学校嫌いな彼と鮮烈な少女たち   作:勇忌煉

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第38話「ボクっ娘と八重歯」

「とりあえず最良のスタートッ、おめでとうッ!」

「ありがとぅッ!? ……ございますッ!」

 

 夜の浜辺にて、俺はリナルディにお祝いの言葉を送りながらハイキックを右腕でガードし、こちらもお返しに右のハイキックを繰り出す。

 まさかその方向から来るとは思っていなかったのか、彼女は咄嗟にこの蹴りを防いだものの、威力を殺しきれずに引き摺られる形で後退。

 俺は追撃を入れるべく地面を蹴って跳び上がり、身体を横回転させながら右拳を繰り出すも、リナルディはこれをバックステップで回避した。

 

「――そこまでっ!」

 

 それと同時に合法ロリことヴィータさんの声が響き、俺とリナルディは構えを解く。

 リナルディは両手を膝に置いて、俺は背伸びしながら呼吸を整える。さすがに疲れた。

 

「ふぅ……」

「はぁ……はぁ……」

 

 ――今朝。

 俺はパソコンの電源を入れたまま寝落ちしていたところをスミ姉に殴り起こされ、DSAA主催の公式魔法戦競技会、インターミドル・チャンピオンシップの選考会を観に行くはめになった。

 もちろん、原因と目的はガキ共とアイちゃんだ。というかアイツら以外は知らない奴ばかりだしな。写真になる女子は大量にいたが。

 悪い結果にならないか心配――でもなかったが、全員スーパーノービスからのスタートとなった。ちなみに姉さんはシードだ。

 ノーヴェが言うには『最良のスタート』らしく、一回勝てばエリートクラスに上がれるとのこと。トーナメントの組み合わせが決まっているのに選考会をやる必要とは一体。

 その後、上の観客席で姉さんと彼女の愉快な知り合い達が軽く揉めているのを目撃。姉さんのせいでちょっとばかり怯えてしまった。

 そして帰りにガキ共と別れたところでザフィーラさんに誘われ、今に至る。この際、拉致られて掘られると思っていたのは内緒である。

 

「ミウラはともかく、お前はそんだけ強いのに出場しねーとか損してるぞ」

「お言葉ですがヴィータさん。俺は持った才能を無駄にしたくないだけで、わざわざ大会に出てまで知名度を上げたいわけじゃないんですよ。わかります?」

「わからなくはないが……もっと先を、上を目指そうとかは思わねーのか?」

「常に目指してますよ、そんなもの。目指した結果がコレですから」

 

 そう言いながら魔力を変換させたものである炎熱、電気、氷結を一瞬だけ披露する。

 何故どいつもコイツも俺を出場させようとするんだ全く。こっちは願い下げなんだよ。

 

「ところでリナルディの対戦相手って誰でしたっけ?」

「スーパーノービス戦はゼッケン399の子、その次が上位選手のミカヤ選手です!」

 

 子供のような高い声で答えたのは第二の合法ロリことリインさんだ。フルネームはリインフォースⅡ。Ⅱはドイツ語でツヴァイと読むらしい。

 わかりやすく彼女の名前を要約すると、二代目リインフォース。スミ姉に聞いた話だが、彼女には初代が存在している。

 確か名前は……八神さんはアインスとか言ってたっけ。写真で見た感じは凄い美人だったし是非とも会ってみたいと思ったが、すでに故人となっていたのでその願いは叶わなかった。

 ……ちなみにスミ姉は一度だけ会ったことがあるらしい。詳しいことは教えてくれなかったが。

 

「シェベルさんか……」

 

 それにしてもなんか雑魚っぽいゼッケンの子はともかく、初出場で上位選手、それも屈指のベテランが相手とはリナルディもツイてないな。

 かつて対戦したことのある姉さんが言うには大した相手じゃないらしいが、それはあの人が自分を基準に判断しているのでアテにならない。

 なので客観的に見れば、居合いの腕は達人のそれと言っていい。対戦したことも会ったこともないから詳細まではわからんが。

 ただ、それ以外で注目させてもらうならあの容姿だ。美人なうえに胸がデカい。人の好みにもよるが、男なら間違いなく興奮するだろう。

 

「……鼻血が出てるぞ」

「おっと失礼」

 

 ヴィータさんに指摘され慌てて鼻元を拭ってみると、手の甲に赤い液体が付着していた。

 リナルディはこちらに微妙な視線を向け、リインさん――二代目は苦笑い、ヴィータさんは呆れたように口元を引きつらせている。

 

「男の子なら興奮するのは仕方ないです」

「まあ、そういうこった。お前も気をつけろよ」

「? は、はい……」

「いや待ってください。なんで男は皆こうだ、みたいに言ってるんですか。それにリナルディは対象外なんで変な気は起こしませんよ。多分」

 

 いくら何でもこれは心外である。

 そもそも大体の男は欲望を隠している。俺はその隠していた欲望を解放しただけに過ぎない。

 つまりムッツリからオープンになっただけだ。さすがに理性は残っているがな。

 

「あ、あの……」

「ん?」

「よ、よくわからないんですけど……つまりボクには女性としての魅力がないってことになるんですか……?」

 

 物凄くションボリした顔で俯き、今にも泣きそうな声を出すリナルディ。

 とりあえず普通に可愛いのでカメラに納めておこう。これはこれでレア物だろう。

 だがどうしよう。一般的に見れば間違っていないから彼女に掛けてやれる言葉が見つからない。

 

 ――俺的には充分イケると思うけどな!

