「お疲れさまでした。彼……織斑 秋斗君の先程の能力はレオンハルトに似ていましたね」
秋斗を担いでピットに戻ったドウェルグはヴァレリアから労いの言葉を受けながら、秋斗をベンチに寝かせた。
「先代とですか?確かにこいつは、レオンハルト卿とキルヒアイゼン卿の教えてを受けたそうですが」
「それはそれは……」
ドウェルグは秋斗を見ながら、ヴァレリアの言葉に内心驚いていた。すると、千冬と真耶、箒がピットに入ってきた。
「秋斗!貴様!」
箒はドウェルグを見るなり睨み付けたが、ドウェルグは気にもとめないでヴァレリアと話していた。
「ヘグニ、どう考えてもやり過ぎだ!秋斗に何かあったらどうするつもりだ!」
千冬の身内贔屓全開の言葉を聞いたドウェルグは呆れながらも千冬達の方を見た。
「ごく一般的な試合だったろうが……それとも何か?弟には常勝無敗でいて欲しいってか?」
ドウェルグはバカにした表情をうかべていた。千冬と箒はドウェルグに殴りにかかろうとしたが、ヴァレリアが見ていたので踏みとどまった。
「え~と、ヘグニ君にはこれから理事長室に来て欲しいんですけど……大丈夫ですか?」
若干空気になっていた真耶がドウェルグに確認をとった。ドウェルグはヴァレリアを案内しないといけないと言って、少し遅れると伝えた。
「分かりました。でしたら一時間後に教会まで迎えに行きますね?」
「それで構いません。猊下もそれで宜しいでしょうか?」
「私もそれで構いません。お手数をかけて申し訳ない」
「いえいえ。ヘグニ君、失礼のないようにしてくださいね」
「分かってますよ。それでは猊下、こちらです」
真耶はドウェルグに念をおした。ドウェルグとヴァレリアは秋斗を囲んでいる千冬と箒を無視して教会に向かった。
「どういうこと?」
世界地図に載っていないとある島のラボで、ISの開発者である『篠ノ之 束』はモニターを見て、驚愕していた。
「なんで、あーくんの白式に零落白夜が発現しなかったんだろ?」
束は千冬に頼まれて、倉持研究所で開発されていた白式を強奪、自身で開発、改良した。その時、白式が
「まぁいいや。あーくんなら大丈夫でしょ……それよりも、こいつだよ」
束はドウェルグの姿が映ったディスプレイを見た。その目は怒りに満ちていた。
「箒ちゃんの邪魔しちゃってさぁ……今度痛い目にあわせてやる」
束はドウェルグを敵と認識し、喧嘩を売ろうと考えていた。それがどれだけ無謀なことかも知らずに……
「着きました。ここが教会です」
教会に着いたドウェルグとヴァレリアが中に入ると、マレウスが中で待っていた。マレウスはヴァレリアを見て少し驚いたが、すぐに笑みをうかべた。
「あら?ヴァレリアじゃない。何かあったわけ?」
「いえいえ。今度、礼拝に呼ばれましてね。その下見ですよ」
「成る程ねぇ。ドウェルグ、貴方の元兄の秋斗君、レオンハルトみたいで面白いわね」
マレウスもヴァレリアと同じ事を思ったらしく、ある程度笑うとヴァレリアを見た。
「ヴァレリア、私は暴れたら駄目なの?疼いちゃって仕方ないのよ」
マレウスは気まぐれ屋でサディストな性格をしており、この一週間の間、何もせずに学園生活を送っていたのが我慢できなくなってしまっていた。
「その事について、ハイドリヒ卿から『卿らの望むままに行動するがいい。但し、むやみに命を奪うな』とのこです」
「むやみにってことは~仕掛けられれば別に良いってことよねぇ?」
「そういうことになります」
マレウスはヴァレリアの言葉に満面の笑みをうかべた。ドウェルグはそんなマレウスを見て、喧嘩をふっかける相手に同情した。
「あっ俺、理事長室に呼び出しされてるんだった」
ドウェルグは呼び出されていた事を思いだし、時計を見た。もうすぐ真耶が迎えに来る時間になっていた。
「あら?そうなの?なら、私も着いていくわ。このタイミングで呼び出されたってことは、きっと黒円卓のことね」
マレウスはドウェルグが呼び出された理由に、ある程度の目星がついていた。聖槍十三騎士団黒円卓は、裏ではかなり有名であり、ベイやマレウスは傭兵稼業で暴れまわっていた。諏訪原市での黄金錬成を期に、一時期戦場に出なくなったが、ドウェルグが修業の一環として傭兵を始めたのでまた有名になり始めた。
「多分そうだろ。猊下、それでは私達はこれにて失礼します」
「分かりました。君達に主の祝福があらんことを」
「「「Sieg Heil!」」」
ドウェルグとマレウスが教会から出ると、真耶が扉の前で待っていた。真耶の他に千冬がいたが、ドウェルグは無視した。
「シュヴェーゲリン、貴様は呼び出されていないだろ。それにその服装は……」
「私にも関係あるから着いていくのよ。それに、これが私達の正装よ」
ドウェルグとマレウスは黒円卓の服を着ていた。千冬はそれを見て怪訝な表情をしたが、黒円卓の腕章の意味が分からず、特に何も言わなかった。
「え~と、それじゃあ着いてきてください」
真耶を先頭に理事長室に向かった。向かっている最中、ドウェルグとマレウスは腕を組みながら歩いていた。
「ここが理事長室です」
五分程歩くと理事長室に着いた。真耶が扉をノックすると、中から声が聞こえた。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて中に入ると、ソファーに老人と水色の髪をした生徒が座っていった。その生徒はリボンの色から二年だということが分かった。二人の他には教師が五人程いた。理事長室の空気はとても重苦しく、老人の顔は緊張していることが誰が見ても分かる程強張っていた。
