「イツキちゃん、お客さんが来てるよ」
「お客さん?」
ウェズリーから逃亡して数日後。あれから学校ではアイちゃんから逃げ続けていたよ。
ダンボールやゴミ箱に隠れたり、木のふりをしたり、ホントに大変な日々になりつつある。
「こんな朝早くから誰だよ全く……」
そんなことを考えつつも、俺は早朝からやってきたお客さんとやらを追っ払うことにした。
「はいはい、イツキさんが来ました――」
「おはようございます、イツキさん」
――バタンッ
「間に合ってます」
なんだ、ただのピンポンダッシュか。そんなことだろうと思ってたんだよね。
うん、目の前にアイちゃんがいたとかじゃなくてよかった。とてもよかった。
『イツキさん! 開けてくださいっ!』
学校に行きたくない。
「スミ姉、一生のお願いだ。今日だけ休んでもいいかな?」
「ガールフレンド外に待たしといて何をほざくかと思えば……さっさと搾られてこい」
それはシバかれてこいの間違いだよね? そうなんだよね?
「なんでアイツがいるんだよっ!」
「知るか。私が聞きたいぐらいだ」
スミ姉が知らないとなると……調べたな。そこまでして何が目的なんだよ。
いや、なんとなくわかってる。べ、勉強とか言ってたからな……。
とはいっても許可が出なかった以上は行くしかない。俺は支度をして外に出た。
「……おはようございます」
「おはようさん」
さすがにここまで来られては逃げられないな。遅かれ早かれわかってたことだ。
なのに気づけなかった。これはこれで酷いな、ホントに。
「で、何しに来たの?」
「学校だとイツキさんは話も聞かずに逃げてしまいます。なので失礼ながら朝からお迎えに参りました」
マズイ。このままだとアイちゃんまでおかしくなってしまう。あのウェズリーのように。
「…………降参だよ」
「やっとその気になりましたか」
「話の内容は大体わかってる。勉強だろ?」
「はい。今のイツキさんの学力だと補習や追試は確実です。実技試験は大丈夫でしょうけど」
「まあな」
ぶっちゃけ実技は楽勝だ。なんせ筆記よりは頭を使わずに済むからな。
ただひたすら対戦相手をブチのめすだけ。ドミノを倒すだけのように簡単で――つまらない。
だけど筆記はダメだ。なんだあの次世代でなきゃ解けないような高等数学は。
なんだあの異星人でなきゃ読めないような古代英語は。
「なので私が協力します」
「意味がわからん」
お前には関係ねえだろ。
「ですから――」
「アイちゃん。なんで俺ばっかに構うんだよ」
「……わかりません。ですが、逃げてばかりなのはよくないと思います」
いや、そこまで逃げた覚えは――あるな。
主に学校から逃げている。中等科1年になった今もそうだ。
「…………いいのか?」
「はい。ですが私が協力するからには最低でも平均点は採ってもらいます」
君のボーダーライン高すぎだろ。
「……下げてくれませんか?」
「ダメです」
「チッ」
今度こそ退路は断たれてしまった。
そういや、試験休みを使って合宿するとかスミ姉が言ってたな。
……おいおい、これイヤでも赤点回避しないと俺の命が危ないじゃんか。
「やるしかないみたいだな……」
「? よくわかりませんが、やる気になってくれたのなら何よりです」
「やると決まったところで、何から始めるんだ?」
「まずはイツキさんの学力がどれほどなのか確かめ、次にその学力に合った教材を用意します」
「いや、俺の学力なんて知れたもんだろ?」
「それでも詳しく知る必要があります」
そういうものなんかねぇ?
「……まあ、できるだけ従うよ」
「そうしてくれると助かります」
「いつからやんの?」
「今日からです」
ダッ(身を翻す俺)
ガッ(その肩を掴むアイちゃん)
「どこに行くんですか?」
「ちょっとお腹が痛くなって――」
「学校にもトイレはあります」
てっきり明日からだと思ってた。今日からやるとか冗談じゃねえぞ。
「えーっと、さすがに今日から――」
「その場合、今日の分も合わせてやってもらいます」
「――やってやんよバカヤロー!」
どっちにしろやらなきゃなんねえなら今やるしかねえぞこれは。
そんなこんなで、優等生であろうアイちゃん先生によるご指導が決定したのだった。
《今回のNG》TAKE 19
「こんな朝早くから誰だよ全く……」
そんなことを考えつつも、俺は早朝からやってきたお客さんとやらを追っ払うことにした。
「はいはい、イツキさんが来ました――」
「先輩っ! おはようございますっ!」
――バタンッ
「人違いです」
八重歯がトラウマになりそうだ。