東方風云録 ~ブーンが天狗少女と出会うようです~   作:蒼狐

5 / 6
大変お待たせしました。四話目でございます。
今回も書き連ねていっていたらそれなりの量になりましたので前後で分割投稿致します。


肆の符(前編)

 

――昔々ある所に1羽の鳥がおりました。

鳥は兄弟姉妹の中では一番幼く体も小さいか弱い鳥でした。

兄弟姉妹はそんな鳥を爪弾きにし、生まれてこなかった同然に扱いました

しかし鳥はそれでも精一杯生きておりました。

そんなある日、親鳥が不幸な目に会ってしまいます。

兄弟姉妹達は親鳥を励まし、宥め、寄り添うことでその傷を癒そうとしましたが、爪弾きの鳥はその輪の中に入ることが出来ません。

鳥は、弱い自分でも何か出来ることは無いかと山の神へ相談をしに行くことにしました。

しかし会いに行く山中で、鳥は誤って火口へと落ちて死んでしまいました。

鳥を哀れに思った山の神と火の神は、鳥の為に"命"を贈る事にしました。

こうして永久に尽きぬ命を得た鳥は、日の出と共に命の炎の翼をはためかせ、傷ついた命を癒やして回るようになったそうです。

 

【不死の炎鳥伝説(著者不明)】

 

 

 

美布高等学校。

 

学び舎として国内最大級の施設となる筈だった巨大な校舎とその敷地。

朝日の煌めきを受け、夜闇からようやく開放された人工物は、直に訪れる生徒達の賑わいに期待するかの如く、静かな存在感を光の中に露わにしていく。

――時刻は早朝。人影は無く、広大な敷地内の方々で聞こえてくるのは珍しくもない鳥達の囀り。

僅かな間だけ宝石の輝きを宿す夜露も、静々と葉から根の元へと還っていく。

静寂と平穏に包まれた日々の始まりが、そこにはあった。

 

――ただ一箇所。林の中の一角を除いて。

 

射命丸「ブーンさん、どうせ動きは読まれています。ならばいっそ威力重視で!」

 

(#^ω^)「おお! "突風「猿田彦の先導」"ッ!」

スペルの宣言をきっかけとし、風が渦巻く。

不可視の筈の気流が、淡い碧色に輝いているのは決して見間違いではない。

射命丸の意思と妖力が十二分に宿った風だからだ。

故に、内藤ホライゾンの肉体を重力の理から一時的に開放し、あまつさえ矢の如く飛ばす事等造作も無い。

 

それがスペルカード、"突風「猿田彦の先導」"の形。

それが鴉天狗、射命丸文が内藤ホライゾンにもたらした"幻想"《きせき》。

 

( ・∀・)「ふっ」

 

しかし、その幻想を前にして高級感溢れるスーツを着こなした男――モララーは半歩程も引き下がらない。

モララーの取った動作はただ一つ。

鈍い銀色のジュラルミンケースを正面に翳し、僅かに一言呟いたのみ。

 

( ・∀・)「――封神招来。"緋色の壱番"永江衣玖」

 

そのたった一言で、彼らの周囲に満ちる空気はまたもや変化をみせた。

空気の圧縮。そして急速に流れた気体に帯びた静電気。

モララーを覆い隠し、更に内藤の行き先に立ちはだかるかの様に現れたその現象は、僅かな時間で存在感すら感じさせる程に膨らみ、そして荒れ狂い始めた。

 

∑(;^ω^)「おおお!?」

 

射命丸「怯まないで! ってああもう――!」

 

射命丸が指摘した時にはもう、踏み込みを躊躇してしまった後だった。

一瞬の躊躇は、一直線に飛来するスペルに僅かな迷いを生じさせ、そしてその迷いは不完全さとして大きな影響を及ぼしてしまう。

結果――

 

衣玖「はい。捕まえました」

 

(;^ω^)「つ、捕まりました……」

 

胴体を中心に永江衣玖の羽衣が絡みつき、優しくそして完全に勢いを殺された。

上品な笑顔を向ける龍宮の使い、永江衣玖に釣られて思わず笑顔を返す。

笑顔の完成度が今一なのは、背後から感じるパートナーのご立腹な気配のせいだ。

 

( ・∀・)「踏み込みがまだまだ甘いよ。内藤君」

 

射命丸「ええ、ええ! 全くもってその通りですよブーンさん! 大体ですねぇ……鴉天狗の、それもこの幻想郷最! 速! たる射命丸文の妖力とスペルカードを借り受けておいて見切られるとはどうなんです? ん? ねぇほらどうなんです?」

 

(; ω )「あ、ハイ……。あの、全くその通りでして……ハイ……」

 

射命丸「それじゃ分かりませんねぇ。分かりませんよねぇ? 大体謝罪の気持ちを伝える際には、相手の眼をしっかりと見るのが最低限の礼儀です。ほぅら直視してみなさい。そして私の新聞作成に人生を捧げますと公言しちゃいなさい」

 

( ・∀・)「痴話喧嘩に水を差すのは気が引けるがね。まだ彼が残っているよ」

 

言い終わるかどうかの瞬間。モララーは片手を明後日の方向へと無造作に突き出す。

その手の平に収まっていた蒼色の雷光。それは永江衣玖のスペル、"電符「雷鼓弾」"の輝きだ。

空気を弾くような独特の刺激音を帯びながら、電気の球は"弾"としてまっすぐ木陰へと放られていく。

 

「おおう!?」

 

一白の静寂の後、鳴り響く炸裂音。ほぼ同時に飛び出してきたのはヴァイオリンを手にした人影だった。

明るみの中で尚、その人相は暗く貧相な面持ちをしている。

 

(;'A`)「やっぱバレてんのかよ。一度もこっち見てすらねぇのにチートだ! チート!」

 

( ・∀・)「すまない。これでもイージーモードでね。何なら難易度"プラクティス"《お遊びレベル》にまで落とすかね?」

 

('A`)「え? マジで? じゃあお願いしま――」

 

ルナサ「……ドクオ君。それって負けじゃないかな……?」

 

(;'A`)「――せん! あぶねぇ! 何て高度な心理戦だ!」

 

誘惑に早速折れかけたドクオを引き止めたのは、パートナー。ルナサ・プリズムリバー。

ドクオは栄養が足りていないような面持ちだが、こちらの騒霊は血圧が足りていないように顔を曇らせている。無論、両者はこれがデフォ。

そんなドクオとルナサのやり取りを前にして、モララーはまるで祈るように自らの額に手を当てて顔を伏せる。

 

( ・∀・)「……君は内藤君よりも利口だが、誘惑に弱過ぎるね。その点は彼を見習い給え」

 

(*^ω^)「お? 褒められた?」

 

('A`)「バカ。俺だっつの」

 

射命丸「どっちも褒められてませんて。この能天気共」

 

( ・∀・)「はっはっは。君達は何時でも愉快だね」

 

――さぁ一度仕切り直そうか。

モララーは和やかな雰囲気に区切りを付けるように手を打ち鳴らす。

おおよそ決着を付ける意思の無いような振る舞い。

そう、この戦いの目的は強者による格下イビリでは無い。

あくまで訓練なのだ。

 

( ^ω^)「……あれ? 訓練……?」

 

ふと、そこで疑問にたどり着く。

そういえばどうして訓練の流れになったのだろうかと。

 

心当たりは今朝起きてからの中にある。

 

 

 

 

 

( ・∀・)「――やぁ、おはよう。今朝はコーヒーと紅茶のどちらが良いかね?」

 

( ーωー)「……ううん?」

 

訂正。起きる前からもう事態は始まっていたのだと思う。

 

( ーω^)「ああふ……えと、コーヒーでお願いしますお。ミルクと砂糖たっぷりめで……」

 

眠い目をこすりながら、半分だけようやく開けつつ問に答える。

朝食はしっかり食べる派(寝坊で食い逃し多数)である肉体は、その日もいつものようにカロリーと糖分を求めていた。

 

( ーωー)「むーん……」

 

( ・∀・)「おやおや、眠そうだね。……顔を洗って来ると良い。私のおすすめは身を焦がすような熱めのシャワーだよ」

 

( ーωー)「ガス代もったいないから……顔だけ洗ってきますお」

 

フラフラと力の入らない足をぼんやり動かしながら、洗面所へと向かっていく。

外の太陽も寝起きがよろしくないのか、微妙な日差しだけを頼りに床を踏む。

 

( ・∀・)「よしよし。あ、スクランブルエッグを用意しようと思うんだが、トーストで良かったかね?」

 

( ーωー)「おー……ジャムとかも出来れば欲しい……いいい?」

 

ペタペタ歩いていた足がゼンマイ切れの人形のように失速していく。逆に、起き抜けの脳細胞は現状の違和感を高速で処理し始めていた。

 

( ^ω^)「……え?」

 

( ・∀・)「ん? ああ、心配せずともカフェ・オーレを入れてあげるよ。コーヒー豆も挽きたてだから香りとコクは保証しよう」

 

( ^ω^)「あ、どもですお」

 

理解した上で――とりあえず、顔を洗って来る事にした。

経済的に水と安い洗顔石けんで眠気と汚れを落とし、多分キレイなタオルで優しく顔面を包み込む。

そのままタオルを首にかけると、先程から鼻腔へ届いていた料理の元へと馳せ参じる。

 

( ・∀・)「ん、ちょうど調理を終えた所だ。席で待っていてくれたまえよ」

 

( ^ω^)「はいですおー」

 

見慣れた部屋の角に設置された、見慣れない台所の一角に立つモララーは一般人とは思えない手際の良さで次々と料理を仕上げていく。

 

色鮮やかなパプリカと見慣れぬオシャレな野菜で彩られた季節のサラダ。

厳選されたコーヒー豆と、新鮮で濃厚なミルクが調和する糖分多めのカフェオレ。

"炒り卵"とは明らかに違う圧倒的な口当たりの良さと、卵本来の味わいが生きる本来の意味でのスクランブルエッグ。

油にまみれているのではなく、脂の旨味でコーティングされている絶妙な焼き加減のベーコン。

一見するとただの焼き直した薄切りパン。されど焼き立ての香りは主役である事を明確に主張し続ける黄金色のトースト。

無論、クリームチーズかと思えるように滑らかなバターと、"紅玉"《ルビー》の輝きを映すストロベリーのジャムも用意されている。

 

( ・∀・)「召し上がれ」

 

(*^ω^)「いただきますですお! ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」

 

さながらテーブルの上は一つの劇団公演であった。

味の感想等一つ一つ述べていく事、それすなわち愚行!

渾然一体となって舌の上で舞い踊り歌い、格別の余韻を以って腹を満たしていく快感にただ浸る。

 

あえて言うのであれば――至福。

今確かに、この一時が幸せだと明言出来る事だろう。

 

(*^ω^)「ふぅ……ごちそうさまでしたおー」

 

どっしりとしていながら爽やかな甘さを舌に残すカフェオレ。その最後の数口を一息に飲み干しながら、食事を締めくくる。

 

( ・∀・)「お口に合ったようで何よりだ」

 

(*^ω^)「とても美味しかったですお」

 

この素晴らしい食事をもたらしてくれた料理人は、夜闇よりも濃いブラックコーヒーを嗜みながら、それに応じてくれた。

出来ることならば折角の幸福感、このままゆったりと過ごして起きたかったが、そうもいかない。

 

( ^ω^)「……さて」

 

深呼吸するように息を整えると、胸一杯に吸い込んだ空気を全て言葉に変えるつもりで片っ端から行くことにした。

 

(;゜ω゜)「いやいやいやいやいや!! 何で部屋に居るんですかお!? 何で当然の如く料理してるんですかお!? てかあのキッチン何処から持ってきて、今もう何処にしまったんですかお!? というかそもそも今一体何時だと思ってんですかお!?」

 

怒涛のツッコミ。それも内藤ホライゾン今期ベストでのノリツッコミだ。

言いたいことはまだ残って居るが、酸素ゲージがレッドゾーンなのでここで一区切り。

今度は荒く息を吸い込んで、対面者の反応を待つ。

 

( ・∀・)「……一つ、先に問いかけて良いかね?」

 

(;゜ω゜)「はぁ、はぁ……はい、どうぞですお……」

 

( ・∀・)「全部平らげてからそれを聞くかね」

 

( ^ω^)「……食欲に負けましたお」

 

とてもいい笑顔だったという。

モララーはもう一啜りコーヒーを楽しむと、ぽつりぽつりと話始めた。

 

( ・∀・)「答える必要のある質問をまとめて答えるとするならば、"私は顧問として君を朝練に招待しに来た"という事で納得してもらえないかね?」

 

(;^ω^)「えー……」

 

質問の答えを求めたら、余計に疑問が増えてしまった。

――確かに、目の前で鎮座する仕事の出来そうなお方は、昨日発足したばかりの部活動の顧問で間違いない。

だが問題は、そうして設立された部活動は"新聞部"であると言うことだ。朝練という言葉に一切想像が付かない。そして、顧問がわざわざ朝食を作ってくれると言う理由もだ。

 

どう聞いたものかと苦悩する内藤ホライゾンを前に、モララーは笑みを絶やさず再び問いかけた。

 

( ・∀・)「朝食、美味しかったのだろう?」

 

(*^ω^)「はい、とても!」

 

何だかどうでも良くなってきた。ついこれで良いかと納得しかけてしまっているのは、この場におそらくツッコミ役が居ないからだろう。

 

(;^ω^)「ってあれ? そういえばドクオは? 射命丸の声もさっきからしないお?」

 

ようやく気がついた大変な事実に、答えを求めて部屋の中を探し始める。

ドクオは――居ない。カメラも無い。導き出される答えはなんかヤバイ。

 

(;^ω^)「あああああ何処に消えちゃったんだお!? 二人共ぉ……」

 

( ・∀・)「ははは。言うのが遅れてしまったが、ドクオ君ならもう学校だよ」

 

(;^ω^)「えええ……ドクオがこんな早朝に? 自分から学校へ?」

 

( ・∀・)「少し訂正を加えさせて頂くのなら、"ドクオ君は昨晩の内に学校の保健室へ運び入れておいた"がより正確かもしれないね」

 

( ^ω^)「……え?」

 

一瞬、思考が固まった。あまり深くは考えないようにする為の自己リミッターだろう。

有る種の独裁者のような行動の思い切りに覚えた恐怖も今は忘れておく事にした。

 

( ^ω^)「あー……じゃー射命丸はーっと……」

 

射命丸の方と言えば当然部屋の中に姿は無く、カメラも個人机の上に見当たらない。

射命丸が居る関係上、何処かに忘れてきてしまった可能性は微粒子程も存在しないだろう。

 

( ・∀・)「ああ、射命丸君か。ちょっと待ち給え」

 

そう言ってモララーは自らの懐へと手を差し込む。

一瞬そこからカメラを取り出すのかと考えたが、流石に四次元ポケットでも無ければしまっていられないだろう。あ、スペアポケットでも可。

 

( ・∀・)「私が探そう。何、すぐ見つけるさ」

 

やはり取り出してきたのはカメラではなく、ペンデュラムだった。

ただのペンデュラムではない。ダウザー・ナズーリンと契約し結びついている夢想器のペンデュラムだ。

 

ナズーリン「……」

 

( ^ω^)「お……」

 

ふと、モララーの傍らにぼんやりと現れたナズーリンと目が合った。が、ナズーリンはこちらを鼻で笑うと再びかき消えていった。

ペンデュラムの先が何かに引っ張られるかのように動いたのは、その後だった。

 

( ・∀・)「ほう、分かったぞ。君のベッドの下を覗いてみたまえ」

 

( ^ω^)「あ、はいですお」

 

言われたとおりに床に這いつくばってベッドの下を覗き込む。

すると、まるで誰かが引っ張り込んだかのように探し求めていたカメラが収まっているのが見えた。

 

(;^ω^)「あー……良かった。でもなんでこんな所に?」

 

安堵と共にカメラを引っ張り出したのもつかの間、今度は目の前に射命丸(省エネモード)の姿が湧き出してきた。

と、同時に小さなチョップが脳天へと迫る。

 

(;^ω^)「お、おおう?」

 

射命丸「人が何度も起こしたというのにぐーすかと気持ちよさげに寝続けて……そうですかそうですね! 私の声よりも食事作ってくださる方の声のが耳に届くんですよねぇ?」

 

(;^ω^)「ああいやその……」

 

何故いきなり怒られているのか、そして何故隠れていたのか。

頭に疑問符を浮かべていると、察した射命丸が顎で料理長を示してみせた。

 

射命丸「"不審者"が近づいてくるから、起こして差し上げたというのに起きないんですもの。せめて夢想器だけでも隠そうと言う機転の良さを褒めていただきたい所ですね」

 

( ^ω^)「あー」

 

そういえばどうしてだか射命丸はこの人の前だといつも不機嫌そうだ。

 

( ・∀・)「フッ」

 

じっと見つめていると、爽やかな笑顔を返された。

良い人だと思うんだけどなぁ、と心の中で呟く。念の為補足するがいつも食べ物をくれるからではない。ええ、決してだ。

 

射命丸「これでは折角の私の優秀な察知能力と野生の記者の勘も無駄になるばかり……、はぁ、それなのにブーンさんと来たらいつでもどこでものんびりと……」

 

(;^ω^)「ご、ごめんだお」

 

( ・∀・)「はっはっは。パートナーばかりを責めるのも大人気ないとは思わんかね? それに、次に隠れる時は我がダウザーを満足させられるような巧妙な隠れ方をした方が良いのでは無いかな?」

 

射命丸「あややや。仲間を名乗っているお人がよもや他人の領土で図々しくも宝探しを始めるとは思いませんでしたからねぇ」

 

弾む会話。双方、笑顔。しかし和やかな雰囲気どころか何となく空気の重さが増しているのが伝わってきた。

このままここに居ても、精神的ダメージを負い続ける羽目になるだろう。

いそいそと手早く登校準備を済ませると、カメラを首にかけて出発準備完了を二人に告げる。

 

( ・∀・)「む、そうだね。そろそろ出発しようじゃないか」

 

射命丸「ええ、非常に有意義な会話でしたが残念です。村長の朝顔育成日記程度には新聞を飾れるネタでしたのに」

 

( ・∀・)「おや、それなりにこちらの世界を理解したようだね。しかし、天狗の鼻はよく伸びると聞く。鴉天狗も伸びるのかね?」

 

射命丸「年上として老婆心で訂正して差し上げますが、それは鼻高天狗と混同された噂に過ぎないんですよ。宜しければ私の新聞でもお読みになられますか?」

 

(;^ω^)「あの、その、行くおー?」

 

こういう時にドクオが居たら少しは心強いのになぁと思ったが、よくよく考えなくともこういう場面で真っ先に逃げ出すのがドクオクオリティだった。

結局歯止め役は自分しか居ないのかと、早朝の時分のテンションの低さも相まって外出の足取りは重くなった。

 

――そうして、流れで朝練参加への疑問があやふやにされていた事に気がつくのは、訓練の最中まで延期となる。

 

 

 

 

 

(;^ω^)(あれ結局、何でこうなったのか分からんお……?)