 

 まあ、何か言わないとアピニオンさんや合宿時のアイちゃんのように虫けらを見るような視線を向けられるのは確実である。

 だから俺はこう答えよう――

 

「――それだけはないから大丈夫だ。人によっては需要ある存在だからな、お前は」

「?? そ、そうですか……」

 

 意味がわからないと言わんばかりに首を傾げてはいるが、どうにか納得はしてくれたようだ。

 要は一般論である。自分なりの答えが見つからないとき、この理論は必ず俺を助けてくれる。

 

「まあイツキの戯言は置いといて、試合に向けてあたしとシグナムが今まで以上に相手をしてやる。ガッツリ鍛えていくから覚悟しろ!」

「イツキも協力してくれると嬉しいですっ!」

「は、はいっ! お願いしますッ!」

「たまにならいいですけど……」

 

 そんなこんなで、俺はリナルディの修行に協力することになったのだった。

 

 

 

「先輩っ! 遊んでください!」

「そんな暇があるなら練習してこい」

 

 リナルディの協力者になって二日ほど経ったある日の午後。

 俺は八重歯が特徴的なリオ・ウェズリーという、自分の知る美少女の中では一番苦手な奴と公園で遭遇してしまっていた。

 何故よりにもよってコイツなんだ……まだ姉さんLOVEなジークさんの方がマシに思えてくるレベルだぞ。あっちもあっちで嫌だけど。

 

「とりあえず……離れろぉ!」

「冷たぁっ!?」

 

 背中にしがみついていたウェズリーを、氷結を彼女が凍らない程度に使って引き剥がす。

 まさかこんな形で変換技術を使うことになろうとは思いもしなかった。これは酷い。

 ウェズリーは不満そうに頬を膨らませるが、やることの一つ一つがアレなので全然可愛く思えない。見た目は普通に可愛いけど。

 皮肉なことに慣れつつあるのでむやみに手を上げることはないが、イラつきはするので聞こえない程度に舌打ちをする。

 

「お前、練習はどうした」

「もう終わりましたっ! なのであたしに遊ばれて――あたしと遊んでください!」

 

 今コイツ遊ばれてとか言わなかったか?

 

「遊ばれるのも遊ぶのもお断りだ」

「それじゃあ、あたしで遊んで――痛ぁ!?」

 

 どさくさに紛れてとんでもないことを言おうとしたのでデコピンをかまし、言葉を遮る。

 今のところは大丈夫そうだが、もしもここが街中で聞かれていたらと思うとゾッとする。こんなことで人生を終わらせたくはない。

 今度こそその場から――ウェズリーから逃げようと背を向けた瞬間、背中に柔らかい感触が伝わってきた。あと結構な重さも。

 

「……降りろクソガキ」

「先輩が遊んでくれるまで降りませんっ! 氷結を使っても無駄ですよ!」

 

 ウェズリーがそう啖呵を切った途端、感触と重さに続いて背中が熱くなっていく。そういやコイツ、炎と雷の変換資質を持ってたな。

 悔しいが、これで氷結は使えなくなった。それにこのガキ、両腕を俺の首に回して後ろに体重を掛けてやがる。このままじゃ窒息してしまう。

 ここが校内だったら力ずくによる逃げの一手なのに、世間の視線があるこの公園や街中じゃ下手に動けない。どうにかならないものか。

 ……どうせ彼女は殴っても喜ぶだろうし、諦めてもくれない。構った時点で俺の負けだ。なのでそれを利用させてもらう。

 

「よしわかった、遊んでやる。遊んでやるから降りてくれ」

「はいっ!」

 

 諦めたふりをしてそう言うと、ウェズリーはあっさりと降りてくれた。もちろん、俺の狙いは彼女が離れる瞬間である。

 

「それじゃ先輩、何して遊び――ああっ!?」

「さらばだウェズリー!」

 

 期待の眼差しを向けるウェズリーを置き去りにし、全速力のダッシュで公園から離脱する。

 まともな話し合いが通じず、暴力でも解決ができない以上、こうするしか道はないのだ。

 ある程度公園から離れたところで後ろを見てみると、プンスカと怒りながら追いかけてくるウェズリーの姿があった。うむ、可愛い。

 

「待ってください先輩! どうして逃げるんですか!?」

「変態から逃げない奴はいないのだ!」

「あたしは変態じゃありませんよ!?」

 

 いやどう考えても変態である。自分の身体が下敷きになるのを喜び、殴られても嬉しそうに口元を緩めるなど、まさに変態の鑑と言っていい。

 

「先輩はあたしのことが嫌いなんですか!?」

「安心しろっ! 俺はこれまでの人生で美少女を嫌いになったことは一度もない。だが、お前は苦手な部類に入る! それだけだ!」

「逃げる時点でその言葉に説得力はありません!」

 

 こーんな感じで一時間ほど逃げ回っていたが、最初にいた公園へ戻ってきたところでウェズリーの姿と気配はなくなっていた。

 ……悪いな。お前のことは本当に嫌いじゃないんだ。ただお前の属性が特殊過ぎて近寄りたくないだけなんだ。許してくれたまえ。

 今度何か奢ってやろう。些細な罪悪感でわずかに心を痛めた俺は、そう思いながらウェズリーを絵のモデルにしようと考えるのだった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 32

「――それだけはないから大丈夫だ。人によっては需要ある存在だからな、お前は」
「?? そ、そうでしゅか……!?」
「グッハァッ!!」
「い、イツキ!?」
「大丈夫ですか!?」

 いかん、また萌え殺されるところだった。


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