「どうしてこうなった…………」
「…………」
俺が久々に自棄を起こしてから二日が経った。あれからアイちゃんの視線がとても痛い。
ついでに周りの視線も痛いでござる。ていうかお前ら関係ねえだろ。
「セラ。突破口ねえか?」
〈そちらのゴタゴタを私に吹っ掛けないでください〉
愛機に冷たく拒絶されてしまった。なんなのコイツ。でも正論すぎて何も言えない。
もうすぐだな。俺は椅子を少しだけ後ろに引き、すぐに立てるようにしておく。
「――はい、今日はここまで!」
ガタッ(俺が椅子から立ち上がる音)
タタタッ(扉目指してひたすら走る音)
ガラッ(扉を開ける音)
「脱獄だコノヤロー!」
そして授業が終わると同時に教室から飛び出した。荷物はあらかじめ準備してたから大丈夫だ。
今度こそ抜からねえ! 昨日は荷物を忘れて教室に戻るはめになったからな。
〈脱走の間違いでしょう?〉
決してそんなことはない。
「――イツキさん!」
「ふぁっ!?」
俺を呼ぶ声がしたので後ろを振り向くと、アイちゃんが全力疾走で走ってくる姿が見えた。
バカなっ!? 昨日よりもずっと速くなってるだと!?
しかも道は一方通行で曲がれるところがない。クソッ、こうなったら――
「――窓からぴょーんっ!」
たまたま開いていた窓から飛び降り、しっかりと着地してから再び走り出した。
アイちゃんはというと、窓からこっちを見つめながら悔しそうな表情を浮かべていた。
俺と違ってスカートを履いているアイちゃんにこの芸当は無理だ。つまり……
「今日もなんとか逃げ切ったぞ」
安堵すると同時に、この先もこんな追いかけっこが続くのかと思うと不安でしかなかった。
ちなみにアイちゃんがスカートで窓から飛び降りた暁にはその中を撮影してやろうと思う。
「あっ、先輩!」
「……俺に八重歯の知り合いはいません」
「怒りますよ!?」
「めんごめんご」
あれから数分後。帰り道でウェズリーと出会った。あれ? コイツ一人か?
いや待て、もしかしたらコイツは迷子になっているのかもしれない。
「なにしてんの?」
「それはこっちのセリフです。先輩、帰り道間違ってますよ?」
なんてこった。コイツの迷子ではなく俺が逃げるのに必死で道を確認していなかったようだ。
とはいえ帰り道が奴と同じである以上、すれ違いや待ち伏せの確率が高い。
もちろん、その8割が奴――アイちゃんによるものだと俺は考えている。
「気にすんな。たまには別のルートから帰ろうと思っただけだ」
「でも、こっちに行くと先輩の家から遠ざかってしまいますよ?」
「え? マジ?」
「マジです」
想定外だ。これはマズイ。
「やっぱ戻るわ」
「…………ぇ……?」
「え?」
なんでそんなにガッカリしちゃってんのお前。エロほ――参考書が見つからなくて犬みたいにションボリしてる変態と同じ顔になってんぞ。
ていうか俺、お前とはなんもないよね? いや、前に初等科の校舎付近で遭遇はしたけど……
「お、俺なんかした?」
「いえ、その――構ってくれないんですか!?」
ちょっとでも心配した俺がバカだった。
「マジか。じゃあ今までの行動は構ってほしい一心でやったってのか……?」
「そういうことですっ!」
偉そうにナイチチを張られても困る。どうりでバイオレンスな面があったわけだ。
遭遇するなり懐や腰に突撃してきたり、頭や背中にしがみついてきたり……お前はサルか。
「というわけで構って――」
「さいなら!」
「あぁっ! 先輩待ってくださいー!!」
待たない。絶対に待たない。
「ちくせう! これなら普通に帰ればよかった!」
〈自業自得です〉
「待ってくださいってばー!!」
どんなに喚かれても待たねえよ。待ってしまえば人として大事なものを失いそうな気がするからな。
とにかく後ろは振り向くな。ただひたすら走り続けろ、俺。
このあとウェズリーをどうにか撒くことに成功した俺は、身を隠しつつ帰路についたのだった。
《今回のNG》TAKE 25
「お、俺なんかした?」
「いえ、その――叩いてくれないんですか!?」
ダメだコイツ。もう手遅れだ。