 

結局学校に着いたら、叩き起こされて半分混乱状態のドクオと一緒に学校内の林前に集まるように言われて、そのままなし崩しに模擬戦闘訓練が始まったのだ。

何の為の回想だったのか。余計混乱してきた頭をよそに、顧問のモララーは涼しい顔で言い放った。

 

( ・∀・)「うん、二人共温まってきたようだね。――では、次は二人同時にで構わない。勿論手加減はするから本気でかかって来ると良い」

 

射命丸「……他人から言われると存外、腹が立つセリフだったんですねアレ」

 

( ^ω^)「……お? 何て言ったんだお?」

 

射命丸「望みどおり全力全開全速力の一撃で、10カウント内に終わらせましょうって言ったんです。私が許可します!」

 

( ^ω^)「何か良く分からないけど、頑張るお」

 

振り向いた射命丸の表情こそ笑顔だったが、それが表面でしか無い事位、初見でも伝わって来た。

こうなれば出し惜しみをする理由は無い。元から出し惜しみする程、手札は多く無いが。

 

('A`)「ブーン、射命丸。今度は俺達が後方から援護する。タイミングはそっちに任せるぜ」

 

ルナサ「良い作戦思いついたら、お願い」

 

( ^ω^)「おーけー。で、とりあえず僕はどうすれば良いんだお? 射命丸」

 

射命丸「初手でスペルを使っても無駄になります。とりあえず思いつくまま格闘戦に持ち込んで下さい。ドクオさんとルナサさんは私の手の合図を見逃さないようにお願いします」

 

返事の代わりに一度だけアイコンタクトを交わすと、二組の契約者達はそれぞれ真逆の向きに動き始める。

方や勢いに任せた前進。方や、慎重さに委ねた後退。

 

( ^ω^)「今日こそは一発位入れてみせるお!」

 

( ・∀・)「その意気だ」

 

宣言通り、一撃目に振るわれた拳をモララーは左手で真っ向から受け止める。

やはり相当な格闘センスを有するのか、体重を載せた一撃だったとしてもその体勢は決して揺らがない。

安定した体幹は、安定した武に繋がる。

結果、喧嘩慣れしている訳でもない内藤の連打は、枝葉を払うかの如くモララーに意図も簡単に押し退けられていく。

 

だが、それは射命丸の想定内。

 

射命丸(今です、ドクオさん――!)

 

後ろ手に見せた片手での合図。

予め決めた合図では無いが、まぁまぁ理解力の高いドクオならば初見で察せるだろう。

直後。その期待に応えるようにヴァイオリンの弦を引く音が耳に届く。

 

( ・∀・)「おっと」

 

視界外から放たれた"弦奏「グァルネリ・デル・ジェス」"だったが、やはり当然の如く羽衣は受け止める。

一瞬、浮かべる不快そうな永江衣玖が表情。次の瞬間にはまた涼やかにモララーの傍らに寄り添っているが、攻撃は効いている筈だ。

 

( ^ω^)「お! これなら行けるお!」

 

( ・∀・)「そうだ。連携は消耗を抑え、尚且つ命中精度と威力を高める。一朝一夕では出来ぬ事だが、極めれば心強い力と成るだろう」

 

――だが、とモララーは怪しい笑みを深める。

 

( ・∀・)「これならどうかね?」

 

格闘を一時中断し、大きくバックステップ。

あっという間にモララーの姿は木々の中へと消えていった。

 

(;^ω^)「えっ? に、逃がさないお!」

 

射命丸「あ! 待ってブーンさん!」

 

反射的に追いかけ始めた内藤を呼び止めるも時既に遅し。

強化された走破力で、モララーの影を捉えようと内藤も林の中へと姿を消してしまった。

仕方なく射命丸もその後を追う。

 

(;'A`)「おいおい、林の中かよ。そっち歩きにくいからマンドクセーんだけど……」

 

ルナサ「……私達も追いかける?」

 

(;'A`)「しか、無いよなぁ……」

 

文句を口にしながら、更に林の中に続く後衛。

その中は下手な公園よりも広く、そして足を踏み入れる事を想定されていない為、好きに動き回る事は出来ない。

先を行く射命丸の姿だけを手がかりに恐る恐る進む。

 

一方、内藤の眼にはモララーの背がギリギリ映し出されていた。

樹々の合間を縫って走っていると言うのに、その背は一向に速度を落とさない。

追いつくのがギリギリの速度で、顔に当たる枝葉を意識の外に放ってまで意地でも食らいつき続ける。

 

( ・∀・)「――この辺りで充分かな」

 

(;^ω^)「はぁ、ふぅ、やっと追いついたお……。このまま追い詰めるお!」

 

やがて内藤ホライゾンが追いついたのは林の真っ只中。

整備のされていない自然林は、木漏れ日と妙にヒンヤリとした空気に包まれている。

軽く火照った肌に、湿り気の帯びた微風が心地いい。

 

( ・∀・)「追い詰める? ――君一人で、かね?」

 

( ^ω^)「え?」

 

後ろを振り返って、ようやく言葉の意味を知る。

成る程、そこにあるのは樹ばかりで、確かに誰も居ない。

そこでまんまと単身突っ込まされていた事を理解した。

 

( ・∀・)「連携の弱点。それは互いの長所を合わせる代わりに、お互いの短所もより浮き彫りになる事だ。君には余裕の道のりでも、ドクオ君には難儀するだろうね」

 

(;^ω^)「全然気が付かなかったお……」

 

射命丸の姿も見えない辺り、ドクオ側の誘導に当たっているのだろうか。

独りである事を自覚した途端、急に心細くなってきてしまった。

相手は夢想器を複数所持する強者。数の上での質の上でも劣るこちらの勝ち目は薄い。

仲間の支援と援護があるからこそ懐に飛び込めていたのだ。単身突撃した所で返り討ちになる未来は、流石に想像出来た。

それでも挑むべきか、拳を固めたままギリギリの間合いで相手を睨み続ける。

 

( ・∀・)「……少し、後続が到着するまで雑談しようか」

 

(;^ω^)「お? 雑談かお?」

 

ありがたい申し出だった。

そうだ、今一忘れがちになるがこれは訓練なのだ。

無謀や無茶をわざわざ仕掛ける必要は無い。

二つ返事で承諾した途端、モララーは夢想器の羽衣をジュラルミンケースの中へと仕舞い始める。

――それでは一旦失礼致しますね、と永江衣玖の姿が比例してかき消えていく。

 

( ^ω^)(……いつの間にケース持ってきてたんだお)

 

( ・∀・)「これでよし。私と君以外に話を耳にする者は居ない」

 

( ^ω^)「夢想器までしまう必要あったのかお?」

 

( ・∀・)「"夢想器"だからこそ心配でね。ああ、君のはチェック済みだから、そのままで結構だよ」

 

言っている意味があまりピンと来ないが、雑談――と言うには妙に警戒心の高いその様子に、違う緊張感を覚える。

やがて、重々しくモララーの口は開かれた。

 

( ・∀・)「契約時の事だ。何か不可思議な事は無かったかね?」

 

( ^ω^)「変わった事?」

 

思い当たる事はある。と、言うか全部が全部"変わった事"と言えなくも無い。

初めての土地で変わった食べ物は無いか? と問われるような物で、経験でも積まない限り区分けは難しいのでは無いだろうか。

モララーも悩む様子を見て察したらしく、再度質問を投げかける。

 

( ・∀・)「質問が悪かったね。……そうだな。契約時に、射命丸文君が現れたとは思う。恐らく鴉天狗故に、暴風か鴉か……その類の力が溢れた事だろう。――ならば"それ以外"には何か無かったかね?」

 

( ^ω^)「それ以外……?」

 

聞かれているのは契約時の記憶だ。

あの時は、崩れ落ちる旧校舎の上でルーミアに襲われて……そこから飛び降りた所で射命丸と契約? をして、いきなり風に包まれて――

 

( ^ω^)(……お? それだけだったかお?)

 

何かが、喉の奥で引っかかる。

それは一度見た事のある景色が、思い出せそうで思い出せない時のような不快感。

繰り返し繰り返し、記憶の中を洗い出そうとするが、どうにも上手く出てこない。

 

(;^ω^)「うーん……? あったような無かったような……」

 

( ・∀・)「大事な質問なのだ。どうにか思い出してくれたまえ」

 

(;^ω^)「おーん……」

 

と、言われた所で出てこない物は出てこない。

確かに記憶力に自信は無いが、流石にあれだけの事を体験しておいて、何かが記憶から抜け落ちるような程の阿呆では無い。無い筈……だ。多分。

だが実際問題頭の中から一向に検索はHITせず、回数をこなすたびに手がかりの代わりに妙な既視感だけが蓄積されていく。

こうまで来ると、逆に誰かに聞きたい所だ。"あの時何か変わった事は無かったっけ?"と。

 

(;^ω^)「お、そうだお。もしかしたら射命丸に聞いたら何か分かるかも――」

 

( ・∀・)「すまないがそれは止してくれ。この問は君の耳にだけ入れておきたいのだよ」

 

(;^ω^)「え? そんなにヤバイ話なのかお?」

 

だとすればもっと真剣に思い出した方が良いのだろうか。

しかし、焦れば焦るほど糸口を見失っているような気もする。

思い掛けず難易度の高い"雑談"に、頭を悩ませる。と――

 

射命丸「ほらほらドクオさん! ルナサさん! こちらです! 速く速くはーやーくー!」

 

ルナサ「……ちょっと待って。ドクオが白目向き始めてる」

 

背後から近付く声。ようやく仲間達が追いついたのだろう。

モララーも気がついたのか、手短に"休憩は終わりだ"とだけ告げてきた。

 

射命丸「あやや? ブーンさん、何かお話されていたんですか?」

 

(;^ω^)「え? いや……何でも無いお」

 

( ・∀・)「君達が来るまで休憩をしていただけだよ。大した話はまだしていないさ」

 

射命丸「へぇ……そうですか?」

 

何か疑っているのか、2~3度交互に顔を見やる射命丸。

しかし特に何か追求する事もなく、そのまま内藤の傍らに腰を落ち着ける。

ドクオとルナサが姿を表したのは、それから間も無くの事だった。

 

(; A )「お前ら……、……速す……ぎ…………」

 

(;^ω^)「……すまんかったお」

 

林道を無心で駆け抜けてしまったからあまり覚えていないが、ドクオには相当辛い道のりだったのだろう。

空気を吐くたびに"ヒュー"という息切れ音が楽器のようにドクオの喉を鳴らしている。

聞いていて大分テンションが下がる音だが、これも"ルナサの鬱の音を演奏する程度の能力"の影響なのだろうか。

 

( ^ω^)「あっ、そうだドクオ。前回みたく騒霊の性質を利用するのはどうだお? 辛く無く成るかもしれないお」

 

勧めている騒霊の性質とは、簡単に言ってしまえば"そう思えばそう体がついてくる"と言った具合の事だ。

これだけだとまるで根性論の様な話だが、オカルト好きの見解で言えば幽霊とはそう言う物なのだ。

騒霊も幽霊の一種と考えれば、"在るように在る"の理屈も通って不思議では無い。

事実、前回ドクオはその性質を利用した事で一時的にとは言え永江衣玖の"空気を読む程度の能力"の察知能力から逃れて見せた。

ならば、秀才タイプのドクオならば応用も容易いだろう。

しかし、ドクオは苦しそうに潜めた眉を更に寄せ上げて答えた。

 

(; A )「あん時はあん時だっつの……。頭余程空っぽにでも出来なきゃ違和感が先に来るわ……」

 

( ^ω^)「えー……?」

 

そう、ドクオは若干頭が硬いと言うか頑固な現実主義者なのだ。

目の前に幽霊が出てきたとしても真っ直ぐ家に帰ってググってみなけりゃ、そもそも見た事実さえ疑ってかかる。

しかしそんな慎重派だからこそ、様々な事柄を最終的には誰よりも深く理解してみせるのだと、信じている。

 

射命丸「ドクオさんも中々にスロースターターですねぇ。一回出来たのならもう充分じゃないですか。悩んでるだけ時間の浪費ですよ?」

 

(;'A`)「……うっさい人外。俺は不思議世界に生きてねぇっつの……」

 

(;^ω^)「まぁまぁ、喧嘩しないで欲しいお」

 

( ・∀・)「ほらほら、内藤君の言う通りだ。休憩は終わりだと言っただろう? 敵は君達の疲労回復も仲違いの決着も待ってはくれないよ?」

 

白い手袋が打ち合わされる度に乾いた音が場を制する。

訓練再開を告げる合図に多少の不満が一部から漏れ出たが――この訓練の重要性は誰もが理解しているのだろう。やがてそれぞれに戦闘態勢へと切り替えていく。

 

( ・∀・)「私からは仕掛けない。君達から来給え」

 

(;^ω^)「え? でもモララーさん夢想器用意してないお?」

 

( ・∀・)「"それ"も含めての訓練だ。相手の得物を瞬時に理解し、対応するんだ」

 

(;^ω^)「おお……」

 

とは言われた物の、流石に自信は無い。

心配そうについ射命丸を見上げると

 

射命丸「大丈夫ですてブーンさん。私が居るじゃないですか! あれだけ余裕の態度をひけらかしてるんですから、これからギャフンと言わせてやりましょう?」

 

と、頼もしい言葉をいただけた。

 

(;'A`)「……俺も居るぞー。ようやくちょっと回復してきた」

 

ルナサ「……うん」

 

( ^ω^)「おお! そんじゃ行くお!」

 

さぁこれでようやく再開だ。

気合充分、モララーが頷くのを見てから早速クラウチングスタートからの突撃を仕掛ける。

しかし、スペルは発動せずに、だ。

 

(#^ω^)「おおッ!」

 

発声と共に放つ右拳。

体重よりかは速度をのせた突きは、鈍く弾ける音を立てながらモララーの右掌に打ち当たる。

 

( ・∀・)「ん。良い拳だ。まだまだ力任せだがね」

 

(#^ω^)「ありがとうだお!」

 

単純な攻撃だからか通用はしない。しかしこれでいい筈だ。

射命丸の指示が来ないのは、間違いでも無謀でも無い証。

出来る限り勝算に繋がるように、素人ながら連打を放ち続ける。

 

(;^ω^)(分かってたけど、やっぱこの人も妖怪じみてるお……)

 

こちらは妖力開放状態で、ステータス瀑上げ中。対してモララーは夢想器を仕舞って人間の身一つで全ての攻撃をいなしているのだ。

自らを誇張するつもりは無いが、この人がやっているのは檻の中で虎と格闘技で渡り合うレベルの筈。

否、もしかしたら虎はあちらなのかもしれない。

 

そんな、拳に焦りが出てきた頃だった。

 

射命丸「右です! ブーンさん!」

 

(#^ω^)「おおっ!」

 

風を伝わるように射命丸の声が届く。

――来た。合図だ。

 

右膝を深く折り曲げ、瞬時に右方向へ飛び退く為の力を脚の中に生み出す。

この時にはもう既にドクオはスペルを放つ体勢に入っているはずだ。

 

( ・∀・)「――敵も馬鹿ばかりでは無いよ」

 

(;^ω^)「おっ……」

 

モララーの体幹を中心とした半回転。それに伴い進行方向から迫り来たのは足撃。

それは所謂回し蹴りと呼ばれている技だった。

既に動き始めていた体の進行方向を咄嗟に変える術はまず無い。

そうして重心の安定しない状態にある内藤の体に、モララーの細く鋼のように引き締まった重い一撃が突き刺さった。

丸みを帯びた肉体が、まるで木の葉のように弾き飛ばされる。

 

(; ω )「あっ――」

 

(;^ω^)「――ぶなかったお!」

 

柔らかく、樹に背中を軽く合わせるように軟着陸。

ダメージは極わずか。触れられた程度の感触しか残ってはいない。

もし、"本当の射命丸の指示"を読まれた上のカウンターだったのならばこの一発で戦闘不能に持って行かれていただろう。

 

( ・∀・)「む……」

 

移動に合わせてカウンター気味に繰り出した蹴りだった。

しかし激しく吹き飛んでいった内藤の体の割に、感じた手応えは遥かに軽い。

やがてモララーの戦闘経験値が一つの答えを察する。

 

( ・∀・)「"右"と言うのはフェイクか」

 

射命丸「ふふん」

 

モララーが見た射命丸の顔には勝ち誇った表情が浮かんでいた。

そう、本当の指示は声では無い。

――"風"である。

 

射命丸(スペル無しでは量や質が酷いもんですが、秘密裏の合図としては充分通用しそうですね)

 

兼ねてより思っていた。

実体を持たず直接的な戦闘介入が難しい今、やれる事は指示がメイン。ならばその指示において何か言葉以上に意思を伝えられる手段は無いかと。

思案する充分な相談相手も時間も無いまま、こちらの事情もお構いなしに次々と現れる契約者達に、内心焦りを感じていた。

しかし、何の事はない。その契約者達の戦い方の中にヒントが隠されていた。

 

――鴉天狗・射命丸文の真骨頂は速さ。しかし、それは真骨頂の中の一つでしかない。

 

射命丸(風を纏い、風を操り、風の如く駆け抜ける――今はこの程度しか出来ませんがね)

 

( ・∀・)「……ふむ? 風向きが奇妙だね。成る程そういう演出だったか」

 

流石に"空気を読む程度の能力"永江衣玖の契約者なだけある。

早速トリックを見破ったようだ。気がついてしまえばチャチな仕掛けに過ぎない。

事実、多少肌に感じるか程度の風しか吹かせられないし、既に風の吹く中ではかき消えるだろう。同じ風使い系の相手に取っては、大声で作戦会議しているのも同義だ。更に、遠くの仲間への瞬時伝達とするには風量が足りない。

故に――

 

射命丸(今ですよドクオさん。出番です!)

 

モララーには見えず、ドクオにだけ見えるような立ち位置から手信号を送る。

これならば、風のトリックを暴かれたとしても虚を突く事が出来る。"見破った"と油断している相手なら尚更だ。

 

(;'A`)「ほいっ!」

 

気合一発。ドクオは狙い通りに、"弦奏「グァルネリ・デル・ジェス」"の衝撃派を放つ。

 

( ・∀・)「おっと、油断大敵だったね」

 

しかし、一閃するように飛来する不可視の音撃は、空気の流れで弾道を予想されている。

ドクオも負けじとスペルを連発するが、直撃する物だけを見切るモララーは、ほぼその場から動く事無く全てを避けきって見せた。

 

軽やかなダンスステップを披露したモララーは、爽やかに髪をかきあげる。

 

衣玖「今日も動きが冴えてらっしゃいますよ」

 

( ・∀・)「ふふ、ありがとう。後で君も一緒にどうだね?」

 

衣玖「光栄ですが、アフター5は残業しないと決めておりますので……」

 

( ・∀・)「言うね……」

 

二人の様子に、さして動じた様子は無い。

簡易とは言え連携攻撃をやってみせたというのにだ。

まだ余裕があるとでも言うのだろうか。

 

(;^ω^)「むむむ……でも! 流石に今ならこれは避けられない筈だお!」

 

構えたのは"突風「猿田彦の先導」"の発動体勢。

いつもは羽衣で凌がれるが、夢想器無しの今なら対策はされていない。距離は遠く無い――当たる筈だ!

