学校嫌いな彼と鮮烈な少女たち   作:勇忌煉

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第39話「認めたくないものだな」

「ふぃ~。対戦相手のデータだけでもこんなにあるのか……」

「そりゃ都市本戦までが前提だからね、サツキちゃんの基準だと」

 

 我が家のリビングにて、俺とスミ姉は姉さんの対戦相手になるであろう出場選手を研究すべく、スミ姉が入手してきた資料を見ていた。

 今年はスミ姉と共に姉さんのセコンドを務めることになってるからな。自分で志願した身だ、最低でもこれくらいのことはしないといけない。

 ……とはいえ、別にこんなことしなくても姉さんなら余程のことがない限り都市本戦への進出は確定的である。あれでも上位選手だしな。

 

「うーん……どれもパッとしないなぁ……」

「サツキちゃんがトップシードになっている3組はルーキーが多いからね。第2、第3シード枠の選手以外は試合にすらならない可能性もあるよ」

 

 本来ならここに姉さんも加わるべきだが、大抵のことは初見で対応してしまう人なので相性の悪い相手以外は対策を立てる必要すらない。つまり彼女がいても邪魔になるだけだ。

 そんなことを考えつつ資料を一枚ずつ見ていくと、少しばかり興味深いものがあった。

 

「リンネ・ベルリネッタ……?」

 

 こんな奴いたっけ?

 

「スミ姉、このデータなんだよ」

「ああ、それね。今日たまたまフロンティアジムってとこに寄ったら面白そうな子がいてさ。必要ないけどこっそりデータを取っておいたよ」

 

 そんなことでイチイチ余計なもん増やすなよ。というかよくバレなかったな。

 ――白くて長い髪に紫色の瞳。さらに当然というべきか、整った顔立ちをしている。アイちゃんや委員長に引けを取らない美少女だ。

 フロンティアジム所属の格闘競技選手で、年齢は11歳。デビューして半年も経っていないためか、今のところは無敗である。

 ご丁寧に入手されていた映像で見る限り、発育も良さそうな感じだな。特に胸なんて今のアイちゃんの倍はありそうだし。

 本人に会ったら是非とも写真を撮らせてもらおう。そう思いながら資料を読み進めていくと、今度は別の意味で興味深い内容が書かれていた。

 

「トータルファイティングか……」

 

 俺やジークさんと同じスタイルじゃないか。まあ俺の場合はどっちかというと魔法主体になるけどな。となるとジークさん寄りか。

 ――立ち技・組み技の両方に優れ、インでもミドルでも戦える打撃スキルを持つ。魔法にも長けているようで、目立った弱点は特になし。

 これだけなら嘘くさいと吐き捨て嘲笑していた俺だが、資料を読みながら映像を見ていくうちに笑いも出なくなっていた。

 

「…………マジかよ」

 

 このお嬢さん、信じがたいことに本質的にはパワー型と書かれている。そう、パワーだ。

 腕力、脚力、体幹と全身の筋力が強い。実際に映像の彼女も見た目からは想像もできない、したくもない派手なプロレス技を披露している。

 しかも力が強いせいでどの技も必殺の一撃になるようだ。第二の姉さんかコイツは。

 そして彼女はU15で活躍している選手だが、筋力・魔力共に凄いのでスペック上は姉さんを始めとした怪物共の巣窟、U19でもやっていける可能性はあるだろう。

 もちろんあくまで可能性な、あくまで。どんなに強くても所詮はルーキー。いきなりトップに勝てるほど、世の中は甘くできていない。

 ……そう言えば。

 

「ベルリネッタって大手企業だったよな?」

「それがどうかしたの?」

「半年くらい前にそこの養子が自分の通っていた学校で事件を起こした、みたいな感じでニュースになってた気がするんだけど……」

「ああ、あのお茶の間の子供達が号泣してもおかしくなかった事件ね」

 

 確か事件を起こしたのはイジメの被害者――つまりベルリネッタのお嬢さんで、簡潔に言うとイジメっ子に対して報復を行ったのだが、その内容が凄惨だったこと、被害者兼実行者が大手企業を立ち上げるベルリネッタ夫妻の養子だったことで話題を呼んでいたはずだ。

 しかもその被害者は現在、格闘技選手になっているときた。全国的なニュースになるほどの一件にどうやって決着をつけたのか結構気になる。

 

「よく牢屋にブチ込まれずに済んだな」

「そういうイツキちゃんもね。()()()()()を保護観察にまで下げるの大変だったんだから」

 

 スミ姉がさりげなく言ったアレの処分、と聞いて思わず顔をしかめてしまう。クソッ、今となっては黒歴史なことを思い出させやがって。

 

「まあ、俺達にとっては住みにくい世界だよな、ここ」

「…………そうだね」

 

 俺達の生まれ故郷である地球なら例えイジメの被害者であろうと関係なく、事件を起こしたその時点で加害者へと扱いが変わり、例外でなければ最終的には法の裁きを受けることとなる。

 そう考えるとミッドチルダの犯罪への対応は状況にもよるが、地球よりかは比較的優しいと思う。俺の知る限りでは、だが。

 これぞ世界観の違いというやつである。ミッド人からすれば異世界の住人である俺らは異質の存在になるし、その逆もまた然り。

 なのでここの連中がそういう奴らを見下したり、敬遠したりなんてことは意外とよくあるのだ。差別意識が激しいとも言う。

 

「さーて、仕事仕事」

 

