真剣繚乱   作:あろろ

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という訳で男子高校生出陣でござい。


オープニング4. 須佐 勇人

 

オープニング4. 1-F所属 須佐 勇人(すさ はやと)

 

―――――

 

 その日、少年の通う学校、川神学園は終業式を終えた。本来ならばそこで晴れて帰路に着き、楽しい春休み生活を楽しむ所……だったであろう、が、しかし。

 

「宇佐美先生、後はこれをこっちにしまいこんじゃえば終わりですかね?」

「あぁ、そうだな。 後、悪いけどこっちの本も一緒にしまいこんどいてくれ」

「はい、分かりました」

 

 何故か彼は図書室で担任である宇佐美巨人と一緒に本の整理をしていた。

 しかし宇佐美巨人は図書室の管理者ではないし、彼も図書委員等の管理を手伝う部類の委員会に所属している訳ではない。では、何故この2人が図書室の整理をしているかと言うと……。

 

「悪いな、須佐。 おじさんがこの前加藤先生に麻雀で負けたばかりに……」

「良いですよ。 俺もこれで直江に頼まれた時は嫌でしたけど、貸しチャラにしてくれるって言う話でしたし」

「お前等の中でも大変だねぇ。 ま、大変なりにエンジョイしてるなら良いんだけどさ」

 

 事の発端は宇佐美巨人が図書室の管理責任者である加藤教諭(33歳・既婚・国語担当)に図書室の整理を頼まれた事であった。最初は軽い気持ちでOKを出したが、結果として後悔する形になった。

 その本の量はあまりにも膨大であった……何分巨大な川神学園の図書を纏めている図書室だ、多いのは当然だが此処までの量があったか、と後に巨人は語る。更に片づけを頼まれたタイミングも悪く、補助してくれるであろうと思っていた図書委員や図書室の常連である京極彦一と言った面々も不在。

 そんな状況でとても一人では片付け切れないだろう、と判断した巨人は知り合いに手伝いを頼んだ。その頼んだ相手は直江大和……彼の教え子にして、彼からして中々に見所があり、懇意にしている生徒であった。

 しかし当人は既に頼まれた時点で用事があり、応じる事が出来なかった。

 故に直江大和は一計を案じ……貸しのある少年――、須佐勇人の名が挙がった。その貸しをチャラにする事を条件に大和は隼人に宇佐美の手伝いを依頼、勇人はそれに応える形と相成り、今に至ると言う結果だ。

 勇人は最後の一冊、と言葉にしながらその一冊を本棚へとしまいこんで、安堵の息を一つ吐く。

 

「さ、これでおしまいかな……。 しかし、此処の図書室も広いですよね、大概」

「まぁねぇ。 いつも管理してる先生方や京極君なんかには頭上がんないね、まったく」

 

 ですね、と返しながら背伸びを一つ。窓の外を見れば夕陽はもう沈みかけ、夜の帳が空を覆いつくそうとしている。

 

「あー、もうこんなに暗いのか……。 三月も終わりだってのに」

「しょうがないさ。 後はおじさんが戸締りしてくから、お前さんは帰りな。 悪かったな、手伝ってもらって」

「いえいえ。 まぁ、次がない様に思っておきます。 それじゃ、さようなら先生」

 

 おう、と手を振る巨人に頭を下げてから図書室を出る勇人。

 そのまま真っ直ぐに下駄箱へ向かい、靴を履き替えて帰路に着こうとする。そんな折、玄関に見知った顔を見かけた勇人は思わず声をかけた。

 

「や、いっくん。 何してんの?」

「おぉ、勇人。 何、ちょいと女子テニス部のパンチラを撮影してたらウメ先生につかまっちまってさ……説教終わった所だぜ」

「懲りないねぇ。 前も鞭打ちされてなかったっけ」

「なぁに、ソレぐらいで俺のエロス魂は折れたりしないのさ!」

 