 

瞬時にスペル発動のイメージを固め、スペルカードを顕現させる。

 

射命丸「――ッ! ブーンさん迂闊に突っ込んでは――」

 

射命丸の静止の声も届く間も無く、眼前のスペルカードが軽い音を立てて風へと変換される。

渦を描き身体をゆるく包んだ旋風は、今度は疾風となって爆発的な加速効果を生み出した。

後は一直線に、対象にぶち当たるのみ。

 

(#^ω^)「うぉおおおおお!!」

 

( ・∀・)「ほう、今日一番の加速だ。だが――」

 

スッと差し出された片手。空いた手はポケットに軽く添えておく。

ラグビー選手のタックルよりも強力な突撃を、片手でいなせる人物は居ない。

 

( ・∀・)「――無意味だ」

 

(;^ω^)「おおお……お……?」

 

しかし、モララーはそれを難なく実現してみせた。

一直線の運動は、宙を舞う放物線へと変換され、内藤の身体はまるでボールのようにモララーの頭上を越えていった。

内藤に認識出来たのは、手で軽く肩に触れられたという事だけ。

訳も分からないまま、やがて重力に引かれて地へとの距離を失っていく。

 

(;'A`)「えっ」

 

(;^ω^)「おっ?」

 

そして、運が悪い事に着地予定地に居たのは、ボウリングのピンのように華奢なドクオ。

やがて爽快感の無い激突音が地を揺らした時、モララーは小さく『ストライク』とつぶやいた。

 

(; ω )「イテテ……。な、何が起きたんだお?」

 

上手く油断を突いたはずだった。夢想器無しで受けて立とうと言うその油断を。

しかし、結果はこちらの慢心を暴いただけだった。頭がぐわんぐわんするのは、衝撃のせいだけでは無いようだ。

 

射命丸「気が付きませんか? ブーンさん」

 

(;^ω^)「な、何がだお?」

 

心配してくれる段階をすっとばして射命丸が口を尖らせる。

 

射命丸「モララーさんは、夢想器をずっと使ってたんですよ。見なさいあれを」

 

言われてようやく落ち着いて敵の姿を見る。

余裕を崩さない笑み。細身だがしっかりした肉体。不思議と汚れの少ないスーツ。優雅さを感じさせる司書手袋。

傍らには、出来る秘書と言った雰囲気の。等身大サイズの永江衣玖が居て――。

 

(;^ω^)「あれ? 衣玖さんおっきい!?」

 

胸が、ではない。胸もだが、"頭身が"である。

 

射命丸「妖力開放してたって事です。ずっとスーツの裏に羽衣を忍ばせてね」

 

( ・∀・)「流石射命丸君だね。ギリギリ観察力についてはチーム総合点で合格にしておこう」

 

袖から羽衣の端を伸ばしつつ、微笑む。あくまで自愛のある教育側としての眼で。

 

(#^ω^)「むぅ、ずっと騙されてたのかお!」

 

射命丸「いや普通あんなん気付くでしょう……」

 

しかしそれならそれで――と、射命丸は考える。

羽衣は万能の夢想器と言えるだろう。遠近両用。パワーは無いが、それを補って余る程に精密でしなやかな動作をする事が出来る。

だが、弱点が無い訳では無い。

まず、羽衣を使った物理回避は、単一の対象かつ物理影響の大きい対象が望ましいと見える。

例えて言うならばあれは風に流れる木の葉。舞い散る木の葉を殴れないのは、そこに意が無いからだ。流されるまま物理を受け流す。

 

射命丸(――しかし、動きに制限のある枝葉ならば?)

 

そこには意がある。樹を母体とする植生という大きな意が。

逃げる事をしない枝葉ならば、捉えるも切り裂くも思うがままだろう。

――故に、殴り落とせる。

 

射命丸(問題は、葉を枝葉に変える方法ですかね……)

 

要は受け流せない方向か、受け流す為の動作を阻害する術を探せば良いのだ。

腐っても鴉天狗。腐らなくとも射命丸文。

もう少し観察・推測出来れば突き止められる自信があった。

 

( ・∀・)「……」

 

射命丸「……?」

 

一瞬眼が合う。その時に上がった口角に嫌な予感がした。

 

( ・∀・)「――流石に少々意地が悪かったか。なんせ初日の"朝練"《おたのしみ》だ。ならば小難しい羽衣は無粋かもしれないね」

 

射命丸「~~!!」

 

心にもないことを言っているのはすぐ分かった。

攻略法が見つかる寸前だと察したから、戦法を変えてくるつもりなのだ。

 

(*^ω^)「おっおっお! それは助かるお。衣玖さんとモララーさんが強すぎて困ってた所だお!」

 

( ・∀・)「何、構わんよ。あくまで訓練だからね。ただの難易度調整さ」

 

まるで"気を使ってくれたかのような"口ぶりだ。

 

射命丸(……つまるところ、負けず嫌いの目立ちたがりの格好つけのナルシストめ!)

 

無論、表面には出さない。声色穏やかに、『助かりましたね。ブーンさん』と言ってのける。

代わりに、どんな戦法でも完膚なきまでに叩きのめしてやろうと、決意に炎を灯した。

 

ルナサ「……大丈夫?」

 

射命丸「ひゃわっ!? る、ルナサさん!」

 

だから、突然話かけられて素っ頓狂な声が出てしまった。聞かれてしまっていないか心配しつつ、即座に平静を取り繕う。

 

射命丸「ナニガですか? 私は至って余裕ですよ。ええ、余裕ですとも」

 

声が裏返ったが、気のせいだ。

 

ルナサ「その、言いにくいんだけれども、一時休憩に賛同してくれないかな……」

 

射命丸「休憩、ですか?」

 

ルナサは騒霊三姉妹長女にしてリーダーである。が、あまり自分の意見を強く押すタイプでは無いので、珍しい光景である。

不思議に思って、ルナサの指し示す方向を見てみると――

 

( A )「……たま、おれのたま……おじさんの……きんのたま……」

 

――股間を抑えて地に静かに横たわるドクオの姿があった。

 

射命丸「ど、ドクオさん!? どうしたんですか!?」

 

( A )「あふぅ」

 

(;゜ω゜)「ど、ドクオーッ! ドクオーッ!」

 

どうやら、先程の激突でボール役がボールにストライクしてしまったらしい。

悶絶すら出来ない痛みに、内藤も自然と内股になる。

 

ルナサ「あの、これってそんなに痛いの……?」

 

その無邪気な質問は、性差故か。それとも生まれながらに肉体を持たぬが故か。

しかしダメージの具合は男性陣の反応で十分に理解したようだ。

 

(;ー∀ー)「あー。では休憩にしようか……」

 

なんせ、あのモララーが冷や汗をかく程の事態である。

反論を漏らす者がありようも無かった。。

 

 

 

 

 

(;^ω^)「ドクオ、ドクオ。……大丈夫かお?」

 

(*'A`)「ダイジョウブッ! アタシもうダイジョウブッ! フヒッ」

 

( ;ω;)「ウッウッウッ……ドクオがぁ、ドクオがキモいおー!」

 

射命丸「じゃ、何時も通りじゃないですかね?」

 

( ^ω^)「あ、それもそうだお。じゃあ大丈夫」

 

ルナサ「大丈夫なの……?」

 

あれから少し経ったが、ドクオは悪い方向に治癒していっている事を除けば各員の疲労はすっかり抜けて来ていた。

手加減しているとは言え、あくまで戦闘訓練だ。この後に響くとまずいと言うことで、妖力開放中の高い体力回復効果を維持したまま休憩をしたお陰である。

 

( ・∀・)「流石に、もう一戦――とするには時間に余裕は無いね。だが、このまま解散するにも時間が勿体無い」

 

だから――、とモララーは皆の前に立ちあがる。

 

( ・∀・)「簡単だが、赴任して最初の授業はここでさせていただこうと思う。夢想器や大会についてのね」

 

射命丸「ありがたい申し出ですが、私がやりましょうか? 最も、ブーンさんにはもう完璧に授業し終えてますから無用でしょうがね」

 

( ^ω^)「あ、それやってもらったけど、実はあんまり覚えてな――」

 

瞬間、射命丸の獣のように鋭い視線が突き刺さる。同時に内藤ホライゾンは小刻みに震える憐れな子豚と化す。

 

(;゜ω゜)「ヒェッ……いやあの、復習とかしたいなぁ……なんて……」

 

( ・∀・)「フ、流石射命丸君のレッスンだね。不要かもしれないが、おさらいの意味合いで受けて頂けるかな?」

 

射命丸「……ええ、どうぞ? もしかしたら"万が一"講義内容が抜け落ちているかもしれませんし。ねぇ……?」

 

(;゜ω゜)「ど、ドクオ! お前だけそっちの世界に行くなお! 僕も連れてってくれお!」

 

(*'A`)「ウフッウフフッ。それは私のおいなりさんよっ! うふふうふふ」

 

カオスと形容するが相応しい状況で、ルナサだけが冷静に一言"お願いするわ"と告げた。

それを総意と受け取ったモララーは早速授業を開始する。

 

( ・∀・)「さながら青空教室だね、さて、まずは基本から行こうか。簡潔に」

 

おもむろに懐から取り出したのは一冊のノートだった。

戦闘中も隠し持っていたにしては、損傷も汚れも無い。

モララーはそれを開くと、再び懐から万年筆を取り出して何かを書き加え始める。

 

( ・∀・)「まず、この夢幻例大祭だが、これは2つの世界を通じて行われる規模の大きな祭りだ。図解にするとこうなる」

 

こちら側に開いて見せられた図解では、2つの世界が描かれていた。それぞれ"幻想郷"・"外界"と名前が書き込まれている。

 

( ・∀・)「このように、"幻想郷側住人"――つまりあちらの世界の存在である神仏妖霊とこちら側の人間とが契約を結び、最後まで残る――。そんなシンプルな喧嘩祭りさ。バトルロワイヤル方式のね」

 

補足するように、妖と人が手を組んでいるような図が描き加わる。妖側が天狗なのは配慮だろうか。

 

( ・∀・)「そうして最後まで残れば、優勝賞品として願いが叶うとされている。無論、主催である幻想郷側が叶えられる範疇だろうがね」

 

射命丸「言うように、神も仏も居ますからねぇ。大概は叶うのではないでしょうか」

 

( ・∀・)「そのあたりは楽しみにしておくとしようじゃないか。さて、では勝敗・優劣の決め方について早速行こうか。重要な所だからね」

 

新しいページが開かれ、器用にこちらに見せたまま図案が描かれていく。

 

( ・∀・)「開催地はこちら側。つまりは幻想の"郷"《くに》ではなく、現実の"国"《くに》の中で行われる。改めて言うまでも無く、我々人間は空も飛べぬし、殴り合いでもすれば双方の手首を盛大に痛めてしまうだろう」

 

そこで――とノートを地面に置いて、モララーは袖口から羽衣を覗かせる。

その羽衣に触れる形で、小さい永江衣玖が微笑んでいた。

 

( ・∀・)「"永江衣玖"」

 

名を呼ばれると共に、雷光が瞬く。すると次の瞬間には小さな形態だった永江衣玖が本来の頭身へと戻っていた。幾度か目にした光景だ。

 

( ・∀・)「と、このように彼女達、幻想郷住人の精神体である"幻想体"と、仮の器として妖力を相互供給する"夢想器"。そして力を得て一時的に人外の妖力を得る我々"契約者"として縁を繋ぐ事で、初めて大会を戦い抜く力を得られる」

 

射命丸「ええ、その通りです。かなり大掛かりで複雑な概念術式のようですから、その3つの存在意義を崩すことは出来ません」

 

射命丸の発言に軽く頷くと、モララーは更に続ける。

 

( ・∀・)「幻想体は夢想器を基準としてこの世界に固定されている。契約を果たした参加者も夢想器から妖力や神通力を得ている。つまり、全ての要である夢想器を、機能の保てない程破壊されればこの数奇な繋がりは簡単に絶たれてしまうのだよ」

 

( ^ω^)「……」

 

手元のカメラを見つめ、強く握りしめる。

最初手にした日の事は忘れられない。そしてそこから繋がった縁も。

 

( ・∀・)「とは言え、夢想器の定義は曖昧だ。幻想体――つまり彼女たちそれぞれに関わりのある物であるという程度でしか共通性は無い。逆を言えば代わりの夢想器を用意出来れば復活・及び戦線復帰の可能性を望めるかもしれないね」

 

射命丸「……夢想器ですが、私の場合はカメラ。ルナサさんはヴァイオリン。衣玖さんは羽衣と言った具合にアイテムとしての価値も由来も様々ですね。確かにモララー氏のおっしゃる通り共通点と関連性でしょうか。推測ですが象徴であればある程、都合が良いかと」

 

( ^ω^)「おー、その辺りが良くわかんないお。射命丸はカメラだったら何でも大丈夫だったりするのかお? というか、カメラじゃないとダメだったりするのかお?」

 

射命丸「んー……あまりはっきり明言したくは無いですが、前者はNOで後者もNOです。実際、幻想郷での私を象徴すると言えば、記者としての"カメラ"と、天狗としての"天狗団扇"の2つですかね」

 

最も、今は団扇が見当たらない状況ですが――と続く。

 

射命丸「これも私の推測ですが……強大な妖怪や厄介な妖怪は実力に制限がかかるように、複数の夢想器を集めてようやく本領発揮となるように調整されているのでしょう。でなければ油断していたとは言え、私がこんな胡散臭い契約者に"引き分け"を譲るなど……」

 

( ・∀・)「寛大な配慮に感謝するよ。しかし、射命丸君の言う通り、大会が公平に運営されるようにいくつか制限があると知っておいたほうがいい。判明している中だと例えば――」

 

バチッ――と弾ける音を立ててモララーの手の中に雷球が出来上がる。しかし、それはどうにも不定形で不安定で不格好だ。

 

( ・∀・)「"電符「雷鼓弾」"。――今あえて私は衣玖君との同調を荒くしている。その結果がこのようにダイレクトに技に出る」

 

しばらく音を立てて居た雷球は、一際大きく形を歪ませるとそのうちあっさりと消滅してしまった。

 

( ・∀・)「"同調率"。"シンクロ%"、わかりやすく表せばその類だ。ロボットアニメや霊魂バトルアニメでもおなじみだろう?」

 

(*^ω^)「あー。それならちょっと燃えるお! ……てかモララーさん守備範囲広すぎだお」

 

( ・∀・)「この状態で無理をして高難易度の技を発動しようとすると、先程のように不完全な技に。悪くて不発か自身の肉体に妖力が逆流して悲惨な事になりかねない。……心当たりはあるだろう?」

 

(;^ω^)「う……」

 

忘れるわけがない。射命丸の静止も聞かずに無茶して自滅した記憶だ。相手が相手なら今こうして居られなかっただろう。

今までが単純に幸運だったのだと、遠まわしに言われている気がして、いたたまれなくなった。

 

( ・∀・)「何、失態は反省すれば良い。汚名は注げば良い。名誉は挽回すれば良い。それよりも、ここからが君達にとって大事な領域だよ」

 

スッ――と、モララーは静かに両瞼を閉じる。

構えは同じ、"電符「雷鼓弾」"。

 

( ー∀ー)「"同調"は下がるだけではない。当然――集中し絆を深めて上げていく事も可能だ。そして、一定値を超えた時――」

 

手の上でスペルカードが煌めき、次の瞬間にはそれが雷球へと形を変えていく。しかし先程とは何もかもが違って居た。

 

(  ∀ )「"雷魚「雷雲魚遊泳弾」"」

 

放たれた雷球は、美しいとさえ思えた。完璧な雷球体であるそれは、先程の不格好な雷球とは天地の差がある。軽く放られたボール程度の速度で宙を移動する雷球は、やがて近くの樹へとたとりつく。

――と、衝突の瞬間雷球は意思を持つかのように方向を急転換させ、接触を自ら回避してみせたのだ。

続いて、先にそびえる樹の目前で再び急転換。都合三度の方向転換をし、最後は虚空へと消え去った。

技が"電符「雷鼓弾」"よりも高度であると、一見して理解出来る。

しかし、内藤ホライゾンが驚いたのはそれだけではなかった。

 

(;^ω^)「え……モララーさん。その眼は一体――」

 

( ・∀・)「ふ、良い質問だね。ちょうどその説明に入る所さ」

 

赤々と不気味に妖しく、そして力強い光を灯す眼。

射命丸や衣玖と同じ、赤い紅い眼。

朝の明かりの中でも存在感は充分だ。

 

( ・∀・)「これは同調の段階が次のフェイスに入ったことを示している。言うなれば同調段階フェイズ2とでもしておこうか」

 

(;^ω^)「おおう……」

 

射命丸達と違って、人として認識していた相手に赤い目で見つめられると何だか奇妙な緊張感に包まれる気がした。どうにも居心地の悪さに、何となく射命丸の後ろに隠れる。

 

射命丸「おやおや、何してるんです? サイズ差あるんですから、ほぼ隠れられてませんよそれ」

 

(;^ω^)「あうあう……なんか怖くてつい」

 

( ・∀・)「言い得て妙だね。実際この状態まで同調し妖力開放している相手は危険だ。言わばそれまでは"新人"《ビギナー》。そしてここからが"中堅"《ミドルプレイヤー》と言った具合かな。言わずもがな、使用スペルの数も妖力開放のレベルも全く違うだろう」

 

(;^ω^)「うう、確かに敵わなそうだお……」

 

小刻みに震える子豚――もとい内藤ホライゾンは改めてモララーの強さを実感した。対峙した時にはそこまで考える余裕は無かったのだ。

そんな折、ふとルナサが声を発した。

 

ルナサ「ドクオ君も、なってたわ」

 

('A`)「え?」

 

( ^ω^)「え?」

 

そうだっけ? と言う反応を二人同時に返す。

それを見てやれやれとばかりに射命丸はため息をついた。

 

射命丸「本人が自分の眼の変化に気が付かないのは仕方ないとして……なんでブーンさんが同じ反応返してるんです? すぐ側に居たじゃないですか」

 

(;^ω^)「あるぇ……?」

 

射命丸「ついでに言えば、モララー氏の紅い眼も初めて見ている訳じゃないでしょう?」

 

(;^ω^)「あるぇるぇ……?」

 

確かに状況が状況であったのは確かだ。しかし、その程度の変化を見落として居るようではこの先が実に不安になる。射命丸は内藤ホライゾンの"新人"具合に改めてため息をついた。

 

( ・∀・)「そうだね。ドクオ君と私はあの時、このフェイズ2だったと記憶している。正直驚いたよ、ドクオ君にはね」

 

('A`)「マジ? すげーの?」

 

( ・∀・)「マジだよ。実にマジだ。例えてしまうならば、"はじめての親子キャッチボールで息子がナックルボールを父にお見舞いした"くらいにね」

 

例えがウィットに富みすぎていてよくわからないが、かなりすごい事のようだ。

ドクオはそれを認識すると、渾身のドヤ顔を内藤に披露した。

 

('A`)「――はんっ」

 

( ^ω^)「……? 寝不足かお? もうちょっとだからフラつくなお」

 

ただの体調不良としか思われ無かったのでドクオはいつものモードに戻った。

二人の間で起きた小さなコントは誰にも気が付かれずに話の中に埋もれていく。

 

ルナサ「……同じ状態になってたのは分かったわ。でもあの時、ドクオの眼は紅く無かった。それは……?」

 