 危ない危ない。いつの間にか話が逸れてたうえに、昔を思い出して物思いに耽ってしまった。

 読み終わったベルリネッタの資料を投げ捨て、作業に戻る。つってもあと数枚で終わるが。多いつっても一人でやってるわけじゃないし。

 

 

 

「…………あったぞ」

 

 とある書店にて。俺はイラストの素材を手に入れるべく、人目も憚らずに美少女がいっぱい載っている雑誌を二冊ほどかごに入れている。

 いつもこうしているわけではなく、普段はスミ姉を通じて薄い本を大量に入手している。さすがに堂々と成人向けの薄い本を買うのは無理だからな。身分証明書を見せたら一瞬で詰むし。

 まあそんな地球では当たり前のことを考えつつ、三冊目の美少女雑誌をかごに入れる。今度は水着のお姉さんが載ってるやつだ。

 

「――ん?」

「あっ、イツキ」

 

 必要なものは全て確保したのでさっそくレジへ向かっていると、建築関連のコーナーで真剣に悩むルーテシアと目が合った。

 薄紫っぽい色のワンピース(?)を身に纏い、首にスカーフを巻いている。豊満な体型に合わせて大人っぽくしたのだろうか?

 

「こんなところで何してるんだ?」

「人の胸にヤラしい視線を向けるバカでも見たらわかるでしょ? 買いたい本を選んでるの」

 

 一言余計だがそのスタイルに免じて黙認してやろう。カメラにも納めたし。

 

「……お前、こないだ自分の才能が怖いって言ってなかったか?」

「それがどうかした?」

「わざわざ買う必要なくね?」

「それとこれとは話が別」

 

 コイツ、確か合宿で使用した訓練場や温泉を自力で作り上げたと言っていたはずだ。そこまでやれる奴に説明書が必要とは思えない。

 その才能あるルーテシアは手に持っていた『建築の定義』という難しそうな本を棚に戻すと、真面目な表情でこちらへ近づいてきた。

 すぐにそれを軽く制止した俺はレジで会計を済ませ、店を出たところで口を開く。

 

「ふぅ、なんか聞きたいことでもあるのか?」

「まあね……セコンドのあんたから見たサツキさんの試合はどうだった?」

 

 セコンド。

 その単語を聞いた俺はその場で考え込み、昨日行われた姉さんの試合を思い返していく。

 ――昨日は初戦、二回戦と二試合あったのだが、姉さんは両方とも秒殺でケリをつけてしまった。最初は参考にしようと思っていた俺でもこれはダメだと言えるほど、一瞬で。

 しかも決め手はただのパンチ、それも魔力による身体強化はなしときた。こんな選手は姉さんをおいて他にいないだろう。

 

「はぁ……言っとくが敵情視察ならやめておけ」

「どうしてこういうことには鋭いのよあんた」

「俺の第六感に不可能はない――あっ、今のなし」

 

 危なかった。あと少しで自分がバカだと認めてしまうところだった。

 

「……………………で、どうだったの?」

「一瞬だったよ。勝負にすらなってなかった」

 

 凄い間があったけど気にしたら負けだ。

 ルーテシアは予想通りの返答だと言わんばかりにため息をつき、後頭部を掻く。

 だがちょっと待て。俺から見た姉さんの試合つったなコイツ。ということは……

 

「お前も試合見てたのか」

「モニター越しだけどね。あとヴィヴィオ達も会場で見てたらしいわよ」

 

 マジかよ――いや、別に驚くことでもないな。アイツらも出場選手だ。俺やスミ姉のように相手の研究くらいは行っているに違いない。

 ……今回の場合は対策どころか参考にすらなっていないのは容易に想像がつくけど。あの人身体能力が異常なだけで格闘技は素人だし、魔法もバリアジャケット以外は使ってないし。

 とりあえず他の奴らに姉さんの勇姿は見られている、ということは記憶させてもらおう。

 

「まっ、そういうことだから――カメラのメモリを渡しなさい。データを全消去するから」

「絶対に嫌だね」

 

 そんなこと、例え合意の上でパイタッチや(ピー)ができるとしてもやらねえよ。まだバックアップ取ってねえんだぞ。

 ていうかカメラを持ってるのがバレてることと話が一気に逸れたことに驚きだよ。

 何か抜かっていたのだろうか。ちょっと疑問に思った俺はジト目でこちらを睨むルーテシアに聞いてみることにした。

 

「なんで俺がカメラ持ってるってわかったんだ?」

「シャッター音とフラッシュよ」

 

 俺のバカヤロウ。

 

「ヴィヴィオ達のためにも、カメラのメモリを渡しなさい。これが最後の警告よ」

「はっ――お断りだバカヤロー!」

「あっ! こら待てイツキ!」

 

 そう告げると同時に駆け出し、追いかけてきたルーテシアを振り切ろうと裏路地へ入る。ここならアイツでもついてこれないはず。

 にしてもアイちゃんといいルーテシアといい、最近はやけに女子から追っかけられるなぁ。これがいわゆる女難の相というやつか。

 このあと先回りしていたルーテシアにあっさりと確保されたが、カメラを守るべく変換技術を駆使して再び逃げることに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………カメラが壊れた」

〈強引に変換技術を使ったせいですよ〉

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 18

「はぁ……言っとくが敵情視察ならやめておけ」
「どうしてこういうことには鋭いのよあんた」
「お前は知らないだろうが、俺には心の目と第三の目があるの――」
「ぶふ……っ!!」
「――今のなし! なしで頼む!!」

 こうして俺に新たな黒歴史ができた。



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