「まさかイツキさんとアインハルトさんが試合するなんて……」
「先輩のバリアジャケット初めて見たな~」
「…………ね、ねえヴィヴィオ」
「どうしたのコロナ?」
「あれ試合だよね?」
「うん。そのはずだけど……」
「そんな風には見えないよ?」
「あたしから見てもあれはケンカの一歩手前だよ」
「う~ん……」
「あ、何か話してる!」
「ここからじゃ聞こえないよ~!」
「後でノーヴェに聞いてみるしか……」
「――お、お前ら聞いてたか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「問題ありません」
俺とアイちゃんは今、ノーヴェが手配してくれた廃倉庫にて正面から向き合っている。
当のノーヴェはルールの説明と試合開始の合図をしてたらしいのだが、それに関してはセラに任せよう。
俺のバリアジャケットは一言で言うならスカジャンがモデルになっている。
ちなみにアイちゃんはいわゆる大人モードというやつになって――というか、変身魔法だな。
将来的にもこんな風に成長してくれたら嬉しいんだけど……おっと、それは置いといてだ。
「テメエとはここで終わらせてやるよ……アイちゃん」
「私の鍛えた時間を返してください……イツキさん」
「クソでもねえよ……この自称覇王が」
「覇王の拳……甘く見てもらっては困ります」
ある程度言葉を交わし、互いに距離をとってからようやく構える。
しばらく沈黙が続いたが、先に動いたのは俺だった。
俺は自分の攻撃が届く範囲にまで詰め寄り、すんでのところで急停止した。
アイちゃんは俺が突っ込んできたところを狙って打ち込むつもりだったらしく、右拳を突き出していた。
当然その拳は俺に届いておらず、あと数センチというところで止まっている。
「なっ!?」
まさか俺がすんでのところで急停止するとは思ってなかったのか、声が出るほど驚いていた。
もちろん、その隙を見逃すなんてあり得ない。
俺は突き出されていた右腕を左手で掴み、空いている右でボディブローを打ち込んでからアッパーをかます。
これを食らったアイちゃんは数歩ほど下がり、そこで踏ん張った。
どうやら完全には入らなかったようだ。
「女だから顔は殴らない、なんていうのはねえから安心しろ」
「それは安心していいのでしょうか……?」
「もちろんだ。ちゃんと本気は出してやるよ」
アイちゃんが構えたのを確認した俺は、再び詰め寄ろうと一気に迫る。
それを読んでいたのかアイちゃんは俺以上のスピードで肉薄し、左拳を突き出してきた。
俺は不意をつかれたということもあってその拳をモロに食らってしまった。
顔いってぇ……マジかよコイツ、俺のスピードを上回りやがったぞ!?
「まさかスピードまで俺とタメを張れるなんてな……」
さすがにこれは予想外だ。――とはいえ、ちょっとばかり違和感を感じるな。
純粋に速いというよりはなんか小細工を使ってるような、そんな感じだ。
違和感の正体を確かめるため、一旦距離をとってからこっちの考えを悟られないように構える。
アイちゃんは一瞬だけ眉をしかめるも、すぐいつもの無表情になって再び肉薄してきた。
「――なるほどな」
「っ!?」
俺は口元を少し歪めてしまうもすぐに気を引き締め、突き出された右拳を横にかわす。
そのまま回転の要領を生かし、左のエルボーを隙だらけの顔面にぶつけた。
違和感の正体はおそらく
「……やはり相手として不足はありませんね」
「…………そりゃどうも」
おいおい、仮にも顔面だぞ。少しぐらいは痛がれよ。
あとその意見には賛成だな。やっぱり実力なんてものは正面からぶつかり合うことで初めてわかるのかもしれない。
今度は右のハイキックを繰り出すも左腕でガードされ、懐にボディブローを打ち込まれた。
「っ……!?」
「まだですっ!」
予想以上のダメージに思わず後退してしまうが、アイちゃんは俺の顔面に拳をぶつけてきた。
それを食らった俺は倒れそうになるもなんとか踏ん張り、跳び前蹴りを繰り出す。
アイちゃんはこれを両腕でガードするも後ろに下がった。
「…………ヤベェわ」
「……何がですか?」
「いや、なんつーか――」
体勢を整えた俺は思わず笑みをこぼしてしまう。
だってそうだろ? 自分と同等かそれ以上の奴が目の前にいるんだぜ? バトルジャンキーでなくても笑ってしまうわ。
俺は構えると同時にアイちゃんにはっきりとその言葉を告げる。
「――お前おもしれーなァ」
《今回のNG》TAKE 16
「まさかイツキさんとアインハルトさんが試合するなんて……」
「先輩のバリアジャケット初めて見チゃッ!」
「……リオ、今噛まなかった?」
「…………さ、さあ? 気のせいでしょ?」