( ・∀・)「ある一定の同調によって妖力開放をよりスムーズに行う。それによって肉体の中でも一番最初に影響が出やすい眼の色が妖と同じ色になるのだよ。故に、私は衣玖君と同じ紅い眼となるが、ドクオ君は違う。ルナサ君と同じ金の瞳だね」

 

( ^ω^)「いいなぁ……」

 

('A`)「いーだろー。でもぶっちゃけあの時どうやってそうなってんのかワケワカンネ。がむしゃらだったからな」

 

( ・∀・)「人間、本当の窮地に陥った時に純粋な力を発揮する物だ。偶然や万が一だと言ってしまえはその通りだが、一度到達した目的地ならば今後も再び到達しやすい筈だよ。今後は任意に――もしくは常に瞳の色を変化させていられる程同調を高めていけばいい」

 

('A`)「ウィッス。アザッス」

 

辛気臭い顔は変わらないが、誰の眼にも少しドクオは嬉しそうに見えただろう。

モララーは少し微笑むと、再び講義を続ける。

 

( ・∀・)「同調についではこのくらいにしておこう。どうすればもっと同調出来るかは各自自分のパートナーと相談してみたまえ。ここからはもっと重要な"スペル"について話しておかなくてはね」

 

ど、モララーはドクオにハンドサインで立つように命じる。ドクオは疑問に思いつつも素直に従った。

 

( ・∀・)「何、ちょっと協力してくれ給えよ」

 

('A`)「……? はぁ……」

 

少し離れた所にドクオを配置させると、モララーは片手を突き出すように向ける。

 

( ・∀・)「技――つまりスペルカードを使用の際なのだが、まず大まかに次の順序を取ると思う。……まず,妖力の集中」

 

( ^ω^)「ふむふむ」

 

言葉を言い終えるかどうか。モララーの何気なく突き出していただけの手の周りの空気が重くなるのを感じた。

何となく、だが。

 

( ・∀・)「次に、使用するスペルのイメージ」

 

気配が一枚のカードを形作る。宙に浮かぶ朧気な光で形作られたカードだ。

戦闘で使う時はゆっくり眺めている時間も余裕も無かったが、こうして見ると細かく美しい文様だが何かが刻まれている不可思議な物体であるらしい事が分かる。

 

( ・∀・)「――最後に、意思による発動」

 

"電符「雷鼓弾」"

 

光を放っていたカードが散りながら再び雷電としてモララーの手の中に再結集する。瞬間、完成した雷球は向けられた向きのままゆっくりと飛来する。

無論、その先にはドクオが居る。何の説明も打ち合わせも無いまま立たされているドクオが。

 

('A`;)「え。ちょっ……え!?」

 

( ・∀・)「相殺して見給え。でないと……少々痛いよ?」

 

突然の事に慌てふためくドクオだったが、指示の内容を理解出来ぬ程ではない。

すぐさま目つきを鋭く細めると、一瞬の後にスペル発動にとりかかる。

 

"弦奏「グァルネリ・デル・ジェス」"

 

モララーの時とは違い各工程を一息で済ませるように、凝縮された鬱の音色が即放たれる。

空気の歪み程度でしか視認出来ない音の弾は、雷球に振れると同時に小さな破裂音として対消滅した。

 

('A`;)「ぎりっぎり……」

 

流石に溢れてきた額の冷や汗を袖口で拭いとる。

本人は気がついていないが、お蔭で葉っぱが額に張り付いてしまった。

 

( ・∀・)「お見事。さて、今見たようにスペルを使用する工程はどれだけ急いでも変わらない。この一連の所作による人外の技をスペルカードと呼ぶ。無論、彼女達由来である技なのだが――」

 

(*^ω^)「お! あの光るカードがスペルカード本体なんだお? 流石に察しが付くお!」

 

ドクオが褒められたことに対しての対抗心なのか、褒めろと言わんばかりに眼を輝かせる内藤ホライゾン。

そんな様を射命丸とモララーは優しげに見つめる。

 

( ・∀・)「それだけでは点数は34点。補習決定と言わざるを得ない」

 

射命丸「話は最後まで聞きましょう? ブーンさん」

 

(ヽ´ω`)「……サーセンですお」

 

( ・∀・)「話を戻そう。スペルカードと我々が便宜上読んでいる妖の技だが、実のところスペルカードの本来の形はこうではない」

 

げっそりしたまま首をかしげる内藤ホライゾンを見て、射命丸が手をあげる。

 

射命丸「詳しくは私が説明を。……シンプルに言ってしまえば、スペルカードとは本来私達の技の宣言に使われるただのカードの事です。材質は様々ですが、"私は今からこのスペルを発動しますよ"と示すためだけの物ですね」

 

(ヽ´ω`)「……? 全然こっちのと違うお? てか何で使う技を示すんだお?」

 

射命丸「うーん。長くなるので簡潔に話しますが、我々にとっての勝負は"命名決闘法案"――つまりスペルカードルールに則った決闘なんですよ。だから故意に相手を殺傷させませんし、美しさも意味も無い殺意だけの攻撃は"存在意義"を妖怪として示せていない無様で無粋な行為――と言った具合ですかね」

 

('A`)「存在意義? よくわかんねぇけどそれでどうやって勝ち負け決めるってんだ? 倒さなきゃ勝ち負けにならんのじゃ?」

 

射命丸「我々妖の生死感は人のそれとは違いますからねぇ。物理的に殺されても死ぬとは限りませんが、存在意義――生きる目的や意思や存在する為の自我の元とでも言いましょうか、それを失えば精神から本当に死んでしまいますから。人と違って、魂からそうなってしまうと本当に消滅してしまうかもしれません」

 

('A`)「メンタルで生きてる生き物って感じか……」

 

( ^ω^)「ドクオ絶対すぐ死ぬお」

 

('A`)「うっせ」

 

射命丸「大体はそう考えていただいて問題ありません。科学的に説明されてしまったせいで消滅するような生き物ですから。信じられ畏れられ退治される。人間とはそうやって長らく付き合ってまいりました。"命名決闘"とはそんな存在意義に載せて自らの意思を誇示し、相手に認めさせる意味合いのが強いのかもしれませんね」

 

( ^ω^)「へぇ……スペルカードって案外深いんだお」

 

射命丸の言おうとしていることの全てを理解出来ているとは思えないが、それでも言わんとしている事は何となく察せた。

小難しい言葉よりも、彼女の複雑な表情が多くを物語っていたからだ。

つまる所、スペルカードは単なる攻撃手段ではないのだろう。

と、すると疑問は一つの塊を成す。

 

( ^ω^)「ん? それじゃあ何でこっちで使うと光るカードになるんだお? というか、スペルを僕達が使う時に存在……意義? とか何にも考えてないけど良いのかお?」

 

今までは戦うための必殺技かなんかだと勝手に考えていた。スペルカードはエネルギーとか技術とかの謎力で、お蔭で頭空っぽでもシンプルに技が発動出来るのだと。しかし、それではあまりにも元々の存在と食い違う。

 

射命丸「正直、私にも分かりませんね……。ただ、スペルカードと呼んで差し支えないとは思います。完全に意義が違う訳でもありませんし」

 

( ・∀・)「スペルカードについでは私も同意見だ。ただこれは推測だが、運営側が彼女達の存在意義の發現――スペルカードという妖の力と技術の集大成を我々の世界においてわかりやすく置き換えたのでは無いだろうか。実際、我がパートナー達からも『正確ではないが本質は変わっていない』とお墨付きを頂いているよ」

 

実に複雑な話だ。

教えられている事が多すぎて頭がクラクラしてきたかもしれない。

一方で、ドクオもドクオで何か思うことがあるのか、土を見つめたまま何かを考え込んでいる様子だ。

 

( ・∀・)「さて、一通りの基礎学はこんな所かな。戦闘に関しての詳細はまた折を見て講義するとして……、何か質問はあるかね?」

 

( ^ω^)「おーん……」

 

スペルの事も気になって仕方ないが――何よりも気にかかっているのは同調と言う言葉だ。

これまでの話の理解度が足りないからドクオに先を越されてしまったのだろうか。

 

同調段階フェイズ2に至ったドクオと、一度だけしか大技出せずに居るまぐれ当たりな自分。

何が違うのか。

あの時、確かにドクオはがむしゃらだった。しかしそれは自分も同じだった筈だ。

何が違ったのだろうか。

 

自分なりに脳内の重い引き出しを頑張って漁って見る。

 

『君達はまだ知らないのだね。同調率や同調段階の事を。――そして、瞳の変化の先にある"進化"を』

 

ふと、引き出しの中からそんな言葉を思い出した。

あれは前回の死闘の際中に聞いたのだったか。

 

( ^ω^)「……モララーさん。質問があるお」

 

( ・∀・)「何かね?」

 

( ^ω^)「モララーさんが前言ってた、同調段階の……瞳の変化の先にある"進化"って――」

 

その時、言葉を遮ぎるようにチャイムの音が響き渡る。

モララーは腕時計をチラリと確認すると、胸ポケットに万年筆を挿し込みながら言った。

 

( ・∀・)「――ふむ。その質問は後に聞こうか。そろそろ我々も夢幻例大祭参加者の同士から、学生と教師の立場に切り替えねばならないようだからね」

 

(;^ω^)「あ、あう……」

 

モララーの胸ポケットに潜んでいる万年筆。飾り羽としてつけられた紅い羽根が風に揺れるのをただ見つめて唸る。

こうなっては仕方ない。まだまだ今後も聞くタイミングがあるだろう。

自分の中で納得させて校舎に向かう仲間達の後を静かに追う。

 

その後ろ。最後尾を漂う射命丸はモララーにだけ聞こえるように静かに問いかけた。

 

射命丸「――配慮のつもりですか」

 

(  ∀ )「何のことやら。教える必要が無い部分は省いているだけさ」

 

校舎に近づくにつれ増していく喧騒。

二人の言葉の意味を考える者は現れない。

やがていつもの日常が、その不穏を覆い隠していった。

 

 

 

 

 

 

(#´・_ゝ・`)「あーくそ! イライラする!」

 

時刻は午後に入って間もなく。

デミタスのストレスに比例した強さで机に叩きつけられたコーヒーカップの物音が、閑散とした職員室に響き渡る。

その際、わずかにこぼれ額に到達したコーヒーの雫一滴にほんの少しだけ悶絶したのだが、デミタスのどうでもいい独り言同様に同僚たちは華麗なるスルーを維持したままだった。

それがまたストレスへの燃料として投下される。

 

(#´・_ゝ・`)「コネだか何だか知らないが、俺の後釜になれるだなんて思ってんのかあいつは? 甘いんだよ!」

 

あまりにも大きな独り言とイライラの原因。それは他でもない新任教師モララーの存在だ。

欠員補充の必要性があったとはいえ、すんなりと学園に入り込んだ上、そいつは訳も分からない手口で担任の座を奪い取っていった。

とんでもないヤツだ。きっと裏があるに違いない。

 

(#´・_ゝ・`)「今に見てろよ? モララァ……」

 

と意気込んでみたものの、別段策があるわけではなかった。

普段なら授業を執り行っている時分なのだが、今は特にやれる事が無い。

とりあえず廊下をウロウロ巡回して、忙しくしているように見せているが、本当に目的も無いのでほとんど散歩に近い。

 

(´・_ゝ・`)「ん?」

 

ふとそんな折、屋上の人影に目に留まる。

無論、屋上は立入禁止区域。しかも当然ながら授業中だ。

この時点であの人影はギルティ。有罪決定である。

 

(´・_ゝ・`)「仕方ない……教育的指導の一つでもしてやらないといかんな」

 

思わずニンマリと顔が歪んでしまいそうになるのをこらえる。

あくまで教育者としての形は守らねばならない。そう、これは決して八つ当たりではないのだから。

折角の目標が逃げてしまう前にと、自然と早足で廊下と階段を進んでいく。

最初に何と問い詰めてやろうか――。そう考えている内に、屋上の扉は眼前にあった。

 

(´・_ゝ・`)「ふふ、観念しろ! サボりは許さんぞ!」

 

思ったとおり鍵の空いたままになっている扉を、勢いよく押し開く。

功績さえ手に入れば立場はどうにか回復する。それを確信した今、体裁と本心がごちゃまぜになった歪な笑顔を張り付けたまま、外気の下へ足を踏み入れた。

 

(´・_ゝ・`)「さぁ! 俺のありがたい説教を聞いて反省文を――お?」

 

左を見て、右を見て、最後に左を見る。

視界の何処にも人影は無い。

 

(´・_ゝ・`)「は? はぁ? はぁ……」

 

ため息三段活用。

一瞬ペントハウスの上部じゃないか? と脳細胞の賢い部分が囁いてくれたが、実際確認するまでもなくそこへ上がるハシゴにはロックがかかったまま使用された形跡は無い。

 

ならば非常階段側かと駆け寄るが、そこはやはり緊急時以外オートロックされている状態を維持されている。ここが開くとすれば火災報知器がかき鳴らされた時か、誰かが鍵を直接開けた時のみ。当然そのどちらも該当しない。

 

(;´・_ゝ・`)「う……」

 

得体の知れない現象を前に、なんだか怖くなってきてしまった。

見間違いだったのだと自己催眠をかけるように呟きつつ、来た時の倍の速度で来た道のりを戻っていく。

重々しい鉄の扉が音を立てて閉まった時、屋上の人影は無くなった。

――否、それは数瞬前までの話だ。

 

爪'ー`)「……」

 

フォックスはようやく静寂を取り戻した屋上で、懐からお気に入りのタバコ一式を取り出すと、おもむろに火を点した。

ゆるやかな吐息と共に吐き出される紫煙。自由に風に漂いながら空へ混じっていくのを見つめる。

 

爪'ー`)「妙なのが混じってきたな」

 

目をつむり、風の音に耳を傾ける。

別段、風が何か物を言う訳ではない。

ただ、気になる気配が学校内にあるのだ。

 

爪'ー`)「モララー……とか言ったか?」

 

幾度か味わったタバコを、吸い殻が落ちる前に灰皿に突っ込む。

もう少しだけ吸う余裕はあったが、大胆に余韻毎かき消した。

 

そう、問題が発生する前に潰してしまうのが手っ取り早い。それが一番効率的で、キレイな世界を保つ近道だ。だが――

 

爪'ー`)「それじゃ、面白くない。灰が落ちる寸前まで楽しんでこそだろ? なぁ?」

 

誰も居ない虚空に向かい、問いかける。返答は勿論無い。

しかし、フォックスは満足そうに笑みを浮かべると、やがて昼休みの憩いの場になるだろうこの場から、自らも静かに立ち去っていった。

 

 

 

 

ξ゚⊿゚)ξ「で? 結局どうなったのよ」

 

開口一番。ツンは買ってきたばかりのジュースにストローを差し込みつつ、単刀直入にそう言い放った。

 

( ^ω^)「どうって?」

 

対面に座る内藤ホライゾンは、買ってきたばかりのカレーうどんをすすり込みながら問い返した。

 

ξ゚⊿゚)ξ「質問に質問で返さないの。話の流れからして、部員集まって顧問決まって、じゃあその後どうなったのって聞いてるに決まってるじゃない」

 

( ^ω^)「さっきのが一言めだったお……?」

 

(´・ω・`)「まぁまぁ、僕もその話は気になってたんだ。断った手前、顛末はやっぱり気にかかっちゃってさ」

 

屋上の隅で昼食を取るいくつかのグループの一つ。

ショボンも手作りのお弁当を広げながら、例に漏れず会話に交じり始める。

いつものような会話。しかし今日はこのメンバーに珍しくドクオも加わった四人グループだ。

 

('A`)「うへぇ……」

 

(´・ω・`)「ドクオは何かお弁当用意して来なかったの?」

 

('A`)「きっつい運動の余波で胃腸が動きそうに無い……」

 

そう返答したっきりドクオは屋上の床にスライムの如く溶け出すように五体を投げ出す。

ドクオ・スライム。略して毒スライムの誕生である。ただし毒はあつかえない。

 

ξ゚⊿゚)ξ「きっつい運動って言ったって、アンタ屋上まで階段登ってきただけじゃないの。相変わらず貧弱過ぎるわよ」

 

('A`)「は? いやちげーよ。朝やったくんれ――」

 

(;'A`)「――く、くんれ……クレーンゲームによ。体力すげー使っちゃって」

 

ξ゚⊿゚)ξ「……?」

 

不審そうに眉をひそめるツンだったが、もし彼女に幻想体を見る事が出来たのならば、自らの背後に冷たい視線を送るルナサと冷たい笑顔を浮かべた射命丸の姿を視認出来たかもしれない。

しかし、ツンの眼に写ったのは何かを必死に隠そうとしている貧弱病弱脆弱のドクオの顔だけだ。

 

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ何でも良いけど。それで、話戻すけど何すればいいわけ?」

 

( ^ω^)「うーん。一応、顧問としてモララーさんが手続きとか昨日してくれてたみたいだし、もうちょっとだけ待てば何か指示貰えるかなぁーって思うお」

 

ξ#゚⊿゚)ξ「は? 何その受け身な態度! アンタが部長なんだからもっと自分から動きなさいよ! いっつも鈍い大馬鹿なんだから!」

 

(;^ω^)「うええ!? のんびりじゃダメだったのかお? っていうか……僕が部長?」

 

問いかけと共に、周囲の面々に視線を向けていくが、首を横に振る者は居ない。

 

ξ゚⊿゚)ξ「まったく……当たり前でしょ? 私はあくまで協力して"あげて"る立場だし、プレッシャーの中皆を引っ張るような真似がドクオなんかに務まるわけないでしょ?」

 

射命丸「ツンさんには聞こえないでしょうが、私も賛同ですね。ドクオさん程度の器で長を名乗るなんておこがましいですよ」

 

(´・ω・`)「悪いけど僕も皆と同じ意見かな……。ごめんね? ドクオ」

 

('A`)「いやもう確かにそのとおりだと自覚してるけど容赦なさすぎじゃない?」

 

言葉のマシンガンを全身に浴びたドクオはそれっきり動かなくなった。

一応ルナサだけが一瞬チラリと様子を気にしてくれたのが不幸中の幸いかもしれない。

 

(;^ω^)「わ、わかったお。モララーさんは担任だし、話しておくお? だから睨まないで……」

 

ξ゚⊿゚)ξ「フンッ。わかればいいのよわかれば」

 

そう言い放つと、ツンはそそくさと自分の食べ跡を片付けて一人先に立ち上がる。

少なめだったとは言え、いつの間に食事を終えていたのだろうか。

服装を正すツンを目前に、慌てて自分の分を貪り始める。

 

ξ゚⊿゚)ξ「別に急かしてないから。ゆっくり食べてなさい。私はちょっと友達にしばらく部活の助っ人は出来ないって言いに行くだけよ」

 

(;^ω^)「あう……で、でもツン……」

 

ξ#゚⊿゚)ξ「い! い! か! ら! ……ほらもう、食べこぼすから。しっかり食べてそれから働きなさい。良いわね? 異論は認めない!」

 

(;^ω^)「は、はい! イエスマム!」

 

ビシリ! と決めた敬礼は無意識に出た所作だ。

こういう所を他生徒にちょくちょく見られているせいで、彼女にひっそりドM達のファンクラブ(非公式)が出来てしまっているのかもしれない。

 

射命丸「すっかり調教されてますねぇ。ブーンさん」

 

(;^ω^)「ちょ、調教なんてされた事はまだないお? 多分……」

 