 その様子に苦笑で返す勇人。対するカメラを首から提げた猿顔の少年、福本育郎は胸を張っていた。

 二人は家が近所で所謂幼馴染の腐れ縁、と言った間柄だ。

 

「怒られすぎてカメラ取り上げられる前にやめときなよ?」

「何言ってんだよ、これもう二代目だぜ?」

「……Oh、時既に遅かったか」

「そろそろ変え時でもあったし、ちょうど良く決心ついたって感じでもあったけどな。 さて、じゃあ俺はもう一回撮影に行ってくるぜ!」

「今度は何処に?」

「弓道部! 時折見えそうで見えないあの胸元が……うっ。 撮影に行く前にちょっとトイレに寄ってこう……!」

 

 前かがみになりトイレへと走る育郎を見送ってから玄関から出る勇人。もう少し性格がそっち方面に特化してなければまだましなんだろうに、などと考えながら歩を進める。

 校門を出て多馬大橋を越え、川沿いを歩く。

 川沿いを歩いていればさまざまな人を見る。

 編み笠を被った托鉢の坊主、タイヤを引きずって走るポニーテールの少女ぐらいならまだましであろう。

 小学生を優しげな瞳で見守る禿頭の少年はそんな小学生に声を掛ける小太りの男を暴力的に追い払ったりしている、これもまだマシだと思う。

 金髪碧眼の青年が手元の紙を覗き込みながらキョロキョロとあたりを見回したり、長い棒の先に荷物を結んだ子供が橋の欄干の上を歩く、正直傍から見て日常に対しての違和感を感じる。

 そしてトドメを言わんばかりに人力車がフハハハハハ、と大きな笑い声をドップラー効果で残滓を残しながら自身の横を自転車に負けない速度で走り抜けて行ったりする。

 多馬大橋……またの名を変態の橋。

 そんな橋の近くを見ればソレはもういろんな人種を見る事が出来る、正直今じゃ余程の事じゃあ驚かないだろう、と勇人は考えていた。

 川沿いを越え、そろそろ街中に入ろう、と言ったところでばったりと人に出会う。

 

「「あ」」

 

隼人と出会ったもう一人は思わず声をあげた。

小笠原千花。

所謂幼馴染と言う間柄の少女で、仲見世通りで飴玉の小笠原と言う土産物屋をやっているそこの一人娘である。余談だが彼女の家の隣の隣の家が勇人の家であり、観光客用の定食屋を開いている他、幾らか持つ土地でアパート経営をしている。

 

「あー……やぁ、千花、ちゃん」

「……何か用?」

 

 むすっとした表情でぶっきらぼうに返事を返す千花に対し乾いた笑みを浮かべながらその隣を歩こうとする勇人。しかし千花はソレに対し歩く速度を速め、一緒に隣を歩こうとはしない。

 同じ様に歩く速度を少し速める勇人だが、それに対して千花は更に進める速度を速くする。

 

「ち、千花ちゃん、その、早いって!」

「あぁ、もう! 何か用なの?!」

「や、その、用って訳じゃないけど、ただ良かったら一緒に帰らない?、って思ってさ」

「子供じゃないんだからい・や。 キモいんですけどー」

 

 けんもほろろ、と言った扱いに再び乾いた笑いを浮かべる勇人。少し前、中学生の頃はまだそうでもなかったのだが、こうして川神学園に通う少し前ぐらいになってからは大体扱いがこんな感じになった。

 尤も、同じ幼馴染である福本育郎に関してはソレより前から随分と扱いが悪いが、とも記しておこう。

 

「ちょっと、何で私の後付いてくる訳? ストーカー?」

「何でって、そりゃ家が一緒の方だからだよ、うん、それ以外の他意はないよ?」

「それならもっと距離取って歩いてよ。 こんなぴったり後に付かれてると気持ち悪いんですけど」

 

