学校嫌いな彼と鮮烈な少女たち   作:勇忌煉

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第25話「桃源郷とは覗くもの」

「ねえイツキ。これやめた方がいいよ」

「何を言ってるんですかモンディアルさん。ここからが本当の戦いです!」

 

 スミ姉に昼飯をたらふく食べられ、昼寝して、自業自得とはいえ姉さんにフルボッコにされるという波乱しかない午後を過ごした俺は、男仲間であるエリオ・モンディアルさんを連れてホテルアルピーノ名物、天然温泉大浴場の近くにある木陰に待機している。

 今この時間は女性メンバーが勢揃い、かつ一糸纏わぬ姿で入浴している。つまり塀の向こうにはアガルタならぬ桃源郷が広がっているんだ……!

 目的は言うまでもなく、その桃源郷をカメラに納めることだ。こんな機会はおそらく二度とないからな。

 

「モンディアルさん。例のやつを」

「例のやつって……このドローン?」

「うっす。それにカメラを付けて飛ばします」

 

 ここでドローンの出番だ。というか、こいつはこういうときのために自力で製作したんだ。今使わなくていつ使うよ。

 さっそくドローンにカメラを取り付け、コントローラーで操作して慎重に飛ばす。ちょっとでも水に触れるとアウトだからな。

 

「イツキ。僕もう戻っていいかな?」

「女々しいですね。それとも女性に囲まれて過ごしてたから女よりも男に興味があるとか?」

「前者は否定しないけど、後者は徹底的に否定させてもらうよ」

「チッ、このリア充が」

「待ってイツキ。親の敵を見るような目で睨むのはやめてほしいんだけど」

 

 という感じでモンディアルさんと軽口を叩きつつ、ドローンを塀の近くに到達させた。

 さて、問題はここからだ。少しでも前進させたらカメラに映るのは桃源郷だけど、それは同時に発見される可能性も高めてしまう。

 ……いけない。塀の向こうにあるものを想像したら鼻血が出てきた。

 

「鼻血が出てるよ?」

「大丈夫です。これくらいでヘコたれる俺じゃありません」

「僕としてはヘコたれてくれると助かるんだけど……」

 

 絶対にヘコたれるもんか。

 

「ではいざ」

「ストップストップ! 本当にこれ以上はアウトだって! ていうか、そこまでしてカメラに納めることに何の意味があるのさ!?」

「意味なんてありませんよ。けど――」

 

 どうやらモンディアルさんには男の尊厳というものがないようだ。

 

「――そこに女の裸体があるなら、それを見ようとするのが男でしょうが!」

「この上なく最低だ!」

 

 純粋な欲望のために女風呂を覗いて何が悪い。俺はあの日から、自分の気持ちに正直に生きると決めたんだ。……あの日っていつだっけ?

 

「緒方イツキ、突貫します!」

 

 桃源郷への一歩を慎重に踏み出し、モニターを通じてカメラに映っているものを確認する。

 おおっ、風呂場が映ってるじゃねえか。後はボインとペッタンコをカメラに納めるだけだ!

 

「んー……お? キタキタァ!!」

「ごめん皆。イツキの暴走を止められなかった僕を許して……」

 

 見える! 見えるぞぉ! 湯煙が邪魔になってはいるが見えるぞぉ!

 

「今年初の豊作キタコレ(ボタボタ)」

「い、イツキ!? 物凄い勢いで鼻血が出てるけど大丈夫なの!?」

 

 大丈夫。これくらい何てことないさ。こんなところで止まるわけにはいかない!