多分、と言う言葉に自分でこんなに不安を感じたのは初めてだ。

深く考えると怖くなってくるのでやがて考えるのを止めた。

 

(´・ω・`)「ツンはさ。なんだかんだすごい協力的だよね。僕も手伝える事があれば手伝うからいつでも言ってよ」

 

( ^ω^)「ツンもショボンもありがとうだお! 男手が必要になったら遠慮なく頼るお!」

 

ちなみにだが、隅っこで転がっているヤツは勿論最初から男手にカウントされていない。

それに比べてショボンの頼もしさと言えば男手二人分くらいはあると言っても過言じゃない。ちなみにツンは戦闘力二人分である。

 

(´・ω・`)「――ところで、さ」

 

( ^ω^)「ん?」

 

(´・ω・`)「さっき調教って言ったよね。……経験は無いけど、君が望むなら頑張ってみるよ」

 

(;^ω^)「や、ちょ、違――近い怖いヤバい!」

 

迫る男手二人分の圧力。必死に視線で仲間に救援を求めるが、射命丸はヘラヘラ笑っているしルナサとドクオは身じろぎ一つしよういとしない。

 

( ・∀・)「――フッ」

 

やがて、屋上に響く内藤ホライゾンのささやかな悲鳴。

それをたまたま向かいの廊下で耳にしたモララーは、思わず声を漏らして笑みを零した。

本当に賑やかな子達だ――と、実に朗らかな気持ちにさせてくれる。それだけでこれから来たる未来にも希望と期待を寄せられるのだ。

 

( ・∀・)「実に、順調だ」

 

おもむろに、手にしていた資料を眼前に持ち上げる。

部室の使用許諾及び責任所在者の誓約書。

流石に赴任して早々に手にするには少し苦労したが、実に都合の良い条件を掴む事が出来た。

ここまで概ね、手を煩わせるような問題は起きていない。

 

現時点で近しい問題があるとすれば、今も"後ろからつけてきている人物"くらいだろうか。

 

(;´・_ゝ・`)「――ひっ」

 

何気なく振り返ってみせた瞬間、視界に映った同僚の焦った表情が曲がり角へと引っ込んでいった。

ずいぶんとお粗末な尾行に、少し憐れみさえ覚える。故に腑に落ちないのだ。

こちらの計画の隙きを突かんとするレベルの人物ならばこんな無様である筈がない。

逆に何も知らぬ一般人であるならば、慣れない尾行を実行している理由が見つからない。

 

( ・∀・)「……用心はしておくが、少し泳がせておこうか」

 

苦笑しながら、傍らに漂う小さな姿のパートナーにだけ聞こえるように囁く。

 

衣玖「よろしいのですか?」

 

( ・∀・)「良いんだ。その方が"劇的"《ドラマティック》だろう?」

 

踵を返して、再び歩み始める。

迷いもない、淀みも無い。全ては望みを叶える為にある一歩を。

 

 

 

( ^ω^)「ふぃー……。今日も今日とて平穏な学園生活ってやつだったおー」

 

放課後、全ての授業を終えた開放感に浸りながら、身体を軽くストレッチでほぐしていく。

一通り終えてから周囲を何気なく見渡すと、早々にクラスメイトの姿もまばらになって来ていた。

半数くらいはこのまま部活にでも行くのだろうか。

今までは残り半数の大規模部活"帰宅部"所属だったが、今はもう違う。

もうひと踏ん張りだと気合を入れ直す。

 

( ^ω^)「で――、僕達はどうしたらツンに許して貰えると思うお?」

 

射命丸「無理ですね。はいおしまい」

 

ツンに指令を受け取ってから数時間。何もしていなかった訳ではない。合間合間を見つけてはミッション遂行の為に奔走していた。

だが、どうにも不運と踊っちまったらしい。

 

射命丸「モララーさん。行き違いになっていたのか何故か姿をお見かけしませんでしたね? 授業も代わりに小物の方が出張って来てましたし。事情説明してもツンさんには叱られそうですよねー」

 

( ^ω^)「そう、マジやばくね? だお」

 

もうすっかりプレッシャーに慣れてしまったのか、休み時間が来る度に震えを増していた膝はもう、うんともすんとも笑っていない。

なんせ既に腰が抜けて椅子から立ち上がる事さえ出来ない状態にいるからだ。

 

( ^ω^)「ねぇドクオ? 僕たち友達だお?」

 

('A`)「おう、友達だから連帯保証人にはならないぞ?」

 

( ^ω^)「詰んだ」

 

目を閉じれば浮かんで来るツンの怒る様。

かなり鮮明に思い浮かべられるお陰で、眼を開けてもツンの不満そうな顔が浮かんで来る始末だ。

 

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、何チンタラやってんの」

 

(;^ω^)「あー、そうそう多分こんな感じに怒るお……。想像クオリティ高過ぎてまた震えて来ちゃ――」

 

ξ#゚⊿゚)ξ「ブツブツ言ってないでさっさと準備する!」

 

(;゜ω゜>「いででででで!? ほっぺた千切れる千切れるぅ!!」

 

何てこった、とうとう想像が具現化してしまったようだ。

ほっぺたが自分でも驚く程伸びているのが見える。

 

('A`)「おいブーン。それ本物じゃね?」

 

(;^ω^>「え? 本物? クオリティ高い僕の想像じゃなくて?」

 

ほっぺたを引き伸ばされながらも、何とか顔を近づけて近距離で観察する。

やや薄い金色に煌めくしなやかでキレイな髪。

長いまつげで飾られた大きくてやや吊目がちの眼は少しづつ潤みを増して来ながら険しくなって来て居て、高級な人形のような印象をもたせるすべすべの白い肌は、血行が早まってきているのか段々と桃色へと変化していっている。

 

ξ//⊿/)ξ「ば、ば、ば、ばかあほまぬけちかんへんたい! 近いっての!!」

 

<;゜ω゜>「おおおおおおおお!? やめて輪郭変わっちゃう! ちぎれたどら焼きみたいになっちゃうからあああああああ!」

 

落ち着きを取り戻したツンが両手を離すまでの数分間。限界まで引き伸ばされた頬は射命丸とルナサの興味を強く引き続けた。

終いにはルナサがささやかな拍手で感動を示したのだが、それは些細な話である。

 

ξ*゚⊿゚)ξ「まったく、デリカシー無いバカなんだから。次やったら元に戻らないくらい引っ張るからね!」

 

<;^ω^>「あ、うん……もう既に元に戻りきれてないんですけどね?」

 

痛みと形状復元の為に両頬をさする。お湯浴びたら戻るかな、と考えているとドクオとふと眼が合った。

 

('A`)(……おい、どうすんだ?)

 

< ^ω^>「? ……ッ!」

 

ギリギリ聞こえるレベルの小声に小首を傾げて数秒。

ようやくツンの指示を達成出来ていない事実を思い出して、今度はこちらの顔色が蒼くなったのを自覚した。

勿論、言い訳なんて1パターンも準備していない。

射命丸だったらこういう時咄嗟に何か思いつくのだろうが、今は何故かルナサとどら焼きについて談笑している。

なんてこったい。今からでも何か言い訳を閃かなくてはならないようだ。

だが大丈夫。幸か不幸か、まだツンは余韻に浸っているようだから、十秒くらいあれば一つくらい名案が――。

 

ξ゚⊿゚)ξ「ところで部活の話なんだけど」

 

はい、タイムオーバー。

大人しく両頬を抑えていた手カバーを解除してツンの下に差し出す。

 

< ;ω;>「どうせちぎるなら、なるべく優しくちぎって下さいですお!」

 

ξ;゚⊿゚)ξ「はぁ? 何言ってんの? バカなの?」

 

< ;ω;>「え?」

 

ξ゚⊿゚)ξ「モララー先生が、二人を呼んで来てくれって頼んできたのよ。分かったらさっさと準備しなさいよね」

 

< ^ω^>「……いつ言われたんだお?」

 

ξ゚⊿゚)ξ「お昼休みの時。偶然会った時に言われたんだけど」

 

< ^ω^>

 

なんということでしょう。あんなに感じていたプレッシャーが、まるっきり無駄だったとは。

ショック過ぎて、"早く言ってよ"と言う至極当然のツッコミする気力すらも最早ありません。

傍らで、いち早く状況に適応して荷物をまとめたドクオが同情の眼を向けてきたのがわかりました。

 

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、二度も言わせないでよ。何うなだれてんの」

 

< ^ω^>「あ、はい。申し訳ございません」

 

意気消沈しながらもお待たせしてしまわないように続いて帰り支度をしていく。

背後で射命丸が『まるでツンさんの犬ですねぇ』と言ったのが聞こえて、少し泣いた。

 

 

 

( ・∀・)「やぁ、来たね」

 

集合場所とされている場所へは特に苦もなくたどり着いた。

放課後の空き教室の一つ、普段は存在を思い出された時だけ特別授業等で使用される閑散とした場所だ。

勿論、他に誰か居るわけでもなく、中央部に四つ組で並べられた机と椅子以外はがらんとしていた。

 

( ^ω^)「きたおー」

 

('A`)「うぃ」

 

ξ゚⊿゚)ξ「モララー先生。連れてきました」

 

( ・∀・)「ありがとう。手間をかけさせたね。皆も良く来てくれた」

 

ξ゚⊿゚)ξ「いえ、大したことじゃありませんから」

 

自身が立ち上がるのと入れ替わりに、モララーは座るように三人を席に促した。

机の上にある人数分の飲み物は、ねぎらいの気持ちなのだろう。

 

( ^ω^)「ちょうど喉乾いてたところだお! 僕は"特濃おしるこ缶"もらうお!」

 

('A`)「じゃ俺は"美味しそうな蒸留水"」

 

ξ゚⊿゚)ξ「あ、私の好きな"午前から午後の紅茶"ある……嬉しい」

 

射命丸「おやおやおや? 私とルナサさんの分が見当たりませんねぇ……?」

 

射命丸の嫌味も何のその。モララーはさも失念していたと言わんばかりに、肩をすくませて見せる。

 

( ・∀・)「さて、早速だが皆を集めたのは他でもない。部活についてだ」

 

待ってましたとばかりに、皆の注目が高まる。

視線慣れしたモララーは無論、物怖じする事はない。

 

( ・∀・)「まず先に謝っておきたいのは、部室の件。一応の話は通ったのだが何分空き部室に余裕がある状況では無いらしいのでね。私達の部室は今日用意する事は出来なかった」

 

ξ゚⊿゚)ξ「それで空き教室利用してのミーティングなんですね」

 

射命丸(ま、確かに表だけでなく裏の活動を考えると慎重にはなりますよね。その点は流石と褒めておきましょう)

 

しかし、このまま校内で行う部活を隠れ蓑にしていくのは少々不用心だ。関係者以外が基本的に立ち寄らないと言うだけで、立ち入れない訳ではない。

環境に寄って対策対処が変わってくる妥協点をどの位置に設けるかは重要で難しい問題だ。

 

( ・∀・)「そしてもう一つ。こちらが実は主題でね」

 

うやうやしく取り出された一枚の和紙。白一色のど真ん中に唯一の自己主張をする"新聞部"の文字が目立っている。

これは? と聞くよりも先に話は続く。

 

( ・∀・)「我々は新聞部であることは確定しているものの、それ以上でもそれ以下でもない。まぁ、問題とするには大きくもないが今後を考えるともう一工夫が必要になるかと思う」

 

ξ゚⊿゚)ξ「一工夫……ですか?」

 

( ・∀・)「そうだ。具体的にはただの新聞部では今後においての可能性を開けない。存続する意味を込めて一歩先んじなければならないと考えているんだよ」

 

射命丸「つまりは単なる新聞部としてではなく、裏の活動に関して汎用性の高い名目が欲しいと言うことではないでしょうか?」

 

( ^ω^)「ああ、そういうことかお」

 

一瞬浮かんだ疑問符をすかさず解消するナイスなフォロー。

しかし理解できたとしてすぐさま名案が思いつくわけではない。

むしろ、少し沈黙して仲間たちに委ねるべきかもとさえ感じた。

 

('A`)「そもそもの話だけどよ。新聞部で何する部活なんだ?」

 

( ^ω^)「新聞作る?」

 

(;'A`)「だから新聞の内容どうすんだよって話だ。校内新聞とか地域新聞とか色々あんだろ?」

 

( ^ω^)「あー……」

 

勿論そんな事考えてすら居ない。色々な都合と今出来そうな可能性的に新聞部と言う枠組みを選んだだけなのだから。

流石にツンやドクオも答えが出てこないらしく、思案が続いている。

 

当然。助け舟の要請は射命丸の方へと向いた。

 

射命丸「うーん……そうですねぇ。幻想郷での私は文々。新聞を発行していましたが、これに関しては社会派とも地元郷土新聞とも言えますね。ただそれをそのまま参考にして良いのかとなると……」

 

( ・∀・)

 

答えあぐねいていると、ふとモララーと目が合った。

何かを期待するような、そんな目だった。

 

射命丸(――なるほど、そう言う役回りですか。良いでしょう。目的は合致してますしね)

 

( ^ω^)「お?」

 

射命丸「ブーンさん。こういうのは如何でしょうか? 隣室の怪綺談から山奥の噂話までをぶち抜く黄昏の社会派郷土民俗新聞、文々。新聞! ――もとい、NEW文々。新聞と言うのは?」

 

< ^ω^>「隣室の怪綺談から山奥の噂話まで……? えと、黄昏のしゃかいは? きょーどみんぞく新聞? ブンブーン○新聞?」

 

ξ゚⊿゚)ξ「なにそれ? さっきからブツブツ独り言してたけどアンタが考えたの?」

 

(;^ω^)「お? いやその……」

 

( ・∀・)「――ほう、それは面白いね。社会派郷土民俗新聞……とはいかにも贅沢に詰め込んだ感じが若者らしく無軌道で良い。新聞のタイトルまで決めていたのかね?」

 

(;^ω^)「あー、その……はい」

 

何となく上手く嵌められた気がしたものの、状況をツンに説明する方が難しいと理解したのでそのまま話を合わせていく。

それに実際良く分からない胡散臭い感じが、この不思議なチームにはピッタリだと感じたのも確かだった。

 

射命丸「正確には"文々。新聞"、ですよブーンさん。折角別冊記事としてこちらでも広めようと考えていましたのに……」

 

( ^ω^)「いや流石にそれは色々駄目じゃないかお……」

 

ξ゚⊿゚)ξ「駄目なの? 私としては駄目で元々ってつもりだったし、それで良いんじゃない?」

 

( ^ω^)「あ、いや駄目ってそっちの駄目じゃなくて……ええとともかく!」

 

こうなったらもう勢い任せだ。勢いをつけて椅子から腰を持ち上げて、皆に通る程度に声に気合を籠める。

 

( ^ω^)「僕は部長として、社会派郷土民族新聞"ブンブーン○新聞"で行きたいと考えてるお!」

 

一瞬の静寂。

後、誰が始めたのか小さな賛同の拍手がなり始める。

 

('A`)「マンドクセーなんて今回は言わねぇで、最後まで付き合うぜ」

 

ルナサ「うん、おめでと。ブーン君」

 

ξ゚⊿゚)ξ「仕方ないから行けるところまで手伝ってあげる。し、仕方なくよ?」

 

射命丸「あやや、少し意図とはずれましたがブンブーン○、とは微妙な改変ですねぇ。でも嫌いじゃない、むしろフェイバリットですよ!」

 

( ・∀・)「うむ、異議反論は無いようだね。ならば――」

 

一部には聞こえぬ二名+二名の拍手の最中、モララーは和紙を片手で持ち上げると、空いた手を刀印――人差し指と中指だけを伸ばした形に構える

 

( ・∀・)「――では今この瞬間から"社会派郷土新聞部"の設立だ」

 

刀印が僅かな雷光の煌めきをまとって、和紙の表面を奔る。

次の瞬間には、"社会派郷土民族新聞部"の見事な一筆が出来上がっていた。

 

ξ;゚⊿゚)ξ(えっ何今の? マジック?)

 

(;'A`)(少し焦げた臭い……。パフォーマンスにスペカ使ったな?)

 

( ^ω^)(……今晩のご飯は焼き魚にしようかお?)

 

三者三様の反応を他所に、モララーは涼しい顔で場を仕切り直す。

 

( ・∀・)「さて、後ほど書類関係の少々調整を済ませておくとして……早速新聞部の活動をしようじゃないか」

 

(*^ω^)「おっおっおっ! がんばるおー!」

 

('A`)「いよいよかぁ、社会派郷土民族新聞ってんだからでかい社会問題やら、地域密着の時事ネタやら、民俗学……伝承とか怪異とかいろいろネタ探さねぇとな……」

 

ξ゚⊿゚)ξ「改めて言葉にするとホント節操無いジャンルね。それで? まずは何処から記事にするの?」

 

( ・∀・)「その事だが、実は私に考えがある」

 

( ^ω^)「?」

 

いつもと変わらぬ自信に満ちた笑みに、期待を寄せる。しかし、今思えばこの時に危機感を覚えるべきだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

( ^ω^)「汚れても良い格好って言われたから体操着を着てきたお?」

 

('A`)「マンドクセ……」

 

( ・∀・)「うん、準備は万端のようだね。では早速行こうじゃないか」

 

空き教室でのミーティングを終え、そう時間も経たない頃。

三名と、プラス二名の幻想体は人気の無い一角に集まっていた。

と言っても何の事はない、ここはまだ校内の一部。朝練をした森林近くというやや辺鄙な場所だ。

人目を避けた朝練場所として選ばれる程だから、ここまで来ると人気の無さも相まって少し怪しい密会場所のように思える。

 

 

『いきなり記事の作成に取り掛かる、というのもハードルが高いだろう。まずは実地研修及び体験学習という事で取材だけ行ってみないかね?』

 

モララーが提案したのはそんな事だった。

正直、ありがたい提案だと思った。

放課後の今から、しかも汚れても良い格好を指定してきたのがほんの少し違和感を感じたが、特に抵抗する事無くこの場に来てしまったのもそのせいだろう。

だが、何故だろう。何となく不安を感じるのは。

 

( ^ω^)「あれ? そういえばツンは何処行ったんだお?」

 

('A`)「着替えに時間かかってんじゃねーの? 女子はそういうもんだってテレビで聞いたぞ」

 

射命丸「ドクオさんも大概テレビっ子ですねぇ」

 

( ・∀・)「彼女ならば先に帰らせたよ。流石に夜遅くもなるし、少々危険も伴うかもしれないからね」

 

( ^ω^)「あー、それは確かに良い判断だおー」

 

数秒程、言葉の意味を理解するのに時間を要する。

 

(;^ω^)「え!? 夜遅く!? しかも危険!?」

 

今更慌てだす内藤ホライゾンに、射命丸はやれやれとばかりに声をかけたる。

 

射命丸「鈍いですねぇ、鴉天狗のように軽やかなフットワークが無ければ、飛ばねー豚はただの豚なんですよ? 新聞部のもう一つの役割覚えてらっしゃいますか?」

 

(;^ω^)「えと、カメラ持ってても違和感無いようにっていう隠れ蓑?」

 

射命丸「そーです。なら、何故貴方はそのカメラを持ち続けてるんです?」

 