「山田先生、有り難うございました。もう結構ですよ。織斑先生も」
老人は千冬と真耶に退室するように言った。しかし、千冬は納得せずに抗議した。
「何故ですか!」
「この問題は貴女には解決出来ないからです」
老人に言われた千冬はしぶしぶ退室した。真耶は扉の前で一礼してから千冬を追いかけた。
「さて、お久し振りです、御二人とも。私はこの学園の理事長の轡木 十蔵と言います」
「あら?理事長は女性じゃなかったかしら?」
ドウェルグとマレウスが交渉した際、話し合ったのは女性であった事を思い出したマレウスは、十蔵に聞いた。十蔵は緊張しながらも答えた。
「彼女は私の妻です。表向きは彼女が理事長ということになっています」
マレウスは十蔵の返答に「ふ~ん」と興味無さげに返事した。
「それで、いったい何の用なんだよ」
ドウェルグが本題を聞いた。
「それは……貴方達、聖槍十三騎士団黒円卓についてです」
「はぁ?俺らについて?」
「そうです。いったい何の目的で此処に来たのか、それが知りたいのです」
十蔵の言葉に、ドウェルグは簡潔に答えた。
「目的ねぇ……俺がISを動かせて、双首領閣下の命を受けたからだが?」
「……そうですか。私は聖槍十三騎士団黒円卓と交渉したいと考えています。出来るだけそちらの要求に答えるつもりです」
「理事長!」
ソファーに座っていた生徒が驚いて声をあげた。ドウェルグはその生徒を見て質問した。
「誰だこいつ?」
「生徒会長の更識 楯無さんです。更識さん、貴女は聖槍十三騎士団黒円卓という組織を知っていますか?」
「いいえ、聞いたことありません」
「彼らと絶対に争ってはいけません。この学園が一瞬で破壊されます」
「冗談ですよね?此処にはISが数十機ある、世界で一番安全な場所ですよ」
楯無は十蔵の言葉を本気にしていなかった。聞いたことも無いような組織に、ISが負けると思っていなかった。
すると
「ふざけんじゃないわよ!!」
突然、教師の一人がラファール・リヴァイヴを展開してドウェルグに銃を向けた。それに呼応するように、さらに二人がそれぞれラファールと日本製第二世代量産機『打金』を展開してブレードを展開した。
「なんで私達が下に見られなきゃならないのよ!」
「黙って私達の言うことを聞いてればいいのよ!」
口々にドウェルグに罵倒を浴びせる教師を見ていたマレウスは笑みをうかべたながら言葉を紡いだ。
『
『
それは、愛する者が自分を追い越していくという嘆き。
『
追い越されるのなら、足を引っ張って止めてやろうという願い。
『
『
それは歩くのが遅い自分と一緒に居て欲しいという愛。
『
その
『
影による不動縛の理。自身の影に触れたものを停止させる能力。影は三機のISと楯無に伸びていった。そして、影に触れた瞬間、動きが止まった。
「ISが動かない!」
「何をしたの!」
IS展開していた教師達は、急に動けなくなったことに驚きパニックになった。楯無はドウェルグかマレウスが何かしたのではないかと思い、ランスを展開してドウェルグに向けようとしたが、体が全く動かなかった。
「べつに~、私達に銃を向けたってことは、殺される覚悟があるってことよねぇ?」
「交渉決裂だな」
ドウェルグが席を立って部屋を出ようとしたが、十蔵が大慌てで止めた。
「何卒、交渉の機会を!」
十蔵は深々と頭を下げた。ドウェルグはそれを見て、溜め息を吐くとソファーに座り直した。
「それで?そっちは何が望みなんだ?」
十蔵は交渉が決裂しなかったことに安堵し、要求を言った。
「此方の望みはただ一つ、生徒や教師の命の保証です」
「断る……と言いたいことだが、我らの首領もむやみに命を奪うなと仰っている。喧嘩をふっかけてきた奴の処遇を此方が決められるのなら、一般生徒や教師の命は保証する」
十蔵はドウェルグの要求を聞いて、悩んだ。ドウェルグの要求をのむと、今此処にいるISを展開してドウェルグに武器を向けた教師を見捨てることになる。十蔵は少し考え
「分かりました。そちらの要求で構いません」
ドウェルグの要求を承諾した。
「それじゃあ、こいつらは俺らでどうするか、勝手に決めさせてもらうぞ」
「それで構いません。大変失礼しました」
十蔵は頭を下げて謝罪した。ドウェルグはそれを見て、一つ提案した。
「ああ、襲撃があったら俺かアンナに連絡してくれ。金さえ払えば雇われてやるよ」
黒円卓は現在、シュピーネが研究を始めてから財政難に陥っていた。今まではシュピーネが金を稼いでいたのだが、研究に時間が取られていてそれが出来なくなった。ドウェルグが傭兵稼業で稼いではいるが、他の黒円卓のメンバーの散財を賄える程ではなかった。
「それは……本当にありがとうございます!」
ドウェルグの提案に、十蔵はさらに頭を深く下げた。
「そんじゃアンナ、帰るぞ」
「了~解~」
影に触れていた三機のISは徐々に影に沈んでいった。それにパニックになる教師をよそに、マレウスは笑顔で
「精々楽しませてね♪」
そう言って部屋を出た。ISを展開していた教師は完全に影に沈んでしまった。ドウェルグもマレウスに続いて部屋を出た。
十蔵は二人が部屋を出た事を確認して、ソファーに座り込んだ。その顔は極度の疲労が見てとれた。
楯無は何も出来ずに教師が三人犠牲になった事を十蔵に問いただそうとしたが、十蔵の顔を見てやめた。
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