東方地霊殿 〜Terrene Animism.【完結】 作:LOORUME
「さとりさま。お客様です」
お燐がドアも叩かず入ってきた。一体どうしたと言うのだ。
すると、何も言わず出て行った。なんだったんだろう。さとりの方を見ると、どうやら心を読んだらしい。
そしてその表情を鑑みるに、少なくともこの状況の助けになる存在だな。
この状況。今は地霊殿の一室で、二人でベッドに臨んでいる。あたしと、さとりだ。
ベッドで眠っているのは、こいし。昏睡してるとも言える。
今度はドアのノック音がした。入ってきたのは尾反夜霧だ。
「こいしは、大丈夫なのか?」
「大丈夫とは言えないさね。少なくとも、妖怪であれば丈夫ではあるはずなんだけど」
「勇儀さん、変な言葉遊びをしている場合じゃないんです。こいしは今、昏睡状態です。ええ、驚く気持ちもわかりますよ」
「もうちょっと、詳しく教えてくれ」
「はあ。えぇと、大体はあなたがヤマメさんから聞いたことで全部なんですが───いえ、言うべき事がまだ少しありますね」
「なんだ?」
ふむ、ヤマメに言ったことを言いふらされたか。まあいい、夜霧なら信用できるし。あ、でもキスメはどうだろう。
「こいしはこのままであれば、ほぼ確実に、妖怪として消失するでしょう。
あなたの知っての通り、妖怪とは精神に依存する存在、という事は知っているかと思います。
ですが、こいしは長時間、それも膨大に能力を使った。それによって妖力の源である精神が削り取られてしまったのです。
先ほど、病気として対処すれば治るのでは無いか、と思いましてヤマメさんを呼びました。でも効果はありませんでした。
対処法は無いのか、と思いまして心を読んだんですが、こいしの心は無。
皮肉にも、故意識を操れる彼女が無意識になってしまったのです」
「ん…? お姉ちゃん? 何を話してるの?」
「!!」
驚いた。まさかこいしが意識を取り戻すとは。
夜霧を見るといかにも、してやったり、という顔をしていた。彼の能力によるものらしい。
でも、どうやったんだ?
「よ、夜霧さん。どうやったんですか」
「なあに。簡単に、さ」
「教えてください!」
「じゃ、お見舞いも終わったし俺は帰るぞ」
「待って!あっ」
足早に立ち去ってゆく夜霧。よほどお礼を言われたくなかったらしい。そこまでいくと完全に薄情者だぞ。治したけど。
「行っちまったな」
「そうですね。今度、お礼をちゃんと言わないとですね」
「いや、宴会のついでに言えば良いじゃないか」
「またお酒ですか」
「はは。でもさ、さとり」
「なんです?」
私が言わなくともわかってるくせに。まぁ言いけど。
「───なんで夜霧の心を読んで、どうやったのか聞き出さなかったんだ?」
「それは」
一息ついて、また始めから言う。
「それは、心を読めないからです」
「え?」
心が読めなかった?
「さっき、心を読んでたじゃないか」
「いえ、あれは──」
「お姉ちゃーん、放置しないでよー」
「あぁ、ごめんねこいし」
「あの後、何があったの?」
「それはね、あなたが気絶しちゃって、それで──」
ゆっくりとドアを閉じ、室外に出る。
姉妹の時間を邪魔しちゃ悪いし、人の家に長くいるってのも悪い。
廊下を歩きながら考える。
どうして夜霧は、さとりの能力を無効化できたんだ?能力に干渉するような能力なのか。
エントランスに向かう。
能力干渉系の能力ならば、かなり厄介な存在だ。例えば八雲の紫みたいに。
そして仮に無効化する程度の能力とかであったら、それはもう幻想郷を統べられるくらいだろう。
ドアを開き、外に出る。
でもどうだろう。妖怪では無いが、能力もそれなりに人格に影響されるものだ。相手を無力化させるとか、アイツの性格に合っていない気がする。
私の住んでいる所に向かって歩き出す。
何にせよ、今度聞いてみればいい。夜霧か、それこそさとりにでも。
何が起こったかはしらないが、夜霧が何かやったということは分かる。また、飲み潰させて聞き出すか。
家への足取りは軽い。