 俺は震えながらもドローンを操作していき、誰のものかまではわからないが、裸体が――

 

「…………っっ!!(ダバダバ)」

 

 ――裸体が映ったところで鼻血の勢いが増した。ここまでなのか……いや、

 

「ある人は言っていた……! 例え魂だけになっても覗き続けると……! だから俺も……!」

「いや無理だから! 魂だけになったらあの世に逝って終わりだから!」

 

 くっ、仕方がない。桃源郷が納められているドローンを回収するとしよう。

 モンディアルさんに支えられながらもドローンを無事に帰還させ、取り付けていたカメラに納められているであろう桃源郷を改めて――

 

「――ここまでかっ!!(ブシャァァァアア)」

 

 桃源郷を改めて見ようとしたらギリギリ抑えていた鼻血が大噴射してしまった。

 さすがの俺でも今回は失血死しそうだ。意識も遠退いてきてるし……

 

「しっかりしてイツキ! というか覗きで死にかける人なんて初めて見たよ!?」

「感無、量……ッ!!」

 

 このあと、意識が朦朧としていた俺をモンディアルさんがロッジに連れ戻してくれた。

 今度ルーテシアかキャロさんの写真でもあげようかな? 貸し借りは無くしたいし。

 ちなみになんで最後までいたのかモンディアルさんに聞いたところ、少しだけ俺の発言を真に受けていたとか。軽い男め。

 

 

 □

 

 

「大丈夫ですか? イツキさん」

「あー大丈夫。多分大丈夫……」

 

 教会から差し入れに来たセインさんが作った凄え美味しい料理を食べてる最中、貧血でフラフラしている俺をアイちゃんが心配してくれた。

 一部からの視線が妙に痛いが、それに報いるものを手に入れられたので何も言えない。

 姉さんは心底どうでもいいのかひたすら飯を食べ、スミ姉はニヤニヤしながらこっちを見ている。姉妹ってこんなに違うものだっけ?

 

「……ちょっと横になってきます」

 

 とりあえず戻ろう。戻ってついさっき撮影した桃源郷を――違う、輸血しないと。

 一人でテーブルから離脱するも、何を思ったかアイちゃんがついてきた。

 

「……女の子が一人で男についてくるとは感心しねえな」

「私はあなたの教育係なので」

 

 初耳である。ていうか、いつから俺の教育係になったんだよお前は。

 ……去年もそんな奴がいた気がするな。記憶が曖昧だからわからんが。

 

「それに、いざというときは力ずくで何とかします」

「やれるもんならやってみろ」

 

 これでも同世代に遅れを取るほど落ちぶれちゃいないし、お前の戦い方は大方把握している。俺が負ける要素などない。

 

「そういや明日は模擬戦だって?」

「はい」

 

 今思い出したが、明日は全員で練習会――模擬戦をやるらしい。せっかくだから一回は出ようと思う。良い体験になりそうだからな。

 でも姉さん達とは当たりたくない。当たったらどうなるかなんて目に見えてる。

 

「敵同士になったときは負けませんよ。あの時は体調管理を怠ったせいで引き分けになりましたが、今度は私が勝ちます」

「……なったらの話だがな。勝つのは俺だし」

 

 特別勝ちたいわけじゃないし、コイツみたいに強さがほしいわけでもない。それでも負けるのだけはやっぱりごめんだ。

 ……輸血のついでに愛機のセラフィムのメンテでもやりますか。最近放ったらかしだったし。

 

「なあセラ」

〈愛機のメンテを放ったらかしにするマスターの事なんて知りません〉

 

 なんで機械が拗ねてるんだよ。アイちゃんも目が点になっちゃったじゃねえか。

 途中でアイちゃんと別れた俺は自室で輸血し、明日の模擬戦に備えて一応愛機のメンテを行ったのだった。

 ……その際、何者かによって桃源郷のデータどころか今月撮影した分が全て削除されていることがわかった。泣いてもいいかな?

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 1

「モンディアルさん。例のやつを」
「例のやつって……このドローン?」
「うっす。それにカメラを付けて――」


 ガシャァンッ(モンディアルさんがドローンを投げて破壊する音)


「ドロ吉ぃぃぃ――っ!! 何てことしてくれたんだキサマァ!!」
「君の覗きを阻止するにはこうするしかなかったんだよ! というかドロ吉!?」

 ドロ吉が壊れたぁああああああっ!! 桃源郷への入り口がああああああっ!!


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