「なんでこんなことになったんだよ……」
織斑 一夏は腕を縛られた状態で愚痴をこぼした。彼はドイツの郊外にある廃工場に監禁されていた。一夏は自身の姉である『織斑 千冬』のISの世界大会『モンド・グロッソ』の試合を見るために会場に向かっている際に誘拐されたのである。
インフィニット・ストラトス……通称ISと呼ばれる宇宙での活動を想定したマルチフォーム・スーツがある。篠ノ之 束が理論を発表、開発したこれは発表された当初は机上の空論だと馬鹿にされていたが、発表されてからちょうど一月後に起こったとある事件によって瞬く間に世界で『最強の兵器』としてその名が知られるようになった。
白騎士事件
ISが発表されてから一月たったある日、突然世界中の 日本を射程圏内に入れていたミサイル基地が一斉にハッキングされ、2000発以上のミサイルが日本に向けて発射された。日本政府は自衛隊にミサイルの迎撃をさせようとしたが、突如一機のISが現れミサイルを全て迎撃し、撃ち落とした。その後、白騎士を捕獲しようと周辺国が戦闘機や軍艦を差し向けた。しかし、白騎士はそれらを悉く撃破。死者は出ていないとされている。そしてISの名は宇宙で使用されるマルチフォーム・スーツではなく、世界最強の兵器として世界に広まってしまった。
そして、ISには兵器として致命的な欠点があった。
……それは女性しか動かすことができないのである。
その結果、世に女尊男卑の考えが広がっていき、男の立場は急落、女性こそが優秀という風習が広まった。
その後、ISはスポーツとして扱われ始め、世界大会である『モンド・グロッソ』が開かれるようになり、織斑 千冬が第一回優勝者となり『ブリュンヒルデ』の称号を得た。
現実逃避をやめて辺りを見渡して見ると、一夏を誘拐した実行犯と思われる男が数人いた。彼らは何か話し合っているらしく、会話が聞こえた。
「弟の織斑 一夏か兄の織斑 秋斗を誘拐すれば織斑 千冬は棄権するんだよな?」
「ああ。織斑 千冬は兄弟を大切にしているらしいからな」
「兄の方は逃がしたが、もう一人の方を捕まえたからいいだろ」
「これで報酬は貰ったも同然ですね」
男たちの会話を聞いた一夏は思わず笑ってしまった。笑い声が聞いて、男たちは一夏の方を見た。
「坊主、何がそんなに可笑しいんだ?気でも狂ったか?」
「ああ、おそらく織斑 千冬は来ないと思うぜ?」
他人事のような一夏の言葉に男たちは首を傾げた。
「どういうことだ?」
「なに、簡単な話だ。あいつが大切にしているのは兄の秋斗だけだからな……まあ俺はあの家ではかなり浮いていたからな……助けには来ないだろうよ」
一夏は織斑家の中で、秋斗の引き立て役として扱われていた。千冬は何をするにも秋斗を優先し、秋斗が剣道をやりたいと言えば直ぐに剣道を習わせ、一夏にやる気がなかったにも関わらず、強引にやらせて秋斗の方が強いと周囲に思わせた。これが欲しいと言えば直ぐに欲しい物を買ってやり、一夏の所持品は全て兄の秋斗のお下がりだった。
織斑 一夏という人間は周囲の大半の人間からは『出来損ない』と称されていた。勉学では兄の秋斗に僅かに負け、剣道も同様だった。剣道以外のスポーツに関しては一夏のほうが上だったのだが、勉学の成績が僅かに劣ったということ、千冬がやっていた剣道が劣っていただけで出来損ない扱いされていた。
そんなことがあり、一夏は周囲から孤立していたが友達が数人いた。その数人の友達に対して、一夏は心を許していた。しかし、周りはその友達に対して嫌がらせをして周囲から孤立させていった。一夏自身も、これ以上巻き込まない為に距離をおいた。
「さすがにそれはないだろう」
男は一夏の言葉を否定し、置いてあったテレビをつけた。チャンネルはモンド・グロッソの中継を行っているものになっており、そこには会見をしている織斑 千冬が映っていた。それを見た男たちは驚いた表情をうかべた。
「なるほど……どうやらお前の言った通りになったようだな」
『織斑 千冬選手優勝です!!おめでとうございます!!』
『ありがとうございます』
『モンド・グロッソ二連覇の偉業を真っ先に伝えたい方はいますか?』
『唯一の弟の秋斗に伝えたいですね』
『織斑選手の弟は確か二人いたはずでは?』
『いいえ、弟は一人だけです』
「……だそうだ」
会見を見た男は一夏を憐れんだ目で見た。一夏はそれを軽く受け流した。
「それで、俺はどうなるんだ?」
千冬の優勝を阻止できなかったので、男たちにとって一夏は既に用済みであり、このまま解放しても別に問題はなかった。しかし、一人の女が工場に入ってきて、苛立った表情で一夏の前に立った。
「こいつはもう用済みよ。とっとと始末しなさい」
「……いいんですか?」
「構わないわ」
女の死刑宣告を聞いた一夏の心は怒りに満ちていた。そして
(……此処で俺の人生が終わりだと?……ふざけるな!こんなところで終われないんだよ!!こいつら全員『邪魔をするなら切り刻みたい』!!)
己の渇きを自覚し、満たされることを望んだ。
『卿のその渇望、聞き届けた。助かりたいか?
突然、一夏の頭の中に声が聞こえた。その声は威厳が溢れ、聞くだけで屈服してしまいそうになるような、そんなカリスマ性があった。
「上等だ!俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだよ!」
一夏の言葉を聞いて、声の主は宣言した。
『卿のその言葉、しかと受け取った。ようこそ、
声の主がとある名前を呟くと、突然工場の扉が吹き飛んだ。誘拐犯の男たちと女が扉の方を見ると、一人の男が入ってきた。その男は白人にしては肌が白すぎ、髪も白かった。そして何より
「ハイドリヒ卿の命だ、そこの劣等のガキはもらっていくぜ」
男からは濃厚な血の匂いが漂っていた。そして、誘拐犯たちに向かって駆け出した。