オープニング5. ?????所属 アリッサ・グランケイヴ
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逢魔が時。
日は沈み夜の帳が空一面を包み込もうと言う境界線。
多馬川に沈む夕陽を川神駅前の高層ビルの屋上から臨むモノが居た。
ソレは一頭の白い犬だ。
高層ビルの屋上にいる、と言うだけで怪しい白い犬だがそれだけではない。
その犬はとても大きく、幼い子供ならその背に乗せ駆け回る事も容易な程に巨躯である。しかし、前足を揃えて行儀良く日の沈む様を臨む様子に獰猛さや恐怖と言った感情を抱く人はいないだろう。
それ程に静かに落ち着いた様子で白犬は日を臨んでいる。
『……そろそろですかね』
誰もいない筈の屋上に少女の声が響いた直後であった。ビルの屋上を風が駆け抜け……その後をなぞる様にして空中に稲光が走る。
稲光は空中で駆け巡り、風は渦を巻き鳥の羽や何処からか舞い込んだ木の葉が天に舞う。
その中心部に暗い暗い穴が開く。暗い穴は最初は小さな野球ボールぐらいのサイズだったものが徐々に大きくなっていく。最終的には人一人包み込めるほどの大きさになったソレがコンクリートの床を溶かしながら地面に接する。
接したと同時に穴は急速にそのサイズを縮ませ、跡形もなく消えてしまった。
……否、跡形は残っていた。
先ほどまでそこにいなかった筈の姿……一人の少女がそこにいたのだ。
髪は長く腰まであり、その色は艶のある朱色、顔立ちも十人が横を通れば十人が振り返ると言っても良い程に整っている……端的に言えば美少女、と言う奴だ。格好は白地に濃紺の袖と襟にリボン、川神に住んでいる者ならば見慣れた川神学園の制服だ。
少女は蹲った状態から起き上がると、両手を伸ばし大きく背伸びを一つする。
「んッ、んー……あー、あー」
『大丈夫ですか?』
弧を描くほどに大きく背を伸ばしながら声を出す少女に白犬は歩み寄って来る。ん、と少女は背伸びをやめて寄って来た白犬の頭をよしよしと撫でて。
「問題ないよ。 言語障害もないし、体調もコンディショングリーン」
『ソレは幸いです……過去に失敗した例も幾つかありましたので、不安でした』
「そかそか、心配してくれてたんだね。 ありがとーっ♪」
撫でながらそのまま白犬に抱きつく少女。
わふっ、と一鳴きしながらしどろもどろに身悶えするものの気にもしない様子で擦り寄る少女。
『す、すみません、くすぐったいんですけど?!』
「んー、もふもふ気持ちいー♪ 今度キャップにギャラクシアで犬飼って良いか聞いて見ようかなー♪」
少女は子犬が母犬に甘えて擦り寄る様に鼻先をふかふかの胸元に押し付ける。白犬はあわあわしていたが落ち着きを取り戻すと、その姿を歪ませる。
ぽむんっ、と軽い音と煙が白犬から溢れたと思えばそこには白犬の姿はなく、幼さを残す少女が立っている。
しかしその少女の頭と背には普通の人にはないモノ……犬の耳、更に背には柴犬の様に丸まった犬の尾が生えている。
「およよっ?」
「すみません、いつまでもあのままだと話が進まないとソレはソレで困るので……」
少々ばつの悪そうな顔で頭を下げる犬耳の少女に対し、朱髪の少女も頭を下げ返す。
「こっちこそごめんね? 久々にわんこ見てちょっと興奮しちゃって」
あはは、と笑いながら頭を掻く少女。
ソレを見て微笑む犬耳の少女だが、一つ咳払いをすると表情を真面目なものへと変える。対する朱髪の少女もまた表情を真面目なものへと切り替える。
「貴方が今回の事件の解決の為に協力してくれる英傑……アリッサ・グランケイヴさん、ですね?」
「うん、あたしがアリッサよ……えっと、玉梓(たまずさ)ちゃん、だっけ?」
はい、と犬耳の少女――、玉梓は頷きながら再び黒髪の少女、アリッサを見る。
朱い髪に黒の瞳、肌の色も割りと白みがかった黄色でアジア系の人物だと一目で分かる。
その身体は細身ながらも女性らしい特有の丸みを帯び、胸元は豊満と言って良い程にはある様に見えるし、下半身も中々の肉付きだ。
そんな玉梓の視線に気付いたか、アリッサは表情を崩して笑みを浮かべる。
「あぁ、あたしの名前はコードネームと兼ねてるから英名だけど人種は日本人よ。 後、これでご希望に添えるだけの力はあるつもりよん?」
「! す、すみません、そういうつもりで見てた訳じゃなくて」
「あははっ、気にしない気にしない。 あ、それとも……あたしのこのナイスバディに見蕩れちゃったとか?」
あはん、などと冗談めいてしなを作るアリッサ。
盛りの付いた男子校生ぐらいなら思わず飛びつくほどのボリュームに、自身のと思わず比べてしまう玉梓……思わず俯いてしまうのも仕方ないと言えよう。
その様子を見てまた笑うアリッサだった……が。
「!!!」
唐突に首をある方角へと向ける。玉梓もそれに気付き、同じようにそちらを見て気付いた。
「夜闇の香りがするわ……黒くて、濁った香り……夕闇の香りが」
「そんな……!? こんなに短い間隔で出現するなんて……?!」
「確か聞いた話だと前に出たのが二日前だっけ? ……既に送り込んで来てる可能性も否定出来ないかな、この様子だと」
言葉を零しながら少女は軽く屈伸運動をして、首を鳴らす。
「じゃあちょっと行って来るわ。 時々何処かで適当に落ち合いましょう」
「あ、はい、分かりました……ご武運を」
頭を下げる玉梓に任せて、と返すアリッサは徐に屋上の金網の方へと歩いていく。金網の前まで来た彼女はひょいひょいと金網を登って行き、その天辺で腰に手を当て仁王立ち。
直後、風が吹き彼女の長い髪をたなびかせるその姿は絵になる限りだ。
「良い風……良い所ね、此処は」
目を瞑り、思い返す。
脳裏に浮かぶのは燃える街、焼ける川、燻る大地に焼け焦げる人の亡骸。
いつかの過去にあったあの地獄の様な日を。
そしてその地獄の真ん中に立つあの姿を。
「……あんな思いは二度とごめんよ」
目を開けばそこには先ほどまで玉梓と談笑していた少女の姿はそこになかった。瞳に決意、心に覚悟を持つ……戦士としての少女がそこにいた。
しかし口元には微笑を浮かべている……彼女の敬愛する男に素敵、と言われた笑顔を絶やさぬ様に。
「――、アリッサ・グランケイヴ、いっきまーす!」
咆哮と同時に“飛翔”。
金網を大きく歪ませて彼女は“飛ぶ”。
目的地は川の向こう、住宅街の中にある小さな公園……そこに駆け込む二人の男女の許であった。
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簡易プロフィール
名前:アリッサ・グランケイヴ(偽名)
性別:女性
年齢:19歳(自称)
所属:な・い・しょ☆
国籍:日本人
・謎の美少女(自称)、玉梓と呼ばれる妖怪と懇意にしている。
・何かしらの事件の解決に来た様子。
・驚異的な身体能力を保有している……?
次から本編ですよー。