 等と棘があるものの雑談交じりに帰る様子は傍から見る分には仲良く帰っている様に見える。

 尤も、当人、特に勇人からすれば少し前まで普通に仲の良かった少女から邪険に扱われる現状は少々辛いものがあるのだが。

 喧々騒々と二人がもう少しで仲見世通りの自宅の近く、と言うところまで歩いてきた。

 川沿いから仲見世通りの間、人の行き来の比較的少ない住宅路と言った道に差し掛かった。

 

 そんな時であった。

 

 ドゴン、と大きな音がこの先のT字路の曲がり角より響く。

 二人はびっくりして、思わず顔を見合わせる。

 

「何、今の音……?」

「事故……かな?」

「あ、ちょっと!」

 

 千花の横を通り越し、T字路の方へと進んでいく勇人。その勇人を追って一緒にT字路の曲がり角へと進む千花。

 二人は曲がり角のところまで行き、曲がった先を覗く。

 そこには一台の自動車が止まっていた。

 それだけならばまだ不法駐車の車が止まっている、と言う事だけで済んだろう。

 

 問題は…………その車の上、だ。

 車の上に……『何か』、いる。

 『何か』は逢魔が時の赤い夕陽に照らされながら、くちゃ、くちゃ、と水気の滴るモノを齧っている。

 

「え……何、あれ?」

「猿……?」

 

 車の上に乗っているソレは大きさとしてはニホンザルより少し大きめぐらいだろう。

 だから勇人は最初は猿だろう、とあたりをつけた……しかしすぐに違うと気付く。何故ならニホンザルにならある茶の体毛はなく、全身に毛は生えておらず、体型も痩せ細った子供の様にお腹が出ている。

 『何か』は二人に気付いたかのようにして振り向き……『何か』が振り向いたところで二人は気付いた。

 頭部のソレは明らかに猿の顔ではなく、人に近い形、更に特徴的なものとして顔の半分を占める巨大な単眼。

 そしてその手に握るのは……――、

 

「……え?」

「人の、手?」

 

 そう、握っているのは未だ血の滴る人間の手。

 指には指輪が嵌っており、爪にはマニキュアが塗ってあるのが見える……女性の手だ。

 ソレを見て思考と動きが停止する二人……しかし車の上の『何か』は違った。

 その手に握るモノをゴミの様に放ると、口の端を持ち上げる。

 まるで、ご飯のお代わりが来たのを見る大食漢の様に、飢えた笑みを。その笑みを見た瞬間、咄嗟に勇人は千花の肩を掴み引き寄せていた。

 

「きゃっ?! 何すん――、」

 

 の、と言い切るより早く先ほどまで千花の居た位置に砲弾が突っ込む。

 否、ソレは砲弾ではなく、数瞬前まで車の上に居た『何か』、だ。『何か』はボンネットを蹴って思い切り千花へと突っ込んで来たのだ。

 その様子に顔を青ざめさせる千花と勇人。

 だが、勇人は――、

 

「走るよ、千花ちゃん!」

「え、う、うん!」

 

 千花の手を掴んで走り出す。

 彼の直感が叫ぶ、“アレは不味い、アレは危険だ”、と警鐘をガンガンと鳴り響かせている。

 千花もそんな彼の様子を察したか、先ほどまで自分の居た位置に背を向けて一緒に走り始める。

 

 砲弾の様に突っ込んだ後はもうもうと土煙が大きく上がる。

 その土煙の中、爛々と輝く大きな瞳……その瞳の視線の先には、二人の背が見える。

 その背を『何か』は猛然と追い始めるのであった……!

 

 

―――――

簡易プロフィール

 

名前:須佐 勇人(すさ はやと)

性別:男性

所属:1-F所属

実家:洋食屋「かわかみ軒」

 

・川神学園の生徒、福本育郎、小笠原千花とは幼馴染の間柄。

・直江大和とは同じクラス、担任は宇佐美巨人。

 




次は最後のヒロイン?の登場で。
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