『高町さんの体操服姿を一枚!』
『なら俺はアルピーノさんを!』
『私はウェズリーちゃんを!』
大運動会を終えてから二日後。教壇で運動会中に撮った写真を売り飛ばすイツキさんを見て思わず頭を抱えてしまった。
委員長――ユミナ・アンクレイヴさんも諦めたと言わんばかりに机に突っ伏している。
それにしても……委員長とイツキさんは仲が良いのでしょうか? 二人三脚のときも言い争っていたのにお互いの息は合っていたし、何より対立してたときの委員長は楽しそうでした。
「……よし」
こういうのは本人に聞いてみるのが一番だ。そう思った私は教壇で商売(?)をしているイツキさんの元へ向かった。
……改めて見るといろんな写真がありますね。よく見たら私やコロナさんの写真、それにいつ撮ったのかわからないものまであります。
「イツキさん」
「どったのアイちゃん。ヴィヴィオの写真でも欲しくなった?」
「一枚ください――じゃなくてですね」
危ない。誘惑に釣られかけてしまった。
「じゃあ何? 商売の邪魔なんだけど」
今すぐその商売を止めるべきだと思った私は絶対に悪くない。
それでもどうにか堪え、頭の中で考えていたことを口に出す。
「――イツキさんは委員長のことをどう思っていますか?」
「え」
「あ、アインハルトさん!?」
委員長が顔を赤くしながら大声を上げるも、私は構わずイツキさんの答えを待つ。
周囲からクラスメイトの殺気が少しずつ漏れ始める。私がここにいなかったら今ごろ彼は袋叩きに遭っているだろう。
そのイツキさんは珍しくほんのりと頬を赤くして固まっていたが、ハッと我に返ると素早く首を振ってこう答えた。
「美少女は皆好きだ」
殴りたいという衝動を必死に抑え、次は何を聞こうかと考える。
とはいえ、これは脈というものがあるのかもしれない。あのイツキさんが赤面するほど動揺した。明らかに委員長を意識しているのは確かだ。
「…………次の質問です」
「え、何? 何この事情聴取?」
事情聴取ではありません。何てことのない普通の質問です。
「――委員長とはいつ頃からお付き合いしているんですか?」
「さらばだぁっ!」
『あっ、待てこら!』
『反逆者の緒方が逃げたぞ!』
『ブチ殺せぇーっ!』
『おうどん食わせろぉーっ!』
私の一言を引き金にクラスメイトの大半が暴走。命の危機を感じたイツキさんも全力疾走で教室から出ていく。
教室には私と委員長、それから少数の女子だけが残った。
「アインハルトさんっ!」
「は、はいっ」
委員長が顔を赤くしながら怒鳴ってきたので思わずたじろいでしまう。
何がいけなかったのだろうか? ちょっと質問しただけだったのに……
「私と緒方くんはそういう関係じゃないよっ!」
「知ってます」
「じゃあなんであんな質問したの!?」
赤面した委員長によると、私の質問の仕方がいけなかったらしい。なんでもあの聞き方だと、イツキさんと委員長がすでにお付き合いしているということになってしまうとか。
それを理解した私は少し申し訳ない気持ちになった。まさかそんな誤解を生んでいたとは……慣れないことはするものじゃありませんね。
「ごめんなさい……」
「わかってくれたならいいよ……それにしても、アインハルトさんがあんな質問をするなんて珍しいね。何かあったの?」
「あ、いえ……彼とあなたの関係が気になったものでつい……」
「…………『つい』で片付けられるのはちょっと心外だな~」
「でもイツキさん、委員長の写真だけは売ってなかったみたいですよ?」
「え」
これは本当だ。さっき彼が並べていた写真の中に委員長のものはなかったのだから。
委員長は再び顔を赤くしながらあたふたし始める。なんというか、可愛らしい。
しかし、一分も経たないうちに何を思ったのか頭を抱え込んでしまった。
「…………」
「あ、あの……」
これでもかと赤面しながら何か呟いているようだが、声が小さくてなかなか聞き取れない。
もう少し集中して耳を澄ませると、やっと聞き取れる程度の声が耳に入ってきた。
「ど、どうしよう……いきなり過ぎてまだ心の準備ができてない……。そういう関係になるのはまだ早すぎるよ……。でも、もし本当にそうだとしたら私の人生はどうなるの……!?」
本当に何を呟いているのだろうか。彼女にとっては深刻なことなのでしょうが、私にはよくわかりません。
「い、委員長……?」
「いくらなんでも嫁入りは早すぎる……。この年で緒方ユミナになるのはさすがにアウト――」
「落ち着いてくださいっ!」
「はっ!?」