(;^ω^)「えーと、夢幻例大祭に参加し続けたいから……」

 

射命丸「ええ。でも学生生活がある都合上、おいそれと時間を割いていたら不審に思われるでしょ? だから部活動の一部として他参加者の動向や戦闘と契約の痕跡を調べるために社会派郷土民族新聞部、という名目に誘導したんですよー」

 

(;^ω^)「ってことはもしかして今から行くのって……?」

 

( ・∀・)「そうさ。他の夢想器が存在する可能性がある場所だよ。取材の経験値を稼ぐというのは建前さ」

 

だからツンを帰らせたのかと納得が行く。

ツンは夢想器の事も、夢幻例大祭の事も一切知らないし関わっていないのだから当然だ。

しかし、納得出来たのはそこまでだ。

 

(;^ω^)「で、でも夜遅いとやっぱ怖いし、明日も学校ありますお? 今からじゃないと駄目何ですかお?」

 

射命丸「まぁ、確かにブーンさんの言うことも一理ありますね。モララーさんも随分と思い切り良すぎなのでは?」

 

あまりにも唐突過ぎる提案に、やはり当然の如く疑問の声はあがる。が、モララーは変わらず笑みを浮かべたまま言った。

 

( ・∀・)「善行と記事は早ければ早いほど良い――なんて格言があってね」

 

射命丸「あやや? そんな格言私でも聞いた事無いですよ。外国渡来した格言ですか?」

 

( ・∀・)「いや、私製の格言さ」

 

( ^ω^)「……」

 

射命丸「……」

 

白けた空気。そこに動きを与えたのは今まで大人しく話を聞いていたドクオだ。おずおずと手を上げながら言葉を紡ぐ。

 

('A`)「あのさ。俺個人の意見としては取材に賛成かな」

 

射命丸「あややや……意外ですねぇ、いつもめんどくさがっているのに」

 

確かにそうだけど……と、少々バツが悪そうにしながらドクオは続ける。

 

('A`)「いろんな事が一気に起こったから、俺も今自分が置かれてる状況理解出来てるとは言えない。だから、一刻も早く経験積んでスペル使いこなして、ブーンの手助けがしだいんだ」

 

( ^ω^)「ドクオ……」

 

ちょっと感動して目頭が熱くなった。ドクオの癖に良いことを言う。

 

('A`)「あと、今から行けば明日丸々休んでも合法な気がする」

 

( ^ω^)「ドクオ」

 

前言撤回。やっぱこいつはドクオ以上でも以下でもない。

 

( ・∀・)「ハッハッハ。代休保証は出来ないが課外授業兼郊外での部活動遠征という事で加点されるように手を回しておくさ」

 

ルナサ「……私はドクオ君を支持する。パートナーと音色を合わせて行くと決めたから」

 

射命丸「ルナサさんらしいですねぇ。うーん、そう来るとやっぱり私個人としても遅かれ早かれ行く事になるなら"即行動"派ですね」

 

(;^ω^)「うわぁあっという間に四面楚歌ってるお……」

 

自慢じゃないがこの場にいる全員の誰一人として論破出来る自信はない。逆に洗脳されちゃう可能性ならある。

覚悟を決めるしかないようだ。

 

( ・∀・)「では貴重品は一旦この袋に入れておいてくれたまえ。特に身分証明の類や金銭類をね」

 

( ^ω^)「お金も?」

 

( ・∀・)「使える場所が無いからさ。……さて私もその間に準備する物があるから待っていてくれるかね」

 

聞かなきゃ良かったと思った。

渋々、荷物の中から預けておいたほうが良さそうな物を各自移動させていく。

 

射命丸「あ、カメラのレンズ拭きは持ってて下さいよ」

 

( ^ω^)「分かってるお、カメラ関連は小袋で別にまとめてあるから……」

 

射命丸と二人、相談しながら荷物を整理していく。チラリと横目で見るとドクオも順調に準備を進めているようだ。

 

( ・∀・)「――よし、準備完了だよ。待たせたね」

 

鞄の中の荷物を再確認していた手を止め、顔を上げる。

まったく待たされた自覚が無いが、何の準備をしたのだろう。

 

( ^ω^)「お?」

 

∑(;^ω^)「……おおお!?」

 

射命丸「これはまた豪快な……」

 

よそ見していたのはほんの数十秒。……だったと思う。

カバンのチャックを開き、中のアイテムを一瞥していった程度の僅かな時間。

カップラーメンならばまだお湯を注いでいる最中どころか、湧いてすらいないだろう。

だがしかし、突然に――そして唐突にそれはあった。

 

( ・∀・)「私の自慢の愛車でね」

 

それは見たこともない屈強なバイクだった。

 

黒と赤で彩られた大型の車体は、その内に秘めた暴力的なまでの馬力を思わせ、流線型と直線が織りなすデザインは生物的かつ機構的なイメージを感じさせる。

しかし何よりも目を引いたのはバイク脇に接続されている一回り小さな車体。

――サイドカー。記憶が確かならば、そういう名称の乗り物だ。

一応存在は知っていたが実在しているのを見たのは初めてだ。

 

(;^ω^)「おー……これで行くんですかお?」

 

不満かね? と尋ねられて高速で首を横に振る。どちらかと問われるまでも無く、初めて見る乗り物に興味がそそられていた。

むしろバスやタクシー移動と言われなくて良かったとすら思っている。

 

( ・∀・)「さ、準備が出来たなら早速乗り給え。ドクオ君は私の後ろだ」

 

ある種都市伝説レベルに希少な乗り物が脈絡無く現れて思わず呆けていたが、サイドカー側を指し示されて我に返る。

なるほど、一人用にくり抜かれた空間は身体がすっぽり収まりそうであるが……初めて出会う乗り物にどう乗り込んで良いのかすら分からない。

少し迷ったが、一応座席部分は目に見えているし、跨げない高さでも無い。とりあえず若干強引に乗り込んでみる。

 

(;^ω^)「おー、なんか不思議な感じだお。ちいさいオープンカーみたいな……」

 

射命丸「私も初めて実物見ましたが、案外存在感ありますねぇ」

 

( ・∀・)「荷物置き場は座席後ろのスペースだよ。ルーフが折り畳まれているだろう? その前に置き給え」

 

( ^ω^)「了解だお」

 

ドクオの分と合わせて二つ、カバンをスペースに積み置くと、内藤は改めて座席に身体を押し込んだ。小さな射命丸は膝の上、カメラは首から下げて両手で保持する。

 

( ・∀・)「各自ヘルメット大丈夫かね?」

 

( ^ω^)「バッチリ!」

 

('A`)「……ウィッス」

 

まるでマッチ棒のようなシルエットのドクオと内藤が返事を返すと。モララーはおもむろに愛車にキーを差し込む。キーホルダーにデフォルメされた骸骨が揺れているのが見えた。

 

射命丸「さぁ見せてもらいましょうか! 人類の技術の結果とやらを!」

 

( ・∀・)「期待してくれたまえよ」

 

(;^ω^)「おお!?」

 

小さな火花がエンジンに鼓動を灯し、やがて力強い振動が乗り手の体全体を細かく揺らし始めた瞬間、"熱"と"寒気"を同時に味わった。

突拍子もない話だが一瞬、車体全体が青い炎に包まれたような気さえした。

 

射命丸「ブーンさん、今何か感じました?」

 

(;^ω^)「射命丸もかお?」

 

同じ物を感じたのならば気の所為では無いのだろうが、当然の如く炎なんて車体を包んでいない。

他に特に変わった事も無いのだ。もしかしたらこういう物なのかもしれないと、無闇に騒がない事に決めた。

 

( ・∀・)「さぁ行くぞ!」

 

二・三度の空ぶかし。マシンはまるで唸るように声をあげる。

未だ慣れぬ、車とは違うダイレクトな機械の鼓動に戸惑っていると、心の準備を待たずに続いて加速する感覚が身体を座席に貼り付けた。。

 

(;^ω^)「おっ、おっ、おおもったよりも、はあはやはや速いお!?」

 

射命丸「ふーん、そこそこに速度出るじゃないですか。私の散歩速度くらいは」

 

猛るエンジンに比例するように、景色は高速で後方に置き去りになって行く。

そういえばドクオは大丈夫だろうかと見やると――やはりというか何というか、受ける風圧と慣性に必死に堪えているようだった。

ヴァイオリンはサイドカー側に搭載して正解だったと思う。

 

( ^ω^)「……」

 

しばらくすると、身体で風を受ける感覚にも慣れてきた。

普段射命丸のスペルカードで加速している時とは少し違うが、分類上は似たような物。その分、体が慣れるのが早かったのだろう。

一方のドクオはヘルメット越しにでもわかる顔面蒼白具合。ルナサが心配しているのが見て取れる。

だが今はドクオの事なんかどうでもいい。

 

( ^ω^)「あの――」

 

それで、何処からこのバイク出してきたんですか? と、聞きかけて諦めた。

どうせ走行中だし、声も通らないだろう。射命丸との会話がやっとだ。

聞いた所で説明に納得出来ないだろうし、それでも事実に納得せざるを得ないのだから。

 

「――にゃーん」

 

( ^ω^)「お?」

 

ふと、聞こえてきた鳴き声。足元のスペースで何かが動いているのを視界の端で捉えた。

ヘルメットのバイザー越しで見たその黒い物体は、どうやらネコらしい。

 

( ^ω^)「いつの間にか乗り込んじゃってたのかお?」

 

走行中飛び出したら危険だと思い、カメラを脇に寄せて両手で抱えあげようと頑張ってかがむ。

 

――と、

 

射命丸「なっ……! ブーンさんその猫、いやその方は――!」

 

( ^ω^)「え?」

 

射命丸の声が聞こえてきたのと、抱えようとして差し出した手が"すり抜けた"のはほぼ同時の事だった。

 

「じゃじゃーん! やぁやぁおにーさん! 不安そうな顔してるねぇ?」

 

(;゜ω゜)「おおおおおお!?」

 

思わず奇声を上げてしまったのも無理はない。そして思いっきり座席に頭と背中を打ち付けてしまったのも、だ。

なんせ抱えあげようとした猫は触れない所か、いきなり喋った上に、人の姿へと急変身を遂げたのだから。

 

射命丸「あやややや……お燐さん、駄目ですよぉ脅かしちゃ」

 

お燐「あらー、ごめんごめん。あんまりスキだらけだったもんでねぇ。ついあたいの狩猟本能的なのが、ちょいとね?」

 

(;゜ω゜)「あばばばばばば」

 

人の膝の上でちょこんと座ってこちらを向いている、赤髪の猫少女。

チラリと覗く口内の鋭い牙や、妖怪らしい紅い目。そしてなんだかあざとい猫耳の向こう側で揺れ動く二本の尻尾まで備わっている。

この時点でもう認識がパンクしそうなので、いつものごとく射命丸へと助けを求める。

 

射命丸「いやいやいい加減慣れてくださいな。おそらくモララー氏の夢想器の一つに宿ってる、火焔猫燐さんですよ」

 

お燐「"火焔猫"ってのはちょっと仰々しい名字だからねぇ。あたいの事は気軽に"お燐"って呼んどくれよ」

 

(;゜ω゜)「あ、はい。お燐さん……」

 

お燐「それよりも、久しぶりに外出られて良かったよぉ。あたい、おにーさんみたいな人好きでねぇ……。あたいの物にならないかい?」

 

射命丸達と同じように、実体は無い半透明の妖怪少女。猫らしい大きな眼が獲物を見据えるようにこちらの目の奥を興味津々で覗いてくる。

女の子に逆ナンされているどころかプロポーズまでされている、と言えば聞こえは良いかもしれないが、実の所捕食されそうな気分のが近い。

と、次の瞬間お燐と呼ばれた少女は小さくデフォルメされた小さな姿へと変わる。

 

お燐「ありゃ、戻っちゃった」

 

戦闘状態のように夢想器が活性化された状態とは違うのか、自分の意思とは別に省エネ状態へと移行したらしい。

しかしこちらはそんな些細な変化が気になる程、落ち着けていない。心臓がバイクに負けないくらい唸りをあげているからだ。

 

射命丸「ちょっとお燐さん、気をつけてくださいよ? 人間はこんな事でも死んじゃうんですからね」

 

お燐「え!? それは本当かい!? もう死んじゃうのかい丸っこいおにーさん!」

 

(;^ω^)「えええ……?」

 

今の話のどこにテンションあがる要素があったと言うのだろうか。もしかして餌か何かだと思われているのかと少し恐怖を覚える。

 

射命丸「ああ、言い遅れましたがお燐さんは旧地獄に住む火車という妖怪です。昔から死体とかガンガン無断で持ち去っちゃう妖怪ですね」

 

(;^ω^)「えええええ~……?」

 

お燐「そうそう、その後地底で燃料としてまるごと燃えてもらうのさ! おにーさんみたいに恰幅良いねんりょ……人間が好きでねぇ……」

 

(;^ω^)「ふぇええええええええ~……?」

 

妖怪のナンパってのはあれか。死体になるの前提だったりするのか。

燃え上がる愛情! とか言うワードを耳にした事あったがこんな物理的に燃え上がらないと駄目なもんなのだろうか。

 

と、自問自答していると笑い声が何処からか聞こえてきた。その声は不思議と近い場所から聞こえてくる。

 

( ・∀・)「ハハハ、すまないね。つい笑ってしまった。……実は、ヘルメットには相互通信機能をつけておいていてね。君たちの会話は最初から全て楽しませてもらったよ」

 

(;^ω^)「ちょ、それならそうと言っておいて欲しいお? お燐の事も先に言ってくれたら良かったのに」

 

( ・∀・)「サプライズをつい仕掛けてしまうのが私の悪い癖だ。後で埋め合わせはしよう」

 

(;^ω^)「心臓止まっちゃうようなのは勘弁してほしいお……」

 

ふとそこで、ヘルメットはドクオも被っていた事実に気がつく。

もしかしてドクオにも聞かれていたのかと慌てて様子を見るが、特にドクオにアクションは無いようだった。

もしかして反応する気力も無いのかと心配していると

 

( ・∀・)「ああ、ドクオ君はそんな余裕無いだろうと思ってね。手元のスイッチで彼のだけ切っておいてあるのだよ」

 

ああ、道理で――と少し安心した。

もしかしたら聞こえてくるかもしれないドクオのアレをアレする音とか勘弁願いたいからだ。

実際、顧問もそれを考慮しているのか、最初の頃よりも緩やかに進んでいたようだ。……ここまでは。

 

( ・∀・)「む……思ったよりも時間かかってしまっているな。一か八か、飛ばしてみるかね?」

 

(;^ω^)「飛ばすって言ったって……」

 

射命丸「この道はどうも交通量が多いようですよ。速度を上げたところで大して変わるとは……」

 

射命丸の言う通り、郊外近くまで来るとちゃんとした道路も限られてくる。そのせいか交通は集中し、軽い渋滞の徴候が現れ始めているようだ。小さなバイクなら間をすり抜けられたかもしれないが、今走っているバイクはかなりの大型――しかも側車付きのおよそ乗用車サイズ。

 

しかし、その上で余裕の笑みを浮かべているのだろう。自信の籠もった声がヘルメットから聞こえてきた。

 

( ・∀・)「私は不可能を可能にしてみせる男だよ。――お燐!」

 

あいさー! と、景気のいい声が聞こえてきたのと、妖力の高まりを感じたのはほぼ同時であった。

 

( ・∀・)「存分に駆けるが良い。――"猫符「キャッツウォーク」"」

 

射命丸「こんな町中でスペルカードを!?」

 

射命丸の言葉が届くよりも先に、妖力は一つの結果を発生させ始める。

何百kgという鉄の塊である車両が、まるでマウンテンバイクさながらの軽い挙動を示し始めたのだ。

重さという枷を取り払ったかのように、車両は運転手の意をすぐさま自身へと反映させていく。

 

(;゜ω゜)「ちょっちょっちょっ……ぶ、ぶつかるお!?」

 

( ・∀・)「私とお燐がそのような下手を打つと思うかね」

 

他の車と車の間にある、車間距離を縫い合わせるように人間三名と妖怪三名を載せたサイドカーは駆け抜けていく。

時には誰も通らぬ斜面を道とし、坂を簡易的なジャンプ台として宙を走り、小さな林の中をほぼ90度傾けて走行する事さえ難なく実行してみせた。さながらそれは車両で行う"フリーラン"《パルクール》。

しかし、そんな曲芸乗りを楽しめるのは実行する本人とそれを視聴する側だけだ。

 

( ;ω;)「おおーん! はい死んだお! 今死んだお! 数分後にはサイドカーごとバラバラになるんだおー!」

 

大人しく乗ってるだけの方からすれば、両手を組んで泣き叫びながらガタガタ震えるくらいの選択肢しか出てこない。

勿論、これで事態の好転も、生存確率が一%でも保証されるなんてのもありえない。

 

射命丸「あややや……無茶しすぎですよっと。もー私のカメラに何かあったらどうするんですか!」

 

( ;ω;)「射命丸! 僕、僕もそのカメラに付随してるお1? カメラよりもっと悲惨な事になっちゃうお!?」

 

妖怪的にはこの程度日常茶飯事なのか、射命丸はパートナーを心配する素振りすら見せない。

そんな様子を見て、お燐はあっけらかんと優しく笑って告げた。

 

お燐「だいじょーぶ。心配しなくても何かあったらあったで、あたいがしっかり"拠点"《じごく》まで運んであげるからさー」

 

( ;ω;)「お? そ、それならまぁ安心かも――って、ん? 今何て――」

 

( ・∀・)「さて、スパートをかけるよ。少々揺れるからしっかり捕まっていたまえ」

 

返事も反応も待たずに、アクセルを更に握り込む。

今までと比べて"少々揺れる"猛加速に、内藤ホライゾンの悲痛な叫びだけが置き去りにされて行った。

 

 

 

 

 

( ・∀・)「――さ、長らく待たせたね。道中退屈しなかったかね?」

 

モララーがようやくエンジンと無茶な走行を止めたのは、車通りの無い山間部の麓の道に至ってからの事であった。

停車すると同時に、機械的な動作で内藤ホライゾンはヘルメットを頭から外し、焦点の定まらぬ目と足取りを披露する。

 

( ゜ω゜)「ホントーニ、カイテキナ、どらいぶ、ダッタオ」

 

暴れ馬、もとい獰猛な化け猫の背で過ごしたかのような一時。

安全の保証されているようでされていない絶叫マシーンに説明と覚悟無しで乗った結果、表情と声まで固まってしまったらしい。

射命丸が、大丈夫ですかー、と眼の前で小さな手を振るも内藤ホライゾンはうわ言のように乾いた笑い声を漏らすばかりだった。

 

(A)「 」

 

ドクオに至ってはピクリとも動かないばかりか、更に痩せてしまったように見える。イメージとして近いのはしなびたもやし。

ここまで振り落とされなかっただけでもう既に称賛物である。

 

( ・∀・)「安心したまえ。目的のリゾート地はすぐそこだよ」

 

(*^ω^)「リゾート!? ごちそう!?」

 

食欲は元気の元。

食べる事を考えただけですぐさま身体に活力が戻ってきた。

 

射命丸「いえいえ、ごちそうあるとは聞こえてきてませんけど……」

 

確かに言ってなかったかもしれないが、きっとあるに決まっている。そうに違いない。お願いだから。

 

