もまた先程総理にした様に自身の葉巻を炙り、火を点け、紫煙を肺に入れる。

 

「ふぅ。 最近は禁煙が主流だからなぁ……愛煙家としては肩身が狭いぜ」

「同感です。 アメリカなんか吸うところほとんどなかったからきつかったっすわ」

『ふんッ! そんなモノ吸わん方が良いのだ! 大体貴様は“我々”の末裔なのだから、もっと自覚をだな!』

「つっても鼻が利き過ぎるのも逆に不便だからこれぐらいでちょーど良いのよ、狼鬼ちゃん」

 

 そう言いながらソファーの脇に置いた自身の鞄を叩く。しかし、それは手提げ鞄と言うには大きく、トランクと評した方が良い程の大きさ。更には材質も傍から見ても鋼で出来ていると分かる金属質の光沢を持っている。

 十郎太はそんな明らかに10kgや20kgで済まなさそうな代物を片手に提げて来たのであった。

 

「まぁ、そう言ってやるな狼鬼。 ソレより十郎太。 アメリカはどうだった?」

「大変でしたよ。 けど大方の火消しは終わりましたし、後は現地の特派員で何とかしてくれるでしょう」

 

 紫煙を大きく天上に向け吐き出す十郎太、その紫煙は綺麗な輪を描き天井にぶつかって霧散する。

 

「ったく、もったいない吸い方する奴だな相変わらず」

「はは、もう癖なもんで……ソレより総理、今回は一体全体どうしました? 任務中の俺をこうして呼び戻すなんて」

 

 総理の笑顔交じりの苦言に苦笑で返しながらも真面目な表情に戻す十郎太。ソレに対し総理も真面目な表情に戻す。

 

「おぅ、それなんだけどよ。 これを見てくれ」

 

 そう言って総理は懐から書類を取り出し机の上に置く。失礼、と断りを入れてから書類を手にして見れば十郎太の眉間に皺が寄っていく。

 

「……総理、これは」

「あぁ。 最近明らかに関東での出現率が高くてな……きな臭い匂いがするんだよ」

「確かに、去年の同時期と比較して七倍……異常ですな、こりゃ」

 

 眉を潜め書類を覗き、背もたれにどさっと寄りかかる。

 

『十郎太、よもや……?』

「あぁ、お前さんには見えないわな……そうよ、増えてるらしいぜ、妖異が」

 

 妖異。

 その言葉を聞けば妖怪や天狗と言った異形を思い浮かべる者もいるだろう。

 だが、しかし実態は近く、そして限りなく遠いモノである。

 

「妖異、ねぇ……現物を見たことねぇ俺にはちと分からんが、妖怪とは違うのかい?」

「ぜんぜん違いまさぁ。 そうですね、例えるなら飼い猫と人の味を覚えた虎ぐらい違いますよ」

「そりゃ確かに全然違うモノだな……」

 

 総理の言葉に苦笑交じりに十郎太は返す。

 例えるなら人を恨むがあまり街を滅ぼす怨霊。

 例えるなら一晩で千を超える人を殺す悪鬼。

 例えるなら夜闇に影の如く現れる血塗れの刃。

 恨みや悲しみ、憎しみと言った負の感情より生まれる邪。

 今の世に置いて決して相容れる事出来ぬ悪、ソレを妖異と呼ぶのだ。

 

「まぁ、例え話じゃないですけど人の味覚えた虎なんか放置出来ませんし……ちなみにこの時の奴はどうしたんで?」

「自衛隊の子飼いの奴に当たらせたが、ちと場当たりで処理するより大本を調べて何とかしないと不味いんじゃねぇかと思ってな」

「成る程、詰まる所……俺に現地に飛んで事態の大本を何とかして来い、これが今度の任務で?」

「話が早くて助かるぜ。 場所が場所だけになるべく早急に何とかした方が良いと思ってな。 頼めるかい?」

 

 薄く紫煙を吐き出しながら尋ねる総理に対し十郎太は再び天上に向け紫煙の輪を吐き出す。

 

「……条件がありまさぁ。 それさえ呑んでくれりゃ喜んで行きましょう」

『十郎太! 貴様、自身の主に向かって何と言う口の利き方だ!』

「まぁ、いいってことよ。 で、条件ってのは?」

 

 鞄がガタン、と大きく揺れるもののソレを宥める様に手をやる総理。そんな総理に向け十郎太は口の端を持ち上げ、こう言った。

 

「もう一服してからでもいいですかね? 久々の日本で久々の葉巻なんで」

「……はっ、ソレぐらいならどんどんやってくれ」

 

 呵呵、と二人は大笑いをしながら紫煙をくべらせる。十郎太は紫煙の中、書類に再び眼を通す。

 

「……川神、ねぇ。 ……確かに、場所が場所だぁな」

 

 第十三次川神市妖異発生事件報告書。

 そう銘打たれた書類から感じる匂い……物理的なソレでなく、“感覚”として感じるソレが告げる。

 紫煙と同じぐらい好きな……戦いの匂いを。

 

 

 翌日、大神十郎太は川神市へと向かったのであった。

 

 

――――――

簡易プロフィール

 

氏名:大神 十郎太(おおがみ じゅうろうた)

性別:男性

年齢:35歳

所属:内閣調査室処理課

喫煙:する。 紙巻や葉巻を好む。

 

・内閣調査室に所属しながら現総理と個人的な交友を持つ。

狼鬼(ろうき)と呼ばれる巨大な鉄製の鞄を所持、また狼鬼には独自の意思がある様子。

・妖異と呼ばれる怪物を処理するために川神へ。

 

 

 




オープニングは短いですが、ご容赦ください。
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