このままだと委員長が精神的に参ってしまうと思い、失礼ながら怒鳴らせてもらった。
正気を取り戻した委員長は、咳払いをすると私をじっと見つめる。
何と言いますか、少し恥ずかしいですね……。
「私のことはユミナでいいよ!」
「わかりました。ユミナさん」
よかった。いつものしっかりとしたユミナさんに戻ってくれました。
……とはいえ、ユミナさんもイツキさんには苦労させられているんですね。
□
「どうもでーす」
「げっ! イツキ!」
放課後。暴徒達を撃退した俺はヴィヴィオの誘いで聖王教会を訪れた。
そんでシャンテ・アピニオンとバッタリ遭遇したというわけだ。この人は姉さんに対してトラウマを持っている。その姉さんの弟である俺を見て苦々しい顔をするのも当然かな。
とはいえ、この場合は俺に姉さんの面影を被せているだけなので大きな支障はないだろう。
「…………(キョロキョロ)」
「姉さんはいないから安心してください」
「安心できるかっ!」
慌てふためきながら辺りをキョロキョロ見渡す彼女をカメラに納め、どうすればアピニオンさんが落ち着いてくれるか考える。
んー……要は姉さんがいないとわからせたらいいんだ。少し強引だがやってみるか。
けどその前にトラウマがどれほどのものか確かめておこう。
「アピニオンさん」
「何!?」
「どんだけ姉さんが苦手なんですか」
「苦手とかそんなショボいレベルじゃないよ! あの人がいるだけであたしの人生の大半がサンドバッグになってしまうんだからっ!」
教えてくれ姉さん。あんたはアピニオンさんに何をしたんだ。
「なんか……うちの姉がいつも迷惑を掛けているようですいません」
「うぅ……なんで姉と弟でこんなに違うの?」
涙目で嘆くように口を開いたアピニオンさんには悪いがそれだけは答えられない。
てか、そんなの俺が知りたいくらいだ。俺だって昔は姉さん達みたいにひねくれていたし。
せっかくなので彼女に俺と姉さんの家系についてほんの少しだけ話すことにした。
「うちの母、元ヤンなんですよ」
「なんでだろう……その一言で大体わかっちゃった気がする」
要は遺伝である。スミ姉と姉さんはあのババアの気質をモロに受け継いでしまったのだ。
俺も当初は同じ気質を持っていたが、いつの間にか美少女大好きの健全な少年となっていた。元々ヤンキーにはそれほど興味がないので、別に戻りたいとは思わない。
まあ、家系について話したところで姉さんへのトラウマを克服できるわけじゃないんだけど。
「じゃあ、あんたはお父さん似?」
「違いますね」
うちの家系から見れば、俺は間違いなく後天的な突然変異だろう。
「……で、それがあたしのトラウマとなんの関係があるわけ?」
「特にありませんよ。ただの気まぐれです」
この程度で克服できるものをトラウマとは呼ばないだろう。
アピニオンさんはちょっぴり期待していたらしく、げんなりと肩を落とした。しかも未だに落ち着いていないらしく、辺りをキョロキョロと見渡すのをやめようとしない。
「ここからが本題です。アピニオンさん」
「何? いつあの人が来るかわからないのにあんたの無駄話を聞いてる暇なんて――」
「本当に姉さんを呼びますよ?」
「落ち着いたっ! 落ち着いたからそれだけはやめて! お願いだからやめて!」
わかってくれたようで何よりだ。
「ほ、本題って何?」
「何もないです」
「……へ?」
「あんたを落ち着かせるための措置ですよ」
本題の内容なんて全く考えていない。というか、よくこれで日常生活に支障が出ないものだ。前言を撤回する必要があるかもしれない。
恨めしそうにアピニオンさんが睨んでくるが、俺はそれもカメラに納めた。
「いつもありがとうございます」
「そんなことでお礼を言われても嬉しくないよ」
「次はあの下乳――バリアジャケットでお願いします!」
「今あんた、下乳って言わなかった!?」
あのバリアジャケットはヤバかった。初めて見たときには驚愕と感動のあまりに噴水のような鼻血を出してしまったほどだ。
なんせ生の下乳をこの目で見ることができたんだからな。
虫けらを見るような視線を向けてくるアピニオンさんをよそに、俺はヴィヴィオが迎えに来るまで当時の光景を思い出し続けるのだった。
《今回のNG》TAKE 40
「今あんた、下乳って言わにゃかった!?」
「…………」
「…………」
「……セラ」
〈はい〉
「……録画、したな?」
〈バッチリと〉
「……再生――」
「やめてぇ――っ!! あんたやっぱりサツキさんの弟だよ――!!」
とまあ、涙目で叫ぶアピニオンさんが最高に可愛かった。