(*^ω^)「へー、このあたりがそうなんですかお? 中々結構――」

 

気を取り直してリゾート地とやらがどんな場所にあるのか、辺りを見回してみる。

そこにあるのは広大な森。そしてあそこにあるのは雄大な森。やはり隣にあるのは雑多な森。

見渡す限り森。森。森……。

 

( ^ω^)「――シンプルでダイナミックな光景ですお」

 

( ・∀・)「はは。隠れ家的スポットだからね」

 

そうは言うが、ここに家建てたならば何でも隠れ家的になるだろう。二度と見つからない的な意味で。

 

(;^ω^)「……おおう」

 

正直、帰れるのならば今からでも帰りたい。

しかしながら、ここまで乗せてきてもらった直後に引き返せと言える訳がないし、出来れば帰りは違う乗り物で帰らせて欲しいし、おまけに自力では帰れ無い自信にも満ち満ちている。

否応なしにサイドカーから荷物を下ろすと、傍らの射命丸に小声で語りかけた。

 

(;^ω^)「おばけとか……獰猛な動物とか大丈夫?」

 

射命丸「鴉天狗と騒霊の仲間が居るのにそれ聞きます?」

 

それもそうか、と納得して次にドクオの荷物へと手を伸ばす。と、そこで静止の声がかかった。

 

( ・∀・)「ああ、ドクオ君の分はそのままで良い。なんせ……ほら、ね?」

 

( ^ω^)「ふぇ? ああ……」

 

腕の中に抱えられているドクオはかろうじて呼吸だけしているようだ。さながらこ汚いままのシンデレラと誰も起こしてくれない白雪姫を足して灰汁だけ抽出した感じに。

 

そのまま先程まで乗っていたサイドカー部分にドクオがすっぽり収められると、まるで棺桶に入れられているようにさえ見えた。

間近で眺めているお燐のテンションが上がっているのは言うまでもないだろう。

何となくその辺に生えていた白い花をそっとドクオの手に握らせてみた。

 

射命丸「遺影の撮影はお任せ下さいね」

 

お燐「あたいが責任もってきっちり火葬するよ。跡形も無くね!」

 

( ・∀・)「君達、悪乗りはその辺りで止めてあげたまえよ」

 

静止の声と共に、おもむろに地図が皆の前に開かれた。

ちなみに、すやすや(?)と寝ているドクオの上に。

 

( ・∀・)「さて、例の夢想器の調査ポイント兼、君の今日の宿泊地はここから真っ直ぐ1キロ程奥地の山中にある"美布寺"。ここに夢想器があると私は踏んでいる」

 

射命丸「根拠は?」

 

( ・∀・)「不思議な道具には不思議な伝説話が付くものさ。何、現地に行けばおのずと分かるさ。道なりに行けば迷わずに着くだろうしね」

 

(;^ω^)「おーん……」

 

一応、『迷っちゃった時はどうするんですか?』と聞いてみた。が、『射命丸君が居れば迷うことは無いさ』と、爽やかに返されて話は終了となった。

この人の感覚ではこれも夜のハイキングレベルなのだろうか。

まぁ、裏を返せばそれだけ頼もしい同行者だとも言えるし、きっと問題なく目的地に――

 

( ・∀・)「――では、私は後でドクオ君を連れて行くから君は先に行って情報と安全を確保しておきたまえ」

 

(;^ω^)「え!? 一緒に行ってくれるんじゃないんですかお!?」

 

( ・∀・)「そうしたいのは山々なんだがね」

 

顎で差されたバイクの後部、そこには明滅するように存在が安定していないルナサの姿があった。

 

( ・∀・)「ドクオ君があの状態だから、ダウンサイズされたあの状態ですら形を保てられないようなんだ。早々無いとは思うが今襲撃をされたならば幼児ですらドクオ君を倒せてしまうだろうね」

 

射命丸「妖力供給が乱れてるようですねぇ。確かにこれじゃ襲われ放題ですよ」

 

( ・∀・)「ははは……なぁに、これも足腰と観察力の修行だと思えば価値のある事さ。では検討を祈るよ」

 

(;^ω^)「ちょ、ま――」

 

引き止める為の二の句は回転数を上げたエンジン音にかき消され、届く事は無かった。最も、この様子では届いた所でアクセルを緩めてはくれそうに無かったが。

やがて、人工音と反比例するように自然の音が周囲を満たした頃、縋ろうとして突き出した腕をようやく諦めと共にだらりと下げる。

こうなれば仕方ない。言われた"道"とやらへ目を向ける。

 

( ^ω^)「……」

 

木と樹の間の僅かな隙間でも、"道"と呼ぶのだろうか。

ふふっと思わず笑みが零れる。

 

( ^ω^)「――救助隊って何分くらいで駆けつけてくれるんだお……?」

 

射命丸「そんな大げさな。ただの山道でしょうに」

 

妖怪の山はもっと深く濃く混沌としてますよ、と励まされ(?)、弱音を理解してくれる人がない事を知った。

全ての救いを捨てて、とぼとぼと歩み出したその背は、まるで生贄に選ばれたそれと同じ哀愁を漂わせていた。

 

 

 

 

 

(ヽ´ω`)「――かゆ、うま」

 

通算398回目のかゆうま発言。

無論、何らかのウイルスに発症している訳ではない。無心で足だけを動かし続ける単調で険しい作業が、やがて内藤ホライゾンの言語からかゆうまだけを残したのだ。

 

――空は青く澄み渡り。

――樹々は碧々と緩やかに煌めいて。

――優しい風が豊かな香りと共に髪を撫でる。

 

と言う、かすかな希望は欠片もこの世には無かったからだ。

 

空は青く澄み渡り? 不気味な夕暮れ近い薄曇り色で気分を落ち込ませるだけだ。

樹々は碧々と緩やかに煌めいて? 混沌レベルで生存競争を繰り広げている樹々の下には禄に光さえ届いてこない。

優しい風が豊かな香りと共に髪を撫でる? 嫌な湿気と、枝なのかモンスターなのか良く分からない何かがずっと首筋をなぞってくる。

 

こんな環境だから、持続的に精神ダメージを食らわされていると言っていい。

実際、パルクールで都市部を駆け抜けた経験は豊富でも、山道を駆け抜けた経験などタンスに小指ぶつけた経験よりも少ない。

当然ながら山道なのか木々の隙間なのか判断出来る訳もなく、ただ歩くだけでも射命丸の判断を宛てにするしか無いのだ。

幸いにも足腰の耐久値が、山歩きにも対応出来る程度には高かったのが不幸中の幸いだろうか、

 

射命丸「ほら、ブーンさんブーンさん。もうちょっと、もうちょっとですて。頑張りましょう!」

 

(ヽ´ω`)「かー……?」

 

射命丸「いえいえ、今度は本当です。さっきのさっきも本当でしたが、今回はより精度の高い真実ですよ」

 

(ヽ´ω`)「ゆー……」

 

射命丸「むー。そう言われると弱っちゃいますがね。ですが、今のはちゃんと人間換算の"もうちょっと"ですよ」

 

(ヽ´ω`)「うま~……」

 

かゆうま言語の完成まで後少しといった所か。

他者から見るとコミュニケーションが成り立っているのが不思議な会話だが、射命丸の高い理解力がこの奇跡を可能としていた。

それを踏まえて四捨五入すれば順調に進んでいると言えなくはない。

しかし山道とは自然の摂理の中にある。それは油断している来訪者に突如牙を向ける。

 

(;´ω`)「ッ?!」

 

硬く不揃いの岩場を歩いていた時だった。何となしに体重を預けた岩の一部が、突然崩れたのは。

しかも運が悪い事に、崩れゆく先は更に影の濃い鬱蒼とした斜面。

 

射命丸「ブーンさん!?」

 

咄嗟に射命丸がカメラ紐越しに体重を支えようとするが、現状の省エネモードの射命丸には男子高校生一人の体重を抱えるだけの出力が無い。

対する内藤ホライゾンも、言語中枢がリストラしていた事もあって、咄嗟に射命丸の名を叫んで妖力開放すら出来ずに居る。

結果、妖力開放する間もなく谷底へと転がり落ちていく他に為す術が無かった。

 

(; ω )「おおおおおおおお~!?」

 

二回転。三回転。四・五・六回転――。

どちらが天地であったか忘れてしまう程に世界は回る。

ボーリングで投げられる玉の気分を散々味わった後、しなやかな植物に体が受け止められる感覚を最後に、回転はようやく止まった。

 

(;´ω`)「う……いてて」

 

射命丸「大丈夫ですかブーンさん1? 大事無いですか!? 頭大丈夫ですか!?」

 

(;´ω`)「おー……。ほら、ちゃんと抱えてたから大丈夫だお。多分壊れて無いと……」

 

射命丸「超高校級のアホですか貴方は! 確かにカメラが一番大事ですが、貴方の体も壊れたら代えはないんですよ!?」

 

(;´ω`)「ご、ごめんだお」

 

確かに、転がった先の斜面がささくれだった岩場や毒キノコの群生地とかだったらと考えるだけで、背中にひんやりとした物を想像させた。

転がった先の地が比較的柔らかだったのが幸いだったと言える。

 

無事だと確認した射命丸は、安心と呆れの成分を含んだため息を解き放った。

 

射命丸「……はぁ、お説教は後にしてあげます。――それにしても、この周囲は植物の顔ぶれがまったく違うようですね」

 

( ^ω^)「お? おー……確かに樹よりも竹のが多い感じだお」

 

先程まで歩んでいた岩場と土と様々な広葉樹の群生地とは一変して、ほぼ8~9割が竹で覆われている。

竹林、という表現のが相応しいだろうか。

事実、クッション代わりになったのも若い竹であり、地面も笹で満たされた腐葉土だ。

 

(;^ω^)「う、流石に若竹でも、あの勢いじゃ痛いもんは痛いお……」

 

今更鈍い痛みが追いついてきた背中と横っ腹のあたりをさすりながら、よろよろと立ち上がった――つもりが、上手く立ち上がれずに体は意思に反して再び崩れ落ちる。

 

(;^ω^)「あ、あれ?」

 

全身が正常化していくと共に、右足の違和感を強く感じる。

何となく感覚が鈍い。

 

射命丸「ちょっと、裾をまくって見せて下さい……あやや、ちょっと腫れてきているようですね」

 

(;^ω^)「うぇ!? こっこっこっこっこっ……」

 

射命丸「にわとり?」

 

(;^ω^)「そ、そうじゃなくて骨折とかかお!? ……すごく痛いし不便って聞いたから怖いお!?」

 

射命丸「うーん。私は"医者"ではなく"記者"ですからね。正確にはわかりませんがたぶんまぁおそらく大体折れては居ないかと。悪くて罅か、筋を違えたのでは?」

 

(;^ω^)「ううう……怖くて直視出来ないお……」

 

――奇妙な話だ、と射命丸は思った。

この程度で身を震わせたり、暴れ車に涙ながら絶叫するようなこの青年が、仲間の危機を前にして激情を心に宿した時には死の恐怖すらも乗り越えてしまうのだから。

これも人の面白さの内か――と、思わず笑い声が漏れる。

 

(;^ω^)「な、な、なに笑ってるんだお?! 手遅れ的な何かなのかお!?」

 

射命丸「――いえ。大した事ではないですよ、頭の出来意外は。あー、そうですね……最悪折れかかってたとしても普通の人間ならば一月二月安静の所、妖力で身体強化を施せば何と! 数刻もせずに完治するでしょう」

 

それを聞いてようやく安心したのか、体の緊張が抜けていくのが見て取れた。

射命丸は寄り添うように肩の上に腰を落ち着ける。

 

射命丸「さて、このままでは色々と不都合が多いですし、近づく妖力の警戒はしておきますから、ブーンさんはさっさと妖力開放して下さいな。こうしている所を誰かに狙われたら、それだけで危険――」

 

「――おーい、誰か居るのかー! 大丈夫かー!?」

 

(;^ω^)「な!? だ、誰か来るお!」

 

女の声。

突然の気配に、緩みかけていた緊張の糸は再び張り詰め始めた。

咄嗟に射命丸の名を呼ぼうとする内藤。しかし、射命丸はそれを制する。

 

射命丸「少し様子を見ましょう。夢幻例大祭参加者ならば、手負いで交戦するのは流石に分が悪いです。それに――」

 

声をかけてきたのならば、先制攻撃をする意思がないという事。

それだけで敵である可能性はぐっと少なくなる。

相手が一般人にしろ、契約者にしろ、ここは穏便に接触するのが最善という判断だ。

 

「怪我してないかー! 返事してくれー!」

 

(;^ω^)「……あう、こ、ここに居るおー」

 

何と声をかけるべきか。そもそも返して良いのか迷ったが、結局ひねりも無く存在を告げた。

あまり声を張れなかったが、何者かはそれでこちらの所在を大まかに掴んだらしい。

 

「分かった今行くぞー!! 待ってろー!」

 

可愛らしい声だが、口調と威勢が勇ましい。

そのアンバランスさにどこか射命丸達のような妖怪少女を思い起こさせる。

正直、食われるのでは無いかとさえ考えていた。その姿を見るまでは。

 

ノパ⊿゚)「おっ! そこに居たか!」

 

見た目、中~高校生くらいだろうか。身長は高い方ではなく、小柄と言ってもいいくらいだろう。

動きやすさと丈夫さを重視しているのか、作務衣のような和風の装いをしている。

後ろでくくられた長めの髪が、彼女が地に足を踏み降ろす度に尻尾のように左右に揺れていた。

 

ノパ⊿゚)「近くで岩が崩れた音が聞こえたから、様子見に来たんだ! 一人か!?」

 

彼女は相当山歩きに慣れているのか、素人目に見ても軽やかで安定感のある足取りで、まるで舗装された道でも歩くようにあっという間に目の前までたどり着いた。

 

(;^ω^)「お、おお……」

 

コクコクと首を上下に振る。と、それを彼女の手ががっしりと掴む。

 

ノパ⊿゚)「おい、怪我した所はあるか!? 見せてみろ!! 頭打ってないかッ!?」

 

(;^ω^)「ひ、一人だお。ちょっと……足を捻ったくらいで、少し休めば――」

 

ノパ⊿゚)「それはダメだぞッ!! 治療は早いほうが良いんだから、そのままじっとしていろ!!」

 

こちらの話を聞いているのか居ないのか同意を求めるまでもなく、彼女は一回りも二回りも大きい男子高校生の体躯を、無造作に背負おうとする。

 

(;^ω^)「ちょっ、流石にそれは無理だお……ほんと、ちょっと休めばまた歩け――」

 

ノハ#゚⊿゚) 「ごちゃごちゃうるさいぞっ! けが人は黙っていろ!」

 

(;゜ω゜)「は、はい! けが人は黙っております!」

 

そうか、何となく既視感あると思ったら、これはツンがブチ切れている時に似ているんだ。

一人納得すると、それ以上は余計な口を挟まないように借りてきた猫の如く身を委ねる。それは体に染み付いた悲しい反射行動。

とはいえ、やはり無茶が過ぎるのでは無いかと崩れ落ちた時の対処を覚悟した。

 

ノハ#゚⊿゚) 「ふんっ……っと。よし、そのまま捕まっててくれ! 良いな!?」

 

だが、それは杞憂だったらしい。彼女はその背に余る男の体(やや太り目)を自分の体重に加えると、来た時と左程変わらずに竹やぶの中を歩み始めたのだ。

 

(;^ω^)(す、すごい体力だお。ツンよりもパワーあるかもしれないお……)

 

ふと、参加者――妖怪との契約者に共通する体力強化の面を思い出す。

もし契約者ならば、少女の体躯でも大人くらい持ち上げてしまってもおかしくはない。

 

( ^ω^)(ばれないように気をつけなきゃだお)

 

首から下がるカメラを片手でしっかり握りしめ、中で姿を隠している射命丸の存在を感じ取る。

射命丸とは違う理屈だが、戦闘はなるべく回避したいのだ。

親切にしてくれた人に恩ではなく攻撃を返さなきゃならないなんて、考えたくもない。

 

ノパ⊿゚)「どうしたっ!? 傷が痛むか?! もうちょっと待ってろ、すぐ着くぞ!」

 

( ^ω^)「おー……」

 

射命丸が散々言っていたのと同じ、"もうちょっと"というワード。本当はそれなりの距離なんじゃないかと嫌な予感が過ったが、それは思い過ごしであったと直ぐに思い知る。

時間にして十分もかかっていないだろう道のりは、唐突に広がりを見せた。

 

ノパ⊿゚)「――着いたぞ! すぐ治療してやるからなっ!!」

 

( ^ω^)「お?」

 

そこは寺だった。それもかなりの年季が入っているだろうとても古い寺。お化け屋敷と言われても通用するだろう。

土地に余裕があるからか、敷地は広く竹林や森との境目があやふやに混在している。

それでも整備もある程度整っているらしく、砂利や石畳の敷かれている箇所に草や落ち葉が傲慢に幅を効かせている様子はない。

ふと、気になった事をそのまま口にしてみる。

 

( ^ω^)「ここは何て名前の寺なんだお?」

 

ノパ⊿゚)「ここか? ここは美布寺だぞー」

 

( ^ω^)「美布寺、美布寺……もしかして……?」

 

それは確か、伺っていた目的地と同じ名前ではないだろうか。すると最終的には目的地に着けたことになる。

思ったよりも――いや、想像していた最悪の宿よりも2ランク程は上等な宿だ。

 

( ^ω^)「けっかおーらいってやつかお?」

 

自分より小柄な――それも女の子に背負われているというのも、ある意味貴重なモテ体験なのかもしれない。

頭鷲掴みに捕まえられた方は全力で忘れよう。

 

ノパ⊿゚)「……よっと」

 

背中で揺られるがまま大人しくしていると、やがて彼女の足は敷地内でも一際立派で古い木造の建物の中で立ち止まった。

――本堂、なのだろうか。夕暮れの赤々とした光が今入ってきた扉から差し込んで居るのを除けば、締め切られている室内に元々あるのは雰囲気そのままの太いろうそく数本分の照明と言った所だ。

奥の方まで本堂は広がっているようだが、これじゃとても全体は見通せない。

そんな光と闇の境ぐらいの場所に、床板が軽く軋む音と共にようやく体が降ろされる。

 

ノパ⊿゚)「よし! 傷見せろ!」

 

(*^ω^)「い、いやん……。そんな乱暴に脱がさないでお!」

 

追い剥ぎ一歩手前のワイルドな脱がせ方に抗議する間もなく、あっという間にパンツ一枚だけに剥かれてしまう。

カメラだけは死守したが、かえって裸カメラという新ジャンルの開拓に繋がってしまった。

気のせいかカメラの中から小さく嘔吐するような声が聞こえてきた気がする。

 

ノパ⊿゚)「よし擦り傷は大したことないな! 足の方も、折れちゃいないみたいだ! ただの軽い捻挫だろ! 多分!」

 

( ^ω^)「多分て」

 

どいつもこいつも人の体だと思って適当に診察してくれやがるものだ。

しかし実際鈍い痛みはあるものの激痛で歩けないという感じは無さそうだ。

むしろ、捻挫と決めてくれたのは精神的に助かっている。

 

ノパ⊿゚)「えーっと、とりあえず冷やすんだったっけ? よし、井戸水酌むか! 打ち身に効く薬草も採ってこなきゃな!」

 

忙しなく動き続ける彼女は、かなりたくましい生活を送っているようだ。

行動力の塊と言っても良い彼女は、治療の時以外ずっと大きな声で次やるべき事を宣言しているらしい。

 

射命丸「"姦"《かしま》しい、と言うより"喧"《やかま》しいですね。あの子」

 

彼女が四度目に姿を消した時、射命丸はカメラの上にちょこんと飛び出すと、そう呟いた。

 

(;^ω^)「しーっ。思っててもそういう事言っちゃ駄目だお? 助けてくれたのに聞こえたら悪いお」

 

射命丸「大丈夫ですて。私の声は聞こえないですよ。これだけ近くでじっくり接触してくれたら、契約してるかどうか妖力の残滓で分かりますもの」

 

( ^ω^)「お? じゃああの子は無関係の普通……の子?」

 

射命丸「普通かどうかは置いといて、参加者じゃないのは確かですねぇ。私も一々隠れなくて済みますよ」

 

と、言うことはあのパワーは素で身につけているということか。小柄なのに結構体が引き締まってるらしい。

 

( ^ω^)「……」

 

パンツ一丁にされてむき出しになった太ももを、ぶにり、と掴む。

昔からどんだけ激しいトレーニングをしても、外側はずっとこのモチモチ具合を維持されたままだ。

 

射命丸「……気を落とさないでブーンさん。肉質は柔らかさと味が重要ですから」

 

( ^ω^)「え、何? 僕将来は食肉に就職?」

 

と、和やかに気を緩めていると再びドタドタと遠くから足音がやってくるのが聞こえてきた。

おそらくあの子が帰ってきたのだろう。不審に思われては困る。あくまで平静に、だんでぃ&じぇんとるまんに対応せねば。

 

( ^ω^)+ キラーン「やぁおかえりお嬢さん。そんなに慌てたら危な――」

 

ノハ*゚⊿゚)「おい腹減っただろ!? 喜べ! かなり痩せてるが肉を仕留めたぞ! 肉! 食うか!?」

 

('A`)

 

(;゜ω゜)「うぇええい!? ドクオぉおぉうぅ!」

 

友人が 仕留められたよ 恩人に(五・七・五)

 

久しぶりに会った友人は、いつもどおりの力の無い表情そのままに、身じろぎ一つせずに両手両足を棒にくくりつけられていた。

流石に小柄な体躯と言えどもこれを担いでくるのは難しかったらしく、引きずって運ばれた後が乱れまくった服装に現れている。

そういえば外は砂利敷だったが……あまり考えないようにしよう。

 

( ;ω;)「ドクオー! なんかデジャブ感じるけどドクオー! どうしてこんな姿にー!」

 

ノハ*゚⊿゚)「へぇ、どくおって言うのかこの肉! 鍋にするか? それとも焼く?」

 

( ;ω;)「いやこいつあんまり食べる所無い――じゃなくて! これ僕の友達だお!?」

 

結局その後事態が収拾するまで、少しかかった。

なんせ射命丸はずっと爆笑と失笑の間に居るし、恩人は恩人で人の話を聞かなかったからだ。

決め手としてはドクオがぼんやりとした意識を取り戻して、一言『水』と漏らした事だった。

 

('A`)「いやさ、ここに登る階段の途中で休んでたらよ。この子が急に後ろから首をチョークスリーパーで絞め落としてきて……」

 

ノハ;゚⊿゚)「わ、悪かったぞ……。薄暗がりでぼんやりと居たから、化物か獣のどちらかなーと思ってつい……」

 

(;^ω^)「いやいやいや、それで何で襲っちゃうんだお? んでドクオもドクオで何でされるがままなんだお?」

 

ノハ*゚⊿゚)「獣の可能性に賭けたんだぞ!」

 

(*'A`)「なんか女の子の良い匂いがしたから、このままでもいっかなぁ……って」

 

( ^ω^)「あ、分かった。こいつら両方バカなんだお」

 

自分の隣を見やれば、とうとうツボに入ってしまったのか腹を抱えた体勢のままピクピクと痙攣する自らのパートナー。

ツッコミ役が自分しか居ないという状況はこれほどまでに気が重いとは思わなかった。

 

('A`)「それはそれとして、俺のジャージどうすっかな……ボロボロになっちまった」

 

( ^ω^)「服としての役目果たせてないお。顔と体にモザイクかけなきゃ」

 

('A`)「ブーンこそなんでほぼ全裸なんだよ。とうとう豚の本能に目覚めたか」

 

( ^ω^)「僕もドロドロに汚れちゃってるんだお。――っておい、今なんつった」

 

いつもなら拳と拳で話し合いをしてやる所だが、今は二人共万全ではない。運が良かったなと見逃してやる。

ふと、そんな折、熱い視線がこちらを訝しげに見ている事にようやく気がついた。

 

ノパ⊿゚)「なぁ、ふたりともそんなになってまでこの辺りに何しに来たんだ? 地元の人もほぼ近寄らないってのに」

 

(;^ω^)「え、あー……えっと」

 

(;'A`)「そりゃ……なぁ?」

 

夢想器という不思議アイテムを探しに来たんです! とは流石に正直に言えない。

射命丸はこの子が無関係だと判断した。なら、うかつな發現は彼女を巻き込んでしまう事になりかねない。

 

ノパ⊿゚)「んー? 話しにくい事か?」

 

軽く濡らしたタオルが、捻った足に押し当てられ、少し痛みが和らぐ。

彼女はそのまま足の汚れを丁寧に拭き取り始めた。

都合良く視線が他を向いている内に、こちらも身振り手振りで今のうちにドクオと射命丸とコミュニケーションを図る。

 

(;^ω^)(なんて説明すればいいんだお? てかモララーさんは何処行ったんだお!?)

 

(;'A`)(俺が知るか! モララーさんは俺が目覚めるのと同時にどっか行っちまったよ!)

 

(;^ω^)(え? 指示とかそういうの聞いて置かなかったのかお!?)

 

(;'A`)(受けてたら今こんな困ってねぇよ! つかお前こそ何で予め聞いておいて無いんだよ!)

 

(#^ω^)「僕だって色々あったんだお! 命の危険とか死にそうな体験とか九死に一生スペシャルとか! ずっと寝てただけの癖に文句言うなお!」

 

(#'A`)「はー!? 寝てたんじゃないですぅ気失ってたんですぅ! 無駄に元気なお前に繊細な違いは分からねーみたいだなおい!」

 

(#^ω^)「おー! 言ったお? じゃあその繊細なドクオ様は何か名案思いつくんですかー!?」

 

(#'A`)「コミュ力底辺組なめんな! お前こそ愛されゆるふわボディ(笑)で和やかにごまかしてみろよ!」

 

射命丸「あの、お二方。さっきから声出てますよ」

 

(;^ω^)(;'A`)「……え?」

 

ノパ⊿゚)「……お前ら、もしかして――」

 

しまった――と、後悔した時にはもう誤魔化せない所に居た。

手当をする手を完全に止め、彼女は訝しげに二人の顔を見つめている。

ここで騒ぎになってしまえば、夢想器探しどころでは無くなる。下手すれば部活も活動初日で自粛・謹慎。そして解散からの伝説へ――。

 

ノパ⊿゚)「――もしかして、同じ学校の友達同士か? 仲良さそうだもんなっ」

 

一瞬、思考が停止した。

確かにそうだが、今その話出るタイミングじゃないだろう。

そんなツッコミを胸の内でくすぶらせているのは全員だったと思う。

 

射命丸「……良くも悪くも単純な子のようですね」

 

(;^ω^)「お、おお……」

 

何はともあれ、とりあえずは不審に思われずに済んでいるようだ。複雑な気分だが、ラッキーには違いない。

 

ノハ*゚⊿゚)「よしっ! 今日はもう遅いからな! お前ら風呂入って飯食って泊まっていくといいぞ!」

 

実際、彼女にとっては目的不明でやってきた二人の男子に関する疑惑は些細な事らしく、むしろ久方ぶりに現れた客をどう持て成すかを張り切って考える方が重要のようだ。

 

ノハ*゚⊿゚)「いっぱいお喋りしような! うまいもんも沢山食べさせてやるぞ! 嫌いな物とかあるなら先に言ってくれ! と、トランプとかもあるぞ!?」

 

今にもスキップしそうな様子で、ウキウキと用意に取り掛かる彼女を見て、すっかり張り詰めていた気が抜けてしまった。

あの射命丸でさえ、何処か孫を見るかのような優しげな微笑みで居るのだ。本人にそれを言えばたちまち鬼婆のような形相になるだろうから言わないが。

 

「おーい、先に風呂入ってさっぱりすると良いぞー! ちょうど沸かしてた所だったんだー!」

 

(*^ω^)=3「ここは、お言葉に甘えようかお?」

 

射命丸「ふふ。お世話になりましょうか」

 

華やかなリゾート地ではなかったが、居心地は存外良いのかもしれない。

これから出るだろうごちそうに、腹の虫が期待の声をあげた。

 

 

 

ノパ⊿゚)「湯加減どうだー?」

 

(*^ω^)「すっごく気持ちいいおー!」

 

よく手入れのされた木組みの風呂で、ゆっくりと手足を伸ばしながら窓ごしに答える。

古寺の風呂と聞いて少し覚悟はしていたが、案の定シャワーは勿論ガスや電気での給湯機能も無い昔ながらの鉄釜隣接木造様式。

だが実際入ってみてしまえば不満なんて跡形も無く消滅してしまった、

濡れると木の香が仄かに染み出す壁。肌触りが中々に心地良い床。極めつけは両足伸ばすどころか中で眠れるんじゃないかという大浴槽。

外で薪を焼べて火の管理をしている彼女には申し訳ないが、長風呂していたくなる程最高の風呂だ。

 

(*^ω^)「なんかお湯がちょっとシュワシュワするのも面白いお。入浴剤かお?」

 

ノパ⊿゚)「ここの水は強炭酸水ってやつなんだぞ。所で、火加減ぬるめにしといたが、どうだ?」

 

('A`)「俺にはちょっとあっちぃかな……」

 

湯船に指の先っぽをちょっと浸けて、ドクオは入るのを躊躇する。

普段湯船自体に浸かることないドクオにとっては、恐る恐るの挑戦なのだ。

 

ノパ⊿゚)「なら少し埋めると良い! 風呂の横に小さい蛇口ついてるだろ! 井戸から引いてるから冷たい水出るぞ!」

 

(;'A`)「あれ、ひねるタイプじゃねぇのか。ちっこい手押しポンプかよ」

 

( ^ω^)「ドクオは文句多すぎるお。入ってみたら快楽に溺れちゃう程柔らかいお湯だお?」

 

('A`)「いいよ俺は軽く流すくらいで。俺が入ったらごぼう入り豚汁完成すんぞ」

 

ノハ;゚⊿゚)「や、やっぱ熱かったか!? す、すまん! 私が入る時はもっと熱いくらいだから加減が良く分からなくて……」

 

(*'A`)「おいちょっと詰めろブーン。俺今日めっちゃ疲れたから全身で浴びるわ」

 

( ^ω^)「おい何想像したお」

 

ノハ*゚⊿゚)「ふふ……」

 

竈に焼べた炭の盛り方と混合具合を調整していると、ふと笑みが零れた。

いつ以来だっただろうか、こうして風呂の世話を誰かのためにするのは。

忘れかけていた自分以外の誰かが居てくれるという"安心感"。

言葉を投げかければ、ちゃんと返ってくるという"期待感"

満足してもらえるように精一杯もてなしてあげるつもりで居たが、それ以上にもう胸が踊っていた。

 

( ^ω^)「――ところで、まだ名前聞いてなかったお?」

 

ノパ⊿゚)「んぁ? ……ああ!」

 

言われてみればそうだったな、と今気がつく。

初対面の人に会った時は、まず自己紹介からだと教わったのに恥ずかしい失態だ。

失礼にならないように、精一杯やらなければ。

 

ノハ*゚⊿゚)「わ、私は素直ヒートだ! です! この寺で一人暮らししているぞ! です! えと、特技は竹炭作りと狩猟で……えと、えとぉ……!」

 

(;^ω^)「お、落ち着くお。えーと……素直さん?」

 

ノハ*゚⊿゚)「……え? あ! それ私だ!」

 

(*'A`)「ヒートちゃん……」

 

(;^ω^)「ドクオ。いきなり下の名前呼びは失礼じゃないかお?」

 

ノハ*゚⊿゚)「そんな事無いぞ! 地元の人達も私の事をヒートちゃんって呼ぶからな!」

 

( ^ω^)「そういう事なら、ヒートちゃんって呼ばせてもらうお。僕は内藤ホライゾン。僕のこともブーンって呼んで欲しいお」

 

足側で赤く茹で上がりながらニヤニヤとして呆けてるドクオを、つま先で軽く小突く。

するとドクオも慌てて自分の名前を名乗り始めた。

 

('A`)「……俺は宇津田独男17歳。群れるのが嫌いな一匹狼で普段過ごしている……」

 

( ^ω^)「いつもぼっちで居るって事だお。のぼせてるだけだから気にしないでくれお」

 

ノパ⊿゚)「ブーンとぼっちのドクオだな! 覚えたぞ!」

 

('A`)「ねぇ泣いていい?」

 

( ^ω^)「ひとりぼっちはドクオの二つ名みたいなもんだから諦めろお」

 

ノパ⊿゚)「私もずっとひとりぼっちだぞ! だけど大丈夫だ!」

 

( ^ω^)「……」

 

どうして、という疑問がふと頭に浮かんだ。

 

どうしてこの子は一人でここに居るんだろう。親は? 学校は? 食べ物や服や日用品はどうしてるんだろう。

同じくらいの年頃の女子なら、もっと色々やりたいことだらけだろうし、夢とか目標だってあるんじゃないだろうか。

 

( ^ω^)「ヒートちゃんはずっとここに住んでるのかお? お坊さんとか居ないのかお?」

 

ノパ⊿゚)「んと、前は住職も居たぞ! 私に色々教えてくれるすっごい優しくて厳しくて良い人だった。だけどある日――」

 

――沈黙。薪が爆ぜる音が風呂場に届く。

 

ノパ⊿゚)「急に、居なくなっちゃったんだ。『お前に託す』って言い残して」

 

( ^ω^)「託す?」

 

ノパ⊿゚)「多分、じほーの事だと思うぞ! じほーってのがよく分からんないけど大事だって言ってたから!」

 

じほー。なんだろう"時報"? 時間どおりに鐘をつけって意味なのだろうか?

そんな事を考えていると、向かい側のドクオが真顔で教えてくれた。

 

('A`)「"寺宝"じゃね? 寺の宝って書いて寺宝。寺ってよぉ、結構儲かるらしいし古い由緒ある仏像とかあるって言うからな」

 

( ^ω^)「ほー、すごいお宝かお? でも仏像とか古いアイテムとか僕には価値が良く分からんお……」

 

('A`)「いやいや、宗教関連のアイテムってのはすげーぞ? 金メッキだったり歴史に名前あるような人が作ってたりするから何千万とか億とか行っちまうんだよ」

 

(;^ω^)「おぅおぅおぅおくぅ!?」

 

貧乏高校生には想像が付かないレベルの数字が出てきた。

それはあれだ。札束でプールとか、高級ワインでお風呂とか、スーパー銭湯貸し切りとかそういうレベルじゃないだろうか。

 

(;^ω^)「って風呂ばっかりしか思い浮かばないお……。風呂に意識もってかれてるせいだお……」

 

('A`)「つってもよ。そういうのは由緒正しいでっかい神社仏閣の話で、こんな辺鄙な所にある寂れた寺にそんな宝――」

 

ノハ#゚⊿゚)「辺鄙な所の寂れた寺だと!? 馬鹿にすると承知しないぞ!」

 

ドクオの発言を遮るように飛んできたのはヒートの怒声だけでは無かった。

窓枠が大きく開いたと思った次の瞬間には、炭塊を両手に持った彼女自身が有無を言わさず飛び込んできたのだ。

 

(;^ω^)「えっちょ! 僕たち裸だお!?」

 

ノハ#゚⊿゚)「うるさい! 知るか! これでもくらえええ!」

 

標的としてまず囚われたのはやはりドクオであった。裸の華奢な体を縮こませて必死に逃れようとするも、それは無駄。

同じくらい華奢な体躯でも体力派である彼女の前にはあまりにもむなしすぎる抵抗。その腕にあっさり捕まると、硬く閉じられた場所に無理やりアレを突っ込まれてしまう。

 

(;'●`)「モゴォ!?」

 

(;^ω^)「ひぃ! ドクオに大きくて硬くて黒くて長いのが!?」

 

ノハ#゚⊿゚)「寺の悪口は許さないぞ! お前が謝るまで! 絶対に!」

 

(;'●`)「むぐもご……!?」

 

当然、物理的に喋れないドクオから謝罪の言葉が届く筈もなく、ヒートの怒りは収まらない。

なすがまま床にうつ伏せに抑え込まれたドクオの上に、ヒートは馬乗りになるともう片方の手に握った立派なそれを、彼のもう一つの"口"へとロックオンする。

 

(;^ω^)「待って! それ以上はいけない!」

 

当然、友人の純潔が散らされるのを黙って見ている訳にも行かない。こんな事が無ければドクオは一生純潔で終われると決まっているのだから。

しかし、この行為は文字通りヒートを更に"熱く"させただけだった。

 

ノハ#゚⊿゚)「邪魔するならお前もだああああああ!」

 

(;゜ω゜)「え? ちょっそんな逞しいの無理無理無理――アッー!!!」

 

射命丸「――やれやれ、ですねぇ」

 

脱衣所で一人カメラの番をしていた射命丸は、風呂場から聞こえてきた嬌声混じりの断末魔に、首を振りながら黙祷をささげた。

 

 

 

 

 

 

 

( ・∀・)「――そろそろ、かな?」

 

同山中――。人の一生分は過ごしてきたであろう大樹の上でモララーは一人呟いた。

 

衣玖「ええ、本日の天候は晴れ。ですが、波乱の大荒れへと変貌するかと」

 

否、傍らにはこちらの世界の者ではない永江衣玖の姿がある。

そしてもう一人、あからさまな不機嫌を絵に書いたようなダウザーも一つ下の枝に座り込んでいる。

 

ナズーリン「最近、碌でもない宝探しをさせられているような気がするよ」

 

( ・∀・)「はは……。すまないねナズーリン君。適材適所というやつだ。勘弁してもらえないか」

 

右手から垂らされたペンデュラムが一見不規則に見える旋回を、規則的に繰り返す。

これは対象が発見と未発見のどちらでも無いという事を示している。

 

( ・∀・)「ふむ。長丁場になりそうだ。衣玖君、大荒れになるかもしれないって言ってたね?」

 

衣玖「はい。そうならないよう祈っておきたい所です」

 

( ・∀・)「……そうだね。私もそう祈りたかったよ」

 

モララーの眼下を通る一本の道。

オシロスコープでその道を辿っていくと、黒い高級車が二台――。木陰に隠れるように止まっているのが辛うじてわかる。

 

( ・∀・)「――せめて幸運を祈っておくよ。君達」

 

ここからは伺い知れない彼らへと願った届く事の無い言葉。

風向きは既に変わり始めていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。